芳香族化合物、その用途およびその製造方法
【課題】天然由来物質を原料として得ることができるとともに、400nm付近を吸収端とする広い波長領域での優れた紫外線吸収性を有し、かつ、蛍光性、耐熱性の性能にも優れるとともに、紫外線吸収性の経時安定性が高い新規な芳香族化合物、その用途およびその製造方法の提供。
【解決手段】式(2)で表される芳香族化合物等
【解決手段】式(2)で表される芳香族化合物等
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物、その用途およびその製造方法に関し、詳しくは、天然由来の桂皮酸やその誘導体から合成し得る新規な芳香族化合物、その紫外線吸収剤もしくは蛍光材料としての用途およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線は、皮膚や目、免疫機能などに影響を与えるだけでなく、各種プラスチックの劣化を促進することが知られている。特に、プラスチックの場合、紫外線は高いエネルギーを有する(例えば、400nmの波長で約70kcal/mol、250nmの波長で約110kcal/molのエネルギーを有する)ために、プラスチックのポリマー結合を破壊し、その酸化劣化を促進させる。
【0003】
そこで、有害な紫外線から人体を守ったり、紫外線による酸化劣化を低減することによりプラスチックの長期耐光性、安定性を向上させたりすることを目的として、紫外線吸収剤の需要が高まっている。
【0004】
このような紫外線吸収剤として、従来、例えば、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、安息香酸誘導体などが利用されてきたが、これらの紫外線吸収剤は万能ではなく、特に長波長の紫外線を効率的に吸収するものは非常に少ないのが現状であった。具体的には、UV−B(290〜315nm)の紫外線を吸収するものは多く存在するが、UV−A(315〜400nm)の紫外線をも吸収するものはほとんど知られておらず、その紫外線吸収能力も十分といえるものは存在しなかった。
【0005】
なお、紫外線吸収剤としては、UV−A、UV−Bの両領域にわたる紫外線を吸収しさえすればよいというのではなく、400nm付近を吸収端とすることが望まれる。400nm以上の波長では可視領域が含まれるので、この領域での吸収性能が高いと、着色を生じる懸念があるからである。
【0006】
また、特定の金属イオンや分子に特異的に作用する有機蛍光材料は、例えば、前記作用を利用することにより、生体中の特定のタンパク質や細胞を検出することが可能であるので、センシング関連分野に利用可能な材料として注目を集めている。有機蛍光材料は、さらに、その光学的特性を利用して、有機EL素子やフォト関連分野にも利用されている。
【0007】
しかし、有機蛍光材料を有機EL素子やフォト関連分野に利用する場合には、樹脂基材が溶融した状態で、有機蛍光材料を樹脂基材中に分散させなければならない。そのため、有機蛍光材料自体も、樹脂基材溶融の際の加熱に耐え得る高い耐熱性を備えていなければならないが、従来の有機蛍光材料は、耐熱性が不十分であった。
【0008】
さらに、従来の紫外線吸収剤や有機蛍光材料は、枯渇資源である原油などを原料とする化合物がほとんどであるが、このような枯渇資源である原油などへの依存は、今後、原油などの価格上昇が懸念されるだけでなく、グリーンな社会の構築を進める上でも解決していかなくてはならない問題である。
【0009】
この点、枯渇資源である原油などを原料としない天然由来物質として、米ぬか由来物質であるフェルラ酸が、紫外線吸収性、蛍光性を示すことも知られているが、やはり、UV−Bに対応した紫外線吸収性しか発揮されずUV−Aの紫外線吸収性に乏しいものであり、また、蛍光性、耐熱性といった性能も十分に有していなかった。
【0010】
そこで、本願出願人は、上述の問題を解決するべく鋭意検討を行い、フェルラ酸を原料としたフェルラ酸誘導体について、既に種々の提案を行っている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−209120号公報
【特許文献2】特開2010−229215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願出願人は、上述のとおり、天然由来物質であり、かつ、紫外線吸収性、蛍光性、耐熱性が改良されたフェルラ酸誘導体について、種々の提案を行ってきたが、これら従来提案のフェルラ酸誘導体は、紫外線吸収性の経時安定性において、更なる改良の余地があることが分かった。そこで、本発明は、フェルラ酸誘導体の更なる可能性を模索し、これら従来の化合物とは異なる化合物において、前記従来技術の化合物と同様に優れた性質を有するのみならず、紫外線吸収性の経時安定性にも優れたものを新たに提供するものである。
【0013】
すなわち、本発明は、天然由来物質を原料として得ることができるとともに、400nm付近(例えば、400±20nm程度)を吸収端とする広い波長領域での優れた紫外線吸収性を備え、蛍光性、耐熱性の性能にも優れているとともに、紫外線吸収性の経時安定性が高い新規な芳香族化合物、その紫外線吸収剤もしくは蛍光材料としての用途、および、その製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。
【0015】
具体的には、まず、原料としては、上記特許文献1、2の技術のごとく、天然中に多く存在する桂皮酸やその誘導体(例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸など)を利用することを検討した。
【0016】
そして、桂皮酸またはその誘導体は、分子内の二重結合が光照射により、シス−トランス異性化を起こし得るものであるので、このことが、紫外線吸収性の経時安定性を阻害してしまっているのではないかと考え、このシス−トランス異性化を阻止することを考えた。その際、その紫外線吸収性が400nm付近を吸収端とする広い波長領域にわたって発揮され、かつ、蛍光性、耐熱性の性能にも優れる、という条件をも満足するものとなるよう、シス−トランス異性化を阻止する手法につき、鋭意検討を行った。
【0017】
その結果、桂皮酸またはその誘導体をナフタレンジオールとカップリングさせることにより、シス−トランス異性化を起こす二重結合が環構造に組み込まれてシス−トランス異性化が阻止されるようにしたところ、紫外線吸収性の経時安定性が格段に向上することが分かった。そして、この経時安定性に優れた紫外線吸収性は、400nm付近を吸収端とする広い波長領域において発揮されるものであり、紫外線吸収領域としても理想的なものであることが分かった。さらに、このカップリング物は、蛍光強度や耐熱性も、原料である桂皮酸またはその誘導体と比べて優れたものとなることが分かった。
【0018】
上記知見に基づき、本発明は完成されるに至った。
【0019】
すなわち、本発明にかかる芳香族化合物は、ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである、ことを特徴とする。
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0022】
好ましくは、下式(2)で表される、ことを特徴とするか、
【0023】
【化2】
【0024】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0025】
下式(3)で表される、ことを特徴とするか、または、
【0026】
【化3】
【0027】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0028】
下式(4)で表されることを特徴とするか、または、
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0031】
下式(5)で表される、ことを特徴とする。
【0032】
【化5】
【0033】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0034】
本発明にかかる紫外線吸収剤は、上記本発明の芳香族化合物を有効成分とする。
【0035】
本発明にかかる有機蛍光材料は、上記本発明の芳香族化合物を有効成分とする。
【0036】
本発明にかかる芳香族化合物の製造方法は、ナフタレンジオールと、上式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかる芳香族化合物は、天然中に多く存在する桂皮酸(例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸など)を原料として得ることが可能であるため、原油などを原料としていた従来の化合物と比べて、環境負荷が著しく低減される。
【0038】
また、本発明にかかる芳香族化合物は、紫外線吸収の経時安定性に優れる。これは、従来の桂皮酸誘導体では分子内の二重結合に光が照射されることによってシス−トランス異性化を起こす可能性があるのに対して、本発明の芳香族化合物では、ナフタレンジオールと桂皮酸またはその誘導体とのカップリングにより、シス−トランス異性化を起こす二重結合が環構造に組み込まれたためであると推察される。それと同時に、ナフタレンジオールのベンゼン環を介して形成される新たな共役系により、原料である桂皮酸またはその誘導体と比べて、波長領域の広い吸収帯で高い紫外線吸収能を有するとともに、その吸収端は、400nm付近(好ましい実施形態での吸収端は420nm程度)である。さらに、蛍光強度や耐熱性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図2】実施例2にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図3】実施例3にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図4】実施例4にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図5】実施例5にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図6】比較例1にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図7】実施例1〜5、比較例1にかかる各芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化をまとめた図である。
【図8】実施例6〜9にかかる各芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図9】実施例10にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図10】実施例11にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図11】フェルラ酸エチルエステルと実施例4の芳香族化合物の各紫外線吸収スペクトルを併記した図である。
【図12】実施例1〜4にかかる各芳香族化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図13】実施例6〜9にかかる各芳香族化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明にかかる芳香族化合物、その用途およびその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0041】
〔芳香族化合物〕
本発明にかかる芳香族化合物は、ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである。
【0042】
【化6】
【0043】
ここで、上に記載の製法的規定は、本発明にかかる芳香族化合物の構造を特定するための規定に過ぎず、したがって、上記以外の製法で得られるものであっても、同一構造のものであれば、本発明にかかる芳香族化合物に包含される。
【0044】
ナフタレンジオールが有するフェノール性水酸基の位置によって、得られる芳香族化合物の立体構造も異なってくる。
【0045】
桂皮酸またはその誘導体とナフタレンジオールとの反応性などを考慮すれば、1,3−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオールであることが好ましい。
【0046】
この場合の芳香族化合物の化学構造式は、それぞれ、下式(2)〜(5)で表されることになる。下記において、R4〜R9は、R1〜R3に由来する水素原子またはアルコキシ基である。
【0047】
【化7】
【0048】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0049】
【化8】
【0050】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0051】
【化9】
【0052】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0053】
【化10】
【0054】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0055】
