説明

芳香族ジフルオロ酢酸エステルの製造方法

【課題】さらに低コストで且つ収率良く、ジフルオロメチレン基を有する化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、電子求引基含有ヨードベンゼンとα−シリルジフルオロ酢酸エステルとを金属ハロゲン化物の存在下で反応させることを含む、芳香族ジフルオロ酢酸エステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロ酢酸エステル基を有する芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジフルオロメチレン基を有する化合物は特有の生物学的活性を持つことからその合成法が注目されている。これまで、カルボニル基、チオカルボニル基またはチオセタール基にDAST(ジメチルアミノサルファトリフルオライド)を反応させてジフルオロメチレン基に変換する方法(DAST法)や、ハロジフルオロメチル基を脱ハロゲン化することによりジフルオロメチレン基にする方法(例えば熊懐法)もよく知られている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、DAST法の場合は、高コストであり、入手や取り扱いが容易ではない反応剤及び基質を使用する等の問題があり、熊懐法の場合は、反応完結のために触媒としての銅原子を2等量要するため高コストである等の問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Sato et al., Chem. Pharm. Bull., vol. 47 p. 1013 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、さらに低コストで且つ収率良く、ジフルオロメチレン基を有する化合物を製造する方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたものであり、以下に示す製造方法等、すなわち、電子求引基(極性官能基)を有するヨードベンゼンとα−シリルジフルオロ酢酸エステルとを金属ハロゲン化物の存在下で反応させる、芳香族ジフルオロ酢酸エステルの製造方法等を提供するものである。
【0007】
(i)下記一般式(1):
【化1】

〔一般式(1)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物と下記一般式(2):
【化2】

〔一般式(2)中、R3は一価の有機基を表し、R4はそれぞれ独立して置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。〕
で表される化合物とを金属ハロゲン化物の存在下で反応させることによる、下記一般式(3):
【化3】

〔一般式(3)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表し、R3は一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物の製造方法。
【0008】
上記(i)の製造方法において、前記金属ハロゲン化物としては、例えば、フッ化カリウム又はヨウ化銅が挙げられる。
【0009】
(ii)上記(i)の製造方法により得られる化合物を加水分解することによる、下記一般式(4):
【化4】

〔一般式(4)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物の製造方法。
【0010】
上記(i)及び(ii)の製造方法において、R1としては、例えば、オルト位及び/又はメタ位の結合基が挙げられ、具体的には、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいアルキル酢酸エステル基、置換されていてもよいアルキルカルボニル基、ハロゲン基、及び置換されていてもよいフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0011】
また、R2としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
さらに、R3としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0012】
上記(i)の製造方法において、一般式(2)で表される化合物としては、例えば、下記一般式(5):
【化5】

〔一般式(5)中、R3は一価の有機基を表し、Xはハロゲン基(例えば、塩素原子)を表す。〕
で表される化合物と下記一般式(6):
【化6】

〔一般式(6)中、R4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、Xはハロゲン基(例えば、塩素原子)を表す。〕
で表される化合物とを反応させて得られる化合物が挙げられる。ここで、当該反応としては、例えば、マグネシウムの存在下で行われる反応が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、さらに低コストで且つ収率良く、ジフルオロメチレン基を有する化合物を製造する方法を提供することができる。本発明の方法は、例えば、芳香族ジフルオロ酢酸エステルや芳香族ジフルオロ酢酸を、低コストかつ高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0015】
本発明に係る芳香族ジフルオロ酢酸エステルの製造方法(以下、本発明の製造方法ということがある。)は、前述した通り、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを、金属ハロゲン化物の存在下で反応させることによる、一般式(3)で表される化合物(すなわち芳香族ジフルオロ酢酸エステル)の製造方法である。
【0016】
ここで、一般式(1):
【化7】

