説明

茄子科の形成層由来植物幹細胞及びこれの分離培養方法

本発明は茄子科(family Solanaceae)の形成層由来幹細胞及びその分離培養方法に関する。本発明に係わる茄子科の形成層由来幹細胞は脱分化過程を経ることなく未分化状態で分離され、長期培養時にも細胞生長率と生長パターンが変化せず安定的に維持され、大量培養が可能で有用である。また、本発明に係わる茄子科の形成層由来幹細胞及びその培養物は、シワ改善効果が強いと知られているレチノイン酸によりも優れた効率で老化と係わる酵素の生成を抑制させ、さらにプロコラーゲンの生合成を誘導効果があるため、老化防止及び老化遅延に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茄子科(family Solanaceae)の形成層由来幹細胞及びその分離培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、過去食糧資源と認識されていたが、現在では薬剤、香料、色素、農薬、染料等を含んだ広範囲な化学物質の供給源としてその意義が拡大している。特に、植物由来有用物質の多くは、抗ウイルス、抗バクテリア、抗癌、抗酸化能力等の生理活性があって、新医薬品として開発可能な理想的な資源として注目されており、多くの植物由来物質の化学構造と活性との間の関係を解明するための研究が盛んに行われている。
【0003】
しかし、現状では、生理活性物質は、医薬品として開発し難しく、その主な理由は次の通りである。第一に、植物内の生理活性物質の含有量が極めて限定的である。第二に、植物の生長速度は非常に遅い。第三に、植物由来生理活性物質は、植物の特定器官内にだけ少量存在する。第四に、破壊という環境問題が係わっている。第五に、植物由来生理活性物質の場合、化学的な構造が非常に複雑で、多段階重合プロセスが必要であり、生産費用が非常に高いという経済的な問題がある。従って、植物由来生理活性物質を商業的に安定的に供給することはかなり難しい。
【0004】
ところが、生物工学技法の一つである植物細胞培養方法は、環境問題を誘発せずに、植物由来有用物質を安定的に供給できる、最も理想的な技術として永く評価されている。韓国公開特許1995−0000870(1995年1月3日)によれば、植物細胞培養による有用物質の生産は、植物から直接抽出する方法より数多くの長所がある。特に、既存の抽出法とは違って、外部環境の影響を受けずに持続的な生産が可能で、生態系破壊のような懸念される問題を解決できる最適な方法として考えられている。しかし、現状は植物細胞培養に対する大いなる関心と努力にもかかわらず産業化に成功した例はまだきわめて一部にすぎない。これは、数多くの植物細胞培養で細胞増殖と生産性の変異が主な問題として依然として残っているためである。
【0005】
植物発現システムに植物細胞を利用する場合、植物細胞の分化組織、例えば葉、幹、種等は、分裂能を喪失した永久組織であるため、分裂能を有する細胞株に転換するために脱分化過程を必ず行う必要がある。前記脱分化過程は、植物体のある組織や器官を利用して培養した時、既に特定機能を行えるよう分化した組織や細胞の状態を脱分化することを意味する。しかし、このような脱分化過程中に染色体変異によって細胞株の深刻な変異が発生しうる。
【0006】
特に、植物細胞培養を介した有用物質の生産は、長期間の培養期間において、早い細胞増殖と高い代謝物質生産能が安定的に維持されてこそ産業化が可能であるが、多くの細胞株は、継代培養によって本来とは異なる数多くの変異を受けるようになる。従って、このような変異の問題を克服して、植物細胞培養を介して有用物質生産において、遺伝的に安定した細胞株を獲得するための方法が切に望まれる。
【0007】
そこで、本発明者の一部は、植物の幹から採取した形成層だけを利用してカルスを誘導する方法を開発したが(韓国登録特許第0533120号)、この登録特許は単に木本植物の幹形成層を利用してカルスを誘導しただけであった。カルス(callus)とは、脱分化が起きて形成された組織であるため、前記登録特許は依然として脱分化による変異問題を未解決のままであった。
【0008】
