説明

芳香族含量の低い高ディーゼル収率及び/又は高プロピレン収率を得るための接触分解プロセス

流動接触分解において、低芳香族LCO収率及び/又はプロピレン収率を最大化するプロセスを開示する。プロセスは、主に塩基性である物質及び、非常に少量〜ゼロの大細孔ゼオライトを含む触媒組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FCC原料からの低芳香族ディーゼルを最大化するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ほぼ全ての接触分解は、現在、流動接触分解(FCC)プロセスで実施されている。このプロセスでは、触媒物質の小粒子を浮揚用ガスに懸濁させる。原料は、ノズルを通して触媒粒子上に噴霧される。原料分子は、分解された生成物を生成する触媒粒子上で分解され、その生成物は、反応器を通して触媒粒子を運ぶ浮揚用気体を構成する。触媒粒子は、反応生成物から分離され、触媒粒子が過酷な水蒸気処理にさらされるストリッピング部に送られて、可能な限り多くの炭化水素分子が除去される。ストリッパーの後、触媒粒子は、反応中に形成されたコークスが燃え尽きる再生器に移送され、触媒は更に使用するために再生される。前述は、一段階分解プロセスを簡単に説明したものであり、このプロセスは圧倒的に最も広く用いられているプロセスである。
【0003】
標準的なFCCプロセスにおける触媒は、典型的には、Y−ゼオライト又は安定化形のY−ゼオライトのような、大細孔酸性ゼオライトを含む。一般に、Y−ゼオライトは、マトリックス材料と組み合わせられ、そのマトリックス材料はアルミナ又はシリカ−アルミナであってよい。触媒は、原料の金属混入、具体的にはニッケル及びバナジウムによる毒作用に対する耐性を向上させるための成分を更に含んでよい。他の成分が、原料由来の硫黄を捕捉するために存在してもよい。主に、実際の分解プロセスは、大細孔ゼオライトの酸性部位上で行われる。
【0004】
FCCプロセスの生成物は、その後、いくつかの留分に分けられる。乾燥ガスは、周囲温度で圧縮したとき液化しない低分子量留分である(したがって、乾燥という語である)。乾燥ガスは、H2S、水素、メタン、エタン、及びエテンを含む。液化石油ガス留分は、室温で気体の形態であるが、圧縮したとき液化する化合物から成る。この留分は、主にプロパン、プロペン、ブタン、並びにそのモノ−及びジ−オレフィン類を含む。
【0005】
ガソリン留分は、約40℃から約165〜221℃の沸点範囲を有する。精製プロセスの具体的な目的に応じて終点は変動する。ガソリン留分は、オットー機関を備える自動車用燃料として販売されている市販のガソリンの基礎を形成する。ガソリン留分の主な要件の1つは、可能な限り高いオクタン価を有することである。直鎖炭化水素は低いオクタン価を有し、分岐鎖炭化水素は高いオクタン価を有し、オクタン価はアルキル基の数の増加と共に更に高まる。オレフィン類は高いオクタン価を有し、芳香族は更に高いオクタン価を有する。
【0006】
ライトサイクルオイル留分又はLCO留分は、ガソリン留分の沸点より高く、約350℃より低い沸点を有する留分である。水素化処理は、典型的には、LCOを、政府規制を満たすディーゼル燃料に変換するために必要とされる。LCOの質は、その窒素含量、硫黄含量及び芳香族含量の観点では、LCO留分を、水素化処理プロセスでディーゼル燃料に変換される供給物にブレンドしてよい速度を決定する。ディーゼル燃料は、可能な限り高いセタン価を有することが重要である。直鎖炭化水素は高いセタン価を有し、分岐鎖炭化水素、オレフィン類及び芳香族は、非常に低いセタン価を有する。
【0007】
約350℃を超える沸点を有する生成物留分は、「残油(bottoms)」と呼ばれる。可能な限り高い変換速度で稼働することが望ましいが、生成物混合物の組成は高変換速度で
稼働することにより悪影響を受ける。例えば、コークス収率は、変換速度の増加と共に増加する。コークスは、触媒上の炭素及び予炭素沈着物(pre-carbon deposits)の形成を説明する用語である。吸熱分解反応のエネルギーを提供するため、ある程度まで、コークスの形成は分解プロセスで必須である。しかしながら、コークス収率が高いことは望ましくない、なぜなら、コークスの燃焼はプロセスが必要とするよりも多くの熱を生成するため、炭化水素材料の損失及び熱収支の崩壊をもたらすからである。これらの条件下では、例えば、再生器内に触媒冷却装置を設けることにより生成された熱の一部を放出する、又は部分的燃焼モードでプロセスを稼働することが必要な場合がある。
【0008】
一般に、FCC生成物流の最も望ましい留分は、軽質オレフィン、ガソリン留分及びLCO留分である。最後2つの望ましい分割は、商業用ガソリン及びディーゼルに対する相対的要求により、また暖房用燃料に対する季節的要求により決定される。
【0009】
高セタン価に対する必要性のため、ライトサイクルオイル留分中の芳香族の量をできる限り低く維持することが望ましい。その沸点のために、形成される芳香族のいずれかの大部分は、ライトサイクルオイル留分に行き着く。それ故、分解プロセスで形成される芳香族の量を最小限に抑えることが望ましい。熱分解及び接触分解プロセスに由来するLCOは、通常、低いセタン価を有する。典型的には、従来のFCCプロセスから得られるセタン価は、約20〜約25で変動する。しかしながら、次第に、ディーゼルプールのセタン価を50超にすることが望ましくなっている。
【0010】
ベンゼン及びトルエンのような低級芳香族は、分解プロセススレートのガソリン留分の一部となる。その高いオクタン価のために、ガソリンの芳香族成分は、望ましいと考えられる場合もある。しかしながら、芳香族化合物の毒性に関する問題が増加しているため、芳香族含量の低いガソリン留分を形成することが望ましくなっている。精製装置のガソリンプールのオクタン価は、FCCからのブチレン及びイソブタン流のアルキル化により増加させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、FCC原料を分解し、それにより従来のFCCプロセスに比べて芳香族の形成を低減するための分解プロセスを開発することが望ましい。従来のFCCプロセスに比べて、芳香族含量が低く、かつセタン価の高い、ライトサイクルオイル留分を高収率で生成することができる接触分解プロセスを提供することが特に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの実施形態は、(a)接触分解条件下で、接触分解段階にてFCC供給物を触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、(c)残油留分の少なくとも一部を接触分解段階に再利用する工程と、を含む流動接触分解プロセスであって、前記触媒組成物が、主に塩基性である物質と、約15重量%未満、好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満の大細孔ゼオライトとを含む、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まないプロセスを含む。
【0013】
