説明

苗植付装置

【課題】従来の苗植付爪の取替え作業は面倒であり、複数の苗植付爪を用意していなければ別の苗植付爪を圃場から別の所に取りに行かなければならず、作業効率が低下するなどの問題点がある。
本発明では、複数の苗植付爪を用意しなくても一種類の苗植付爪でマット状苗から掻き取る苗の量を変更出来るようにすることが課題である。
【解決手段】苗植付爪31をケース体72に固定部材68で取り付けた苗植付装置において、苗植付爪31の弾性針状二股部を拡開させて二股先端の間隔を変更して固定する拡開固定手段を設けて田植機の苗植付装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、田植機等の移植機における苗植付装置に関する
【背景技術】
【0002】
田植機における苗植付装置は、例えば、特開平6−209623号公報に記載の如く、田植機の苗載台に戴置したマット状苗から一株分の苗を苗植付爪で掻き取って圃場へ植え付ける機能を有している。
【0003】
この苗植付装置の苗植付爪は、例えば、特開2007−37444号公報に記載の如く、二股に分かれた針状の爪で構成され、二股部で一株分の苗をマット状苗から掻き取って圃場へ植え付ける。そして、この二股の間隔が違う複数の苗植付爪を用意して、圃場条件や苗の品種の違いによって苗植付爪を取り替えて掻き取る一株分の苗の量を変更することが行われている。
【特許文献1】特開平6−209623号公報
【特許文献2】特開2007−37444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の苗植付爪の取替え作業は面倒であり、複数の苗植付爪を用意していなければ別の苗植付爪を圃場から別の所に取りに行かなければならず、作業効率が低下するなどの問題点がある。
【0005】
そこで、本発明では、複数の苗植付爪を用意しなくても一種類の苗植付爪でマット状苗から掻き取る苗の量を変更出来るようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、苗植付爪31をケース体72に固定部材68で取り付けた苗植付装置において、苗植付爪31の弾性針状二股部90を拡開させて二股先端の間隔を変更して固定する拡開固定手段を設けて田植機の苗植付装置を構成した。
【0007】
この構成で、苗植付爪31の二股先端を拡げると、マット苗から掻き取る苗の量を多く出来る。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の拡開固定手段を、苗植付爪31の弾性針状二股部90をテーパ状にすると共に固定部材68に該二股部90へ挿入する差込部89を形成し、この差込部89の二股部90への差込位置を苗植付爪31の長手方向で位置変更して固定可能に構成した。
【0008】
この構成では、固定部材68の苗植付爪31に対する固定位置を変更することで、二股先端を拡げることが出来る。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の拡開固定手段を、苗植付爪31の弾性針状二股部90を形成すると共にこの二股部90に差込む幅の違う差込部89a,89bを固定部材68の表と裏に形成し、表の差込部89a或いは裏の差込部89bを二股部90に差込んで固定部材68を固定するように構成した。
【0009】
この構成では、固定部材68を表或いは裏にして苗植付爪31を固定することで、二股先端を拡げることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明では、弾性針状二股部90を形成した苗植付爪31をケース体72に固定部材68で固定する際に二股先端の間隔を変更して固定する拡開固定手段を用いるだけで、複数の苗植付爪を用意しなくても二股先端の間隔を変更してマット苗から掻き取る一株分の掻き取り量を変えることが出来て、圃場条件や苗品種の変更に素早く対応出来る。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、固定部材68の苗植付爪31に対する固定位置を変更してケース体72に固定するだけで苗植付爪31の二股先端幅を変更出来るので、変更操作が簡単である。