また、本発明者の一部は、脱分化による変異の問題を解決して安定的に増殖が可能な遺伝的安全性が高い細胞株の提供方法として国際特許出願PCT/KR2006/001544号の発明を開発した。しかし、茄子科リコペルシコン属に属するトマトは、リコペン(lycopene)、トマチン(tomatin)、クロロフィル(chlorophyll)、ビタミンA・C、無機質、有機酸等を含む有用植物として広く知られており、これから脱分化による変異の問題を解決して、安定的に増殖が可能な遺伝的安全性が高い細胞株を獲得することが求められている。
【0009】
そこで、本発明者は、茄子科植物の形成層由来幹細胞を分離することによって有用な植物細胞株を提供しようと鋭意努力した結果、茄子科植物の形成層由来幹細胞を分離し、前記幹細胞が安定的に増殖して、培養時変異がないことを確認して、本発明を完成した。
【発明の要約】
【0010】
本発明の目的は、脱分化過程を経ていない茄子科の形成層由来幹細胞及びその分離方法を提供することである。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は茄子科の形成層から由来し、脱分化を経ない先天的未分化細胞であることを特徴とする茄子科の形成層由来幹細胞を提供する。
【0012】
本発明はまた、以下の工程を含む茄子科の形成層由来幹細胞の分離方法を提供する:
(a)茄子科植物から形成層含有組織を取得する工程;
(b)前記取得された形成層含有組織を培地で培養する工程;及び
(c)前記形成層から細胞を分離することによって形成層由来幹細胞を取得する工程。
【0013】
本発明の他の特徴及び具現例は、以下の詳細な説明及び添付された特許請求の範囲からより一層明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Aは材料植物(トマト)の写真であり、Bは形成層由来幹細胞を誘導してその他組織由来カルス層と分離し始めた形態を観察した写真である。
【図2】幹細胞(A)及びトマトのカルス(B)の細胞凝集の程度を観察した顕微鏡写真である。
【図3】Aは形成層由来幹細胞の多数の液包(vacuole)を有する形態学的特徴を示した写真であり、Bは形成層由来幹細胞のミトコンドリアを確認した写真であり、Cはトマトのカルスのミトコンドリアを確認した写真である。
【図4】本発明に係る幹細胞とトマトのカルスの生長速度を示したグラフである。
【図5】3L空気浮揚式(air-lift)生物反応器(A)、20L空気浮揚式生物反応器(B)及び250L空気浮揚式生物反応器(C)で7日間培養した結果を示した写真である。
【図6】幹細胞を導管要素(TE)に分化させたものを示した写真であり、Aは偏光顕微鏡(polarized-light microscope)で観察した写真であり、Bは光学顕微鏡で観察した写真である。(左側下段スケールバー:50μm;倍率×400)。
【図7】本発明に係る幹細胞抽出物及び培養液処理時プロコラーゲン生合成促進率を示したグラフである
【図8】線維芽細胞に紫外線照射してMMP−1を誘導する際に、本発明に係る幹細胞抽出物及び培養液のMMP−1生成抑制効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野に熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常、本明細書において使用された命名法は、本技術分野において周知であり、しかも汎用されるものである。
本発明の詳細な説明などにおいて使用される主な用語の定義は、下記の通りである。
【0016】
本願において維管束「形成層」は植物の維管束組織(vascular tissue)内に位置する側部分裂組織(lateral meristem)であり、幹と根元に位置する。形成層の活動によって植物の肥大生長が起き、その結果、11,000年以上の年輪を有する巨大植物体が存在できるようになる。発生学的に維管束形成層は、前形成層を起源とするため、分裂組織的連続性を維持しながら徐々に分化した同一分裂組織に便宜上区分されるだけで(植物形態学、イ・ジェド他7人共著、アカデミー書籍、第10章、1993)、本発明において形成層は、前形成層を含むと解釈される。このような形成層と前形成層は、同じ一次分裂組織として、本発明において形成層及び前形成層組織を用いて同じ効果を得ることは明らかである。
