説明

花粉の保存方法

【課題】受粉時に十分な量の花粉、特には種なし果実作出のための軟X線照射花粉を取り扱いやすい形態で利用でき、しかも長期間にわたって保存花粉を使用可能にする、花粉の保存方法を提供すること。
【解決手段】雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉を真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、花粉の保存方法、ならびに、雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉に軟X線を照射した後または軟X線を照射する前に、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、種なし果実作出のための花粉の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉の保存方法、より詳細には、軟X線照射花粉による種なし果実作出のための花粉の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイカは可食部に種があるため食べる時に煩わしく、食べやすい種なしスイカを望む声が大きい。このようなスイカに代表される種のある果実を種なし果実にする方法として、近年、軟X線照射した花粉で受粉する方法が開発されており、実用化も進んでいる(特許文献1)。軟X線を照射した花粉で種なしスイカを作出する方法では、通常、開花当日に採花した雄花に軟X線を照射してすぐに受粉に供される。受粉数が少ない場合にはこの方法で対応できるが、採取可能な雄花の数(花粉量)は限られており、軟X線照射や受粉作業にも時間がかかるので、受粉数が多くなるとこの方法では対応できない。従って、軟X線を照射した花粉による種なし果実作出では、生産量に限界があり、量産化ができない状況にある。
【0003】
一方、日向夏などのカンキツ類についても、種なしにする、あるいは種の数を減らす技術が検討されている。例えば、染色体が2倍体の日向夏に4倍体の夏みかんの花粉を人工的に受粉させることで3倍体の日向夏になって種が小さくて少ない小核日向夏が得られている。また、日向夏の花にホルモン剤(ジベレリンなど)処理をすることによって種のない日向夏が得られている。しかしながら、カンキツ類については軟X線を照射した花粉を受粉して種なしにする報告例はない。
【0004】
花粉の保存方法としては、一般的には、温度条件や湿度条件、酸素圧をコントロールする方法、有機溶剤へ浸漬する方法などが知られている(非特許文献1)。例えば、スイカの花粉については、雄花(花粉を分離していない)を乾燥剤の入った容器に入れて冷蔵保存する方法(非特許文献2)、有機溶剤(酢酸エチル)中で保存する方法(非特許文献3)などが報告されている。一方、カンキツ類の花粉についても、開葯させた葯ごと湿度条件をコントロールして冷蔵または冷凍して保存する方法(非特許文献4、5)、有機溶剤中で保存する方法(非特許文献6)などが報告されている。
【0005】
しかしながら、上記のスイカの花粉の低温、乾燥による保存方法は、保存期間が2,3日と短期間である場合や、小規模面積における栽培のように受粉数が少なく受粉期間も短い場合は対応できるが、大規模面積における栽培のように、1日の受粉数が200以上あり、受粉期間が長期間(数週間から数ヶ月)に及ぶ場合は、これらの方法では対応できないという問題がある。また、カンキツ類では、受粉することで種子が入るため、受粉することは文旦など一部では実施されているものの、大部分の品種では実施されていない。受粉をする場合も、当年咲の別品種の花粉を使用することが一般的である。また、有機溶剤を利用する保存方法では、花粉を取り出すときにろ紙で有機溶剤をろ過し、素早く乾燥させる作業が必要であり、また花粉の発芽率の低下も生じるので、実際には利用しにくいという問題がある。
【0006】
このように、花粉の保存方法は幾つか存在するものの、いずれも軟X線照射花粉を対象としたものではなく、上述のように、軟X線を照射した花粉を用いた種なしスイカの作出においては、毎日開花した雄花から花粉を収集して軟X線を照射した花粉を用いるために一日に受粉できる数が限られ、作出果実が少ないという問題があるが、この問題を解決するのに有効な軟X線照射花粉の保存手段についてはこれまで検討されていない。
【0007】
【特許文献1】特許第3376553号
【非特許文献1】生物と化学.21(6).1983
【非特許文献2】園芸学会雑誌講演要旨(67別2)83.2000
【非特許文献3】Acta Horticulturae. 588.269-272. 2002
【非特許文献4】昭和48年度果樹試験場安芸津支場試験研究年報(1974)18-19
【非特許文献5】昭和49年度果樹試験場安芸津支場試験研究年報(1975)21-22
【非特許文献6】昭和50年度果樹試験場安芸津支場試験研究年報(1976).22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、果実の量産化を図るためには、大量の花粉を受粉時に合わせて提供することが必要である。また、生産者が花粉を受粉に利用するにあたっては、長期間にわたってその花粉が使用可能であり、かつ、取り扱いが簡便であることが重要である。
【0009】
従って、本発明の目的は、受粉時に十分な量の花粉、特には種なし果実作出のための軟X線照射花粉を取り扱いやすい形態で利用でき、しかも長期間にわたって保存花粉を使用可能にする、花粉の保存方法を提供し、果実の量産化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、保存条件(保存温度や充填ガスの種類)と軟X線照射の時期について鋭意検討を行った結果、収集した花粉を真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存すること、また、種なし果実を作出するための花粉の場合は、軟X線を照射した後または軟X線を照射する前に、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することにより、花粉の品質が安定して保持され、かつ、保存花粉の受粉によって保存していない花粉と同様に高品質な果実が得られること、また、長期間にわたってその保存花粉が利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉を真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、花粉の保存方法。
(2) 雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉に軟X線を照射した後または軟X線を照射する前に、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、種なし果実作出のための花粉の保存方法。
