説明

苗移植機

【課題】ロータリー式の植付装置を有する田植機において、動力伝達機構にねじれを生じさせることなく植付装置を高速動作させることを実現する。
【手段】植付装置8はロータリーケース36とこれに取り付けた一対の掻き取リユニット37を有する。掻き取リユニット37が公転しつつ自転することで苗の掻き取りと植付けが行われる。株間変更装置26を構成する入力軸41にフライホール67を設け、PTO軸29の動力を各植付装置8に分岐して伝達する箇所に大径のカップリング86を設けている。フライホール67及びカップリング86の慣性力で植付装置8の負荷変動が吸収されるため、動力伝達機構にねじれに起因した振動が発生することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のような苗移植機に関し、特に、植付装置に対する動力伝達手段に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
乗用型苗移植機の代表として乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)がある。この田植機は、一般に、エンジンが搭載された走行機体とその後ろに配置した植付け部とを有しており、植付け部は走行機体に昇降可能に連結されている。植付け部は、苗マットを載せる苗載せ台やその後ろに配置した植付装置を有している。植付装置は、1つのロータリーケースに2つの掻き取リユニットを相対回転可能に設けたタィプが一般的であり、ロータリーケースが1回回転すると2つの掻き取リユニットはそれぞれロータリーケースに対して1回転する。すなわち、掻き取リユニットはロータリーケースの軸心回りに公転しながら自転するのであり、掻き取リユニットが姿勢を変えながら上下動することにより、苗マットからの苗の掻き取りと圃場への植付けが行われる。
【0003】
単位面積(一般に3.3m2)当たりに苗を何株植えるかは必ずしも一定ではなく、地域やユーザーによって希望する株数が相違している。そこで、走行速度に対する植付装置の動作速度を異ならせて、苗の株と株との間隔(株間)を変えることで、単位面積当たりの植付け株数を変更可能と成している。従前は3.3m2当たリ60〜90株といった密植が多かったが、苗の植付け密度と収量とは必ずしも比例せず、植付け密度が低くても収量に違いはなかったリ却って増収する事実が見られることから、近年は、例えば3.3m2当たり37〜50株といった疎植が増加傾向にあると言える。
【0004】
さて、ロータリー式植付装置の掻き取リユニットは植付爪を有しており、植付爪は側面視で斜めの姿勢で苗マットから苗を掻き取り、次いで、植付爪は鉛直に近い姿勢になって圃場に向かい、下降し切ってから上昇に転じる。すなわち、植付爪は閉ループ軌跡を描きながら、苗の掻き取り、圃場(泥土)への苗の差し込み、圃場からの離脱、といった動きを行う。
【0005】
そして、植付装置は重心が両端部に位置したアンバランスな構造であり、しかも、苗株の掻き取りに最も大きな負荷(抵抗)が発生してその後は軽負荷・無負荷状態になるという特殊な負荷態様であり、このため、動力伝達機構を構成する回転部材にねじりが発生しやすい。また、動力伝達機構を構成する部材の連結部には僅かながらガタ(クリアランス)が存在しており、これらのガタが蓄積することで植付けの位相がずれる(動きがぎくしゃくする)現象も見られる。
【0006】
例えば60〜90株/3.3m2 の密植状態のときに植付爪が圃場から真上に逃げるように設定しておくと、例えば37〜50株/3.3m2 といった疎植状態では植付けられた苗が植付爪によって前倒しされる現象(苗を蹴る現象)が生じ易いため、植付爪が下死点付近の時に高速になるように回転部材に不等速回転を付与することが行われているが、このように回転部材に不等速回転を付与すると、動力伝達機構のねじれや植付け位相のずれは一層顕著に表れるといえる。そこで、特許文献1には、植付装置のスムースな回転を実現すべく、植付装置にバランスウエイトを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−72112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は植付装置の回転に大きな慣性力を付与することで負荷変動を抑制せんとするものであるが、植付装置はもともと相当の重量があるため、これにバランスウエイトを設けると重量が過大になって回転軸への負担が増大するおそれがある。このため部材の強度や耐久性の面で不安が大きい。
