説明

芳香剤

【課題】剤型中に分散させた光沢付与剤や機能性素材などの装飾粒状物に移動及び復帰性を持たせ、使用者の意図によって大きく揺り動かすことができるようにして美観、意外性やファッション性を通じて商品価値を一層高め、なおかつ市販の商品に求められる流通時および使用時の取り扱い性や安全性を備えた芳香剤を提供することである。
【解決手段】上層又は下層のゲルの少なくとも一方に香料が含有されている上下二層ゲル構造の容器に充填されてなる芳香剤であって、下層を構成するゲルの柔軟性は容器を振動させた場合にゲル中に分散含有される装飾粒状物が移動でき容器を静止させた場合に装飾粒状物が元位置に復帰できる程度であり、上層を構成するゲルは下層のゲルよりも硬く、かつ上層のゲル強度が下層のゲル強度の100%超であることを特徴とする芳香剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤に関する。さらに詳しくは、美観に優れ、室内、トイレや自動車の車内で使用されるゲル芳香剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室内やトイレ、自動車の車内等において、香りの拡散を目的とした芳香剤が使われている。芳香剤の剤型は液体、固形、ゲル等に大別できるが、透明、二層、粒状物の分散、など剤型の外観は美麗さを高めたり、目的の機能をイメージさせたりする上で極めて重要な要素である。近年では、芳香剤も、芳香機能だけでなく、香りによるリラックス感や、リフレッシュ感を目的とした製品が増加し、剤型の外観は、香りの心理的な効果を高める上で密接な関わりを有している。
【0003】
このような状況のなかで、光沢付与剤や機能性素材などの粒状物に、振動させた場合に移動し静止させた場合に元位置に復帰する移動性や復帰性を持たせ、使用者の意図によって大きく揺り動かすことができるようにすることは、商品価値を高める上で効果が高いと考えられ、光沢付与剤のラメやパール剤を分散させたゾル状の化粧品が数多く市販されているが、芳香剤そのものでは未だ知られていない。
【0004】
例えば特許文献1では、実質的に水に不溶の機能性成分を均一に分散させたゲル化組成物が開示されている。しかしながら特許文献1の発明のゲル化組成物は、機能性成分をゲル中に分散した状態で固化することが特徴とされており、結果、固定された機能性素材を揺り動かすことはできない。
【0005】
また、脂肪酸アルミニウムなどをゲル化剤として使用した弾性のあるゲル芳香剤は、衝撃を与えるとゲルの振動により復帰性を得られるが、移動性はなく使用者の嗜好を得るほどに粒状物を揺り動かすことはできない。
【0006】
流動性のあるゾル中に粒状物を分散させて移動性を持たせた場合、設置して使用する芳香剤では転倒時に中身がこぼれたり、流通の際の運搬時の振動によりシールしているフタ部に中身が付着することにより、開封時に手についてしまう問題がある。
【0007】
また、特許文献2では、流動性のある液状またはゾル状で構成される流動下層とフタの役割のゲル上層からなる二層の芳香消臭剤組成物が開示されている。しかしながら特許文献2の発明の芳香消臭剤組成物は、流動下層に粒状物を分散させ移動性を持たせることが出来るが、復帰性を持たせることはできない。さらに、使用開始後に下層の流動性のためにフタの役割をしている上層ゲルが下層に埋没して、美観を大きく損なう。また、埋没を防ぐために流動下層に十分な粘度を持たせた場合は、分散させた粒状物は十分に移動させることができない。
【特許文献1】特開2005−73926号公報
【特許文献2】特開2003−102822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を解決し、剤型中に分散させた光沢付与剤や機能性素材などの装飾粒状物に移動及び復帰性を持たせ、使用者の意図によって大きく揺り動かすことができるようにして美観、意外性やファッション性を通じて商品価値を一層高め、なおかつ市販の商品に求められる流通時および使用時の取り扱い性や安全性を備えた芳香剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、それぞれ異なる性質をもつ特定のゲルを組み合わせた芳香剤が、上記問題点を解決することを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、上層又は下層のゲルの少なくとも一方に香料が含有されている上下二層ゲル構造の容器に充填されてなる芳香剤であって、下層を構成するゲルの柔軟性は容器を振動させた場合にゲル中に分散含有される装飾粒状物が移動でき容器を静止させた場合に装飾粒状物が元位置に復帰できる程度であり、上層を構成するゲルは下層のゲルよりも硬く、かつ上層のゲル強度が下層のゲル強度の100%超であることを特徴とする芳香剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の芳香剤の下層を構成する柔軟性を持つゲルは、そのまま単独で使用するとゲルが非常に柔らかい場合はゲルの変形によって容器の形状によっては中身が漏れることがある。