説明

苗移植機

【課題】
苗移植機の植付部を左右に移動させる摺動機構に用いる、潤滑剤を内装する被覆部材の耐久性を向上させ、左右移動による劣化や内圧の変化による潤滑剤の漏出を防止する。
【解決手段】
圃場に植え付ける苗を積載する左右往復移動自在な植付部1を設け、植付部1の機体前側に植付部1を左右往復移動させる摺動部材2を設け、摺動部材2が摺動する螺子軸3を摺動部材2に勘合させて設けた苗移植機において、
摺動部材2の左右両側に螺子軸3の外周を覆う左右の被覆部材5,5を設け、被覆部材5,5と螺子軸3との間に所定間隔の空間部4を形成し、螺子軸3を回転自在に軸受けする軸受部7,8を設け、軸受部7,8と被覆部材5,5の左右両側の被覆端部6,6との連結部に軸方向の凹部9と凸部10をそれぞれ形成し、凹部9と凸部10とを嵌め合わせて回り止め部11を形成した

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リードカム軸の回転によって、リードカムを移動案内して、このリードカムに連結の苗タンクを、苗植爪の作動位置に対して左右横方向へ移動させる苗植機において、このリードカム軸の外周部を被覆するグリスブーツを設けた苗タンク移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リードカム軸の回転によって、このリードカム軸に嵌合するリードカムを軸方向に往復移動させて、苗タンクを一枚のマット苗幅域にわたって往復移動する技術や、このリードカム軸の左右両側部に防泥用のグリスブーツを設けて被覆する技術(例えば、特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009‐93565号公報(第1頁、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
苗植機の前記苗タンク移動のためのリードカム機構にあっては、リードカム軸の回転に伴ってグリスブーツが常に捻り作用を受けて、疲労、損傷を受け易いものである。又、このグリスブーツの剛性が低下すると、このグリスブーツ内の潤滑油や、グリス等の付着によって、一部分が垂れ下がり易くなって、このリードカム軸とリードカムメタルとの嵌合間隙部に挟み込まれ易くなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、圃場に植え付ける苗を積載する左右往復移動自在な植付部(1)を設け、該植付部(1)の機体前側に植付部(1)を左右往復移動させる摺動部材(2)を設け、該摺動部材(2)が摺動する螺子軸(3)を摺動部材(2)に勘合させて設けた苗移植機において、前記摺動部材(2)の左右両側に前記螺子軸(3)の外周を覆う左右の被覆部材(5,5)を設け、該被覆部材(5,5)と螺子軸(3)との間に所定間隔の空間部(4)を形成し、前記螺子軸(3)を回転自在に軸受けする軸受部(7,8)を設け、該軸受部(7,8)と被覆部材(5,5)の左右両側の被覆端部(6,6)との連結部に軸方向の凹部(9)と凸部(10)をそれぞれ形成し、該凹部(9)と凸部(10)とを嵌め合わせて回り止め部(11)を形成したことを特徴とする苗移植機の構成とした。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記摺動部材(2)の左右両側部に連結する被覆部材(5)の被覆端部(6)に前記左右の空間部(4)間を連結する連結管(12)を設け、該連結管(12)で連結する連結口(13)を上部に形成したことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記被覆部材(5)のうち、摺動部材(2)の近くに位置する蛇腹部(14)間の谷部(15)を円弧状断面の弧状(16)に形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の苗移植機とした。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記被覆部材(5)の蛇腹部(14)を、軸方向へ螺旋状に変位させて螺旋蛇腹(17)に形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記被覆部材(5)全体または一部を透明あるいは半透明として透視部(18)を形成し、該透視部(18)に内装する潤滑剤を視認可能に構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、螺子軸3回りを被覆する被覆部材5の拡縮作用においては、空間部4に内装する潤滑油、又はグリス等の付回りによる回動力や、流動力等を受けて、被覆部材5が付回されようとしても、被覆部材5の両端部6は、回り止め部11の凹部9、凸部10による相互の噛み合わせによって、螺子軸3の軸受部7,8に対して回り止め固定されているため、被覆部材5を安定した姿勢で伸縮させ、被覆部材5の強制的変形を少なくして、耐久性を高めることができるので、被覆部材5が損傷しにくく、空間部4内の拡縮による円滑な潤滑動作や伸縮動作が維持されて作業能率が向上する