で表される化合物中、R1は、それぞれ独立して、電子求引基を表す。電子求引基としては、限定はされないが、例えば、−CN、−NO2、−C(O)OC25、COCH3、−Br及び−Ph(フェニル基)等が好ましく挙げられ、中でも、−CN基及び−C(O)OC25がより好ましい。
【0017】
また、R1は、限定はされないが、ヨードベンゼン環のオルト位及び/又はメタ位の炭素原子に結合している基であることが好ましい。ヨードベンゼン環に結合するR1の数(m)は、1〜3の整数であり、好ましくは1である。具体的には、ヨードベンゼン環のパラ位に−CN、−NO2、−C(O)OC25、−COCH3、−Br又は−Phが結合したもの、及びヨードベンゼン環のオルト位に−NO2が結合したものが、好ましい態様として挙げられる。
【0018】
一般式(1)中、R2は、それぞれ独立して、一価の有機基を表す。一価の有機基としては、限定はされないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基及びアルキニル基等が好ましく挙げられ、中でもアルキル基がより好ましい。R2としてのアルキル基は、限定はされないが、炭素数1〜16の直鎖又は分枝のアルキル基であることが好ましく、当該アルキル基はその任意の炭素原子上に、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)及びアリール基が任意の数かつ任意の組み合わせで置換されたものであってもよい。ヨードベンゼン環に結合するR2の数(n)は、0〜(5−m)の整数であり、好ましくは0〜2の整数である。ヨードベンゼン環にR2が結合している場合、限定はされないが、メタ位に結合していることが好ましい。
【0019】
一般式(2):
【化8】

で表される化合物中、R3は、一価の有機基を表す。一価の有機基としては、限定はされないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基及びアルキニル基等が好ましく挙げられ、中でもアルキル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。R3としてのアルキル基は、限定はされないが、炭素数1〜16の直鎖又は分枝のアルキル基であることが好ましく、当該アルキル基はその任意の炭素原子上に、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)及びアリール基が任意の数かつ任意の組み合わせで置換されたものであってもよい。
【0020】
一般式(2)中、R4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びフェニル基等が好ましく挙げられ、中でもメチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。なお、当該置換の態様は、限定はされず、任意の数かつ任意の組み合わせによる置換であってもよい。
【0021】
一般式(2)で表される化合物は、例えば、一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物との反応により得ることができる。
【0022】
一般式(5):
【化9】

で表される化合物中、R3は一価の有機基を表し、具体的には、上記一般式(2)について説明した内容が同様に適用できる。また、一般式(5)中、Xはハロゲン基を表し、例えば、Cl、Br、I等が好ましく、より好ましくはCl(塩素原子)である。
【0023】
一般式(6):
【化10】