(3) 低温での保存温度が、-80℃〜5℃の範囲であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 収集した花粉が、葯から取り出した形態であるか、または、葯殻のついた形態である、(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の方法によって得られる、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内にパッケージされた保存花粉。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、生産者は、果実作出の受粉のために保存しておいた花粉をそのまま用いることができるので、受粉効率が飛躍的に向上し、量産化が可能となる。カンキツ類においても、花粉の収集作業と受粉作業が重なり、多大な労力を要していたが、保存花粉の利用によって作業労力が軽減される。また、保存花粉は包装袋内にパッケージされているので、生産者には取り扱いが容易であり、解凍や有機溶剤からの回収などの手間は全く不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の第一は、雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉を真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする花粉の保存方法である。
【0014】
本発明の第二は、雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉に軟X線を照射した後または軟X線を照射する前に、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、種なし果実作出のための花粉の保存方法である。
【0015】
本発明において、花粉には、葯から取り出した花粉のみならず、葯殻つきの花粉である粗花粉をも含む。
【0016】
本発明において、花粉の収集は、開花した花(両性花、雄花のように葯を有している花器)から採取した葯から取り出すことによって行う。花粉の収集方法としては、特に限定はされず、公知のいずれの方法を利用してもよいが、例えば、震動により収集する方法が好ましく、液体を利用して収集する方法でもよい。
【0017】
本発明の花粉の保存方法に用いるスイカなどのウリ類の花粉は、開花当日の花粉が好ましい。また、カンキツ類では開花前の蕾を採取して、葯を採取し、恒温機で開葯させた粗花粉をそのまま用いてもよく、あるいは、開葯させた葯をメッシュの袋等に入れ、有機溶剤中でもみ洗いをして花粉と葯殻を分離し、有機溶媒をろ紙等でろ過したのち、乾燥させて回収したものを用いてもよい。
【0018】
次に、上記のようにして収集した花粉を窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存する。
【0019】
また、種なし果実を作出するための花粉の場合は、上記のようにして収集した花粉に軟X線を照射した後、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存する。また、別の態様として、上記のようにして収集した花粉を、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存した後、使用前に軟X線を照射してもよい。
【0020】
軟X線の照射は、上記のように保存前に行っても保存後に行ってもよい。軟X線は組織に対する透過力が弱いため、花粉への照射に有効である。軟X線は、市販の照射用軟X線発生装置を用いて発生させることができる。軟X線の照射量は、果実の品種、照射する花粉の量などによって適宜調整すればよいが、通常は400〜2000Gyである。照射時間については、通常30分〜3時間が好ましい。
【0021】
上記範囲の照射量で軟X線照射した花粉を交配に用いると、正常種子が観察されなくなり、シイナのみとなる。
【0022】
花粉の保存は、パラフィン紙等に包み、包装袋に入れ、真空包装機を利用して真空密閉するか、あるいは、真空後、窒素ガスまたは炭酸ガスを封入して密閉し、その後、低温下で保存する。
【0023】
包装袋としては、代表的にはPE製やPET製のポリ袋、またはアルミ袋(アルミ箔を使用したアルミ袋やアルミ蒸着を使用したアルミ袋)をいい、食品等の真空包装、脱酸素剤封入包装、ガス充填(ガス置換)包装に通常用いられるものであれば特に限定はされないが、保存が低温下で行われることにより、耐冷凍性があり、また酸素などのガス透過性が低く、かつ湿度透過性も低いフィルムからなることが好ましい。このようなフィルムとしては、例えば、PET/EVOH/LLDPE、OPP/EVOH/PE、OPP/PVA/PE、PET/PE、PET/EVOH、PET/LLDPE、PET/AL/PE、PET/AL/DDPREなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明において、低温保存とは、具体的には、-80℃〜5℃の温度範囲の保存をいう。保存温度は、保存期間により適宜変更することができるが、保存期間が6ヶ月〜1年と長期にわたる場合は、0℃以下が好ましく、-40℃〜0℃がより好ましく、-40℃〜-20℃がさらに好ましい。また、保存日数が2〜3週間と短期である場合は、5℃以下であれば特に制限はない。
【0025】
このようにして保存された花粉は、パッケージされた袋から取り出し、そのまま筆等で受粉に用いればよい。あるいは花粉増量剤(マリッジパウダー、石松子など)を加えて受粉してもよい。
【0026】
上記保存花粉は発芽率、着果率(着果数/受粉雌花数)が良好で、果実品質(果実肥大、果実の形状、果肉色、果皮の厚さ、糖度など)も満足できるものである。また、長期間の保存花粉であっても非保存花粉と上記各項目に関する数値と比較して同等である。
【0027】
また、対象となる果実は、種のある果実であれば特に限定はされないが、例えば、ウリ類(スイカ、メロン、カボチャ、ニガウリ等)、カンキツ類(ブンタン、日向夏、金柑、グレープフルーツ等)、ブドウ、カキ、リンゴ、ナシ、キウイ、マンゴー、ビワなどが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)花粉の保存 (スイカ)
(1) 花粉の収集
スイカ品種‘Green Seeded’を用い、開花した日の朝、雄花を採取した。雄花から葯を切り出して、茶こし用の金網に入れ、カップに震動が伝わるように設置し、攪拌機で振動させて花粉のみをカップに落とした。
【0029】
(2) 軟X線未照射花粉の保存
(1)で収集したスイカの花粉をパラフィン紙に包み、真空包装専用ポリ袋に入れた。このポリ袋を真空包装機(V380G:東静電気)に設置し、真空度99.9%で真空状態にしてシールし、密閉した。この密閉したポリ袋を、4℃または-25℃にて所定日数(7日、28日)保存し、発芽率を調べた。また、比較として、花粉をパラフィン紙に包み、真空包装専用ポリ袋に密閉せずに上記と同じ温度、日数で保存した場合(無処理)の発芽率を調べた。結果を下記表1に示す。真空状態で保存した花粉は4℃の保存で効果が認められた。
【0030】
【表1】