また、外部からの空気の進入や泥水の吸入による潤滑剤の排出を防止できるので、圃場に潤滑剤が落下することがなく、水や土を汚染することが防止される。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明の効果に加えて、左右の被覆部材5,5の摺動部材2側の連結端部6に連結ニップルとしての連結口13を形成し、この連結口13に連結管12の端部を差込む等によって連結すればよると、これら連結口13と連結管12の連結状態が安定し、潤滑剤の移動が能率よく行なわれる。
【0012】
また、摺動部材2と被覆部材5の連結端部6の連結は、連結口13を外周部に突出させたままの状態で摺動部材2の外周面に差し込むことにより、簡単に安定した状態で取り付けることができるので、メンテナンスの際に簡単に組み付けられるため、メンテナンス性が向上する。
【0013】
そして、連結管12の連結構成を簡潔化することができ、被覆部材5が損傷しにくくなることにより耐久性が向上すると共に、摺動機構の高性能作動を長く保護維持できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、被覆部材5の蛇腹部14間に弧面16を形成することによって、蛇腹部14同士の密着を防止することができる。
【0015】
しかも、弧面16を被覆部材5の摺動部材2の近くに形成することにより、この弧面16部は垂れ下がり難く、回転する螺子軸3の回転周面に対する接近、または接触を防止できるものであるため、この弧面16部が螺子軸3と摺動部材2との噛み合わせの間に噛み込まれなくなり、螺子軸3の回転周面部との間隔を大きく維持することができ、円滑な植付部1の左右往復移動を行わせることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、被覆部材5を被覆する蛇腹部14を螺旋状に形成し、螺旋蛇腹1としたことにより、被覆部材5自体の剛性を高めることができるので、被覆部材5の垂れ下がり長さが小さくなるため、螺子軸3の回転に付き回りする潤滑剤が螺旋蛇腹17によって案内移動されて流動され易くなり、螺子軸3の外周面に形成する溝部に均等に潤滑剤を供給することができる。
【0017】
また、連結管12で左右の被覆部材5,5を連結する場合、空間部4の相互間を連結管12を通じて潤滑剤が流動し易くなるので、内圧の上昇により被覆部材5,5が破裂する等の破損が生じることが防止され、水や土の汚染が防止される。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、被覆部材5の全体または一部を透明あるいは半透明として形成し、透視部18としたことにより、作業者はこの透視部18に内装された潤滑油の状態を視認することができるので、苗植作業中やリードカム作動中等においても、これらの内部に供給されている潤滑剤の供給量の過不足の確認が容易となるので、潤滑剤の不足による摺動部材2と螺子軸3との接触不良や、摩擦熱による焼き付きによる破損が防止される。
【0019】
また、潤滑剤が正常に流れているかどうかを視覚的に確認することができるので、問題がある場合には作業者がすぐに対応することができ、重大な植付部の破損により苗の植付適期を逃すことが防止され、苗の生育が順調となる。
【0020】
加えて、植付予定の苗が無駄になることが防止される。
【0021】
さらに、作業者は潤滑油の時間経過による劣化を視覚的に判断することができるので、劣化した潤滑油を使い続けることにより生じる、摺動部材2と螺子軸3との接触不良や、摩擦熱による焼き付きによる破損が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】苗移植機の側面図
【図2】苗移植機の平面図
【図3】植付部の側面図
【図4】植付部の背面図
【図5】リードカム軸部の平面図
【図6】グリスブーツ部の斜視図
【図7】螺旋蛇腹のグリスブーツを有したリードカム軸部の正面断面図
【図8】グリスブーツの透視部の配置状態を示す正面断面図
【図9】グリスブーツの透視部の配置状態を示す正面断面図
【図10】グリスブーツの透視部の配置状態を示す正面断面図
【図11】グリスブーツの透視部の配置状態を示す正面断面図
