説明

苗移植機

【課題】苗量減少警報が発報された際に、植付け走行の停止を要することなく、苗タンクの後端部の供給苗の状況把握を可能とする苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機は、圃場走行用の乗用走行車体(2)と移植部(4)とからなり、この移植部(4)は、複数条の苗タンク(51)と、植付装置(52)と、各苗タンク(51)の苗補充をそれぞれ検知する苗量減少検知部材(71)と、その報知部材とを設けて構成され、上記苗タンク(51)の後端側の積載苗の供給状態を感知して報知部材に反映する状態感知部材(73)と、この状態感知部材(73)を各苗タンク(51)について感知しうる位置に移動可能に支持する可動支持機構(74)と、この可動支持機構(74)の移動制御により苗量減少検知部材(71)の検知信号と対応する苗タンク位置に状態感知部材(73)を所定の保持時間について移動する移動制御部とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場走行可能な乗用型走行車体の後部に、圃場に苗を植え付ける移植部を昇降可能に設けた苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1または特許文献2に示すように、圃場走行可能な乗用型走行車体の後部に昇降可能に移植部を設けた苗移植機が知られている。移植部は植付け条別に苗マットを搭載してそれぞれの後端部まで苗を順送りに供給する苗タンクと、この苗タンクの後端部から取出した苗を圃場に植付ける植付装置とから構成され、移植部を圃場面まで下降して植付け走行を行い、また、移植部を非作業位置まで上昇して機体旋回や移動走行を行う。
【0003】
植付け走行の際は、機体後部の苗タンクの苗の残量、機体後方の植付状況をチェックしながら植付予定の条線に沿ってオペレータが機体を操縦する。苗タンクの供給苗の残りが減ってきたときは、植付け走行を停止して予備台からマット苗を苗タンクに補充する必要があるので、苗減少警報によってオペレータに知らせるために各植付条について苗タンクに残量センサを備える。この残量センサと苗減少警報とにより、欠株を招くことなく植付けを進めることができる。
【0004】
また、苗タンクの残量センサは、供給苗の減少に限らず、マット苗の捲れ上がり、マット苗のちぎれ、検知部の故障等の苗供給異常まで、幅広く検出することから、苗減少警報によってそれぞれの状況に対応することができる。すなわち、苗の減少であれば苗補充の準備、マット苗の捲れ上がりやちぎれ等の供給異常の場合は、機体から下りてマット苗の姿勢を直したり、間隔を詰める等の対応操作をすることにより、欠株を招くことなく植付けを進めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−232809号公報
【特許文献2】特開2008−092881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、苗タンク後端部の苗状況を見極めるためには、植付け走行を停止して操縦席から立ち上がり、オペレ―タの目視判断によらざるを得ないことから、単なる苗補充の場合の苗減少警報であっても、供給異常でないことの確認を要することから、警報の都度、植付け走行を停止せざるをえず、作業能率の低下を招くという問題があった。
そのほか、移植部の後端下部に配置された植付装置は、苗移植機の後進走行の際に非作業位置まで上昇させた移植部が操縦席からの視界を妨げて格納時に壁などの障害物との干渉を招くという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、苗量減少警報が発信された際に、植付け走行の停止を要することなく、苗タンクの後端部の供給苗の状況把握を可能とする苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、圃場走行用の乗用走行車体(2)と、該乗用走行車体(2)の後部に昇降支持されて複数条の苗を移植する移植部(4)とからなり、該移植部(4)は、複数条の並列配置構成でそれぞれ積載苗を後端側に順送り供給する苗タンク(51)と、該苗タンク(51)の各々の後端からそれぞれ苗を取って圃場に植え付ける植付装置(52)と、前記苗タンク(51)の積載苗が一定量未満に減少したことをそれぞれ検知する苗量減少検知部材(71)と、該苗量減少検知部材(71)の検知信号に応じて作業者に報知する報知部材を設けた苗移植機において、前記苗タンク(51)の後端部側で積載苗の供給状態を感知して報知部材に反映する状態感知部材(73)と、該状態感知部材(73)を支持すると共に各苗タンク(51)について感知しうる位置に移動する可動支持機構(74)と、該可動支持機構(74)の移動制御により苗量減少検知部材(71)の検知信号と対応する苗タンク位置に前記状態感知部材(73)を所定の保持時間に亘って位置させる移動制御部を備えることを特徴とする苗移植機とした。
【0009】
上記苗移植機は、苗量減少検知部材の検知信号を受けると、移動制御部が可動支持機構に沿って苗量減少検知部材の検知信号に対応する苗タンク位置に状態感知部材を移動させ、この状態感知部材は苗タンクの後端部側の積載苗の供給状態を感知し、所定の保持時間に亘って報知部材を作動させることにより、苗タンクに積載された苗が使い切られる、苗が苗タンクからはみ出す等の異常を作業者に知らせる。。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記状態感知部材(73)は、苗の植付後の状態を感知する方向である植付装置後方方向(D3)から苗タンク(51)の苗供給状態を感知する苗タンク後端方向(D1)に感知方向を切替え可能に構成し、苗量減少検知部材(71)の検知信号に対応する苗タンク位置で且つ苗タンク(51)の後端方向(D1)に移動制御部と対応して所定の保持時間に亘って維持する方向制御部を備えることを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