【0017】
本願において植物「幹細胞」(stem cell)とは、脱分化過程を経ておらず、遺伝的により安定した先天的な未分化細胞をいう。
【0018】
本願において「先天的な未分化状態(innately undifferentiated)」とは、脱分化過程を経て未分化状態にあることではなく、本来的に分化前状態を維持することをいう。
【0019】
本願において「カルス」とは、脱分化過程を介して分化しない状態になった細胞または細胞塊(PNAS, 99(25):15843, 2002)をいう。
【0020】
一観点において、本発明は、茄子科の形成層から由来し、脱分化を経ない先天的未分化細胞であることを特徴とする茄子科の形成層由来幹細胞に関する。
【0021】
分化済みの組織である葉や幹、根元の部分を用いる場合、カルスを形成するためには、分化した組織から未分化組織に戻る(rejuvenilation)脱分化(dedifferentiation)過程を経るが、この脱分化過程中に体細胞に突然変異が起きて、細胞不安定性の原因となる。そこで、本発明者等は、体細胞変異が殆どない植物細胞システムを研究し、分裂組織である形成層だけで特異的に細胞株を誘導する場合、脱分化を経ずに分裂組織自体が有している旺盛な分裂能を用いることができるため、体細胞変異がなく遺伝的に安全性が高く、生理的に均一な細胞株を誘導できる点に着眼して形成層由来幹細胞の分離を行った。
【0022】
本発明に係る茄子科の形成層由来幹細胞は以下の少なくとも一つの特性を有することを特徴とする:
(a)懸濁培養時、茄子科の脱分化されたカルスに比べて、多数の単細胞を含むか小さいサイズの細胞集合体を含むこと;
(b)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、多数のミトコンドリアを有すること;
(c)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、生長速度が速く、そして永く成長することができること;
(d)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、生物反応器で剪断ストレス(shear stress)に対して低い感受性を有すること;及び
(e)導管要素(tracheary elements)に分化できる分化能を有すること。
【0023】
「多数のミトコンドリア」を有するとは、茄子科の脱分化されたカルスと比較してミトコンドリアを少なくとも二倍を超えて有することをいう。この時、本発明に係る幹細胞は茄子科の脱分化されたカルスと比較して活性が増加したミトコンドリアを有することを特徴とするが、これは顕微鏡下で活発に動くミトコンドリアを有することをいう。また、茄子科形成層由来幹細胞の分化を誘導して、導管要素に分化できる分化能を有することを確認した。植物幹細胞を特徴づける特性としては自己再生能力(self renewal)以外に分化能(pluripotency)があったため、本発明に係る茄子科形成層由来細胞が幹細胞であることを確認した。
【0024】
本発明において、前記幹細胞は前記(a)乃至(e)の特性のうち少なくとも二つ以上の特性を有することを特徴とし、好ましくは前記(a)乃至(e)の特性のうち少なくとも三つ以上の特性を有することを特徴とし、さらに好ましくは前記(a)乃至(e)の特性のうち少なくとも四つ以上の特性を有することを特徴とする。また、本発明において、前記幹細胞は前記(a)乃至(e)の特性を全て有してもよい。
【0025】
また、本発明に係わる幹細胞は分離された時、多数の液包を有することを特徴とするが、この時「多数の液包」を有することは、茄子科の脱分化されたカルス等と比較して二倍以上の複数の液包を有することをいう。また、本発明に係る幹細胞は、茄子科のカルス等と比較してサイズ面で小さい液包を有する。
【0026】