【図12】リードカムメタルに油室のグリスを供給可能に構成した状態を示す正面断 面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面に基づいて、前輪23と後輪24を有した四輪乗用走行形態の車体の後側に、平行リンク形態の昇降リンク25を介して昇降可態の苗植装置27を連結して、苗植機を構成する。車体は運転席21を有して、この下部にエンジン22を搭載し、このフロア36前部のステアリングポスト上にはステアリングハンドル20を設けて、前記前輪23を操向できる。
【0024】
前記エンジン22からは、フロア36の下側の油圧無段変速装置41をベルト伝動して、ミッションケース42の入力軸を伝動する。このミッションケース42の伝動装置から前輪23を伝動し、後輪伝動軸43を介してリヤアクスルハウジング44の後輪軸45を伝動する。又、ミッションケース42から後方へわたるPTO軸を設けて、このPTO軸から車体15後部に搭載の施肥装置38を伝動し、前記苗植装置27の入力軸26を伝動する構成としている。
【0025】
前記フロア36の外側には、補助苗載枠37を設け、苗植装置27の植付部1に補給する苗を収容した苗トレイを搭載することができる。又、施肥装置38は、運転席21の後側の肥料ホッパーから繰出す肥料を、施肥ホース39を介してフロート51の作溝器40部に案内させて、この作溝器40によって形成される苗植土壌面の施肥溝に施肥させる。
前記苗植装置27は、多条植形態の植付部1と、この植付部1から繰出す苗を分離保持してフロート51によって均平される土壌面へ植付ける苗植爪29と等から構成される。
【0026】
苗植伝動装置は、苗植伝動ケース30を主体として、この伝動ケース30の前上部に左右横方向にわたるリードカム軸3の両端部を、この伝動ケース30の一部軸受部7とブラケットアームの軸受部8とで軸支して、この苗植伝動ケース30内部の苗植伝動装置の一部から回転伝動する。このリードカム軸3の中央部にリードカムを有したボス状形態のリードカムメタル2を嵌合させて、往復螺旋形態に形成するカム案内溝52に、リードカムメタル2側のカム摺動子55を嵌合させて、このリードカムメタル2を一植付部1の横幅間隔分左右方向へ往復移動するように構成している。
【0027】
前記苗植伝動ケース30の後端部には、苗植爪29を有したロータリ駆動形態の苗植ロータアームを軸装して、苗植伝動装置を介して伝動し、各苗植爪29を側面視楕円形状の植付軌跡線Dに作動させて、この植付軌跡線D行程の上端部では植付部1下端部の苗取口31を通過させて苗の分離保持を行わせ、下端部ではフロート51で均平した土壌面に挿苗して一定深さに植付ける。
前記植付部1は、植付条数に応じた枚数のマット苗を載せて、前記後端下部の苗取口31へ繰出供給するもので、後下り傾斜面に構成して、各マット苗収容幅毎に仕切46を有し、各仕切46間には繰出ベルト28を有する。前記リードカム軸3の回転によるリードカムメタル2、及びこのリードカムメタル2により一体的に横移動される植付部1は、この左右の仕切46間の一マット苗幅分相当の間隔を左側、又は右側へ往復移動する。これによって仕切46間のマット苗の前端縁を苗取口31に対して横方向へ順次移動させながら、苗植爪29を作用させてマット苗を分離しながら植付ける。
【0028】
また、この植付部1が左端、又は右端に移動して折返行程に至ったときは、このリードカム軸3の両端部のクランクアーム48によって、植付部1底部の繰出ベルト28を掛け渡したベルト軸47のワンウエイクラッチ、及び苗送アーム50を係合回動して、各繰出ベルト28を一駒分だけ間歇的に回動させて、マット苗を苗取口31側へ繰出すように構成している。前記各植付部1の後下端部は開放されていて、苗取口31を配置形成した苗取口案内レール49に沿わせて左右移動させる。この苗取口案内レール49は前記苗植伝動ケース30等の苗植装置本体側に固定している。
【0029】
植付部1に供給されたマット苗は、後下端縁部をこの苗取口案内レール49に摺接させて横方向へ往復移動しながら、苗取口31部を下降する苗植爪29によって分離植付させるものである。各苗取口31の下側には植付ガイド53を設けて、苗植爪29によって保持して植付される苗を案内する。
前記後輪24と苗植装置27のフロート51との間には、土壌面を掻き均す代掻ロータ54を配置して、各フロート51による均平性を高める。この代掻ロータ54は、前記苗植伝動ケース30の前側に構成する植付部1支持フレーム34の前側に沿って、代掻フレーム35を、上下方向のリンク機構を介して上下動自在に設け、この代掻フレーム35をレバー操作により上下動することができ、この代掻ロータ54の代掻位置を土壌面の深さに応じて変更することができる。