桂皮酸は天然に多く存在するものであり、これをそのまま用いることができる。また、桂皮酸誘導体は、例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸などが天然に存在するものとして知られているが、これらは水酸基を有しているので、該水酸基を、従来公知の方法によりエーテル化して、アルコキシ基を置換基として導入することにより得ることができる。このように、主たる構造が天然由来のものを原料とすることができるので、従来の石油資源に依存したものを用いる場合と比べて、環境負荷が小さい。
【0056】
式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示すが、これらR4〜R9の種類は、後述の実施例で示すように、紫外線吸収性や蛍光性に大きく影響するものではなく、特に限定されない。アルコキシ基の場合、溶解性などを考慮すれば、一般的には、例えば、炭素数1〜20のものが採用でき、炭素数1〜10のものが好ましい。
【0057】
以上、本発明にかかる芳香族化合物について説明したが、その具体例を以下に示しておく。
【0058】
【化11】
【0059】
〔芳香族化合物の製造方法〕
本発明にかかる芳香族化合物は、上述のとおり、その製造方法に制限はないが、以下に説明する、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法を採用することが好ましい。
【0060】
すなわち、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法とは、ナフタレンジオールと、下式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、ものである。
【0061】
【化12】
【0062】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0063】
この方法によれば、天然に多く存在する桂皮酸またはその誘導体を原料とするので、環境負荷が著しく低減されるとともに、本発明にかかる芳香族化合物を極めて高い収率で得ることができる。
【0064】
ここで、桂皮酸、桂皮酸誘導体、ナフタレンジオールの具体的例示については、上述のとおりであるので、説明を省略する。
【0065】
本発明にかかる芳香族化合物の製造方法は、ナフタレンジオールと、上式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させる工程(以下、工程(a)という)と、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる工程(以下、工程(b)という)とに分けることができる。
【0066】
すなわち、1,3−ナフタレンジオールを例とすれば、以下のように反応が進行する。
【0067】
【化13】
【0068】
以下、工程(a)と工程(b)について詳述する。
【0069】
なお、1,3−ナフタレンジオール以外のナフタレンジオールについても、上で示したのと同様の反応が起こる。すなわち、ナフタレンジオールが有する水酸基の位置に応じて含酸素六員環が生じる位置が異なる点以外は違いがないので、個々の説明は割愛する。
【0070】
<工程(a)>
工程(a)は、桂皮酸またはその誘導体とナフタレンジオールとを反応させる工程であり、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンを用いていることにより、極めて容易に進行する。
【0071】
フェノール類による桂皮酸誘導体のヒドロアリール化が、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンによって容易に進行し、これによりジヒドロクマリン骨格が形成されることが報告されているが(Kelin Li他、「Trifluoroacetic Acid−Mediated Hydroarylation:Synthesis of Dihydrocoumarins and Dihydroquinolones」,J.Org.Chem.2000,70,2881−2883)、上記反応も、この着想を利用したものである。
【0072】
なお、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法では、1種類の桂皮酸またはその誘導体と、1分子のナフタレンジオールとを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させれば、例えば、上記反応式におけるR4とR7、R5とR8、R6とR9は、同一の水素原子もしくはアルコキシ基となるのであるが、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いれば、R4とR7、R5とR8、R6とR9を、それぞれ、異なった水素原子もしくはアルコキシ基とすることが可能である。
【0073】
ただし、単に、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いたのでは、構造の異なる様々な芳香族化合物が混在して生成してしまう懸念があるので、ナフタレンジオールの1つの水酸基を保護基で不活性化したのちに、保護基の付いていないほうの水酸基に桂皮酸またはその誘導体を反応させ、その後、保護基を脱離してから、前記反応で用いたのとは異なる桂皮酸またはその誘導体を反応させるようにしてもよい。
【0074】
後述のように、本発明にかかる芳香族化合物におけるR4〜R9の種類は、紫外線吸収スペクトルや蛍光スペクトルに大きく影響を与えるものではないが、融点、溶解性、分散性、相溶性などの物性が変化するので、これを様々に選択することにより、用途に応じた多様な設計・制御が可能となる。特に、R4〜R9として、それぞれ独立して、様々な官能基を採用することができるので、原料である桂皮酸またはその誘導体(官能基はR1〜R3の3つ)と比べて、自由度がより高いといえる。そのような必要がない場合には、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いなくともよく、製造容易性に鑑みれば、1種類の桂皮酸またはその誘導体を用いるほうが好ましいといえる。
【0075】
上記において、ナフタレンジオールと桂皮酸またはその誘導体とを反応させる際の両者の割合は、ナフタレンジオールが有する水酸基の位置や、桂皮酸またはその誘導体が有する置換基(R4〜R9)の種類などによっても異なるが、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、桂皮酸またはその誘導体2〜10モル(2種類以上用いる場合はその合計モル量)であり、好ましくは、桂皮酸またはその誘導体2〜5モルである。
【0076】
また、トリフルオロ酢酸の使用割合は、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、トリフルオロ酢酸5〜20mlであり、好ましくは、トリフルオロ酢酸5〜10mlである。
【0077】
さらに、ジクロロメタンの使用割合は、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、ジクロロメタン1〜10mlであり、好ましくは、ジクロロメタン1〜5mlである。
【0078】
反応条件としては、例えば、50〜100℃で、3〜48時間とすることができ、70〜90℃で、5〜20時間とすることが好ましい。
【0079】
反応後は、従来公知の方法により、中間生成物を分離・精製することができる。
【0080】
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)で得られた中間生成物の構造中の2つの含酸素六員環が有する水素を、酸化により脱離する。
【0081】
この工程(b)により、含酸素六員環に炭素−炭素二重結合が導入され、これにより、ナフタレンジオールや桂皮酸もしくはその誘導体由来の芳香環、桂皮酸もしくはその誘導体由来のカルボニル基とともに共役系が形成され、本発明特有の紫外線吸収性や蛍光性が発現されるものと推測される。
【0082】
脱水素化のための酸化剤としては、例えば、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)、2,3,5,6−テトラクロロ−p−ベンゾキノン(クロラニル)などが挙げられる。中でも、DDQを用いることが好ましい。
【0083】
また、酸化剤の使用割合としては、その種類にもよるが、例えば、上記中間生成物1モルに対して、酸化剤3〜100モルであり、好ましくは、酸化剤10〜20モルである。
【0084】
反応条件としては、例えば、100〜150℃で、3〜48時間とすることができ、110〜130℃で、5〜20時間とすることが好ましい。
【0085】
反応後は、従来公知の方法により、最終生成物を分離・精製することができる。
【0086】
〔芳香族化合物の用途〕
本発明にかかる芳香族化合物は、特に限定されないが、例えば、紫外線吸収剤や蛍光材料として有用であり、特に紫外線吸収剤としての用途に適している。
【0087】
本発明にかかる芳香族化合物は、溶剤に溶解あるいは分散させて使用してもよいし、他の樹脂と相溶させて使用してもよいし、それ単独で固体状態で使用してもよい。
【0088】
本発明にかかる芳香族化合物を、溶剤に溶解あるいは分散させて使用する場合、該溶剤としては、例えば、トルエン、ヘキサン、THF(テトラヒドロフラン)、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、メタノール、エタノール、水などやこれらの2種以上の混合溶剤などが挙げられる。
【0089】
本発明にかかる芳香族化合物を、他の樹脂と相溶させて使用する場合、該樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、エポキシ−ポリエステル硬化系樹脂、アクリル−ウレタン硬化系樹脂、アクリル−メラミン硬化系樹脂、ポリエステル−ウレタン硬化系樹脂、ポリエステル−メラミン硬化系樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0090】
本発明にかかる芳香族化合物は、その用途に応じて、R4〜R9におけるアルコキシ基の数やその炭素数を適宜選択して、溶解性などを調整することができるので、上のように、溶剤や樹脂の種類を選択するのではなく、溶剤や樹脂の種類に応じて、R4〜R9を適宜選択し、溶解性などを調整するようにしてもよい。
【0091】
具体的な使用形態としては、特に限定するわけではないが、例えば、溶剤に溶解あるいは分散させることにより塗料や化粧料としたり、樹脂成形品を得る際に添加し樹脂中に分散させた後に成形することにより樹脂成形品中に含有させるようにしたり、蒸着法などによって所望の基板上に製膜したりといった使用形態が例示できる。
【0092】
用途に応じて、本発明にかかる芳香族化合物以外の他の成分を配合してもよい。
【0093】
例えば、紫外線吸収剤や有機蛍光材料に適用する場合、前記他の成分として、以下の水性成分、粉末成分、油成分などの成分を配合してもよい。
【0094】
すなわち、ワセリン、固体パラフィン、液状パラフィン、スクワランなどの炭化水素類;シリコン油類、オリーブ油、地ロウ、カルナウバロウ、ラノリンなどの植物性もしくは動物性の油脂類やロウ類;ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類;ホホバ油、カルナバワックス、合成ゲイロウ、ミツロウなどのエステル類;オリーブ油、水添ヤシ油、ヒマシ油、牛脂などのトリグリセライド類;エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;セチルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチルアルコールなどの高級アルコール類;グリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトールなどの多価アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの非イオン性界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸エステルなどのアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩酸などのカチオン性界面活性剤;アルキルベタインなどの両性界面活性剤;パラベン類やグルコン酸クロルヘキシジンなどの防腐剤;ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤;アラビアゴム、カルボキシビニルポリマーなどの増粘剤;ポリエチレングリコールなどの保湿剤;アルカリ、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩などのpH調節剤;酸化チタン、ベンガラ、タルク、粘土鉱物、シリカゲルなどの粉体類などが挙げられ、さらに、香料、色素、薬効成分、乳化安定剤、キレート剤、水溶性高分子、油溶性高分子などが挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を用いて、本発明にかかる芳香族化合物とその製造方法、および、その紫外線吸収剤もしくは有機蛍光材料としての性能評価を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0096】
〔原料の準備〕
後述の実施例1〜11で用いた桂皮酸誘導体(A)〜(E)は、以下のとおりである。
【0097】
<桂皮酸誘導体(A)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(A)で表される桂皮酸誘導体。
