説明

芯鞘型複合繊維

【課題】本発明は、保温性が高く、染色性に優れた後加工が可能な芯鞘型複合繊維を提供することである。
【解決手段】鞘成分(成分A)がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステルであり、芯成分がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステル(成分B)とポリアリーレンスルフィド(成分C)のブレンドポリマーにより構成され、成分A、成分Bおよび成分Cの重量比率が下記一般式(1)、(2)を満足することを特徴とする芯鞘型複合繊維により解決される。
0.01≦(B/C)≦0.2 (1)
0.05≦(B+C)/A≦1 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性が高く染色性に優れた芯鞘型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は機械的性質、化学的性質、イージーケア性、光沢性等の優れた特性から一般衣料用として広く利用されている。消費者の多様化および個性化した感性のニーズがあり、より高品質、より保温化などのいろいろな性能が求められている。しかしながら、ポリエステル繊維は、プラスチック的な冷たい感じがあり、冬季の衣料としての暖かさや保温性が不十分であるという欠点を有している。
【0003】
そこで、上記のようなポリエステル繊維の欠点を改良するために、繊維を中空化することが広く行なわれている。中空繊維については、古くから知られている(特許文献1)。しかしながら、中空繊維の場合、中空紡糸ノズルから紡出して製造することが一般に行なわれているが、繊維に一旦中空構造が付与されても固化するまでの間に、溶融状態にある樹脂の表面張力や紡糸時の引取り張力等によって中空部の割合が減少し易く、中空率の高い中空繊維を得ることが困難である。また、たとえ中空率の高い繊維が得られても、後加工工程において中空部が潰れやすいという欠点がある。特に、中空率の高い中空繊維ほどその傾向は大きい。
【0004】
後加工工程における問題点を解決するため、繊維断面の中心に三角形状の中空を有した中空繊維が開示されているが耐潰れ性が改善傾向にあるものの、中空部を有している限り完全に改善されることはない(特許文献2)。
【0005】
後加工工程における問題点を解決するために、鞘成分としてポリアミドを用い、芯成分としてポリエステルを用いた芯鞘複合繊維からなる布帛をアルカリ水溶液処理して芯成分であるポリエステルの一部を溶解除去し、芯成分と鞘成分との間に中空部を設けてなる布帛の製造方法が提案されている(特許文献3〜5)。しかしながら、該公報に提案されている中空繊維は芯成分としてポリエステルが存在するため、必然的に保温性に富んだ繊維とはならない。また、上記中空繊維では後加工後の中空率が大きくても、使用することによって中空率が低下し、保温性が使用経過時間で変化する問題がある。
【0006】
一方、ポリフェニレンスルフィド(PPS)など熱伝導度の低い樹脂を用いた繊維を使用することで保温性を高めることは知られている。しかしながら、PPSは染色性が低く、染色を必要とする用途、例えば、衣料用途では用いることが出来ない。産業資材用途ではPPSと他の樹脂を複合繊維としたものやPPSに液晶ポリエステルなどをブレンドした繊維なども提案されている(特許文献6、7)。これらは、何れもPPSが表面に存在しているため染色性が低いものである。
【0007】
このように、染色が可能であり後加工後も保温性を持続するような繊維は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42−2928号公報
【特許文献2】特開平6−228815号公報
【特許文献3】特開平3−124857号公報
【特許文献4】特開平3−124878号公報
【特許文献5】特開平7−278947号公報
【特許文献6】特開2007−51327号公報
【特許文献7】特開平7−243128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保温性が高く、染色性に優れた芯鞘型複合繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題は、鞘成分(成分A)がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステルであり、芯成分がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステル(成分B)とポリアリーレンスルフィド(成分C)のブレンドポリマーにより構成され、成分A、成分Bおよび成分Cの重量比率が下記一般式(1)、(2)を満足することを特徴とする芯鞘型複合繊維により解決できる。
【0011】
0.01≦(B/C)≦0.2 (1)
0.05≦(B+C)/A≦1 (2)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保温性繊維素材として用いられる用途、具体的には、例えば、衣料用途、非衣料用途、産業用途などで保温性が高い繊維構造体として提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分(成分A)は、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステルである。
【0015】
ポリアルキレンテレフタレートとは、ジオール成分とテレフタル酸成分を用いて得られる重合体が挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2′−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。1,4ブタンジオールおよびそのエステル形成能を有するその誘導体、トリメチレングリコールおよびそのエステル形成能を有する誘導体、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とテレフタル酸またはエステル形成能を有するその誘導体を重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)およびポリエチレンテレフタレート(PET)を用いると染色した際に鮮明に染色されるため好ましく用いられる。
【0016】
また、ポリアルキレンナフタレートとは、ジオール成分とナフタレンジカルボン酸成分を用いて得られる重合体が挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2′−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。1,4ブタンジオールおよびそのエステル形成能を有するその誘導体、トリメチレングリコールおよびそのエステル形成能を有する誘導体、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とナフタレンジカルボン酸またはエステル形成能を有するその誘導体を重縮合して得られるポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。中でもPETは熱安定性に優れ、且つ、比較的安価なポリマーであることからより好ましく用いることができる。
【0017】
本発明の成分Aにはポリオキシアルキレングリコールが共重合されていることが好ましい。ポリオキシアルキレングリコールを共重合することによって分散染料による染色性が向上し、天然繊維など常圧で染色が必要な繊維との混繊が可能となる。
【0018】
ポリオキシアルキレングリコールとして、分子量が90〜6000のものであることが好ましい。分子量が90以上のポリオキシアルキレングリコールであると繊維の染色性および発色性が一層良好となり、また十分な分子量であるために繊維の高次加工性も良好となる。一方、分子量6000以下までであれば、改質ポリエステル中に均一に共重合されるので、得られる繊維の染色性および発色性を満足させることができる。より好ましいポリオキシアルキレングリコールの分子量は、100〜4000であり、更に好ましくは100〜1200である。
【0019】
前記したポリオキシアルキレングリコールとしては次式で示されるポリオキシアルキレングリコールなどがあげられる。
A(C2nO)
(式中AはC2e+1OまたはOH、eは1〜10、nは2〜5、mは2〜65の整数を示す。)
ポリオキシアルキレングリコールの含有量は0.1〜5.0重量%であることが好ましい。ポリオキシアルキレングリコールの量がこの範囲とすることで繊維の染色性および発色性が一層良好となり好ましい。より好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0020】
本発明の成分Aには金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を共重合されていることが好ましい。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸としては、次式で示される化合物であり、具体的にはジメチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレート、ビス−2−ヒドロキシエチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレート、ビス−4−ヒドロキシブチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレート、ジメチル(5−リチウムスルホ)イソフタレートなどである。
【0021】
【化1】

