説明

芳香族炭化水素製造方法

【課題】低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する際、高い芳香族炭化水素収率を維持しつつ、長時間安定して芳香族炭化水素を製造する。
【解決手段】低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、この反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を備え、反応工程と再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、この反応工程中に一定時間が経過する毎に芳香族炭化水素の収率を算出する。そして、この算出された収率より基準となる収率を設定し、この基準に対する収率の変化に基づいて、前記再生工程の再生時間を延長する。また、前記収率の変化にしきい値を設定し、前記反応工程で芳香族炭化水素の収率の変化がしきい値より低かった場合に前記再生工程の再生時間を延長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンを主成分とする天然ガス、バイオガス、メタンハイドレートの高度利用に関するものである。特に、メタン、エタン、プロパン等の低級炭化水素からプラスチック類等の化学製品原料であるベンゼン及びナフタレン類を主成分とする芳香族炭化水素と高純度の水素ガスを効率的に製造するための触媒化学変換技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、バイオガス、メタンハイドレートは、地球温暖化対策として最も効果的なエネルギー資源と考えられ、その利用技術に関心が高まっている。メタン資源は、そのクリーン性を活かして、次世代の新しい有機資源、燃料電池用の水素資源として注目されている。
【0003】
メタンからベンゼン等の芳香族炭化水素と水素を製造する方法としては、例えば非特許文献1のように、触媒の存在下でメタンを反応させる方法が知られている。この際の触媒としては、ZSM−5に担持されたモリブデンが有効とされている。
【0004】
しかしながら、これらの触媒を使用した場合でも、炭素析出が多いことやメタンの転化率が低いという問題がある。
【0005】
上記従来技術を改善するために、芳香族炭化水素の原料ガス(反応ガス)である低級炭化水素と、触媒活性の維持若しくは触媒活性の再生のためのガス(再生ガス)である水素含有ガスまたは水素ガスとを周期的にかつ交互に切り替えて、触媒と接触反応させている(例えば、特許文献1)。このように、原料ガスと触媒再生ガスを交互に触媒に接触反応させることにより、触媒の経時劣化を抑えつつ触媒反応を持続させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−26613号公報
【特許文献2】特開平11−79702号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS、1997、Volume165、p.150−161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、反応ガスと再生ガスを周期的にかつ交互に切り替えて触媒に接触反応させることで、触媒の活性を維持しつつ連続的に芳香族炭化水素の製造反応を行うことができる。
【0009】
特許文献1に記載の芳香族炭化水素の製造方法では、除去しにくいコーキングが触媒反応時に触媒上に堆積しないように、予め反応ガス中に数%の水素が添加され、触媒活性を長時間維持している。
6CH4 → C66 + 9H2 … (1)
低級炭化水素から芳香族炭化水素と水素とを製造する反応は(1)式に示す平衡反応である。よって、水素を添加してコーキングを抑制した場合、平衡移動によりベンゼンの生成反応が抑制されてしまう。一方、反応ガス中に水素を添加しない場合は、芳香族炭化水素の収率が向上するものの、コーキングの生成もまた激しくなり、短時間で触媒が劣化してしまう。
【0010】