【0098】
【化14】
【0099】
上式中、「−OC10H21」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0100】
<桂皮酸誘導体(B)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(B)で表される桂皮酸誘導体。
【0101】
【化15】
【0102】
<桂皮酸誘導体(C)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(C)で表される桂皮酸誘導体。
【0103】
【化16】
【0104】
<桂皮酸誘導体(D)>
天然由来物質であるシナピン酸から誘導される、下式(D)で表される桂皮酸誘導体。
【0105】
【化17】
【0106】
上式中、「−OC10H21」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0107】
<桂皮酸誘導体(E)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(E)で表される桂皮酸誘導体。
【0108】
【化18】
【0109】
上式中、「−OC12H25」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0110】
〔実施例1〕
下式で表される化合物を、以下のようにして合成した。
【0111】
<工程(a)>
1,3−ナフタレンジオール0.1gとその2倍モル量の桂皮酸誘導体(A)とを、トリフルオロ酢酸4mLおよびジクロロメタン4mLの混合溶液中に分散し、18時間還流した。得られた反応溶液を室温まで戻した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出し、水洗した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧蒸留した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、下式で表される中間生成物(Ai)29mgを得た。
【0112】
【化19】
【0113】
<工程(b)>
得られた中間生成物(Ai)0.2gおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)2gをジオキサン20mLに溶解させ、不活性ガス中で20時間還流した。得られた反応物を室温まで戻した後、析出固体を濾別し、得られた溶液(濾液)を減圧下で濃縮した。得られた残渣に、1M水酸化ナトリウムを加え、クロロホルムで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。これを、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、下式で表される目的生成物(A1)10mgを得た。
【0114】
【化20】
【0115】
目的生成物(A1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.59(1H,d,J=8.1Hz),7.45−7.49(1H,m),7.32(1H,d,J=8.3Hz),7.22−7.24(1H,m),6.88−6.92(5H,m),6.69(1H,s),4.06(2H,t,J=6.6Hz),3.81(3H,s),3.68(3H,s),1.81−1.90(4H,m),1.42−1.50(4H,m),1.28−1.40(26H,m),0.89(12H,t,J=6.6Hz)
【0116】
〔実施例2〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて1,5−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A2)を得た。
【0117】
【化21】
【0118】
目的生成物(A2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.33(1H,d,J=8.1Hz),7.32(1H,d,J=8.1Hz),6.95−7.04(3H,m),6.46(1H,s),4.06(2H,t,J=6.6Hz),3.87(3H,s),1.42−1.44(2H,m),1.18−1.39(12H,m),0.72(3H,t,J=8.1Hz)
【0119】
〔実施例3〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて1,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A3)を得た。
【0120】
【化22】
【0121】
目的生成物(A3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.85(1H,d,J=8.1Hz),7.66(1H,d,J=8.1Hz),7.31(1H,d,J=6.6Hz),7.19(1H,d,J=6.6Hz),6.92−7.00(5H,m),6.45(1H,d,J=8.1Hz),4.10(4H,t,J=8.0Hz),3.89(3H,s),3.77(3H,s),1.86−1.93(4H,m),1.46−1.51(4H,m),1.28−1.40(26H,m),0.89(12H,t,J=6.6Hz)
【0122】
〔実施例4〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A4)を得た。
【0123】
【化23】
【0124】
目的生成物(A4)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.65(1H,d,J=8.1Hz),7.15(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.42(1H,s),4.10(2H,t,J=6.6Hz),3.84(3H,s),1.89−1.96(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.20−1.45(12H,m),0.89(3H,t,J=6.6Hz)
【0125】
〔実施例5〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(B)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(B1)を得た。
【0126】
【化24】
【0127】
目的生成物(B1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.68(1H,d,J=8.1Hz),7.20(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.42(1H,s),3.99(2H,s),3.83(3H,s),1.86−1.92(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.25−1.39(11H,m),0.90(3H,t,J=6.6Hz)
【0128】
〔実施例6〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C1)を得た。
【0129】
【化25】
【0130】
目的生成物(C1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.55(1H,d,J=8.1Hz),7.41−7.44(1H,m),7.28(1H,d,J=8.3Hz),7.19−7.21(1H,m),6.68−6.72(5H,m),6.55(1H,s),3.81(6H,s),3.68(6H,s)
【0131】
〔実施例7〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて1,5−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C2)を得た。
【0132】
【化26】
【0133】
目的生成物(C2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.43(1H,d,J=8.1Hz),7.79(1H,d,J=8.1Hz),7.02−7.14(3H,m),6.55(1H,s),4.01(3H,s),3.96(3H,s)
【0134】
〔実施例8〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて1,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C3)を得た。
【0135】
【化27】
【0136】
目的生成物(C3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.90(1H,d,J=8.1Hz),7.71(1H,d,J=8.1Hz),7.34(1H,d,J=8.1Hz),7.21(1H,d,J=8.1Hz),6.94−7.03(5H,m),6.81(1H,d,J=8.1Hz),6.47(2H,d,J=8.1Hz),3.92(6H,s),3.81(6H,s)
【0137】
〔実施例9〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C4)を得た。
【0138】
【化28】
【0139】
目的生成物(C4)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.62(1H,d,J=8.1Hz),7.15(1H,d,J=8.1Hz),6.83−6.96(3H,m),6.38(1H,s),3.51(3H,s),3.16(3H,s)
【0140】
〔実施例10〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(D)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(D1)を得た。
【0141】
【化29】
【0142】
目的生成物(D1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.85(1H,d,J=8.1Hz),7.22(1H,d,J=8.1Hz),6.55(2H,s),6.49(1H,s),4.13(2H,t,J=6.6Hz),3.85(3H,s),1.79−1.86(2H,m),1.48−1.52(2H,m),1.11−1.38(12H,m),0.92(3H,t,J=6.6Hz)
【0143】
〔実施例11〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(E)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(E1)を得た。
【0144】
【化30】
【0145】
目的生成物(E1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.67(1H,d,J=8.1Hz),7.19(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.43(1H,s),4.11(2H,t,J=6.6Hz),3.84(3H,s),1.89−1.96(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.25−1.40(12H,m),0.89(3H,t,J=6.6Hz)
【0146】
〔比較例1〕
下記合成例1〜4に基づき、比較例1にかかる目的生成物(F1)を得た。
【0147】
<合成例1:下記中間化合物(Fi1)の合成>
【0148】
【化31】
【0149】
フェルラ酸メチルエステル2.1g、Ag2O1.0gをトルエン15mLおよびアセトン10mLの混合溶液中に分散させ、12時間不活性ガス中で還流させた。反応溶液を室温まで戻した後、析出固体を濾別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより中間生成物1.0gを得た。
【0150】
この中間生成物0.5gをピリジン10mLに溶解させ、無水酢酸2mLを滴下した後室温で攪拌を行った。2時間後水100mLを加え、さらに6N−HClで酸性化した後酢酸エチルで抽出、水洗を行った。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧蒸留することで第2中間生成物0.55gを得た。
【0151】
得られた第2中間生成物0.5gおよびDDQ0.3gをジオキサン100mLに溶解させ、20時間還流させた。室温まで戻した後に析出固体を濾別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより合成例1にかかる中間化合物(Fi1)0.3gを得た。
【0152】
中間化合物(Fi1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.84(1H,d,J=2.0Hz),7.81(1H,d,J=16.0Hz),7.79(1H,d,J=1.2Hz),7.68(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.15(1H,d,J=8.4Hz),7.03(1H,d,J=1.2Hz),6.47(1H,d,J=16.0Hz),4.05(3H,s),3.96(3H,s),3.94(3H,s),3.84(3H,s),2.35(3H,s);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ168.62,167.42,163.97,160.61,150.75,145.36,145.33,144.25,141.57,131.56,129.06,127.63,122.61,122.41,117.22,116.19,113.82,109.24,106.100,56.12,51.86,51.72,20.68
