説明

芯鞘型複合繊維

【課題】高強度・高弾性率および耐摩耗性に優れ、かつ繊維断面全ての方向に対して均質な表面特性を発現する芯鞘型複合繊維を提供する。
【解決手段】芯成分に液晶ポリエステルを50重量%以上含む芯鞘型複合繊維であり、繊維断面における鞘成分の厚みについて、厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)の関係が、Tmax/Tmin≦2.0を満足する芯鞘型複合繊維。繊維横断面が丸断面であり、かつ同心円であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度・高弾性率および耐摩耗性に優れ、かつ全ての方向に対して均質な表面特性を発現する芯鞘型複合繊維に関するものであり、本発明の芯鞘型複合繊維は、一般産業用資材、特にロープ、ゴム補強、ジオテキスタイル、FRP用途、コンピューターリボン、プリント基盤用基布、エアーバッグ、バグフィルター、漁網等の水産資材、スクリーン紗等幅広く活用されるもので、鞘成分厚みが均一であることから単糸の繊維断面において全ての方向に対して均質な特性を発現するため、特に、フィルターやスクリーン紗用メッシュなどに用いられるモノフィラメントに好適な繊維である。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、高強度・高弾性率を有することが知られている。しかしながら、繊維軸に直角な方向では弱い分子間力が働くのみであるため、摩擦によって容易にフィブリルが発生し、繊維強度の低下を引き起こして破断に至るなどトラブルの原因となっていた。また、座屈によるキンクバンドが発生し易く、かつそれが局在化する傾向があることから耐疲労性に劣るものであった。
【0003】
そこで、これらの欠点を改善する目的で、芯成分が液晶ポリエステル、鞘成分がポリフェニレンスルフィドからなる芯鞘型複合繊維が提案されている(特許文献1参照)。また、芯鞘成分界面での剥離やフィブリル化を抑制し、耐摩耗性・耐疲労性を改良したものとして、芯成分が液晶ポリエステル、鞘成分が液晶ポリエステルと屈曲性ポリマーのポリマーアロイからなる芯鞘型複合繊維(特許文献2および3参照)が提案されている。さらに、芯鞘界面剥離が抑制されたものとして、芯鞘界面にゆらぎを形成させた芯鞘型複合繊維(特許文献4参照)や、芯鞘成分の接着性向上と糸表面の耐摩耗性向上が両立可能なものとして、鞘成分が屈曲性ポリマーと、芯成分である液晶ポリエステルとの親和性の高いC成分からなるポリマーブレンドであり、C成分濃度を芯成分側で高く、糸表層側で低くした芯鞘型複合繊維(特許文献5参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平3−220340号公報(第2図)
【特許文献2】特開平5−230715号公報(第2図)
【特許文献3】特開平8−260249号公報(第1図)
【特許文献4】特開平9−310245号公報(第2図)
【特許文献5】特開2000−034621号公報(2頁 右部4項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、芯鞘型複合繊維として液晶ポリエステルの周囲をフィブリル化し難いポリマーで被覆することで、フィブリル化が抑制され、耐摩耗性が改良されるのは事実である。
【0005】
しかし、このような芯成分に液晶ポリエステルを配した複合繊維を製糸する際に、液晶ポリエステルの溶融粘度が剪断応力の影響の受け易く、またポリマーの熱特性が屈曲性ポリマーと異なる場合が多いため、紡糸口金内で液晶ポリエステルと屈曲性ポリマーとが合流し、複合流となって流れる際に各成分の流動変形が不安定となり、繊維の構造として偏りを生じ易く、鞘成分の厚みを連続的に均一に形成させることが困難であった。
【0006】
また、紡出後の細化変形過程では、液晶ポリエステルの変形が高温で一気に進むため、 過冷却溶融状態の鞘成分の厚みムラが増大してしまう問題があり、やはり鞘成分の厚みを連続的に均一とすることを困難にしていた。
【0007】
この様な鞘成分厚みのバラツキは繊維の太さムラにつながり、特にモノフィラメント用途では重要な問題であり、例えば、印刷用スクリーン紗などの織物とした場合に、目開きの面積変動がスクリーン印刷のインキの塗布ムラに反映されて、品質を落としたり、摩耗耐久性を向上させるために必要な鞘成分の厚みを不必要に厚くせざるを得ず、強度の向上が犠牲になってしまうなどの問題を起こしていた。
【0008】