触媒の劣化の程度が進行すると、その分触媒の再生反応で除去しなくてはならないコーキング量が多くなる。したがって、触媒再生反応に要する時間が多くなる。このように、芳香族炭化水素の製造方法において、触媒反応時間と触媒再生反応時間とのバランスを制御することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の芳香族炭化水素製造方法は、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、前記反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、前記反応工程中に、前記反応工程で生成された芳香族炭化水素の収率を複数回算出し、この算出された収率のうち1つの収率を基準とし、この基準に対する前記算出された収率の変化に基づいて前記再生工程の再生時間を変化させることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、上記芳香族炭化水素の製造方法において、前記収率の変化にしきい値を設定し、前記収率の変化が前記しきい値よりも低い場合、前記再生工程の再生時間を延長することを特徴としている。
【0013】
また、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、上記芳香族炭化水素の製造方法において、前記収率の変化が、前記しきい値よりも連続して低い場合、前記再生工程の再生時間を延長することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、上記芳香族炭化水素の製造方法において、前記収率の時間変化量に基づいて、前記再生工程の再生時間を延長することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、上記芳香族炭化水素の製造方法において、前記時間変化量にしきい値を設定し、前記時間変化量が前記しきい値よりも低い場合、前記再生工程の再生時間を延長することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
以上の発明によれば、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する際、安定して芳香族炭化水素を製造することに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る芳香族化合物の製造方法で用いた固定床流通式反応装置の概略断面図である。
【図2】触媒反応を連続して行った場合のベンゼン収率、及び収率変化率の時間変化を示す図である。
【図3】触媒反応を連続して行った場合のベンゼンの収率変化率、及びベンゼン収率の変化量を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る芳香族化合物の製造方法で用いた芳香族炭化水素製造装置の概略構成図である。
【図5】触媒反応と触媒再生反応を交互に行った場合のベンゼン収率の時間変化を示す図である。
【図6】触媒反応と触媒再生反応を交互に行った場合のベンゼン収率の変化量の時間変化を示す図である。
【図7】本発明に係る反応工程と再生工程を繰り返す芳香族炭化水素の製造工程の概略を示す模式図であり、(a)反応工程での収率の算出結果を示す図、(b)反応工程と再生工程の切替え時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、低級炭化水素の芳香族化合物化触媒(以下、「触媒」と省略する)に低級炭化水素を接触反応させてベンゼン及びナフタレン類を主成分とする芳香族炭化水素と高純度の水素ガスを製造する方法に関する発明である。そして、芳香族炭化水素を製造する触媒反応を行う工程(反応工程)と、この触媒反応に用いた触媒を再生する触媒再生反応を行う工程(再生工程)とを交互に行って芳香族炭化水素を製造する。この反応工程において、触媒反応で生成された芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン)の収率を算出する。そして、この算出された収率から基準となる収率を設定し、この基準に対する前記算出された収率の変化に基づいて触媒反応時間または触媒再生時間を制御することを特徴としている。このように、触媒反応時に生成物の収率変化に基づいて、コーキングの状況を間接的に把握することで、コーキングの度合いに応じて反応条件をフィードバック制御することができる。よって、予め水素を添加する等の触媒反応を抑制する方法を用いなくても、芳香族炭化水素の収率を高い状態で維持しながら連続的に触媒反応を行うことができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る芳香族炭化水素製造方法に用いられる触媒は、例えば、メタロシリケートに触媒金属が担持された形態が挙げられる。
【0020】