【0012】
請求項3に記載の発明では、固定部材68の取り付け側を表或いは裏に変更するだけで苗植付爪31の二股先端幅を変更出来るので、変更操作が簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
【実施例】
【0014】
この発明の実施例を、以下に説明する。
図1及び図2は、歩行型田植機1の全体側面図及び平面図である。この歩行型田植機1は、機体の前端部に設けたエンジン2と、該エンジン2の後側に設けた主伝動ケース3と、該主伝動ケース3の左右に各々設けた走行支持部材となる走行伝動ケース4と、該走行伝動ケース4からの動力で駆動する左右各々の走行体となる車輪5と、主伝動ケース3の後側面から後方に延びる主フレーム6と、主フレーム6の後端に固着された植付伝動ケース7と、該植付伝動ケース7の後側面から湾曲して斜め後上方に延びる後部フレーム8と、該後部フレーム8の後端に取り付けた操縦ハンドル9とを備えている。
【0015】
前記植付伝動ケース7の下部には複数(4個)の苗植付装置10を取り付け、後部フレーム8の前側には該フレーム8に左右移動可能に支持される苗載台11を設けている。従って、この歩行型田植機1は、走行しながら圃場に同時に4条分の苗を植え付ける4条植えの構成となっている。尚、前記エンジン2、主伝動ケース3、走行伝動ケース4及び車輪5等により走行部(走行車体)が構成され、植付伝動ケース7、苗植付装置10及び苗載台11等により植付部が構成されている。
【0016】
また、機体の下部には圃場面に接触する複数(3個)の接地体となるフロート12を設けており、機体の走行により該フロート12が圃場面を滑走して整地する。フロート12のうち、機体の左右中央のセンターフロート12aは左右内側の2条の苗植付装置10の植付位置を整地し、機体の左右両外側のサイドフロート12bは左右外側の各々1条の苗植付装置10の植付位置を整地する。センターフロート12aは、前端がサイドフロート12bの前端より前側に位置し、サイドフロート12bより前後長が長く、サイドフロート12bより左右幅が広く、サイドフロート12bより接地面積が広い。尚、センターフロート12a及びサイドフロート12bは、側面視で同じ位置に配置された各々の左右方向の回動支点軸13回りに上下に回動自在に支持され、前部が圃場面の凹凸に追従して上下動する構成となっている。
【0017】
エンジン2の出力軸は主伝動ケース3内に突入しており,エンジン2からの動力が主伝動ケース3内に伝達される。主伝動ケース3内には、車輪5、苗植付装置10及び苗載台11への全ての伝動を断つことができる主クラッチと、該主クラッチからの動力を車輪5への伝動経路と苗植付装置10及び苗載台11への伝動経路とに分岐する動力分岐部と、前記苗植付装置10及び苗載台11への伝動経路上において該苗植付装置10及び苗載台11への伝動を断つことができる植付クラッチと、前記車輪5への伝動経路上において噛み合うギヤの切替により路上走行用の前進高速状態、植付作業用の前進低速状態、ギヤが噛み合わずに非伝動となる中立状態及び後進状態の4状態に切り替えて変速できる変速部と、該変速部の伝動下手側で左右の車輪5への伝動を非伝動状態に切り替えできる左右各々のサイドクラッチとを設けている。
【0018】
従って、前記変速部及びサイドクラッチを介して主伝動ケース3から左右に突出する左右各々の走行用伝動軸に伝動される。該走行用伝動軸の外端部が主伝動ケース3の左右に配置する走行伝動ケース4内に突入しており、走行伝動ケース4内でスプロケット及びチェーンにより該走行伝動ケース4から左右外側に突出する車軸14に伝動し、車輪5が駆動回転する。走行伝動ケース4は、前端部に位置する前記走行用伝動軸周りに上下に回動可能に設けられ、後端部に位置する車軸14を上下に移動させて車輪5を上下動させる。また、植付クラッチの伝動により、主伝動ケース3から後側に延びる植付伝動軸15を介して植付伝動ケース7内へ伝動される。
【0019】