【0031】
(3) 軟X線照射花粉の保存
(3-1) 軟X線の照射
(1)で収集したスイカの花粉に、種なしスイカを作出するための軟X線適線量範囲である600Gyを照射した。照射には農業用軟X線照射装置OM-B205を使用した。
【0032】
(3-2) 保存温度、封入ガスの検討
上記軟X線照射後のスイカの花粉を入れたポリ袋を真空度99.9%の真空状態後に窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO2)、または酸素ガス(O2)を封入してシールし、密閉し、-25℃または4℃で所定日数(7日、28日、56日、170日)保存し、発芽率を調べた。結果を図1および図2に示す。窒素ガス(N2)及び炭酸ガス(CO2)を封入して保存した場合、-25℃、4℃のいずれの温度においても発芽率は無処理(開放)や真空保存に比べて高く、特に-25℃では顕著であった。また、各処理において-25℃と4℃を比較した場合、28日目までは同程度の発芽率を維持していたが、56日目では4℃で発芽が認められなかった。
【0033】
同様にして、前記のスイカの花粉を入れたポリ袋を真空度99.9%の真空状態後に窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO2)、または酸素ガス(O2)を封入してシールし、密閉し、15℃または25℃にて所定日数(14日、21日、28日)保存し、発芽率を調べた。結果を下記表2に示す。15℃または25℃では他の処理では発芽率がほとんど認められない中で窒素ガス封入保存が他の処理よりも高い発芽率がみられ、炭酸ガス封入も15℃では効果が認められた。一方、酸素ガス封入は、いずれの温度でも発芽率は劣り、対照や無処理よりもむしろ低いことから発芽力を低下させたといえる。
【0034】
【表2】