で表される化合物中、R4及びXは、具体的には、上記一般式(2)及び(5)について説明した内容が同様に適用できる。
【0024】
一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物との反応は、例えば、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、当該反応条件下で不活性な溶媒中で混合すればよく、限定はされない。上記溶媒としては、本発明の製造方法に用い得る溶媒として後述するものが好ましく例示できる。また当該反応においては、反応温度は、20〜50℃であることが好ましく、混合時間(攪拌時間)は、1〜2時間であることが好ましく、反応圧力は、常圧付近でよい。さらに当該反応は、限定はされないが、反応を促進させ得る点で、マグネシウムの存在下で行われることが好ましい。当該反応系からの生成化合物(一般式(2)で表される化合物)の抽出及び精製等の方法は、特に限定はされず、従来公知の抽出及び精製等の方法が適宜採用できる。
【0025】
本発明の製造方法において、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応に用いられる金属ハロゲン化物としては、限定はされないが、例えば、フッ化カリウム(KF)及びヨウ化銅(CuI)等が好ましく挙げられる。特にフッ化カリウムは、反応生成物の収率を一層高めることができる点で、より好ましい。金属ハロゲン化物の使用量は、限定はされないが、例えば、原料化合物である一般式(1)で表される化合物に対して、モル換算で0.2〜4等量使用することが好ましく、より好ましくは0.2〜1.2等量である。詳しくは、フッ化カリウムを使用する場合は、1〜1.2等量であることが好ましく、ヨウ化銅を使用する場合は、0.2〜1等量であることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において用い得る溶媒は、一般式(1)及び(2)の化合物の反応の反応条件下で不活性なものであればよく、限定はされないが、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、フェニルアセトニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル等)、酸アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルピロリドン等)、低級エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−エポキシエタン、1、4−ジオキサン、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、置換テトラヒドロフラン等)が好ましく使用され、中でも、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランがより好ましい。本発明の製造方法においては、これら溶媒を組み合わせて使用することもできる。溶媒の量は、出発原料の1重量部に対して1〜100重量部程度、好ましくは1〜10重量部である。使用する溶媒はでき得る限り水分を除去したものが好ましいが、必ずしも完全に除去したものである必要はない。工業的に入手可能な溶媒に通常混入している程度の水分は、本発明の製造方法の実施において特に問題にならず、そのため水分を除去することなくそのまま使用することができる。
【0027】
本発明の製造方法は、前述した一般式(1)及び(2)で表される原料化合物を、前記金属ハロゲン化物の存在下、溶媒中で混合すればよく、限定はされないが、例えば、これら原料化合物の使用量は、一般式(1)で表される化合物に対して、一般式(2)で表される化合物を、モル換算で1〜2等量使用することが好ましく、より好ましくは1.2〜1.5等量である。
【0028】
また上記原料化合物の混合及び反応は、例えば、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、反応温度は、40〜80℃であることが好ましく、混合時間(攪拌時間)は、5〜20時間であることが好ましく、反応圧力は、常圧付近でよい。
本発明の製造方法においては、必要に応じ、反応を促進する目的で、グリニャール反応で一般的に行われている各種の反応促進法を適用することもできる。そのような方法として、例えば、臭素またはヨウ素などのハロゲン、グリニャール試薬、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化メチレン、ヨウ化エチル及びβ−ブロムエチルエーテル等の有機ハロゲン化物、あるいはオルト珪酸エチル等を反応系に添加する方法や、攪拌又は超音波を照射する方法等を挙げることができる。
【0029】
本発明の製造方法により得られる化合物(生成化合物)、すなわち芳香族ジフルオロ酢酸エステルは、前述した通り、一般式(3)で表される化合物である。
【化11】

【0030】
なお、一般式(3)中、R1、R2及びR3、並びにm及びnについては、前記一般式(1)及び(2)について説明した内容が同様に適用できる。
本発明の製造方法において、反応系からの生成化合物の抽出及び精製等の方法は、特に限定はされず、従来公知の抽出及び精製等の方法が適宜採用できる。
【0031】
本発明においては、さらに、前記一般式(3)で表される化合物を加水分解することによる、一般式(4)で表される化合物(すなわち芳香族ジフルオロ酢酸)の製造方法も提供することができる。
【0032】
一般式(4):
【化12】