一方、本発明に係る幹細胞は(a)茄子科植物から形成層含有組織を取得する工程;(b)前記取得された形成層含有組織を培地で培養する工程;及び(c)前記形成層から細胞を分離することによって形成層由来幹細胞を取得する工程を含む分離方法によって得られる。この時、前記工程(b)は、形成層含有組織を培養して形成層から増殖する培養された形成層を誘導することによって行ってもよく、前記工程(c)は、培養された形成層を分離することによって形成層由来幹細胞を取得することによって行ってもよい。また、前記工程(b)は、オーキシン(auxin)を含んだ培地で培養してもよく、この時、オーキシンとしては、NAA(α-naphtalene acetic acid)またはIAA(indole-3-acetic acid)を使用でき、このようなオーキシンは1〜5mg/リットルの濃度で含まれてもよい。また、前記工程(c)は、形成層以外の部分から無定形に増殖するカルス層から前記培養された形成層を分離することによって形成層由来幹細胞を取得することによって行ってもよい。
【0027】
本発明の一実施例では、茄子科リコペルシコン属(genus Lycopersicon)のトマトからトマトの形成層由来幹細胞を分離し、そこで本発明は好ましくリコペルシコン属植物の形成層由来幹細胞であることを特徴とし、さらに好ましくはトマトの形成層由来幹細胞であることを特徴とする。
【0028】
本発明の他の実施例では、トマト由来形成層由来幹細胞及びその培養液がプロコラーゲン生合成を促進するだけでなく、シワ改善効果が高いと知られているレチノイン酸よりも優れたコラーゲン分解酵素(MMP−1)生成抑制効果を有しており、シワ防止及び改善効果があることを確認した。従って、本発明に幹細胞及びその培養液は非常に優秀な老化防止用組成物として有用である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業者において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0030】
《実施例1:茄子科の形成層由来幹細胞の製造》
1−1:植物材料の準備
茄子科リコペルシコン属のトマト(Lycopericum esculentum、(株)セジョン種苗から購入)から形成層由来幹細胞を取得するため、幹(図1A)を採取した後、直ちに抗酸化剤100mg/Lアスコルビン酸(L-ascorbic acid、DUCHEFA,The Netherlands)溶液に沈積して、運搬及び保管した。この時、前形成層を利用して、同じ幹細胞を取得するためには幹の代わりに小枝を採取する。
【0031】
その後、0.1%ベノミル(benomyl、Dongbu Hannong Chemical,Korea)、0.1%ダコニール(daconil、Dongbu Hannong Chemical,Korea)、0.1%ストレプトマイシン(sterptomycin sulphate、DUCHEFA,The Netherlands)、0.01%セフォタキシム(cefotaxime sodium、DUCHEFA,The Netherlands)の混合溶液に10分間前処理後フェノール化合物(phenolic compound)と残存化学物質を取り除くために水道水(tap water)で5分間洗浄した。そして、70%エタノール(ethanol、DC Chemical,Korea)に1分、1.5%過酸化水素(hydrogen peroxide、LG Chemical,Korea)3分、0.5%CLOROX溶液に5分、0.1%CLOROX溶液に5分表面殺菌後3〜4回洗浄した。
【0032】
1−2:幹から形成層含む切片体の製造及び組織分離
前記実施例1−1の殺菌過程を経た幹(前形成層利用時小枝)を切って木部から分裂能が旺盛な形成層が含まれた篩部(phloem)・皮層(cortex)及び表皮(epidermis)組織を剥ぎ取った。
【0033】
1−3:トマトの形成層由来幹細胞誘導工程
前記実施例1−2で準備した形成層を含む切片体は表1の幹細胞誘導培地(培地1)上で培養した。
【0034】
【表1】

【0035】
