説明

芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物及び粘・接着剤組成物

【課題】 十分な剪断接着破壊温度を有し、加熱下で保持力を良好に維持し得る粘・接着剤を与える芳香族ビニル−イソプレン(IP)ブロック共重合体組成物、この組成物を用いた粘・接着剤の提供。
【解決手段】 式(A−Bk(m)R(Aは芳香族ビニルの重合体ブロック、BはIPの重合体ブロック、Xk(m)Rはm官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基、mは3以上の整数)の放射状ブロック共重合体(a)を含有してなる芳香族ビニル−IPブロック共重合体組成物であって、該組成物を構成する全ての芳香族ビニル−IPブロック共重合体中の(a)成分の比率が50重量%を超え、(a)成分中の4分岐以上のブロック共重合体含有量が50重量%以上、該組成物を構成する全ての芳香族ビニル−IPブロック共重合体についての、平均芳香族ビニル含有量が25〜50重量、平均重量平均分子量が16万以上、25万以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘・接着剤用途に適した芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物及びこれを用いた粘・接着剤組成物に関し、更に詳しくは、良好な剪断接着破壊温度を有し、保持力及び高温下での保持力保持率に優れた芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物及びこれを用いて得られる粘・接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から粘・接着剤組成物のベースポリマーとしてスチレン/イソプレンブロック共重合体をはじめとする各種のブロック共重合体が用いられている。
粘・接着剤には初期接着力、保持力、段ボールシール性、柔軟性、加工性、熱安定性、経時着色安定性等の種々の特性が要求される。
【0003】
このため、ブロック共重合体のポリマー構造や、組成について、広範な研究が行われてきた。中でも、線状ブロック共重合体と放射状ブロック共重合体とを組み合わせることにより、種々の優れた特性が得られることが知られている。
例えば、特許文献1には、芳香族ビニル化合物の重合体ブロック−イソプレン重合体ブロックからなるブロック共重合体分枝を有する3分岐状ブロック共重合体と、同じく2分岐状ブロック共重合体と、芳香族ビニル化合物の重合体ブロック−イソプレン重合体ブロックからなる線状ジブロック共重合体とからなる粘着剤用ブロック共重合体組成物が開示されている。このブロック共重合体組成物を用いて得られる粘着剤組成物は、初期接着力、保持力、ダンボールシール性及び加工性のバランスに優れ、更に経時着色安定性に優れる。
【0004】
また、特許文献2には、芳香族ビニル化合物の重合体ブロック−イソプレン重合体ブロックからなるブロック共重合体分枝を有する4分岐以上の分岐状ブロック共重合体と、芳香族ビニル化合物の重合体ブロック−イソプレン重合体ブロックからなるジブロック共重合体とからなる芳香族ビニル化合物の重合体ブロック−イソプレンブロック共重合体組成物が開示されている。このブロック共重合体組成物を用いると、低粘度低適用温度を有し、剥離接着力と剪断接着破壊温度とが高水準で良好にバランスした粘接着剤組成物が得られる。
【0005】
更に、特許文献3及び特許文献4には、上記2〜4分岐の分岐状ブロック共重合体及び線状ジブロック共重合体の組成を最適化することにより、抗ブロッキング性とローリングボールタック及び段ボールシール性又は低温でのタック及び保持力が高水準でバランスしたブロック共重合体が得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのブロック共重合体では、剪断接着破壊温度が十分とは言えず、また、加熱下において保持力が低下するという問題があった。
特許文献5には、アルキルスチレン由来構造単位を有する芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックとを有する活性エネルギー線により架橋可能なブロック共重合体又はその水素添加物を活性エネルギー線で架橋した粘・接着剤組成物が高温における凝集力に優れることが開示されている。
しかしながら、この粘・接着剤組成物を得るには、アルキルスチレン単量体を多量に使用しなければならず、また、活性エネルギー線による架橋が必要である等、経済的に有利とはいえない。
【0007】
【特許文献1】特開平3−26747号公報
【特許文献2】特開平10−130349号公報
【特許文献3】国際公開第99/58064号パンフレット
【特許文献4】国際公開第99/58065号パンフレット
【特許文献5】特開2004−162042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、十分な剪断接着破壊温度及び保持力を有し、また、加熱下において保持力を良好に維持することができる粘・接着剤を得ることができるブロック共重合体組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、このブロック共重合体組成物を用いた粘・接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体の単量体組成、分子量、各種ブロック共重合体の組成等について、鋭意検討を進めた結果、それぞれ特定の構造を有する多分岐状重合体と線状ジブロック共重合体とを特定の比率で含有するブロック共重合体組成物を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、一般式(I):(A−Bk(m)R(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xk(m)Rはm官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基であり、mは3以上の整数である。)で表わされる放射状ブロック共重合体(a)を含有してなる芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物であって、
(1)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均芳香族ビニル化合物含有量が25〜50重量%であり、
(2)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均重量平均分子量が、ポリスチレン換算で、160,000以上、250,000以下であり、
(3)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の(a)成分含有比率が50重量%を超え、
(4)(a)成分中における4分岐以上のブロック共重合体の含有量が50重量%以上である、
ことを特徴とする芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物が提供される。
【0011】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、(a)成分の含有量は、60重量%であることが好ましく、75重量%以上であることがより好ましい。
