説明

苗巻取補助装置

【課題】 苗巻取補助装置において、マット苗の葉の太さあるいは長さ又は苗床部の強度等の苗の条件が相違すると、倒伏手段によりマット苗の葉部を巻取側へうまく倒伏させることができなくなるおそれがあり、場合によってはマット苗の葉部が外側に大きくはみ出る状態でロール苗が形成されるおそれがあり、ひいては苗移植機による苗の植付に支障を来すおそれがある。
【解決手段】 マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の葉部に作用して該葉部を巻取側に倒伏させる倒伏手段と、該倒伏手段がマット苗の葉部に作用する上下位置を変更する位置変更手段とを設けた苗巻取補助装置とした。また、マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の左右外側部の葉部を内側に案内する案内手段を設けた苗巻取補助装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マット苗をロール状に巻き取る際に使用できる苗巻取補助装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
長いマット苗をロール状に巻き取ってできるロール苗をロール苗供給部へ装填し、該ロール苗供給部に装填されたロール苗の外周側から順次マット苗を繰り出して該マット苗を植付装置側へ移送し、植付装置がマット苗から一株分の苗を取って圃場に植え付ける構成の苗移植機がある。この苗移植機により、前記ロール苗供給部へ長いマット苗からなるロール苗を装填することができるので、多量の苗を一度に装填することができるため、苗補給回数を低減でき、ひいては苗補給作業の省力化が図れると共に、植付作業能率の向上が図れる。この苗移植機においては、植付装置側へ移送されるマット苗の葉部を植付装置とは反対側に向けて植付装置が葉部を傷付けずに一株分の苗を良好に取り出せるようにする必要がある。そのため、マット苗上を走行しながら、マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の葉部に作用して該葉部を巻取側に倒伏させるベルトで構成される倒伏手段を設けた苗巻取補助装置がある(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−233218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
苗巻取補助装置において、育苗時の種々の環境条件の相違により、マット苗の葉の太さあるいは長さ又は苗床部の強度等の苗の条件が相違する。そして、この苗の条件が相違すると、倒伏手段によりマット苗の葉部を巻取側へうまく倒伏させることができなくなるおそれがあり、場合によってはマット苗の葉部が外側に大きくはみ出る状態でロール苗が形成されるおそれがあり、ひいては苗移植機による苗の植付に支障を来すおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1の発明は、マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の葉部に作用して該葉部を巻取側に倒伏させる倒伏手段と、該倒伏手段がマット苗の葉部に作用する上下位置を変更する位置変更手段とを設けた苗巻取補助装置とした。従って、育苗時の種々の環境条件の相違によるマット苗の葉の太さあるいは長さ又は苗床部の強度等の苗の条件の相違に応じて、位置変更手段により、倒伏手段がマット苗の葉部に作用する位置を変更して、倒伏手段による葉部の倒伏作用状態を所望に変更して調節でき、その状態でマット苗をロール状に巻き取ることができる。
【0005】
また、請求項2の発明は、マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の左右外側部の葉部を内側に案内する案内手段を設けた請求項1に記載の苗巻取補助装置とした。従って、請求項1に記載の苗巻取補助装置の作用に加えて、案内手段により、マット苗の外側部の葉部が内側に案内され、その状態でマット苗をロール状に巻き取ることができる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の苗巻取補助装置によると、マット苗の葉部の倒伏作用状態を所望に変更して調節できるので、苗を傷めずに且つ所望の外径で適正にロール苗を形成することができ、ひいては苗移植機による苗の植付を適正に行える。