そこで我々は、鞘成分の厚みが連続して均一な液晶ポリエステル複合繊維について鋭意検討を行った結果、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、芯成分に液晶ポリエステルを50重量%以上含む芯鞘型複合繊維であり、繊維断面における鞘成分の厚みについて、厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)の関係が、Tmax/Tmin≦2.0を満足することを特徴とする芯鞘型複合繊維である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、溶融液晶形成性ポリエステルの高強度・高弾性率を有しつつ、耐摩耗性に優れた芯鞘型複合繊維を提供するものであり、モノフィラメントとしてスクリーン紗やフィルターなどの工業用資材、マルチフィラメントとして土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電線補強資材、音響資材、一般衣料等の分野で広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の芯鞘型複合繊維における液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学的異方性(液晶性)を示すポリマーを指す。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
【0012】
本発明に用いる液晶ポリエステルの重合処方は、従来公知の方法を採用できる。
【0013】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、例えばa.芳香族オキシカルボン酸の重合物、b.芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、c.aとbとの共重合物などが挙げられる。
【0014】
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0015】
また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0016】
さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる液晶ポリエステルの好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分とエチレンテレフタレート成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とテレフタル酸成分またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたものなどが挙げられる。
【0018】
本発明に用いる液晶ポリエステルの構成成分の組み合わせ、組み合わせ比率およびポリマー分子鎖末端基などについては、加熱下貯留時の安定性、熱分解性や他ポリマーとの親和性などに影響するため、目的とする用途やその製造工程を考慮して、種々選択することが好ましい。
【0019】
本発明で用いる液晶ポリエステルの融点は、紡糸、固相重合などでの加工上の問題を生じないよう220〜380℃の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは250〜350℃のものである。
【0020】
本発明の芯鞘型複合繊維は、芯成分に液晶ポリエステルを50重量%以上含むことに特徴を有するものであり、このようにすることにより、液晶ポリエステルの持つ高強度・高弾性率を発現することができる。また、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分の液晶ポリエステル以外の材料としては、屈曲性ポリマーを用いることができる。
【0021】
本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分には、液晶ポリエステルおよび屈曲性ポリマーが任意の割合で含有することができるが、耐摩耗性を向上させるためには、屈曲性ポリマーを含有することが好ましい。また、鞘成分にも液晶ポリエステルを含む構造とすることにより、芯鞘界面部分において液晶ポリエステル同士の接着部分ができるため芯鞘界面の接着性が向上するとともに、繊維全体としての液晶ポリエステル複合割合を高めることができ、高強度化につながるために好ましい。さらに、芯成分および鞘成分がともに液晶ポリエステルと屈曲性ポリマーを含有する場合、芯鞘界面の接着性が向上し耐摩耗性が向上するために好ましく、鞘成分中の分散成分が液晶ポリエステルであると、耐摩耗性はさらに向上するため、より好ましく採用される。
【0022】
さらに、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分および鞘成分がともに液晶ポリエステルと屈曲性ポリマーを含有する場合、両成分の分散成分が液晶ポリエステルであることが好ましい。この様な構造とすることにより、芯成分と鞘成分の境界付近における屈曲性ポリマー同士の界面がより多くなるため、芯鞘界面の接着性をさらに向上させることができ、各種後加工において取扱い性に優れた製品を提供することができる。
【0023】
また、分散成分が液晶ポリエステルであるような構造とした場合、単糸の横断面において、該繊維の外接円より求めた繊維径を(R)とし、同様に該繊維中の1つの分散成分において、その分散成分の外接円より求めた径を(r)とした場合に、全ての分散成分で、r/R≦0.3を満足することが好ましく、r/R≦0.2を満たすものであることがより好ましい。また、高強度・高弾性率とするためには、芯成分中の最小の分散成分はr/R≧0.001を満たすものであることが好ましい。