また、本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、(a)成分中における4分岐以上のブロック共重合体の含有量は、65重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることが、より好ましい。
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、(a)成分が一般式:(A−Bk(4)Rで表される4分岐ブロック共重合体及び一般式(A−Bk(3)Rで表される3分岐ブロック共重合体からなるものであることが好ましい。
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、一般式:A−B(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックである)で表わされるジブロック共重合体(b)を更に含有することが好ましい。
【0012】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物平均含有量は、26〜35重量%であることが好ましく、27〜33重量%であることが、より好ましい。
【0013】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、165,000以上、250,000以下であることが好ましく、170,000以上、220,000以下であることが、より好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物100重量部と粘着付与樹脂10〜150重量部とを含んでなる粘・接着剤組成物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、十分な剪断接着破壊温度及び保持力を有し、また、加熱下において保持力を良好に維持することができる粘・接着剤を与える芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を得ることができる。また、この芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を用いて優れた粘・接着剤組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、一般式(I):(A−Bk(m)R(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xk(m)Rはm官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基であり、mは3以上の整数である。)で表わされる放射状ブロック共重合体(a)を含有してなる芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物であって、
(1)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均芳香族ビニル化合物含有量が25〜50重量%であり、
(2)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均重量平均分子量が、ポリスチレン換算で、160,000以上、250,000以下であり、
(3)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の(a)成分含有比率が50重量%を超え、
(4)(a)成分中における4分岐以上のブロック共重合体の含有量が50重量%以上である、
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体を構成するための芳香族ビニル化合物は、特に限定されるものではなく、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等が挙げられるが、中でもスチレンが好ましい。
【0018】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、これを構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均芳香族ビニル化合物含有量は、25〜50重量%であることが必要である。この平均芳香族ビニル化合物含有量は、好ましくは、26〜35重量%であり、より好ましくは27〜33重量%である。
芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物についての平均芳香族ビニル化合物含有量が上記下限未満では、得られる粘・接着剤の剪断接着破壊温度及び保持力が著しく低下し、加熱履歴により保持力が大きく低下する。また、逆に、上記上限を超えると、得られる粘・接着剤の柔軟性が低下するため加工性が低下し、また、風合いも低下するという問題が生じる。
【0019】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、これを構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で160,000以上、250,000以下であることが必要である。この平均重量平均分子量は、好ましくは165,000以上、235,000以下、より好ましくは170,000以上、220,000以下である。
この平均重量平均分子量が上記下限未満では、得られる粘・接着剤の剪断接着破壊温度が大幅に低下し、保持力及び加熱促進劣化後の保持力が著しく低下する。
逆に、平均重量平均分子量が上記上限を超えると、得られる粘・接着剤の粘度が高くなりすぎ、加工性が低下する。
【0020】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、一般式(I):(A−Bk(m)R(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xk(m)Rはm官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基であり、mは3以上の整数である。)で表わされる放射状ブロック共重合体(a)(「(a)成分」)を含有する。
【0021】
(a)成分は、一般式(I):(A−Bk(m)Rで表わされる放射状ブロック共重合体の一種又は2種以上の集合体である。
一般式(I)において、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xk(m)Rは、m官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基であり、mは3以上の整数である。
k(m)Rは、換言すると、m=nであるとき、n官能性のカップリング剤X、(n+1)官能性のカップリング剤Xn+1、(n+2)官能性のカップリング剤Xn+2、・・・等のそれぞれのカップリング剤残基XnR、X(n+1)R、X(n+2)R、・・・等を表わす。
