説明

芳香族ポリカーボネート共重合体および該共重合体からなる光学用成形材料

【課題】 固有複屈折の絶対値及び光弾性係数が低く、曲げ弾性率が高い特定のポリカーボネートを光学用成形材料として用いることによって、複屈折が低く、高速回転時の変形が小さく光ディスク基板を提供する事を課題とする。
【解決手段】 9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンから誘導される構成単位(A)と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンから誘導される構成単位(B)から実質的に構成され、構成単位(A)と構成単位(B)のモル比が(A):(B)=60:40〜80:20である芳香族ポリカーボネート共重合体、該共重合体よりなる光学用成形材料、該成形材料から形成された光ディスク基板、および該基板を有する光ディスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低複屈折、高剛性を併せ持つ芳香族ポリカーボネート共重合体、それより形成された光ディスク基板に代表される光学用成形材料、及び該光ディスク基板からなる光ディスクに関する。さらに詳しくは、本発明は、CD(Compact Disc)やMO(光磁気ディスク)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu−ray Disc)、HD−DVD(High Definition Digital Versatile Disc)、HVD(Holographic Versatile Disc)などの光ディスク分野において複屈折が低く、更には高速回転時の変形が小さい光ディスク基板よりなる光ディスクに関する。特に本発明は、記録容量の極めて大きな高密度光ディスク用の基板材料用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの記録密度は、CDの0.6GBからDVDの4.7GB、そしてBD及びHD−DVDの15〜25GBと向上の一途を辿っている。例えば、再生専用のDVD−ROMをはじめ、記録再生可能なDVD−R、DVD−RW、DVD−RAMにおいても4.7GBの容量が実現されている。また、デジタルハイビジョン放送に対応した記録媒体であるBD、HD−DVDにおいても15〜25GBを実現している。しかしながら、情報技術の進展に伴い、光ディスク分野の市場発展は目覚しく発展しているため、今後はより膨大な情報を記録できる高密度光ディスクの登場が期待されている。例えば、大容量と高転送レートを同時に達成する次世代記録方式の一つとして、ホログラムデータ・ストレージ技術が脚光を浴びている。これらの高密度記録媒体は、デジタル放送などのハイビジョン映像を長時間録画できる100GBit/inch2以上の記録密度を有する。
【0003】
従来、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)にカーボネート前駆物質を反応させて得られるポリカーボネート樹脂(以下、PC−Aという)は透明性、耐熱性、機械的特性、寸法安定性が優れているがゆえにエンジニアリングプラスチックとして多くの分野に広く使用されてきた。さらに近年その透明性を生かして光ディスク、光ファイバー、レンズ等の分野への光学用材料としての利用が展開されており、特に光ディスクの分野でその基板素材として広く使用されている。
【0004】
しかしながら、記録情報の大容量化に伴い、記録情報の高転送レート化が求められるため、光ディスクを記録及び/または再生する際の光ディスクの回転速度は高速化する傾向にある。このときに、ディスク基板自体の剛性すなわち曲げ弾性率が低いと高速回転時の光ディスクの変形が大きくなり、高密度情報記録媒体にとっては大きな問題になってくる。特に、近接場光を利用する方式の大容量情報記録媒体においては、ピックアップレンズと基板との距離をナノメートル領域で接近させる必要があるため、高速回転時の変形が重要な特性となる。
【0005】
また、高密度の情報記録媒体において、微細化した溝に400nm〜800nm内のいずれかの波長を有するレーザ光を集光させて信号を読み取る場合は、入射光の角度依存性が大きくなるため、光ディスクにおけるレーザ光透過層は、光学的に等方性であることも重要となる。通常、PC−Aよりなる光透過層にレーザ光を透過させると光ディスク作成過程である射出成形時に生じた分子配向や残留応力などに起因する複屈折を生じる。複屈折が高いことは、光透過層にレーザ光を通過させて信号を記録及び/または再生する方式の光ディスクにとって致命的な欠陥ともいえる。
【0006】
そこで、上記課題に関する改善策として様々な手法が検討されている。まず、光ディスクの高速回転時の変形改善策として、曲げまたは引張り弾性率が高い、即ち高剛性材料を使用する事が有効である。この為、ポリカーボネート樹脂の剛性を改良する事を目的として、ガラス繊維や充填材などの添加物を配合する手法が試みられている。しかし、上記添加物は、ポリカーボネート樹脂の剛性を向上させるが、射出成形時の流動性を低下させる傾向にあるため、成形性が低下するという問題があった。さらに、成形品表面に浮き出ることが多く、基板の外観不良の原因になるという問題もあり、添加物が配合された高剛性材料は、光透過層への利用が困難である。
【0007】
複屈折低減の要求に対しては、樹脂自身の光弾性係数を低減させ得る特定構造のビスフェノールをカーボネート結合して得られる光学式ディスク基板用芳香族ポリカーボネート共重合体が一般式の表現形式で広範囲に開示されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0008】
また、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン構成単位を特定割合導入したポリカーボネート共重合体についても提案されているが(例えば特許文献4参照)、そのガラス転移温度は200℃を超える領域にあり、光学記録媒体用の基板やレンズなどの高精密な転写性が要求される用途への射出成形材料としては使用することが困難である。
【0009】
その他に例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン化合物から得られるポリカーボネート共重合体を基板とした光ディスクが開示され、該樹脂はPC−Aより複屈折が小さくなることが具体的に示されている(例えば特許文献5参照)。
【0010】
