説明

苗移植機

【課題】
急激な加速または減速の際に、植付装置が前後に振れ続ける脈動が発生することを防止し、苗の植付間隔が乱れることを防止する。
【解決手段】
苗の植付間隔を調節する植付間隔調節レバー11を設け、苗の植付間隔が「広い」である場合、圃場を走行する車体8の走行速度を操作する変速操作レバー6を設け、車体8の後部に苗を積載して送り出す苗植装置5を設け、苗載台2から植付爪1で苗を掻き取って植え付ける植付装置4を設け、植付装置4を不等速回転する構成とした苗移植機において、車体8に駆動力を供給するエンジン9と車速を増速または減速させる油圧無段変速装置7Aを設け、変速操作レバー6を操作して加速または減速を完了するとエンジン9の回転数を増加または減少させる制御、または油圧無段変速装置7Aを増速または減速方向に作動させる制御行なう制御装置38を設けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
苗載台に載置した苗を、植付装置で設定間隔ごとに圃場に移植する移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植付爪を有した植付装置は、両端部に植付アームを軸装して回転する苗植回転ケースの中央部を駆動軸に設け、この苗植回転ケースには、前記駆動軸上の太陽ギアと、前記植付アーム軸上のターミナルギアとの間に、遊星ギアを噛合させて不等速ギア機構を設け、この駆動軸を回転駆動することにより、植付アーム先端の植付爪を、楕円形状の植付軌跡線を描くように昇降させて、苗タンクの苗取口部に繰出されるマット苗から植付本数の苗を分離保持して、フロートで滑走均平される土壌面に植付ける技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−089065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように苗植付爪を楕円形状の植付軌跡線を描くように作動させる植付装置にあっては、不等速ギア機構等を経て伝動する構成であるため、急激な加速や減速により等速回転に移行しようとする力がかかると不規則な回転が生じ、この回転から発生する共振のために植付装置が前後に揺れ続ける現象、所謂脈動が発生することがあり、苗の植付間隔を乱してしまう問題がある。
【0005】
特に、植付走行速度を中速から高速に加速、または高速から中速に減速するときに、苗植付間隔を前後方向に広く設定していると、加速または減速時に等速回転しようとする力が強くなるため、脈動が発生しやすく、植付間隔が乱れてしまうという問題がある。
【0006】
また、植付装置が等速運動回転すると、植付爪が土中に進入する時間が長くなるため、植付爪に泥土が詰まって苗を掻き取ることができず、苗を植付け損なうという問題がある。
【0007】
上記の問題点を解決すべく、加速または減速操作を終えた直後に、操縦者が変速操作レバーを操作して微細な変速操作を行い、共振状態を停止させて脈動の発生を抑えることは従来より行なわれているが、手作業で微細な操作を行なうことが要求されるため、作業者に余分な負担をかけてしまう上、変速操作レバーの操作量を誤ると不要な加速または減速が発生してしまい、適切な植付作業速度を維持できないという問題が生じる。
【0008】
さらに、操作するタイミングが遅いと短時間脈動が発生した状態で植付作業が行われてしまい、苗の植付間隔に乱れが生じたり、植付爪に泥土が入り込んで苗の植付が行なわれなくなる問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、圃場を走行する車体(8)の走行速度を操作する変速操作レバー(6)を設け、該車体(8)の後部に苗を積載して送り出す苗植装置(5)を設け、該苗載台(2)から植付爪(1)で苗を掻き取って植え付ける植付装置(4)を設け、該植付装置(4)を不等速回転する構成とした苗移植機において、前記車体(8)に駆動力を供給するエンジン(9)を設け、前記変速操作レバー(6)を操作して加速または減速を完了すると前記エンジン(9)の回転数を増加または減少させる制御を行なう制御装置(38)を設けたことを特徴とする苗移植機とした。
【0011】