従って、一般式(I):(A−Bk(m)Rで表わされる放射状ブロック共重合体(a)は、一般式:(A−B3R、一般式:(A−B4R、一般式:(A−B5R等で表わされる3分岐ブロック共重合体;一般式:(A−B4R、一般式:(A−B5R、一般式:(A−B6R等で表わされる4分岐ブロック共重合体;一般式:(A−B5R、一般式:(A−B6R等で表わされる5分岐ブロック共重合体;・・等の、3分岐以上の(即ち、放射状の)多分岐ブロック共重合体の一種又は2種以上の集合体である。
【0022】
一般式(I):(A−Bk(m)Rで表わされる放射状ブロック共重合体(a)における芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAの割合は、通常、25〜50重量%、好ましくは26〜35重量%、より好ましくは27〜33重量%である。この割合が上記範囲内にあると、得られる粘・接着剤の剪断接着破壊温度及び保持力に優れ、且つ、加工性及び風合いも良好な粘・接着剤を得ることができる。
【0023】
(a)成分を構成する、一般式(I):(A−Bk(m)Rで表わされるm分岐ブロック共重合体が複数である場合、各m分岐ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。また、このとき、各m分岐ブロック共重合体における芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAの割合は、同じであっても異なっていてもよい。
また、各m分岐ブロック共重合体におけるイソプレンの重合体ブロックBは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。また、このとき、各m分岐ブロック共重合体におけるイソプレンの重合体ブロックBの割合は、同じであっても異なっていてもよい。また、イソプレンの重合体ブロックBは、本発明の効果を損なわない範囲で、イソプレン以外の共役ジエン単量体単位を含んでいてもよい。
【0024】
(a)成分が複数の分岐ブロック共重合体で構成される場合、各m分岐ブロック共重合体におけるカップリング剤残基Xk(m)Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
本発明において、3官能性以上のカップリング剤としては、前記所望のm分岐ブロック共重合体を得ることができるものであれば、特に限定されない。
3官能性のカップリング剤の具体例としては、クロロホルム、トリブロモメタン、トリクロロエタン、トリクロロプロパン、トリブロモプロパン等の3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、エチルトリブロモシラン、ブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン等の3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等の3官能性アルコキシシラン;モノメチルトリクロロ錫、モノエチルトリクロロ錫、モノフ゛チルトリクロロ錫,モノヘキシルトリクロロ錫等の3官能性ハロゲン化錫;トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の3官能性ホスファイト;トリメチルプロパントリグリシジルエーテル等の3官能性エポキシ化合物;等を挙げることができる。
【0026】
4官能性のカップリング剤の具体例としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン等の4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン等の4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能性アルコキシシラン;クロロトリメトキシシラン、ブロモトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジブロモジメトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリブロモメトキシシラン等の4官能性ハロゲン化アルコキシシラン;四塩化錫、四臭化錫等の4官能性ハロゲン化錫;テトラメトキシ錫、テトラエトキシ錫、テトラブトキシ錫等の4官能性アルコキシ錫;四塩化ゲルマニウム;ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル等の4官能性エポキシ化合物;アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル等の4官能性カルボン酸エステル;等が挙げられる。
【0027】
5官能性のカップリング剤の具体例としては、1,1,1,2,2−ペンタクロロエタン、ペンタクロロベンゼン等を挙げることができる。
6官能性以上のカップリング剤の具体例としては、パークロロエタン、パークロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化エーテル;1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、3,3’−オキシジプロピル−ビス(トリメトキシシリル)等のアルコキシシラン;1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン等のハロゲン化シラン化合物;ビストリクロロスタニルエタン等のハロゲン化錫;等を挙げることができる。
更に、上記以外のカップリング剤の例として、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ポリブタジエン等のエポキシ化合物;テレフタル酸ジクロリド、フタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド等の酸クロリド;等を、挙げることができる。
4官能性以上のカップリング剤としては、テトラクロロシラン及びテトラメトキシシランが好ましく、テトラクロロシランが特に好ましい。
【0028】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、これを構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の、(a)成分の含有量が50重量%を超えることが必要である。
即ち、本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、これを構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の(a)成分、即ち、一般式:(A−Bk(3)Rで表わされる3分岐ブロック共重合体;一般式:(A−Bk(4)Rで表わされる4分岐ブロック共重合体;一般式:(A−Bk(5)Rで表わされる5分岐のブロック共重合体;等で表わされる放射状ブロック共重合体(3分岐以上のブロック共重合体)の含有量が50重量%を超えることが必要である。
放射状ブロック共重合体の含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは75重量%以上である。
放射状ブロック共重合体の含有量が上記下限以下では、得られる粘・接着剤の剪断接着破壊温度が劣り、保持力及び加熱促進劣化後の保持力が著しく劣る。
【0029】