また、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン化合物から得られるポリカーボネート共重合体は光ディスク基板材料として優れたものであることが示されている(例えば特許文献6、7)。
【0011】
しかしながら、上記提案において具体的に示されている共重合体は、いずれも記録密度の高い光ディスク基板用材料として良好な特性を有するものの、近年のより高密度の記録容量を要する光ディスク基板用材料としては、必ずしも十分とはいえず、複屈折がより低く、剛性がより高く、吸水率のより小さい光ディスクにおける光透過層に用いられる光学成形材料が求められている。
【0012】
【特許文献1】特開平2−99521号公報
【特許文献2】特開平2−128336号公報
【特許文献3】特開平2−208840号公報
【特許文献4】特開平6−313035号公報
【特許文献5】特開平2−304741号公報
【特許文献6】特開平8−34845号公報
【特許文献7】特開平8−34846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、低複屈折および高剛性を併せ持つ芳香族ポリカーボネート共重合体、該共重合体からなる光学用成形材料、並びに該成形材料から形成された複屈折および高速回転時の変形が小さい、光ディスク基板及び該基板を有する光ディスクを提供することにある。本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定構造の二価フェノールを特定比率で共重合させることによって固有複屈折の絶対値及び光弾性係数がより低く、かつ曲げ弾性率がより高い芳香族ポリカーボネート共重合体が得られること、及び該共重合体樹脂を光学用成形材料として用いることによって、複屈折が低く、高速回転時の変形が小さい基板が得られ、記録容量が大容量化された光ディスクの製造が可能であることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。上記課題を解決する為に、本発明によれば、(A)下記式[1]
【化1】

(式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、またはハロゲン原子である。)
で表される構成単位と
(B)下記式[2]
【化2】

(式中、複数のRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。また、RおよびRは各々水素原子、または炭素原子数1〜9のアルキル基を表す。ただし、RおよびRの炭素原子数の合計は9または10である。)
で表される構成単位から実質的に構成され、構成単位(A)と構成単位(B)成分のモル比が(A):(B)=60:40〜80:20である芳香族ポリカーボネート共重合体、該共重合体樹脂からなる光ディスク基板及び該基板を有する光ディスクが提供される。
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。通常光ディスク基板はポリカーボネート樹脂を射出成形することによって作製される。この際に、ポリカーボネートの分子鎖は強いせん断力の作用により配向することから、固有複屈折の絶対値に起因する無視できない程大きな複屈折(配向複屈折)が発生する。つまり、光ディスク成形時の複屈折は、応力に起因する複屈折のみならず配向に起因する複屈折においても低複屈折性が要求される。従って、従来のように応力に起因する複屈折を低減させるために、ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分の光弾性係数のみに注目しても、十分な複屈折低減効果は得られなかった。
【0016】
本発明者が複屈折について詳細に検討したところ、配向に起因する複屈折を低くするため、固有複屈折値の正負符号の異なる2つ以上の二価フェノール成分が共重合されることにより配向に起因する複屈折を低減させることが可能であることが判明した。即ち、本発明者の検討によれば、上記式[1]で表されるフルオレン環含有二価フェノールから誘導される構成単位と、該二価フェノールと固有複屈折値の正負符号が異なる二価フェノールとして上記式[2]で表されるビスフェノールA骨格のアルキリデン部位を変性させた二価フェノールから誘導される構成単位とを使用することにより、従来のPC−Aよりも固有複屈折値の絶対値を低くすることが可能であることが判明した。更に、フルオレン環含有二価フェノールを共重合相手とすることにより、高剛性を同時に発現できることも判明した。
【0017】
以上の知見から、上記式[1]で表される構成単位(A)と、上記式[2]で表される構成単位(B)から実質的に構成され、構成単位(A)と構成単位(B)のモル比が(A):(B)=60:40〜80:20である芳香族ポリカーボネート共重合体が上記課題を満足する、即ち、低複屈折および高剛性を併せ持つ芳香族ポリカーボネート共重合体であること、並びに該共重合体は、低複屈折および高剛性の光ディスク基板を高効率で得られる材料であることが判明した。
【0018】
構成単位(A)としては、R、R、R及びRが同一もしくは異なり、水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基またはフェニル基である化合物が好ましい。かかる好ましい構成単位(A)の具体例としては、例えば9,9―ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等から誘導されたカーボネート結合を有する構成単位が挙げられる。
【0019】
構成単位(B)としては、式[2]におけるRが水素原子である構成単位が好ましく、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、及び1,1−ビス(2,3−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)デカン等が挙げられる。その中でも特に、構成単位(A)成分は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、構成単位(B)は1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンから誘導されたカーボネート結合を有する構成単位であることが好ましい。
【0020】