上記の苗量減少検知部材が苗の減少を検知すると、状態感知部材が植付苗の方向から所定時間に亘って苗タンク側を向く構成としたことにより、一つの状態感知部材で苗の植付後の状態と苗の載置状態を確認できる。
また、所定時間経過すると状態感知部材は機体後方に回動して苗の植付後の状態を検知するので、作業者の操作が複雑化することを防止できる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記可動支持機構(74)は、両側端の植付装置(52)に取付けた左右の支柱(81,81)と、該左右の支柱(81,81)間で状態感知部材(73)を移動可能に支持する周回チェーン機構(82)と、該周回チェーン機構(82)の左右いずれか一側端部で連結駆動する駆動アクチュエータ(82a)とから構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の苗移植機とした。
上記両側端の植付装置に可動支持機構の左右の支柱を設けたことにより、苗タンクの下部や圃場面に状態感知部材を近付けて感知できるので、感知結果がより正確になるので、作業者が正常な作業状態か否かを確認しやすくなる。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記移動制御部は、前記状態感知部材(73)の移動位置を定める目標位置設定部材(83)を非作用状態から作用状態に切替え可能に構成し、該目標位置設定部材(83)を各苗タンク(51)の状態を感知する位置(P1,P2,P3)に配置すると共に、前記苗量減少検知部材(71)の検知信号と対応する苗タンク(51)を作用状態に切替え制御する構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の苗移植機とした。
上記目標位置設定部材は、状態感知部材の感知が必要な位置のものが有効化され、この目標位置設定部材に従って状態感知部材の移動位置が定められるので、無関係な位置で状態感知部材が停止してしまうことが防止される。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記移動制御部および方向制御部は、所定の保持時間が終了すると、該所定の保持時間に発信された別の苗量減少検知部材(71)の最初の検知信号と対応して所定の保持時間に亘って位置及び方向を維持する構成としたことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
上記複数の苗量減少検知部材が連続して検知されると、苗量減少検知部材が検知した順に所定時間ずつ苗状態が感知できるので、複数個所で苗切れが生じたり、複数個所の苗が苗タンクから落ちかけていても、異常を作業者に確実に知らせることができる。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記状態感知部材(73)は、所定の視角範囲の画像として報知部材に反映する撮像装置で構成したことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の苗移植機とした。
上記状態感知部材を撮影装置としたことにより、作業者は苗の植付後の状態や載置された苗の状態を視覚的に感知することができる。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記移動制御部および方向制御部は、乗用走行車体(2)の後進走行と対応して、状態感知部材(73)の移動位置を車幅中央位置(P2)、感知方向を植付装置(52)の後端部の方向とする植付装置後端部方向(D2)に切替えることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
上記機体を後進に操作すると感知部材が植付装置の後部側を向くと共に、植付装置の左右方向中央部に移動することにより、作業者は後方を向くことなく機体後方の状況を視認することができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明により、苗量減少検知部材の検知信号に対応して移動制御部が可動支持機構に沿って対応する苗タンク位置に状態感知部材を移動させることにより、この状態感知部材が苗タンクの後端側の積載苗の供給状態を感知して、所定の保持時間に亘って報知部材を作動させる構成となる。
したがって、作業者は、操縦位置から動いて機体後部の状態を確認する必要が無くなり、多条の移植部の苗タンクの中の関係する苗タンクの積載苗の供給状態を単一の状態感知部材と報知部材によって個別に確認することができるので、機体の操縦に集中でき、作業能率が向上すると共に苗の植付精度が向上する。
また、通常の苗の減少以外、例えばマット苗の捲れ上がり、マット苗のちぎれ、苗量減少検知スイッチの故障等についても報知部材により操縦席で確認することができるので、作業者は苗量減少検知部材が検知する度に移植部を確認しに移動する必要が無く、作業能率が向上する。
【0017】