更に、本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、一般式(I):(A−Bk(m)Rにおけるmが4以上のブロック共重合体、即ち、4分岐以上のブロック共重合体:一般式:(A−Bk(4)Rで表わされる4分岐ブロック共重合体、一般式:(A−Bk(5)Rで表わされる5分岐ブロック共重合体、一般式:(A−Bk(6)Rで表わされる6分岐ブロック共重合体、等で表わされる4分岐以上のブロック共重合体の含有量が、(a)成分中、50重量%以上であることが必要である。(a)成分中の上記4分岐以上のブロック共重合体の含有量は、好ましくは65重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上である。
4分岐以上のブロック共重合体の含有量が上記下限未満では、得られる粘・接着剤の剪断接着破壊温度が劣り、保持力及び加熱促進劣化後の保持力が著しく劣る。
上記4分岐以上のブロック共重合体における芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAの割合は、通常、25〜50重量%、好ましくは26〜35重量%、より好ましくは27〜33重量%である。この割合が上記範囲内にあると、剪断接着破壊温度及び保持力に優れ、且つ、加工性及び風合いも良好な粘・接着剤を得ることができる。
【0030】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、(a)成分が一般式:(A−Bk(4)Rで表される4分岐ブロック共重合体及び一般式(A−Bk(3)Rで表される3分岐ブロック共重合体からなるものであることが好ましい。
一般式:(A−Bk(4)Rで表わされる4分岐ブロック共重合体の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、通常、160,000〜410,000、好ましくは165,000〜320,000、更に好ましくは170,000〜265,000である。
4分岐ブロック共重合体の平均重量平均分子量が上記範囲内にあると、粘度が適切な範囲に保たれ、加工性が良好となり、優れた保持力が得られる。
【0031】
一般式:(A−Bk(3)Rで表わされる3分岐ブロック共重合体の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、通常、125,000〜330,000、好ましくは130,000〜260,000、更に好ましくは135,000〜215,000である。
3分岐ブロック共重合体の平均重量平均分子量が上記範囲内にあると、粘度が適切な範囲に保たれ、加工性が良好となり、優れた保持力が得られる。
【0032】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、(b)一般式: A−B(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックである)で表わされるジブロック共重合体を更に含有することが好ましい。
【0033】
一般式:A−Bで表わされるジブロック共重合体((b)成分)は、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAとイソプレンの重合体ブロックBとの2つのブロックからなる共重合体である。
なお、イソプレンの重合体ブロックBは、本発明の効果を損なわない範囲で、イソプレン以外の共役ジエン単量体単位を含んでいてもよい。
また、ジブロック共重合体は、末端にカップリング剤残基が付加していてもよい。
このジブロック共重合体を合成するための芳香族ビニル化合物は、特に限定されるものではなく、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等が挙げられるが、中でもスチレンが好ましい。
【0034】
(b)成分は、単一のジブロック共重合体である必要はなく、複数のものの混合物であってもよい。
上記ジブロック共重合体が複数のものの混合物であるとき、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAは、単一である必要はなく、複数のものの混合物であってもよい。即ち、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAは、それを構成する芳香族ビニル化合物の種類及び重合体ブロックの分子量において、単一であっても異なるものの組合せであってもよい。
【0035】
上記ジブロック共重合体における芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAの割合は、通常、25〜50重量%、好ましくは26〜35重量%、より好ましくは27〜33重量%である。この割合が上記範囲内にあると、剪断接着破壊温度及び保持力に優れ、且つ、加工性及び風合いも良好な粘・接着剤を得ることができる。
【0036】
上記ジブロック共重合体が複数のものの混合物であるとき、イソプレンの重合体ブロックBは、単一である必要はなく、複数のものの混合物であってもよい。即ち、イソプレンの重合体ブロックBの分子量は、単一であっても異なっていてもよい。
【0037】
一般式:A−Bで表わされるジブロック共重合体の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、通常、45,000〜120,000、好ましくは48,000〜94,000、更に好ましくは50,000〜78,000である。
ジブロック共重合体の平均重量平均分子量が上記範囲内にあると、粘度が適切な範囲に保たれ、加工性が良好となり、優れた保持力が得られる。
【0038】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中、上記一般式で表わされるジブロック共重合体の含有比率は、50重量%未満であることが好ましく、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは25重量%以下である。
ジブロック共重合体の含有比率が上記範囲内であると、剪断接着破壊温度が高く、保持力及び加熱促進劣化後の保持力にも優れた粘・接着剤を得ることができる。
【0039】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、一般式:(A−Bk(2)R(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xk(2)Rは、2官能性以上のカップリング剤の残基である。)で表わされる2分岐ブロック共重合体(c1)(以下、「(c1)成分」ということがある。)及び/又は一般式:A−B−A(式中、A及びAは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックである)で表わされるトリブロック共重合体(c2)(以下、「(c2)成分」ということがある。)は、必須成分ではないが、本発明の効果が阻害されない範囲で含有していてもよい。以下、(c1)成分及び(c2)成分を総称して「(c)成分」ということがある。
なお、(c)成分を構成するイソプレンの重合体ブロックB及びBは、本発明の効果を損なわない範囲で、イソプレン以外の共役ジエン単量体単位を含んでいてもよい。
【0040】