また、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比は、(A):(B)=60:40〜80:20が好ましく、(A):(B)=65:35〜75:25がより好ましく、(A):(B)=67:33〜72:28が最も好ましい。また、それらを成形材料に用いることにより複屈折の極めて低い光学用成形品が得られ、該成形品は高密度の光ディスク基板に有用である。構成単位(A)のモル比が60モル%未満の場合、ガラス転移温度が低くなり成形性は向上するが、固有複屈折値の絶対値及び光弾性係数は大きくなり複屈折が大きくなる。したがって、例えば高密度の光ディスクの光透過層に使用するには不十分である。また、構成単位(A)のモル比が80モル%を超える場合、固有複屈折値の絶対値が大きくなるため、配向に起因する複屈折が大きくなるとともに、ガラス転移温度が高くなるため成形性が劣り、同様に例えば高密度の光ディスク基板に使用するには不十分である。
【0021】
また、光ディスク基板および光ディスクは、その使用環境下(例えば光ディスク駆動装置内および保管雰囲気など)において、変形しないことが必要となる。かかる要求から、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は110℃以上であることが望ましく、125℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が110℃未満であると、過酷な使用環境下、例えば自動車内に長時間放置されていた場合において、基板が熱変形を起こしやすくなり、フォーカスエラーやトラッキングエラーなどを起こしやすくなるので好ましくない場合がある。但し、ガラス転移温度が180℃を超えると成形性が劣るので好ましくない。本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を使用し、JIS K7121に準拠した昇温速度20℃/minで測定し得られるものである。
【0022】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体の粘度平均分子量は、10,000〜30,000の範囲内に制御される事が好ましく、11,000〜20,000の範囲内にある事がより好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート共重合体は、光学用成形材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。過剰に低い分子量では、成形後の光学用成形品としての強度に問題が生じ、また逆に過剰に高いと成形時の溶融流動性が悪く、光学用成形品に好ましくない光学歪みが増大する。なお、本発明における粘度平均分子量とは、測定に供する樹脂(0.7g)を塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c (但し、[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4 0.83
c=0.7
【0023】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、45×10−12/N(45×10−13cm/dyne)以下、より好ましくは40×10−12/N(40×10−13cm/dyne)の光弾性係数であることを満足し得る。かかる範囲内の光弾性係数の値を有することにより、応力に起因する複屈折が小さくなり、殊に高密度の光ディスクにおいて有利に利用される。
【0024】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は後述する方法で測定した複屈折率(複屈折率=位相差/フィルムの厚み)の絶対値が1.0×10−3未満であることが特に好ましい。かかる範囲内の複屈折率の値を有すると配向に起因する複屈折が小さくなり、殊に高密度の光ディスクにおいて有利に利用される。
【0025】
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体はASTM D−0790に従って測定した曲げ弾性率が2,800MPa〜4,000MPa、より好ましくは2,900MPa〜3,900MPaであることを満足し得る。曲げ弾性率が2,800MPa以上であることにより、例えば成形された光ディスクが高速回転する際に起こる面振れを抑制でき、高密度の光ディスクにより適するようになる。また、上記曲げ弾性率の範囲では、光ディスク基板に代表される光学用成形品は十分な靭性と良好な成形加工性とを満足できる。
【0026】
本発明によれば、上記芳香族ポリカーボネート共重合体よりなる光学用成形材料が提供され、更に該光学用成形材料から形成されたことを特徴とする光ディスク基板、および該基板を有する光ディスクが提供される。かかる光ディスク基板、および該基板を有する光ディスクは、射出成形または押出成形のいずれかから形成されることが好ましく、いずれの成形方法においても本発明の特徴は発揮される。特に光ディスク基板は射出成形により形成されことが好ましい。
【0027】
かかる光ディスク基板は、厚みが5μm〜1200μmであることが好ましく、100〜1200μmがより好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂共重合体よりなる光学用成形材料は、グルーブもしくはピットの光学的深さが、記録及び/または再生に使用されるレーザ光の波長λと該波長における基板材料の屈折率nλに対してλ/20nλ〜λ/2nλ、好ましくはλ/8nλ〜λ/2nλ、さらに好ましくはλ/4nλ〜λ/2nλの範囲にある光ディスク基板を得ることができる。上記波長および深さの単位は例えばナノメートルである。
かくして記録密度が100Gbit/inch以上である高密度光学ディスク記録媒体の基材を容易に提供することができる。
【0028】
上記芳香族ポリカーボネート共重合体は構成単位[1]を誘導する二価フェノール及び構成単位[2]を誘導する二価フェノールをカーボネート前駆体と溶液重合法または溶融重合法によって反応させることよって製造することができる。より好ましい芳香族ポリカーボネート共重合体は、溶液重合法、即ち界面重合法により製造されたものである。かかる二種類の二価フェノールはカーボネート前駆体と同時に反応させても、種類毎に順次反応させてよい。
【0029】
