説明

芝草用蘚類及び藻類の防除剤及び防除方法

【課題】芝草が著しい枯死、褐変の症状を呈することなく、蘚類及び藻類を防除することのできる薬剤及び防除方法を提供することにより芝草の健全な生育を目的とする。
【解決手段】本発明は、水溶液中に主成分として炭酸カリウムを含有することを特徴とする蘚類及び藻類の防除剤及びこの防除剤を芝地に散布することを特徴とする蘚類及び藻類の防除方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてゴルフ場、道路法面、公園、野外スポーツ競技場、庭園等の芝生土壌に発生する蘚類及び藻類の防除剤及び防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフ場、道路法面、公園、野外スポーツ競技場、庭園等に生育する芝草が、蘚類及び藻類に汚染されることによる生育不良、美観の低下の問題が深刻になっている。特にゴルフ場のグリーンにおいては、潅水過剰、排水不良、施肥過剰、低刈り込み等の管理条件によるところが大きいとされる蘚類及び藻類の発生により芝生の成育不良、美観の低下だけでなく、パッティング・クォリティの低下の原因ともなっている。
【0003】
コケ植物とは蘚類、苔類などの総称で、ゴルフ場などで大きな問題となっているギンゴケは、ハリガネゴケ科ハリガネゴケ属の雌雄異かぶの蘚類である。このギンゴケは長さ5〜10mm程度の小型の苔で、配偶体より胞子体を伸ばし胞子を撒き散らす他に、配偶体より無性芽をとばし増殖する。この無性芽は非常に軽く、撥水性に富むため、降雨や散水により伝播する。
緑藻害は、アオミドロ等の緑藻類によるもので、ゴルフ場のグリーンでしばしば見られる。藻体は、藍藻のものと類似しているが、細胞構造は全く異なっている。湿潤な場所に発生し、多発の場合には、芝が藻体で被覆され、酸素呼吸が妨げられる。
【0004】
この問題を解決する方法の一つとして、通風や排水の向上等のいわゆる耕種的防除方法が行なわれている。具体的には、芝の直立茎密度を高めたり、過剰潅水を避けたり、常に芝生表層を手入れしたり、目土砂に焼砂を使用したり、日照条件を改善したり、等々である。
しかしながら、これらの方法では、蘚類及び藻類の発生を完ぺきに抑制することが困難なうえ、管理には多大な労力を要するという問題があった。
【0005】
また、芝生土壌に発生する蘚類及び藻類の薬剤による防除方法も行なわれている。例えば、ホセチル+ポリカーバメート混合剤「ゴーレット」(登録商標)等の使用である。
しかしながら、芝草用としては薬害が問題となっており満足すべきものではない。
芝草の藻類による被害は、米国や英国でも知られており、TPNやマンコゼプが効果を示すものの、日本国内と同様に、薬剤による完全な防除は困難であることが報告されている。(非特許文献1、2)
【0006】
最近の情報では、ゴルフ場のパッティング・グリーンでの状況を次のように紹介している。「パッティング・グリーンにおける苔は、ゴルファー達を悩ませ、もっとも勤勉で経験豊かなグリーン・キーパー達をも苦しめる悪魔の呪いのようなものだ。苔は、ほとんど前兆なくグリーンに進入して、はびこる。突然、苔がグリーン表面全体を覆うように現われるまで気付かずにいることすらある。化学薬品によるコントロールは、芝草に対して影響が強すぎる上に、苔を絶滅させるには、その効果の出現が緩慢だ。」(非特許文献3)
そして、非特許文献3においては、「ジャンクション(Junction)」(商標名)と「テラサイト(TeraCyte)」(商標名)を推奨している。「ジャンクション」は、15%のマンコゼプ(mancozep)と46%の銅の水酸化物を含んだ防カビ剤である。「テラサイト」は、34%炭酸ナトリウム・ペロキシハイドレートを含有するものである。いずれも効果はあるものの、薬害も報告されている。また硫酸鉄の散布も効果があるといわれているが、散布回数が2週間ごとに4〜5回の散布が必要で、しかもこれで完ぺきと言うことがないことである。
【0007】
以上のような問題を解決するため、例えば、藻類発生を抑制するメリア属植物を芝地に施用する技術(特許文献1)、有効量のトリチコナゾールを施用する技術(特許文献2)、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンから得られる水溶性重合体を使用する技術(特許文献3)、鉄の水溶性硫酸塩及びアルミニウムの水溶性硫酸塩等を使用する技術(特許文献4)、ストレプトマイシン又はその塩を使用する技術(特許文献5)等々、種々提案されている。