【0024】
なお、液晶ポリエステルの割合については、例えば透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))により、5千倍の倍率で繊維横断面を撮影した写真を、三谷商事社製画像処理ソフト(Winroof)を用いて確認することができる。
【0025】
本発明の芯鞘型複合繊維に用いる屈曲性ポリマーは、1種の屈曲性ポリマーであっても、2種以上の屈曲性ポリマーからなるポリマーアロイであっても良い。
【0026】
本発明の芯鞘型複合繊維に用いる屈曲性ポリマーは、例えばポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの屈曲性ポリマーの中でも、耐熱性、耐溶剤性などの特性が付与できる点から、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。また、ゴム等との接着性の点から、好ましくはナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9Tなどに代表されるポリアミドが挙げられる。さらに、各種加工における耐摩耗性の点から、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどに代表されるポリエステルが挙げられる。
【0027】
本発明の芯鞘型複合繊維に用いる屈曲性ポリマーは、液晶ポリエステルとの親和性が高く、液晶ポリエステルに合わせた温度で紡糸しても安定であり、紡糸後の固相重合など各種後加工において加工性に優れたポリマーを選択することが好ましく、該ポリマーの融点(Tm)は、液晶ポリエステルの融点±30℃の範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明の芯鞘型複合繊維に用いる屈曲性ポリマーは、20モル%、より好ましくは10モル%以下の割合で他の共重合成分を含むものであっても良い。例えば、ポリアミドに共重合可能な化合物には、アクリル酸ソーダ、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタアクリル酸、ビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド系ポリマーなどを挙げることができるがこれらに限られるものではない。また、ポリエステルに共重合可能な化合物には、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸類、グリコール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるがこれらに限られるものではない。
【0029】
本発明で用いる液晶ポリエステルおよび屈曲性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
【0030】
本発明の芯鞘型複合繊維は、単糸横断面における鞘成分の厚みについて、厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)の関係が、Tmax/Tmin≦2.0を満足することに特徴を有するものであり、Tmax/Tmin≦2.0であることにより、鞘成分の特性を繊維断面の全ての方向に対して均一に発現することができる。
【0031】
Tmax/Tminの関係として、好ましくは1.75以下、より好ましくは1.3以下である。
【0032】
鞘成分の厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)については、例えば透過型電子顕微鏡(例えば、日立製作所製TEM(H−800型))で撮影した単糸の横断面全体像から求める。この場合、繊維横断面は、通常の方法で包埋した試料を0.1μm程度の厚みに切り出した切片の中で、シワや断面変形の比較的少ない試料を用い、観察は単糸で行い、n数は2とし、各単糸のTmax/Tminの平均値を試料のTmax/Tminとする。
【0033】
本発明の芯鞘型複合繊維の繊維横断面形状は、Tmax/Tmin≦2.0を満足していればいずれの形状でも良いが、耐摩耗性向上、あるいはモノフィラメント織物とした場合の目開きの均一性の観点から、好ましくは丸断面、かつ同心円の芯鞘型複合繊維である。
【0034】
本発明の芯鞘型複合繊維について、単糸繊度D(dtex)と鞘成分厚みの最小値Tmin(μm)の関係が、下記式を満足することが好ましい。
【0035】
式) Tmin≧1/3√D
該式を満足することにより、鞘成分厚みは単糸繊度に対して適正な範囲となり、いかなる繊度においても優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0036】