本発明の別の実施形態は、(a)接触分解条件下で、第1接触分解段階にてFCC供給物を触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、(c)分離した残油留分の少なくとも一部を、第2流動接触分解段階にて、接触分解条件下で触媒組成物と接触させる工程と、を含む流動接触分解プロセスであって、前記触媒組成物が、主に塩基性である物質と、約15重量%未満、好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5重量%未満、更により
好ましくは約3重量%未満の大細孔ゼオライトと、を含む、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まないプロセスを含む。
【0014】
本発明の別の実施形態は、(a)接触分解条件下で、第1接触分解段階にてFCC供給物を第1触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、(c)分離した残油留分の少なくとも一部を、第2流動接触分解段階にて、接触分解条件下で第2触媒組成物と接触させる工程であって、前記第2流動接触分解段階が、前記第1流動接触分解段階と離れている工程と、を含む流動接触分解プロセスであって、前記第1触媒組成物が、主に塩基性である物質と、約15重量%未満、好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満の大細孔ゼオライトと、を含む、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まないプロセスを含む。
【0015】
本発明の別の実施形態は、(a)接触分解条件下で、接触分解段階にてFCC供給物を触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、(c)水素化条件下で、水素化触媒の存在下にて残油留分の少なくとも一部を水素化して、水素化された残油生成物を形成する工程と、(d)水素化された残油留分の少なくとも一部を接触分解段階に再利用する工程と、を含む流動接触分解プロセスであって、前記触媒組成物が、主に塩基性である物質と、約15重量%未満、好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満の大細孔ゼオライトと、を含む、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まないプロセスを含む。
【0016】
本発明の別の実施形態は、(a)接触分解条件下で、第1接触分解段階にてFCC供給物を第1触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、(c)水素化条件下で、水素化触媒の存在下にて残油留分の少なくとも一部を水素化して、水素化された残油生成物を形成する工程と、(d)水素化された残油生成物を、第2流動接触分解段階にて、接触分解条件下で第2接触分解触媒と接触させる工程であって、前記第2流動接触分解段階が、前記第1流動接触分解段階と離れている工程と、を含む流動接触分解プロセスであって、前記第1触媒組成物が、主に塩基性である物質と、約15重量%未満、好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満の大細孔ゼオライトとを含む、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まないプロセスを含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に開示するプロセスは、主に塩基性である物質を含む塩基性触媒組成物を使用して、FCC原料を触媒的に分解することを想到する。塩基性触媒組成物は、塩基性部位、及び所望により酸性部位を有するが、但し触媒が酸性及び塩基性部位の両方を含む場合、塩基性部位の数は酸性部位の数より著しく多い。
【0018】
任意の提案された理論に縛られるものではないが、塩基性部位を有する触媒は、ラジカル又は一電子機構を介して分解反応を触媒すると考えられている。これは、熱分解で生じるのと同じ機構である。熱分解との違いは、触媒の存在が反応速度を増加させ、熱分解に比べて低い反応速度で稼働することを可能にすることである。一方、従来よりのFCCプロセスは酸性物質、一般的に大細孔酸性ゼオライトを、分解触媒として用いる。触媒の酸性部位が、二電子機構を介して分解反応を触媒する。この機構は、高分子量オレフィン類の形成を好み、これは容易に環化してシクロアルカンを形成する。シクロアルカンは、順に、大細孔ゼオライトにより触媒される水素転位を介して芳香族に容易に反応する。USY、REY及び当該技術分野において既知である他のもののような、大細孔ゼオライトの量及び特性は、この反応の程度を決定する。少量の大細孔ゼオライトでさえ触媒系の活性
を著しく増加させるが、LCOの質を犠牲にする。それ故、触媒組成物中の大細孔ゼオライトの量は、好ましくは約15重量%未満、より好ましくは約10重量%、より好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満である。最も好ましくは、触媒組成物は、実質的に大細孔ゼオライトを含まないものである。
【0019】
用語「触媒組成物」は本明細書で使用するとき、FCCプロセスでFCC原料と接触する触媒物質の組み合わせを指す。触媒組成物は、1種の触媒粒子から成ってもよく、又は異なる種の粒子の組み合わせであってもよい。例えば、触媒組成物は、主な触媒物質の粒子及び触媒添加剤の粒子を含んでよい。用語「主に塩基性である」は本明細書で使用するとき、物質の部位の約40%未満が酸性であることを意味する。これは、物質の全体的な特徴が、この条件下で酸性になる傾向があるためである。酸性部位を有する物質の存在は、触媒の全体的な活性を高めるという観点では、望ましい場合がある。
【0020】
接触分解プロセスに好適なFCC供給物としては、軽油のような、約430°F〜約1050°F(220〜565℃)の範囲で沸騰する炭化水素質油、1050°F(565℃)超で沸騰する物質を含む重炭化水素油;重及び還元石油原油;石油常圧分留残油(常圧残渣油);石油真空蒸留残油(真空残渣油);ピッチ、アスファルト、ビチューメン、他の重炭化水素残渣油;タールサンド油;シェール油;石炭液化プロセス由来の液体生成物;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
FCC供給物は、触媒組成物の存在下にて、分解条件下で分解される。第1流動接触分解段階におけるプロセス条件としては、(i)約480℃〜約650℃、好ましくは約480℃〜約600℃、更により好ましくは約480℃〜約500℃の温度、(ii)約10〜40psia(70〜280kPa)の炭化水素分圧、及び(iii)触媒重量が触媒組成物の総重量である場合、約3:1〜40:1、好ましくは約10:1〜30:1の触媒対油の(重量/重量)比が挙げられる。必須ではないが、水蒸気を供給物と共に反応領域に同時に導入してもよい。水蒸気は、約10重量%以下、好ましくは約2〜約3重量%の供給物を含んでよい。
【0022】