【0153】
<合成例2:下記中間化合物(Fi2)の合成>
【0154】
【化32】
【0155】
合成例1で得られた中間化合物(Fi1)0.2gをピロリジン2mLに溶解させ、そのまま5分間攪拌を行った。その後水10mLを加え、1N−HClで中和した後、析出固体を濾別乾燥し、合成例2にかかる中間化合物(Fi2)0.18gを得た。
【0156】
中間化合物(Fi2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.81(1H,d,J=16.0Hz),7.78(1H,d,J=1.2Hz),7.76(1H,d,J=2.0Hz),7.66(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.03−7.00(2H,m),6.46(1H,d,J=16.0Hz),5.99(1H,s),4.05(3H,s),3.99(3H,s),3.96(3H,s),3.84(3H,s);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ167.50,164.28,161.87,148.01,145.99,145.52,145.19,143.98,131.36,129.29,123.79,121.04,117.02,116.14,114.20,112.12,107.83,105.79,56.16,56.09,51.74,51.72
【0157】
<合成例3:下記中間化合物(Fi3)の合成>
【0158】
【化33】
【0159】
合成例2で得られた中間化合物(Fi2)100mgをTHF1mLに溶解させ、そこに水酸化ナトリウム100mgを水10mLに溶解させた溶液を加え、乾留下8時間攪拌を行った。その後1N−HClで中和し、析出固体を濾別乾燥することにより、合成例3にかかる中間化合物(Fi3)70mgを得た。
【0160】
中間化合物(Fi3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,DMSO−d6) δ7.76(1H,d,J=1.2Hz),7.72(1H,d,J=2.0Hz),7.69(1H,d,J=16.0Hz),7.49(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.40(1H,d,J=1.2Hz),6.92(1H,d,J=8.4Hz),6.59(1H,d,J=16.0Hz),4.03(3H,s),3.84(3H,s);13C NMR(100MHz,DMSO−d6) δ167.82,164.84,160.83,149.34,147.20,145.12,144.74,143.24,131.60,129.41,123.06,119.83,118.88,115.74,115.44,113.58,108.20,106.38,56.34,55.87
【0161】
<合成例4:下記目的生成物F1の合成>
【0162】
【化34】
【0163】
合成例3で得られた中間化合物(Fi3)50mg、2−エチル−1−ヘキサノールを75mg、さらにトリフェニルホスフィン140mgをジクロロメタン15mL中に分散させ、そこにアゾジイソプロピルジカルボキシレートの40%トルエン溶液を265mg滴下した後一晩室温で攪拌を行った。その後減圧下で濃縮を行い、得られた残渣にアセトン50mLを加え、析出固体を濾別乾燥することにより目的生成物(F1)91mgを得た。
【0164】
目的生成物(F1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.85(1H,d,J=1.2Hz),7.77(1H,d,J=16.0Hz),7.68−7.66(2H,m),7.02(1H,d,J=1.2Hz),6.95(1H,d,J=9.2Hz),6.46(1H,d,J=16.0Hz),4.32−3.93(6H,m),4.06(3H,s),3.94(3H,s),1.89−0.88(45H,m);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ167.27,164.13,162.06,151.16,148.93,145.22,145.15,144.02,131.45,129.45,123.36,121.38,117.59,115.81,113.37,112.04,108.32,106.07,76.30,71.80,67.14,66.89,56.36,56.16,39.03,38.91,30.57,30.47,30.39,28.98,23.97,23.85,23.75,23.05,23.01,22.96,14.08,14.04,11.05,11.04,10.95
【0165】
〔性能評価〕
<紫外線吸収性>
実施例1〜5および比較例1にかかる各芳香族化合物について、これらのクロロホルム溶液(5×10-5mol/L)を調製し、それぞれ、紫外可視分光光度計「V−560」(日本分光社製)を用いて紫外線吸収スペクトルを測定した。さらに、波長254nmの紫外線を照射し続けたときの1時間毎の各紫外線吸収スペクトルをも得て、紫外線照射下での紫外線吸収性の経時安定性を評価した。各図において、矢印は、吸光度の経時変化の方向を示している。
【0166】
実施例1〜5、比較例1の各結果を図1〜6に示す。また、理解の容易化のため、各実施例および比較例において、経時変化の大きかった波長(実施例1:331.0nm、実施例2:388.0nm、実施例3:363.5nm、実施例4:370.5nm、実施例5:388.5nm、比較例1:316.0nm)での相対吸光度(254nmの紫外線を照射する前の吸光度を1.0としたときの相対吸光度)の経時変化を図7に示した。
【0167】
図1〜7に示す結果を見ると、実施例1〜5にかかる本発明の芳香族化合物の紫外線吸収性は、いずれも、比較例1にかかる芳香族化合物と比較して、紫外線照射下での紫外線吸収性の劣化が殆どなく、極めて優位な安定性を示していることが分かった。
【0168】
実施例1〜4は、立体構造(原料の違いとしてみれば、ナフタレンジオールにおける水酸基の位置)が異なるものであるが、立体構造が異なっても、比較例に対する優位性は変わらない。中でも、実施例2の立体構造(1,5−ナフタレンジオールを原料とするもの)が特に紫外線吸収性の安定性に優れていると評価できる。
【0169】
また、実施例5は、置換基の種類が実施例3と異なっているものであるが、紫外線に対する安定性は、実施例3と同程度である。
【0170】
このように、置換基の種類は、炭素数の数や分岐の有無も含め、紫外線に対する安定性に大きく影響を与えるものではなく、したがって、上述の実施例6〜11にかかる芳香族化合物も、実施例1〜5と同様に紫外線に対して優れた安定性を有すると理解される。
【0171】
また、紫外線吸収性そのものに関しても、UV−B(290〜315nm)、UV−A(315〜400nm)の両領域にわたる広い範囲で紫外線吸収性が発揮されていることから、極めて優れていることが分かる。
【0172】
実施例6〜11についても、紫外線スペクトルを測定したところ、図8〜10に示す結果から分かるように、基本的には分子骨格の構造(原料の違いとしてみれば、ナフタレンジオールにおける水酸基の位置)に応じて類似のスペクトルが得られている。そして、置換基の種類は、アルコキシ基の数やその炭素数、分岐の有無も含め、紫外線に対する安定性に大きく影響を与えるものではなく、実施例1〜5と同様、UV−B(290〜315nm)、UV−A(315〜400nm)の両領域にわたる広い範囲で紫外線吸収性が発揮されていることが分かった。
【0173】
より詳細に評価すると、1,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例3,8の芳香族化合物および2,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例4,5,9〜11は、400nm付近で急激に吸光度が低下しており、紫外線吸収性能としては理想的なスペクトルを示している。実施例3,8の芳香族化合物のUVスペクトルは吸収端が410nm程度であり、実施例4,5,9〜11の芳香族化合物のUVスペクトルは吸収端が420nm程度であることから、特に、1,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例3,8の芳香族化合物が優れていることが分かる。1,5−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例2,7の芳香族化合物は、吸収端が400nmを若干超えてはいるものの、250〜300nmという特定の波長域において、吸光度が突出して高く、また、上述のとおり、経時安定性が最も高いという利点を有する。
【0174】
ちなみに、フェルラ酸エチルエステルとの対比では、図11に示すように、フェルラ酸エチルエステルにおける吸収域が250〜350nm程度と狭いのに対して、本発明のほうが広い範囲で紫外線吸収性を示しており、その優位性は明らかである。
【0175】
<蛍光性>
各実施例1〜4,6〜9にかかる芳香族化合物について、これらのクロロホルム溶液(5×10-6mol/L)を調製し、それぞれ、蛍光分光光度計「FP−6500」(日本分光社製)を使用して蛍光スペクトルを測定した。結果を図12,13に示す。
【0176】
図12,13に示すとおり、紫外線吸収性試験と同様の傾向が見られた。
【0177】
すなわち、原料であるナフタレンジオールが有する水酸基の位置に基づく環構造の相違は、蛍光性に多少影響を与えていることが認められるが、いずれの実施例においても、優れた蛍光性が発揮されていることが分かる。
【0178】
また、上記の蛍光性は、R4〜R9の種類(アルコキシ基の数やその炭素数)によってはあまり影響を受けないことが分かった。したがって、他の実施例にかかる芳香族化合物も優れた蛍光性を有することは明らかである。
【0179】
よって、本発明の芳香族組成物は、有機蛍光材料としても有用であることが分かる。
【0180】
<耐熱性>
各実施例1〜4,9にかかる芳香族化合物について、分解温度(5wt%減少時の温度)を測定したところ、結果は下表のとおりであった。
【0181】
【表1】
【0182】
上記結果から、各実施例1〜4,9にかかる本発明の芳香族化合物は、分解温度が高く、実用上、十分な耐熱性を備えていることが分かった。
【0183】
他の実施例にかかる芳香族化合物も、基本的には実施例1〜4,9と同様の分子骨格を有するので、高い耐熱性を有することは明らかである。
【0184】
したがって、本発明の芳香族化合物は、例えば、他の樹脂基材への分散させるために樹脂基材を熱溶融させて使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明にかかる芳香族化合物は、例えば、紫外線吸収剤や有機蛍光材料などとして好適に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物、その用途およびその製造方法に関し、詳しくは、天然由来の桂皮酸やその誘導体から合成し得る新規な芳香族化合物、その紫外線吸収剤もしくは蛍光材料としての用途およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線は、皮膚や目、免疫機能などに影響を与えるだけでなく、各種プラスチックの劣化を促進することが知られている。特に、プラスチックの場合、紫外線は高いエネルギーを有する(例えば、400nmの波長で約70kcal/mol、250nmの波長で約110kcal/molのエネルギーを有する)ために、プラスチックのポリマー結合を破壊し、その酸化劣化を促進させる。
【0003】
そこで、有害な紫外線から人体を守ったり、紫外線による酸化劣化を低減することによりプラスチックの長期耐光性、安定性を向上させたりすることを目的として、紫外線吸収剤の需要が高まっている。
【0004】
このような紫外線吸収剤として、従来、例えば、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、安息香酸誘導体などが利用されてきたが、これらの紫外線吸収剤は万能ではなく、特に長波長の紫外線を効率的に吸収するものは非常に少ないのが現状であった。具体的には、UV−B(290〜315nm)の紫外線を吸収するものは多く存在するが、UV−A(315〜400nm)の紫外線をも吸収するものはほとんど知られておらず、その紫外線吸収能力も十分といえるものは存在しなかった。
【0005】
なお、紫外線吸収剤としては、UV−A、UV−Bの両領域にわたる紫外線を吸収しさえすればよいというのではなく、400nm付近を吸収端とすることが望まれる。400nm以上の波長では可視領域が含まれるので、この領域での吸収性能が高いと、着色を生じる懸念があるからである。
【0006】
また、特定の金属イオンや分子に特異的に作用する有機蛍光材料は、例えば、前記作用を利用することにより、生体中の特定のタンパク質や細胞を検出することが可能であるので、センシング関連分野に利用可能な材料として注目を集めている。有機蛍光材料は、さらに、その光学的特性を利用して、有機EL素子やフォト関連分野にも利用されている。