【0022】
(但し、式中MはNa、Li、Kなどのアルカリ金属を示し、A、A´は水素、アルキル基または−(CHOHを示し、nは2以上の整数を示す)
好ましい金属スルホネート基を含有するイソフタル酸としては、ジメチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレート、ビス−2−ヒドロキシエチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレートである。
【0023】
金属スルホネート基を有するイソフタル酸は改質ポリエステル酸成分に対し0.7〜2.4モル%共重合させることが好ましい。共重合量が0.7モル%以上であると繊維の塩基性染料による染色性および発色性が良好であり、2.4モル%以下であると溶融粘度が著しく大きくなることがないために溶融紡糸する際に、適正な濾過が可能となり良好な糸特性を持つ未延伸糸を得ることができ、糸強度も十分となる。
【0024】
また、本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分(成分A)には、ヒンダートフェノール系、ア
ミン系、ホスファイト系、チオエステル系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系などの紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、シアニン系、スチルベン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリノン系、キナクリドン系などの有機顔料、無機顔料、蛍光増白剤、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン等の粒子、抗菌剤、静電剤などの添加剤が含有されても良い。
【0025】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分はポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステル(成分B)とポリアリーレンスルフィド(成分C)のブレンドポリマーにより構成される。このようなブレンドポリマーとすることにより、鞘成分との剥離が抑制され白化しにくくなり、鮮明に染色することができる。更に、強度も向上する。
【0026】
本発明の成分Bは、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステルである。上記ポリアルキレンテレフタレートとは、ジオール成分とテレフタル酸成分を用いて得られる重合体が挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2′−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。
【0027】
また、ポリアルキレンナフタレートとはジオール成分とナフタレンジカルボン酸成分を
用いて得られる重合体が挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2′−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。
【0028】
中でもPETは熱安定性に優れるため、剥離を抑制する効果が大きく、白化の抑制、染色性が向上する傾向にある。また、PETは比較的安価なポリマーであることからより好ましく用いることができる。
【0029】
本発明の成分Aと成分Bは、同一のポリマー組成であると芯鞘型複合繊維の芯成分と鞘成分の接着性が良好となり好ましい。
【0030】
本発明は、鞘成分の成分Cがポリアリーレンスルフィド(PAS)である。本発明におけるPAS樹脂とは、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。上記Arとしては、下記式(A)から式(K)などで表わされる単位などが例示されるが、なかでも式(A)で表わされる単位が特に好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
(ただし、式中のR1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一であっても異なっていてもよい)この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記式(L)から式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−単位に対して0〜5モル%の範囲であることが好ましく、1モル%以下の範囲であることがより好ましい。
【0033】
【化3】