【0009】
また、植付装置の回転速度によっては共振現象が発生するおそれがあり、共振すると植付装置に過大な遠心力が発生して非常に危険な状態になる。また、動力伝達機構のガタに起因して複数の植付装置の動作タイミングにずれが生じると、植付装置の大きな慣性力が動力伝達機構に不規則かつ大きな負荷として逆作用することになり、このため作動不能の状態に陥る可能性もある。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来技術の改善策として請求項1の発明では、動力源の回転動力が動力伝達機構を介して回転式の植付装置に伝達されるようになっている構成であって、前記動力伝達機構に、当該動力伝達機構を構成する回転部材のねじれを防止又は抑制するトルク変動抑制手段が設けられている。なお、トルク変動抑制手段は、負荷変動抑制手段(吸収手段)と呼ぶことも可能である。手段は装置と言い換えてもよい。
【0012】
トルク変動抑制手段は各種のものが有り得るが、請求項2の発明では、前記トルク変動抑制手段は、前記回転部材の回転に慣性力を付与する偏心重り又はフライホイールになっている。また、請求項3の発明では、動力源が搭載された走行機体とこれに連結した植付け部とを有している構成において、前記トルク変動抑制手段は、前記走行機体と植付け部との両方に設けられているか、又は、前記植付け部に設けている。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3において、前記植付け部に複数の植付装置が進行方向と直交した左右方向に並ぶように配置しており、前記走行機体からはPTO軸で植付け部に動力伝達され、前記PTO軸の回転は左右に延びる横長回転軸に伝達され、前記横長回転軸から分岐して後ろ向きに延びる軸又は無端帯で各植付装置に動力伝達される構成であって、前記横長回転軸にトルク変動抑制手段を設けている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、動力伝達機構を構成する回転部材にトルク変動抑制手段を設けているため、植付装置に過大な慣性力を生じさせることなく、動力伝達機構のねじれに起因した振動を大きく抑制できると共に、動力伝達機構を構成する回転部材の連結箇所のガタに起因して植付装置の作動にずれが生じることも効果的に抑制し得る。また、植付装置が共振しても、その振幅を従来より低く抑えることができる。
【0015】
結局、本願発明では、動力伝達機構や植付装置の耐久性を確保しつつ、動力伝達機構のねじれに起因した振動やガタに起因した植付け位相のずれを抑制して、安定した高速植付けを可能ならしめることができる。回転部材のねじれを減衰させるトルク変動抑制手段としては種々有り得るが、請求項2のように偏心重り又はフライホールを採用すると、構造が簡単になる利点がある。
【0016】
また、乗用型田植機のように植付け部が走行機体とは別構造になっている苗移植機の場合、動力伝達機構は長さが長くなってねじれ変形も発生しやすくなるが、請求項3のうちトルク変動抑制手段を走行機体と植付け部との両方に設けると、動力伝達機構のねじれ変形をその全体に亙って抑制できるため、特に効果的である。また、請求項3のうちトルク変動抑制手段を植付け部に設ける構成を採用すると、動力伝達機構のうちできるだけ下流側でねじれ変形を抑制できるため、動力伝達機構のねじれ変形やガタに起因した振動や位相ずれが植付装置に波及することを、従来よりも抑制できる。
【0017】
請求項4のように、PTO軸の回転を各植付装置に分岐して伝達する横長駆動軸にトルク変動抑制手段を設けると、各植付装置に対応してトルク変動抑制手段を設けることができるため、植付装置のスムースな回転をより的確に実現可能になる。また、横長駆動軸は植付装置から離れているため、トルク変動抑制手段を植付装置の動きの邪魔にならない状態に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る田植機の平面図である。
【図2】田植機の側面図である。
【図3】田植機の骨組みを示す斜視図である。
【図4】(A)は動力伝達経路の全体を示す斜視図、(B)は植付装置の斜視図である。
【図5】(A)は動力伝達経路の側面図、(B)は植付装置の箇所の側面図、(C)は植付爪の軌跡を示す図である。