【0007】
しかし、有機蛍光材料を有機EL素子やフォト関連分野に利用する場合には、樹脂基材が溶融した状態で、有機蛍光材料を樹脂基材中に分散させなければならない。そのため、有機蛍光材料自体も、樹脂基材溶融の際の加熱に耐え得る高い耐熱性を備えていなければならないが、従来の有機蛍光材料は、耐熱性が不十分であった。
【0008】
さらに、従来の紫外線吸収剤や有機蛍光材料は、枯渇資源である原油などを原料とする化合物がほとんどであるが、このような枯渇資源である原油などへの依存は、今後、原油などの価格上昇が懸念されるだけでなく、グリーンな社会の構築を進める上でも解決していかなくてはならない問題である。
【0009】
この点、枯渇資源である原油などを原料としない天然由来物質として、米ぬか由来物質であるフェルラ酸が、紫外線吸収性、蛍光性を示すことも知られているが、やはり、UV−Bに対応した紫外線吸収性しか発揮されずUV−Aの紫外線吸収性に乏しいものであり、また、蛍光性、耐熱性といった性能も十分に有していなかった。
【0010】
そこで、本願出願人は、上述の問題を解決するべく鋭意検討を行い、フェルラ酸を原料としたフェルラ酸誘導体について、既に種々の提案を行っている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−209120号公報
【特許文献2】特開2010−229215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願出願人は、上述のとおり、天然由来物質であり、かつ、紫外線吸収性、蛍光性、耐熱性が改良されたフェルラ酸誘導体について、種々の提案を行ってきたが、これら従来提案のフェルラ酸誘導体は、紫外線吸収性の経時安定性において、更なる改良の余地があることが分かった。そこで、本発明は、フェルラ酸誘導体の更なる可能性を模索し、これら従来の化合物とは異なる化合物において、前記従来技術の化合物と同様に優れた性質を有するのみならず、紫外線吸収性の経時安定性にも優れたものを新たに提供するものである。
【0013】
すなわち、本発明は、天然由来物質を原料として得ることができるとともに、400nm付近(例えば、400±20nm程度)を吸収端とする広い波長領域での優れた紫外線吸収性を備え、蛍光性、耐熱性の性能にも優れているとともに、紫外線吸収性の経時安定性が高い新規な芳香族化合物、その紫外線吸収剤もしくは蛍光材料としての用途、および、その製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。
【0015】
具体的には、まず、原料としては、上記特許文献1、2の技術のごとく、天然中に多く存在する桂皮酸やその誘導体(例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸など)を利用することを検討した。
【0016】
そして、桂皮酸またはその誘導体は、分子内の二重結合が光照射により、シス−トランス異性化を起こし得るものであるので、このことが、紫外線吸収性の経時安定性を阻害してしまっているのではないかと考え、このシス−トランス異性化を阻止することを考えた。その際、その紫外線吸収性が400nm付近を吸収端とする広い波長領域にわたって発揮され、かつ、蛍光性、耐熱性の性能にも優れる、という条件をも満足するものとなるよう、シス−トランス異性化を阻止する手法につき、鋭意検討を行った。
【0017】
その結果、桂皮酸またはその誘導体をナフタレンジオールとカップリングさせることにより、シス−トランス異性化を起こす二重結合が環構造に組み込まれてシス−トランス異性化が阻止されるようにしたところ、紫外線吸収性の経時安定性が格段に向上することが分かった。そして、この経時安定性に優れた紫外線吸収性は、400nm付近を吸収端とする広い波長領域において発揮されるものであり、紫外線吸収領域としても理想的なものであることが分かった。さらに、このカップリング物は、蛍光強度や耐熱性も、原料である桂皮酸またはその誘導体と比べて優れたものとなることが分かった。
【0018】
上記知見に基づき、本発明は完成されるに至った。
【0019】
すなわち、本発明にかかる芳香族化合物は、ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである、ことを特徴とする。
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0022】
好ましくは、下式(2)で表される、ことを特徴とするか、
【0023】
【化2】
【0024】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0025】
下式(3)で表される、ことを特徴とするか、または、
【0026】
【化3】
【0027】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0028】
下式(4)で表されることを特徴とするか、または、
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0031】
下式(5)で表される、ことを特徴とする。
【0032】
【化5】
【0033】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0034】
本発明にかかる紫外線吸収剤は、上記本発明の芳香族化合物を有効成分とする。
【0035】
本発明にかかる有機蛍光材料は、上記本発明の芳香族化合物を有効成分とする。
【0036】
本発明にかかる芳香族化合物の製造方法は、ナフタレンジオールと、上式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかる芳香族化合物は、天然中に多く存在する桂皮酸(例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸など)を原料として得ることが可能であるため、原油などを原料としていた従来の化合物と比べて、環境負荷が著しく低減される。
【0038】
また、本発明にかかる芳香族化合物は、紫外線吸収の経時安定性に優れる。これは、従来の桂皮酸誘導体では分子内の二重結合に光が照射されることによってシス−トランス異性化を起こす可能性があるのに対して、本発明の芳香族化合物では、ナフタレンジオールと桂皮酸またはその誘導体とのカップリングにより、シス−トランス異性化を起こす二重結合が環構造に組み込まれたためであると推察される。それと同時に、ナフタレンジオールのベンゼン環を介して形成される新たな共役系により、原料である桂皮酸またはその誘導体と比べて、波長領域の広い吸収帯で高い紫外線吸収能を有するとともに、その吸収端は、400nm付近(好ましい実施形態での吸収端は420nm程度)である。さらに、蛍光強度や耐熱性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図2】実施例2にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図3】実施例3にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図4】実施例4にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図5】実施例5にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図6】比較例1にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図7】実施例1〜5、比較例1にかかる各芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルの経時変化をまとめた図である。
【図8】実施例6〜9にかかる各芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図9】実施例10にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図10】実施例11にかかる芳香族化合物の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図11】フェルラ酸エチルエステルと実施例4の芳香族化合物の各紫外線吸収スペクトルを併記した図である。
【図12】実施例1〜4にかかる各芳香族化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図13】実施例6〜9にかかる各芳香族化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明にかかる芳香族化合物、その用途およびその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0041】
〔芳香族化合物〕
本発明にかかる芳香族化合物は、ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである。
【0042】
【化6】
【0043】
ここで、上に記載の製法的規定は、本発明にかかる芳香族化合物の構造を特定するための規定に過ぎず、したがって、上記以外の製法で得られるものであっても、同一構造のものであれば、本発明にかかる芳香族化合物に包含される。
【0044】
ナフタレンジオールが有するフェノール性水酸基の位置によって、得られる芳香族化合物の立体構造も異なってくる。
【0045】
桂皮酸またはその誘導体とナフタレンジオールとの反応性などを考慮すれば、1,3−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオールであることが好ましい。
【0046】
この場合の芳香族化合物の化学構造式は、それぞれ、下式(2)〜(5)で表されることになる。下記において、R4〜R9は、R1〜R3に由来する水素原子またはアルコキシ基である。
【0047】
【化7】
【0048】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0049】
【化8】
【0050】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0051】
【化9】
【0052】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0053】
【化10】
【0054】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0055】
桂皮酸は天然に多く存在するものであり、これをそのまま用いることができる。また、桂皮酸誘導体は、例えば、4−ヒドロキシ桂皮酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸などが天然に存在するものとして知られているが、これらは水酸基を有しているので、該水酸基を、従来公知の方法によりエーテル化して、アルコキシ基を置換基として導入することにより得ることができる。このように、主たる構造が天然由来のものを原料とすることができるので、従来の石油資源に依存したものを用いる場合と比べて、環境負荷が小さい。
【0056】
式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示すが、これらR4〜R9の種類は、後述の実施例で示すように、紫外線吸収性や蛍光性に大きく影響するものではなく、特に限定されない。アルコキシ基の場合、溶解性などを考慮すれば、一般的には、例えば、炭素数1〜20のものが採用でき、炭素数1〜10のものが好ましい。
【0057】
以上、本発明にかかる芳香族化合物について説明したが、その具体例を以下に示しておく。
【0058】
【化11】
【0059】
〔芳香族化合物の製造方法〕
本発明にかかる芳香族化合物は、上述のとおり、その製造方法に制限はないが、以下に説明する、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法を採用することが好ましい。
【0060】
すなわち、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法とは、ナフタレンジオールと、下式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、ものである。
【0061】
【化12】
【0062】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【0063】
この方法によれば、天然に多く存在する桂皮酸またはその誘導体を原料とするので、環境負荷が著しく低減されるとともに、本発明にかかる芳香族化合物を極めて高い収率で得ることができる。
【0064】
ここで、桂皮酸、桂皮酸誘導体、ナフタレンジオールの具体的例示については、上述のとおりであるので、説明を省略する。
【0065】
本発明にかかる芳香族化合物の製造方法は、ナフタレンジオールと、上式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させる工程(以下、工程(a)という)と、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる工程(以下、工程(b)という)とに分けることができる。
【0066】
すなわち、1,3−ナフタレンジオールを例とすれば、以下のように反応が進行する。