本発明のプロセスで用いられる主に塩基性である触媒組成物は、10の触媒対油(CTO)比及び700℃未満の接触温度で、少なくとも10%のFCC原料を変換する。変換は、本明細書で、(乾燥ガスの体積%)+(LPGの体積%)+(ガソリンの体積%)+(コークスの体積%)として定義され、100−(残油の体積%)−(LCOの体積%)として算出される。好ましくは、第1流動接触分解段階における変換は、少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、かつ、約70%未満、好ましくは約60%未満、更により好ましくは約55%未満である。
【0023】
第1流動接触分解段階では、分解は、好ましくは、芳香族含量を最小限に抑えながら、LCO収率を最大化するように、低い分解温度で実施される。第1段階からの残油の芳香族含量もまた低く、例えば、残油を再利用することにより、又は残油を、高温及び/若しくは第1段階とは異なる触媒を有する第2段階に供給することにより、第2段階で容易に分解することができる。このような方法で、FCC供給物の変換、LCO収率及びLCOセタン価が最大化される。
【0024】
第1分解段階の温度は、できる限り低く保持して、芳香族の形成を低減すべきである。従来のFCCユニットでは、分解温度が低下すると、炭化水素蒸気のストリッピングは低下する、なぜなら、ストリッピング温度は完全に分解温度により決定されるためである。ストリッピングが許容できないほど低い場合、炭化水素の再生器への漏出(breakthrough)が生じ、これは温度の暴走及び過剰な触媒の不活性化を引き起こす。ストリッピングを犠牲にすることなく、低分解温度を可能にするために、一部の熱い再生された触媒をスト
リッパー床に送るような、ストリッピング温度を上昇させる設備を設けてもよい。
【0025】
上記のように、塩基性触媒部位に加えて酸性部位を有する触媒組成物を有することも可能である。触媒の全体的触媒活性を上昇させるために、酸性部位を設けることが更に望ましい場合もある。酸性部位が存在する場合、しかしながら、塩基性部位の数は酸性部位の数を著しく上回らなくてはならない(物質の部位の約40%未満が酸性)。また、酸性部位は、好ましくは、酸性大細孔ゼオライト物質の形態では存在しない。
【0026】
固体物質の酸性部位及び塩基性部位を滴定する方法は、"Studies in Surface Science and Catalysis, 51: New Solid Acids and Bases", K. Tanabe, M. Misono, Y. Ono, H. Hattori, Kodansha Ltd. Tokyo (co-published by Kodansha Ltd. Tokyo and Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam)(以後"Tanabe"と呼ぶ)に記載されている。
【0027】
ベンチマークである物質はシリカであり、これは、添加剤又はドーパントの非存在下で、本発明の目的のために「中性」であると考えられる。Tanabeに記載されている種類の指標に対するより塩基性である反応を有する任意の物質は、原則として本発明の目的のために塩基性物質である。
【0028】
Tanabeの表2.4から明らかであるように、固体物質は、塩基性及び酸性部位の両方を有する場合がある。本発明の触媒組成物に好適な塩基性物質は、それが保有する酸性部位よりも多くの塩基性部位を有するものである。本発明の塩基性物質は、酸性物質と混合してもよいが、但し組成物の塩基性部位の合計は酸性部位の合計より多い。
【0029】
大細孔酸性ゼオライトは、従来のFCCプロセスで一般的に用いられているように、塩基性物質と組み合わせて非常に少量で用いるとき、得られる触媒が主に酸性である、多くの強力な酸性部位を有する。本発明の触媒組成物は、少量の大細孔酸性ゼオライトしか含有せず、好ましくは実質的に大細孔酸性ゼオライトを含まない。
【0030】
本発明の触媒組成物として用いるのに好適な物質としては、塩基性物質(ルイス塩基及びブレンステッド(Bronstedt)塩基の両方)、空位を有する固体物質、遷移金属及びリン酸塩が挙げられる。物質は、低い脱水素活性を有することが望ましい。好ましくは、本発明の触媒組成物は、実質的に脱水素活性を有する成分を含まない。例えば、いくつかの遷移金属の化合物は、この状況で有用であるには強すぎる脱水素活性を有する傾向があることが発見されている。それらは必要な塩基性特性を有する場合もあるが、これらの物質の脱水素活性により、結果として望ましくない程コークス収率が高くなり、芳香族の形成が多くなりすぎる。一般規則として、金属状態で存在する、又はFCC条件下で金属状態に転換する傾向のある遷移金属は、本目的にとって有用であるには高すぎる脱水素活性を有する。
【0031】
塩基性物質は、好適なキャリア上に担持してよい。この目的のために、塩基性物質は、当該技術分野において既知である任意の好適な方法によりキャリア上に沈着してよい。
【0032】
キャリア物質は、自然界では酸性であってよい。多くの場合、塩基性物質は、キャリアの酸性部位を覆い、結果として必要な塩基性特性を有する触媒が生じる。好適なキャリア物質としては、耐火性酸化物、具体的にはアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
本発明の触媒組成物で用いるのに好適な塩基性物質としては、アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、三価金属の化合物、遷移金属の化合物、ランタニドの化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
好適な化合物としては、これらの元素の酸化物、水酸化物、及びリン酸塩が挙げられる。
【0035】
本発明の触媒組成物中の塩基性物質として好ましい物質の部類は、混合された金属酸化物、混合された金属水酸化物、及び混合された金属リン酸塩である。カチオン性及びアニオン性層状物質は、混合された金属酸化物の前駆体として好適である。
【0036】
本発明に好ましい塩基性物質の別の部類は、遷移金属の化合物、具体的には、酸化物、水酸化物及びリン酸塩である。好ましいのは、強力な脱水素活性を有しない遷移金属の化合物である。好適な物質の例としては、ZrO2、Y23及びNb25が挙げられる。
【0037】
本発明で塩基性触媒組成物として用いるための物質の好ましい部類は、アニオン性粘土、具体的にはハイドロタルサイト様物質である。
【0038】
ハイドロタルサイト様アニオン性粘土では、ブルーサイト様主層は、水分子及びアニオン、より具体的には炭酸イオンが分布している、中間層と交互に存在する8面体で組み立てられる。
【0039】
中間層は、NO3-、OH-、Cl-、Br-、I-、SO42-、SiO32-、CrO42-、BO32-、MnO4-、HGaO32-、HVO42-、ClO4-、BO32-のようなアニオン、V10286-のような柱状(pillaring)アニオン、酢酸塩のようなモノカルボン酸塩、オキサレートのようなジカルボン酸塩、ラウリルスルホン酸塩のようなアルキルスルホン酸塩を含有してよい。
【0040】
「真の」ハイドロタルサイト、つまり二価金属としてマグネシウム、三価金属としてアルミナを有するハイドロタルサイトが、本発明で使用するのに好ましい。
【0041】