【0035】
上記の各試験から、軟X線照射後の1ヶ月以上の花粉保存には、低温で、かつ真空または真空後に窒素ガス若しくは炭酸ガス封入が有効であることが明らかとなった。
【0036】
(実施例2)保存花粉による結実と果実品質(スイカ)
実施例1と同様にして軟X線処理したスイカの花粉をポリ袋に入れ、真空状態(真空度99.9%)または真空状態後に窒素ガス(N2)を封入してシールし、密閉した。これらのポリ袋を4℃または-25℃にて所定日数(14日、28日、90日)保存した後、その保存花粉を用いて受粉させ、結実と果実品質を調べた。結果を下記表3に示す。4℃で窒素ガス(N2)封入保存した花粉は28日まで結実が認められ、種なしスイカが作出された。また、その果実は-25℃で保存した花粉による果実に比べてやや小さい傾向であったが、品質には問題がなかった。-25℃においては真空、窒素ガス(N2)封入保存とも90日まで結実が認められ、果実品質は対照と同程度で、長期の保存花粉でも実用的な種なし果実が得られた。
【0037】
【表3】

【0038】
(実施例3)軟X線照射花粉、無照射花粉の長期保存後の結実(スイカ)
軟X線照射または無照射のスイカの花粉をポリ袋に入れ、真空状態(真空度99.9%)にしてシールし、密閉した。これらのポリ袋を-25℃にて長期間保存した後、その保存花粉を用いて受粉させ、結実率を調べた。結果を下記表4に示す。200日以上の長期保存の軟X線照射した花粉、あるいは無照射の花粉を受粉した場合でも結実が認められた。
【0039】
【表4】

【0040】
(実施例4)軟X線照射花粉長期保存後の果実品質(スイカ)
軟X線照射したスイカの花粉をポリ袋に入れ、真空状態(真空度99.9%)または真空状態後に窒素ガス(N2)を封入してシールし、密閉した。このポリ袋を-25℃にて長期間(約1年)保存した後、その保存花粉を用いて受粉させ、果実品質を評価した。結果を下記表5に示す。窒素で-25℃で約1年間保存された花粉の発芽率及び結実率は対照とほぼ同じで、花粉の品質劣化が認められなかった。また、各処理で保存した軟X照射花粉で受粉された果実は、対照と同様に高品質な種なし果実となった。
【0041】
【表5】