請求項2の発明により、請求項1記載の発明の効果に加え、苗量減少検知部材が苗の減少を検知すると、状態感知部材が植付苗の方向から所定時間に亘って苗タンク側を向く構成としたことにより、一つの状態感知部材で苗の植付後の状態と苗タンク上の苗の載置状態を確認できるので、部品点数が削減される。
また、所定時間が経過すると、状態感知部材は機体後方に回動して苗の植付後の状態を検知するので、作業者の操作手順が煩雑になることが防止でき、操作性が向上する。
【0018】
請求項3の発明により、請求項1または2記載の発明の効果に加え、植付装置に可動支持機構の支柱を設けたことにより、苗タンクの下部や圃場面に状態感知部材を近付けることができるので、苗状態の検知精度が向上し、感知結果がより正確になるため、作業者が正常な作業状態かどうかを的確に判断できる。
【0019】
請求項4の発明により、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加え、状態感知部材の感知が必要な箇所の目標位置設定部材が限定して有効化され、この目標位置設定部材に沿って状態感知部材の移動位置が定められることにより、状態感知部材を必要な位置に確実に移動させることができるので、状態感知部材が無関係な箇所で停止することが無くなり検知位置を誤ることが防止されるため、苗タンクに積載した苗の異常を速やかに直すことができ、苗の植付精度が向上すると共に、無駄に苗が消費されることが防止される。
【0020】
請求項5の発明により、請求項2から4のいずれか1項に記載の発明の効果に加え、複数の苗量減少検知部材が連続して検知されると、検知された順に所定時間ずつ苗状態を感知する構成としたことにより、複数個所の苗の状態を連続して感知することができるので、それぞれ条の苗の状態を的確に把握することができ、植付精度が向上すると共に、無駄になる苗が減少する。
【0021】
請求項6の発明により、請求項1から5のいずれか1項に記載の発明の効果に加え、状態感知部材を撮影装置としたことにより、作業者は苗の植付後の状態や載置された苗の状態を視覚的に判別することができるので、苗の異常を速やかに修正することができ、苗の植付精度が向上する。
【0022】
請求項7の発明により、請求項2から6のいずれか1項に記載の発明の効果に加え、機体を後進に操作すると感知部材が植付装置の後部側を向くと共に、移植部の左右方向中央部に移動することにより、作業者は機体を後進させながら後方における進行前端部の植付装置の周囲を見ることができるので、機体の後端部に位置する植付装置が壁や圃場端に接触して破損することが防止されるため、機体の耐久性が向上する。
また、機体の後方が視覚的に判断できることにより、機体を軽トラック等の輸送機器に積み込む際の作業が容易且つ迅速に行えるため、作業能率が向上すると共に、後方を度々振り返りながら作業をする必要がなくなるため、作業者の労力が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】田植機の側面図
【図2】田植機の平面図
【図3】移植部の背面視図
【図4】移植部の要部側面図
【図5】バックモニタ装置の拡大図
【図6】バックモニタ装置の側面図
【図7】苗タンクウィンカの制御フローチャート
【図8】機体後部の要部側面図
【図9】線引マーカの拡大平面図
【図10】線引マーカの昇降ケーブル連結部の拡大図
【図11】防波板の要部平面図
【図12】バックモニタ装置のブロック図
【図13】バックモニタ装置の制御フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1及び図2は本発明の適用対象となる乗用型苗移植機の構成例である6条型の田植機の側面図と平面図である。この田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して移植部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。田植機の搭乗オペレータを基準に、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後といい、前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右という。
【0025】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0026】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHSTを介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって移植部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構によって施肥装置5へ伝動される。
【0027】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0028】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に移植部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として移植部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、移植部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0029】