上記(c)成分の芳香族ビニル化合物の重合体ブロックA、A及びAを構成するための芳香族ビニル化合物は、特に限定されるものではなく、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等が挙げられるが、中でもスチレンが好ましい。
【0041】
一般式:(A−Bk(2)Rで表わされる2分岐ブロック共重合体(c1)における芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAの割合は、通常、25〜50重量%である。
一般式:(A−Bk(2)Rで表わされる2分岐ブロック共重合体(c1)の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、通常、86,000〜228,000、好ましくは91,000〜175,000、より好ましくは95,000〜140,000である。
一般式:(A−Bk(2)Rで表わされる2分岐ブロック共重合体(c1)におけるカップリング剤残基Xk(2)Rは、2官能性以上のカップリング剤Xk(2)の残基であれば、特に制限されない。
(c1)成分は、単一の2分岐ブロック共重合体である必要はなく、複数のものの混合物であってもよい。このとき、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックA及びイソプレンの重合体ブロックBは、それぞれ、単一であっても異なるものの組合せであってもよい。
【0042】
一般式:A−B−Aで表わされるトリブロック共重合体(c2)における芳香族ビニル化合物の重合体ブロック(A及びAの合計)の割合は、通常、トリブロック共重合体の25〜50重量%である。
一般式:A−B−Aで表わされるトリブロック共重合体(c2)の平均重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、通常、60,000〜250,000である。
(c2)成分は、単一の2分岐ブロック共重合体である必要はなく、複数のものの混合物であってもよい。このとき、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックA及びAは、それぞれ、単一であっても異なるものの組合せであってもよい。また、イソプレンの重合体ブロックBも、それぞれ、単一であっても異なるものの組合せであってもよい。
【0043】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物は、上記(a)〜(c)成分を、それぞれ別個に合成した後、これらを任意の方法により上記重量比率を満足するように混合することによって得ることができる。
また、重合活性末端を有するイソプレン重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAに直接結合したA−Bタイプのブロック共重合体をカップリングさせるときに、カップリング剤の種類及び量を制御することによって、(a)〜(c)成分のうち任意の二成分以上よりなるブロック共重合体混合物を得て、これらを適宜混合することにより得ることもできる。更に、後者の方法によれば、本発明のブロック共重合体組成物を一時に得ることも可能である。
本発明のブロック共重合体組成物を得るための(a)〜(c)成分の混合方法は特に限定されず、各成分をブラベンダーやニーダー等で加熱混合する方法、(a)〜(c)成分の溶液を混合する方法等を例示することができる。
【0044】
本発明において用いる放射状(3分岐以上の)ブロック共重合体の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のプロセス(i)〜(iv)に従って作ることができる。
即ち、(i)まず、極性化合物を添加した溶媒中で芳香族ビニル化合物をモノリチウム開始剤により重合させて、重合活性末端を有する芳香族ビニル化合物重合体ブロックAを得る。
モノリチウム開始剤としては、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン系単量体の重合を開始し得る公知のものが使用でき、メチルリチウム、n−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム等がその代表例として示されるが、特に好ましいのはn−ブチルリチウムである。モノリチウム開始剤の使用量は、当業者に周知の方法で、所望する重合体の分子量に応じて計算により求められる。
【0045】
重合溶媒は、モノリチウム開始剤に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、鎖状炭化水素溶剤、環式炭化水素溶剤又はこれらの混合溶剤が使用される。
鎖状炭化水素溶剤としてはn−ブタン、イソブタン、又はこれらの混合物;1−ブテン、イソブチレン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、又はこれらの混合物、1−ペンテン、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン又はこれらの混合物;n−ペンタン、イソペンタン、neo−ペンタン又はこれらの混合物;1−ペンテン、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン又はこれらの混合物等の、炭素数4〜5の鎖状アルカン及びアルケンを例示することができる。
また、環式炭化水素溶剤の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素を挙げることができる。
重合温度の制御及び芳香族ビニル化合物重合体ブロックの分子量分布制御の点からは、炭素数4〜5の鎖状炭化水素溶剤と環式炭化水素溶剤とを重量比5:95〜50:50の範囲、好ましくは10:90〜40:60の範囲の混合溶剤として用いるのが好ましい。
【0046】
また、重合調整剤を用いることは必須ではないが、これを用いることにより、重合開始速度の調整、共役ジエン系単量体重合体ブロックのビニル含量の調整、芳香族ビニル化合物重合体ブロックの分子量分布の調整等を行なうことができる。
重合調整剤としては、モノリチウム開始剤によるイソプレン又はこれと芳香族ビニル化合物との共重合において、ビニル含量調整剤ないしランダマイザーとして用いられる公知の極性化合物のうち、比誘電率が2.5〜5.0の芳香族若しくは脂肪族エーテル又は第3級アミンが使用できる。
このような極性化合物の具体例としては、ジフェニルエーテル、アニソール等の芳香族エーテル;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等の脂肪族エーテル;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の第3級モノアミン;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン等の第3級ポリアミン;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。
芳香族ビニル化合物重合体ブロックの分子量分布を所定のものとし、得られたブロック共重合体を含有する粘着剤組成物の特性を優れたものにするために、好ましい極性化合物の使用量はモノリチウム開始剤1モル当り0.005〜10モル、更に好ましくは0.01〜2モルの範囲である。
【0047】