触媒金属が担持されるメタロシリケートとしては、例えばアルミノシリケートの場合、シリカ及びアルミナから成り多孔質体であるモレキュラーシーブ5A、フォジャサイト(NaY及びNaX)、ZSM−5、MCM−22が挙げられる。また、リン酸を主成分とする多孔質体でALPO−5、VPI−5等の6〜13オングストロームのミクロ細孔やチャンネルからなることを特徴とするゼオライト担体や、シリカを主成分とし一部アルミナを成分として含むメゾ細孔(10〜1000オングストローム)の筒状細孔(チャンネル)で特徴付けられるFSM−16やMCM−41等のメゾ細孔多孔質担体などが例示できる。さらに、前記アルミナシリケートの他に、シリカ及びチタニアからなるメタロシリケート等も触媒として用いることができる。
【0021】
また、本発明で使用するメタロシリケートは、表面積が200〜1000m2/gであり、そのミクロ及びメゾ細孔は5〜100オングストロームの範囲内のものが望ましい。また、メタロシリケートが例えばアルミノシリケートである場合、そのシリカとアルミナの含有比(シリカ/アルミナ)が通常入手し得る多孔質体と同様にシリカ/アルミナ=1〜8000のものを用いることができるが、本発明の低級炭化水素の芳香族化反応を、実用的な低級炭化水素の転化率及び芳香族炭化水素への選択率で実施するためには、シリカ/アルミナ=10〜100の範囲内とすることがより好ましい。
【0022】
メタロシリケートは、通常プロトン交換型(H型)のものが用いられる。また、プロトンの一部がNa、K、Li等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類元素、Fe、Co、Ni、Zn、Ru、Pd、Pt、Zr、Ti等の遷移金属元素から選ばれた少なくとも一種のカチオンで交換されていてもよい。また、メタロシリケートが、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、Th、Cu、Ag等を適量含有していてもよい。
【0023】
そして、本発明に係る触媒金属としてはモリブデンを用いることが好ましいが、レニウム、タングステン、鉄、コバルトを用いても良い。これらの触媒金属を組み合わせてメタロシリケートに担持してもよい。さらに、これらの触媒金属に、Mg等のアルカリ土類元素又はNi、Zn、Ru、Pd、Pt、Zr、Ti等の遷移金属元素から選ばれた少なくとも一種の元素をメタロシリケートに共担持してもよい。
【0024】
前記触媒金属(を含む前駆体)をメタロシリケートに担持させる場合、触媒金属と担体との重量比は0.001〜50%、好ましくは0.01〜40%の範囲で行う。また、メタロシリケートへ担持させる方法としては、触媒金属の前駆体の水溶液、あるいはアルコール等の有機溶媒の溶液からメタロシリケート担体に含浸担持あるいはイオン交換方法により担持させた後、不活性ガスあるいは酸素ガス雰囲気下で加熱処理する方法がある。例えば、触媒金属の1つであるモリブデンを含む前駆体の例としては、パラモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸アンモニウム、12系モリブデン酸の他に、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩、炭酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等のカルボン酸塩等を挙げることができる。
【0025】
ここでメタロシリケートに触媒金属を担持する方法を触媒金属としてモリブデンを用いた場合を例示して説明する。まず、メタロシリケート担体にモリブデン酸アンモニウム塩の水溶液を含浸担持させ、その担持体を減圧乾燥して溶媒を除いた後、窒素含有酸素気流中または純酸素気流中にて温度250〜800℃(好ましくは350〜600℃)で加熱処理して、モリブデンを担持したメタロシリケート触媒を製造することができる。
【0026】
触媒金属を担持したメタロシリケート触媒の形態に格別の制約はなく、粉末状、顆粒状等任意の形状のものを用いればよい。また、触媒金属を担持したメタロシリケート触媒に、シリカ、アルミナ、粘土等のバインダーを添加して、ペレット状若しくは押出品に成型して使用してもよい。
【0027】
なお、本発明において、低級炭化水素とはメタンや炭素数が2〜6の飽和及び不飽和炭化水素を意味する。これら炭素数が2〜6の飽和及び不飽和炭化水素としては、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n−ブタン、イソブタン、n−ブテン及びイソブテン等が例示できる。
【0028】
本発明の芳香族炭化水素を製造する方法で使用する反応器は、固定床反応器あるいは流動床反応器などが例示される。
【0029】
原料投入量は、触媒量に対する重量時間空間速度(WHSV)で、150〜70000[ml/g−MFI/h]、好ましくは500〜30000[ml/g−MFI/h]、より好ましくは1400〜14000[ml/g−MFI/h]である。