【0030】
各代掻ロータ54はフロート51の位置に応じて前後に配置位置を異にするが、前記後輪軸45を軸装するリヤアクスルハウジング44の一部から連動軸32を介して、この代掻ロータ54のロータ軸を伝動するように構成している。49は前側の代掻ロータ54を吊下げているバランススプリングである。
ここで、この植付部1の移動装置は、前記植付部1と一体的に設けるリードカムメタル2を嵌合して植付部1の幅の方向へ往復移動案内するリードカム軸3の外周部に、このリードカムメタル2の両端部と、リードカム軸3の両端部を軸受けする軸受部7、8との間を覆う左右一対のグリスブーツ5を設け、前記リードカムメタル2には、左右各グリスブーツ5内のブーツ室4相互間を連通する連通管12を設け、前記左右の各グリスブーツ5の両端部6と、これに対向するリードカムメタル2、及び各軸受部7、8との間には、リードカム軸3方向へ凹凸形成の凹部9と、凸部10とを係合させてグリスブーツ5を回止め係合する回止係合部11を設けたものである。
苗植作用時に、リードカム軸3が回転されると、このリードカム軸3に嵌合されているリードカムメタル2が軸方向に沿って往復移動されて、このリードカムメタル2に連結の植付部1をタンク幅方向へ往復移動して、この植付部1前端縁の苗分離部を、定位置で作動の苗植付爪に対して繰出供給して苗植作動を行わせる。このようなリードカム2の左右往復移動において、このリードカムメタル2の左右両側部に配置のグリスブーツ5が伸縮されて、リードカム軸3の外周部の左右のブーツ室4が交互に拡縮される。リードカムメタル2がリードカム軸3に対して左側へ移動するときは、左側のブーツ室4が縮少されて、右側のブーツ室4が拡張され、又、リードカムメタル2が右側へ移動するときは、これとは逆に右側のブーツ室4が縮少されて、左側のブーツ室4が拡張される。
【0031】
このようなグリスブーツ5の拡縮作用においては、ブーツ室4内部の潤滑油、又はグリス等の付回りによる回動力や、流動力等を受けて、グリスブーツ5が付回されようとしても、グリスブーツ5の両端部6は、回止係合部11の凹部9、凸部10による相互係合によって、リードカム軸3の軸受部7、8に対して回止固定されているため、グリスブーツ5を安定した姿勢で拡縮作動させ、グリスブーツ5の強制的変形を少なくして、耐久性を高めることができる。
又、前記リードカムメタル2の左右両側部に連結するグリスブーツ5の連結端部6に、前記左右のブーツ室4間を連通するための連通管12を連結する連結口13を形成する。
このような左、右のブーツ室4の拡縮において、相互間を連通管12で連通する形態にあっては、このブーツ室4の連通部間を、空気圧力差に従って高圧側から低圧側へ潤滑油の一部を空気圧と共に流入して、グリスブーツ5の拡縮作動の抵抗とならず、円滑な拡縮を行わせ、また、外部からの泥水の吸入を阻止して、このリードカム軸3におけるリードカムメタル2部等との摺動摩擦部に潤滑油面を形成して、円滑な植付部1の移動を行わせる。
【0032】
また、前記連通管12を介して左右のブーツ室4間の潤滑油を循環させることによって潤滑性を高めることができ、グリスブーツ5の径を小さくしてコンパクトな形態とすることができる。
【0033】
そして、前記のように左右のグリスブーツ5のリードカムメタル2に対する連結端部6に、連結ニップルとしての連通口13を形成して、この連通口13に連通管12の端部を差込む等によって連結すればよく、これら連通口13と、連通管12の連結状態を安定させる。又、リードカムメタル2に対するグリスブーツ5の連結端部6の連結は、連通口13を外周部に突出させたままの状態で、リードカムメタル2の外周面に差込み嵌合させることによって、簡単に安定した状態に取付連結することができる。又、連通管12の連結構成を簡潔化することができる。
また、前記グリスブーツ5のリードカムメタル2側近傍に位置する蛇腹状折重合面14間の谷部15を、円弧状断面の弧状谷面16に形成する。この弧状谷面16の内径Aを、この外側域の谷部15の内径Bや、筒縁部57の外径よりも大きく形成して、この弧状谷面16内径部と、これに対向するリードカム軸3の外周面との間隔をできるだけ大きく維持形成する。