主伝動ケース3の左側の側部には油圧ポンプを固着し、主伝動ケース3の後部には油圧バルブユニットを固着し、該油圧バルブユニットの後側に単動式の油圧昇降シリンダ16を固着している。この油圧昇降シリンダ16は、前後方向に移動する移動部材となるシリンダロッド17を後部に備え、主フレーム6の上方に配置される。従って、油圧バルブユニットの切替により油圧ポンプからの油圧を油圧昇降シリンダ16へ供給すると、シリンダロッド17が後方へ移動する。また、油圧昇降シリンダ16内の油圧を油圧タンクとなる主伝動ケース3内へ戻す状態に切り替えると、機体の自重によりシリンダロッド17が前方へ移動する。従って、油圧昇降シリンダ16及びシリンダロッド17が、アクチュエータとなる。
【0020】
シリンダロッド17の後側の端部には後側から切り欠いた左右方向に連通する切り欠き溝17aを備え、該切り欠き溝17aに左右に延びる中継部材となる中継リンク部材18の左右中央部が嵌まるように挿入されている。中継リンク部材18は、プレート状の基部18aと左右両端で前記基部18aから上方に立ち上がる連結部18bとを備え、左右対称な形状となっている。シリンダロッド17の後側の端部には切り欠き溝17aを上下に貫通する連結軸19を設け、該連結軸19が中継リンク部材18の左右中央部に設けた第一の孔18cを貫通してシリンダロッド17と中継リンク部材18とが連結されている。
【0021】
尚、中継リンク部材18の左右中央部の前面18dと切り欠き溝17aの底面17bとは、互いに接触する平面となっている。また、第一の孔18cは、連結軸19の軸径よりも大きい孔径に設定され、前後に長い長孔状に形成されている。
【0022】
中継リンク部材18の連結部18bは、前側部分18b−1と後側部分18b−2とを備え、更に前側部分18b−1と後側部分18b−2とを機体の左右方向外側の端部で繋ぐ接続部分18b−3を備える。前側部分18b−1及び後側部分18b−2は前後に貫通する第二の孔18b−4を備え、該孔18b−4に連結ロッド20の後部が貫通している。従って、中継リンク部材18の左右の連結部18bに左右各々の連結ロッド20が貫通している。連結ロッド20の前端は走行伝動ケ−ス4の上側に固着された左右各々のアーム21に連結されている。連結ロッド20の後端の外周には圧縮ばね22を設け、該圧縮ばね22の前側に設けた前側ばね受け板23が連結部18bの後側部分18b−2の後面に接触し、圧縮ばね22の後側に設けた後側ばね受け板24が連結ロッド20に移動しないように締め付けられた固定具となる二重ナット(ダブルナット)25の前面に接触している。
【0023】
従って、車輪5の接地荷重を、走行伝動ケース4、アーム21、連結ロッド20及び圧縮ばね22等を介して中継リンク部材18が受けている。
連結ロッド20の中途部には板状の規制具26を固着しており、該規制具26が連結部18bの前側部分18b−1の前側に位置している。従って、車輪5の接地荷重が極めて小さいとき、圧縮ばね22のばね力により規制具26が連結部18bの前側部分18b−1の前面に接触し、車輪5が所定以上下動しないように規制している。尚、前側ばね受け板23と連結部18bの後側部分18b−2との互いの接触面及び規制具26と連結部18bの前側部分18b−1との互いの接触面は、平面になっている。また、第二の孔18b−4は、連結ロッド20の軸径よりも大きい孔径に設定されている。
【0024】
従って、油圧ポンプからの油圧を油圧昇降シリンダ16内へ供給するべく油圧バルブユニットを切り替えると、シリンダロッド17が後方へ移動し、切り欠き溝17aの底面17bで中継リンク部材18の左右中央部の前面18dが後側に押されて中継リンク部材18が後側へ移動し、該中継リンク部材18の左右の連結部18bの後側部分18b−2が圧縮ばね22を介して左右の連結ロッド20を後側に引き、左右のアーム21を後側に回動させることにより左右の走行伝動ケース4が下側に回動し、左右の車輪5が下動して圃場に対して機体が上昇する。逆に、油圧昇降シリンダ16内の油圧を主伝動ケース3内へ戻すべく油圧バルブユニットを切り替えると、左右の車輪5の接地荷重により左右のアーム21、左右の連結ロッド20及び中継リンク部材18等を介してシリンダロッド17が前方へ戻され、左右の車輪5が上動して圃場に対して機体が下降する。
