説明

苗用ポットおよび該苗用ポットの製造方法

【課題】生分解性を有する苗用ポットを簡単かつ安価に製造する。
【解決手段】底壁と周壁で囲まれた中空部に土壌および苗を充填する苗用ポットであり、コンニャク精粉の製造時に発生するコンニャク飛粉に水を配合した溶液を用いて成形している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は苗用ポットおよび該苗用ポットの製造方法に関し、詳しくは、生分解性材料から苗用ポットを形成し、苗の成長に伴う植え替えを不要にするものである。
【背景技術】
【0002】
この種の苗用ポットを生分解性材料で形成する提案は多数なされている。例えば、特開2001−86875号公報(特許文献1)では、コンニャク生成粕からなる生分解性バインダーとビール粕炭等からなる粉炭とを混練して成形材料とし、該成形材料を雌雄金型の間に充填して育苗ポットを成形している。前記生分解性バインダーとして用いるコンニャク生成粕については「吸水性が速く、撹拌操作を不要」と記載されているだけで何を指すか不明であるが、コンニャク生成品から発生する粕を指すと解される。具体的には、段落0011に「水約95重量%、コンニャク粕約5重量%からなるバインダーとし、該バインダー約85重量%にビール粕炭15重量%を加えて混練」すると記載されている。
【0003】
前記生分解性バインダーとするコンニャク生成粕に配合するビール粕炭はビール粕を炭化させたもので、生分解性ではなく残留するものとされている。即ち、段落0016に「生分解バインダーの粘着力が落ちると共に土壌中で生分解作用が働き、育苗ポットは破壊消滅し、苗の根の伸長を阻害することはない。そして残留した粉炭は土壌の保水、排水、通気性を高めると共に微生物の活動を盛んにし、苗のさらなる成長を促進する土壌改良材の役割を果たす。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−86875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1で提案されている育苗ポットは、コンニャク生成品から発生する粕とビール生成時に発生するビール粕とからなる廃棄物同士を混合して生分解性を有する育苗ポットを形成していると解され、廃棄物をリサイクルできると共に、育苗ポットの生分解性を有するため、苗の移植やポットの処理が不要となる利点を有する。
【0006】
しかしながら、生分解性を有するバインダーと、該バインダーで結合されると共に分解されずに残留する粉炭の2種類の成分が必要となる。このように必要な成分が増えると取得や保管に手数がかかり、かつ、製造工程も複雑になる恐れがある。
また、生分解しないビール粉炭は残留し、ポットで育成する苗の種類によってはビール粉炭が常に有益であるとは限らず、残留したビール粉炭を除去した方がよい場合には、育苗ポットとして用いることができず、用途制限を受けやすい。さらに、苗の周囲に残留するビール粉炭で根の成長を抑制されたり、水吸収性等に影響を受ける場合もある。
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、生分解性を有する1成分と水のみを混合した素材で成形でき、かつ、完全に分解して土壌に戻るものとし、苗の種類によって用途制限を受けない苗用ポットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、底壁と周壁で囲まれた中空部に土壌および苗を充填する苗用ポットであり、コンニャク精粉の製造時に発生するコンニャク飛粉に水を配合した溶液を用いて成形している生分解性を有する苗用ポットを提供している。
【0009】
本発明の苗用ポットで用いるコンニャク飛粉は、特許文献1で用いているコンニャク生成粕ではなく、コンニャク芋からコンニャク精粉を取得する時に大量に発生するコンニャク飛粉を用いている。該コンニャク飛粉は従来産業廃棄物となっていたものである。このコンニャク飛粉をバインダーとして用いているのではなく、水を配合した唯一の成分として用いている。このように、水と配合する成分がコンニャク飛粉のみであるため、材料コストが殆どかからず、かつ、製造が簡単であるため、非常に低価格で提供することができる。
また、本発明の苗用ポットは生分解性を有しない成分を含めていないため、苗の成長後はポットを残留物なく分解して完全に土壌に戻ることができる。
【0010】