請求項2に記載の発明は、圃場を走行する車体(8)の走行速度を操作する変速操作レバー(6)を設け、該車体(8)の後部に苗を積載して送り出す苗植装置(5)を設け、該苗載台(2)から植付爪(1)で苗を掻き取って植え付ける植付装置(4)を設け、該植付装置(4)を不等速回転する構成とした苗移植機において、前記変速操作レバー(6)の操作に対応して車体(8)の走行速度を切り替える油圧無段変速装置(7A)を設け、前記変速操作レバー(6)を操作して加速または減速を完了すると前記油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に作動させる制御を行なう制御装置(38)を設けたことを特徴とする苗移植機とした。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前前記植付装置(4)の苗の植付間隔を調節する植付間隔調節レバー(11)を設け、該植付間隔調節レバー(11)の操作を検出する操作検出部材(39)を設け、該操作検出部材(39)が植付間隔「広い」側に位置することを検出すると、前記変速操作レバー(6)の操作による加速または減速の完了後に、前記制御装置(38)がエンジン(9)の回転数を増加または減少させる、あるいは油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に作動させる制御を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の苗植伝動装置とした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明は、走行速度の加速または減速が完了した直後に、制御装置(38)がエンジン(9)の回転数を増加する制御を行なうことにより、加速または減速の際に植付装置(4)に脈動が生じても、エンジン(9)の回転数を増加または減少させて脈動を停止させると、植付装置(4)の不等速回転を維持することができるので、植付装置(4)の植付爪(1)が設定した植付間隔ごとに苗を植え付けることができ、植付精度が向上する。
【0014】
また、植付装置(4)の不等速回転が維持されることにより、植付爪(1)は苗を植え付けるときだけ圃場内に入り込むため、植付爪(1)に泥土が付着することを防止でき、付着した泥土が苗の掻き取りを阻害することが防止されて、植え付けの行なわれなかった場所に作業者が手作業で苗を植え付ける必要がなく、作業者の労力が軽減される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、走行速度の加速または減速が完了した直後に、制御装置(38)が油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に作動させる制御を行なうことにより、加速または減速により植付装置(4)が脈動を起こしても、油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に移動させて脈動を停止させると、植付装置(4)の不等速回転を維持することができるので植付装置(4)の植付爪(1)が設定した植付間隔ごとに苗を植え付けることができ、植付精度が向上する。
【0016】
また、植付装置(4)の不等速回転が維持されることにより、植付爪(1)は苗を植え付けるときだけ圃場内に入り込むため、植付爪(1)に泥土が付着することを防止でき、付着した泥土が苗の掻き取りを阻害することが防止されて、植え付けの行なわれなかった場所に作業者が手作業で苗を植え付ける必要がなく、作業者の労力が軽減される。
【0017】
請求項3に記載の発明は、苗の植付間隔を広く設定して植付作業を行うときに、エンジン(9)の回転数制御や油圧無断変速装置(7A)の変速制御を行なうことにより、植付装置(4)に脈動が発生してもすぐに停止させることができるので、植付間隔が必要以上に広がったり、逆に狭まったりすることが防止され、苗の植付精度が向上する。
【0018】
なお、植付間隔を狭く設定したときは、急激な加速または減速をしても脈動現象が発生する前に不等速回転が行なわれるため、エンジン(9)や油圧無段変速装置(7A)の制御を行なわなくても植付間隔を適切にすることができるので、操作検出部材(39)で植付間隔調節レバー(11)の操作を検出することにより、植付間隔が広いときのみエンジン(9)や油圧無段変速装置(7A)の制御を作動させることができるので、必要な時のみ増速または加速制御が行なわれ、操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】苗移植機の側面図
【図2】苗移植機の平面図
【図3】変速装置を操作制御するブロック図
【図4】植付装置部の側面図