で表される化合物中、R1及びR2、並びにm及びnについては、前記一般式(1)について説明した内容が同様に適用できる。
【0033】
一般式(3)で表される化合物の加水分解反応は、公知の加水分解反応の方法及び条件等を適宜採用して行うことができ、限定はされないが、例えば、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、反応温度は、20〜100℃であることが好ましく、反応時間(攪拌時間)は、1〜40時間であることが好ましく、反応圧力は、常圧付近でよい。また、反応系からの生成化合物(一般式(4)で表される化合物)の抽出及び精製等の方法は、特に限定はされず、従来公知の抽出及び精製等の方法が適宜採用できる。
【0034】
一般式(4)で表される化合物(すなわち芳香族ジフルオロ酢酸)は、限定はされないが、例えば、当該化合物中のジフルオロ酢酸基(-CF2CO2H)の部分を脱炭酸することにより、ジフルオロメチル基(-CF2H)を有する化合物(芳香族ジフルオロメチル化合物)に誘導することができる。この脱炭酸反応は、限定はされないが、例えば、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、当該反応条件下で不活性な溶媒中で行えばよく限定はされない。上記溶媒としては、本発明の製造方法に用い得る溶媒として前述したものが好ましく例示できる。当該脱炭酸反応においては、反応温度は、120〜230℃であることが好ましく、反応時間(攪拌時間)は、5〜48時間であることが好ましく、反応圧力は、常圧付近でよい。また、当該脱炭酸反応は、金属ハロゲン化物、特にフッ化カリウムの存在下で行うことが、反応効率及び収率を一層高めることができる点で好ましい。フッ化カリウムの使用量は、限定はされないが、脱炭酸前の一般式(4)で表される化合物に対して、モル換算で1〜10等量使用することが好ましく、より好ましくは5等量である。反応系からの生成化合物(芳香族ジフルオロメチル化合物)の抽出及び精製等の方法は、特に限定はされず、従来公知の抽出及び精製等の方法が適宜採用できる。
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
<α−シリルジフルオロ酢酸エステルの調製(1)>
【化13】

【0037】
上記スキームに従い、2口反応管に窒素雰囲気下、マグネシウム (243 mg, 10.0 mmol), クロロトリメチルシラン(Me3SiCl;2.17 g, 20.0 mmol), DMF (15 mL)を入れる。反応容器を水浴で冷やしながら、クロロジフルオロ酢酸エチル (化合物3;793mg, 624μL, 5.0 mmol)を加えた後、室温で1.5 時間攪拌した。反応混合物をジエチルエーテルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下でジエチルエーテルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより生成することで、ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル(化合物3a)が43%の収率で得られた。
【0038】
なお、他の実施例において、ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル(Me3Si-CF2CO2Et;化合物3a)については本実施例で得られたものを用いた。
【0039】
生成物(化合物3a)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ4.32 (2H, q, J = 7.0 Hz), 1.35 (3H, t, J = 7.0 Hz), 0.237 (9H, s)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 38.5 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 181 (6), 153 (10), 125 (6), 103 (8), 77 (26), 73 (100)
【0040】
<α−シリルジフルオロ酢酸エステルの調製(2)>
【化14】

【0041】
上記スキームに従い、2口反応管に窒素雰囲気下、マグネシウム (486 mg, 20.0 mmol), クロロトリエチルシラン (Et3SiCl;6.03 g, 40.0 mmol), DMF (30 mL)を入れる。反応容器を水浴で冷やしながら、クロロジフルオロ酢酸エチル (化合物3;1.57 g, 10.0 mmol)を加えた後、室温で1.5 時間攪拌した。反応混合物をジエチルエーテルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下でジエチルエーテルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより生成することで、α−シリルジフルオロ酢酸エステルとしてのジフルオロトリエチルシラニル酢酸エチルエステル(化合物3b)が64%の収率で得られた。
【0042】
なお、他の実施例において、ジフルオロトリエチルシラニル酢酸エチルエステル(Et3Si-CF2CO2Et;化合物3b)についても本実施例で得られたものを用いた。
【0043】
生成物(化合物3b)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 4.31 (2H, q, J = 7.1 Hz), 1.35 (3H, t, J = 7.1 Hz), 1.02 (9H, t, J= 8.0 Hz), 0.77 (6H, q, J = 8.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 42.9 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 209 (20), 131 (12), 115 (38), 87 (100)
【0044】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化15】

【0045】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードベンゾニトリル (化合物1a;68.7 mg, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2a)が88%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2a)が71%の収率で得られた。
【0046】
生成物(化合物2a)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ7.78 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.74 (2H, d, J = 8.8 Hz), 4.34 (2H, q, J= 7.0 Hz), 1.31 (3H, t, J = 7.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.8 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 225 (M+, 2), 181 (2), 152 (100), 126 (4), 102 (8), 75 (4)
【0047】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化16】