【図6】(A)は動力伝達経路を示す平面図、(B)は株間変更装置の外観斜視図、(C)及び(D)は植付け部に設けたセンターケースの外観斜視図である。
【図7】(A)は株間変更装置及びセンターケースにおけるギア群の外観斜視図、(B)はセンターケースにおけるギア群の斜視図、(C)はセンターケースに設けたギア群の背面図である。
【図8】伝動系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明を実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)に適用している。以下の説明では方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、この前後・左右の文言は、田植機の前進方向を前として定義している。正面視方向は前進方向と対向した方向になる。
【0020】
(1).田植機の概要
まず、図1〜図5に基づいて田植機の概要を説明する。図1〜3に示すように、田植機は走行機体1とその後ろに配置された植付け部2とを有している。走行機体1は前後の車輪3,4や操縦座席5、操縦ハンドル6を有しており、一方、植付け部2は苗マットが載る苗載せ台7や植付装置8を有している。本実施形態の田植機は8条植えタイプであり、このため、苗載せ台7には8つの苗マット載置エリアが形成されていると共に、植付け部2の後部には8個の植付装置8が横一列に配置されている。
【0021】
図3に示すように、走行機体1は多数のフレーム材から成る骨組み9を有しており、骨組み9の前部でエンジン10が支持されている。エンジン10の後ろには走行ミッションヶース11が配置されている。図4(A)に明示するように、ミッションケース11の左側面には静油圧式無段変速機(HST)12が装着されており、エンジン10の動力はベルト13によって静油圧式無段変速機12に伝達される。エンジン10はボンネット14で覆われている。また、走行機体1のうちボンネット14を除いた部分は車体カバー15で覆われている。
【0022】
ミッションケース11の左右側面にはフロントアクスル装置17が取付けられており、フロントアクスル装置17に前輪3が取り付けられている。ミッションケース11の後ろにはリアアクスルケース18が配置されており、リアアクスルケース18から横向きに突出させた後ろ車軸に後輪4が取付けられている。ミッションケース11とリアアクスルヶース18とは前後長手のジョイント材19で連結されている。リアアクスルケース18には左右2本のリア支柱20が取付けられており、リア支柱20の上端は、骨組み9の後端部を構成する左右横長のリアフレーム9aに固定されている。
【0023】
左右のリア支柱20には上下のリンク体(トップリンク及びロアリンク)から成るリンク装置21が回動自在に連結されており、リンク装置21の後端に植付け部2が取付けられている。リンク装置21は、ジョイント材19に連結された油圧シリンダ(昇降シリンダ)22によって回動させることができる。従って、油圧シリンダ22を伸縮させることにより、植付け部2が昇降する。
【0024】
図4から容易に理解できるように、ミッションケース11の内部で変速された走行動力は、リアアクスルケース18の内部に後輪ドライブ軸23で動力伝達され、リアアクスルケース18に設けたギア群を介して後輪4に伝達される。本実施形態の田植機は植付け部2に整地ロータ24を設けており、整地ロータ24にはリアアクスルケース18から後ろ向き突出したロータ駆動軸25から動力伝達される。なお、整地ロータ24は一部しか表示していない。
【0025】
本実施形態ではリアアクスルケース18の右側部に株間変更装置26を取付けており、ミッションケース11から株間変更装置26に植付け用動力伝達軸27で動力伝達される。植付け用動力伝達軸27の回転は株間変更装置26に内蔵したギア群によって変速され、PTO軸29によって植付け部2に伝達される。
【0026】
図4に示すように、植付け部2は左右横長のメインフレーム28を有しており、メインフレーム28の略左右中間部にセンターケース30が固定されており、PTO軸29の動力はセンターケース30に内蔵されたギア群に伝達される。メインフレーム28の後面には後ろ向きに延びる4本の支持アーム31が固定されており、支持アーム31の後端部に左右一対ずつの植付装置8が回転自在に取付けられている。