【図5】植付装置部の不等速ギア機構部の側面断面図
【図6】変速操作レバーとブレーキペダルの操作連動機構を示す左側面図
【図7】変速操作レバーとブレーキペダルの操作連動機構を示す背面図
【図8】変速操作レバーとブレーキペダルの操作連動機構を示す右側面図
【図9】変速操作レバーの操作による走行速度の変化を示すフローチャート
【図10】ブレーキペダル操作による停止前速度復帰を示すフローチャート
【図11】植付装置部の操作制御のフローチャート
【図12】植付装置部の操作制御のフローチャート
【図13】植付装置部の操作制御のフローチャート
【図14】代掻きロータを配置した苗移植機の側面図
【図15】(a)代掻きロータ部の拡大側面図、(b)代掻きロータ部の拡大平面図
【図16】ロータ羽根の角度を変更した場合の側面図
【図17】ロータ羽根角度の変更制御のフローチャート
【図18】(a)サイドフロア部の平面図、(b)サイドフロア部の前輪の動作を示す平面図
【図19】サイドフロア部の側面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面に基づいて、苗植機は、乗用四輪走行形態のトラクタ走行車体8の後部に、平行リンク形態のリフトリンク12を介して、6条植形態の苗植装置5を連結装着したものである。前記車体8には、エンジン9、及びこの上側の運転席13を搭載し、この前側のステアリングポスト14上にはステアリングハンドル15や、変速操作レバー6、苗植操作レバー(フィンガーレバー)17等を設け、サイドフロア18の外側には補給用のマット苗を支持収容する苗受枠19を設ける。前記車体8の前部には、エンジン9からベルト伝動される油圧無段変速装置7A(主変速装置7)、及びミッションケース20が配置されて、このミッションケース20の左右両側部に張出すフロントアクスルハウジング21の両端部に、前記ステアリングハンドル15によって操向される前輪22を軸装する。また、このミッションケース20から後方のリヤアクスルハウジング23にわたって後輪16連動軸24を取出すと共に、PTO軸(図示省略)を取出している。
【0021】
前記車体8の後端部には、リヤフレーム26を立設して、前記リフトリンク12を上下回動自在に連結し、上端には施肥装置27を装着する。前記車体8とリフトリンク12との間にはリフトシリンダ28を設け、このリフトシリンダ28を油圧回路の昇降制御弁による切替制御によって伸縮させて、苗植装置5を車体8に対して昇降することができる。
【0022】
前記リフトリンク12の後端のヒッチリンク29に対してローリング軸30周りにローリング回動自在に装着される苗植装置5は、前記PTO軸25から連動される伝動機構を内装した苗植伝動ケース31を主体として、この苗植伝動ケース31の下方に、中央部と、この左右両側部との各センタフロート、サイドフロート3を配置して、各フロート3を土壌面に滑走させて支持推進させる。また、苗植伝動ケース31の上側には、後端下りに傾斜の六条植形態の苗タンク2を支持して、リードカム軸(図示省略)の回転によりマット苗一枚幅相当の間隔にわたって左、右方向へ往復移動するように案内し、この苗タンク2の後下端の苗繰出口を、苗植付爪1の作用する苗取口33を形成した苗取口枠34に案内させる。この苗取口枠34は、苗植伝動ケース31の後部の各苗植条位置に配置の苗植付装置4の先端の植付爪1を作用させる。各苗植付装置4は、先端の植付爪1を側面視で上下に長い略楕円形状の植付軌跡線Dに作動させて、この上支点位置を下降するとき前記苗取口枠34の苗取口33に介入して苗タンク2から繰出される苗を分離して保持することができ、下支点部に下降することによって、この保持している苗を土壌面に一定深さに挿植するものである。これら各苗植付爪1は、各フロート3で均平された均平跡の土壌面に植付けるように六条植形態に構成される。
【0023】
前記苗植装置5の昇降制御は、前記リフトシリンダ28を作動させる油圧回路の昇降制御弁35を、コントローラ36から出力することによって行わせる。前記苗植装置5の中央部に配置するセンタフロート3の上下揺動によって、車体8の走行する土壌耕盤が深いときは、リフトシリンダ28を伸長させて苗植装置5を上昇し、耕盤が浅いときは逆に下降させて、苗植付装置4による苗植付深さが略一定になるように昇降制御を行う形態としている。
【0024】