【0007】
請求項2に記載の苗巻取補助装置によると、請求項1に記載の苗巻取補助装置の効果に加えて、案内手段によりマット苗の外側部の葉部が内側に案内されるので、倒伏手段の倒伏作用でマット苗の葉部が外側に大きくはみ出るようなことを防止でき、葉部を外側にはみ出さないようにして適正にロール苗を形成することができ、ひいては苗移植機による苗の植付を適正に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の実施の一形態を以下に説明する。
苗巻取補助装置1は、一定幅(約30cm)で縦方向に長い形態の育苗トレイ2内で育苗された長さ約6mの長いマット苗3上を移動させながら、このマット苗3の葉を巻取側となる後側へ倒伏させるものであり、苗巻取補助装置1の後側で育苗トレイ2上のマット苗3をパイプ状の巻取軸4の外周に巻き付けて巻き取るようになっている。巻取軸4を人手で育苗トレイ2に沿って回動させながら、該巻取軸4にマット苗3を巻き付ける。苗巻取補助装置1の前後には走行手段となる各々左右一対の走行車輪5を設け、原動機となる駆動モータ6からの動力が左右の走行伝動用チエーン7を介して左右各々の前後の走行車輪5に伝達され、計4輪の走行車輪5の駆動により育苗トレイ2の左右両側部の壁部2aをレールとして走行車輪5が案内されながら苗巻取補助装置1が走行する。前記駆動モータ6及び該駆動モータ6の電源となるバッテリー8は、苗巻取補助装置1の上部に配置されている。また、苗巻取補助装置1の上部の前後には、該苗巻取補助装置1を持ち運びするための把持部9を設けている。苗巻取補助装置1の上部上面側にはには速度調節操作具10を設けており、この速度調節操作具10の操作で駆動モータ6の駆動速度を変更して走行速度を調節できる構成となっている。尚、前記速度調節操作具10は、駆動モータ6の駆動を入切する電源スイッチを兼ねている。
【0009】
苗巻取補助装置1の後部には、左右方向の回動軸11周りに上下回動可能のアーム12を左右各々設けている。尚、前記回動軸11は、斜め後下がりに延びる前記アーム12の略中央位置に配置されている。左右のアーム12の間には、平ベルトで構成される苗倒伏用ベルト13を巻掛けるための移動ローラ14を前記アーム12の下側の先端部に軸装している。前記苗倒伏用ベルト13は、苗巻取補助装置1の本体カバー15の所定位置に軸支される前側の固定ローラ16と後側の前記移動ローラ14との間に斜め後下がり姿勢で巻掛けられ、駆動モータ6からの動力が右側に配置した苗倒伏伝動用チエーン17を介して前記固定ローラ16へ伝達されて駆動する。従って、この苗倒伏用ベルト13が、巻き取る直前のマット苗の葉部に作用して該葉部を巻取側に倒伏させる倒伏手段となる。移動ローラ14の上方には左右のアーム12を連結する連結ロッド18を設け、この連結ロッド18の周りに回転自在の遊転ローラ19を設けており、仮に後側で形成されるロール苗が苗巻取補助装置1に近づき過ぎても、ロール苗の外周面が前記遊転ローラ19に接触してロール苗が苗倒伏用ベルト13やその周辺の構造物に干渉して巻き込まれないようにしている。アーム12の上側の先端部には左右のアーム12を連結する連結軸20を設け、該連結軸20を苗巻取補助装置1の本体カバー15に形成した左右の円弧状の長穴21に嵌合させている。この連結軸20の中間部に挿通される調節ロッド22を設け、該調節ロッド22の肩部で連結軸20の後側への移動が規制されて左右のアーム12の下部が前側下方へ回動するのを規制している。尚、苗倒伏用ベルト13がマット苗から受ける抵抗により、調節ロッド22に沿って連結軸20が前側へ移動して左右のアーム12の下部が上側へ回動し得る構成となっており、苗倒伏用ベルト13に過大な負荷がかかるような状態でマット苗を損傷してしまうようなことを防止している。また、前記調節ロッド22の中途部を苗巻取補助装置1の後部に設けたブラケット23に螺合させており、この調節ロッド22と一体回転するハンドル24を回動操作することによって、調節ロッド23が前後に移動し左右のアーム12を上下に回動調節して苗倒伏用ベルト13の下端の位置を調節することができる。従って、前記調節ロッド22及びハンドル24は、苗倒伏用ベルト13がマット苗の葉部に作用する上下位置を変更する位置変更手段となる。苗倒伏用ベルト13は、下面側が斜め後下側へ移行し、移動ローラ14で上側へ転じて移行するように回転駆動する。また、この苗倒伏用ベルト13の周回速度は苗巻取補助装置1の走行速度よりも速くなるように設定されている。この苗倒伏用ベルト13の駆動により、マット苗の苗床に対して葉部yが後側へ傾斜するように押し倒された状態になり、この状態で巻取軸4にマット苗を巻きつけるようになっている。苗倒伏用ベルト13の内周面で左右両側端部には突条を一体形成し、固定ローラ16と移動ローラ14との左右両側端部には前記突条を嵌合させる溝25を形成する。また、固定ローラ16における溝25の左右両側部には歯車状の凹凸条面からなる歯車面26を形成して、苗倒伏用ベルト13をスリップなく駆動回転させる構成となっている。