【0030】
反応温度は、600℃〜900℃、好ましくは700℃〜850℃、より好ましくは750℃〜830℃である。反応圧力は、0.1〜0.9MPa、好ましくは0.1〜0.5MPaである。
【0031】
以下、本発明に係る芳香族炭化水素製造方法の実施例を示してより詳細に説明する。
【0032】
(実施例)
メタロシリケート担体としてH型ZSM−5ゼオライト(SiO2/Al23=25〜70)を用い、以下の調製方法により触媒を作製した。
【0033】
(触媒の製造)
本実施例では、シランカップリング剤による修飾を施した触媒を調製した。シラン化合物を溶解させたエタノールに所定時間ゼオライト担体を含浸させ、これを乾燥させた後に550℃で6時間焼成してシラン化合物でシラン処理したゼオライトを得た。
【0034】
次に、モリブデン酸アンモニウムと硝酸亜鉛(酢酸亜鉛でも良い)を担持後に所定のモル比となるように含浸水溶液を調製した。本実施例では、含浸担持する金属(例えば、Mo)の担持量を6wt%とし、Moに対して共含浸する金属(例えば、Zn)はモル比でZn:Mo=0.3:1の比率となるように含浸水溶液を調整した。なお、含浸担持する金属の担持量、及び含浸担持する金属と共含浸する金属のモル比は、この実施例に限定されるものでなく、目的とする触媒活性を得るための金属担持量及びモル比を適宜選択すればよい。
【0035】
この水溶液に前記シラン処理したゼオライトを浸漬し、モリブデンと亜鉛をゼオライト担体へ共含浸した。含浸後の担体は、湿度と温度を管理しながら乾燥した。その後、乾燥品を空気中で550℃、5時間焼成し、シラン修飾した亜鉛/モリブデン担持ZSM−5(Zn(1.23wt%)/Mo(6wt%)/HZSM−5)を得た。
【0036】
(配合)
無機成分のみの配合:ZSM−5(82.5%)、粘土(12.5%)、ガラス繊維(5%)
全体配合:無機成分(76.5%)、有機バインダー(17.3%)、水分24.3%)
(成型方法)
上記に示した配合の無機成分、有機バインダー及び水分を配合し、ニーダ等を用いて混合、混練した。この混合体を真空押し出し真空押出成型機を使用して、棒状(φ2.4mm×L5mm)に成型した。この成型時の押出圧力は、2〜8MPaであった。
【0037】
(乾燥、焼成)
乾燥は、成型時に添加した水分を除去するために70℃で12時間乾燥した後、90℃で約36時間乾燥した。焼成温度は550〜800℃の範囲とした。550℃以下では担体の強度低下、800℃以上では特性の低下が起こるおそれがあるためである。
【0038】
(測定条件)
上記金属担持処理をした触媒を、図1に示す固定床流通式反応装置1のインコネル800H接ガス部カロライジング処理製反応管2(内径18mm)に充填し、低級炭化水素から芳香族炭化水素を製造する試験を表1に示す反応条件で行った。なお、反応ガスに添加された二酸化炭素は、低級炭化水素芳香族化合物化反応を安定化させる効果を有する。
【0039】
【表1】

【0040】
低級炭化水素を触媒と接触反応させる前に、触媒の前処理を行った。触媒の前処理は、触媒を空気気流下550℃まで昇温し、2時間維持した後、メタン20%:水素80%の前処理ガスに切り替えて、700℃まで昇温し、3時間維持した。その後、反応ガスに切り替えて所定の温度(820℃)まで昇温し触媒の評価を行った。反応後のガス中の成分の分析は、水素、アルゴン、メタンをTCD−GCで分析し、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素をFID−GCで分析した。
【0041】
触媒の評価は、流通させた低級炭化水素に対するベンゼンの収率で評価した。ベンゼンの収率は以下の(2)式のように定義した。
ベンゼン収率(%)={(生成したベンゼンの炭素換算モル数)/(メタン改質反応に供されたメタンのモル数)}×100 … (2)
触媒反応に供された触媒の再生は、上記表1に記載の供給ガスを水素ガスに変え、触媒と水素を接触反応させることにより行った。なお、再生ガスは、水素に限定されるものではなく、還元性ガスであればよい。また、これら還元性ガスを含有しているガスを用いてもよい。
【0042】
(1)反応工程のみを行った場合のベンゼン収率及び収率変化率の変化
本発明の実施形態に係る触媒製造方法は、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する反応工程と、この反応工程に供された触媒を再生する再生工程を交互に繰り返す芳香族炭化水素製造法において、ベンゼン収率に基づいて収率変化率を算出し、この収率変化率に基づいて、触媒再生時間の再生時間を延長するものである。
【0043】