ハイドロタルサイト様物質(ハイドロタルサイト自体を含む)の触媒選択性は、ハイドロタルサイトを熱で不活性化することにより改善できる。ハイドロタルサイト物質を熱不活性化する好適な方法は、約300〜約900℃の温度で、数時間、例えば5〜20時間、空気又は水蒸気中で物質を処理することを含む。加熱は、層状構造を崩壊させ、非晶質物質を形成させる。連続して加熱すると、ドープされたペリクレース構造が形成され、そこにいくつかのMg2+部位にAl3+が充填される。換言すれば、空位が形成され、それは触媒物質の選択性を改善することが見出されている。
【0042】
極度の熱処理は、この物質をペリクレース及びスピネル構造に分離させる。スピネル構造は、触媒として不活性である。900℃で4時間、ハイドロタルサイト物質を加熱した後、著しいスピネル形成が観察されている。
【0043】
塩基性物質の別の好ましい部類は、リン酸アルミニウムである。
【0044】
上述の物質の活性及び選択性は、これらの金属に別の金属をドープすることにより、調節できる。一般に、大部分の遷移金属は、この状況で用いるのに好適なドーパントである。注目に値する例外としては、ニッケルのような脱水素活性を有する遷移金属、及び白金族金属が挙げられる。Fe及びMoもまた、好適ではないことが見出されている。
【0045】
好ましいドーパントとしては、元素の周期律表のIIb、IIIb、IVb族の金属カチオン、及び希土類金属が挙げられる。特に好ましいドーパントとしては、La、W、Zn、Zr及びこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
既に言及したように、本発明の触媒組成物は、酸性物質を更に含んでもよいが、但し触媒の全体的な特性は塩基性のままである。酸性部位を有する物質の存在は、触媒の全体的な活性の改善の観点で望ましい場合がある。
【0047】
シリカ−マグネシアは、塩基性及び酸性部位を両方有する物質の例である。約40%を超える部位が酸性である場合、物質の全体的な特性が酸性になる傾向がある。
【0048】
酸性部位を有する好適な物質としては、シリカゾル、金属でドープしたシリカゾル、及びシリカと他の耐火性酸化物とのナノスケール複合材が挙げられる。酸性ゼオライトは、本発明の触媒物質に導入するのに好適ではない、なぜなら、酸性ゼオライトの酸性特性は、触媒の塩基性特性に容易に打ち勝つほど強いためである。この理由のために、本発明の触媒組成物は、3重量%未満の酸性ゼオライトを含み、好ましくは実質的に酸性ゼオライトを含まない。
【0049】
高い摩耗耐性を有する触媒を調製する好適な方法は、米国特許第6,589,902号(Stamires et al.)に記載されており、この開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0050】
本発明の主に塩基性である触媒組成物は、好ましくは、従来のFCC触媒より低い活性を補うために、比較的高い比表面積を有する。好ましくは、主に塩基性である触媒組成物は、600℃で2時間水蒸気により不活性化した後、BET法により測定したとき、少なくとも60m2/g、好ましくは少なくとも90m2/gの比表面積を有する。
【0051】
別の実施形態では、本発明のプロセスは、塩基性物質及び中及び/又は小細孔ゼオライトを含む主に塩基性である触媒組成物を利用し、当該触媒組成物は実質的に大細孔ゼオライトを含まない。触媒組成物は、1種の触媒粒子から成ってもよく、又は異なる種の粒子の組み合わせであってもよい。例えば、触媒組成物は、主な触媒物質の粒子及び触媒添加剤の粒子を含んでよい。組み合わせられた組成物は、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、更により好ましくは3重量%未満のような非常に少量の大細孔ゼオライトしか含有しないべきであり、最も好ましくは実質的に大細孔ゼオライトを含まない。
【0052】
ゼオライトは、多数の非常に小さな矩形チャネルにより相互に連結され得る、多数の規則的な小さな空洞を特徴とする均一な結晶構造を有する結晶性アルミノケイ酸塩である。相互に連結された均一な大きさの空洞及びチャネルの網状構造から成るこの構造により、結晶性ゼオライトは、特定の明確な値を下回る大きさを有する吸着分子を受け入れることができ、一方、より大きな分子は拒絶することが発見されており、この理由のためにそれは「分子篩」として知られるようになっている。この特徴的な構造はまた、それに、特に特定の種の炭化水素を変換するための触媒特性を与える。
【0053】
中及び小細孔ゼオライトは、0.7mm以下の有効孔開口部直径、10員環又はそれ以下の員環、及び31未満かつ2超の拘束指数(Constraint Index)を有することを特徴とする。本発明で有用な中及び/又は小細孔ゼオライトとしては、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−38、ZSM−48が挙げられるが、これらに限定されないゼオライトのZSMファミリー、及び他の類似の物質が挙げられる。他の好適な媒体又はより小さな細孔のゼオライトとしては、フェリエライト、エリオナイト及びST−5、ITQ、並びに類似の物質が挙げられる。ZSM−5として知られている結晶性アルミノケイ酸塩ゼオライトは、米国特許第3,702,886号に具体的に記載されており、この開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。ZS
M−5結晶性アルミノケイ酸塩は、5超のシリカ対アルミナモル比を特徴とし、より正確には[数1]による無水状態にある。
【0054】
[数1]
[0.9±0.2M2/nO:Al23:>5SiO2
【0055】
式中、価数nを有するMは、アルカリ金属カチオン及びオルガノアンモニウムカチオンの混合物、具体的にはナトリウム及びテトラアルキルアンモニウムカチオン(このアルキル基は好ましくは2〜5個の炭素原子を含有する)の混合物から成る群から選択される。上記状況で用いるとき、用語「無水」は、分子水が式中に含まれないことを意味する。一般に、ZSM−5ゼオライトの、SiO2のAl23に対するモル比は、広く変動することができる。例えば、ZSM−5ゼオライトは、ZSM−5が、アルミニウムの不純物をわずかにしか含有しないシリカのアルカリ混合物から形成される、アルミニウムを含まないものであり得る。ZSM−5として特徴付けられる全てのゼオライトは、しかしながら、ゼオライトのアルミニウム含量にかかわらず、米国特許第3,702,886号に記載されている特徴的なX線回折パターンを有する。
【0056】
任意の既知のプロセスを使用して、本発明で有用な中及び/又は小細孔ゼオライトを生成することができる。結晶性アルミノケイ酸塩は、一般に、酸化ナトリウムを含む酸化物、アルミナ、シリカ及び水の混合物から調製されている。つい最近になって、粘土及び脱水された形の共沈アルミノケイ酸塩ゲルが、反応系でアルミナ及びシリカ源として用いられている。
【0057】
本発明の触媒組成物は、約5重量%を超えることが好ましく、約10重量%を超えることがより好ましい、約1〜約75重量%の、少なくとも1種の中及び/又は小細孔ゼオライトを含有してよい。触媒組成物は、好ましくは、一方が塩基性物質を含み、他方が中及び/又は小細孔ゼオライトを含む、2種の別々の粒子を含む。
【0058】