【0027】
支持アーム31の基端部(前端寄り部位)には、請求項に記載した横長回転軸の一環として左右横長の植付け駆動軸32が貫通しており、この植付け駆動軸32の回転によって植付装置8が駆動される(詳細は後述する。)。また、植付け駆動軸32には、センターヶース30に内蔵したギア群を介してPTO軸29から動力が伝達される。センターケース30には左右横長の横送り軸33も取付けられており、横送り軸33の回転によって苗載せ台7が1ピッチずつ横移動する。
【0028】
植付け部2は苗マットが載るベルト34の群を有しており、ベルト34は上下一対の縦送り支軸35に巻き掛けられている。苗載せ台7が左右のいずれか一方に移動し切ると縦送り支軸35は回転し、苗マットが1ピッチだけ下降動する。
【0029】
図4(B)に示すように、各植付装置8は、1つのロータリーケース36とその両端部に回転自在に設けた掻き取リユニット37とを有しており、ロータリーケース36が1/2回転するごとに掻き取リユニット37による苗の掻き取りと植付けが行われる。また、PTO軸29が1回転するとロータリーケース36は1/2回転するように設定されている。そして、PTO軸29の回転数は田植機の走行速度に比例しているが、株間変更装置26によって走行速度とPTO軸29の回転数との関係を変えることにより、苗の植付け間隔(株間)を変更することができる。
【0030】
(2).株間変更装置の構造
以下、株間変更装置26から植付装置8に至る動力伝達経路の詳細を説明する。まず、株間変更装置26の詳細を、主として図6〜図8に基づいて説明する。株間変更装置26は図4(B)に示す前後2つ割り方式の株間ケース40を有しており、その内部に、図6(A)(C)に示すようなギア群が配置されている。
【0031】
株間ケース40の内部には入力軸41と出力軸42とが配置されており、入力軸41に自在継手を介して植付け用動力伝達軸27の後端が接続されている。入力軸41には同径の第1ギア43と第2ギア44とが固定されている。両ギア43,44は同径ではあるが、歯数は第1ギア43よりも第2ギア44が僅かに少なくなっている。
【0032】
入力軸41と出力軸42とは同心に配置されている。入力軸41には筒型の中間軸45が相対回転可能に最まっており、中間軸45は出力軸42と一緒に回転する。中間軸45には第3ギア46と第4ギア47とがスプラィン嵌合等によってスライド可能で相対回転不能に嵌まっている。更に、中間軸45には第1不等速ギア48が相対回転自在でスライド可能に嵌まっている。
【0033】
出力軸42にはカム式のメインクラッチ49を設けている。メインクラッチ49は固定パーツ49aとスライドパーツ49bとから成っており、スライドパーツ49bはクラッチばね49c(図7参照)で固定パーツ49aに向けて付勢されている。スライドパーツ49bがクラッチばね49cに抗して固定パーツ49aから離反すると、入力軸41から出力軸42への動力伝達は遮断される。路上走行時や旋回時のように植付け部2を上昇させている状態ではメインクラッチ49が切れる。メインクラッチ49の切り操作はメインクラッチ操作軸50を下降させることで行われる。
【0034】
株間ケース40の内部には、側面視で入力軸41及び出力軸42と平行に延びるアイドル軸51が回転自在に軸支されており、このアイドル軸51に、第1ギア43又は第2ギア44に噛み合い得る第5ギア52がスプライン嵌合等によってスライド可能・相対回転不能に嵌まっている。第5ギア52は第1ギア43又は第2ギア44の2倍程度の歯数であり、第1ギア43に噛合した第1ポジションと、第2ギア43に噛合した第2ポジションとを選択できる。
【0035】
なお、第5ギア52を第1ギア43又は第2ギア44に選択的に噛み合わせることに代えて、第1ギア43に噛合する減速用の第5ギア52の他に、図8に一点鎖線で示すように、第2ギア44に噛合する減速用ギア53を設けて、両減速用ギア52,53のいずれかに動力を伝達する構成を採用することも可能である。
【0036】
第1ギア43と第2ギア44と第5ギア52の歯数の関係は、例えば、第1ギア43に対する第5ギア52の歯数を比率の2・0 倍に設定し、第2ギア44に対する第5ギア52の歯数の比率を約2.3倍に設定することができる。
【0037】