培地に生長調節剤として、NAA、IAAのようなオーキシンは1〜5mg/Lの濃度で添加することができるが、好ましくは2mg/Lの濃度で添加する。培養は、25±1℃に調節された暗室で実施された。
【0036】
前記のように培養した結果、初期培養7〜10日目に形成層から細胞分裂が肉眼で観察され、培養3週(21日)以後に篩部、皮層及び表皮からなる層から脱分化による無定形のカルスが誘導され始めた。培養30日経過後、培養された形成層と篩部を含んだ上層、即ち無定形のカルス層に分離し始めた(図1B)。二つの層が自然に分離する時まで待ち、完全に分離が行われた後、各々異なるペトリ皿に分離培養した。分離後、生長率が良い白くかつ柔らかい部分を誘導培地と同様の新しい培地で毎14日目に継代した。
【0037】
一方、比較のためにトマトの幹から切片体を得て消毒した後、前記表1の培地で培養してカルスを誘導した。獲得した幹切片体から誘導されたカルスは、互いに異なる細胞の間の分裂速度の差によって不規則な形を成し、生長率が不安定で褐変しやすくなる現象を示した。しかし、トマトの形成層由来幹細胞は、明るい色を維持した。
【0038】
さらに、トマトの形成層由来幹細胞は長期培養時細胞の生長率、生長パターン、凝集の程度に変化を示すことなく安定的に維持され、大量培養が可能であることを確認した。しかし、トマトの幹から誘導したカルスの場合、長期培養時細胞の生長率、生長パターンに変化を示し、高い凝集程度の結果、細胞の褐変現象及び壊死現象が現れ、安定した大量培養が不可能であった。
【0039】
《実施例2:茄子科形成層由来幹細胞の増殖及び特性観察》
前記実施例1から分離した形成層由来幹細胞を下記表2の液状培地が含まれていたフラスコに入れて、暗条件、25±1℃、100rpmの回転攪拌器(shaker)で培養した。継代培養周期は、2週間に固定することによって培養細胞が常に対数生長期状態で高い活力を維持することができるようにした。
【0040】
【表2】

【0041】
細胞凝集の程度(biological microscope CX31、Olympus,Japan)を考察すると、本発明に係わる幹細胞は、図2Aに示したように、懸濁培養時に多くの数の単細胞を含み、一部は非常に小さいサイズの細胞集合体として存在することを確認することができた。即ち、本発明に係わる幹細胞を培養した結果、最大の凝集の大きさが500μmに過ぎなかった。一方、対照群で韓国生物資源センターから受けたトマトのカルス(PC10623)を観察した結果、図2Bに示したように高度な凝集が観察され、最大の凝集の大きさが10mmにまで達した。更に、増殖培養完了後、継代培養される前に本発明に係わる幹細胞とカルス(PC10623)の細胞をサンプリングして、2%Evan’s blue staining(5min)methodを利用して細胞生存率(%)を算出した結果、表3に示したように、本発明に係わる幹細胞は96.33%が生細胞であるのに対して、カルスは65.2%だけが生細胞と確認された。
【0042】
【表3】

【0043】
一方、本発明に係わる幹細胞は図3Aのように多数の液包を有する形態学的特徴を観察することができた。即ち、本発明に係る幹細胞は、分離直後には多数の液包を有する特徴を示す。但し、分離した幹細胞が培養過程において幹細胞に加えられる圧力が低くなり、1〜2個の液飽のみ存在する形態に変化することが分かった。このように少数の液包を有する形態に変化した幹細胞の場合は、圧力を加えると、再び多数の液包を有する特徴を示す。このような特徴は、植物体内に存在する未分化細胞においても圧力等のような原因によって現れる特徴であり、そこで本発明に係る幹細胞は、未分化状態であることを確認することができた。また、本発明に係わる幹細胞は、光学顕微鏡BX41TFを介して観察した結果、非常に活発に動くミトコンドリアを多数観察することができた。図3Bは本発明に係わる幹細胞が多数のミトコンドリアを有すること示しており、矢印はミトコンドリアを示す。一方、トマトのカルス(PC10623)の場合、図3C同様このような特徴を確認できなかった。図3Cで矢印は、カルス細胞のミトコンドリアを示す。
【0044】