本発明の触媒組成物は、好ましくは、従来のFCC触媒より低い活性を補うために、比較的高い比表面積を有する。好ましくは、触媒組成物は、600℃で2時間水蒸気により不活性化した後、BET法により測定したとき、少なくとも60m2/g、好ましくは少なくとも90m2/gの比表面積を有する。
【0059】
分解反応は、コークスを触媒上に沈着させ、それにより触媒を不活性化する。分解された生成物は、コークス化された触媒から分離され、分解された生成物の少なくとも一部が精留塔に導かれる。精留塔は、分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する。コークス化された触媒は、揮発性物質(ストリッピング可能な炭化水素)が、水蒸気のようなストリッピング物質で触媒粒子からストリッピングされる、ストリッピング領域を通して流れる。ストリッピングは、好ましくは、熱収支のために、吸着された炭化水素のより大きな留分を保持するために、それ程過酷でない条件下で起こる。ストリッピングされた触媒は、次いで、酸素を含有する気体、好ましくは空気の存在下にて、触媒上でコークスを燃焼させることにより触媒が再生する、再生領域に導かれる。脱コークス化により、触媒活性は回復し、同時に触媒が約650℃〜約750℃に加熱される。高温触媒は、次いで、主にFCCライザ反応器で再利用される。再生器内でコークスが燃焼することにより形成される燃料排ガスは、微粒子の除去、及び一酸化炭素の変換のために、処理してもよい。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、残油留分の少なくとも一部をクラッキングした生成物から分離し、次いで水素化加工して、水素化残油生成物を形成する。用語、水素化加工及び水素付加は、本明細書で広く用いられ、例えば、芳香族種に水素付加することにより
実質的又は完全に飽和させること、水素化処理、水素化分解、及びハイドロファイニングを含む。
【0061】
残油留分の水素化は、有効量の水素化加工又は水素付加触媒の存在下にて、水素化条件下で、水素化加工反応器内において生じ得る。当業者に既知であるように、水素化加工の程度は、触媒の適切な選択を通して、及び稼働条件を最適化することにより、制御できる。好ましくは、水素化加工は、著しい量の芳香族種を飽和させる。また好ましくない種を、水素化加工反応により除去することもできる。これらの種としては、硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化物及び特定の金属を含有する場合がある、非ヒドロカルビル種が挙げられる。
【0062】
水素化加工は、1段階又はそれ以上の段階で実施してよい。反応は、約100℃〜約455℃で変動する温度で起こる。反応圧力は、好ましくは、約100〜約3000psigで変動する。時間ごとの空間速度は、好ましくは、約0.1〜6V/V/Hrで変動し、ここでV/V/Hrは、油供給物の体積/時間/触媒の体積として定義される。好ましくは水素含有ガスを添加して、約500〜約15,000標準立方フィート/バレル(SCF/B)で変動する水素充填量を確立する。使用される実際の条件は、供給物の質及び触媒のような要因に依存する。
【0063】
水素化加工条件は、任意の数種の水素化加工反応器を用いて維持することができる。トリクルベッド反応器が、石油精製用途で最も一般的に使用されており、これは触媒粒子の固定床上に液体及び気体相の並流下降流を有する。移動床反応器を使用して、水素化加工供給物流における金属及び微粒子耐性を増大させてもよい。移動床反応器は、一般に、触媒粒子の捕獲性床(captive bed)が上昇流液体に接触し、気体を処理する反応器を含む。触媒床は、上昇流によりわずかに膨張する場合がある、又は、液体の再循環を介して流量を増加させる(膨張床又は沸騰床)、より容易に液化するより小さな触媒粒子を用いる(スラリー床)、若しくはその両方により、実質的に膨張若しくは流動化する場合がある。下降流液体及び気体を利用する移動床反応器を用いてもよい、なぜなら、それらは操業中に触媒を交換することができるためである。いずれの場合も、触媒を、操業稼働中に移動床反応器から除去することができ、それにより、代替の固定床設計では、水素化加工装置の供給物中の高濃度の金属が連続運転時間を短くするとき、経済的応用が可能になる。
【0064】
上昇流液体及び気体相を有する膨張又はスラリー床反応器は、汚れによる操業停止の危険性なく、長い連続運転時間を可能にすることにより、かなりの濃度の微粒子固体を含有する水素化加工装置の原料の経済的運用を可能にする。このような反応器は、水素化加工装置の原料が約25ミクロンを超える固体を含む場合、及び水素化加工装置の原料が汚泥(foulant)を蓄積する傾向を増大させる汚染物質を含有する場合、特に有益である。
【0065】
水素化加工段階で用いられる触媒は、芳香族の飽和、脱硫、脱窒素、又はこれらの任意の組み合わせに好適な、任意の水素化加工触媒であってよい。好適な触媒としては、一官能性及び二官能性、一金属性並びに多金属性貴金属含有触媒が挙げられる。好ましくは、触媒は、無機耐火性担体上の少なくとも1種のVIII族金属及び少なくとも1種のVI族金属、少なくとも1種のVIII族金属及び少なくとも1種のVI族金属を含むバルク金属酸化物触媒、又はこれらの混合物を含む。担持された触媒では、任意の好適な無機酸化物担体金属を、本発明の水素化加工触媒に用いてよい。好ましいのは、アルミナ、及びゼオライトのような結晶性アルミノケイ酸塩を含む、シリカ−アルミナである。シリカ−アルミナ担体のシリカ含量は、2〜30重量%、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜19重量%であってよい。他の耐火性無機化合物を使用してもよく、その非限定的な例としては、ジルコニア、チタニア、マグネシア等が挙げられる。アルミナは、水素化加工触媒に従来用いられているアルミナのいずれかであってよい。このようなアルミナ
は、一般に、50〜200オングストローム、好ましくは70〜150オングストロームの平均孔径及び50〜450m2/gの表面積を有する多孔質非晶質アルミナである。
【0066】
VIII族及びVI族化合物は、当業者に周知であり、元素の周期律表で明確である。VIII族金属は、2〜20重量%、好ましくは4〜12重量%で変動する量で存在してよく、Co、Ni及びFeを含んでよい。VI族金属は、W、Mo又はCrであってよく、Moが好ましい。VI族金属は、5〜50重量%、好ましくは20〜30重量%で変動する量存在してよい。水素化加工触媒は、好ましくは、0〜10重量%、好ましくは0.3〜3.0重量%で変動する量存在するVIII族貴金属を含む。VIII族貴金属としては、Pt、Ir又はPd、好ましくはPt又はPdを挙げることができるが、これらに限定されず、これらは一般に水素化機能に起因する。
【0067】
元素の周期律表のIIIA、IVA、IB、VIB及びVIIB族の金属から選択される1種又はそれ以上の促進剤金属が存在する場合もある。促進剤金属は、酸化物、硫化物の形態又は元素状態で存在することができる。触媒組成物が、例えば、約100〜250m2/gの比較的広い表面積を有することも好ましい。水素化加工触媒の全ての金属の重量パーセントは、担体上で与えられる。用語「担体上」は、パーセントが担体の重量に基づくことを意味する。例えば、担体の重量が100gである場合、20重量%のVIII族金属は、20gのVIII族金属が担体上にあることを意味する。