【0010】
苗巻取補助装置1の本体カバー15の下部は透明に構成され、走行車輪5を側方から視認できるようにして、育苗トレイ2の壁部2a上へ走行車輪5をセットし易くしている。また、本体カバー15の前端の左右両端部には、マット苗の左右外端部の葉部yを左右方向内側へ収束させて案内する収束案内板27を備えている。本体カバー15の前側下端部には外力で変形可能な弾性体からなる苗寄せ案内杆28を左右各々取り付けており、この苗寄せ案内杆28は、後側へいくほど左右方向内側で且つ下側に位置するよう傾斜した構成となっており、後端を苗倒伏用ベルト13の下面に接近させている。苗巻取補助装置1の前進走行により、左右の収束案内板27で左右内側へ案内されたマット苗の左右外端部の葉部yを更に苗寄せ案内杆28の変形作用によって損傷しないように左右内側へ押し寄せ、葉部yが左右外側へはみ出ないようにして苗倒伏用ベルト13の作用位置へ案内する。また、図5に示すように、本体カバー15の左右の下端縁15aは、左右方向内側に屈曲しており、マット苗の左右外端部の葉部yが左右外側の育苗トレイ2の壁部2a上に位置しないように案内し、葉部yが前記壁部2aと走行車輪5との間に挟まれるようなことを防止している。また、苗倒伏用ベルト13の左右両側部の表面には該ベルト13の下面側で左右方向外側が後側に位置するように該ベルト13の周回方向に対して斜めの突条13aを設けており、該突条13aにより苗倒伏用ベルト13の駆動でマット苗の左右外端部の葉部yが左右方向内側へ向くように修正される。従って、前記収束案内板27、苗寄せ案内杆28、本体カバー15の下端縁15a及び突条13a等が、巻き取る前のマット苗の巻取方向と交差する方向における外端部の葉部を内側に案内する案内手段となる。本体カバー15から後側に左右のロール苗案内板29を突出させて設け、この左右のロール苗案内板29の間に形成されるロール苗が位置するようにし、巻取軸4及びロール苗を案内する。ロール苗案内板29の上端縁部29a及び下端縁部29bは、左右方向外側に屈曲して設けられている。これにより、左右のロール苗案内板29の間でロール苗を回転させながら巻取作業を行う際、ロール苗の左右端部がロール苗案内板29の上端縁部29a及び下端縁部29bにひっかからないようにでき、ロール苗をスムーズに回転させることができる。また、ロール苗案内板29の左右方向内側面には左右方向内側に突出するロール苗位置指標30を設けており、ロール苗の外径の変化に拘らずロール苗の前端外周面が前記ロール苗位置指標30の位置となるように巻取作業を行うことにより、苗倒伏用ベルト13とロール苗の前端との位置関係を一定に保って苗倒伏用ベルト13で葉部が倒伏した直後の苗を巻き取ることができる。従って、苗倒伏用ベルト13で葉部を倒伏させた後マット苗を巻き取るまでの間に葉部が復元してマット苗を良好に巻き取れなくなるようなことを防止できる。尚、ロール苗位置指標30は、上下鉛直方向に長く構成され、ロール苗の外径の変化に伴うロール苗の上下位置に拘らずロール苗の前端を合わせやすく構成している。尚、ロール苗位置指標30を突条物で構成したが、穴や単なる印等、指標となるものであればよい。
【0011】
苗倒伏用ベルト13の後側で且つ左右中央の位置には、ロール苗の前側外周端を検出する接触式のロール苗センサ31を設けている。このロール苗センサ31の検出部31aは、左右のロール苗案内板29の間を通過するように上下略鉛直方向に延びる棒状に構成され、ロール苗の外径の変化に伴うロール苗の上下及び前後位置に拘らずロール苗の前端を苗倒伏用ベルト13の直後で検出し、この検出に基づいて駆動モータ6を駆動させて苗巻取補助装置1を走行させることにより苗倒伏用ベルト13とロール苗の前端との位置関係を一定に保って苗倒伏用ベルト13で葉部が倒伏した直後の苗を巻き取ることができる。これにより、速度調節操作具10等の格別な操作をしなくても苗巻取補助装置1を走行させることができ、巻取作業の作業性が向上する。尚、速度調節操作具10とロール苗センサ31とを併用することで、何れか作業者の好みの形態で走行させることができる。尚、速度調節操作具10で手動操作で走行させたい場合、ロール苗センサ31の検出を無視する切替手段等を別途設けるとよい。また、ロール苗センサ31の検出で走行する場合、ロール苗センサ31を押し続けることで走行し過ぎないように、ロール苗センサ31の検出の度に所定距離だけ走行する構成としてもよい。尚、ロール苗センサ31とロール苗位置指標30とは側面視で重複し同じ前後位置に配置されている。