【0025】
また、機体の左右傾斜により接地荷重が左右の車輪5で所定以上相違すると、切り欠き溝17aの底面17bの左右一方の端を支点に中継リンク部材18が前後に回動して左右の連結部18bが互いに前後反対側に移動し、接地荷重が大きい側の車輪5が下動し反対側の車輪5が上動し、左右水平姿勢となるよう機体の左右傾斜姿勢が修正される。このとき、連結軸19により、中継リンク部材18がシリンダロッド17の切り欠き溝17aから脱落するようなことを防止している。
【0026】
左右の連結ロッド20ひいては左右の連結部18bの間の左右中央位置に対して切り欠き溝17aの底面17bの左右端は左右に偏位しているので、左右の車輪5の接地荷重の相違が小さいときには、中継リンク部材18が前後に回動せずに中継リンク部材18の接触面となる前面18dと切り欠き溝17aの底面17bとが接触した状態が維持され、左右の車輪5が相対的に上下動せず、左右の車輪5が個別に無闇に上下動することによりかえって機体の左右傾斜姿勢が不安定になるようなことを防止している。
【0027】
また、切り欠き溝17aの底面17bの左右端が左右に偏位しているので、中継リンク部材18が前後に回動しても、圧縮ばね22や車輪5からの荷重により中継リンク部材18が中継リンク部材18の前面18dと切り欠き溝17aの底面17bとが接触する基準の回動位置に戻りやすく、機体の姿勢を安定させることができる。
【0028】
更に、接触面となる切り欠き溝17aの底面17b、中継リンク部材18の左右中央部の前面18d、前側ばね受け板23の前面、連結部18bの後側部分18b−2の後面、規制具26の後面及び連結部18bの前側部分18b−1の前面は平面となっているので、中継リンク部材18が回動して中継リンク部材18の左右中央部の前面18d、連結部18bの後側部分18b−2の後面及び連結部18bの前側部分18b−1の前面の角度が変化しようとするのを圧縮ばね22の付勢力により抑えることができ、機体の左右傾斜が圃場の左右傾斜に近づくように促し、機体の左右傾斜姿勢が不安定になるようなことを防止している。また、連結ロッド20の規制具26により、前進側に回転する車輪5の駆動反力で該車輪5が下動して機体の対地高さや左右傾斜姿勢が不適正になるのを防止している。
【0029】
尚、二重ナット25を弛めて連結ロッド20における二重ナット25の位置を調節することにより、機体の左右傾斜姿勢を調節することができる。この調節は、左右一方の二重ナット25の位置を調節しても、左右両方の二重ナット25の位置を調節しても良い。この二重ナット25からなる調節部分は機体平面視でボンネットカバー43の外側に位置しているので、作業者はボンネットカバー43が邪魔にならずに上側から二重ナット25の位置調節を容易に行える。
【0030】
苗植付装置10は、植付伝動ケース7の下部に取り付けられ、該植付伝動ケース7からの動力で作動するクランク式であり、苗植付爪31が苗取口28上の苗を掻き取り、掻き取った苗を押出具32が圃場面に向かって押し出して圃場に苗を植え付ける。
【0031】
苗植付装置10を図5以降で詳細に説明する。苗植付装置10の植付本体70は、先端部から中間部にかけて上が開放された開口部71を有するケース体72と該開口部71を覆う蓋体73とにより構成され内部に空洞74が形成されており、基部が揺動杆75の先端にピン76で回動自在に軸着され、先端には下向の苗植付爪31が固定部材68で挟んでケース体72の前面へボルト66とナット67で固着されている。
【0032】
苗植付爪31は、図6に示す如く、線材の先端を尖らせて二股状に曲げた形状で、その二股部90の間隔を先端側が広くなるようにテーパ状にしている。これに対して、固定部材68は図7に示す如く、苗植付爪31の二股部90に勘合させる挿入部89を形成し、取付孔88を長孔にして取付位置を変更可能にしている。従って、苗植付爪31をケース体72に固定する際に固定部材68の挿入部89を苗植付爪31の二股部90先端寄りに挿入して固定すると苗植付爪31の二股先端が狭くなり、挿入部89を苗植付爪31の二股部90元側寄りに挿入して固定すると苗植付爪31の二股先端が拡がる。