【0034】
また、本発明におけるPAS樹脂は、下記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物であってもよい。
【0035】
【化4】

【0036】
これらPAS樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPAS樹脂としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレン単位
【0037】
【化5】

【0038】
を90モルパーセント以上含有するPPS、ポリフェニレンスルフィドスルホンおよびポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられ、PPSが特に好ましい。
【0039】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分は、成分Bと成分Cの重量比率が下記一般式(1)で
ある。
0.01≦(B/C)≦0.2 (1)
成分Bと成分Cの重量比率B/Cが0.01より小さい場合、芯鞘型複合繊維の鞘成分との接着性が低下し芯成分と鞘成分の剥離が生じ、繊維の白化や染色性の低下となる。また、紡糸性が悪くなり、得られた繊維の物性の低下、特に強伸度が低下する。また、B/Cが0.2を超えると保温性が低下する。本発明の範囲とすることによって複合繊維の繊維物性と保温性を両立することができる。成分Bと成分Cの重量比率は0.1以下が好ましく、0.05以下が好ましい。本発明の芯成分は、紡糸機内でのブレンドや予め成分Bと成分Cを溶融混練しアロイ化した後、繊維化することが好ましい。
【0040】
本発明の溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することが
できる。加熱溶融混合装置としては単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダー等を使用することができる。中でも、二軸押出機を用いるとPPSとポリアルキレンテレフタレートの分散性が向上することから好ましく用いられる。より好ましくは、ニーディングゾーンが2箇所以上ある二軸押出機を用いることである。
【0041】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯鞘比率は下記一般式(2)であることを特徴としている。
0.05≦(B+C)/A≦1 (2)
上記一般式において(B+C)/Aが0.05より小さいと十分な保温性が得られない。(B+C)/Aが0.05以上とすることで保温性の良好な複合繊維を得ることができる。これは、PPSの熱伝導度が低いためPPSが断熱効果を発揮するためであり、上記の比率とすることで繊維全体の熱伝導度が低下し保温性が向上する。一方、(B+C)/Aが1より大きいと繊維が黄色く着色し、また、染色性が低下する。好ましくは0.5以下である。
【0042】
また本発明の複合繊維は、フィラメントもしくはステープルのいずれの形態でも有用に用いることができる。例えば衣料用途のフィラメントとしては、単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度として50dtexから300dtexでフィラメント数が10から100本のマルチフィラメントが好適に用いられる。また、例えば産業用途のフィラメントとしては、単糸繊度が十数Dtexから数百Dtexの範囲であり、総繊度として数百Dtexから数千Dtexでフィラメント数が10から100本の範囲のマルチフィラメントが好適に用いられる。
【0043】
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維の繊維断面形状は、本発明の目的を損なわない範囲で偏平、三角、多葉断面化等の異形断面化することも可能である。異形断面化により、風合いの変化や毛細管現象等の物理的機能性付与が可能であり、またこれら異形断面の中空部に機能剤を付与した場合には機能性の向上効果を得ることも可能である。なお、ここで定義する異形断面とは、鞘成分で形成される繊維表面形態のみに限らず、芯成分と鞘成分の境界面も該当し、凹凸等を付与しても良い。
【0044】
また、繊維構造物としては、織物、編み物、不織布などの種々の布帛形態で用いることが可能である。例えば衣料用途の場合には、上記のフィラメントを、例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織すればよい。また、産業用途のフィラメントについても、衣料用途と同様に織物に製織して用いることができる。