その点、本発明の芳香剤は上層の硬いゲル層が、下層の柔軟なゲル層の流出を抑えるので、使用中や流通時の取り扱い性や安全性に優れており、柔らかいゲルを単独で使用した場合よりも優れている。
しかも下層は流動性のある液体またはゾルとは異なり上層のゲル層を埋没させないので、使用時の美観、意外性やファッション性に優れる。
【0012】
本発明の下層を構成するゲルは柔軟性が高すぎて容器から流出の懸念があり従来の芳香剤では使用できなかった材料であるが、こうした欠点を逆手に利用したものである。つまりゲルの特質(高分子溶質が相互作用で運動性を失った構造をもつ固化した状態)を備えるので添加された装飾粒状物は、硬いゲル中とは異なり、振動に応じて大きく移動できるが静止すると元の位置に戻る。こうした動態はゾル中の粒状物とも異なる(ゾル中では元位置に戻らない)。しかも本発明では時間が経過しても粒状物が沈降することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
〔A〕下層のゲル層
本発明において下層のゲル層は、後述する装飾粒状物が分散含有されており、容器を振動させた場合にその粒状物が移動でき、容器を静止させた場合に元位置に復帰できる、すなわち移動及び復帰できる程度の柔軟性があればよく、公知のゲル化剤、増粘剤または分散安定剤を使用することができる。極性に特に制限はないが、取り扱いやすさや香料の香気発散の持続性等の点から水性ゲルとするのが好ましい。
【0014】
水性のゲル化剤、増粘剤または分散安定剤としてはカラギーナン、寒天、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、キサンタンガム、グアガム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子やカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなどの合成高分子などが挙げられる。
【0015】
含有される粒状物が移動及び復帰できる程度の柔軟性をもつゲルは、これらのゲル化剤、増粘剤や後述するゲル化助剤の種類、濃度、組み合わせなどによって達成される。中でも低添加量でシュードプラスチック性(擬塑性流動)を示すゲル化剤が好ましく、キサンタンガムやネイティブ型ジェランガムが挙げられる。特に好ましくは、高温でのシュードプラスチック性(擬塑性流動)に優れ、かつゲル化温度の高いネイティブ型ジェランガムである。
【0016】
ネイティブ型ジェランガムは、微生物であるSphingomonas elodea(スフィンゴモナス・エロデア)が産出する発酵多糖類である。詳しくは、1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類の、1−3結合したグルコースに1構成単位当たりグリセリル基1残基とアセチル基が平均1/2残基結合したものであり、その1構成単位当たりカルボキシル基1残基を有するものである。
ネイティブ型ジェランガムの商業的に入手可能な製品として、CPケルコ社製の「ケルコゲル(登録商標)LT−100」、「ケルコゲル(登録商標)HM」及び「ケルコゲル(登録商標)HT」などを挙げることができ、このうち「ケルコゲル(登録商標)HT」が透明性の点から好ましい。
【0017】
ここで、ゲル化剤の使用量としては特に制限はないが、ゲル層の合計質量のうち0.2〜1.0質量%、好ましくは、0.2〜0.5質量%である。少なすぎると粒状物を安定に分散させるだけの粘度が得られない問題があり、多すぎると粒状物が固定されて移動及び復帰できる程度の柔軟性を得られないという問題点がある。また、下層のゲル層の透明性は特に限定されるものではないが、装飾粒状物の添加量が少ない場合は透明であるほうが美観に優れ好ましい。
【0018】