【0042】
(実施例5)花粉の保存 (日向夏)
(1) 花粉の収集
カンキツ品種‘日向夏’を用い、開花前日の蕾を採取した。蕾から葯を取り出し、パッドに薄く広げ、25℃で24〜60時間開葯させた。開葯して得られた葯がら付きの花粉(粗花粉)をそのまま収集した。
【0043】
(2) 軟X線の照射
収集した日向夏の粗花粉に、軟X線適線量範囲である500〜1,000Gyを照射した。照射には農業用軟X線照射装置OM-B205を使用した。
【0044】
(3) 花粉の保存
(3-1) 保存温度の検討
上記軟X線照射後の日向夏の粗花粉をパラフィン紙に包み、厚手のポリ袋に入れ密封し、3℃、-20℃、-40℃にて所定日数(3週間、3ヶ月、半年、1年)保存し、発芽率を調べた。結果を下記表6に示す。その結果、照射3週間後では保存温度により花粉の発芽率に顕著な差は見られなかったが、3ヶ月後では3℃保存の発芽率が他のものに比べて大きく低下し、半年後には0%となった。1年後では、−40℃保存が−20℃保存よりも発芽率がやや高い傾向が認められた。
【0045】
【表6】

【0046】
(3-2) 封入ガスの検討
上記軟X線照射後の日向夏の粗花粉をパラフィン紙に包み、真空包装専用のポリ袋に入れた。このポリ袋を真空包装機(V380G:東静電気)に設置し、真空度99.9%で真空状態にしてシールし、密閉し、-20℃にて所定日数(2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、1年)保存し、発芽率を調べた。同様にして、前記の粗花粉を入れたポリ袋を真空度99.9%の真空状態後に窒素ガス(N2)または通常の空気を封入してシールし、密閉し、-20℃にて所定日数(2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、1年)保存し、発芽率を調べた。結果を下記表7に示す。窒素ガス封入、真空、通常の空気による保存の順に花粉発芽率が高く維持された。
【0047】
【表7】

【0048】
(3-3)軟X線の照射時期の検討
-20℃で約10ヶ月保存後、軟X線照射して再び-20℃で約1年間保存した日向夏の粗花粉(処理1)、-20℃で約2年保存後、軟X線を照射した日向夏の粗花粉(処理2)、当年採取し軟X線照射した日向夏の粗花粉(対照)をそれぞれ用いて ‘水晶文旦’に受粉し、発芽率・着果率・結果枝率を調べた結果を下記表8に示す。処理1と処理2において発芽率・着果率・結果枝率の差は認められず、対照との差も認められなかった。
【0049】
【表8】

【0050】
-20℃で約10ヶ月保存後、軟X線照射して再び-20℃で約1年間保存した日向夏の粗花粉(処理1)、-20℃で約2年保存後、軟X線を照射した日向夏の粗花粉(処理2)、当年採取し軟X線照射した日向夏の粗花粉(対照)をそれぞれ用いて ‘水晶文旦’に受粉し、果実品質を評価した。結果を表9、10に示す。処理1と処理2において果実品質の差は認められず、対照との差も認められなかった。
【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】各種条件(窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO2)、酸素ガス(O2)、真空;保存温度-25℃)で保存した軟X線照射後の花粉の発芽率を示す。
【図2】各種条件(窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO2)、酸素ガス(O2)、真空;保存温度4℃)で保存した軟X線照射後の花粉の発芽率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉を真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、花粉の保存方法。
【請求項2】
雄花または両性花から花粉を収集し、当該花粉に軟X線を照射した後または軟X線を照射する前に、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内で低温保存することを特徴とする、種なし果実作出のための花粉の保存方法。
【請求項3】
低温での保存温度が、-80℃〜5℃の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
収集した花粉が、葯から取り出した形態であるか、または、葯殻のついた形態である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法によって得られる、真空状態にした包装袋内、または窒素ガス若しくは炭酸ガスを充填した包装袋内にパッケージされた保存花粉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40703(P2009−40703A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205396(P2007−205396)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 園芸学会平成19年度春季大会にて発表 発表日:平成19年3月24日 開催日:平成19年3月24日〜平成19年3月25日 講演番号:1aF野06 刊行物名:園芸学研究 第6巻 別冊1 −2007− (園芸学会平成19年度春季大会研究発表要旨) 要旨集発行日:平成19年3月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(504155695)ケイワン株式会社 (1)
【出願人】(503316112)鳥取中央農業協同組合 (1)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】