【0033】
なお、苗植付爪31は、図8、9に示すように、固定部材68の挿入部89a,89bを挿入幅を変えて表裏に形成し、苗植付爪31を固定部材68の表或いは裏で固定することで、苗植付爪31の二股先端の間隔を二種類に変えるようにしても良い。なお、この固定部材68を使う場合には挿入部89a,89bで苗植付爪31の二股部90を開くので間隔をテーパ状に拡げる必要がなく平行状でも良い。
【0034】
78は苗押出体で、その下端に設けられた押出子79が苗植付爪31に沿って上下動するようにケース体72の先端部にブッシュ69、受金91、オイルシール92を介して摺動自在に挿入されている。ケース体72のブッシュ69先端位置にはグリス溜りの空洞部81を設けて、ケース体72の空洞74からグリスが漏れ出し難くしている。
【0035】
80はクランク状の軸で、植付本体70の中間部に挿通されて、機体に支架されて駆動される駆動軸82で振り回されるように構成され、空洞74内においてカム83が固着されている。また、植付本体70の空洞74の内壁には、上が開放された一対のU字形の軸受溝84,84が左右で相対向して設けられ、押出作動杆85の中間部に一体的に設けられた軸86の両端が支架され、この押出作動杆85の先端と基端とはそれぞれ苗押出体78の上部とカム83とに係合され、この空洞74の上に蓋体73が固着されていて、この蓋体73の内面に止められたバネ87の下端で押出作動杆85の軸86よりも先端側が押圧され、U字形の軸受溝84,84に勘合する蓋体73内の押圧部93,93で軸86の両端が底部に圧接されて固定されている。この押圧部93,93は、前記開口部71の合わせ面よりも下方へ突出して、合わせ面の位置はケース内部のメンテナンスが行い易い位置としながら軸86を固定できる。
【0036】
この苗植機における苗植付装置は、上記のように構成されるので、駆動軸82が回転すると、植付本体70は軸80で振り回されるが、この植付本体70は、基部が回動軸で機体に軸着された揺動杆75の先端に軸着されていて、回動軸の回りに揺動するから、その先端の苗植付爪31は、変形の長円運動を行う。そして、軸80の回転でカム83が植付本体70に対して回転して押出作動杆85の基部を上下させるので、その先端は軸86の回りに逆に上下動して苗押出体78を上下させ、もって、押出子79は苗植付爪31が上にあるときには上限にあって、この状態で苗載台11に突出して苗を一株分だけ掻き取り、これを両者で保持して下降し、土中の下限に達すると、押出子79が更に下降してその苗を下に押し出して土中に押し込み、上昇しながら押出子79は掻取体77に対して元の位置に復帰する。その動きは、図10の軌跡Aや図11の軌跡Bに示す如くで、押出子79が最下位置A1,B1から上移動終了位置A2,B2で上下動することで移動負荷が低減される。図10では、最下位置A1がフロート12の底面位置と略同じで上移動終了位置A2が苗戴置台11の上面と略同一位置である。図11では、最下位置A1がフロート12の底面位置と略同じで上移動終了位置A2が苗戴置台11の上面よりやや浮いた苗床の上面位置である。
【0037】
図12は、苗植付爪31の軌跡Cを示す図面で、引き上げ開始部C1と引き上げ終了部C3で変化率を低くしてショックを少なくし、中間部C2の変化率を一定にしてクランク回転負荷を均等にしている。
【0038】
図13と図14は、苗植付爪31の軌跡Cに押出作動杆85の軌跡Dを追加した図面で、苗植付爪31の上昇中間部で押出作動杆85の再押下げ動部D1を設けたり、上昇開始中に押出作動杆85の再押下げ動部D2を設けて、植付後に苗植付爪31に付着して上昇する苗を振り落とすようにする。
【0039】