またここで、下層のゲル層の柔軟性の目安としてはゲル強度が挙げられる。ゲル強度の大きさに特に制限はないが5〜300g、好ましくは5〜200gである。小さすぎると、ほとんどゾルに近い状態となり、その変形性により上層のゲルが埋没する可能性がある。大きすぎると強固なゲルとなり、装飾粒状物が移動及び復帰できるだけの柔軟性を得られない。
【0019】
さらに、装飾粒状物の移動及び復帰の目安としては、容器に入れた本発明の芳香剤を揺すって振動を与えた場合の、装飾粒状物の移動距離を挙げられる。移動距離の大きさに特に制限はないが、容器の振動で1mm以上移動した後、容器の静止で同距離移動して元の位置に復帰する、好ましくは3mm以上移動及び復帰する、つまり反復することである。反復距離が1mmよりも小さいと、多くのゲルに共通した現象である、ゲルの弾性による動きと区別がつかず、使用者の嗜好を得るほどに装飾粒状物を揺り動かすことにはならない。すなわち、商品に対する魅力や期待感が低下する。
【0020】
〔B〕上層のゲル層
本発明において上層のゲル層は、柔軟性に富んだ下層ゲルが容器外へ流出することを防止するために、下層のゲル層よりも硬いゲルであることが求められ、下層のゲル層と同様に公知のゲル化剤、増粘剤または分散安定剤を使用することができる。
下層のゲル層よりも硬くすることは、これらのゲル化剤、増粘剤や後述するゲル化助剤の種類、濃度、組み合わせなどによって達成される。上層のゲル層は公知のゲル芳香剤の形態をとっても良く、例えば脱アシル型ジェランガムを使用したゲルは安定性とゲル強度の点から好ましい。
かかる脱アシル型ジェランガムは、ネイティブ型ジェランガムの1−3結合したグルコースに存在するアセチル基とグリセリル基を除去した以外はネイティブ型と同様である。
商業的に入手可能な製品として、CPケルコ社製の「ケルコゲル(登録商標)」が挙げられる。
【0021】
ここで、ゲル化剤の使用量としては特に制限はないが、ゲル層の合計質量のうち0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%である。少なすぎると下層の柔軟なゲルの流出を抑えられない問題があり、多すぎると残渣が増えて見栄えが悪いという問題点がある。
また、上層のゲル層の外観は特に限定されるものではないが、例えば下層と同様の粒状物を分散させたり同じ色をつけたりして境界面を判り難くしたゲルや、白濁させたり下層と違う色をつけたりして境界面を判り易くしたゲルなどが挙げられる。
【0022】
またここで、上層のゲル層の硬さの目安としてはゲル強度が挙げられる。ゲル強度の大きさに特に制限はないが、下層のゲル層のゲル強度と比較して100%超、好ましくは200%以上の相対的なゲル強度が求められる。
相対的ゲル強度が100%以下では下層のゲル層よりも早く変形し、容器が転倒した際に速やかに上層のゲルが容器外に流出する問題点がある。
また、200%以上を好ましいとした理由は、100〜200%でも長時間転倒時に上層のゲルが変形し下層の流出が発生する可能性や下層ゲル層の水分を吸い上げて上層ゲルの表面に離水が発生する可能性があるためである。
【0023】
本発明における上下二層ゲル構造の芳香剤は、上層と下層の体積比は特に制限されないが、1対100から100対1、好ましくは、1対100から1対1、より好ましくは、1対50から1対2である。外観に優れる下層のゲル層が多い方が、商品の付加価値として望ましい。
【0024】
さらに、上層のゲルの表面積が、容器の開口部の面積に対して110%以上、特に120%以上であることが好ましい。上層のゲルが容器から脱離することを防止するためである。
要するに、上層のゲルが接触する胴部に比べ開口部がすぼんだ形状の容器に充填することが好ましい。
【0025】
〔C〕添加成分
上層ゲルと下層ゲルにはゲル化剤の他、以下の成分が添加される。
(1)香 料
本発明の芳香剤において使用される香料などの揮発性物質は、上層または下層のどちらか一方に含有されていてもよく、又は両方に含有されていても良い。
また両方に香料が含有される場合は、上層と下層で異なる種類の香料でもよく、又は同じ香料でも良い。その場合の香料の濃度は、上層と下層で異なっていてもよく、又は同じでもよい。
【0026】