【0068】
バルク触媒では、その開示が参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許第6,162,350号に記載されている触媒のような、任意の好適なバルク触媒を使用してよい。好ましいバルク触媒は、バルク混合金属酸化物として更に説明することができ、これは好ましくは使用前に硫化され、[化1]により表される。式中、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1、好ましくは0.75/1〜1.5/1、より好ましくは0.75/1〜1.25/1である。c:dのモル比は、好ましくは>0.01/1、より好ましくは>0.1/1、更により好ましくは1/10〜10/1、更により好ましくは1/3〜3/1であり、最も好ましくは、Mo及びWが実質的に等モル量、例えば2/3〜3/2であり、z=[2b+6(c+d)]/2である。本質的に非晶質である物質は、d=2.53オングストローム及びd=1.70オングストロームに結晶性ピークを示す、独特のX線回折パターンを有する。
【0069】
[化1]
(Ni)b(Mo)c(W)dOz
【0070】
第2FCC段階の接触分解触媒は、任意の従来のFCC触媒を含む。好適な触媒としては、(a)アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニア等のような、非晶質固体酸;及び(b)大細孔ゼオライトを含有するゼオライト触媒、が挙げられる。第2FCC段階の接触分解触媒中の大細孔ゼオライト成分の好適な量は、一般に、約1〜約70重量%で変動する。
【実施例】
【0071】
以下の実施例では、ハイドロタルサイトを含む主に塩基性である触媒の触媒選択性を、マイクロ流体模擬試験(MST)で評価する。MSTは、固定流体床マイクロ反応器を使用し、これは市販のFCCユニットによるラインでの現実的な結果に調整される。更なる詳細は、A Microscale Simulation Test for Fluid Catalytic Cracking, P. O' Connor,
M.B. Hartkamp, ACS Symposium Series No. 411, 1989中に見出すことができる。実験は、480℃〜約560℃で変動するいくつかの分解温度で実施した。
【0072】
減圧軽油及び常圧残渣油を原料として用いた。
【0073】
【表1】

【0074】
ハイドロタルサイトは、米国特許第6,589,902号に記載の手順に従って調整した。MgのAlに対する比は4:1であった。ハイドロタルサイトは、600℃で1時間か焼し、実験で触媒として用いた。
【0075】
反応生成物を蒸留した。LCO及びHCO留分を回収し、二次元ガスクロマトグラフィーを用いて芳香族含量を分析した。乾燥ガス、LPG及びガソリン留分は、GCにより分析した。コークス収率は、酸化条件下で触媒を再生するときに、排出物中のCO及びCO2を分析することにより決定した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1−7】図1〜7は、クラウンVGO及び華北(Huabei)常圧残渣油を用いた、触媒対油比(Cat-to-Oil Ratio)20の、HTCを用いて異なる反応温度における、MST中の収率構造のグラフである。
【図8−10】図8〜10は、クラウンVGO及び華北(Huabei)常圧残渣油を用いた、触媒対油比(Cat-to-Oil Ratio)20の、HTCを用いて異なる反応温度における、MST中の液体生成物の芳香族含量のグラフである。
【0077】
収率構造を図1〜7に示し、一方、ガソリン、LCO及び残油の芳香族含量を図8〜10に示す。20重量/重量の触媒対油で比較を行った。図8〜10では、温度は触媒床温度(℃)であり、CTOは触媒/油比(重量/重量)であり、乾燥ガスは、生成物流中の乾燥ガスの量(重量%)であり、LPGは生成物流中の液化可能なガスの量(重量%)であり、ガソリンは、ペンテンの沸点から221℃の範囲の沸点を有する生成物の量(重量%)であり、LCO(ライトサイクルオイル)は、221〜350℃の範囲の沸点を有する生成物の量(重量%)であり、残油は350℃を超える沸点を有する生成物の量(重量%)であり、コークスは生成されたコークスの量(重量%)である。
【0078】
図1〜7の結果は、低分解温度ではLCOの収率が最も高いことを示す。対照的に、低分解温度では残油の収率が最も高い。LCOの収率は、480℃の低分解温度にて、VGO供給物の場合ほぼ35重量%であることに留意すべきである。対応するLCOの芳香族含量は約40重量%である。残油の収率は高く、25重量%であるが、その芳香族含量は31重量%付近と比較的低い。残油の芳香族含量が低いことにより、第2段階でそれを容易に分解することが可能になる。
【0079】
常圧残渣油では、同じ分解温度で、LCO収率は約26重量%であり、残油の収率は18重量%付近であり、LCOの芳香族含量は約31重量%であり、残油の芳香族含量は約15重量%である。
【0080】
従来の商業用FCC分解は、従来の酸性型ゼオライト含有触媒を用いて、500〜560℃の範囲の分解温度で実施される。これは、従来の大細孔ゼオライト含有触媒、約560℃の床温度、及び約3〜約4重量%のCTOを用いることにより、MSTで最良に疑似される。LCO収率は、20重量%未満であり、LCOの芳香族含量は80重量%超である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)触媒分解条件下で、触媒分解段階にて、FCC供給物を触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、
(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、
(c)残油留分の少なくとも一部を接触分解段階で再利用する工程と、
を含む、流動接触分解プロセスであって、
触媒組成物が、主に塩基性である物質及び約15重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、プロセス。
【請求項2】
前記触媒組成物が、約10重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記触媒組成物が、約5重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒組成物が、約3重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記触媒組成物が、実質的に大細孔ゼオライトを含まない、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記接触分解条件が、約480〜約900℃の反応温度を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記接触分解条件が、約480〜約600℃の反応温度を含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記接触分解条件が、約480〜約500℃の反応温度を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記主に塩基性である物質が、脱水素活性又は水素転移活性を有する成分を実質的に含まない、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記触媒組成物が、触媒対油比10及び反応温度600℃未満で、少なくとも約30%のFCC原料を変換するのに十分な触媒活性を有する、請求項1に記載のプロセス