苗載台11は、植付伝動ケース7の左右に突出して左右移動する左右移動軸29の左右両端から左右各々の連結部材30を介して支持され、苗受板27に沿って左右往復移動し、苗受板27に設けた各条の苗取口28に一株分ずつ苗を供給する。尚、苗載台11の上部には左右移動用レール34を固着して設けており、該左右移動用レール34が後部フレーム8の上部から支持される支持ローラ33に案内されて左右移動可能に支持されている。従って、苗載台11は、下部で苗受板27に左右移動可能に支持され、上部で支持ローラ33に左右移動可能に支持され、植付伝動ケース7からの動力で左右移動軸29を介して左右に往復移動する構成となっている。また、苗載台11には、左右移動端で苗取口28側(下側)に苗を移送する各条の苗送りベルト35を備えている。この苗送りベルト35は、植付伝動ケース7からの動力で作動し、苗載台11の左右移動端でマット苗を一株分移送して苗を苗取口28へ供給する。
【0040】
操縦ハンドル9の前側で且つ苗載台11の後側には、車輪5、苗植付装置10及び苗載台11への伝動を断つことができる主クラッチレバー36と、苗植付装置10及び苗載台11への伝動を断ったり油圧昇降シリンダ16を作動させるべく油圧バルブユニットの油路を切り替えたりする植付昇降レバー37とを設けている。前記主クラッチレバー36は、入位置と切位置との2つの操作位置に操作できる構成となっており、主伝動ケース3内の主クラッチを操作して伝動状態と非伝動状態とに切り替える。
【0041】
前記植付昇降レバー37は、植付位置、下降位置、中立位置及び上昇位置の4つの操作位置に操作できる構成となっており、主伝動ケース3内の植付クラッチを操作して植付伝動軸15を駆動状態と非駆動状態とに切り替えると共に、油圧昇降シリンダ16を作動させて左右の車輪5を上下動させる。すなわち、前記植付位置に操作すると、植付クラッチを伝動状態にして苗植付装置10及び苗載台11を作動させると共に、機体の自重で左右の車輪5が接地荷重を受けることにより油圧昇降シリンダ16内の油圧を主伝動ケース3内に戻して左右の車輪5を上動させ、機体を下降させてフロート12が接地状態となる。
【0042】
前記下降位置に操作すると、上述のように機体を下降させた状態で、植付クラッチを非伝動状態にして苗植付装置10及び苗載台11の作動を停止させる。前記中立位置に操作すると、上述のように苗植付装置10及び苗載台11の作動を停止させた状態で、油圧昇降シリンダ16への油路を遮断して油圧昇降シリンダ16の作動を固定し、左右の車輪5を任意の上下位置で固定して機体の昇降を停止させる。前記上昇位置に操作すると、上述のように苗植付装置10及び苗載台11の作動を停止させた状態で、油圧昇降シリンダ16内へ油圧を供給して左右の車輪5を下動させ、機体を上昇させてフロート12が非接地状態となる。
【0043】
また、センターフロート12aの上下動で該センターフロート12aの前部に連結されるロッドを介して油圧バルブユニットの油路を切り替える構成となっており、センターフロート12aの前部が上動すると油圧昇降シリンダ16内へ油圧を供給して左右の車輪5を下動させる構成となっている。従って、植付昇降レバー37が前記植付位置及び下降位置のとき、センターフロート12aが圃場面に接地して上下動することにより該センターフロート12aが所望の前後姿勢になるよう左右の車輪5が上下動し、機体が所定の対地高さとなるよう昇降制御される構成となっている。
【0044】
操縦ハンドル9及び苗載台11の前側には、主伝動ケース3内の変速部を操作するための変速レバー38と、エンジン2を始動するためのリコイルノブ39とを設けている。このリコイルノブ39と機体の前端部にあるエンジン2とは、リコイルロープ40により連結されている。操縦ハンドル9の左右のハンドルグリップ9aの下方には左右各々のサイドクラッチレバー41を設けており、該サイドクラッチレバー41により主伝動ケース3内の左右各々のサイドクラッチを操作する構成となっている。
【0045】
操縦ハンドル9の斜め前下側で後部フレーム8の左側には植付深さ調節レバー42を設けており、該植付深さ調節レバー42の操作により該レバー42と一体回動する左右方向の植付深さ調節軸53を回動し、植付深さ調節軸53と一体回動する各々の植付深さ調節アーム54を介して各フロート12の回動支点軸13の機体に対する上下位置を変更して、苗植付装置10による苗の植付深さを変更して調節できる構成となっている。
【0046】