本発明に用いられる香料は、リモネンなどのモノテルペン系炭化水素、アビエチンなどのジテルペン炭化水素、パラサイメンなどの芳香族炭化水素、リナロールなどのテルペン系アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、シトラールなどのテルペン系アルデヒド、メントンなどのテルペン系ケトン、p−メチルアセトフェノンなどの芳香族ケトン、ジフェニルエーテルなどのフェノール誘導体、デカナールなどの脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、シトラールジメチルアセタールなどのアセタール類、イソアミルアセテート、ギ酸ゲラニル、安息香酸メチルなどの脂肪族、芳香族酸カルボン酸エステル、α、β、γ−イオノンなどの脂環式ケトン、ムスコンなどの大環状ケトン、ローズオキサイドなどの環状エーテル、インドールなどの複素環式化合物、γ−へプチルブチロラクトンなどのラクトン類、レモン油、オレンジ油、ライム油、ユーカリ油、ヒノキ油、ヒバ油、パイン油、ベルガモット油、ペパーミント油、テレピン油、ホー油、ラベンダー油、ジャスミン油、バニラなどの精油などが任意に用いられるが、上記に限定されるものではない。
【0027】
香料の素材の選択は必要とする香りの種類や質、用途などで適宜選択されるもので、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
香料の配合量は、必要に応じて適宜選定されるが、諸成分を含むゲル層全体の0.1〜10質量%、好ましくは1.0〜6.0質量%である。0.1質量%未満では、揮発性物質の揮発が十分に行われず、満足する結果を得ることができない。また、10質量%を超えるとゲル強度低下の原因となるので好ましくない。
【0028】
(2)装飾粒状物
本発明の芳香剤の下層のゲル層に分散されて含有される装飾粒状物は、装飾性を付与して商品価値を高めるために用いられる。また、粒状物であれば装飾性と共に他の機能性、例えば脱臭性を付与する粒状物であってもよい。
装飾粒状物は、下層のゲルと混ざり合わない性質のものならば特に制限されず固体やゲル、液体などの形状をとる。
例えば下層が水性のゲルの場合、実質的に水に不溶の成分が選択され、また例えば下層が油性のゲルの場合、実質的に油に不溶の成分が選択される。
【0029】
装飾性を付与する粒状物として、例えば、ラメ、光輝性顔料、色彩を施したマイクロカプセル若しくはゼラチンカプセル、粉砕した野菜や果物、香辛料、胡麻等の種子、パルプ、ファイバー、金属片、プラスチック成型物、フィルム等が挙げられる。
【0030】
また、装飾性と共に脱臭性を付与する粒状物として、活性炭、備長炭等の炭、ゼオライト、セピオライト、銀担持ゼオライト等のアルミノケイ酸塩、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、シリカゲル、活性アルミナ、活性白土等の吸着剤が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上を混合して用いることができる。
さらに、装飾粒状物を上層のゲル層に用いることもできる。
【0031】
ここで、装飾粒状物の形状、粒径、比重等は、本発明の効果を妨げなければ、特に制限されるものではなく、形状としては、粉末状、顆粒状、球状、楕円状、破砕状、角状、多角形状、破片状又は液滴状のいずれであってもよい。
この粒状物の粒径は、平均粒径0.1μm〜5cmの範囲を挙げることができる。好ましくは0.5μm〜5mmの範囲、より好ましくは1μm〜3mmの範囲である。
【0032】
さらに、粒状物の比重は、0.01〜10g/cm3の範囲を挙げることができる。好ましくは0.1〜5g/cm3の範囲であり、より好ましくは0.5〜4g/cm3である。さらに、芳香剤全体に対する粒状物の含有量は、配合した目的を達成する量であればよく、特に制限されない。
【0033】
(3)界面活性剤
本発明の芳香剤が水性ゲルの場合、香料やその他の油溶性の成分を界面活性剤を用いて可溶化させて含有させることができる。
界面活性剤の種類としては特に制限はないが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などに代表される可溶化、乳化、分散の目的で使用される非イオン性界面活性剤が好ましく、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
また、非イオン性界面活性剤の他に、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を併用してもよい。
【0034】
(4)ゲル化助剤