【0012】
よって、この苗巻取補助装置1によると、ハンドル24の操作により苗倒伏用ベルト13の下端位置を変えることによりマット苗の葉部の倒伏作用状態を所望に変更して調節できるので、苗の葉の強度が小さい場合は、苗倒伏用ベルト13の下端位置を上昇させることにより倒伏作用位置を上昇させ、葉が折れたりして損傷するようなことを防止できる。逆に、苗の葉の強度が大きく葉が倒伏しにくい場合は、苗倒伏用ベルト13の下端位置を下降させることにより倒伏作用位置を下降させ、十分な倒伏作用を得ることができる。従って、苗の条件に応じて倒伏作用位置を変更することにより、苗を傷めずに且つ所望の外径で適正にロール苗を形成することができ、ひいては苗移植機による苗の植付を適正に行える。また、苗寄せ案内杆28等の案内手段によりマット苗の外端部の葉部が内側に案内されるので、苗倒伏用ベルト13の倒伏作用でマット苗の葉部が外側に大きくはみ出るようなことを防止でき、葉部を外側にはみ出さないようにして適正にロール苗を形成することができる。
【0013】
苗巻取補助装置1の前部には本体カバー15から斜め前下側に延びる左右の苗押さえ用アーム32を上下に回動可能に設け、左右の苗押さえ用アーム32の間で該アーム32の回動先端部に苗押さえローラ33を設けている。この苗押さえローラ33は、重量のある鉄製であり、駆動モータ6からの動力が苗押さえ伝動用チエーン34を介して伝動されて走行速度と略同じ周速で駆動する。従って、マット苗の葉の強度があり該葉が硬く倒伏し難い場合に、ハンドル24を操作して苗倒伏用ベルト13をマット苗の葉部に作用しない高さまで上動させ、育苗トレイ2においてマット苗の巻取作業時とは逆方向から走行させることにより、苗押さえローラ33でマット苗の葉部を予め一方側に倒伏させるべく押さえることができる。その後、苗押さえ用アーム32を上側に回動させて苗押さえローラ33をマット苗の葉部に作用しない高さまで上動させ、ハンドル24を操作して苗倒伏用ベルト13をマット苗の葉部に作用させるべく所望の高さに下動させ、苗巻取補助装置1の走行により苗倒伏用ベルト13により苗の葉を確実に巻取側へ倒伏させながらマット苗を巻き取ることができる。尚、駆動モータ6を逆転させて苗巻取補助装置1を後進走行できる構成とし、この後進で苗押さえローラ33によりマット苗の葉部を一方側に倒伏させる構成としてもよい。また、苗押さえローラ33及び苗押さえ用アーム32等を着脱可能に設け、予め苗の葉を倒伏させる必要のない場合には苗押さえローラ33を取り外せる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】苗巻取補助装置を示す側面図
【図2】苗巻取補助装置を示す一部断面平面図
【図3】苗巻取補助装置を示す一部断面背面図
【図4】苗倒伏用ベルトを示す側面図
【図5】本体カバーの下端縁を示す背面図
【図6】苗倒伏用ベルトを示す断面平面図
【符号の説明】
【0015】
1:苗巻取補助装置、3:マット苗、13:苗倒伏用ベルト、13a:突条、15:本体カバー、15a:本体カバーの下端縁、22:調節ロッド、24:ハンドル、27:収束案内板、28:苗寄せ案内杆、y:葉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の葉部に作用して該葉部を巻取側に倒伏させる倒伏手段と、該倒伏手段がマット苗の葉部に作用する上下位置を変更する位置変更手段とを設けた苗巻取補助装置。
【請求項2】
マット苗をロール状に巻き取る際に巻き取る前のマット苗の左右外側部の葉部を内側に案内する案内手段を設けた請求項1に記載の苗巻取補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−236339(P2007−236339A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65962(P2006−65962)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】