【0067】
【化13】
【0068】
以下、工程(a)と工程(b)について詳述する。
【0069】
なお、1,3−ナフタレンジオール以外のナフタレンジオールについても、上で示したのと同様の反応が起こる。すなわち、ナフタレンジオールが有する水酸基の位置に応じて含酸素六員環が生じる位置が異なる点以外は違いがないので、個々の説明は割愛する。
【0070】
<工程(a)>
工程(a)は、桂皮酸またはその誘導体とナフタレンジオールとを反応させる工程であり、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンを用いていることにより、極めて容易に進行する。
【0071】
フェノール類による桂皮酸誘導体のヒドロアリール化が、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンによって容易に進行し、これによりジヒドロクマリン骨格が形成されることが報告されているが(Kelin Li他、「Trifluoroacetic Acid−Mediated Hydroarylation:Synthesis of Dihydrocoumarins and Dihydroquinolones」,J.Org.Chem.2000,70,2881−2883)、上記反応も、この着想を利用したものである。
【0072】
なお、本発明にかかる芳香族化合物の製造方法では、1種類の桂皮酸またはその誘導体と、1分子のナフタレンジオールとを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させれば、例えば、上記反応式におけるR4とR7、R5とR8、R6とR9は、同一の水素原子もしくはアルコキシ基となるのであるが、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いれば、R4とR7、R5とR8、R6とR9を、それぞれ、異なった水素原子もしくはアルコキシ基とすることが可能である。
【0073】
ただし、単に、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いたのでは、構造の異なる様々な芳香族化合物が混在して生成してしまう懸念があるので、ナフタレンジオールの1つの水酸基を保護基で不活性化したのちに、保護基の付いていないほうの水酸基に桂皮酸またはその誘導体を反応させ、その後、保護基を脱離してから、前記反応で用いたのとは異なる桂皮酸またはその誘導体を反応させるようにしてもよい。
【0074】
後述のように、本発明にかかる芳香族化合物におけるR4〜R9の種類は、紫外線吸収スペクトルや蛍光スペクトルに大きく影響を与えるものではないが、融点、溶解性、分散性、相溶性などの物性が変化するので、これを様々に選択することにより、用途に応じた多様な設計・制御が可能となる。特に、R4〜R9として、それぞれ独立して、様々な官能基を採用することができるので、原料である桂皮酸またはその誘導体(官能基はR1〜R3の3つ)と比べて、自由度がより高いといえる。そのような必要がない場合には、2種類以上の桂皮酸またはその誘導体を用いなくともよく、製造容易性に鑑みれば、1種類の桂皮酸またはその誘導体を用いるほうが好ましいといえる。
【0075】
上記において、ナフタレンジオールと桂皮酸またはその誘導体とを反応させる際の両者の割合は、ナフタレンジオールが有する水酸基の位置や、桂皮酸またはその誘導体が有する置換基(R4〜R9)の種類などによっても異なるが、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、桂皮酸またはその誘導体2〜10モル(2種類以上用いる場合はその合計モル量)であり、好ましくは、桂皮酸またはその誘導体2〜5モルである。
【0076】
また、トリフルオロ酢酸の使用割合は、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、トリフルオロ酢酸5〜20mlであり、好ましくは、トリフルオロ酢酸5〜10mlである。
【0077】
さらに、ジクロロメタンの使用割合は、例えば、ナフタレンジオール1モルに対して、ジクロロメタン1〜10mlであり、好ましくは、ジクロロメタン1〜5mlである。
【0078】
反応条件としては、例えば、50〜100℃で、3〜48時間とすることができ、70〜90℃で、5〜20時間とすることが好ましい。
【0079】
反応後は、従来公知の方法により、中間生成物を分離・精製することができる。
【0080】
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)で得られた中間生成物の構造中の2つの含酸素六員環が有する水素を、酸化により脱離する。
【0081】
この工程(b)により、含酸素六員環に炭素−炭素二重結合が導入され、これにより、ナフタレンジオールや桂皮酸もしくはその誘導体由来の芳香環、桂皮酸もしくはその誘導体由来のカルボニル基とともに共役系が形成され、本発明特有の紫外線吸収性や蛍光性が発現されるものと推測される。
【0082】
脱水素化のための酸化剤としては、例えば、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)、2,3,5,6−テトラクロロ−p−ベンゾキノン(クロラニル)などが挙げられる。中でも、DDQを用いることが好ましい。
【0083】
また、酸化剤の使用割合としては、その種類にもよるが、例えば、上記中間生成物1モルに対して、酸化剤3〜100モルであり、好ましくは、酸化剤10〜20モルである。
【0084】
反応条件としては、例えば、100〜150℃で、3〜48時間とすることができ、110〜130℃で、5〜20時間とすることが好ましい。
【0085】
反応後は、従来公知の方法により、最終生成物を分離・精製することができる。
【0086】
〔芳香族化合物の用途〕
本発明にかかる芳香族化合物は、特に限定されないが、例えば、紫外線吸収剤や蛍光材料として有用であり、特に紫外線吸収剤としての用途に適している。
【0087】
本発明にかかる芳香族化合物は、溶剤に溶解あるいは分散させて使用してもよいし、他の樹脂と相溶させて使用してもよいし、それ単独で固体状態で使用してもよい。
【0088】
本発明にかかる芳香族化合物を、溶剤に溶解あるいは分散させて使用する場合、該溶剤としては、例えば、トルエン、ヘキサン、THF(テトラヒドロフラン)、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、メタノール、エタノール、水などやこれらの2種以上の混合溶剤などが挙げられる。
【0089】
本発明にかかる芳香族化合物を、他の樹脂と相溶させて使用する場合、該樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、エポキシ−ポリエステル硬化系樹脂、アクリル−ウレタン硬化系樹脂、アクリル−メラミン硬化系樹脂、ポリエステル−ウレタン硬化系樹脂、ポリエステル−メラミン硬化系樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0090】
本発明にかかる芳香族化合物は、その用途に応じて、R4〜R9におけるアルコキシ基の数やその炭素数を適宜選択して、溶解性などを調整することができるので、上のように、溶剤や樹脂の種類を選択するのではなく、溶剤や樹脂の種類に応じて、R4〜R9を適宜選択し、溶解性などを調整するようにしてもよい。
【0091】
具体的な使用形態としては、特に限定するわけではないが、例えば、溶剤に溶解あるいは分散させることにより塗料や化粧料としたり、樹脂成形品を得る際に添加し樹脂中に分散させた後に成形することにより樹脂成形品中に含有させるようにしたり、蒸着法などによって所望の基板上に製膜したりといった使用形態が例示できる。
【0092】
用途に応じて、本発明にかかる芳香族化合物以外の他の成分を配合してもよい。
【0093】
例えば、紫外線吸収剤や有機蛍光材料に適用する場合、前記他の成分として、以下の水性成分、粉末成分、油成分などの成分を配合してもよい。
【0094】
すなわち、ワセリン、固体パラフィン、液状パラフィン、スクワランなどの炭化水素類;シリコン油類、オリーブ油、地ロウ、カルナウバロウ、ラノリンなどの植物性もしくは動物性の油脂類やロウ類;ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類;ホホバ油、カルナバワックス、合成ゲイロウ、ミツロウなどのエステル類;オリーブ油、水添ヤシ油、ヒマシ油、牛脂などのトリグリセライド類;エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;セチルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチルアルコールなどの高級アルコール類;グリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトールなどの多価アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの非イオン性界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸エステルなどのアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩酸などのカチオン性界面活性剤;アルキルベタインなどの両性界面活性剤;パラベン類やグルコン酸クロルヘキシジンなどの防腐剤;ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤;アラビアゴム、カルボキシビニルポリマーなどの増粘剤;ポリエチレングリコールなどの保湿剤;アルカリ、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩などのpH調節剤;酸化チタン、ベンガラ、タルク、粘土鉱物、シリカゲルなどの粉体類などが挙げられ、さらに、香料、色素、薬効成分、乳化安定剤、キレート剤、水溶性高分子、油溶性高分子などが挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を用いて、本発明にかかる芳香族化合物とその製造方法、および、その紫外線吸収剤もしくは有機蛍光材料としての性能評価を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0096】
〔原料の準備〕
後述の実施例1〜11で用いた桂皮酸誘導体(A)〜(E)は、以下のとおりである。
【0097】
<桂皮酸誘導体(A)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(A)で表される桂皮酸誘導体。
【0098】
【化14】
【0099】
上式中、「−OC10H21」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0100】
<桂皮酸誘導体(B)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(B)で表される桂皮酸誘導体。
【0101】
【化15】
【0102】
<桂皮酸誘導体(C)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(C)で表される桂皮酸誘導体。
【0103】
【化16】
【0104】
<桂皮酸誘導体(D)>
天然由来物質であるシナピン酸から誘導される、下式(D)で表される桂皮酸誘導体。
【0105】
【化17】
【0106】
上式中、「−OC10H21」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0107】
<桂皮酸誘導体(E)>
天然由来物質であるフェルラ酸から誘導される、下式(E)で表される桂皮酸誘導体。
【0108】
【化18】
【0109】
上式中、「−OC12H25」で表されるアルコキシ基は直鎖である。
【0110】
〔実施例1〕
下式で表される化合物を、以下のようにして合成した。
【0111】
<工程(a)>
1,3−ナフタレンジオール0.1gとその2倍モル量の桂皮酸誘導体(A)とを、トリフルオロ酢酸4mLおよびジクロロメタン4mLの混合溶液中に分散し、18時間還流した。得られた反応溶液を室温まで戻した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出し、水洗した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧蒸留した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、下式で表される中間生成物(Ai)29mgを得た。
【0112】
【化19】
【0113】
<工程(b)>
得られた中間生成物(Ai)0.2gおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)2gをジオキサン20mLに溶解させ、不活性ガス中で20時間還流した。得られた反応物を室温まで戻した後、析出固体を濾別し、得られた溶液(濾液)を減圧下で濃縮した。得られた残渣に、1M水酸化ナトリウムを加え、クロロホルムで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。これを、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、下式で表される目的生成物(A1)10mgを得た。