移植部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口51a、…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a、…に供給すると苗送りベルト51b、…により苗を下方に移送する苗タンク51、苗取出口51a、…に供給された苗を周回動作によって圃場に植付ける植込杆52aを備える植付装置52、…、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ92等を備えている。移植部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。
【0030】
これらフロート55,56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に植付装置52、…により苗が植付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角制御センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて移植部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0031】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61、…によって一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62、…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)、…まで導き、施肥ガイド、…の前側に設けた作溝体(図示せず)、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62、…に吹き込まれ、施肥ホース62、…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0032】
移植部4には整地装置の一例であるロータ(第1ロータ27aと第2ロータ27bの組み合わせを単にロータということがある)が取り付けられている。また、苗タンク51は移植部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65の支持ローラ65aをレールとして左右方向にスライドする構成である。
【0033】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく複数段の棚板38a,38b,38cを備える一対の予備苗タンク38,38を設ける。これら両予備苗タンク38,38は縦軸線について軸支し、機体よりも側方に張り出す作業位置と外側方への飛び出しを抑えた収納位置とに回動可能に設けられている。
【0034】
また、移植部4には、苗タンク51の後端部近傍で積載苗残量の不足を検知する苗量減少検知部材71を植付条毎に備え、報知装置を介して苗補充警報を発報するように構成するとともに、苗タンク51の後端部から植付装置52の後方の苗の植付後に及ぶ状態を報知手段に反映するためのバックモニタ装置72を設ける。
【0035】
(バックモニタ)
バックモニタ装置72は、移植部4の背面視図および要部側面図をそれぞれ図3、図4に示すように、苗タンク51の後方で植込杆52aの上方位置から苗タンク51の後端側の積載苗の供給状態を感知して報知部材に反映するCCDカメラ等の状態感知部材73と、この状態感知部材73を機体幅方向に移動制御する可動支持機構74と、状態感知部材73の感知方向角を回動制御する回動支持機構75を備えて制御システム(図12参照)を構成し、制御部Cによって状況対応の制御(図13参照)を行う。
【0036】
状態感知部材73は、所定の視角範囲の画像として報知部材に反映する撮像装置により構成することにより、作業者は苗の植付後の状態や載置された苗の状態を視覚的に判別することができるので、苗の異常を速やかに修正することができ、苗の植付精度が向上する。
【0037】
可動支持機構74は、バックモニタ装置72の拡大図をおよびその側面図を図5、図6にそれぞれ示すように、両側端の植付装置52,52の伝動ケース50,50に取付けた支柱81,81と、これら両支柱81,81間に状態感知部材73を機体幅方向の必要範囲Aを横移動可能に支持するカバー付きの周回チェーン機構82と、この周回チェーン機構82の片側端のスプロケットを連結駆動する電動式のアクチュエータ82aとから構成する。アクチュエータ82aは機体の左右バランスのために、施肥装置5のブロア58と反対側に配置する。
【0038】
このように構成した可動支持機構74は、植付装置52,52に可動支持機構74の支柱81,81を設けたことにより、苗タンク51の下部や圃場面に状態感知部材73を近付けることができるので、苗の供給状態の検知精度が向上し、作業者が正常な作業状態かどうかを的確に判断することが可能となる。
【0039】
移動制御は、周回チェーン機構82によって移動する状態感知部材73の位置を検出する近接センサ83を所定の停止ポジションP1〜P3に配置する。各ポジションP1〜P3は、状態感知部材73の感知精度を確保しうる距離と感知範囲を基準に、例えば、2条分の苗タンク51,51を単位として側端から順に2条分単位で分け、それぞれの中央位置に設定する。
【0040】