本発明の芳香剤の調製に際しては、必要に応じて、ゲル化助剤としてカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、アルミニウム等の金属イオン;コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、フタル酸、アスパラギン酸等の有機酸若しくはそれらの塩;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸若しくはそれらの塩等を含有させることができる。
【0035】
具体的には、乳酸カルシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等が上げられる。
これらのゲル化助剤の種類やその含有量は、上層及び/または下層のゲルの所望のゲル強度に応じて適宜選択することができ、使用するゲル化助剤の種類によっても異なるが、通常ゲル全体に対して0〜3%の範囲で使用される。
【0036】
(5)溶 媒
本発明の芳香剤の調製に際しては、さらに必要に応じて揮発性成分の保留目的、揮発性成分の可溶化助剤目的、及びゲル化剤、増粘剤などの一次分散剤などのために溶媒を含有させることができる。
水溶性溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
油性溶媒としては、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、シリコーン油などが挙げられる。
【0037】
(6)その他の成分
さらに、本発明の芳香剤には、芳香剤の付加価値を高める成分として消臭剤、防虫剤、殺虫剤、忌避剤、誘引剤、フェロモン、殺菌剤、抗菌剤、防黴剤、染料、顔料などや、芳香剤自身の安定性を高める成分として防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、キレート剤などを含有させることができる。これらは、医薬品分野、医薬部外品分野、香粧品分野、食品分野などにおいて通常使用されるものを任意に用いることができる。
【0038】
〔D〕二層ゲル構造芳香剤の製造方法
本発明の上下二層ゲル構造の芳香剤は、上述した異なる二種類のゲルを別々に1つの容器に充填することにより得られる。それぞれのゲル層が互いに混ざり合わない方法であればよく、いかなる充填の手段や温度等の条件を選択することができる。
【0039】
本発明の芳香剤の製造方法は特に制限されないが、その一例としては、以下の製造方法が挙げられる。
下層のゲルと上層のゲルを、それぞれ別の釜などの製造設備で調製する。まずは下層のゲルを加熱攪拌し、加温下液状もしくはゾル状の状態で容器に充填し、放冷などによりゲル化せしめる。
その後、上層のゲルを同様に、液状もしくはゾル状の状態で容器に充填し、放冷などによりゲル化せしめ上下二層のゲル芳香剤を得る。この場合、製法において、好ましくは下層のゲルが、上層のゲルの熱により、再溶解などを起こし混ざり合わないようにすることである。
【0040】
上記の場合の製法において、さらに好ましくは、下層のゲルがネイティブ型ジェランガムをゲル化剤として使用した水性ゲルの場合である。ネイティブ型ジェランガムは高温でのシュードプラスチック性(擬塑性流動)に優れており、これによりゲル化温度よりも高温で充填しても粒状物が浮遊及び/または沈積することがない。
【0041】
またネイティブ型ジェランガムはゲル化温度が高いので、上層のゲル層のゲル化温度の許容範囲が広がる。例えば、下層ゲル中のネイティブ型ジェランガムの含有量が0.2質量%以上であるときのゲル化温度は50℃以上である。その結果、上層のゲルとして、そのゲル化温度が45℃程度であるカラギーナンや脱アシル型ジェランガム(ゲル化助剤として塩化カルシウム)のゲル化剤を選択することが可能となる。
【0042】
充填される容器の材質として、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ステンレス、アルミ、陶器などが挙げられるが、容器外側から充填された芳香剤が見え、耐衝撃性、耐薬品性が高いガラス、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。容器の形状として、静置したときに容易に転倒しない形状であれば何ら制限はない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例等を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。なお、下記の処方において%とは、特に指定しない限り、質量%を意味するものとする。
【0044】