本発明の芯鞘型複合繊維において、芯成分および鞘成分がともに液晶ポリエステルと屈曲性ポリマーからなるポリマーアロイとした場合、芯成分における液晶ポリエステルの複合割合Rcは90重量%未満であることが好ましい。芯成分における液晶ポリエステルの複合割合Rcを90重量%未満とすることにより、芯鞘界面部分に存在する屈曲性ポリマーが多くなるため、芯鞘界面の接着力が向上する。芯成分における液晶ポリエステルの複合割合Rcは、60〜75重量%の範囲であることがより好ましい。
【0037】
また、鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合Rs(重量%)は、10<Rs<50 を満足する範囲であることが好ましい。鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合Rsを10重量%超とすることにより、強度を高くすることができる。また、鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合Rsを50重量%未満とすることにより、繊維表面に屈曲性ポリマーを多く存在させることができるため、繊維表面の耐摩耗性が高くなり、毛羽などの発生が抑制される。鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合Rsについて、より好ましくは15〜40重量%の範囲、さらに好ましくは20〜35重量%の範囲である。
【0038】
なお、この場合の芯成分および鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合は、例えば透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))で繊維横断面を撮影した写真について、三谷商事社製画像処理ソフト(Winroof)を用いて確認することができる。
【0039】
本発明の芯鞘型複合繊維は、液晶ポリエステルの特長である高強度・高弾性率を有するものであり、該繊維の引張強度は10cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは14cN/dtex以上である。また、種々の用途において製品の寸法安定性および耐久性を充分なものとするため、弾性率は300cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは350cN/dtex以上である。
【0040】
以下に、本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法についての一例を示すが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0041】
芯成分および鞘成分のポリマーは公知の方法で複合紡糸装置に供給される。その後、各成分のポリマーは計量され、ろ過されて芯鞘型複合紡糸口金に導かれる。供給されるポリマーが混合物の場合には、混合物は溶融紡糸前または溶融紡糸と同時に作製されるが、例えば、1軸混練機、2軸混練機、各種のニーダー等が挙げられ、また静止混練器を用いることもできる。
【0042】
芯鞘型複合口金は、本発明の芯鞘型複合繊維鞘成分の厚みを本発明の範囲に制御する重要な部品である。液晶ポリエステルはその溶融粘度の剪断速度依存性が高いポリマーであり、溶融状態で屈曲性ポリマーと合流する際、ポリマー流に偏りや乱れ、あるいはその時間変動が生じ易く、従来用いられてきた口金では限界があった。本発明の芯鞘型複合繊維を得るための芯鞘複合紡糸口金は以下に記載する特殊な構造を有する芯鞘複合口金を用い、図1を参照しつつ説明する。
【0043】
本発明の芯鞘型複合繊維を得るための芯鞘複合紡糸口金は、第一に、芯成分絞り部1、安定化流路2、芯鞘成分合流部3、複合流流入孔4、吐出孔5で構成される芯成分ポリマーの流路を直線上に配置し、この軸上を芯成分ポリマーを流す。ただし、芯鞘成分合流部3以降は鞘成分ポリマーが芯成分ポリマーを被覆した流れとなる。必要に応じて、芯成分絞り部1の上流側に芯成分流入孔6を設ける。第二に、芯成分絞り部1の流路断面積を、0.2mm以下、好ましくは0.15mm以下、より好ましくは0.10mm以下とし、これにより芯成分ポリマーを計量する。この場合、断面積の下限は0.01mmとする。第三に、安定化流路2の長さを5mm以上取り、安定化流路2の終端部付近に必要に応じて再度、断面積が0.2mm以上、2.0mm以下の絞り部(芯成分第2絞り部7と呼ぶ)を設ける。芯成分ポリマーは、芯成分絞り部1と安定化流路2を通過することによって、計量しつつ剪断歪みの小さい状態で鞘成分と合流することができ、鞘厚みの変動を抑制する。一方で第2絞り部7の断面積を0.2mm未満とすると、安定化した芯成分流れに剪断歪みを加えてしまうため、鞘厚み変動が大きくなってしまう。この目的のために第2絞り部7の断面積は0.3mm以上とすることが好ましい。
【0044】