収率変化率とは、反応工程において複数回算出される芳香族炭化水素の収率の一つを基準として、この基準となる収率に対する他の収率の変化率として算出される。収率変化率(或いは、後述のベンゼン収率の変化量)の算出時に、基準とする芳香族炭化水素の収率は、適宜任意の収率を選択すればよいが、反応工程に切り替えてから芳香族炭化水素の収率が向上している範囲であればよく、特に、反応開始直後〜反応開始から15分の間で算出された収率を基準とするとよい。また、反応工程で算出された芳香族炭化水素の収率の最大値を基準としてもよい。
【0044】
例えば、基準となる芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン)の収率を反応工程開始後最初に測定された収率とすると、収率変化率は(3)式で示される。(3)式において、tは反応工程経過時間(単位は、分、時間等任意の単位でよい)である。
収率変化率=[{(反応工程t時間経過後のベンゼン収率)−(反応工程開始後最初に算出されたベンゼン収率)}/(反応工程開始後最初に算出されたベンゼン収率} … (3)
前記表1に示した反応条件で連続して低級炭化水素の芳香族化反応を行い、反応工程の反応時間1時間毎にベンゼン収率を算出し、このベンゼン収率を上記(3)式に代入してベンゼンの収率変化率を算出した。ベンゼン収率及び収率変化率の算出結果を表2、図2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
図2から明らかなように、反応工程を連続して行った場合、ベンゼン収率が急激に低下し、最終的には0%に近い値となっている。これは、反応工程の時間の経過により、触媒上に炭素が析出するためであると考えられている。ベンゼンの収率変化率をみてみると、ベンゼンの収率変化率が−0.07以上であれば、高いベンゼン収率を維持している。よって、収率変化率のしきい値を−0.07以上と設定して、収率変化率がこのしきい値以下となった場合に触媒を再生する時間を延長するように設定すると、高いベンゼン収率を維持して反応工程を繰り返し行うことができる。
【0047】
また、反応時間が4時間と5時間の間の収率変化率の変化は、0.2であり、反応時間が5時間と6時間の間の収率変化率の変化は0.4以上である。つまり、ベンゼンの収率変化率が−0.28より高い値であると、収率変化率の低下度合いが緩やかである。ゆえに、しきい値の値を−0.28以上と設定すると、ベンゼン収率の低下を抑制し、且つ全製造工程(反応工程と再生工程)における触媒反応時間をより多くすることができる。
【0048】
以上のように、全製造行程における触媒反応時間を長く、且つ高いベンゼン収率を維持して触媒反応を行うためには、再生工程の再生時間を延長する基準となる収率変化率のしきい値を−0.07〜−0.28と設定するとよい。
【0049】
また、上記(3)式で例示される収率変化率の代わりに、反応工程において複数回算出される芳香族炭化水素の収率の一つを基準として、この基準となる収率に対する他の収率の時間変化量(収率の変化量)に基づいて、再生工程の再生時間を延長してもよい。
【0050】
例えば、以下の(4)式で示すように、反応工程開始後最初に測定された収率を基準としたベンゼンの収率の時間変化量を算出する。(4)式において、tは反応工程経過時間(単位は、分、時間等任意の単位でよい)である。
ベンゼン収率の変化量={(反応工程t時間経過後のベンゼン収率)−(反応工程開始後初めて算出されたベンゼン収率)}/{t−(反応工程後初めてベンゼン収率を算出した時の反応経過時間)} … (4)
上記表2には、(4)式に基づいて算出されたベンゼン収率の変化量が示されている。収率変化率と同様に、ベンゼン収率の変化量が−0.23以上であれば、高いベンゼン収率を維持し、ベンゼン収率の変化量が−0.75より高い値であると、ベンゼン収率の低下度合いが緩やかである。ゆえに、全製造行程における触媒反応時間を長く、且つ高いベンゼン収率を維持して触媒反応を行うためには、再生工程の再生時間を延長する基準となるベンゼン収率の変化量のしきい値を−0.23〜−0.75と設定するとよい。
【0051】
なお、図3に示すように、収率変化率と比較してベンゼン収率の変化量は、各測定時間におけるベンゼン収率の変化量との差異がはっきり表れる。したがって、測定誤差の影響を受けにくく、測定値としきい値の比較をより正確に行うことができる。
【0052】
(2)反応工程と再生工程を繰り返した場合のベンゼン収率及び収率の変化量の変化