本発明においては、芳香族ビニル化合物の重合方法は特に限定されず、芳香族ビニル化合物の全量と開始剤の全量を一括重合系に仕込んで反応させるバッチ重合、これらを連続的に重合系に供給しつつ反応させる連続重合、単量体と開始剤の一部を用いて所定の転化率まで重合を行なわせた後、残りの単量体と開始剤を添加して重合を継続する方法等の、通常用いられる方法のいずれを用いてもよい。
重合は、通常0℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃の範囲で実施される。反応温度の制御が困難な場合には還流型凝縮器を設置した反応容器を用い還流冷却による温度制御を行なうのが好ましい。
【0048】
(ii)次に、重合活性末端を有する芳香族ビニル化合物重合体ブロックAが存在する重合系にイソプレンを添加して重合を行なわせる。イソプレンは反応熱を制御する上で連続的に添加するのが好ましいが、これ以外の添加方法を採用してもよい。かくして、重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物重合体ブロックAに直接結合したA−Bブロック共重合体が生成する。
【0049】
(iii)イソプレンの重合反応終了後、カップリング剤Xk(m)を重合系に添加することにより、前記活性末端を有するA−Bブロック共重合体を結合して、目的とする一般式:(A−Bk(m)R(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックを、Bは共役ジエン系単量体の重合体ブロックを、Xk(m)Rはm官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基を表わす。mは3以上の整数である。)で表わされるm分岐状ブロック共重合体が得られる。このとき、公知のカップリング促進剤を添加することもできる。カップリング促進剤としては、前記した重合時に分子量調整剤等として使用し得る極性化合物を例示することができる。
【0050】
(iv)カップリング反応終了後、必要に応じ水、アルコール、酸等を添加して重合活性種を失活させ、必要ならば老化防止剤を添加した後、公知の重合体分離法(例えば、スチームストリッピング等)により重合体を分離し、乾燥工程を経て目的とするm分岐状ブロック共重合体が得られる。
【0051】
m分岐ブロック共重合体を得るには、m官能性以上のカップリング剤を使用することが必要である。
このとき、カップリング剤の種類と量を制御することにより、(m−1)分岐、(m−2)分岐等の分岐度の低いブロック共重合体との混合物とすることも可能である。
【0052】
本発明において用いる一般式:A−Bで表わされる(b)成分(ジブロック共重合体)は、上記のm分岐状ブロック共重合体の合成プロセス(i)〜(ii)と同様にして重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物重合体ブロックAに直接結合したA−Bブロック共重合体を得た後、上述のプロセス(iv)のごとく重合活性種を失活させ、必要ならば老化防止剤を添加した後、カップリング反応を行なうことなく、分離、乾燥工程を経て得ることができる。
【0053】
一般式:(A−Bk(2)Rで表わされる2分岐ブロック共重合体(c1)は、上記のm分岐状ブロック共重合体の合成プロセス(i)〜(ii)と同様にして重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物重合体ブロックAに直接結合したA−Bブロック共重合体を得た後、2官能性以上のカップリング剤Xk(2)Rを重合系に添加することにより、前記活性末端を有するA−Bブロック共重合体を結合して得ることができる。
【0054】
また、一般式:A−B−Aで表わされる(c2)成分(トリブロック共重合体)は、上記のm分岐状ブロック共重合体の合成プロセス(i)〜(ii)と同様にして重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物重合体ブロックAに直接結合したA−Bブロック共重合体のBブロックの有する重合活性末端に芳香族ビニル化合物を付加させて芳香族ビニル化合物重合体ブロックAを形成することによりA−B−Aトリブロック共重合体を得た後、更に上述のプロセス(iv)のごとく重合活性種を失活させ、必要ならば老化防止剤を添加した後、カップリング反応を行なうことなく、分離、乾燥工程を経て得ることができる。
【0055】
本発明において用いるm分岐ブロック共重合体(A−Bk(m)R(Xk(m)Rは、カップリング剤Xk(m)の残基での残基であり、Xk(m)は、m官能性以上のカップリング剤である。)として、n分岐状の(A−BnRのみを高収率で得るためには、n官能性のハロゲン化シラン系カップリング剤(X)を、重合に使用したモノリチウム開始剤1モルに対して1/nモル使用するのが最適である。この使用量を1/nモルより多くするとn分岐よりも分岐度の低い成分が副生するが、更にカップリング剤の量を増すと末端にカップリング剤Xの残基XnRを有するA−B−XnRの構造の線状ブロック共重合体が多量に副生してしまう。この末端にカップリング剤残基を有するA−B−XnRの構造を有する線状ブロック共重合体は、ブロック共重合体製造工程においてスチーム凝固が困難である等いくつかの問題を生じるので、本発明においてはn官能性カップリング剤の使用量はモノリチウム開始剤1モルに対して1/nモル以下が好ましい。
【0056】
複数種のブロック共重合体を同時に得る方法を採用するときは、カップリング剤及びカップリング促進剤の種類並びにこれらの使用量によって得られるブロック共重合体混合物の組成が異なるので、予備実験を行なうことによりこれらの種類及び最適使用量を求めるのがよい。
通常、カップリング剤の量はモノリチウム開始剤1モルに対して0.06〜0.35モルの範囲から、カップリング促進剤の量はカップリング剤1モルに対して0.001〜1.0モルの範囲から選定するのが好ましい。
【0057】
本発明の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物において、本発明の効果を損なわない範囲においてブロック共重合体組成物の5重量%以下を(a)〜(c)成分以外のブロック共重合体、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム等の他のポリマーに置き換えることができる。
【0058】
本発明の粘・接着剤組成物は本発明のブロック共重合体組成物及び粘着付与樹脂から主としてなるものである。
本発明で使用する粘着付与樹脂としては従来公知のものが使用できる。具体的には、ロジン;不均化ロジン、二量化ロジン等の変性ロジン類;グリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとロジン又は変性ロジン類とのエステル化物;テルペン系樹脂;脂肪族系、芳香族系、脂環族系又は脂肪族−芳香族共重合系の炭化水素樹脂又はこれらの水素化物;フェノール樹脂;クマロン−インデン樹脂等が挙げられる。
特に好ましい粘着付与樹脂は、本発明のブロック共重合体組成物と相溶性のよい脂肪族系又は脂肪族−芳香族共重合系の炭化水素樹脂である。
粘着付与樹脂の使用量は、ブロック共重合体組成物100重量部当り10〜150重量部である。
【0059】