本発明の芯鞘型複合繊維を得るための芯鞘複合紡糸口金は、第四に、鞘成分についても芯鞘成分合流部3の上流に鞘成分絞り部8を配置する。鞘成分絞り部8の流路断面積は、0.2mm以下、好ましくは0.15mm以下、より好ましくは0.10mm以下とし、これにより鞘成分ポリマーを計量する。この場合、断面積の下限は0.01mmとする。鞘成分絞り部8は、芯成分の流路軸を中心とする同心円上に複数設け、鞘成分ポリマーの被覆厚みを均一化する。第五に、芯鞘成分合流部3では芯成分の全周を覆うように鞘成分ポリマーを合流させる。鞘成分ポリマーは、鞘成分絞り部8と芯鞘成分合流部3を通過することによって、計量しつつ低い流速で芯成分と合流することができ、鞘厚みの変動を抑制する。
【0045】
本発明の芯鞘型複合繊維は、液晶ポリエステルを含むために紡糸しただけで既に十分な強度と弾性率を有しているが、固相重合により性能をさらに向上させることができる。固相重合は、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気の如き酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能である。固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。固相重合の条件としては、繊維表面に露出したポリマーで最も融点が低いポリマーを基準成分として、基準成分の融点より40℃程度低い温度から、基準成分の融点を超えない温度において固相重合を行うことが好ましい。このとき、繊維間融着を防止するため、固相重合温度は基準成分の融点より5℃程度低い温度であることが好ましい。また、固相重合の開始温度は前述の固相重合を行う温度以下であればいずれの温度でも可能である。さらに、固相重合時間は、目的性能により数分から数十時間行われる。
【0046】
固相重合の昇温については、急激な昇温による繊維間融着を防止するため、段階的に昇温することが好ましく、基準成分の結晶化温度を超えない温度で数分〜数時間の処理を行うなど、結晶化を進めるための段階を設けても良い。
【0047】
ここで、結晶化温度とは、サンプルとして紡糸原糸を用い、パーキンエルマー(株)製示差走査熱量計(DSC)で行う示差熱量測定において、室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度(Tc)を指す。
【0048】
固相重合では、液晶ポリエステルの固相重合を促進させるために各種の添加剤を付与しても良い。
【0049】
固相重合時における熱の供給は、液体および気体等の媒体を用いる方法、加熱板、赤外線ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、熱プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等が使用できる。また、固相重合は目的により緊張下あるいは無緊張下で行ない、固相重合の形状はドラム状、カセ状、トウ状(例えば、金属網等にのせて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であり、布帛、織編物などの繊維成型体とした後に固相重合することも可能である。
本発明の芯鞘型複合繊維は、固相重合を行っただけでも優れた耐摩耗性を有するものであるが、さらに耐摩耗性を向上させるため、固相重合を行った後に、基準成分の融点+20℃以上の温度雰囲気中で、0.001秒以上5秒以下の時間で非接触にて糸を溶融させる高温短時間熱処理をすることが好ましい。基準成分の融点+20℃以上とすることで熱処理の効果が短時間で発生しやすくなるため、液晶ポリエステルの強度に対する影響が少なくてすむなど効率的に熱処理を行うことができる。熱処理温度は、一般的なヒーター温度管理範囲内であれば良く、好ましくは融点+20℃〜融点+500℃の範囲、さらに好ましくは融点+30℃〜融点+300℃の範囲である。また、熱処理時間は0.001秒以上5秒以下とすることが好ましく、この時間範囲とすることで効率的な熱処理を保ちつつ繊維の溶断を防ぐことが出来る。熱処理時間は、好ましくは0.005秒以上2秒以下、さらに好ましくは0.01秒以上1秒以下である。
さらに、熱処理工程中でのガイド等と接触することによる摩耗の防止や均一な熱処理を行うために非接触熱処理を行う。また、好ましい熱源としては一般的なプレートヒーターを用いたスリットヒーターやレーザー加熱などを用いることが出来る。
【0050】
なお、高温短時間熱処理を施すことにより、固相重合後の糸であっても示差走査熱量(DSC)測定で結晶化温度が確認されるという特徴を持つ繊維が得られる。この場合、結晶化熱量ΔHcは、3J/g以上となるように熱処理することが好ましい。
【0051】
本発明の芯鞘型複合繊維の形態は、フィラメント状あるいはカットファイバー状いずれも可能であるが、該繊維の特性を十分に発揮するためには、フィラメント状、特にモノフィラメントであることが好ましい。
【0052】
本発明の芯鞘型複合繊維は、高強度・高弾性率の特徴を保持し、耐フィブリル化性、耐摩耗性、耐疲労性が著しく改善されたものであり、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料、一般衣料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、スクリーン紗、コンピュターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、本発明の芯鞘型複合繊維は繊維断面全ての方向に対して均質な特性を発揮できることから、特に有効な用途として工業資材用織物等に用いるモノフィラメントが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