【0048】
上記スキームに従い、ナスフラスコに2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル (化合物2a;202.7 mg, 0.9 mmol)、1N K2CO3 水溶液 (2.7 mL), DMF (2.7 mL)を入れ、25℃で18時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸(化合物4a)が79%の収率で得られた。
【0049】
生成物(化合物4a)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.80 (2H, d, J = 9.2 Hz), 7.77 (2H, d, J = 9.2 Hz),
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.3 (2F, s)
【実施例2】
【0050】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化17】

【0051】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードベンゾニトリル (化合物1a;68.7 mg, 0.3 mmol), ヨウ化銅(I) (11.4 mg, 0.06mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.1 mL), トルエン (0.5 mL)を入れる。最後にジフルオロトリエチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3b;85.7 mg, 85.7μL, 0.36mmol)を加え、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2a)が55%の収率で生成していることがわかった。
【0052】
生成物(化合物2a)の機器分析の結果を、以下に示した。

19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.8 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 225 (M+, 2), 181 (2), 152 (100), 126 (4), 102 (8), 75 (4)
【実施例3】
【0053】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化18】

【0054】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードニトロベンゼン (化合物1b;74.7 mg, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2,2-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル(化合物2b)が41%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2,2-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル(化合物2b)が29%の収率で得られた。
【0055】
生成物(化合物2b)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.33 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.82 (2H, d, J = 9.0 Hz), 4.33 (2H, q, J= 7.0Hz), 1.32 (1H, t, J = 7.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 172 (100), 156 (16), 142 (16), 126 (42), 107 (5), 75 (4)
【0056】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化19】

【0057】
上記スキームに従い、ナスフラスコに2,2-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル (化合物2b;147 mg, 0.6mmol)、1N NaOH 水溶液 (3 mL)を入れ、室温で19時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2,2-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェニル)酢酸(化合物4b)が93%の収率で得られた。
【0058】
生成物(化合物4b)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.34 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.85 (2H, d, J = 8.8 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.7 (2F, s)
【実施例4】
【0059】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化20】

【0060】
上記スキームに従い、ナスフラスコに2,2-ジフルオロ-2-(2-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル (化合物2c;1.01 g, 4.1mmol)、1N NaOH 水溶液 (10 mL)を入れ、室温で19時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2,2-ジフルオロ-2-(2-ニトロフェニル)酢酸(化合物4c)が85%の収率で得られた。
【0061】
生成物(化合物4c)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.20 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.98 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.83 (1H, t, J= 8.0Hz), 7.75 (1H, t, J = 8.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 61.3 (2F, s)
【実施例5】
【0062】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化21】

【0063】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨード安息香酸エチル (化合物1d;82.8 mg, 49.9μL, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である4-(2-エトキシ-1,1-ジフルオロ-2-オキソエチル)安息香酸エチルエステル(化合物2d)が81%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、4-(2-エトキシ-1,1-ジフルオロ-2-オキソエチル)安息香酸エチルエステル(化合物2d)が73%の収率で得られた。
【0064】
生成物(化合物2d)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.13 (2H, d, J = 8.2 Hz), 7.68 (2H, d, J = 8.2 Hz), 4.41 (2H, q, J= 7.2 Hz), 4.30 (2H, q, J = 7.2 Hz), 1.41 (3H, J = 7.2 Hz), 1.30 (3H, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 272 (M+, 2), 227 (15), 199 (100), 171 (34), 126 (14)
【0065】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化22】