しかしながら、これらの提案は、いずれも本質的な解決とはなっていない。
【0008】
【特許文献1】特開平7−97305号公報
【特許文献2】特開平8−208410号公報
【特許文献3】特開平10−291905号公報
【特許文献4】特開平11−106305号公報
【特許文献5】特開2005−289845公報
【非特許文献1】Phillip Colbauch、「Algae‐crusuty foes for golf greens」、科学技術振興調整による研究(平成9年度)
【非特許文献2】Paul Vincelli、他1名、「Chemical Control of Turfgrass Diseases 2004」、University of Kentucky College of Agriculture、UK Cooperative Extension Service、P.6
【非特許文献3】USGA GREEN SECTION RECORD(2004年7/8月号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記したような実情に鑑みて、芝草が著しい枯死、褐変の症状を呈することなく、蘚類及び藻類を防除することのできる薬剤及び防除方法を提供することにより芝草の健全な生育を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような課題を解決するため、芝草に発生する蘚類及び藻類を効果的に防除することのできる薬剤のスクリーニングを行なった。その結果、炭酸カリウムが芝草に薬害を及ぼすことなく、芝生土壌に発生する蘚類及び藻類に対して特異的に顕著な防除効果を示すことを見出し、本発明を完成するに到ったものである
【0011】
すなわち、本発明は、主成分として炭酸カリウムを含有することを特徴とする蘚類及び藻類の防除剤及びこれを芝地に散布することを特徴とする蘚類及び藻類の防除方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芝草に薬害を及ぼすことなく、芝地に発生する蘚類及び藻類の防除することができ、芝草の健全な生育を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の蘚類及び藻類の防除剤は、水溶液中に主成分として炭酸カリウムを含有することを特徴とするものである。本発明の実施においては、炭酸カリウムの高濃度水溶液を調製し、これを希釈して実用される。炭酸カリウムの高濃度水溶液の濃度は、K2O換算濃度として66%を含有する原料を使用するときは、50.33%で飽和状態になる。
本発明の蘚類及び藻類の防除剤の使用量については、処理場所、処理時期、芝の栽培管理条件、蘚類及び藻類の種類、発生程度によって異なるが、通常、1m当り、12.5〜50g、好ましくは16.7〜25gの濃度で散布する。
【0014】
本発明は、蘚類及び藻類の防除以外の目的で、必要に応じて、尿素、硝酸塩、アンモニウム塩等の窒素分、コリン、サイトカイニン、ジベレリン、葉酸等の植物ホルモン、クエン酸、酢酸、コハク酸、アスパラギン酸等の有機酸、塩酸、リン酸、硫酸等を添加することができる。
【0015】
本発明の蘚類及び藻類の防除剤の散布は、蘚類及び藻類による病害の現われている場所を選択して散布してもよいが、本発明の蘚類及び藻類の防除剤は、芝草自体には薬害を与えないので、芝地を点検することなく、定期的に散布することができる。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の構成を試験例により具体的に説明する。
試験例1 薬剤の有効倍率試験
ベントグラスにとって成育条件の厳しい夏(8月)、鳥取県のゴルフ場で非常に防除が困難なギンゴケの防除試験を行った。使用頻度の高いパッティンググリーンを圃場とした。
薬液は、K2O換算濃度として66%を含有する炭酸カリウムの50.3%の飽和水溶液を調製し、これを40倍、50倍、60倍、70倍及び80倍に希釈した散布薬液を調製した。