【0045】
また、本発明の複合繊維は後加工による影響を受けないため、様々な後加工をすることができる。例えば、浴中加工、吸尽加工、コーティング加工、Pad−dry加工、Pad−steam加工などにより撥水性、親水性、制電性、消臭性、抗菌性、深色性などの機能を付与することができる。また、本発明の複合繊維は外力による保温性の低下がないため、仮撚りや撚りにより保温性を維持したまま、ふくらみ感等の風合い特性を向上させることができる。
【0046】
本発明の複合繊維は、保温性などの低下が無い範囲で、他の繊維との混紡や混繊などが可能であるが、繊維構造物中に主成分として含有していることが好ましく、繊維構造物に対して重量比で70%以上含有していることがより好ましい。
【0047】
本発明の複合繊維の具体的な製造方法を以下に示す。
まず、芯成分A及び芯成分Bに用いるポリエステルを選択する。
次に、芯成分のポリエステルとPAS樹脂を上記に示した方法により溶融混練しPAS
/ポリエステルブレンド樹脂を製造する。
【0048】
鞘成分のポリエステルおよび芯成分のPAS/ポリエステルブレンド樹脂はそれぞれ、別々に280〜320℃で溶融・計量し、280〜320℃に加熱された紡糸ブロックに導き、紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送り、パック内でポリマーを濾過し、次いで紡糸口金で芯鞘構造に貼り合わせた後、吐出した糸条を得る。紡出された糸条は一旦冷却、固化された後、給油ガイドで油剤を付与し、次いで交絡装置で適度な交絡を与えた後、ゴデットロールで800〜4000m/分の速度で引き取り、巻き取る。更に延伸温度80〜100℃で延伸し、120〜150℃で熱セットすることにより芯鞘型複合繊維を得ることができる。
【0049】
本発明の芯鞘複合繊維を用いた繊維構造物は、繊維製品として特に保温性が必要な繊維製品、例えば衣料素材などで好適に用いることができる。中でも保温性が必要であり、染色工程や後加工工程、仮撚り加工工程などが必須である用途において好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明を実施例で具体的に説明する。
なお、各物性の評価方法は以下に示す方法によりそれぞれ測定した。
【0051】
(1)複合繊維の芯鞘比率の測定
複合繊維の断面方向の超薄切片をSorvall社製ウルトラミクロトーム(MT6000型)を用いて作成した。この切片を、透過型電子顕微鏡(日立H800型)を用いて3000倍で観察した。視野を変えて5視野の写真を撮影し、それぞれの写真について芯部分と鞘部分を切り取り、重量法で芯鞘の割合を算出し、5視野の平均値を芯鞘比率とした。
【0052】
(2)紡糸性、延伸性
公知の複合紡糸機を用いて、紡糸温度300℃、紡糸速度1500m/分、口金口径0.23mm−24H(ホール)、吐出量40g/分の条件で24時間紡糸を行い、糸切れの発生しなかったものを○、紡糸中に単糸切れが起こったものを△、紡糸不可能であったものを×と判断した。
【0053】
また、加工速度400m/分、延伸温度90℃、セット温度150℃の条件で、得られ
る延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、
糸切れが発生しなかったものを○、ローラへの単糸巻きつきや毛羽が発生したものを△、延伸できなかったものを×と判断した。
【0054】
(3)保温性
試験サンプル(織物)および試験サンプルと同じ糸直径を有する標準サンプル(ポリエステル糸)の織物の2つを用いて、パネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価し、◎および○を合格とした。
保温性:標準サンプルと試験サンプルの織物を持った時、前記2つの織物の保温性を明確に感じられたかどうか。
保温性の評価基準
◎:9名以上が有意差ありと判定
○:7〜8名が有意差ありと判定
△:5〜6名が有意差ありと判定
×:4名以下が有意差ありと判定
(4)染色性
得られたサンプルを金属プレートにまきつけ、常法にしたがい染色し、発色性の判断を行った。
染色性の評価
◎:均一に染色されていて濃淡の染色差が全くみられない
○:稀に濃淡が存在したが、実用の範囲内
△:一部濃淡部が存在し、均一な染色性ではない
×:濃淡斑が顕著である
また、実施例で用いた原料は以下に示したものを使用した。
【0055】
[PET]
公知の方法により得られた固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートのペレットを乾燥温度150℃、真空下で10時間乾燥したものを用いた。