アイドル軸51には、第3ギア46に対して噛み合い・離反する第ギア54と、第4ギァ47に噛み合い・離反する第7ギア55、及び、第1不等速ギア48と常に噛み合っている第2不等速ギア56が固定されている。第3ギア46に対する第6ギア54の比率よりも、第4ギア47に対する第7ギア55の歯数の比率が小さくなるように設定している。
【0038】
従って、中間軸45(及び出力軸42)の回転数は、第3ギア46と第6ギア54とが噛み合っている状態よりも、第4ギア47と第7ギア55とが噛み合っている状態の方が低くなっている。具体的な歯数の比率としては、例えば、第3ギア46に対する第6ギア54の歯数の比率を約1:1.94、第4ギア46に対する第7ギア55の歯数の比率を約1:1.41と成すことができる。
【0039】
第1不等速ギア48と第2不等速ギア56とは楕円のような非円形のプロフィールであり、歯数は同じに設定されている。従って、両不等速ギア48,56を介してアイドル軸51の回転が中間軸45及び出力軸42が伝えられている状態では、アイドル軸51と出力軸42との回転数は同じで、かつ、出力軸42はその1回転中で角速度を周期的に変化させて回転する。両不等速ギア48,56は非円形であって噛み合い姿勢が一定に決まっているという特殊性から、常に噛み合い状態に保持されている。
【0040】
本実施形態では、疎植時には、株間変更装置26に設けた不等速ギア48,56により、出力軸42に例えば25%程度の加減速が付与される。
【0041】
第4ギア47と第1不等速ギア48とには、噛み合い・離間自在な中間クラッチ57を設けている。第4ギア47は、図8の状態からいったん第7ギア55と噛合した状態を経て更に右向きにスライドすると、中間クラッチ57が噛み合う。中間クラッチ57が噛み合った状態では、アイドル軸51の動力は不等速ギア56,48を介して出力軸42に伝ぇられる。中間クラッチ57が噛み合っている状態では第3ギア46と第4ギア47は空転している。従って、中間クラッチ57は中間軸45と第1不等速ギア48との連結を継断する働きをしている。
【0042】
第5ギア52がスライドすることで2段階の切り換えが行われ、中間軸45がスライドすることで3段階の切り換えが行われる。従って、全体として6段階の組み合わせが存在する。例えば、3.3m2当たりの株数として、37株、43株、50株、60株、70株、85株といった株数に変更できるのであり、疎植と密植との全エリアを殆ど網羅している。
【0043】
株間ケース40の上部には、入力軸41及び出力軸42と平行に延びる施肥用回転軸58が回転自在に配置されており、この施肥用回転軸58に、第1ギア43と噛合する第8ギア59が相対回転自在に保持されている。施肥用回転軸58からはベベルギア61を介して施肥駆動軸62に動力伝達される。
【0044】
図7(A)に示すように、株間変更装置26は第1操作軸63と第2操作軸64との2本の操作軸を有する。これら操作軸63,64は前後長手の姿勢になっており、株間ケース40の手前に露出している。図6(B)から理解できるように、第1操作軸63は第1レバー65で前後スライド操作することができ、第2操作軸64は第2レバー66で前後スライド操作することができる。第1操作軸63は第5ギア52をスライド操作するためのものであり、第5ギア52をスライドさせるシフターを有している。第2操作軸64は中間軸45をスライド操作するためのものであり、中間軸45に係合するシフターを備えている。
【0045】
図6(B)や図7(A)、或いは図8に示すように、入力軸41に、トルク変動抑制手段としてのフライホイール67を固定している。正確に述べると、入力軸41のうち株間ケース40の外側に露出した部位にフライホイール67を固定している。このため、入力軸41に続く動力伝達機構に大きな慣性力を作用させて、負荷変動を打ち消すことが可能になる。なお、図4(A)ではフライホイール67は表示していない。
【0046】
(3).センターケースの内部構造
次に、図6〜図8に基づいてセンターケース30の内部構造(すなわち植付け部変速装置)を説明する。センターケース30は左右2つ割り方式のシェル体から成っており、前後長手の入力軸69が回転自在に保持されている。入力軸69の前端とPTO軸29の後端とは自在継手を介して接続されている。
【0047】
センターケース30の内部には左右長手の中間軸70が配置されており、入力軸69の回転は第1ベベルギア71の対によって中間軸70に伝達される。センターケース30の内部には横送り駆動軸72が左右横長の姿勢で配置されており、横送り駆動軸72に横送り軸33とが連結されている。