【0066】
上記スキームに従い、ナスフラスコに4-(2-エトキシ-1,1-ジフルオロ-2-オキソエチル)安息香酸エチルエステル(化合物2d;108.9 mg, 0.4 mmol)、1N K2CO3 水溶液 (1.5 mL)を入れ、室温で26 時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、4-(2-エトキシ-1,1-ジフルオロ-2-オキソエチル)安息香酸(化合物4d)が86%の収率で得られた。
【0067】
生成物(化合物4d)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.13 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.71 (2H, d, J = 8.0 Hz), 4.41 (2H, q, J= 7.2Hz), 1.40 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.6 (2F, s)
【実施例6】
【0068】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化23】

【0069】
上記スキームに従い、ナスフラスコに2-(4-アセチルフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル (化合物2e;436.0 mg,1.8 mmol)、1N NaOH 水溶液 (3.0 mL)を加え、100℃で1.5時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-アセチルフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸(化合物4e)が96%の収率で得られた。
【0070】
生成物(化合物4e)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.05 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.75 (2H, d, J = 8.4 Hz), 2.65 (3H, s)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.6 (2F, s)
【実施例7】
【0071】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化24】

【0072】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ブロモヨードベンゼン (化合物1f;84.9 mg, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2-(4-ブロモフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2f)が76%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-ブロモフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2f)が54%の収率で得られた。
【0073】
生成物(化合物2f)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.60 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.48 (2H, d, J = 8.6 Hz), 4.30 (2H, q, J= 7.2 Hz), 1.31 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.6 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 280 (M+2, 12), 278 (M+, 12), 207 (94), 205 (100), 126 (32), 75 (8)
【0074】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化25】

上記スキームに従い、ナスフラスコに2-(4-ブロモフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル (化合物2f;279.1 mg,1.0 mmol)、1N K2CO3 水溶液 (3.0 mL)、DMF (3.0 mL)を入れ、25℃で18 時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-ブロモフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸(化合物4f)が85%の収率で得られた。
【0075】
生成物(化合物4f)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.61 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.50 (2H, d, J = 8.8 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.7 (2F, s)
【実施例8】
【0076】
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化26】

【0077】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードビフェニル (化合物1g;84.0 mg, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2-(ビフェニル-4-イル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2g)が78%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(ビフェニル-4-イル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2g)が68%の収率で得られた。
【0078】
生成物(化合物2g)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.38-7.70 (9H, m), 4.35 (2H, q, J = 7.2 Hz), 1.33 (3H, t, J = 7.2Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 58.3 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 276 (M+, 21), 203 (100), 183 (6), 152 (6)
【0079】
<芳香族ジフルオロ酢酸の調製>
【化27】

【0080】
上記スキームに従い、ナスフラスコに2-(ビフェニル-4-イル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル (化合物2g;82.9 mg, 0.3mmol)、1N K2CO3 水溶液 (0.9 mL), DMF (0.9 mL)を入れ、室温で18時間攪拌した。反応後、反応混合物を5% HCl 水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(ビフェニル-4-イル)-2,2-ジフルオロ酢酸(化合物4g)が88%の収率で得られた。
【0081】
生成物(化合物4g)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ7.37-7.714 (9H, m)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.9 (2F, s)
【0082】
[比較例1]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化28】

【0083】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードベンゼン(化合物1h;61.2 mg, 33.4μL, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、GC-Mass により混合物を分析すると、76%の転化率で目的物である2-(フェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2h)が生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(フェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2h)が40%の収率で得られた。
【0084】
生成物(化合物2h)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.61 (2H, d, J = 9.2 Hz) 7.44-7.52 (3H, m), 4.30 (2H, q, J = 7.2Hz), 1.31 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.8 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 200 (M+, 8), 127 (100), 77 (6)
【0085】
[比較例2]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化29】