前記潤滑給油や、グリス等は、左右両側のブーツ室4の拡縮によって連通管12を介して、左右に移動しながらリードカムメタル2部の摺動面を潤滑して、植付部1の円滑な左右往復移動を維持する。このグリスブーツ5の拡縮作動中において、例えば、グリスブーツ5の拡縮作動自体による疲労により、又は、潤滑グリスが付着したり、ブーツ室4内部の温度が異常に上昇したり、或は連通管12が詰る等の事由が発生することによって、グリスブーツ5が垂れ下り易くなっても、このグリスブーツ5の折重合面14間に弧状谷面16を形成することによって、折重合面14間相互の密着を防止し、このグリスブーツ5のリードカムメタル2側近傍部における折重合面14の谷部15には、弧状谷面16が形成されているために、この弧状谷面16部は垂れ下がり難く、回転するリードカム軸3の回転周面に対する接近、乃至接触を防止し、この弧状谷面16部がリードカム軸3とリードカムメタル2との嵌合間隙部に噛み込まれる虞れをなくし、リードカム軸3の回転周面部との間の間隔を大きく維持して、円滑な植付部1の左右往復移動作用を行わせる。
又、前記グリスブーツ5の蛇腹状折重合面14を、軸方向へ螺旋状に変位させて螺旋蛇腹17に形成する。この螺旋蛇腹17の螺旋傾斜方向は左右のグリスブーツ5共に同じ方向に向かう同一形態(図7参照)に設定するもよく、又、左右対称状の形態に設定することもできる。
【0034】
前記グリスブーツ5は、折重合面14を螺旋蛇腹17の形態に形成しているため、前記リードカム軸3の回転に付回りする潤滑グリス等が、この螺旋蛇腹17によって案内移動されて流動され易くなり、リードカム軸3の外周面のリードカム溝部に均等に給油する。又、連通管12を介してブーツ室4相互間を流動し易くなる。
【0035】
更には、前記グリスブーツ5の全体、又は一部を透明、乃至半透明として透視部18を形成して、この内部の潤滑油の状態を透視可能に構成する。
前記左右のブーツ室4の内部に供給されている潤滑油や、潤滑グリス等の供給量、又は、これら潤滑油の流れや、詰り等の状態を、このグリスブーツ5の透視部18から透視して、簡単に確認することができ、必要に応じて直ちに対処することができる。
【0036】
これらグリスブーツ5の透明、乃至半透明の透視部18の領域は、左右両グリスブーツ5全長域を透明、又は半透明のブーツ部材によって成形することはもとより、左右何れか一側のグリスブーツ5のみ全体を透明、又は半透明の透視部18として、これと反対側のグリスブーツ5全体を黒色ゴム材等の不透明材から成形して不透視域Cとすることができる(図8参照)。
【0037】
また、左右の各グリスブーツ5共に、内側半分を透明、乃至半透明の透視部18域として成形し、外側半分を不透視域Cとする形態とすることもできる(図9参照)。又、グリスブーツ5の前記連通口13を成形する部分のブーツ端部6の端部領域のみに透視部18を成形し、この端部領域を除く他の部分を不透視域Cとして成形することもできる(図10参照)。更には、グリスブーツ5の内端側のブーツ端部6に、前記連通口13と連通する油溜室61を一体成形等により構成し、この油溜室61のみを透明、乃至半透明材で成形の透視部18として構成することもできる(図11参照)。
【0038】
前記苗タンク移動装置は、植付部1と一体的に設けるリードカムメタル2を嵌合してタンク幅の方向へ沿って往復移動するリードカム軸3の外周部に、このリードカム軸3に嵌合案内されるリードカムメタル2と、このリードカム軸3の両端部との間にわたって各々覆う左右一対の蛇腹状のグリスブーツ5を設け、これら左右一対のグリスブーツ5内のブーツ室4相互間を通気自在に連通する連通管12を設ける。
【0039】
苗植作用時に、リードカム軸3が回転されると、このリードカム軸3に嵌合されているリードカムメタル2が軸方向に沿って往復移動されて、このリードカムメタル2に係合、乃至連結の植付部1をタンク幅方向へ往復移動して、この植付部1前端縁の苗分離部を、定位置苗取口31部で作動の苗植爪29に対して繰出供給して苗植作動を行わせる。
【0040】
このようなリードカムメタル2の左右往復移動において、このリードカム2の左右両側部に配置のグリスブーツ5が伸縮されて、リードカム軸3の外周部を覆うブーツ室4が拡縮される。リードカムメタル2がリードカム軸3に対して左側へ移動するときは、左側のブーツ室4が縮少されて、右側のブーツ室4が拡張され、又、リードカムメタル2が右側へ移動するときは、これとは逆に右側のブーツ室4が縮少されて、左側のブーツ室4が拡張される。
【0041】
このような左、右のブーツ室4の拡縮において、相互間を通気自在に連通しているため、このブーツ室4の連通部間を、空気圧力に従って高圧側から低圧側へ流入して、グリスブーツ5の拡縮作動の抵抗とならず、円滑な拡縮を行わせ、又、外部からの泥水の吸入を阻止して、このリードカム軸3におけるリードカムメタル2部等との摺動摩擦部に潤滑油面を形成して、円滑な植付部1の移動を行わせる。
【0042】