【請求項11】
前記主に塩基性である物質が、アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、三価金属の化合物、遷移金属の化合物、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記主に塩基性である物質が、キャリア物質上に担持されている、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記主に塩基性である物質が、遷移金属の酸化物、水酸化物若しくはリン酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくは遷移金属、又はこれらの混合物である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記塩基性物質が、混合された金属酸化物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
前記塩基性物質がハイドロタルサイトである、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記塩基性物質がリン酸アルミニウムである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項17】
前記塩基性物質が金属カチオンでドープされている、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ドーパント金属カチオンが、IIb族、IIIb族、IVb族の金属、希土類金属、及びこれらの混合物から選択される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ドーパント金属が、La、Zn、Zr及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記キャリアが耐火性酸化物である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項21】
前記キャリアが、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、及びこれらの混合物から選択される、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
酸性部位を有する物質を更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項23】
前記酸性部位を有する物質が、シリカゾル、金属でドープされたシリカゾル、及びシリカと他の耐火性酸化物とのナノスケール複合材から成る群から選択される、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記触媒組成物が、少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトを更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項25】
前記少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトが、ZSMファミリーのゼオライトから選択される、請求項24に記載の触媒組成物。
【請求項26】
前記ZSMファミリーのゼオライトがZSM−5である、請求項25に記載の触媒組成物。
【請求項27】
(a)触媒分解条件下で、第1触媒分解段階にて、FCC供給物を触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、
(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、
(c)第2流動接触分解段階にて、触媒分解条件下で、分離した残油留分の少なくとも一部を触媒組成物と接触させる工程と、
を含む、流動接触分解プロセスであって、
触媒組成物が、主に塩基性である物質及び約15重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、プロセス。
【請求項28】
前記触媒組成物が、約10重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記触媒組成物が、約5重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項28に記載のプロセス。
【請求項30】
前記触媒組成物が、約3重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
前記触媒組成物が、実質的に大細孔ゼオライトを含まない、請求項30に記載のプロセス。
【請求項32】
前記接触分解条件が、約480〜約900℃の反応温度を含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項33】
前記接触分解条件が、約480〜約600℃の反応温度を含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記接触分解条件が、約480〜約500℃の反応温度を含む、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記主に塩基性である物質が、脱水素活性又は水素転移活性を有する成分を実質的に含まない、請求項27に記載のプロセス。
【請求項36】
前記触媒組成物が、触媒対油比10及び反応温度600℃未満で、少なくとも約30%のFCC原料を変換するのに十分な触媒活性を有する、請求項27に記載のプロセス。
【請求項37】
前記主に塩基性である物質が、アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、三価金属の化合物、遷移金属の化合物、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項38】
前記主に塩基性である物質が、キャリア物質上に担持されている、請求項27に記載のプロセス。
【請求項39】
前記主に塩基性である物質が、遷移金属の酸化物、水酸化物若しくはリン酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくは遷移金属、又はこれらの混合物である、請求項37に記載のプロセス。
【請求項40】
前記塩基性物質が、混合された金属酸化物である、請求項27に記載のプロセス。
【請求項41】
前記塩基性物質がハイドロタルサイトである、請求項40に記載のプロセス。
【請求項42】
前記塩基性物質がリン酸アルミニウムである、請求項27に記載のプロセス。
【請求項43】
前記塩基性物質が金属カチオンでドープされている、請求項27に記載のプロセス。