【0086】
上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードフェネトール (化合物1i;74.7 mg, 0.3 mmol), ジフルオロトリメチルシラニル酢酸エチルエステル (化合物3a;70.7 mg, 0.36 mmol), ヨウ化銅(I) (57.1 mg, 0.3 mmol), フッ化カリウム (20.9 mg, 0.36 mmol), DMSO (0.6 mL)を入れ、窒素雰囲気下、60℃で15 時間攪拌した。反応後、トリフルオロエタノール (30.0 mg, 21.9μL, 0.3 mmol)を内部標準として加え、19F NMR で測定したところ目的物である2-(4-エトキシフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2i)が78%の収率で生成していることがわかった。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-エトキシフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2i)が72%の収率で得られた。
【0087】
生成物(化合物2i)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.52 (2H, d, J = 8.8 Hz), 6.93 (2H, d, J = 8.8 Hz),4.29 (2H, q, J= 7.2 Hz), 4.06 (2H, q, J = 7.0 Hz), 1.43 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.30 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 59.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 244 (M+, 12), 171 (98), 143 (100), 126 (4)
【0088】
[比較例3]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化30】

【0089】
熊懐法(K. Sato et al., Chem. Pharm. Bull., vol. 47 p. 1013 (1999))及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードベンゾニトリル (化合物1a;343.5 mg, 1.5 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (304.5 mg, 1.5 mmol), 銅粉末 (190.5 mg, 3.0 mmol), DMSO (3.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で24 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-シアノフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2a)が60%の収率で得られた。
【0090】
生成物(化合物2a)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ7.78 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.74 (2H, d, J = 8.8 Hz), 4.34 (2H, q, J= 7.0 Hz), 1.31 (3H, t, J = 7.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 56.8 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 225 (M+, 2), 181 (2), 152 (100), 126 (4), 102 (8), 75 (4)
【0091】
[比較例4]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化31】

【0092】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードニトロベンゼン (化合物1b;249.0 mg, 1.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (203 mg, 1.0 mmol), 銅粉末 (128 mg, 2.0 mmol), DMSO (2.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で15 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2,2-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル(化合物2b)が58%の収率で得られた。
【0093】
生成物(化合物2b)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.33 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.82 (2H, d, J = 9.0 Hz), 4.33 (2H, q, J= 7.0Hz), 1.32 (1H, t, J = 7.0 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 172 (100), 156 (16), 142 (16), 126 (42), 107 (5), 75 (4)
【0094】
[比較例5]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化32】

【0095】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に2-ヨードニトロベンゼン (化合物1c;250.0 mg, 1.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (203 mg, 1.0 mmol), 銅粉末 (128 mg, 2.0 mmol), DMSO (2.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で15 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより生成することで、2,2-ジフルオロ-2-(2-ニトロフェニル)酢酸エチルエステル(化合物2c)が13%の収率で得られた。
【0096】
生成物(化合物2c)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.15 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.96 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.80 (1H, t, J= 7.8Hz), 7.72 (1H, t, J = 7.8 Hz), 4.39 (2H, q, J = 7.2 Hz), 1.35 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 61.8 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 200 (4), 199 (5), 172 (100), 156 (68), 143 (96), 126 (62), 95 (79)
【0097】
[比較例6]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化33】

【0098】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨード安息香酸エチル (化合物1d;1.38 g, 5.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (1.015 g, 5.0 mmol), 銅粉末 (635.5 mg, 10.0 mmol), DMSO (10 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で24時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、4-(2-エトキシ-1,1-ジフルオロ-2-オキソエチル)安息香酸エチルエステル(化合物2d)が80%の収率で得られた。
【0099】
生成物(化合物2d)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.13 (2H, d, J = 8.2 Hz), 7.68 (2H, d, J = 8.2 Hz), 4.41 (2H, q, J= 7.2 Hz), 4.30 (2H, q, J = 7.2 Hz), 1.41 (3H, J = 7.2 Hz), 1.30 (3H, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 272 (M+, 2), 227 (15), 199 (100), 171 (34), 126 (14)
【0100】
[比較例7]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化34】