【0056】
[CoPET1]
公知の方法により得られた5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを3モル%共重合したポリエチレンテレフタレートからなる固有粘度0.65の共重合ポリエチレンテレフタレート1(CoPET1)のペレットを乾燥温度130℃、真空下で15時間乾燥したものを用いた。
【0057】
[CoPET2]
公知の方法により得られた5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを3モル%および分子量4000のポリエチレングリコールを1重量%とを共重合したポリエチレンテレフタレートからなる固有粘度0.70の共重合ポリエチレンテレフタレート2(CoPET2)のペレットを乾燥温度130℃、真空下で15時間乾燥したものを用いた。
【0058】
[PEN]
公知の方法により得られた固有粘度0.70の2,6−ポリエチレンナフタレート(PEN)のペレットを乾燥温度150℃、真空下で10時間乾燥したものを用いた。
【0059】
[PPS]
公知の方法により得られたMFR298g/10分のPPSのペレットを乾燥温度15
0℃、真空下で10時間乾燥したものを用いた。
【0060】
実施例1
PPSチップ97重量%およびPETチップ3重量%を300℃に加熱されたニーディングゾーンが2箇所有したベント式2軸混練押出機に供給して、せん断速度100sec−1、滞留時間1分にて溶融押出した。混練時の樹脂温度は300℃であった。混練機より冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてPPS97重量%およびPET3重量%であるポリマーチップを得た。
【0061】
次に、PETを鞘成分、及び混練で得たPPS/PET組成物を芯成分に用い、複合紡糸を行った。各ポリマーを事前に真空乾燥機で150℃、10時間、2Torrで乾燥した後、それぞれ別々に溶融し、公知の複合紡糸機を用いて、所定の芯鞘比率33/67、紡糸温度300℃、紡糸速度1500m/分、口金口径0.23mm−24H(ホール)、吐出量40g/分の条件で紡糸を行い、未延伸糸を得た。
【0062】
次いで、加工速度400m/分、延伸温度90℃、セット温度150℃の条件で、得られる延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。
【0063】
得られた延伸糸を金属プレートにまきつけ、をDiaix Black BG−FS(三菱化成社製、分散染料)15%owf水分散液により、浴比1:30、130℃で60分間染色し、染色性の判断を行ったところ均一に染色されていて濃淡の染色差が全くみられなかった。更に、延伸糸を用い平織りの織物を作成し保温性の評価を行った結果、有意差有との結果となった。これらの結果を表1にまとめた。
実施例2、3、比較例1
芯成分のPET/PPSの比率を変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1にまとめた。比較例1のようにPET/PPSの比率が0.2を超えると保温性が得られない。
【0064】
比較例2
芯成分をPPS単独とした以外は実施例1と同様にして行った。しかしながら、紡糸温度300℃ではPPSの流動性が悪く紡糸することが出来なかったので320℃に変更した。結果を表1にまとめた。芯成分をPPSのみとすると、染色後に白化が認められた。これは芯成分と鞘成分との剥離によるものである。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例4〜6、比較例3、4
芯鞘複合比率を変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2にまとめた。比較例3のように(B+C)/Aが本発明の範囲より小さいと、保温性が得られない。一方、比較例4のように(B+C)/Aが本発明の範囲より大きいと、染色性が不良となった。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例7
鞘成分のPETをCoPET1に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表3にまとめた。
【0069】
実施例8、9、比較例5
芯成分のPET/PPS比率を変更した以外は、実施例7と同様にして行った。結果を表3にまとめた。比較例5のようにPET/PPSの比率が0.2を超えると保温性が得られない。
【0070】
【表3】