また他の二価フェノールから誘導されるカーボネート結合構成単位を、本発明の目的および特性を損なわない限り、10モル%以下の割合、好ましくは5モル%以下の割合で共重合させてもよい。かかる他の二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−A)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン等が挙げられる、これらは単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0030】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が挙げられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられるが、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートが好ましい。上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、及び二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。
【0031】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0032】
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、一般にはフェノールまたは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式[3]
【化3】

(式中、Aは水素原子または炭素原子数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはフェニル置換アルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。)
で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0033】
上記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、フェニルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、tert−オクチルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0034】
また、他の単官能フェノール類としては、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができ、これらを用いてポリカーボネート重合体の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、基板としての物性、特に樹脂の吸水率を低くする効果があり、また、基板の複屈折が低減される効果もあり好ましく使用される。
【0035】
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%の末端に導入されることが望ましく、更に好ましくは80モル%以上の末端に導入される。また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
溶融重合法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応が代表的であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を1,300Pa〜13Pa(10〜0.1Torr)程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0037】
カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素原子数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0038】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ素やアルミニウムの水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第4級アンモニウム塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、亜鉛化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、有機錫化合物、鉛化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物などの通常エステル化反応やエステル交換反応に使用される触媒があげられる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−5当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−6当量の範囲で選ばれる。
【0039】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートを加えることが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく使用される。
【0040】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後の芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが好ましく挙げられる。
前記以外の反応形式の詳細についても、各種の文献および特許公報などで良く知られている。
【0041】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、その使用目的が光ディスク基板の如き光学用成形品の製造であることを考えると、従来公知の常法(溶液重合法、溶融重合法など)により製造した後、溶液状態において濾過処理を行い未反応成分等の不純物や異物を除去することが好ましい。さらに、射出成形(射出圧縮成形を含む)に供するためのペレット状ポリカーボネート樹脂を得る押出工程(ペレット化工程)においても、溶融状態の時に、焼結金属フィルターを通すなどして異物を除去することが望ましい。該フィルターとしては濾過精度10μm以下のものが好ましく使用される。いずれにしても射出成形(射出圧縮成形を含む)前の原料樹脂は異物、不純物、溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。
【0042】
更にかかる低異物のペレットを製造するためには、上記以外にも押出機やペレタイザー等の製造装置を清浄な空気の雰囲気下に設置すること、冷却バス用の冷却水を異物量の少ないものにすること、並びに原料の供給ホッパー、供給流路、および得られたペレットの貯蔵タンク等をより清浄な空気等で満たすことが好ましい。例えば、特開平11−21357号公報に提案されているのと同様な方法をとることが適当である。また押出機内に窒素ガスに代表される不活性ガスを流し込み、酸素を遮蔽する方法も、色相の改善手段として好適に利用できる。