操縦ハンドル9の斜め前下側で後部フレーム8の右側には苗取量調節レバー65を設けており、該苗取量調節レバー65の操作により苗受板27の苗植付装置10に対する上下位置を変更して、苗植付装置10による一株当たりの苗取り量を変更して調節できる構成となっている。
【0047】
エンジン2及び主伝動ケース3の上方には、ボンネットカバー43を設けている。また、エンジン2の上方には、燃料タンク44を設けている。
ボンネットカバー43の後部の上方から植付伝動ケース7の前部の上方にわたる位置には、予備の苗を載せる予備苗載台45を設けている。この予備苗載台45は、棒材を組み合わせた枠体で構成され、主フレーム6から上方に延びる予備苗載台支持フレーム46に支持されている。予備苗載台45の前後左右の四方には立ち上がり部47、48を設けており、該立ち上がり部47、48により搭載した苗が脱落しないようにしている。
【0048】
予備苗載台45は、長手方向約60cm、短手方向約30cmのマット苗を4枚載置できるように、前後幅が約60cmで左右幅が約120cmの広さになっている。従って、予備苗載台45は、長手方向を前後方向に向けたマット苗を左右に4枚配列して載置できる。
【0049】
また、苗運搬を容易にするためにマット苗を巻いた巻苗rの状態で苗を取り扱うことがあるが、この巻苗rを予備苗載台45に載置することもできる。このとき、前方の立ち上がり部47が他の三方(右方、左方、後方)の立ち上がり部48より高く設定されており、予備苗載台45に載置した巻苗rが転びながら前方に飛び出して脱落しにくいようにしている。これにより、この歩行型田植機1は機体の重心が車輪5の接地位置より前側に位置するために機体の前後傾斜姿勢が前下がり姿勢になりやすいが、機体が前下がり姿勢になっても巻苗rが脱落しにくくなり、植付作業を円滑に行える。特に、機体を上昇させての機体旋同時には機体が大きく前下がり姿勢に変化するが、この機体旋回時の巻苗rの脱落を的確に防止できる。
【0050】
尚、前方の立ち上がり部47の高さHは、予備苗載台45の前後幅Lを2πで除した値以上に設定されている。従って、前方の立ち上がり部47の高さHが巻苗rの重心と同一か又は高くなるので、巻苗rが前方に脱落しにくくなる。
【0051】
前記予備苗載台支持フレーム46は、ボンネットカバー43と植付伝動ケース7(植付部)との間に配置されている。主フレーム6で予備苗載台支持フレーム46を固定する固定部材49には、ボンネットカバー43の後部を支持するべく斜め前上方に延びるボンネットカバー支持部材50を固着している。これにより、ボンネットカバー支持部材50の支持強度が向上し、ボンネットカバー43を確実にしっかりと支持できる。
【0052】
機体の前部には、機体の前方の障害物からエンジン2、主伝動ケース3及びボンネットカバー43等を防護する防護フレーム51を設けている。この防護フレーム51は、主伝動ケース3の左右側面から左右外側に延びる左右各々の取付部51aと、この左右の取付部51aを連結する機体外縁となる防護部51bとを備えている。該防護部51bは、左右中央部分が左右に真直に延びる水平状で最も前側に位置し、左右外側部分が左右外側へいくにつれて後側に位置する構成となっている。また、防護部51bは、左右中央部分が最も上側に位置し、左右外側部分が左右外側へいくにつれて下側に偏位する構成となっている。防護部51bの左右端部には長孔を介してサイドフロート12bの前端を連結し、サイドフロート12bの上下回動範囲を規制している。これにより、サイドフロート12bの支持部材を防護フレーム51で兼用することができ、機体の軽量化及びコストダウンが図れる。同様に、センターフロート12aは、その前端が長孔を介して主伝動ケース3に連結され、上下回動範囲が規制されている。
【0053】
機体をトラックの荷台に積み込んで固定するときには、前記防護部51bの左右中央部分の左右両端に各々ロープを掛けると共に、後部フレーム8の上部に固着したフック52にロープを掛け、機体の3箇所を固定して荷台にしっかりと固定するようになっている。
【0054】