(1)引張強伸度、弾性率:JIS L1013(1999)記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度50mm/minの条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて、固相重合後の物性を測定した。
(2)溶融粘度:東洋精機(株)製キャピログラフ1B型を用いて測定した。
(3)融点:パーキンエルマー(株)製示差走査熱量計(DSC)で行う示差熱量測定において、液晶ポリエステルについては、室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、およそTm+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)を融点とした。また、屈曲性ポリマーについては、同一の装置を用いて、16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)を融点とした。
(4)耐摩耗性:評価サンプルはモノフィラメントを用い、φ4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業(株)製棒ガイド:材質YM−99C、硬度1800)に接触角100°でかけたサンプルの端をストローク装置に把持し、5.0cN/dtexの張力を付与しつつ、ストローク長30mm、ストローク速度100回/分でサンプルを擦過させ、ストローク回数10回毎に停止して、棒ガイド上の白粉の有無とサンプル表面のフィブリルの有無を観察し、いずれかの発生が確認された時点のストローク回数を測定した。測定は1サンプルについて1m毎に10回実施した。
(5)鞘成分の厚み、液晶ポリエステルの複合割合およびポリマーアロイ部分の成分確認:透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))で撮影した単糸の横断面全体像から求めた。また、芯成分および鞘成分における液晶ポリエステルの複合割合は、透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))により、5千倍の倍率で繊維横断面を撮影した写真について、三谷商事社製画像処理ソフト(Winroof)を用いて、芯鞘成分界面についてエッチングすることで芯成分と鞘成分を判定し、それぞれの成分における液晶ポリエステル(白色で示される成分)の単位面積あたりに占める複合割合を求めることにより確認した。
【0054】
実施例1
液晶ポリエステルとして、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位が全体の72モル%、6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構造単位が全体の28モル%を占める液晶ポリエステルを用いた。この液晶ポリエステルの溶融粘度は、測定温度300℃、剪断速度100sec−1において115Pa・sであり、融点は278℃であった(以下、このポリマーをLCP1とする)。
【0055】
屈曲性ポリマーとして、2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールを重縮合して得たポリエチレンナフタレートを用いた。このポリエチレンナフタレートの溶融粘度は、測定温度300℃、剪断速度100sec−1において350Pa・sであり、融点は268℃であった(以下、このポリマーをPEN1とする)。
【0056】
芯成分をLCP1、鞘成分をPEN1として、芯成分と鞘成分を別々の押出機で溶融して紡糸パックに供給し、図1に示すような芯鞘型複合口金を用いて溶融紡糸した。該口金の芯成分絞り部は0.13mmの断面積をもち、安定化流路は10mm、安定化流路の終端部には0.38mmの断面積の芯成分第2絞り部をもつ。一方、鞘成分は0.07mmの断面積をもつ鞘成分絞り部3穴を芯成分の流路軸に対して同心円上に120°間隔で配置された芯鞘型複合口金を用いた。吐出孔は10個とし、芯成分と鞘成分の比率が7:3となるように紡糸温度315℃で吐出して紡糸速度600m/分で巻き取り、100dtexのマルチフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であった。
【0057】
この紡糸原糸を気体が通過できるような金属円筒に耐熱性不織布を巻いた固相重合用ボビンに100g巻き取り、200℃で5時間、230℃で5時間、260℃で20時間窒素ガスを通過させつつ固相重合した。得られた固相重合糸は、強度16.4cN/dtex、伸度3.2%、弾性率450cN/dtexであり、表1に記載の性能を有していた。
【0058】