【0101】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードアセトフェノン (化合物1e;1.23 g, 5.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (1.22 g, 6.0 mmol), 銅粉末 (768.0 mg, 12.0 mmol), DMSO (10.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で24 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-アセチルフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2e)が82%の収率で得られた。
【0102】
生成物(化合物2e)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 8.04 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.72 (2H, d, J = 8.4 Hz), 4.31 (2H, q, J= 7.2 Hz), 2.64 (3H, s), 1.31 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.2 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 242 (M+, 13), 227 (59), 199 (20), 169 (100), 154 (13), 126 (34)
【0103】
[比較例8]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化35】

【0104】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ブロモヨードベンゼン (848.7 mg, 3.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (化合物1f;608.9 mg, 3.0 mmol), 銅粉末 (381 mg, 6.0 mmol), DMSO (6.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で24 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(4-ブロモフェニル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2f)が69%の収率で得られた。
【0105】
生成物(化合物2f)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.60 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.48 (2H, d, J = 8.6 Hz), 4.30 (2H, q, J= 7.2 Hz), 1.31 (3H, t, J = 7.2 Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 57.6 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 280 (M+2, 12), 278 (M, 12), 207 (94), 205 (100), 126 (32), 75 (8)
【0106】
[比較例9]
<芳香族ジフルオロ酢酸エステルの調製>
【化36】

【0107】
熊懐法(前掲)及び上記スキームに従い、2口反応管に4-ヨードビフェニル (化合物1g;840.3 mg, 3.0 mmol), ブロモジフルオロ酢酸エチルエステル (609.0 mg, 3.0 mmol), 銅粉末 (381.0 mg, 6.0 mmol), DMSO (6.0 mL)を入れ、アルゴン雰囲気下、55℃で24 時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出、水で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-(ビフェニル-4-イル)-2,2-ジフルオロ酢酸エチルエステル(化合物2g)が65%の収率で得られた。
【0108】
生成物(化合物2g)の機器分析の結果を、以下に示した。

1H-NMR(CDCl3, TMS) δ 7.38-7.70 (9H, m), 4.35 (2H, q, J = 7.2 Hz), 1.33 (3H, t, J = 7.2Hz)
19F-NMR(CDCl3, C6F6) δ 58.3 (2F, s)
Mass m/e: (m/z) (%) 276 (M+, 21), 203 (100), 183 (6), 152 (6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化37】

〔一般式(1)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物と下記一般式(2):
【化38】

〔一般式(2)中、R3は一価の有機基を表し、R4はそれぞれ独立して置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。〕
で表される化合物とを金属ハロゲン化物の存在下で反応させることによる、下記一般式(3):
【化39】

〔一般式(3)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表し、R3は一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物がフッ化カリウム又はヨウ化銅である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により得られる化合物を加水分解することによる、下記一般式(4):
【化40】

〔一般式(4)中、R1はそれぞれ独立して電子求引基を表し、R2はそれぞれ独立して一価の有機基を表す。mは1〜3の整数を表し、nは0〜(5−m)の整数を表す。〕
で表される化合物の製造方法。
【請求項4】
前記R1が、オルト位及び/又はメタ位の結合基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記R1が、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいアルキル酢酸エステル基、置換されていてもよいアルキルカルボニル基、ハロゲン基、及び置換されていてもよいフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記R2が、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記R3が、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記一般式(2)で表される化合物が、下記一般式(5):
【化41】

〔一般式(5)中、R3は一価の有機基を表し、Xはハロゲン基を表す。〕
で表される化合物と下記一般式(6):
【化42】

〔一般式(6)中、R4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、Xはハロゲン基を表す。〕
で表される化合物とを反応させて得られるものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記Xが塩素原子である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記一般式(5)で表される化合物と前記一般式(6)で表される化合物との反応が、マグネシウムの存在下で行われる、請求項8又は9に記載の方法。

【公開番号】特開2011−105658(P2011−105658A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263316(P2009−263316)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】