図4に示すように、本発明の実施形態に係る芳香族炭化水素製造装置9は、固定床流通反応装置1の反応管2に、原料ガスを供給する原料ガス供給部11と、触媒を再生させる再生ガスを供給する再生ガス供給部12が、切換え弁10を介して接続されている。さらに、反応管2には、反応管2の触媒と接触反応させた後のガス(排出ガス)を排出するためのガス排出配管13が接続され、ガス排出配管13から分岐して検出器14が接続されている。検出器14は、ガスクロマトグラフィ等で排出ガス中の芳香族炭化水素等を検出する。そして、検出器14での検出結果に基づいて生成物(例えば、ベンゼン)の収率、収率変化率、収率の変化量が図示省略の算出部で算出される。
【0053】
本実施例では、切替え弁10を切り替えて、原料ガス供給部11から反応管2に原料ガス(メタン)を導入し、1時間触媒反応を行った。その後、切替え弁10を切り替えて、再生ガス供給部12から反応管2に再生ガス(水素)を導入し、1.5時間再生反応を行った。そして、反応工程と再生工程を交互に繰り返し、低級炭化水素と触媒を接触反応させて芳香族炭化水素を製造した。検出器14でベンゼンを検知し、(2)式により算出されるベンゼン収率を一定経過時間毎(60分毎)に計測した。そして、計測されたベンゼン収率と上記(4)式に基づいて、ベンゼン収率の変化量を算出した。なお、ベンゼン収率の計測は、10分から60分の間隔で行うとよい。測定間隔を60分より長くすると、反応ガスに水素を添加しない反応では、反応時のコーキングによる劣化が激しいため望ましくない。測定間隔は、ガスクロマトグラフ等の検出器14の性能に応じて設定すればよく、リアルタイムで測定を行ってもよい。ベンゼン収率の経時変化を図5に、ベンゼン収率の変化量の経時変化を図6に示す。
【0054】
図6に示すように、芳香族炭化水素の製造反応が500時間まではベンゼン収率の変化量は正の値であった。しかし、550時間目付近からは、ベンゼン収率の変化量が負の値となった。この時、図5に示すベンゼン収率にはそれほど大きな変化がみられていない。そして、ベンゼン収率の変化量が負の値のまま触媒反応と再生反応を繰り返すと、図5に示すグラフにおいて580時間付近でベンゼン収率の低下が顕著となる。そこで、591.5時間目で触媒反応工程を1時間、触媒再生工程を2時間と設定変更した。その結果、ベンゼン収率の変化量は正の値となり(図6)、ベンゼン収率も向上した(図5)。
【0055】
このように、本発明で定義されたベンゼン収率の変化量は、ベンゼン収率の低下を前もって検知することができる。なお、(3)式で算出される収率変化率も同様に、ベンゼン収率の低下を前もって検知できることは実験で確認した。したがって、収率変化率及びベンゼン収率の変化量は、反応工程と再生工程を繰り返して芳香族炭化水素を製造する方法において、反応工程と再生工程切り替えるタイミングを計る有効な指標であることがわかる。なお、ベンゼン収率の変化量が何度か連続して負の値となった場合に再生時間を延長すると、測定誤差の影響を低減することができる。何度連続してしきい値を下回った場合に再生時間を延長するかは適宜設定すればよく、連続回数は2〜5と設定するとよい。
【0056】
図7に、本実施例に係る反応工程と再生工程を繰り返す芳香族炭化水素の製造工程の模式図を示す。図7に示す実施例では、図7(b)に示すように、二酸化炭素を含有したメタンを触媒と反応させて芳香族炭化水素を製造する反応工程とこの反応工程に使用された触媒に水素を接触させることにより触媒活性を再生する再生工程を1時間ずつ交互に繰り返した例を示す。
【0057】
ベンゼン収率は反応工程において1時間おきに測定した。そして、上記(4)式に基づいてベンゼン収率の変化量を算出した。この実施例では、ベンゼン収率の変化量が負となった場合に、再生工程の再生時間を0.5時間延長した(すなわち、しきい値を0と設定した)。
【0058】
図7(a)に示すように、反応工程において、反応開始時と反応終了時にベンゼン収率を算出した(図中○で示す)。そして、240分から300分における反応工程では、反応開始時のベンゼン収率より反応後のベンゼン収率が少なくなった(すなわち、ベンゼン収率の変化量が負となった)ので、再生工程を延長した。図7(a)に示すように、240分から300分の反応工程の次に行われる再生工程を0.5時間延長した。
【0059】
このように、ベンゼン収率の変化量に基づいて再生時間の長さを変更することで、長時間高ベンゼン収率を維持したまま触媒反応を行うことができる。なお、反応工程の反応時間、再生工程の再生時間、延長時間は、上記実施例に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。例えば、反応工程の反応時間は、反応工程終了時のベンゼン収率の変化量が0.2〜1の間となるような反応時間に設定すると、高ベンゼン収率で反応工程を行うことができる。また、再生時間は、触媒活性を反応工程開始時での触媒活性に戻すために必要な時間を設定すればよい。また、再生工程を延長する延長時間は、再生工程での再生時間の10%〜30%とするとよい。延長時間を長くすると触媒再生効果が十分に得られ、延長時間を短くすると全製造工程での反応工程が占める時間が多くなり、芳香族炭化水素の製造効率が向上するためである。