【0114】
【化20】
【0115】
目的生成物(A1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.59(1H,d,J=8.1Hz),7.45−7.49(1H,m),7.32(1H,d,J=8.3Hz),7.22−7.24(1H,m),6.88−6.92(5H,m),6.69(1H,s),4.06(2H,t,J=6.6Hz),3.81(3H,s),3.68(3H,s),1.81−1.90(4H,m),1.42−1.50(4H,m),1.28−1.40(26H,m),0.89(12H,t,J=6.6Hz)
【0116】
〔実施例2〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて1,5−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A2)を得た。
【0117】
【化21】
【0118】
目的生成物(A2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.33(1H,d,J=8.1Hz),7.32(1H,d,J=8.1Hz),6.95−7.04(3H,m),6.46(1H,s),4.06(2H,t,J=6.6Hz),3.87(3H,s),1.42−1.44(2H,m),1.18−1.39(12H,m),0.72(3H,t,J=8.1Hz)
【0119】
〔実施例3〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて1,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A3)を得た。
【0120】
【化22】
【0121】
目的生成物(A3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.85(1H,d,J=8.1Hz),7.66(1H,d,J=8.1Hz),7.31(1H,d,J=6.6Hz),7.19(1H,d,J=6.6Hz),6.92−7.00(5H,m),6.45(1H,d,J=8.1Hz),4.10(4H,t,J=8.0Hz),3.89(3H,s),3.77(3H,s),1.86−1.93(4H,m),1.46−1.51(4H,m),1.28−1.40(26H,m),0.89(12H,t,J=6.6Hz)
【0122】
〔実施例4〕
1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(A4)を得た。
【0123】
【化23】
【0124】
目的生成物(A4)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.65(1H,d,J=8.1Hz),7.15(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.42(1H,s),4.10(2H,t,J=6.6Hz),3.84(3H,s),1.89−1.96(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.20−1.45(12H,m),0.89(3H,t,J=6.6Hz)
【0125】
〔実施例5〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(B)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(B1)を得た。
【0126】
【化24】
【0127】
目的生成物(B1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.68(1H,d,J=8.1Hz),7.20(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.42(1H,s),3.99(2H,s),3.83(3H,s),1.86−1.92(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.25−1.39(11H,m),0.90(3H,t,J=6.6Hz)
【0128】
〔実施例6〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C1)を得た。
【0129】
【化25】
【0130】
目的生成物(C1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.55(1H,d,J=8.1Hz),7.41−7.44(1H,m),7.28(1H,d,J=8.3Hz),7.19−7.21(1H,m),6.68−6.72(5H,m),6.55(1H,s),3.81(6H,s),3.68(6H,s)
【0131】
〔実施例7〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて1,5−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C2)を得た。
【0132】
【化26】
【0133】
目的生成物(C2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.43(1H,d,J=8.1Hz),7.79(1H,d,J=8.1Hz),7.02−7.14(3H,m),6.55(1H,s),4.01(3H,s),3.96(3H,s)
【0134】
〔実施例8〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて1,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C3)を得た。
【0135】
【化27】
【0136】
目的生成物(C3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 8.90(1H,d,J=8.1Hz),7.71(1H,d,J=8.1Hz),7.34(1H,d,J=8.1Hz),7.21(1H,d,J=8.1Hz),6.94−7.03(5H,m),6.81(1H,d,J=8.1Hz),6.47(2H,d,J=8.1Hz),3.92(6H,s),3.81(6H,s)
【0137】
〔実施例9〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(C)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(C4)を得た。
【0138】
【化28】
【0139】
目的生成物(C4)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.62(1H,d,J=8.1Hz),7.15(1H,d,J=8.1Hz),6.83−6.96(3H,m),6.38(1H,s),3.51(3H,s),3.16(3H,s)
【0140】
〔実施例10〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(D)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(D1)を得た。
【0141】
【化29】
【0142】
目的生成物(D1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.85(1H,d,J=8.1Hz),7.22(1H,d,J=8.1Hz),6.55(2H,s),6.49(1H,s),4.13(2H,t,J=6.6Hz),3.85(3H,s),1.79−1.86(2H,m),1.48−1.52(2H,m),1.11−1.38(12H,m),0.92(3H,t,J=6.6Hz)
【0143】
〔実施例11〕
桂皮酸誘導体(A)に代えて桂皮酸誘導体(E)を用い、1,3−ナフタレンジオールに代えて2,6−ナフタレンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下式で表される目的生成物(E1)を得た。
【0144】
【化30】
【0145】
目的生成物(E1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) 7.67(1H,d,J=8.1Hz),7.19(1H,d,J=8.1Hz),6.89−7.00(3H,m),6.43(1H,s),4.11(2H,t,J=6.6Hz),3.84(3H,s),1.89−1.96(2H,m),1.50−1.54(2H,m),1.25−1.40(12H,m),0.89(3H,t,J=6.6Hz)
【0146】
〔比較例1〕
下記合成例1〜4に基づき、比較例1にかかる目的生成物(F1)を得た。
【0147】
<合成例1:下記中間化合物(Fi1)の合成>
【0148】
【化31】
【0149】
フェルラ酸メチルエステル2.1g、Ag2O1.0gをトルエン15mLおよびアセトン10mLの混合溶液中に分散させ、12時間不活性ガス中で還流させた。反応溶液を室温まで戻した後、析出固体を濾別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより中間生成物1.0gを得た。
【0150】
この中間生成物0.5gをピリジン10mLに溶解させ、無水酢酸2mLを滴下した後室温で攪拌を行った。2時間後水100mLを加え、さらに6N−HClで酸性化した後酢酸エチルで抽出、水洗を行った。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧蒸留することで第2中間生成物0.55gを得た。
【0151】
得られた第2中間生成物0.5gおよびDDQ0.3gをジオキサン100mLに溶解させ、20時間還流させた。室温まで戻した後に析出固体を濾別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより合成例1にかかる中間化合物(Fi1)0.3gを得た。
【0152】
中間化合物(Fi1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.84(1H,d,J=2.0Hz),7.81(1H,d,J=16.0Hz),7.79(1H,d,J=1.2Hz),7.68(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.15(1H,d,J=8.4Hz),7.03(1H,d,J=1.2Hz),6.47(1H,d,J=16.0Hz),4.05(3H,s),3.96(3H,s),3.94(3H,s),3.84(3H,s),2.35(3H,s);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ168.62,167.42,163.97,160.61,150.75,145.36,145.33,144.25,141.57,131.56,129.06,127.63,122.61,122.41,117.22,116.19,113.82,109.24,106.100,56.12,51.86,51.72,20.68
【0153】
<合成例2:下記中間化合物(Fi2)の合成>
【0154】
【化32】
【0155】
合成例1で得られた中間化合物(Fi1)0.2gをピロリジン2mLに溶解させ、そのまま5分間攪拌を行った。その後水10mLを加え、1N−HClで中和した後、析出固体を濾別乾燥し、合成例2にかかる中間化合物(Fi2)0.18gを得た。
【0156】
中間化合物(Fi2)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.81(1H,d,J=16.0Hz),7.78(1H,d,J=1.2Hz),7.76(1H,d,J=2.0Hz),7.66(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.03−7.00(2H,m),6.46(1H,d,J=16.0Hz),5.99(1H,s),4.05(3H,s),3.99(3H,s),3.96(3H,s),3.84(3H,s);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ167.50,164.28,161.87,148.01,145.99,145.52,145.19,143.98,131.36,129.29,123.79,121.04,117.02,116.14,114.20,112.12,107.83,105.79,56.16,56.09,51.74,51.72
【0157】
<合成例3:下記中間化合物(Fi3)の合成>
【0158】
【化33】
【0159】
合成例2で得られた中間化合物(Fi2)100mgをTHF1mLに溶解させ、そこに水酸化ナトリウム100mgを水10mLに溶解させた溶液を加え、乾留下8時間攪拌を行った。その後1N−HClで中和し、析出固体を濾別乾燥することにより、合成例3にかかる中間化合物(Fi3)70mgを得た。
【0160】
中間化合物(Fi3)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,DMSO−d6) δ7.76(1H,d,J=1.2Hz),7.72(1H,d,J=2.0Hz),7.69(1H,d,J=16.0Hz),7.49(1H,dd,J=2.0,8.4Hz),7.40(1H,d,J=1.2Hz),6.92(1H,d,J=8.4Hz),6.59(1H,d,J=16.0Hz),4.03(3H,s),3.84(3H,s);13C NMR(100MHz,DMSO−d6) δ167.82,164.84,160.83,149.34,147.20,145.12,144.74,143.24,131.60,129.41,123.06,119.83,118.88,115.74,115.44,113.58,108.20,106.38,56.34,55.87