本発明の粘・接着剤組成物には、必要に応じ軟化剤(可塑剤)、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤その他の配合剤を添加することができる。
軟化剤としては粘着剤に使用されている、従来公知の芳香族系、パラフィン系又はナフテン系の伸展油(エクステンダーオイル);ポリブテン、ポリイソブチレン等の液状重合体等が使用できる。
軟化剤の使用量は、通常、ブロック共重合体組成物100重量部当り100重量部以下である。
【0060】
酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等のヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオプロピオネート等のチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等の亜燐酸塩類;等が単独で又は混合して使用される。
【0061】
本発明のブロック共重合体組成物と粘着付与樹脂その他の各種添加剤とを混合する方法も特に制限されない。その例として、各成分を溶剤に溶解し均一に混合した後、溶剤を加熱等により除去する方法、各成分をニーダー等で加熱溶融混合する方法を示すことができる。
本発明の粘・接着剤組成物は、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等に溶解して溶液型の粘・接着剤として、乳化剤を用いて水に分解させたエマルジヨン型の粘・接着剤として、又は無溶剤のホットメルト型粘・接着剤等として使用することができる。特に適しているのはホットメルト型粘・接着剤である。
【0062】
本発明によれば、従来技術に比較して、剪断接着破壊温度、保持力、加熱促進劣化後の保持力及び保持力保持率に優れた粘・接着剤用ブロック共重合体組成物を得ることができ、これを粘着付与樹脂と組み合わせることによって優れた粘・接着剤組成物を得ることができる。
【0063】
ホットメルト型粘・接着剤としては、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、病院用ガウン、ベッドパッド、手術用ドレープ等の使い捨て用品に、構造及び弾性付着接着剤を含む多くの用途において特に好適に使用される。
また、種々の粘着テープ、ラベル、製本、アッセンブリー用途等にも非常に有用である。粘着テープ用途は包装用、事務用、両面テープ用、マスキング用、電気絶縁用等多種にわたって適用可能であり、高接着力の特徴を示すとともに、低粘度の特性から溶剤法、ホットメルト法にかかわらず塗布時の操作性に優れている。ラベル用途ではやはり低粘度・高接着力の特性から塗布特性、粘着物性に優れるとともに、ダイカット性も良好である。
【実施例】
【0064】
以下に参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
なお、各特性は、以下の方法により評価した。
【0065】
[重合体の重量平均分子量]
テトラヒドロフランをキャリアーとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求める。具体的には、東ソー社製HLC8220を用いて測定する。分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施する。
【0066】
[ブロック共重合体の組成]
高速液体クロマトグラフィにより得られた各共重合体のピーク面積比率から求める。
【0067】
[共重合体中の芳香族ビニル化合物含有量]
プロトンNMRにより、測定する。
【0068】
[剪断接着破壊温度]
粘着剤組成物をアプリケーターを用いて厚さ1mil(1/1,000インチ)のポリエステルフィルム上に0.03mmの厚さに塗布する。
このポリエステルフィルムから10mm×150mmの長方形の試験片を作成する。
次に、この試験片を、JIS−Z 0237に準じて表面を清浄化したステンレス板に粘着剤組成物塗布部分の10mm×25mmが重なるようにして貼り付ける。
この試料に1kgの荷重を取り付け、オーブン中で、室温から毎分0.5℃で温度を上昇させる。サンプルが凝集破壊したときの温度を剪断接着破壊温度(℃)とする。
【0069】
[保持力]
JIS−Z 0237に準じる。即ち、表面を清浄化したSUS304ステンレス板に25mm×10mmの面積が接するように粘着テープを貼りつけ、50℃において1kgの荷重を吊り下げて粘着テープがステンレス板より脱落するのに要する時間(分)で表示する。
【0070】
[加熱促進劣化後保持力]
上記保持力評価に用いたと同じ試験片を140℃のオーブン中に20分間保持する。この試験片について、上記と同様にして保持力を測定する。
[保持力保持率]
加熱促進劣化後保持力の保持力に対する百分率として求める。
【0071】
[実施例1]
(ブロック共重合体組成物の調製)
80リットルの耐圧反応器を用い、n−ブタン/シクロヘキサン=15/85の割合の混合溶剤18.75kg、重合調整剤としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)9.8ミリモル及び開始剤n−ブチルリチウム195ミリモルを存在させ、30℃で1時間、まずスチレン2.24kgを重合し、続いてイソプレン5.76kgを添加し(このとき、スチレンとイソプレンとの合計量は8.00kg、スチレン/イソプレン重量比率は28/72である。)反応温度が50℃から60℃の間になるように還流冷却により温度制御しながら更に約1時間半重合した。次いで、カップリング剤テトラクロルシラン(TCS)48.8ミリモルとカップリング促進剤(TMEDA)9.8ミリモルとを添加して5時間カップリング反応を行なった。こののち、反応混合物に重合停止剤としてメタノールを50ml、酸化防止剤として4−メチル−ジ−t−ブチルフェノールを40g加えてよく混合し、得られた混合溶液を少量ずつ85〜95℃に加熱された温水中に滴下して溶剤を揮発させた。得られたポリマーを粉砕し、85℃で熱風乾燥してブロック共重合体組成物Iを得た。
ブロック共重合体組成物Iの平均重量平均分子量は19万であり、平均重量平均分子量20.3万の4分岐状ブロック共重合体が80%、平均重量平均分子量16.7万の3分岐状ブロック共重合体が15%と平均重量平均分子量6万の線状ジブロック共重合体が5%含まれていた。(3分岐以上のブロック共重合体中に占める4分岐ブロックの比率は84%である。)
また、上記各ブロック共重合体組成物Iの平均スチレン含有量は、28%であった。
これらの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
(粘・接着剤組成物の調製及び評価)
上記ブロック共重合体組成物Iの30部を攪拌翼型混練機に投入し、これに脂環族系炭化水素樹脂粘着付与樹脂(アルコンM−100、荒川化学工業社製)50部、ナフテン系プロセスオイル(シェルフレックス371、シェル化学製)20部及び酸化防止剤ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](イルガノックス1010、チバスペシャルティケミカル社製)0.2部を添加して系内を窒素ガスで置換したのち、160〜180℃で混練して粘・接着剤組成物(N1)を調製した。
この粘・接着剤の各種接着物性を評価した。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例2〜3]