そして、図1、図2及び図6〜図8で示すように、前記フロントカバー74の上側で且つ左右一側に油圧式無段変速装置7Aを操作する変速操作レバー6を回動軸芯Q1を支点として前後方向に揺動操作可能に設ける。そして、該変速操作レバー6の下端部側には変速操作レバー6の操作に伴う傾斜角度を検出するポテンショメータ(角度センサ)75を設け、該ポテンショメータ75の検出角度に対応して発信される信号を受ける制御装置38を配置する。
【0025】
なお、制御装置38は、図示はしていないが、一般的にはフロントカバー74の内部に設けるが、温度変化や大きな振動、水気、夾雑物等の影響の無い場所であれば機体の何処に配置してもよい。
【0026】
そして、前記変速操作レバー6の前後方向への揺動操作量に対応してポテンショメータ75が制御装置38に前進、後進、加速及び減速を信号として発信し、この信号を受けて正転または逆転すると共に回転数が変化する正逆転自在且つ変速回転自在なアシストモータ76を前記油圧式無段変速装置7Aのトラニオンアーム77を回動操作自在に取り付ける。
【0027】
図6〜図10に示すように、変速操作レバー6を前後進中立位置から前側に操作すると、ポテンショメータ75が変速操作レバー6の角度を検出して制御装置38に前進信号を発信し、この信号を制御装置38が受けるとアシストモータ76が正転駆動してトラニオンアーム77を回動操作し、油圧式無段変速装置7Aを前進に切り替え、機体の前進を開始する。
【0028】
そして、変速操作レバー6を前側にさらに移動させると、変速操作レバー6の移動に伴う角度変化をポテンショメータ75が検出して制御装置38に前進加速信号を発信し、アシストモータ76を正転駆動させて油圧式無段変速装置7Aの出力を増大させて前進走行速度を加速させる。
【0029】
また、変速操作レバー6を前後進中立位置に向かって後側に操作すると、変速操作レバー6の移動に伴う角度変化をポテンショメータ75が検出して制御装置38に前進減速信号を発信し、アシストモータ76を逆転駆動させて油圧式無段変速装置7Aの出力を減少させ、前進走行速度を減速させる。
【0030】
逆に、変速操作レバー6を前後進中立位置から後側に操作すると、ポテンショメータ75が変速操作レバー6の角度を検出して制御装置38に後進信号を発信し、この信号を制御装置38が受けるとアシストモータ76が逆転駆動してトラニオンアーム77を回動操作し、油圧式無段変速装置7Aを後進に切り替え、機体の後進を開始する。
【0031】
そして、変速操作レバー6を後側にさらに移動させると、変速操作レバー6の移動に伴う角度変化をポテンショメータ75が検出して制御装置38に減速信号を発信し、アシストモータ76を逆転駆動させて油圧式無段変速装置7Aの出力を増大させて後進走行速度を加速させる。
【0032】
また、変速操作レバー6を前後進中立位置に向かって前側に操作すると、変速操作レバー6の移動に伴う角度変化をポテンショメータ75が検出して制御装置38に後進減速信号を発信し、アシストモータ76を正転駆動させて油圧式無段変速装置7Aの出力を減少させ、後進走行速度を減速させる。
【0033】
なお、前進中及び後進中のいずれの場合でも、変速操作レバー6を前後進中立位置に戻すと、ポテンショメータ75は変速操作レバー6が初期位置に戻ったことを検知して停止信号を制御装置38に発信し、アシストモータ76を正転または逆転駆動させてトラニオンアーム77を中立位置に戻し、機体の走行を停止させる。
【0034】
上記構成は、変速操作レバー6の操作による角度の変化をポテンショメータ75で検出し、制御装置38に信号を発信してアシストモータ76の回転方向及び回転数を変化させてトラニオンアーム77を操作する構成としたことにより、作業者は変速操作レバー6を操作する際に生じる抵抗をほぼ感じることが無くなるので、長時間の作業、あるいは頻繁に変速操作レバー6の操作をする場合でも腕に余分な負担がかからなくなり、作業者の労力が軽減される。
【0035】
また、ポテンショメータ75で変速操作レバー6の角度を細かく検出し、トラニオンアーム77を微細に操作することにより、発進時や停止時に構成部材の挙動による機体の揺れが生じない速度を設定することができるので、いっそう作業者は作業に集中することができ、作業能率が向上する。
【0036】
前記アシストモータ76は制御装置38の出力側にケーブル等を介して接続され、該アシストモータ76の出力軸には出力ギア76aを軸着する。そして、後述するブレーキペダル81側にアシストモータ76の回転を伝動する補助伝動シャフト80に軸着した減速ギア76bを該出力ギア76aと噛み合わせる。
【0037】