【0161】
<合成例4:下記目的生成物F1の合成>
【0162】
【化34】
【0163】
合成例3で得られた中間化合物(Fi3)50mg、2−エチル−1−ヘキサノールを75mg、さらにトリフェニルホスフィン140mgをジクロロメタン15mL中に分散させ、そこにアゾジイソプロピルジカルボキシレートの40%トルエン溶液を265mg滴下した後一晩室温で攪拌を行った。その後減圧下で濃縮を行い、得られた残渣にアセトン50mLを加え、析出固体を濾別乾燥することにより目的生成物(F1)91mgを得た。
【0164】
目的生成物(F1)の同定結果(NMR測定)を以下に示しておく。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ7.85(1H,d,J=1.2Hz),7.77(1H,d,J=16.0Hz),7.68−7.66(2H,m),7.02(1H,d,J=1.2Hz),6.95(1H,d,J=9.2Hz),6.46(1H,d,J=16.0Hz),4.32−3.93(6H,m),4.06(3H,s),3.94(3H,s),1.89−0.88(45H,m);13C NMR(100MHz,CDCl3) δ167.27,164.13,162.06,151.16,148.93,145.22,145.15,144.02,131.45,129.45,123.36,121.38,117.59,115.81,113.37,112.04,108.32,106.07,76.30,71.80,67.14,66.89,56.36,56.16,39.03,38.91,30.57,30.47,30.39,28.98,23.97,23.85,23.75,23.05,23.01,22.96,14.08,14.04,11.05,11.04,10.95
【0165】
〔性能評価〕
<紫外線吸収性>
実施例1〜5および比較例1にかかる各芳香族化合物について、これらのクロロホルム溶液(5×10-5mol/L)を調製し、それぞれ、紫外可視分光光度計「V−560」(日本分光社製)を用いて紫外線吸収スペクトルを測定した。さらに、波長254nmの紫外線を照射し続けたときの1時間毎の各紫外線吸収スペクトルをも得て、紫外線照射下での紫外線吸収性の経時安定性を評価した。各図において、矢印は、吸光度の経時変化の方向を示している。
【0166】
実施例1〜5、比較例1の各結果を図1〜6に示す。また、理解の容易化のため、各実施例および比較例において、経時変化の大きかった波長(実施例1:331.0nm、実施例2:388.0nm、実施例3:363.5nm、実施例4:370.5nm、実施例5:388.5nm、比較例1:316.0nm)での相対吸光度(254nmの紫外線を照射する前の吸光度を1.0としたときの相対吸光度)の経時変化を図7に示した。
【0167】
図1〜7に示す結果を見ると、実施例1〜5にかかる本発明の芳香族化合物の紫外線吸収性は、いずれも、比較例1にかかる芳香族化合物と比較して、紫外線照射下での紫外線吸収性の劣化が殆どなく、極めて優位な安定性を示していることが分かった。
【0168】
実施例1〜4は、立体構造(原料の違いとしてみれば、ナフタレンジオールにおける水酸基の位置)が異なるものであるが、立体構造が異なっても、比較例に対する優位性は変わらない。中でも、実施例2の立体構造(1,5−ナフタレンジオールを原料とするもの)が特に紫外線吸収性の安定性に優れていると評価できる。
【0169】
また、実施例5は、置換基の種類が実施例3と異なっているものであるが、紫外線に対する安定性は、実施例3と同程度である。
【0170】
このように、置換基の種類は、炭素数の数や分岐の有無も含め、紫外線に対する安定性に大きく影響を与えるものではなく、したがって、上述の実施例6〜11にかかる芳香族化合物も、実施例1〜5と同様に紫外線に対して優れた安定性を有すると理解される。
【0171】
また、紫外線吸収性そのものに関しても、UV−B(290〜315nm)、UV−A(315〜400nm)の両領域にわたる広い範囲で紫外線吸収性が発揮されていることから、極めて優れていることが分かる。
【0172】
実施例6〜11についても、紫外線スペクトルを測定したところ、図8〜10に示す結果から分かるように、基本的には分子骨格の構造(原料の違いとしてみれば、ナフタレンジオールにおける水酸基の位置)に応じて類似のスペクトルが得られている。そして、置換基の種類は、アルコキシ基の数やその炭素数、分岐の有無も含め、紫外線に対する安定性に大きく影響を与えるものではなく、実施例1〜5と同様、UV−B(290〜315nm)、UV−A(315〜400nm)の両領域にわたる広い範囲で紫外線吸収性が発揮されていることが分かった。
【0173】
より詳細に評価すると、1,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例3,8の芳香族化合物および2,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例4,5,9〜11は、400nm付近で急激に吸光度が低下しており、紫外線吸収性能としては理想的なスペクトルを示している。実施例3,8の芳香族化合物のUVスペクトルは吸収端が410nm程度であり、実施例4,5,9〜11の芳香族化合物のUVスペクトルは吸収端が420nm程度であることから、特に、1,6−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例3,8の芳香族化合物が優れていることが分かる。1,5−ナフタレンジオールとのカップリング構造を有する実施例2,7の芳香族化合物は、吸収端が400nmを若干超えてはいるものの、250〜300nmという特定の波長域において、吸光度が突出して高く、また、上述のとおり、経時安定性が最も高いという利点を有する。
【0174】
ちなみに、フェルラ酸エチルエステルとの対比では、図11に示すように、フェルラ酸エチルエステルにおける吸収域が250〜350nm程度と狭いのに対して、本発明のほうが広い範囲で紫外線吸収性を示しており、その優位性は明らかである。
【0175】
<蛍光性>
各実施例1〜4,6〜9にかかる芳香族化合物について、これらのクロロホルム溶液(5×10-6mol/L)を調製し、それぞれ、蛍光分光光度計「FP−6500」(日本分光社製)を使用して蛍光スペクトルを測定した。結果を図12,13に示す。
【0176】
図12,13に示すとおり、紫外線吸収性試験と同様の傾向が見られた。
【0177】
すなわち、原料であるナフタレンジオールが有する水酸基の位置に基づく環構造の相違は、蛍光性に多少影響を与えていることが認められるが、いずれの実施例においても、優れた蛍光性が発揮されていることが分かる。
【0178】
また、上記の蛍光性は、R4〜R9の種類(アルコキシ基の数やその炭素数)によってはあまり影響を受けないことが分かった。したがって、他の実施例にかかる芳香族化合物も優れた蛍光性を有することは明らかである。
【0179】
よって、本発明の芳香族組成物は、有機蛍光材料としても有用であることが分かる。
【0180】
<耐熱性>
各実施例1〜4,9にかかる芳香族化合物について、分解温度(5wt%減少時の温度)を測定したところ、結果は下表のとおりであった。
【0181】
【表1】
【0182】
上記結果から、各実施例1〜4,9にかかる本発明の芳香族化合物は、分解温度が高く、実用上、十分な耐熱性を備えていることが分かった。
【0183】
他の実施例にかかる芳香族化合物も、基本的には実施例1〜4,9と同様の分子骨格を有するので、高い耐熱性を有することは明らかである。
【0184】
したがって、本発明の芳香族化合物は、例えば、他の樹脂基材への分散させるために樹脂基材を熱溶融させて使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明にかかる芳香族化合物は、例えば、紫外線吸収剤や有機蛍光材料などとして好適に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである、芳香族化合物。
【化1】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
下式(2)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化2】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項3】
下式(3)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化3】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項4】
下式(4)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化4】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項5】
下式(5)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化5】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の芳香族化合物を有効成分とする、紫外線吸収剤。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれかに記載の芳香族化合物を有効成分とする、有機蛍光材料。
【請求項8】
ナフタレンジオールと、下式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、芳香族化合物の製造方法。
【化6】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項1】
ナフタレンジオール1分子に対して、下式(1)で表される同一もしくは異なる桂皮酸もしくはその誘導体2分子が結合した構造を有する芳香族化合物であって、前記結合構造が、前記各桂皮酸もしくはその誘導体の各α,β−不飽和カルボキシル基と、前記ナフタレンジオールが有する2つのフェノール性水酸基との環状エステル化反応により形成される2つの含酸素六員環を脱水素化することにより形成され得るものである、芳香族化合物。
【化1】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
下式(2)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化2】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項3】
下式(3)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化3】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項4】
下式(4)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化4】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項5】
下式(5)で表される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【化5】
(式中、R4〜R9は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の芳香族化合物を有効成分とする、紫外線吸収剤。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれかに記載の芳香族化合物を有効成分とする、有機蛍光材料。
【請求項8】
ナフタレンジオールと、下式(1)で表される1種または2種以上の桂皮酸もしくはその誘導体とを、トリフルオロ酢酸およびジクロロメタンの存在下で反応させたのち、前記反応により形成された2つの含酸素六員環中の水素を酸化により脱離させて不飽和結合を生じさせる、芳香族化合物の製造方法。
【化6】
(式中、R1〜R3は、同一もしくは異なって、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルコキシ基を示す。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−28549(P2013−28549A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164636(P2011−164636)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究「環境調和資源・技術による機能性有機材料の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究「環境調和資源・技術による機能性有機材料の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】
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