実施例2
PEN1に複合割合が20重量%となるようにLCP1を混合し、2軸エクストルーダー(スクリュー径φ15mm)で溶融・混練して作製したポリマーアロイチップを鞘成分として用いたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表1に記載の固相重合糸を得た。
【0059】
実施例3
芯成分にLCP1の複合割合が70重量%となるようにPEN1を混合し、実施例2と同様に溶融・混練して作製したポリマーアロイチップを用いたこと以外、実施例2と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であった。
【0060】
この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表1に記載の固相重合糸を得た。
【0061】
実施例4
紡糸速度1200m/minで巻き取ったこと以外、実施例2と同様の方法により紡糸し、50dtexのフィラメントを得た。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表1に記載の固相重合糸を得た。
【0062】
実施例5
紡糸速度1200m/minで巻き取ったこと以外、実施例2と同様の方法により紡糸し、50dtexのフィラメントを得た。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表1に記載の固相重合糸を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
比較例1
芯成分絞り部のない芯鞘型複合口金を用いたこと以外は実施例2と同様の方法により紡糸した。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表2に記載の固相重合糸を得た。
【0065】
比較例2
安定化流路の終端部に0.13mmの断面積の芯成分第2絞り部をもつ芯鞘型複合口金を用いた以外は比較例1と同様の方法により紡糸した。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表2に記載の固相重合糸を得た。
【0066】
比較例3
鞘成分絞り部の断面積を0.38mmとした以外は実施例2と同様の方法により紡糸した。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表2に記載の固相重合糸を得た。
【0067】
比較例4
特許文献1〜4に示されているような、鞘成分を0.2mm以下の断面積をもつ絞り部を通過させず、全周方向から合流させたこと以外は実施例1と同様の方法により紡糸した。この紡糸原糸を実施例1と同様に固相重合し、表2に記載の固相重合糸を得た。
【0068】
比較例1〜4はいずれもTmax/Tminが2を超えるものであり、実施例に比較して耐摩耗性に劣るものであった。
【0069】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の芯鞘型複合繊維を得るための芯鞘複合口金の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1:芯成分絞り部
2:安定化流路
3:芯鞘成分合流部
4:複合流流入孔
5:吐出孔
6:芯成分流入孔
7:芯成分第2絞り部
8:鞘成分絞り部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分に液晶ポリエステルを50重量%以上含む芯鞘型複合繊維であり、繊維断面における鞘成分の厚みについて、厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)の関係が、Tmax/Tmin≦2.0を満足することを特徴とする芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
繊維横断面が丸断面であり、かつ同心円であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
芯成分および鞘成分がともに液晶ポリエステルを含むことを特徴とする請求項1および2に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項4】
鞘成分中の分散成分が液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項5】
芯成分および鞘成分の分散成分が液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芯鞘型複合繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88576(P2008−88576A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268156(P2006−268156)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】