また、該減速ギア76bよりも機体内側の補助伝動シャフト80に上下回動自在な回動アーム80aを設け、該回動アーム80aの上下回動によりトラニオンアーム77を押し引きして油圧式無段変速装置7Aの出力を変更させるトラニオンロッド80bを回動アーム81aに設ける。
【0038】
さらに、補助伝動シャフト80は、減速ギア76bや回動アーム80aよりも機体内側に噛合クラッチ80cを介装し、スプリング80dによって常時クラッチ入方向に押圧しており、該補助伝動シャフト80を軸方向にスライドさせることにより入切する構成としている。
【0039】
また、前記フロントカバー74の下側で且つ左右一側には、変速操作レバー6を中立位置に移動させるブレーキペダル(走行停止ペダル)81を設ける。該ブレーキペダル81は回動軸芯Q2を支点として上下に回動自在に配置され、下方への踏込操作にすると、ブレーキペダル81の端部と変速操作レバー6を連動させる連動機構(図示省略)を動作させて変速操作レバー6を中立位置に移動させる。
【0040】
そして、前記ブレーキペダル81よりも機体前側に停止連動アーム82を配置し、該停止連動アーム82に第1昇降ロッド83aと第2昇降ロッド83bの上側端部を取り付ける。さらに、該第1昇降ロッド83aの下側端部には、第1昇降ロッド83aが上方に移動すると前記補助伝動シャフト80をクラッチ切方向にスライドさせるシフトアーム84aを設けた回転規制アーム84を上下回動自在に設ける。
【0041】
また、第2昇降ロッド83bの下側端部には、第2昇降ロッド83bが上方に移動すると補助伝動シャフト80の外周縁部に沿って溝部が嵌り込むと共に補助伝動シャフト80と一体回動する制御アーム80eを上方回動させる連動カム85を取り付ける。該制御アーム80eが連動カム85によって上方回動することにより、回動アーム80aが上方回動してトラニオンロッド80bをトラニオンアーム77が中立位置になるまで移動させる構成としている。
【0042】
なお、連動カム85は、少なくとも溝部の周辺に摩擦係数が高く且つ表面が平坦なゴム等の高分子化合物で構成する摩擦部材を取り付けておくと、補助伝動シャフト80の回転に強力な抵抗をかけて早期に停止させることができると共に、補助伝動シャフト80に抵抗をかけても傷付くことを防止できる。
【0043】
上記構成により、ブレーキペダル81を踏むと変速操作レバー6が中立位置に移動し、ポテンショメータ75は制御装置38に停止信号を発信するので、ブレーキペダル81を踏むとその場で停止するため、作業者は任意の位置で機体を停止させることができるので、圃場に大きな凹凸や落下物がある場合など、緊急停止する必要がある場合すぐに停止することができ、危機回避が行なえる。
【0044】
また、ブレーキペダル81を踏むと回転規制アーム84が補助伝動シャフト80をクラッチ切方向に移動させ、連動カム85が補助伝動シャフト80の回転を規制すると共に制御アーム80eを上方回動させることにより、補助伝動シャフト80の回転を停止させると共にトラニオンアーム77を中立位置に移動させることができるので、ブレーキペダル81を踏込操作するとトラニオンアーム77が確実に中立位置になり、機体がいっそう即座に停止する。
【0045】
また、泥等の汚れや経年劣化によりポテンショメータ75が誤検知をして、変速操作レバー6の操作を受け付けなくなった場合でも、ブレーキペダル81を踏込操作すれば強制的に機体の走行を停止させることができるので、機体が旋回位置や停止位置を越えることがなく、苗の植付作業が安定して行われる。
【0046】
図1,2及び図4,5で示すように、前記苗植装置5の各植付爪1を有した植付装置4は、苗植伝動ケース31の後端左右両側部に、側面視長方形状の植付ギアケース40の中央部を植付駆動軸41の両端部に取付けて回転するように設け、この苗植伝動ケース41の長手方向の両端部に、各々植付爪1を有した植付ケース42を植付軸43で軸装する。これら植付駆動軸41には太陽ギア44を設け、植付軸43にはターミナルギア45を設け、該太陽ギア44とターミナルギア45間を遊星ギア46で噛合連動する。しかも、これら各ギア44、45、46は偏心ギアの形態として噛合連動する形態である。前記植付駆動軸41によって苗植付ギアケース40が回転すると、太陽ギア44周りに公転される植付軸43が、これらの間の遊星ギア46を介して自転されて、この植付軸43に取付けられている植付ケース42、及び植付爪1を略上下方向に向けて姿勢にして昇降して、この植付爪1の先端を側面視で上下方向に長い楕円形状の植付軌跡線Dを描いて昇降する形態にしている。