【請求項44】
前記ドーパント金属カチオンが、IIb族、IIIb族、IVb族の金属、希土類金属、及びこれらの混合物から選択される、請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
前記ドーパント金属が、La、Zn、Zr及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項44に記載のプロセス。
【請求項46】
前記キャリアが耐火性酸化物である、請求項38に記載のプロセス。
【請求項47】
前記キャリアが、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、及びこれらの混合物から選択される、請求項46に記載のプロセス。
【請求項48】
酸性部位を有する物質を更に含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項49】
前記酸性部位を有する物質が、シリカゾル、金属でドープされたシリカゾル、及びシリカと他の耐火性酸化物とのナノスケール複合材から成る群から選択される、請求項46に記載のプロセス。
【請求項50】
前記触媒組成物が、少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトを更に含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項51】
前記少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトが、ZSMファミリーのゼオライトから選択される、請求項50に記載の触媒組成物。
【請求項52】
前記ZSMファミリーのゼオライトがZSM−5である、請求項51に記載の触媒組成物。
【請求項53】
(a)触媒分解条件下で、第1触媒分解段階にて、FCC供給物を第1触媒組成物と接触させて、分解された生成物を生成する工程と、
(b)分解された生成物から少なくとも残油留分を分離する工程と、
(c)第2流動接触分解段階にて、触媒分解条件下で、分離した残油留分の少なくとも一部を第2触媒組成物と接触させる工程であって、第2流動接触分解段階が第1流動接触分解段階と離れている工程と、
を含む、流動接触分解プロセスであって、
第1触媒組成物が、主に塩基性である物質及び約15重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、プロセス。
【請求項54】
前記触媒組成物が、約10重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項55】
前記触媒組成物が、約5重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項54に記載のプロセス。
【請求項56】
前記触媒組成物が、約3重量%未満の大細孔ゼオライトを含む、請求項55に記載のプロセス。
【請求項57】
前記触媒組成物が、実質的に大細孔ゼオライトを含まない、請求項56に記載のプロセス。
【請求項58】
前記接触分解条件が、約480〜約900℃の反応温度を含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項59】
前記接触分解条件が、約480〜約600℃の反応温度を含む、請求項58に記載のプロセス。
【請求項60】
前記接触分解条件が、約480〜約500℃の反応温度を含む、請求項59に記載のプロセス。
【請求項61】
前記主に塩基性である物質が、脱水素活性又は水素転移活性を有する成分を実質的に含まない、請求項53に記載のプロセス。
【請求項62】
前記触媒組成物が、触媒対油比10及び反応温度600℃未満で、少なくとも約30%のFCC原料を変換するのに十分な触媒活性を有する、請求項52に記載のプロセス。
【請求項63】
前記主に塩基性である物質が、アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、三価金属の化合物、遷移金属の化合物、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項52に記載のプロセス。
【請求項64】
前記主に塩基性である物質が、キャリア物質上に担持されている、請求項52に記載のプロセス。
【請求項65】
前記主に塩基性である物質が、遷移金属の酸化物、水酸化物若しくはリン酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくは遷移金属、又はこれらの混合物である、請求項63に記載のプロセス。
【請求項66】
前記塩基性物質が、混合された金属酸化物である、請求項53に記載のプロセス。
【請求項67】
前記塩基性物質がハイドロタルサイトである、請求項66に記載のプロセス。
【請求項68】
前記塩基性物質がリン酸アルミニウムである、請求項53に記載のプロセス。
【請求項69】
前記塩基性物質が金属カチオンでドープされている、請求項53に記載のプロセス。
【請求項70】
前記ドーパント金属カチオンが、IIb族、IIIb族、IVb族の金属、希土類金属、及びこれらの混合物から選択される、請求項69に記載のプロセス。
【請求項71】
前記ドーパント金属が、La、Zn、Zr及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項70に記載のプロセス。
【請求項72】
前記キャリアが耐火性酸化物である、請求項64に記載のプロセス。
【請求項73】
前記キャリアが、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、及びこれらの混合物から選択される、請求項72に記載のプロセス。
【請求項74】
酸性部位を有する物質を更に含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項75】
前記酸性部位を有する物質が、シリカゾル、金属でドープされたシリカゾル、及びシリカと他の耐火性酸化物とのナノスケール複合材から成る群から選択される、請求項74に記載のプロセス。
【請求項76】
前記触媒組成物が、少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトを更に含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項77】
前記少なくとも1種の中又は小細孔ゼオライトが、ZSMファミリーのゼオライトから選択される、請求項76に記載の触媒組成物。
【請求項78】
前記ZSMファミリーのゼオライトがZSM−5である、請求項77に記載の触媒組成物。

【公表番号】特表2011−521011(P2011−521011A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510743(P2010−510743)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056555
【国際公開番号】WO2008/148682
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509129255)
【Fターム(参考)】