回動支持機構75は、機体幅方向の軸線について状態感知部材73を軸支し、苗タンク51の後端部から植付装置52の後方までの範囲で回動角をポテンショメータによって制御可能に構成する。回動角の制御位置は、タンク後端部方向D1、植付装置後端部方向D2、後方圃場面方向D3を設定する。すなわち、タンク後端部方向D1は、苗タンク51の後端部を臨んで苗供給状態を感知する方向であり、植付装置後端部方向D2は、機体を後退する際の最先端位置となる植付装置52と地上側との間隔を感知する方向であり、後方圃場面方向D3は、後方圃場面における苗株の移植状況を感知する方向であり、それぞれ状態感知部材73の焦点距離を対応して設定する。
【0041】
植付作業における可動支持機構74および回動支持機構75による状態感知部材73の位置方向切換制御は、機体中央位置P2で後方圃場面方向D3を初期状態とすることにより、報知手段に反映された植付状況を操縦部で確認しながら、植付作業走行を継続することができる。
【0042】
植付作業において苗量減少検知部材71が検知信号を発した場合は、その検知信号と対応する苗タンク位置P1〜P3に可動支持機構74が状態感知部材73を所定の保持時間(例えば、3秒間)を確保して移動制御するとともに、回動支持機構75がタンク後端部方向D1に方向とフォーカスを合わせることにより、その苗タンク51の苗供給状態が報知手段に反映される。
【0043】
このように、苗量減少検知部材71が苗の減少を検知すると、状態感知部材73が植付苗の方向から所定時間に限り苗タンク側を向く構成としたことにより、一つの状態感知部材73で苗の植付後の状態と苗の載置状態を確認できるので、部品点数が削減される。
また、所定時間経過すると状態感知部材73は後方圃場面方向D3に回動して苗の植付後の状態を検知するので、作業者の操作手順が煩雑になることが防止でき、操作性が向上する。
【0044】
したがって、作業者は、後方確認動作を要することなく、多条の移植部4の苗タンクの中の関係する苗タンクの積載苗の供給状態を単一の状態感知部材と報知部材を介して個別に確認できるので、機体の操縦に集中でき、作業能率が向上すると共に苗の植付精度が向上する。
また、通常の苗の減少以外(マット苗の捲れ上がり、マット苗のちぎれ、苗量減少検知スイッチの故障等)についても報知部材により操縦席で確認することができるので、作業者は苗量減少検知部材71が検知する度に苗タンク51を確認しに移動する必要が無く、作業能率が向上する。
【0045】
この場合において、移動制御部および方向制御部は、所定の保持時間の終了後に、その間の別の苗量減少検知部材71の最初の検知信号と対応して所定の保持時間について位置決めおよび方向切換を行うことにより、別の苗タンク51の苗量減少検知部材71が重複して検知信号を発した時においても、検知された順に所定時間ずつ苗状態を感知できるので、複数の苗量減少検知部材71が連続して検知された際のそれぞれの苗の状態を的確に把握することができる。
【0046】
また、移動制御部は、状態感知部材73の移動位置を定めるための目標位置設定部材83を非作用状態から作用状態に、例えば、ソレノイドで切替え可能に構成し、この目標位置設定部材83を各苗タンク51の状態を感知するための位置P1,P2,P3に配置した上で、苗量減少検知部材71の検知信号と対応する苗タンク51について作用状態に切替え制御することにより、必要な目標位置設定部材83が有効化され、この目標位置設定部材83に沿って状態感知部材73の移動位置が定められることから、状態感知部材73は必要な位置に確実に移動するため、検知位置を誤ることが防止され、苗タンクに積載した苗の異常を速やかに直すことができ、苗の植付精度が向上する。
【0047】
また、移動制御部および方向制御部は、機体の後進走行と対応して、状態感知部材73の移動位置を左右方向の中央位置P2、状態感知部材73の感知方向を植付装置52の後部側に切替えることにより、機体を後進に操作すると感知部材73が植付装置52の後部側を向くと共に、移植部の左右方向中央部に移動することから、作業者は機体を後進させながら後方における進行前端部の植付装置52の周囲を見ることができるので、機体格納等に際して機体の後端部に位置する植付装置52が壁や圃場端に接触して破損することが防止される。
【0048】
(苗タンクウィンカ)
両外側の苗タンク51,51には、前掲の図2に示すように、外側端に苗タンクウィンカ91,91を設けるとともに、畦クラッチの復帰忘れを補助者に知らせるために、畦クラッチ操作と連動して点灯するように制御する。例えば、苗タンクウィンカ91,91の制御フローチャートを図7に示すように、畦クラッチを操作した場合について、左2条停止する制御処理のステップ1a(以下において、「S1a」の如く略記する。)に続いて苗タンク左側ウィンカを点灯し(S2a)、また、右2条停止する(S1b)と、苗タンク右側ウィンカを点灯する(S2b)。
【0049】
(線引マーカ)
線引マーカ92は、機体後部の要部側面図および線引マーカ92の拡大平面図を図8、図9にそれぞれ示すように、左右それぞれの昇降ケーブル93と連結する油圧シリンダ94のケースアウタ受部94aと油圧シリンダアウタ受部94bと連結するとともに、線引マーカ92の軸支部95と連結して構成される。
【0050】
畦際作業の際に線引マーカ92に過負荷が作用すると、ケースアウタ受部94aと油圧シリンダアウタ受部94bの変形を招くことから、その防止のために、線引マーカ92の昇降ケーブル93の連結部の拡大図を図10に示すように、線引マーカ92の軸支部95と連結する取付ピン部93aをばね材によって構成する。
【0051】