【0047】
前記植付ケース42に取付ける植付爪1の裏側には、この植付爪1の長さ方向に沿って上下動する押出爪47を設け、この押出爪47を前記植付軸43周りに設ける押出カム48と、この押出カム48により連動されるカムレバー49や、スプリング50等を介して作動して、この押出爪47が植付爪1に対して上側位置に押上げられた状態で、この植付爪1が苗取口33を下動して苗の分離保持作用を行わせ、この植付爪1の下降支点部の植付行程では、この押出爪47が植付爪1に対して下動して、係合保持していた苗を土壌中へ押込んで一定深さに植付ける形態としている。
【0048】
ここにおいて、先端部の植付爪1を上下方向に長い略楕円形状の苗植付軌跡線Dを描くように昇降駆動して、苗タンク2から繰出される苗を分離保持して、フロート3の滑走によって均平される土壌面に植付ける植付装置4を有した苗植装置5を、変速操作レバー6による油圧無段変速装置7Aの変速操作によって変速走行する走行車体8の後部に装着して連動構成して苗植えする苗植機において、前記走行変速による加速、または減速完了後に、エンジン9の回転を若干速増速、または減速制御することを特徴とする苗植伝動装置の構成とする。
【0049】
なお、植付爪1が苗植付軌跡線Dを描くことにより、植付装置4は作動中、不等速で回転している。
前記エンジン9を駆動して車体8を走行させ、苗植装置5による苗植作用を行わせる。
【0050】
前記植付装置4は、この植付爪1が植付軌跡線Dに沿って作動して、この上支点位置を下降するとき苗タンク2を繰出されるマット苗から植付本数の苗を分離、保持して下降し、フロート3によって均平された土壌面に一定深さに植付ける。このような苗植走行においては、変速操作レバー6を操作することにより、油圧無段変速装置7Aを作動させて変速を行い、走行速と同時に苗植装置5の苗植速を連動し、苗植作業速を変速伝動することができる。
【0051】
該変速操作レバー6を変速操作すると、前記トラニオンアーム77が回動して油圧無段変速装置7Aが高速位置または低速位置へ切り替えられる。この変速操作レバー6の動きをポテンショメータ75が検知し、伝動速度が加速または減速されたことを制御装置38に伝達する。
【0052】
これにより、加速時はエンジン9の回転数を若干増加させ、減速時は若干エンジン9の回転数を減少させる制御が行われる。該エンジン9の回転数制御を行なうことにより、急激な加速または減速の際に植付装置4に脈動が発生しても、エンジン9の回転数の増加または減少によってこの脈動を停止させることができるので、植付装置4の回転駆動が適正となり、苗の植付タイミングが乱れることなく、植付精度が向上する。
【0053】
また、増速及び減速を制御装置38が自動的に行なうことにより、作業者は脈動を防止するために、微細に変速操作レバー6を操作して増速または減速を行う必要がなくなるので、脈動の発生が確実に防止されて植付精度が向上すると共に、作業者の操作工数が減少し、操作性が向上すると共に作業者の労力が軽減される。
【0054】
また、変速操作レバー6の操作による加速、または減速の完了後に、前記ポテンショメータ75が検知した変速操作レバー6の操作量に加えて、前記油圧無段変速装置7Aを若干増速、または減速する方向にトラニオンアーム77を作動させ、脈動が発生した際に油圧無段変速装置7Aの出力を変更して脈動を停止させる構成とすることもできる。
【0055】
上記構成の場合も、脈動の発生が自動的に防止されて植付精度が向上すると共に、作業者が細かい操作を行なう必要がなくなり操作性が向上し、作業者の労力が軽減される。
なお、油圧無段変速装置7Aのトラニオンアーム77を増速方向または減速方向に移動させる構成は、図6〜図10で示す油圧無段変速装置のモータアシスト機構を利用すると構成が簡潔になるとともに、何らかの故障が生じた場合でも、ブレーキペダル81の操作によって機体を停止させられるので、安全性が向上する。
【0056】
図3,図11〜図13で示すように、前記油圧無段変速装置7Aを備え、該油圧無段変速装置7Aによって苗植作業速を変速伝動する苗移植機において、この油圧無段変速装置7Aのトラニオンアーム77がアシストモータ76に駆動されて高速位置、または低速位置へ切り替えられ(ステップS1)、伝動速が加速、または減速されると、伝動速度の加速時は、該油圧無段変速装置7Aの伝動速をさらに増速させる方向にトラニオンアーム77を移動させ(S2)、伝動速度の減速時は、伝動速度をさらに減速させる方向にトラニオンアーム77を移動させる(S3)無段変速制御が行われる。