【0043】
更にかかるペレットの製造においては、光学成形材料用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の更なる低減、運送または輸送時に発生する微小粉の更なる低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を更に行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱(楕円柱を含む)である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。楕円柱において長径に対する短径の割合は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0044】
本発明において、前記芳香族ポリカーボネート共重合体には必要に応じて、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸およびこれらのエステルよりなる群から選択された少なくとも1種のリン化合物を配合し、光学用成形材料とすることができる。かかるリン化合物の配合量は、該芳香族ポリカーボネート共重合体100重量部に対して0.0001〜0.05重量部が好ましく、0.0005〜0.02重量部がより好ましく、0.001〜0.01重量部が特に好ましい。このリン化合物を配合することにより、かかる芳香族ポリカーボネート共重合体の熱安定性が向上し、成形時における分子量の低下や色相の悪化が防止される。
【0045】
かかるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸およびこれらのエステルよりなる群から選択される少なくとも1種のリン化合物であり、好ましくは下記一般式よりなる群から選択された少なくとも1種のリン化合物である。
【0046】
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

[式中、R〜R21は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜15のアリール基、または炭素原子数7〜18のアラルキル基を表し、また1つの化合物中に2つのアルキル基が存在する場合は、その2つのアルキル基は互いに結合してリン原子を含む環を形成していてもよい。]
【0047】
上記炭素原子数1〜20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、およびオクタデシルなどの基が例示される。上記炭素原子数6〜15のアリール基としては、フェニル、トリル、およびナフチルなどの基が例示される。更に炭素原子数7〜18のアラルキル基としては、ベンジルおよびフェネチルなどの基が例示される。
【0048】
上記式[4]で示されるリン化合物としては、例えばトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、などが挙げられる。
【0049】
上記式[5]で示されるリン化合物としては、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどが挙げられ、上記式[6]で示されるリン化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスホナイトなどが挙げられ、また上記式[7]で示される化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピルなどが挙げられる。上記式[8]で示される化合物としてはビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0050】
これらのリン化合物のなかで、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスホナイトが好ましく使用される。
【0051】
さらに本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体には、必要に応じて一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステルを加え、光学用成形材料とすることもできる。
かかる高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルであるのが好ましい。また、かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、2−エチルヘキシルステアレートなどが挙げられ、なかでもステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好ましく用いられる。かかるアルコールと高級脂肪酸とのエステルの配合量は、該芳香族ポリカーボネート共重合体100重量部に対して0.01〜2重量部が好ましく、0.015〜0.5重量部がより好ましく、0.02〜0.2重量部がさらに好ましい。配合量がこの範囲内であれば離型性に優れ、また離型剤がマイグレートし金属表面に付着することもなく好ましい。
【0052】
発明の芳香族ポリカーボネート共重合体には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を添加し、光学用成形材料とすることができる。その例としてはフェノール系酸化防止剤を示すことができ、具体的には例えばトリエチレングリコール−ビス(3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。これら酸化防止剤の好ましい添加量の範囲は芳香族ポリカーボネート共重合体100重量部に対して、0.0001〜0.05重量部である。
【0053】
上記ポリカーボネート共重合体より成形された光ディスク基板は高速回転時の変形が小さく、且つ複屈折が低くなる。特に光ディスク基板の複屈折は50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。また、入射角30度で測定した斜め入射複屈折位相差は30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0054】