この取付ピン部93aは、線引マーカ92を畦際に引っ掛けて設定以上の負荷が加わると取付ピン部93aが伸びることから、ケースアウタ受部94aと油圧シリンダアウタ受部94bの変形を防止することができる。また、昇降リンク装置3によって移植部4を下げる時にケーブル93が緩み、スプリング96によってケーブル93が下がる構成の線引マーカ92については、ケーブル93に余裕を設けることにより、移植部4の最下げ時にケースアウタ受部94aと油圧シリンダアウタ受部94bの変形を防止することができる。
【0052】
(防波板)
防波板97は、その要部平面図を図11に示すように、連結したワイヤ98で進行方向の角度を変えるように支軸97aに取付けて構成し、苗の未植側の防波板97を外側方に向け、苗の無い側の外方に、一層、水を流すようにして水流による苗の倒れを防止することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 田植機
2 走行車体
3 昇降リンク装置
4 移植部
31 座席
34 ハンドル
50 伝動ケース
51 苗タンク
51a 苗取出口
51b ベルト
52 植付装置
52a 植込杆
71 苗量減少検知部材
72 バックモニタ装置
73 状態感知部材(CCDカメラ)
74 可動支持機構
75 回動支持機構
81 支柱
82 周回チェーン機構
82a アクチュエータ
83 近接センサ
C 制御部
D1 タンク後端部方向
D2 植付装置後端部方向
D3 後方圃場面方向
P1,P2,P3 停止ポジション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場走行用の乗用走行車体(2)と、該乗用走行車体(2)の後部に昇降支持されて複数条の苗を移植する移植部(4)とからなり、該移植部(4)は、複数条の並列配置構成でそれぞれ積載苗を後端側に順送り供給する苗タンク(51)と、該苗タンク(51)の各々の後端からそれぞれ苗を取って圃場に植え付ける植付装置(52)と、前記苗タンク(51)の積載苗が一定量未満に減少したことをそれぞれ検知する苗量減少検知部材(71)と、該苗量減少検知部材(71)の検知信号に応じて作業者に報知する報知部材(72)を設けた苗移植機において、
前記苗タンク(51)の後端部側で積載苗の供給状態を感知して報知部材に反映する状態感知部材(73)と、該状態感知部材(73)を支持すると共に各苗タンク(51)について感知しうる位置に移動する可動支持機構(74)と、該可動支持機構(74)の移動制御により苗量減少検知部材(71)の検知信号と対応する苗タンク位置に前記状態感知部材(73)を所定の保持時間に亘って位置させる移動制御部(C)を備えることを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記状態感知部材(73)は、苗の植付後の状態を感知する方向である植付装置後方方向(D3)から苗タンク(51)の苗供給状態を感知する苗タンク後端方向(D1)に感知方向を切替え可能に構成し、苗量減少検知部材(71)の検知信号に対応する苗タンク位置で且つ苗タンク(51)の後端方向(D1)に移動制御部(C)と対応して所定の保持時間に亘って維持する方向制御部(C)を備えることを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記可動支持機構(74)は、両側端の植付装置(52)に取付けた左右の支柱(81,81)と、該左右の支柱(81,81)間で状態感知部材(73)を移動可能に支持する周回チェーン機構(82)と、該周回チェーン機構(82)の左右いずれか一側端部で連結駆動する駆動アクチュエータ(82a)とから構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の苗移植機。
【請求項4】
前記移動制御部(C)は、前記状態感知部材(73)の移動位置を定める目標位置設定部材(83)を非作用状態から作用状態に切替え可能に構成し、該目標位置設定部材(83)を各苗タンク(51)の状態を感知する位置(P1,P2,P3)に配置すると共に、前記苗量減少検知部材(71)の検知信号と対応する苗タンク(51)を作用状態に切替え制御する構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の苗移植機。
【請求項5】
前記移動制御部(C)および方向制御部(C)は、所定の保持時間が終了すると、該所定の保持時間に発信された別の苗量減少検知部材(71)の最初の検知信号と対応して所定の保持時間に亘って位置及び方向を維持する構成としたことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項6】
前記状態感知部材(73)は、所定の視角範囲の画像として報知部材(72)に反映する撮像装置で構成したことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の苗移植機。
【請求項7】
前記移動制御部(C)および方向制御部(C)は、乗用走行車体(2)の後進走行と対応して、状態感知部材(73)の移動位置を車幅中央位置(P2)、感知方向を植付装置(52)の後端部の方向とする植付装置後端部方向(D2)に切替えることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−125178(P2012−125178A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279176(P2010−279176)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】