【0048】
横送り駆動軸72には3枚の掻き取り量調節従動ギア73が固定されている一方、中間軸70には3枚の掻き取り量調節主動ギア74が遊嵌している。3枚の掻き取り量調節主動ギア74のうちいずれか1つのみに、スライドキー76(図8参照)によって中間軸70から選択的に動力伝達される。スライドキー76は、図6(A)(B)に示すスライドレバー77によってスライド操作される。
【0049】
センターケース30は後ろ下向きに延びる張り出し30aを有しており、この張り出し30aに左右横長の植付け出力軸78が回転自在に保持されており、植付け出力軸78には、中間軸70に固定した第1中継ギア79、横送り駆動軸72に相対回転自在に嵌まった第2中継ギア80、センターケース30にアイドル軸81を介して回転自在に保持された第3中継ギア82、第4中継ギア84の順で動力伝達される。第4中継ギア84は植付け出力軸78にスリーブ83を介して取付けられている。植付け出力軸78も請求項に記載した横長駆動軸に相当する。
【0050】
植付け出力軸78とその隣りに位置した植付け駆動軸32とは、カップリング(スリーブ)86で接続されている。また、左右に隣り合った植付け駆動軸32の間には連結軸78′が配置されており、連結軸78′と植付け駆動軸32もカップリング86で接続されている。従って、各植付け駆動軸32は一体に回転する。連結軸78′も請求項に記載した横長駆動軸に相当している。カップリング86は、割リピンやビス等によって各軸に固定されている。
【0051】
本実施形態では植付け駆動軸32は各植付装置8の箇所ごとに分断されており、植付け駆動軸32と植付け出力軸78又は連結軸78′とがカップリング86で接続されているが、植付け出力軸78と各植付け駆動軸32と連結軸78′とを1本の棒材から成る単一構造体とすることも可能である。
【0052】
そして、カップリング86をある程度の質量があるように大径に設定し、カップリング86にフライホイール機能を保持せしめている。すなわち、本実施形態ではカップリング86をトルク変動抑制手段(フライホイール)に兼用している。なお、実施形態ではカップリング86は真円形状になっているが、植付装置8の芯ずれを打ち消すように偏心した構造とすることも可能である。
【0053】
(4).植付装置の構造・動力伝達構造
次に、植付装置8の構造やこれに対する動力伝達構造を、主として図8に基づいて説明する(図5(B)も参照。)。支持アーム31は中空構造になっており、図8に示すように、その内部に前後長手の植付け伝動軸87が回転自在に保持されている。
【0054】
植付け伝動軸87には植付け駆動軸32から第2ベベルギア88a,88bの対で動力伝達されている。第2ベベルギア88a,88bのうち植付け伝動軸87と同心に回転するベベルギア88bは、植付け伝動軸87に嵌まったトルクリミッタ89に取付けられている。トルクリミッタ89はばね90を有しており、植付け伝動軸87に所定以上の負荷がかかると噛み合いが外れて、動力伝達が遮断される。
【0055】
支持アーム31の後端部(先端部)には、左右一対の軸受けを介して左右横長の植付け中心軸91が回転自在に保持されている。植付け中心軸91は支持アーム31の左右外側に突出しており、その突出端部にロータリーケース36に内蔵された太陽ギア92が固定されている。詳細は省略するが、ロータリーケース36は支持アーム31の後端植付け部2に回転自在に保持されている。
【0056】
ロータリーケース36は左右2つのシェル体を重ね合わせた中空構造になっており、その長手中間部には既述の太陽ギア92が配置され、その外側に中間ギア93が配置され、その外側に遊星ギア94が配置されている。各ギア92,93,94は非円形で偏心している。そして、遊星ギア94に固定されたユニット軸95に掻き取リユニット37が固定されている。
【0057】
図5に明示するように、掻き取リユニット37は植付爪96と突き出しロッド97とを備えており、図5(C)に示すように、植付爪96で苗マットから苗を1株だけ切り取って圃場に移行し、下死点近傍で突き出しロッド97が植付爪96に対して相対的に前進することで苗は圃場に植付けられる。
【0058】
図8に示すように、植付け中心軸91には、第3ベベルギア98,99を介して植付け伝動軸87から動力伝達される。図示していないが、植付け中心軸91には外部から操作されるクラッチを設けており、クラッチを切ると植付けが止まる(条止めされる。)。