〔実施例1〜3及び比較例1〜4〕
表1の記載の処方に従って、芳香剤を調製した。具体的には開口部面積13cm2、胴部面積18cm2、高さ14cmの円筒状容器に、まず下層ゲルを表中の対応する製法A又はBで調製し、80gを充填した。その後、上層ゲルを表中の対応する製法A〜Dで調製し、下層ゲルの上に20gを充填し、実施例1〜3及び比較例1〜4の芳香剤100gを得た。
【0045】
〔製法A〕
プロピレングリコール中に分散させたネイティブ型ジェランガムにイオン交換水を加えた後、90℃以上に加熱してネイティブ型ジェランガムを溶解し、70℃に冷却した後に、その他成分を加温したのちに加え、撹拌しながら各成分が均一になるように分散させた。これを60℃以下に冷却し、ゲル化していない状態で容器に充填し、室温下で自然冷却させて、粒状物が均一に分散した各種のゲル芳香剤を調製した。
【0046】
〔製法B〕
カルボキシビニルポリマーを撹拌したイオン交換水に少しずつ投じて、均一に分散させ、撹拌を続けて溶解させた後に、その他成分を加え、撹拌しながら各成分が系内で均一になるように分散させた。これにトリエタノールアミンを加えて中和した後に容器に充填し、減圧下で脱泡させて、粒状物が均一に分散した各種のゲル芳香剤を調製した。
【0047】
〔製法C〕
プロピレングリコール中に分散させた脱アシル型ジェランガムにイオン交換水を加えた後、90℃以上に加熱して脱アシル型ジェランガムを溶解し、70℃に冷却した後に、その他成分を加温したのちに加え、撹拌しながら各成分が均一になるように分散させた。これを50℃に冷却し、ゲル化していない状態で容器に充填し、室温下で自然冷却させて、各種のゲル芳香剤を調製した。
【0048】
〔製法D〕
プロピレングリコール中に分散させたネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムにイオン交換水を加えた後、90℃以上に加熱してネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムを溶解し、70℃に冷却した後に、その他成分を加温したのちに加え、撹拌しながら各成分が均一になるように分散させた。これを50℃に冷却し、ゲル化していない状態で容器に充填し、室温下で自然冷却させて、粒状物が均一に分散した各種のゲル芳香剤を調製した。
【0049】
本発明のゲル強度は、後述の測定条件で試料にかかる荷重を経時計測し、試料の破断などによりその荷重が減じた時点の荷重数値(g)、すなわち荷重を縦軸に測定軸の深度を横軸にしてグラフ化した際に凸型のピークとして観測される時点の荷重数値(g)とした。液体やゾルの場合は、測定軸の深度が大きくなるにつれて荷重は増大するが、試料の破断などが発生しないためにゲル強度を得ることができない。
【0050】
<測定条件>
測定器:レオメーター CR−500DX(株式会社サン科学製)
測定速度:60mm/分
定深度:試料表面より25mm
測定軸:直径1cm感圧軸
検体:開口部面積5.7cm2、胴部面積6.6cm2、高さ5.3cmの円筒状容器に試料を20g充填したもの
【0051】
【表1】

【0052】
〔比較例5〕
プロピレングリコール:3g中に分散させたネイティブ型ジェランガム:0.1g及び脱アシル型ジェランガム:0.6gにイオン交換水:89.1gを加えた後、90℃以上に加熱してネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムを溶解し、70℃に冷却した後に、POE硬化ヒマシ油:4g、POEアルキルエーテル:1g、香料(フローラル香料(小川香料株式会社製)):2g及び粒状物(ラメ):0.2gを加え、撹拌しながら各成分が均一になるように分散させた。
これを50℃に冷却し、ゲル化していない状態で開口部面積13cm2、胴部面積18cm2、高さ14cmの円筒状容器に充填し、室温下で自然冷却させて、粒状物が均一に分散したゲル芳香剤100gを調製した。
【0053】
〔比較例6〕
BHT:0.5gを香料(シトラス香料(小川香料株式会社製)):5g、リモネン:50g及びイソパラフィン系溶剤(IPソルベント1620(出光興産株式会社製)):41.3g中に溶解し、その後、粒状物(ラメ):0.2g、オクチル酸アルミニウム:2g、ステアリン酸アルミニウム:1gを添加し、70℃で加熱分散させた。これをゲル化してない状態で開口部面積13cm2、胴部面積18cm2、高さ14cmの円筒状容器に充填し、室温下で自然冷却させて、装飾粒状物が均一に分散したゲル芳香剤100gを調製した。