上記ポリカーボネート共重合体からなる光学用成形材料、より具体的にはペレット形状を有する光学用成形材料より光ディスク基板を製造する場合には射出成形機(射出圧縮成形機を含む)を用いる。この射出成形機としては一般的に使用されているものでよいが、炭化物の発生を抑制しディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューとして樹脂との付着性が低く、かつ耐蝕性、耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いるのが好ましい。
【0055】
射出成形の条件としてはシリンダー温度は好ましくは300〜450℃、より好ましくは320〜390℃であり、金型温度は好ましくは50〜180℃、より好ましくは100〜140℃であり、これらにより光学的に優れた光ディスク基板を得ることができる。
【0056】
成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
【0057】
このように成形された光ディスク基板は、CD、や光磁気ディスク(MO)、DVDなど現行の光ディスクはもちろん、ディスク基板上に被せた厚さ0.1mmの透明なカバー層を介して記録再生を行うBlu−ray Disc(BD)やDVDと同じ0.6mm基板を張り合わせたHD−DVDに代表される高密度光ディスク用基板としても好適に使用される。
【0058】
光ディスク基板は以下の方法で作成される。
例えば、DVD、HD−DVDの場合、0.6mm厚の基板上に記録膜および記録膜保護膜よりなる記録層、並びに光反射層が形成された基板を2枚貼り合わせる事により作成される。また、Blu―ray Discの場合は1.1mm厚の基板上に光反射層、記録膜および記録膜保護膜よりなる記録層、並びに透明保護層を形成する事により作成される。なお、これらの層は複数形成されてもよい。
【0059】
記録膜は追記型光ディスクの場合、レーザ光の照射によって光学特性が不可逆的に変化したり、凹凸形状が形成される膜であり、例えばレーザ光の照射による加熱で分解して、その光学定数が変化すると共に、体積変化によって記録膜の変形を生じさせるシアニン系、フタロシアニン系、アゾ系の有機色素等が用いられる。
【0060】
書き換え可能型光ディスクの場合、記録膜はレーザ光の照射により非晶状態と結晶状態との間の可逆的な相構造変化を生ずる材料からなる膜(相変化記録型)、もしくは膜面に垂直な方向に磁化容易方向を有し、任意の反転磁区を作ることにより情報の記録、再生、消去が可能な磁気光学効果を有する磁性薄膜(光磁気記録型)である。相変化記録型の記録膜としては、例えば、カルコゲナイド系材料であるGeSbTe系、InSbTe系、InSe系、InTe系、AsTeGe系、TeOx−GeSn系、TeSeSn系、FeTe系、SbSeBi系、BiSeGe系等が用いられているが、GeSbTe系よりなる膜は繰り返し記録・消去時における安定動作が良好で好ましい。光磁気記録型の記録膜としては、例えば、TbFe、TbFeCo、GdTbFe、NdDyFeCo、NdDyTbFeCo、NdFe、PrFe、CeFe等の希土類元素と遷移金属元素との非晶質合金薄膜、交換結合を利用したそれらの二層膜、Co/Pt、Co/Pd等の人工格子多層膜、CoPt系合金等を用いることができる。
【0061】
また本発明においては、記録膜を狭持する記録膜保護膜としては誘電体材料を用いることが好ましい。これにより、媒体としての結晶相と非晶質相の反射率差、および磁気光学効果を高めることができる。さらにこの場合には、誘電体材料は屈折率nが高い材料、すなわちn≧1.6である材料、さらに好ましくはn≧1.8である材料であることが好ましい。例えば、SiO系、SiON系、Ta、TiO、Al、Y、CeO、La、In、GeO、GeO、PbO、SnO、SnO、Bi、TeOWO、WO、Sc、ZrO等の酸化物、TaN、AlN、SiN系、AlSiN系等の窒化物、ZnS、Sb、CdS、In、Ga、GeS、SnS、PbS、Bi等の硫化物、またはこれらの混合材料やこれらの積層体などを保護膜として用いることが好ましい。
【0062】
光反射層としては、評価に用いるドライブヘッドのレーザ光に対し、記録層よりも反射率の高い材料であることが特性向上のために好ましい。具体的には、使用レーザ光波長における光学定数である屈折率nと消衰係数kが、n≦3.5、かつk≧3.5であるような材料を選択することが好ましい。さらに好ましくはn≦2.5かつ4.5≦k≦8.5であり、この条件で作製した媒体では、再生信号特性のより一層の向上が実現できる。
【0063】
一方レーザ光による加熱で信号を記録する際、光反射層の熱伝導率が高すぎると、熱拡散が大きく、強いレーザパワーを必要とする。このため現在多用されているパワーが15mW以下の半導体レーザで信号の記録を可能とするためには、光反射層に用いる材料の熱伝導率は100[W/(m・K)]以下であることが好ましく、さらには80[W/(m・K)]以下であることがより好ましい。
【0064】
このような条件を満足する材料として、AlもしくはAgにAu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Tc、Re、Ru、Os、Ir等の1種類以上の元素を添加した合金が挙げられる。なお、これら合金において添加元素の添加量が、0.5原子%より少ないと前述の熱伝導低下の効果は小さく、逆に20原子%より多いと前述の光反射率の低下が大きく再生信号特性の面で不利である。従って添加元素の含有量は0.5〜20原子%の範囲におさめることが好ましい。また、特に金属反射膜自身の耐久性を高めるという点で、上記特定元素群の中ではTi、Zr、Hf、Ta、Cr、Reが好ましい。これらの反射層の膜厚範囲は10〜500nmであるが、反射率の低下による再生信号特性の低下を抑え、かつレーザパワーが15mWで記録可能とするためには、好ましくは30〜200nm、特に好ましくは40〜100nmである。
なお、再生専用光ディスク媒体の場合は、上述した光反射層のみを基板上に形成する事になるが、材料としては同じものを使用することが出来る。
【0065】