【0059】
なお、第3ベベルギア98,99を偏心した不等速ギアと成して、株間変更装置26の箇所と第3ベベルギア98,99の箇所との両方において不等速回転を付与することが可能である。この場合、株間変更装置26での加減速の程度よりも、第3ベベルギア98,99による加減速の程度を少なめに設定すると好適である。
【0060】
(5).まとめ
さて、PTO軸29やその他の軸群より成る動力伝達機構には植付装置8の回転に伴う負荷変動に起因したねじれとねじれ解除とが作用し、このため振動が発生するが、本実施形態では株間変更装置26の入力軸41にフライホイール67を設けると共に、植付け部2のカップリング86をトルク変動抑制手段(フライホイール)に兼用しているため、植付装置8の回転に伴って動力伝達機構に負荷変動(トルク変動)が生じることを従来に比べて抑制できる。
【0061】
このため、動力伝達機構を構成する回転部材(例えばPTO軸29)にねじれが生じることを防止又は著しく抑制することができ、その結果、動力伝達機構に振動が発生することも防止又は著しく抑制できる。従って、植付装置8をスムースに高速回転させることができる。
【0062】
換言すると、植付装置8の負荷によって動力伝達機構には自身のねじれに伴う弾性工ネルギが蓄積され、エネルギの蓄積と発散とが交互に生じることで振動が発生するのであるが、本実施形態では、フライホイール67やダンパ機能カップリング86の回転によって大きな慣性力が発生するため、動力伝達機構に弾性エネルギが蓄積されることを防止又は著しく抑制できるのであり、その結果、振動を防止して植付装置8をスムースに高速回転させることができるのである。更に述べると、フライホイール67やカップリング86の慣性力により、植付装置8の負荷変動が吸収されるのである。
【0063】
また、動力伝達機構を構成する部材の連結箇所には僅かながらガタが存在しており、このガタと振動との複合作用によって各植付装置8が不規則に動く現象が生じることがあり、そのため植付けの位相のずれが発生することがあるが、本実施形態では、上記のとおり動力伝達機構に振動が発生することを防止又は抑制できることに加えて、フライホイール67及びカップリング86の慣性力によって動力伝達機構のトルク変動を防止又は抑制できるため、植付け位相のずれが発生することも防止できる。
【0064】
さて、図5(C)では、3・3m2当たりの植付け付け株数と植付爪96の移動軌跡との関係を示している。この図から理解できるように、密植状態では植付爪96は下死点から真上に上昇しても、疎植状態になると植付爪96の逃げが悪くなって苗を押し倒す現象が生じやすいことが理解できる。
【0065】
この点、本実施形態では、株間変更装置26に不等速ギア48,56を設けたことにより、ロータリーケース36は植付爪96が下死点付近に位置したあたりで回転速度が速くなるように加速される。このため、植付爪96は下死点から素早く逃げることになり、その結果、植付爪96で苗を押し倒す現象を防止できる。そして、不等速回転状態では負荷変動は大きくなるが、本実施形態ではフライホイール67や大径カップリング86のようなトルク変動抑制手段を設けているため、不等速回転に起因して負荷変動が大きくなっても、負荷変動を吸収してスムースな高速回転を実現できる。
【0066】
本実施形態のように株間変更装置26と植付け部2との両方にトルク変動抑制手段を設けると、動力伝達機構の全体にわたってねじれ変形を抑制できるため、特に好適である。また、植付け駆動軸32に連結軸78′を介して動力伝達すると、植付け条数が異なる植付け部2に共通した部材を使用できる利点があるが、本実施形態のようにカップリング86をトルク変動抑制手段に兼用すると、部材点数を増やすことなく動力伝達機構のねじれ変形を防止できる利点がある。また、カップリング86が各支持アーム31に対応して配置されているため、各植付装置8の円滑な回転を的確に実現できる利点がある。
【0067】
図4(B)に示すように、植付け駆動軸32や連結軸78′はメインフレー28からある程度の距離だけ後ろに配置されているため、大径のカップリング86を設けても邪魔になることはない。むしろ、メインフレーム28の後ろのデッドスペースを利用することでカップリング86を大径化しているとも言える。入力軸41に設けるフライホイール67は株間ケース40の内部に配置することも可能であるが、本実施形態のようにフライホイール67を株間ケース40の外に配置すると、株間ケース40の大型化を防止できると共に、既存の株間ケース40にもそのまま適用できる利点がある。
