説明

花粉の発芽阻害剤及び花粉の発芽阻害方法

【課題】カンキツ等の果実の種子混入を抑止し、商品性の低下を防ぐこと。
【解決手段】ギ酸塩の水溶液を果樹の花に散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は花粉の発芽を阻害する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中晩生のカンキツは種子が混入する品種が多く、商品性を低下させる大きな要因となっている。また、種子が果実の商品性を低下させるのはカンキツに限ったことではない。
例えば花粉発生を抑制すれば種子の生成を抑制できると予測でき、特開平6−48905号公報(特許文献1)には、F1種子を効率的に生産するために化学的不稔剤を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−48905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は果樹園での利用に適するものではなく、果樹農家において簡単にカンキツの種子混入を抑制できる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に係る発明は、水溶性のギ酸塩を有効成分とする花粉の発芽阻害剤を要旨とする。
また請求項3に係る発明は、ギ酸塩の水溶液を果樹の花に散布することを特徴とする花粉の発芽阻害方法である。
【0006】
請求項1、3の発明に使用するギ酸塩としてはギ酸カルシウム又はギ酸ナトリウムが好ましい。
また、水溶液とした場合の希釈率は、200倍以下(ギ酸塩の質量濃度が0.5%以上)が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[試験1]
‘はるか’(品種名)の開花直前の花蕾を採取し、開葯した花粉をn−ヘキサンで純花粉に精製した。ショ糖10%、寒天1%にギ酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムをそれぞれ1.0%、0.5%、0.2%になるように調製した培地に花粉を散布し、25℃で16時間静置後、花粉の発芽率を調査した。また、24時間静置後、花粉管長を測定した。対照として、ショ糖、寒天のみの培地を供試した。
[試験2]
‘せとか’、‘天草’、‘晩白柚’、‘はるか’及び‘はるみ’の花粉を供試し、ショ糖10%、寒天1%にギ酸カルシウムの濃度を変えて添加した培地上に花粉を散布し、25℃で16時間静置後、花粉の発芽率を調査した。
[試験3]
‘はるか’から採取した花粉を供試し、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを調整したショ糖10%、寒天1%の培地に散布し、25℃で16時間静置後、花粉の発芽率を調査した。
[結果および考察]
試験1:花粉の発芽はギ酸カルシウムおよびギ酸ナトリウムを含む培地で強く抑制され、それぞれ1.0%および0.5%の濃度ではまったく発芽が認められなかった(表1)。0.2%では発芽はみられたものの発芽率は低く、花粉管の伸長も短かった。炭酸カルシウムは花粉発芽率、花粉管長とも無処理と同程度であり、影響は認められなかった。塩化カルシウムは高濃度で花粉の発芽や花粉管の伸長を阻害したが、その程度はギ酸を含む塩類よりも低かった。
【0008】
【表1】

試験2:花粉発芽率はいずれの品種でもギ酸カルシウムの濃度が100倍では花粉の発芽はまったくみられなかった(表2)。また、濃度を変えた‘はるか’と‘晩白柚’では濃度が濃くなるにつれて花粉発芽率が低下した。なお、花粉発芽率は品種により差が認められ、‘はるか’が最も高く、‘晩白柚’および‘せとか’が低かった。
【0009】
【表2】

試験3:培地のpHが低く酸性が強いほど花粉発芽率が低く、pHが5.0以上では発芽率に大きな差はみられなかった(データは略)。
【0010】
以上のことから、ギ酸塩はカンキツの花粉の発芽抑制や花粉管の伸長阻害に高い効果があると考えられた。また、その濃度が200倍以上ではほとんど花粉が発芽しないことが明らかとなった。さらにpHが5.0以上では花粉発芽率に差がみられないことから、ギ酸塩の発芽抑制効果はpHに由来するものではないと思われる。
【0011】
試験1〜3により、請求項1、2に記載の発芽阻害剤には花粉の発芽を阻害する効能があることが確認できた。そして、請求項3、4に記載の発芽阻害方法を実施すれば、果樹の花粉の発芽を阻害することができる。これにより、カンキツ等の果樹(その花)に本発明の発芽阻害剤を散布すれば(すなわち発芽阻害方法を実施すれば)、種子の混入による商品性の低下を抑止できる。しかも、ギ酸塩の水溶液を果樹の花に散布するという簡単な施用作業で済むから、果樹園での利用は容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のギ酸塩を有効成分とする花粉の発芽阻害剤。
【請求項2】
前記ギ酸塩がギ酸カルシウム又はギ酸ナトリウムである
ことを特徴とする花粉の発芽阻害剤。
【請求項3】
ギ酸塩の水溶液を果樹の花に散布することを特徴とする花粉の発芽阻害方法。
【請求項4】
前記ギ酸塩がギ酸カルシウム又はギ酸ナトリウムであることを特徴とする花粉の発芽阻害方法。

【公開番号】特開2010−215583(P2010−215583A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65927(P2009−65927)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000167897)晃栄化学工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】