(ブロック共重合体組成物の調製)
単量体比率並びに重合調整剤、開始剤、カップリング剤及びカップリング促進剤の量を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして、表1に示す平均重量平均分子量及び組成を有するブロック共重合体組成物II〜IIIを得た。なお、表中、TMSは、テトラメトキシシランである。
これらのブロック共重合体組成物を用いて実施例1と同様にして粘・接着剤組成物(N2〜N3)を調製し、これについて実施例1と同様の評価を行なった。
結果を表1に示す。
【0075】
[比較例1〜4]
(ブロック共重合体組成物の調製)
単量体の重量比率を表1に示すように変更し、表1に示す種類及び量の、重合調整剤、開始剤、カップリング剤及びカップリング促進剤を使用するほかは(但し、比較例4においては重合調整剤及びカップリング促進剤の何れをも使用しなかった)、実施例1と同様にして、表1に示す平均重量平均分子量及び組成を有するブロック共重合体組成物IV〜VIIを得た。
これらのブロック共重合体を用いて実施例1と同様にして粘・接着剤組成物(N4〜N7)を調製し、これについて実施例1と同様の評価を行なった。
結果を表2に示す。
【0076】
[比較例5]
(ブロック共重合体の調製)
80リットルの耐圧反応器を用い、n−ブタン/シクロヘキサン=15/85の割合の混合溶剤18.75kg、開始剤sec−ブチルリチウム72.7ミリモルを存在させ、まず表1に示すスチレンの半量を30℃で1時間、重合し、続いてイソプレンの全量を添加して反応温度が50℃から60℃の間になるように還流冷却により温度制御しながら約1時間半重合し、更に続いてスチレンの残り半量を添加して50〜60℃で1時間重合させた。カップリングは行なわなかった。こののち、実施例1と同様に処理して線状トリブロック共重合体VIIIを得た。
この線状ブロック共重合体VIIIを用いて実施例1と同様にして粘・接着剤組成物(N8)を調製し、これについて実施例1と同様の評価を行なった。
結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表1及び表2の結果から、粘・接着剤組成物を得るのに使用した芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物(スチレン)含有量の低い場合(比較例1)は、剪断接着破壊温度が大幅に劣り、保持力及び加熱促進劣化後保持力において著しく劣ることが分かる。このスチレン含有量を本発明で規定する範囲内としても、(a)成分(多分岐ブロック共重合体成分)中の4分岐ブロック共重合体の含有比率が50重量%より低い場合(比較例4)は、保持力に劣り、加熱促進劣化後保持力において大幅に劣ることが分かる。また、本発明で規定する条件から、平均重量平均分子量が外れる(160,000より低い)場合(比較例2)及び(a)成分含有量の比率が50%重量以下と、本発明の規定から外れる場合(比較例3)は、剪断接着破壊温度、保持力及び加熱促進劣化後保持力の何れについても大幅に劣ることが分かる。更に、3分岐以上のブロック共重合体を全く含まない場合(比較例5)は、加熱促進劣化後保持力及び保持力保持率のいずれもが著しく劣ることが分かる。
これに対して、本発明の要件を満足する芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物で構成した粘・接着剤組成物は、剪断接着破壊温度、保持力、加熱促進劣化後保持力及び保持力保持率のいずれについても優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):(A−Bk(m)R(式中、Aは、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bは、イソプレンの重合体ブロックであり、Xk(m)Rは、m官能性以上のカップリング剤Xk(m)の残基であり、mは、3以上の整数である。)で表わされる放射状ブロック共重合体(a)を含有してなる芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物であって、
(1)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均芳香族ビニル化合物含有量が25〜50重量%であり、
(2)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均重量平均分子量が、ポリスチレン換算で、160,000以上、250,000以下であり、
(3)芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体中の(a)成分含有比率が50重量%を超え、
(4)(a)成分中における4分岐以上のブロック共重合体の含有量が50重量%以上である、
ことを特徴とする芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項2】
(a)成分の含有量が75重量%以上である請求項1記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項3】
(a)成分中における4分岐以上のブロック共重合体の含有量が80重量%以上である請求項1又は2に記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項4】
(a)成分が一般式:(A−Bk(4)Rで表される4分岐ブロック共重合体及び一般式(A−Bk(3)Rで表される3分岐ブロック共重合体からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項5】
一般式:A−B(式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックである)で表わされるジブロック共重合体(b)を更に含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項6】
芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均芳香族ビニル化合物含有量が27〜33重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項7】
芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物を構成する全ての芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体についての平均重量平均分子量が、ポリスチレン換算で、170,000以上、220,000以下である請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−イソプレンブロック共重合体組成物100重量部と粘着付与樹脂10〜150重量部とを含んでなる粘・接着剤組成物。

【公開番号】特開2006−182839(P2006−182839A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375809(P2004−375809)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】