【0068】
敢えて述べるまでもないが、フライホイール等のトルク変動抑制手段は、植付け出力軸78に設けたり、植付け駆動軸32に設けたり、連結軸78′に設けたりしてもよい。この場合、フライホイール等のダンパ手段は軸と一体の構造であってもよいし、別体の構成としてビス等で固定してもよい。
【0069】
株間変更装置26にダンパ装置を設ける場合、図8に一点鎖線で示すように、入力軸41に設けることに代えて又はこれに加えて、アイドル軸51にフライホイール67を設けたり、出力軸42にフライホイール67を設けることも可能である。この場合は、フライホイール67は株間ケース40の外に配置するのが好ましい。
【0070】
(6).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、トルク変動抑制手段はフライホイールに代えて偏心重りを使用することも可能である。配置位置としては、例えばPTO軸に設けたり植付け伝動軸87に設けたりすることも可能である。動力伝達機構を構成するギアに設けることも可能である。走行機体のみに設けることも可能である。
【0071】
ダンパ手段としては、回転部材に抵抗を与えるものでもよい。この場合、抵抗が常に作用しているように設定することも可能であるし、軸が軽負荷状態又は無負荷状態のときに抵抗が付与されるように設定することも可能である。負荷が大きい時に電動モータ等で一時的に軸にトルクを付与することも可能である。すなわち、回転軸に対して周期的にトルクを付加するアシスト手段を採用することも可能である。
【0072】
また、本願発明は田植機以外の各種の苗移植機に適用できる。株間変更装置はミッションケースに内蔵することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本願発明は田植機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 走行機体
2 植付け部
7 苗載せ台
8 植付装置
10 動力源としてのエンジン
11 ミッションケース
26 株間変更装置
27 植付け用動力伝達軸
29 動力伝達機構を構成するPTO軸
30 センターケース
31 支持アーム
32 植付け駆動軸
36 ロータリーケース
37 掻き取リユニット
41 株間変更装置の入力軸
67 トルク変動抑制手段の一例としてのフライホイール
78 植付け出力軸
78′ 連結軸
86 トルク変動抑制手段を兼用するカップリング
96 植付爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の回転動力が動力伝達機構を介して回転式の植付装置に伝達されるようになっている構成であって、前記動力伝達機構に、当該動力伝達機構を構成する回転部材のねじれを防止又は抑制するトルク変動抑制手段が設けられている、
苗移植機。
【請求項2】
前記トルク変動抑制手段は、前記回転部材の回転に慣性力を付与する偏心重り又はフライホイールである、
請求項1に記載した苗移植機。
【請求項3】
動力源が搭載された走行機体とこれに連結した植付け部とを有しており、前記トルク変動抑制手段は、前記走行機体と植付け部との両方に設けられているか、又は、前記植付け部に設けている、
請求項1又は2に記載した苗移植機。
【請求項4】
前記植付け部に複数の植付装置が進行方向と直交した左右方向に並ぶように配置しており、前記走行機体からはPTO軸で植付け部に動力伝達され、前記PTO軸の回転は左右に延びる横長回転軸に伝達され、前記横長回転軸から分岐して後ろ向きに延びる軸又は無端帯で各植付装置に動力伝達される構成であって、前記横長回転軸に前記トルク変動抑制手段を設けている、
請求項3に記載した苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187044(P2012−187044A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53342(P2011−53342)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】