前記リードカムメタル2には前記カム摺動子55の横側に給油することができる油室56を設けて、この油室56からカム摺動子55や、リードカム軸3との間の摺動部へ注油できる構成としている。又、このリードカムメタル2の左右両端部には、前記グリスブーツ5のブーツ端部6を外周面に前後から嵌合させる筒縁部57を形成して、この奥側にクリップリング溝58を形成している。そしてグリスブーツ5端部6の内周部に形成のクリップリング59をこのクリップリング溝58に係合させる。
【0043】
そして、この筒縁部57の外周部には軸方向に沿う凹部9を形成し、前記ブーツハシブ6の内周部に形成の凸部10をスプライン嵌合状の形態に係合させて回り止めするように回止係合部11を構成している。
【0044】
また、前記各グリスブーツ5の外側端部には凸部10を形成し、これと対向する苗植伝動ケース30の軸受部7、およびブラケットアームの軸受部8等の外側端には凹部9を形成して、ドッグクラッチの形態に係合させる回止係合部11を形成している。
【0045】
このような筒縁部57の一部にリードカム軸3の外周面に開口する通油穴60を形成して、この筒縁部57の外周部に嵌合させるブーツ端部6の連通口13と重合させて連通することができる。
【0046】
この連通口13はブーツ端部6の外周部にニップル形態に突出して一体的成形している。前記連通管12の両端部はこの連通口13の内周部、又は外周部に差込み嵌合して連通させる。
【0047】
また、図12に示すように、リードカムメタル2と油室56との間を塞いでいる壁板62に孔部62aを形成し、油室56内のグリスがリードカムメタル2に移動可能に構成しても良い。
【0048】
上記構成により、リードカム軸3だけでなくリードカムメタル2も常時グリスに浸漬されるため、摺動時の摩擦熱でリードカムメタル2とリードカム軸3とが焼き付いて離れなくなることを防止でき、耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0049】
1 苗タンク
2 リードカムメタル
3 リードカム軸
4 ブーツ室
5 グリスブーツ
6 ブーツ端部
7 軸受部
8 軸受部
9 凹部
10 凸部
11 回止係合部
12 連通管
13 連通口
14 折重合面
15 谷部
16 弧状谷面
17 螺旋蛇腹
18 透視部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に植え付ける苗を積載する左右往復移動自在な植付部(1)を設け、該植付部(1)の機体前側に植付部(1)を左右往復移動させる摺動部材(2)を設け、該摺動部材(2)が摺動する螺子軸(3)を摺動部材(2)に勘合させて設けた苗移植機において、
前記摺動部材(2)の左右両側に前記螺子軸(3)の外周を覆う左右の被覆部材(5,5)を設け、該被覆部材(5,5)と螺子軸(3)との間に所定間隔の空間部(4)を形成し、前記螺子軸(3)を回転自在に軸受けする軸受部(7,8)を設け、該軸受部(7,8)と被覆部材(5,5)の左右両側の被覆端部(6,6)との連結部に軸方向の凹部(9)と凸部(10)をそれぞれ形成し、該凹部(9)と凸部(10)とを嵌め合わせて回り止め部(11)を形成したことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記摺動部材(2)の左右両側部に連結する被覆部材(5)の被覆端部(6)に前記左右の空間部(4)間を連結する連結管(12)を設け、該連結管(12)で連結する連結口(13)を上部に形成したことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記被覆部材(5)のうち、摺動部材(2)の近くに位置する蛇腹部(14)間の谷部(15)を円弧状断面の弧状(16)に形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記被覆部材(5)の蛇腹部(14)を、軸方向へ螺旋状に変位させて螺旋蛇腹(17)に形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項5】
前記被覆部材(5)全体または一部を透明あるいは半透明として透視部(18)を形成し、該透視部(18)に内装する潤滑剤を視認可能に構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の苗移植機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−250713(P2011−250713A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125213(P2010−125213)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】