前記本発明の苗用ポットの形状は、底壁から周壁が立設し、上面開口で、かつ前記底壁に排水穴を設けている。該排水穴は雌雄金型による成形時に雄型に突起を設けて成形してもよいし、成形後に穴空き加工で形成してもよい。
また、底壁に設ける排水穴に連続する十字状の切欠や薄肉部を設け、該薄肉部を他の部分より早く生分解させて前記苗の根毛の成長に対応して開口が形成されるものとすることが好ましい。
【0011】
本発明は前記苗用ポットの製造方法を提供している。該製造方法は、
コンニャク精粉の製造工程中で発生するコンニャク飛粉を取得し、
前記コンニャク飛粉に水のみを配合した後に、脱泡処理してゲル状のコンニャク飛粉を作成し、
前記ゲル状のコンニャク飛粉を雌雄金型に充填してポット型に成形していることを特徴とする。
【0012】
詳細には、前記コンニャク飛粉の水溶液の濃度は30質量%〜40質量%とし、
前記コンニャク飛粉の水溶液を撹拌脱泡機を用いて所要時間撹拌した後に所要時間脱泡処理してゲル状のコンニャク飛粉とし、
雌金型に前記ゲル状のコンニャク飛粉を充填した後に前記雄金型を加圧嵌合してポットに成形し、
前記雌雄金型よりポットを取り出した後に、ポットに雄金型の荷重をかけて充填した状態で100〜120℃で所要時間乾燥処理している。
【0013】
前記のように、加圧成形し、かつ、加圧状態で加熱乾燥処理することで強度を高めている。よって、コンニャク飛粉の水溶液を原料とし、補強フィラー等の充填材を含めていないが、土壌および苗を充填した状態で苗に散水しても、苗が育つに必要な所要期間は保形性を有するものとしている。
【発明の効果】
【0014】
前記のように、本発明の苗用ポットは、産業廃棄物として処理されていたコンニャク飛粉に水を配合しただけのコンニャク飛粉の水溶液を原料として成形しているため、簡単かつ安価に製造でき、かつ、水以外は生分解性のコンニャク飛粉だけであるため、苗の成長後は完全に分解して土壌に戻り、残留物が発生しない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の苗用ポットを示し、(A)は正面図、(B)は底面図、(C)は使用説明図である。
【図2】(A)(B)(C)は苗用ポットの製造工程を示す図面である。
【図3】(A)(B)(C)は苗用ポットの変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の苗用ポットを図面を参照して説明する。
苗用ポット1は図1に示すように、上向きに拡大して上面が開口となる台円錐筒形状で、底壁2の外周から周壁3が立設し、底壁2と周壁3とで囲まれる上面開口の中空部4が苗Pを植える土壌Eを充填する空間となる。底壁2の中央には排水穴5を設けている。
【0017】
苗用ポット1はコンニャク芋からコンニャク精粉を製造する時に発生するコンニャク飛粉に水を配合したコンニャク飛粉の水溶液のみを原料とし、図2に示すように、雌雄金型で成形して製造している。前記コンニャク飛粉の水溶液の濃度は30〜40質量%とし、本実施形態では溶液濃度を35質量%としている。
【0018】
前記苗用ポット1はコンニャク飛粉の水溶液のみを原料として製造しているため、完全に分解する生分解性を有し、よって、苗用ポット1は残留物なく分解し、土壌に戻る。よって、苗Pを植えた土壌を苗用ポット1に充填し、この状態で農地やビニルハウス等の土壌に所要の凹部を設けて埋め込んでセットし、この状態で苗Pを育てると、苗Pの成長に応じて苗用ポット1の分解が開始し、最終的に土壌に戻ることになるため、成長した苗の移植は不要となる。また、分解した後に残留物が残らないため、残留物の除去の必要がなく、かつ、残留物の苗(植物)に対する影響を考慮する必要もない。
【0019】
次に、前記苗用ポット1の製造方法を説明する。
コンニャク芋からコンニャク製品を製造するために精製するコンニャク精粉の製造工程で廃棄物となるコンニャク飛粉が発生する。このコンニャク飛粉を取得する。
前記コンニャク飛粉に水(水道水で可)を配合し、コンニャク飛粉の水溶液を精製する。該コンニャク飛粉の溶液濃度は前記のように30質量%〜40質量%としている。これは30質量%未満では粘度が低くなり過ぎてポットとしての形状を保持することが困難となる一方、40質量%を越えると粘度が高くなり過ぎて成形性が悪くなる。本実施形態では前記のように35質量%としている。
【0020】
前記コンニャク飛粉の水溶液を撹拌脱泡機を用いて、30〜50分(好ましくは40分)間撹拌し、その後、15〜25分(好ましくは20分)間の脱泡処理を行ってゲル状のコンニャク飛粉を作成する。