【0057】
上記油圧無段変速装置7Aの伝動回転制御によって、急激な加速または減速が行われた際に、植付装置4に生じる脈動を停止させることができるので、苗の植付精度が向上すると共に、作業者の労力が軽減される。
【0058】
さらに、前記苗植装置5の伝動に苗の植付間隔を調節するための苗植付間隔切替装置10、及びこれを操作する植付間隔調節レバー11を有する苗植機において、前記苗植付間隔を広く設定した状態において、前記変速操作レバー6の操作による加速、または減速の完了後に、前記エンジン9回転、または油圧無段変速装置7Aを若干速増速制御、または若干減速制御する構成である。
【0059】
前記のような苗植装置5の植付装置4の伝動は、走行車体8の走行伝動速に対する苗植付装置4の植付伝動速の伝動比を変えることによって、前後方向の苗植付間隔を広、狭に変更調節することができるが(S4)、この苗植付間隔調節装置10の伝動を植付間隔調節レバー11等によって、植付間隔を広くする側へ操作する(S5)ことによって、前記のように苗植走行の伝動速が加速(S6)、または減速(S7)されると、これら加速、または減速の完了後に、前記エンジン9、または油圧無断変速装置7Aの回転、変速を若干増速、または減速制御して、前記のような植付装置4における脈動現象をなくするものである。
【0060】
前記植付間隔調節レバー11の位置を検出すべく、植付間隔調節レバー11の下端部には間隔ポテンショメータ39を設け、該間隔ポテンショメータ39の傾斜角度に対応する信号を制御装置38に発信するものとする。
【0061】
前記エンジン9からベルト掛け伝動される油圧無段変速装置7Aは、副変速ギアや、デフギア、走行クラッチ等を介して、前輪22、後輪16を連動すると共に、前記副変速ギアのうち低速域の伝動からPTO軸25を取出して、植付クラッチや、苗植付間隔調節装置10用の植付変速ギア等を介して苗植装置5を伝動する形態である。そして、前記変速操作レバー6を操作して、油圧無段変速装置7Aのトラニオンアーム77、及びこれと一体のトラニオンアーム37を回動して、中立位置Nから前進側Fへ正回動し、または後進側Rへ逆回動して、無段変速走行する伝動形態である。
【0062】
前記油圧無段変速装置7Aを構成して、変速を高速位置から中立位置へ切替えて、または、中速位置から高速位置へ切替えて苗植作業を行う場合に、この変速操作による変速直後にトラニオンアーム77を若干高速側、または中速側へ作動させて、油圧無段変速装置7Aを若干加速、または減速して、苗植装置4の伝動速を加減制御する。前記変速操作による中速位置への変速、または高速位置への変速が行われたことの検出は、後輪回転センサ52によって行われる。また、前記油圧無段変速装置7Aを設けた形態、またはこれを設けないで単なるギア変速機構等による変速装置7を設けた形態において、前記エンジン9のスロットルを増、減操作するスロットルモータ53を設けて制御することもできる。
【0063】
次に、前記苗植装置5の前側には、この各フロート3の前側の土壌面を掻き均す代掻ロータ55を配置して、前記PTO軸25から分岐連動される連動軸56を介して伝動回転する。これら各代掻ロータ55を軸装するロータ伝動ケース57は、苗植装置5主体の苗植フレーム58に対して支持フレーム59を介して着脱可能の構成としている。苗植装置5及びこのフロート3等が昇降されると、これに伴って代掻ロータ54も昇降して、土壌面を凹凸部を掻き均しながら、フロート3の滑走によって均平することができる。
【0064】
図14〜図17で示すように、前記各代掻ロータ55は、前記ロータ伝動ケース57に両端部を軸受けしたロータ軸59に円筒かご形状のロータケース60を一体回転するように設け、このロータケース60の内部には6等分角毎に配置した羽根軸61を、前記ロータ軸59と平行に設ける。各羽根軸61にはロータ羽根板62を有し、各ロータ羽根板62が各自の羽根軸61の周りに回動して、外周端を前記ロータ軸59の周りに放射方向へ向けて突出させたり、このロータケース60の回転後退方向へ向けて傾斜させたり、突出角度(代掻角度)を変更調節することができる。このような各ロータ羽根板62の代掻角度は、ロータケース60の両端部のギアケース63において、前記ロータ軸61端に固定のギア64を、前記ロータ軸59の端部に回転自在のセンタギア65の周りに噛合させて、しかも、このセンタギア65をステッピングモータ等の制御用のモータ66で駆動回転することによって、適宜角度に変更調節制御することができる。