更に、情報を干渉縞による体積ホログラムとして記録及び/または再生するHVD(Holographic Versatile Disc)に代表される大容量記録媒体においても好適に使用される。これらの記録媒体は、ホログラフィによって情報をイメージ情報の形で光ディスクに高密度で記録する方式におけるイメージ情報の記録は、イメージ情報を担持する情報光と参照光とを光ディスクの記録層で重ね合わせ、情報光と参照光の干渉により生じる干渉縞パターンを記録層に書込むことにより実現される。再生照明光を干渉縞パターンが書込まれた記録層に照射すると、照射された光が干渉縞パターンによって回折されることによりイメージ情報が再生される。ホログラフィにより情報が記録される上記光ディスクは、セクターアドレスやトラックアドレスなどが記録されたプリフォーマット領域(エンボスピット)が形成された支持基板、該基板上に形成された反射層,該反射層上に形成されたカバー基板よりなり、カバー基板側から情報光及び/または参照光を入射して記録及び/又は再生を行う。記録層は支持基板とカバー基板の間に存在する。なお、プリフォーマット領域をカバー基板に形成する場合もある。本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体から形成された記録層上部のカバー基板は、複屈折が小さくホログラムを正確に再現することが可能である。またかかる共重合体は記録層下部に形成された支持基板に利用されても、高剛性であることから高速回転における変形が小さいため再生時のエラーレートが小さく、基板材料として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、高剛性を示し、固有複屈折値の絶対値及び光弾性係数が低いことから、複屈折、高速回転時の変形が小さい光ディスク基板に代表される光学用成形品、殊に大容量化された光ディスクに用いられる、かかる光学用成形品用の成形材料として好適に用いられ、その奏する工業的効果は格別である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。実施例及び比較例において「部」は重量部である。なお評価は下記の方法に従った。
【0068】
(1)粘度平均分子量
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂ペレット0.7gを溶解し、その溶液の20℃における比粘度(ηsp)から上述の式を用いて算出した。
【0069】
(2)ガラス転移温度
ポリカーボネート樹脂パウダーを用いてティー・エイ・インスツルメント(株)製の熱分析システム DSC−2910を使用して、JIS K7121に準拠して窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0070】
(3)光弾性係数
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂ペレット5.0gを溶解させ、その溶液を平坦なガラス板上にキャストして一晩放置し、キャストフィルムを作成した。該フィルムを60℃、2時間乾燥させた後、長さ50mm、幅20mm、平均厚み150μmのフィルムを作製し、日本分光(株)製エリプソメータM−220にて測定を行った。
【0071】
(4)複屈折率
ポリカーボネート樹脂ペレットを塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度15重量%の溶液から、平坦なガラス板上にドープをキャストして平均厚み60μm、幅方向の厚さバラツキが1.1μmのフィルムを作製した。本フィルムの端部を切り落として幅100mm、長さ100mmとし、塩化メチレン溶液を除去するため該フィルムを120℃、2時間乾燥させた。得られたフィルムを所定延伸温度(ガラス転移温度+10℃)にて長さ方向に延伸速度15mm/minで2.0倍一軸延伸を行い、幅71mm、平均厚み42μm、長さ200mmの延伸フィルムを得た。該フィルムを偏光板にて観察を行ったところ、均一に延伸されていることを確認した。その後、日本分光(株)製エリプソメータM−220にて位相差を測定した。得られた位相差から下記式により複屈折率を算出した。
Δn=Ret/d
Δn;複屈折率 Ret;位相差 d;フィルム厚み
【0072】
(5)曲げ弾性率
ポリカーボネート樹脂ペレットを120℃、5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−150)により、シリンダー温度340℃で射出成形した試験片を用い、ASTM−D0790に従って測定した。
【0073】
(6)斜め入射複屈折位相差
ポリカーボネート樹脂ペレットを120℃で5時間乾燥後、射出成形機((株)名機製作所M35B−D−DM)を使用して、直径120mmφ、厚さ1.2mmの光ディスク基板を成形した。次に、該光ディスク基板の信号面側に反射膜、誘電層1、相変化記録膜、誘電層2をスパッタ蒸着させ、その上に該基板と同じポリカーボネート樹脂からなる薄膜カバー層を貼り合せた光ディスクを作成した。該基板の複屈折を(株)オーク製作所製エリプソメータADR−200B自動複屈折測定装置を用い、入射角30度で測定した。
【0074】
(7)光ディスク基板成形及び回転強度試験
上記作成した基板を毎分3万回転で5分間高速回転させたときの回転強度試験を行った。本評価では、光ディスクの高速回転時の遠心力による変形に伴い、変形が小さく破壊しないものを○とし、変形が大きく破壊したものを×とした。
【0075】
[実施例1]
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、48%水酸化ナトリウム水溶液69.1部およびイオン交換水301.6部を仕込み、これに9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン51.5部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン23.9部およびハイドロサルファイト0.15部を溶解した後、塩化メチレン231.5部を加え、撹拌下、15〜25℃でホスゲン28.0部を約60分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液8.6部およびp−tert−ブチルフェノール1.41部を加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン0.07部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取出口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。その後、該パウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%となるように添加し、均一に混合した後、かかるパウダーをベント式二軸押出機[(株)神戸製鋼所製KTX−46]により脱気しながら溶融混錬し、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。該ペレットの粘度平均分子量、ガラス転移温度、光弾性係数、曲げ弾性率、複屈折率を表1に掲載した。該ペレットから、射出成形機((株)名機製作所製M35B−D−DM)、キャビティ厚0.6mmt、直径120mmの金型、スタンパーを用い、シリンダー設定温度360℃、金型温度141℃、充填時間0.2秒、冷却時間15秒、型締力30トンの条件で光ディスク基板を成形した。この基板を用いて斜め入射複屈折位相差測定及び回転強度試験を実施し、結果を表1に併記した。