【0021】
前記ゲル状のコンニャク飛粉20を、図2(A)に示すように、下型の雌金型10に充填する。ついで、上型の雄金型11を垂直下降させて雌金型10に荷重20kgfをかけて内嵌する。この状態で図2(B)に示すように、雌雄金型10、11の型面間のキャビティにゲル状のコンニャク飛粉20が図1に示す形状で充填される。其の際、上型の雄金型11の下面に突起を設けて成形する苗用ポット1の底壁2に排水穴5を設けてもよい。なお、本実施形態では、成形後に穴空け加工をしている。
【0022】
前記雌雄金型10、11でポット形状に成形した後に、離形して成形ポット21を取り出した後、加熱炉内に搬送し、該加熱炉内で前記雄金型11と同形状の整形金型12を成形ポットに荷重300gfを加えて内嵌し、一定温度(110℃)で加熱して所要時間乾燥処理している。この乾燥処理時間は加熱温度および成形ポットの厚みに応じて調整している。
【0023】
「生分解試験」
前記製造工程で、内径48mm、外径58mm、肉厚5mm、高さ67mmの苗用ポットの試作をした。
該試作ポットに上端位置まで腐葉土を充填し、温度35±2℃の恒温室中に20日間放置すると共に、含水率50〜60%を維持するために毎日水を補給した。該生分解試験では、局部的な亀裂はなく、20日後における分解率は10%であった。
【0024】
前記試験から、移植した苗が成長する期間は十分にポット形状に保持できると共に、所要期間経過後には分解することが確認できた。
【0025】
本発明のコンニャク飛粉からなる苗用ポットは図1に示す形状に限定されず、図3(A)(B)(C)に示す形状としてもよい。
【0026】
図3(A)に示す苗用ポットでは底壁2の中央に排水穴5を設け、該排水穴5を中心とした十字状の切欠6を設けている。苗の成長する根を切欠6を通して土壌中に張らせることができると共に切欠6を起点として分解を助成できる利点がある。
【0027】
図3(B)に示す苗用ポットでは、底壁2の中央の排水穴5を中心とした十字状の薄肉部7を設けている。薄肉部7は他の部位より速く分解して開口となるため、この開口となる部分から苗の成長する根を土壌中に張らせることができる。
【0028】
図3(C)に示す苗用ポットでは、周壁3の肉厚(t1)に対して底壁2の肉厚(t2)を薄くしている。これにより、底壁2を周壁3より速く分解でき、開口した底壁2から苗の成長する根を土壌中に張らせることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 苗用ポット
2 底壁
3 周壁
5 排水穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と周壁で囲まれた中空部に土壌および苗を充填する苗用ポットであり、コンニャク精粉の製造時に発生するコンニャク飛粉に水を配合した溶液を用いて成形している生分解性を有する苗用ポット。
【請求項2】
請求項1に記載の苗用ポットの製造方法であって、
コンニャク精粉の製造工程中にコンニャク飛粉を取得し、
前記コンニャク飛粉に水を配合した後に脱泡処理してゲル状のコンニャク飛粉を作成し、
前記ゲル状のコンニャク飛粉を雌雄金型に充填してポット型に成形していることを特徴とする苗用ポットの製造方法。
【請求項3】
前記コンニャク飛粉の水溶液の濃度は30質量%〜40質量%とし、
前記コンニャク飛粉の水溶液を所要時間撹拌した後に所要時間脱泡処理してゲル状のコンニャク飛粉とし、
雌金型に前記ゲル状のコンニャク飛粉を充填した後に前記雄金型を加圧嵌合してポットに成形し、
前記雌雄金型よりポットを取り出した後に、ポットに雄金型の荷重をかけて充填した状態で100〜120℃で所要時間乾燥処理する請求項2に記載の苗用ポットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−110981(P2013−110981A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257738(P2011−257738)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 日本繊維機械学会 第64回 年次大会 主催者名 社団法人 日本繊維機械学会 公開日 平成23年5月27日
【出願人】(598136323)
【出願人】(593188431)株式会社オーカワ (5)
【Fターム(参考)】