圃場を0.5m×0.5mの6つに仕切り、散布薬液を1m当り1リットルの割合で散布した(気温30℃)。肉眼及び写真により、散布前と24時間後のベントグラスの変化を観察した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1及び肉眼観察、近接写真の結果から、散布24時間後では試験区1及び2がギンゴケに対して最も効果が高く、かつ、ベントグラスの緑色が維持されている。試験区3及び4では効果は認められるもののギンゴケにやや青みが残る。試験区5では全く効果が認められなかった。
試験区1ではベントグラスに軽微な褐色の焼けが認められたが、刈り込みによって回復する程度のものである。試験区2〜5では葉焼けは観察されなかった。
【0019】
試験例2 散布水量の検討
実施例1によってギンゴケに対して効果が認められた試験区1の40倍希釈の1リットル/mに代え、0.5リットル/mを散布して、実施例1と同様にして、肉眼及び写真により、散布前と24時間後のベントグラスの変化を観察した。
その結果、ギンゴケに変化は認められなかった。
【0020】
試験例3 薬害観察
試験例1と同様にして、薬液を調製し、20倍希釈、30倍希釈、40倍希釈、50倍希釈の各散布薬液を調製した。圃場を0.5m×0.5mの6つの区に仕切り、散布薬液を1m当り1リットルの割合で散布した(気温30℃)。肉眼及び写真により、散布前と24時間後のベントグラスの変化を観察した。
(1)24時間後
肉眼観察では、20倍区と30倍区は褐変し、薬害が遠目からもわかる。40倍区では軽微な褐変が認められた。50倍区では薬害は観察されなかった。
20倍区では、ギンゴケは激しく変色するとともに、ベントグラスにも薬害が顕著に発生した。
30倍区では、ギンゴケは激しく変色するとともに、ベントグラスは葉先から中央部まで茶褐色に変色した。
40倍区では、ギンゴケは変色し、ベントグラスの葉先がやや茶褐色に変色した。
50倍区では、ギンゴケは変色し、ベントグラスには変化が認められなかった。
【0021】
(2)4日後
肉眼観察では、20倍区の茶褐色が目立ち、薬害からの回復が非常に遅れていた。他の区では、薬害は回復し、遠目からでは目立たない。
20倍区では、ベントグラスの葉は、株元から茶褐色に変色している部分が多い。現場での使用は、景観及びベントグラスの成育の観点から、好ましくない。ただし、芝生は完全に枯死はしない。
30倍区では、散布翌日と比較すると薬害は回復している。ベントグラスが茶褐色になった部分を40倍区と比較してもほとんど変わらない。現場で使用する場合の最高倍率である。
40倍区では、ベントグラスの葉先がやや茶褐色になっているが、早急に回復する程度である。
【0022】
比較例
試験例1〜3と同様にして、硝酸カリウム、塩化カリウム、第一リン酸カリウム、重炭酸カリウム、硫酸カリウムについて試験を行った。
いずれも効果が認められなかった。本発明の炭酸カリウムが特異的に芝草に薬害を及ぼすことなく、芝生土壌に発生する蘚類及び藻類に対して顕著な防除効果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、芝草が著しい枯死、褐変の症状を呈することなく、蘚類及び藻類を防除することのできるので、ゴルフ場、道路法面、公園、野外スポーツ競技場、庭園等の芝草を健全に生育することができ、特にゴルフ場で問題となっているグリーンにおけるパッティングクオリティの向上に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中に主成分として炭酸カリウムを含有することを特徴とする蘚類及び藻類の防除剤。
【請求項2】
請求項1記載の蘚類及び藻類の防除剤を芝地に散布することを特徴とする蘚類及び藻類の防除方法。

【公開番号】特開2008−169175(P2008−169175A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5504(P2007−5504)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(500271937)パイオニアエコサイエンス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】