【0060】
また、再生工程の再生時間を延長する指標であるベンゼン収率の変化量のしきい値も負の値に限定するものではなく適宜設定可能である。特に、(4)式で算出されたベンゼン収率の変化量のしきい値は、−0.23〜−0.75の間で設定するとよい。
【0061】
以上のように、本発明の低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素と水素を製造する方法によれば、ベンゼン収率の低下現象が顕在化する前に、ベンゼン収率の低下を検知することができるので、高いベンゼン収率(触媒活性)を維持しつつ、長時間芳香族炭化水素の製造反応を行うことができる。
【0062】
触媒と低級炭化水素とを接触反応させて芳香族炭化水素を製造する装置において、芳香族炭化水素の収率は、反応条件や触媒の種類によっても変化する。また、同じ反応条件でも、触媒反応を行う反応工程と、この反応工程に供された触媒を再生する再生工程を繰り返すことで、芳香族炭化水素の収率は変化する。本発明に係る指標(収率変化率、ベンゼン収率の変化量)によれば、ベンゼン収率の低下を前もって検知できるとともに、触媒の劣化状態を判断できる。
【0063】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形及び修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形及び修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0064】
例えば、実施例に例示された収率変化率の代わりとして、{(触媒反応開始からt分触媒反応を行った後のベンゼン収率)−(触媒反応開始時のベンゼン収率)}を収率変化率として用いてもよい(tは任意の設定時間)。このように、収率変化率を設定することで、反応工程開始時のベンゼン収率を基準としてベンゼン収率の低下度を評価することができる。
【0065】
また、収率をリアルタイムに計測し、収率変化率(または、ベンゼン収率の変化量)が予め定められたしきい値以下となった場合に、反応工程から再生工程に切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…固定床流通式反応装置
2…反応管
3…触媒
4…アルミナボール
5…石英グラスウール
6…石英ガラス管
7…熱電対管
8…目皿
9…芳香族炭化水素製造装置
10…切換え弁
11…原料ガス供給部
12…再生ガス供給部
13…ガス排出配管
14…検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、前記反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、
前記反応工程中に、前記反応工程で生成された芳香族炭化水素の収率を複数回算出し、この算出された収率のうち1つの収率を基準とし、この基準に対する前記算出された収率の変化に基づいて前記再生工程の再生時間を変化させる
ことを特徴とする芳香族炭化水素製造方法。
【請求項2】
前記収率の変化にしきい値を設定し、前記収率の変化が前記しきい値よりも低い場合、前記再生工程の再生時間を延長する
ことを特徴とする請求項1に記載の芳香族炭化水素製造方法。
【請求項3】
前記収率の変化が、前記しきい値よりも連続して低い場合、前記再生工程の再生時間を延長する
ことを特徴とする請求項2に記載の芳香族炭化水素製造方法。
【請求項4】
前記収率の時間変化量に基づいて、前記再生工程の再生時間を延長する
ことを特徴とする請求項1に記載の芳香族炭化水素製造方法。
【請求項5】
前記時間変化量にしきい値を設定し、前記時間変化量が前記しきい値よりも低い場合、前記再生工程の再生時間を延長する
ことを特徴とする請求項4に記載の芳香族炭化水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−12340(P2012−12340A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150878(P2010−150878)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】