【0054】
〔芳香剤の評価試験〕
(1)装飾粒状物の移動及び復帰性
これら芳香剤について、粒状物が移動及び復帰できるだけの柔軟性を持っているかどうかの評価を行った。
具体的には粒状物の移動距離の測定と粒状物の移動及び復帰性の評価を行った。
粒状物の移動距離は、容器を回転台(EYELA製、MINI D.C STIRRER)に設置、250rpmで5秒間回転させ、5秒後に回転停止させた直後の装飾粒状物の移動距離(mm)を、容器手前に設置したスケールから測定した。
粒状物の移動及び復帰性は、回転停止直後の粒状物が動く状態を下記の基準にしたがって目視で評価したものである。結果を表2に示す。
【0055】
粒状物の移動距離が大きい、または移動及び復帰性が良い評価であることは、使用者の意図によって粒状物を大きく揺り動かすことができるので、商品価値がより高いといえる。
なお、実施例1〜3の芳香剤の下層のゲルに添加されたラメが沈降することもなく、層内での高さ位置に変化はなかった。
(粒状物の移動及び復帰性の評価)
◎:粒状物が振幅3mm以上で移動と復帰を繰り返す
○:粒状物が振幅2mm以上で移動と復帰を繰り返す
△:粒状物が振幅2mm未満で移動と復帰を繰り返す
×:粒状物が移動しない、または移動しただけで復帰しない
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示す結果から明らかなように、下層ゲルのゲル化剤として、シュードプラスチック性を示すゲル化剤であるネイティブ型ジェランガムを使用すると、粒状物の移動距離が大きく、さらに移動及び復帰性が良い芳香剤を調製できた。
比較例5は特許文献1の技術であり、同じくネイティブ型ジェランガムを使用したが、脱アシル型ジェランガムのゲル化により粒状物が固定されてしまった。
【0058】
また比較例3と4は粒状物が移動したが、下層がゾルであるために復帰性を得ることができなかった。
さらに比較例6では弾性のあるゲル芳香剤を得られ、衝撃を与えるとゲルの振動により少々の移動及び復帰性を得られるが、移動距離は小さく使用者の嗜好を得るほどに粒状物を揺り動かすことはできなかった。
【0059】
(2)転倒時の非流出性
さらに、これら芳香剤について、転倒時の非流出性の評価を行った。具体的には、容器を横倒しにしたときに、中身が容器外へ流出するかどうかを、下記の基準にしたがって目視で評価した。また、流出の有無は、上下ゲル層のお互いの硬軟に関連性があると考えられ、下層のゲル強度に対する上層のゲル強度の相対比を、上層の相対ゲル強度(%)として記録した。結果を表2に示す。
流通時および使用時の取り扱い性及び安全性を考慮すれば、流出が起らない芳香剤が望ましい。
【0060】
(転倒時の非流出性の評価)
開口部の面積が胴部よりも狭い容器に入れたときに、横倒しにして流出するかどうかを下記の基準で評価した。
◎:内容物の形状が変わらず、流出しない
○:内容物の形状は変形するが、容器から流出しない
×:内容物が流出する
【0061】
表2に示す結果から明らかなように、上層のゲル強度が下層のゲル強度の100%超であるときに、転倒時の中身の流出を防ぐことができた。比較例1は100%以下であったために、中身が流出した。
比較例2は上層がゲルではなく、ゾルであったために正確なゲル強度を得ることが出来なかったが、上層が下層よりも柔らかい層であったために流出した。
また、比較例3及び4は特許文献2の技術であり、中身の流出を防ぐことができたが下層はゲルではなく、ゾルであったために正確なゲル強度を得ることが出来なかった。
さらに比較例5は単層のゲルで、流出が起らなかったが、同じく単層ゲルである比較例6は、内容物が流出した。
【0062】
(3)使用時の外観
さらに、これら芳香剤について、使用時の外観の評価を行った。具体的には使用開始2週間後の外観を、下記の基準にしたがって目視で評価した。結果を表2に示す。ゲルの表面に離水が起ったり、二層ゲルの場合は上層が下層に埋没したりすることは商品の価値を低下させることに繋がる。
【0063】
(使用時の外観の評価)
◎:上層ゲルの離水や埋没がない
○:上層ゲルがわずかに離水するが、埋没しない
×:上層ゲルが下層ゲルの埋没する、または離水が多い
【0064】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の芳香剤は使用時の外観に優れることがわかる。比較例1〜4は上層のゲルが下層のゲルに埋没し見栄えが悪くなった。また、比較例5及び6は単層のゲルで、外観の変化は良好であった。