図15、16、17は、車輪5を示し、中央のハブ56と円状に曲げたパイプからなるリム55を三本のスポーク57で連結し、リム55の外周に短く切った棒材からなるスパイク59を所定間隔で多数固着している。スパイク59の間には板材からなるラグ58をリム55から内側に傾けて固着しその外端を短い棒材からなる補助ラグ61で補強している。三本のスポーク57は、中央側を補強板60で連結している。
【0055】
以上により、この歩行型田植機1において、作業者が操縦ハンドル9の左右のハンドルグリップ9aを把持し、植付昇降レバー37を植付位置に操作して機体を下降させると共に植付部を作動可能な状態にし、主クラッチレバー36を入位置に操作して機体を走行させながら植付部を作動させることにより、圃場に同時に4条分の苗を植え付けていく。圃場の畦際に到達すると、植付昇降レバー37を上昇位置に操作して植付部の作動を停止させると共に機体を上昇させ、旋回内側のサイドクラッチレバー41を操作して旋回内側の車輪5のサイドクラッチを断ち、機体を旋回させる。
【0056】
この機体旋回時、植付昇降レバー37の上昇位置への操作で機体が上昇作動するが、所望の高さに機体が上昇したときに植付昇降レバー37を中立位置へ操作すれば、その高さで機体を固定することができ、作業者が機体の旋回操作を容易に行える。以下、同様に植付昇降レバー37を植付位置に操作して次行程の植付作業を行い、圃場に苗の植付を行っていく。尚、路上走行時等は、機体を上昇させ、変速レバー38を適宜操作して走行させる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】歩行型田植機を示す側面図
【図2】歩行型田植機を示す平面図
【図3】中継リンク部材を示す断面平面図(a:一部の断面側面図)
【図4】予備苗載台を示す側面図
【図5】苗植付装置の詳細を示す側断面図
【図6】苗植付爪の平面図
【図7】固定部材の平面図
【図8】別実施例を示す固定部材の側面図
【図9】別実施例を示す固定部材の正面図
【図10】苗植付爪の軌跡を示す側面図
【図11】別実施例における苗植付爪の軌跡を示す側面図
【図12】苗植付爪の軌跡を示す図面
【図13】苗植付爪の軌跡に押出作動杆の軌跡を追加した図面
【図14】別実施例における苗植付爪の軌跡に押出作動杆の軌跡を追加した図面
【図15】車輪の正面図
【図16】車輪の一部側断面図
【図17】車輪の一部側断面図
【符号の説明】
【0058】
31 苗植付爪
68 固定部材
72 ケース体
89 差込部
89a,89b 差込部
90 二股部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗植付爪(31)をケース体(72)に固定部材(68)で取り付けた苗植付装置において、苗植付爪(31)の弾性針状二股部(90)を拡開させて二股先端の間隔を変更して固定する拡開固定手段を設けたことを特徴とする田植機の苗植付装置。
【請求項2】
拡開固定手段を、苗植付爪(31)の弾性針状二股部(90)をテーパ状にすると共に固定部材(68)に該二股部(90)へ挿入する差込部(89)を形成し、この差込部(89)の二股部(90)への差込位置を苗植付爪(31)の長手方向で位置変更して固定可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の田植機の苗植付装置。
【請求項3】
拡開固定手段を、苗植付爪(31)の弾性針状二股部(90)を形成すると共にこの二股部(90)に差込む幅の違う差込部(89a),(89b)を固定部材(68)の表と裏に形成し、表の差込部(89a)或いは裏の(差込部89b)を二股部(90)に差込んで固定部材(68)を固定するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の田植機の苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−283942(P2008−283942A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134481(P2007−134481)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】