【0076】
[実施例2]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン55.4部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン20.5部とした以外は全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を147℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板を用いて斜め入射複屈折位相差測定及び回転強度試験を実施し、結果を表1に併記した。
【0077】
[実施例3]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン59.4部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン17.1部とした以外は全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を149℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板を用いて斜め入射複屈折位相差測定及び回転強度試験を実施し、結果を表1に併記した。
【0078】
[比較例1]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン31.7部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン41.0部とした以外は全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を97℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板を用いて斜め入射複屈折位相差測定及び回転強度試験を実施し、結果を表1に併記した。
【0079】
[比較例2]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン71.2部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン6.8部とした以外は全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を175℃として成形を行ったが、溶融粘度が高く、十分な基板が得られなかった。
【0080】
[比較例3]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンより得られたポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製パンライトAD−5503)を用い、金型温度を125℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板を用いて斜め入射複屈折位相差測定及び回転強度試験を実施し、結果を表1に併記した。
【0081】
【表1】

【0082】
上記表から明らかなように、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、高剛性を示し、固有複屈折値の絶対値及び光弾性係数が低いことから、大容量化された光ディスクに用いられる光ディスク基板に代表される光学用成形品のための材料として好適に用いられることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式[1]
【化1】

(式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、またはハロゲン原子である。)
で表される構成単位と
(B)下記式[2]
【化2】

(式中、複数のRは各々独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基、または炭素原子数1〜6のアルコキシ基を表す。また、RおよびRは各々水素原子、または炭素原子数1〜9のアルキル基を表す。ただし、RおよびRの炭素原子数の合計は9または10である。)
で表される構成単位から実質的に構成され、構成単位(A)と構成単位(B)のモル比が(A):(B)=60:40〜80:20である芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項2】
構成単位(A)と構成単位(B)のモル比が(A):(B)=65:35〜75:25である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項3】
構成単位(A)が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンから誘導される構成単位であり、構成単位(B)が1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンから誘導される構成単位である請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項4】
20℃の塩化メチレン溶液で測定された粘度平均分子量が10,000〜30,000の範囲内にある請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項5】
上記請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体よりなる光学用成形材料。
【請求項6】
上記請求項5記載の光学用成形材料から形成されたことを特徴とする光ディスク基板。
【請求項7】
上記光ディスク基板に形成されたグルーブもしくはピットの光学的深さが、記録再生に使われるレーザ光の波長λと該波長における基板材料の屈折率nλに対してλ/20nλ(nm)〜λ/2nλ(nm)の範囲であることを満足する請求項6に記載の光ディスク基板。
【請求項8】
請求項7記載の光ディスク基板を有する光ディスク。

【公開番号】特開2006−328106(P2006−328106A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149469(P2005−149469)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】