【0065】
(4)総合評価
以上の、(1)装飾粒状物の移動及び復帰性、(2)転倒時の非流出性、(3)使用時の外観の各評価より、下記の基準にしたがって総合評価を行った。結果を表2に示す。これらの各評価が良好である場合、剤型中に分散させた光沢付与剤や機能性素材などの粒状物に移動性や復帰性を持たせ、なおかつ市販の商品として求められる流通時および使用時の取り扱い性及び安全性を備えた芳香剤であると言える。
【0066】
(総合評価)
◎:各評価結果が◎のみである
○:各評価結果が◎または○のみである
△:各評価結果に△が一個以上ある
×:各評価結果に×が一個以上ある
【0067】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の芳香剤だけが各評価でよい結果を得ることができた。すなわち、本発明の芳香剤は、剤型中に分散させた光沢付与剤や機能性素材などの粒状物に移動性や復帰性を持たせ、なおかつ市販の商品として求められる流通時および使用時の取り扱い性及び安全性を備えているものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の芳香剤によれば、剤型中に分散させた光沢付与剤や機能性素材などの粒状物に移動性及び復帰性を持たせ、使用者の意図によって大きく揺り動かすことができるようにし、なおかつ市販の商品として求められる流通時および使用時の取り扱い性及び安全性を備えた芳香剤製品を得ることが出来る。
これにより外観の美麗さを求められる芳香剤市場において、これまでにない美観をもちながら、分散させた粒状物の機能を発揮するという付加価値の高い芳香剤製品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層又は下層のゲルの少なくとも一方に香料が含有されている上下二層ゲル構造の容器に充填されてなる芳香剤であって、下層を構成するゲルの柔軟性は容器を振動させた場合にゲル中に分散含有される装飾粒状物が移動でき容器を静止させた場合に装飾粒状物が元位置に復帰できる程度であり、上層を構成するゲルは下層のゲルよりも硬く、かつ上層のゲル強度が下層のゲル強度の100%超であることを特徴とする芳香剤。
【請求項2】
下層のゲルがシュードプラスチック性を示すゲル化剤を含有する請求項1記載の芳香剤。
【請求項3】
下層のゲルが水を含有する水性ゲルである請求項1又は2に記載の芳香剤。
【請求項4】
下層のゲルは、容器を振動させた場合に装飾粒状物の移動距離が2mm以上である程度の柔軟性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項5】
下層のゲルは、容器を振動させた場合に装飾粒状物の移動距離が3mm以上である程度の柔軟性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項6】
下層のゲルがネイティブ型ジェランガムを含むことを特徴とし、その含有量が0.2〜1.0質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項7】
下層のゲルがネイティブ型ジェランガムを含むことを特徴とし、その含有量が0.2〜0.5質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項8】
下層のゲルが透明である請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項9】
上層のゲルと下層のゲルとの体積比が1対100から100対1の範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項10】
上層のゲルと下層のゲルとの体積比が1対100から1対1の範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の芳香剤。
【請求項11】
上層のゲルの表面積が、容器の開口部の面積に対して110%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の芳香剤。

【公開番号】特開2009−50370(P2009−50370A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218336(P2007−218336)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】