【0065】
図17で示すように、このような代掻ロータ55の代掻角度の変更制御は、土壌の硬、軟度合に応じて操作する感度レバー67によって行うことができる。この感度レバー67を柔い土壌の場合の側へ操作すると、代掻角度は倒伏して、ロータ羽根板62の突出量は減少し、土壌を掻く作用は小さくなる。
【0066】
また、このロータ羽根板62の代掻角度を、フロート3等に設ける硬軟センサ等によって連動制御することも可能である。硬い土壌の場合は代掻角度を起立させてロータケース60からの突出量を長くし、逆に、軟い土壌の場合は倒して突出量を短かく制御する。
【0067】
次に、主として図18(a)、(b)及び図19に基づいて、前記苗植機の操向する前輪22の操向方向をLEDランプ70で点灯表示して、運転席13から運転者Mがこの点灯表示をサイドフロア18の透視窓71が運転しながら直接透視することによって、機体の直進性を維持し易くするものである。
【0068】
この透視窓71には、前輪22の直進方向の基準となる合印72(LEDによって表示させるも可能)を設けておき、前輪22側のランプ70を、操向位置Bからこの合印に平行させるようにA、ステアリングハンド15によって操向操作する。前記LEDランプ70は、前輪22の内側に沿って操向自在のランプディスク73にリング状に配置したもので、連続点灯、乃至点滅点灯させる形態とするもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 植付爪
2 苗タンク
3 フロート
4 植付装置
5 苗植装置
6 変速操作レバー
7A 油圧無断変速装置
8 走行車体
9 エンジン
11 植付間隔調節レバー
38 制御装置
39 間隔ポテンショメータ(操作検出部材)
D 苗植付軌跡線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する車体(8)の走行速度を操作する変速操作レバー(6)を設け、該車体(8)の後部に苗を積載して送り出す苗植装置(5)を設け、該苗載台(2)から植付爪(1)で苗を掻き取って植え付ける植付装置(4)を設け、該植付装置(4)を不等速回転する構成とした苗移植機において、
前記車体(8)に駆動力を供給するエンジン(9)を設け、前記変速操作レバー(6)を操作して加速または減速を完了すると前記エンジン(9)の回転数を増加または減少させる制御を行なう制御装置(38)を設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
圃場を走行する車体(8)の走行速度を操作する変速操作レバー(6)を設け、該車体(8)の後部に苗を積載して送り出す苗植装置(5)を設け、該苗載台(2)から植付爪(1)で苗を掻き取って植え付ける植付装置(4)を設け、該植付装置(4)を不等速回転する構成とした苗移植機において、
前記変速操作レバー(6)の操作に対応して車体(8)の走行速度を切り替える油圧無段変速装置(7A)を設け、前記変速操作レバー(6)を操作して加速または減速を完了すると前記油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に作動させる制御を行なう制御装置(38)を設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項3】
前記植付装置(4)の苗の植付間隔を調節する植付間隔調節レバー(11)を設け、該植付間隔調節レバー(11)の操作を検出する操作検出部材(39)を設け、該操作検出部材(39)が植付間隔「広い」側に位置することを検出すると、前記変速操作レバー(6)の操作による加速または減速の完了後に、前記制御装置(38)がエンジン(9)の回転数を増加または減少させる、あるいは油圧無段変速装置(7A)を増速または減速方向に作動させる制御を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の苗植伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−19744(P2012−19744A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160808(P2010−160808)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】