【0071】
実施例10〜12、比較例6、7
芯鞘複合比率を変更した以外は実施例7と同様にして行った。結果を表4にまとめた。比較例6のように(B+C)/Aが本発明の範囲より小さいと、保温性が得られない。のた比較例7のように(B+C)/Aが本発明の範囲より大きいと、染色性が不良となる。
【0072】
【表4】

【0073】
実施例13
鞘成分のPETをCoPET2に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表5にまとめた。
【0074】
実施例14、15、比較例8、9
芯成分のPET/PPS比率を変更した以外は、実施例13と同様にして行った。結果を表5にまとめた。比較例8のように(B+C)/Aが本発明の範囲より小さいと、保温性が得られない。比較例9のように(B+C)/Aが本発明の範囲より大きいと、染色性が悪いものとなった。
【0075】
【表5】

【0076】
実施例16〜18、比較例10、11
芯鞘複合比率を変更した以外は実施例13と同様にして行った。結果を表4にまとめた。
【0077】
【表6】

【0078】
実施例19
芯成分のPETをPENに変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表7にまとめた。
【0079】
実施例20、21、比較例12
芯成分のPEN/PPS比率を変更した以外は、実施例19と同様にして行った。結果を表7にまとめた。比較例12のようにPEN/PPSの比率が0.2を超えると保温性が得られない
【0080】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の芯鞘複合繊維を用いた繊維構造物は、繊維製品として特に保温性が必要な繊維製品、例えば衣料素材、非衣料用素材、産業用素材などで好適に用いることができる。中でも保温性が必要であり、染色工程や後加工工程、仮撚り加工工程などが必須である用途において好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞘成分(成分A)がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステルであり、芯成分がポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびこれらの共重合ポリマーから選択されるポリエステル(成分B)とポリアリーレンスルフィド(成分C)のブレンドポリマーにより構成された芯鞘型複合繊維において、成分A、成分Bおよび成分Cの重量比率が下記一般式(1)、(2)を満足することを特徴とする芯鞘型複合繊維。
0.01≦(B/C)≦0.2 (1)
0.05≦(B+C)/A≦1 (2)
【請求項2】
成分Cがポリフェニレンスルフィド(PPS)であることを特徴とする請求項1記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
成分Aがポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項4】
成分Bがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の芯鞘型複合繊維
【請求項5】
成分Aが金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を共重合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項6】
成分Aがポリオキシアルキレングリコールとの共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の芯鞘型複合繊維。

【公開番号】特開2011−84827(P2011−84827A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237032(P2009−237032)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】