一方、大量培養の可能性を調べるため、3Lの内容積を有する空気浮揚式生物反応器(airlift bioreactor、サムソン科学,Korea)で本発明に係わるトマトの形成層由来幹細胞を培養した。培地は表2の液状培地を用いて、暗条件、25±1℃に一定維持し、aeration rateは0.1〜0.3vvmの条件にした。
【0045】
【表4】

【0046】
その結果、表4及び図4に示したように、トマトのカルス(PC10623)の生長速度は、1.9倍で、GI(growth index = (maximum DCW − initial DCW)/initial DCW)は0.9に過ぎなかったが、本発明に係わる形成層由来幹細胞は、生長速度が6.3倍で、GIが5.32とトマトカルスに比べて高いことを確認することができた。通常、反応器の場合、表4のトマトカルスの生存率結果から分かるように、反応器内における生長輪(growth ring)生成と培養中の植物培養体凝集性と細胞壁が固く、剪断に対する感受性で細胞生存率(cell viability)が急激に減少するが、形成層由来幹細胞培養物は、生物反応器内の生長輪面積をごく小さく形成し、培養器に簡単な刺激を与えて培地を動かすと、内壁のリング(ring)が簡単に解消された。また、凝集が小さく、多くの液包を有して、剪断に対する感受性が弱低く、細胞生存率に大きい影響を受けないことが明らかになった。
【0047】
【表5】

【0048】
さらに、表5及び図5に示したように、3L空気浮揚式生物反応器、20L空気浮揚式生物反応器及び250L空気浮揚式生物反応器で7日間培養した結果、250Lの大量培養時にも、却ってリッター当り乾燥細胞量が増加したことが明らかになった。
【0049】
即ち、本発明に係わる形成層由来幹細胞は、大量培養のための生物反応器で剪断ストレスに対し低い感受性を有するため、生物反応器内における急速大量生長が可能であることを確認した。従って、本発明に係わる形成層由来幹細胞がトマトの脱分化されたカルスに比べて、剪断ストレスに対し低い感受性を有することが分かった。
【0050】
また、植物幹細胞を特徴づける特性には自己再生能力以外に分化能がある。トマトの形成層由来幹細胞の導管要素分化を誘導するため、NAA 10mg/L、Kinetin 2mg/L、GA3 6mg/L、sucrose 6%が含まれたMS medium条件で25±1℃、暗条件で培養した結果、図6に示したように、形成層幹細胞から導管要素が分化することを確認することができた。
【0051】
《実施例3:茄子科の形成層由来幹細胞の抽出物製造》
実施例2同様に14日間懸濁培養した幹細胞を回収して培養液を取り除いた後、取得された幹細胞500gに500mLのDMSOを加えて、50℃で6時間攪拌させながら溶解させた。その後、3,000gで10分間遠心分離させて上澄液を取ってDMSO可溶性物質を得た。得られたDMSO可溶性物質を、回転真空濃縮器を利用して濃縮し、濃縮試料を、凍結乾燥器を利用して乾燥させてDMSO抽出物を取得して用いた。
【0052】
《実施例4:プロコラーゲン(procollagen)生合成促進確認−抗老化効果の確認》
皮膚のコラーゲン生成減少は、シワ生成の原因であるため、本発明に係わる幹細胞及びその培養液がプロコラーゲン生合成を促進するかを確認するために次の実験を行った。線維芽細胞(Normal human dermal fibroblast,NHDF)は、MCTT社(韓国)から購入し、10%FBSが添加されたDMEM培地(Welgene,韓国)で培養した。
【0053】
まず、線維芽細胞を1x10cells/wellで、48well plateに分株して培養した。次に、試料をDMEM serum free mediaに希釈して、それらで細胞を処理し、72時間培養後、線維芽細胞培養液からprocollagen Type I C−peptide EIA kit(Takara Bio Inc.,MK101)を利用して、説明書の方法に従ってプロコラーゲン量を測定した。この時、試料は実験群としてトマト形成層由来幹細胞DMSO抽出物50ppm、培養液10体積%を用いて、陽性対照群としてTGF−betaを10ng/μmで処理した。
【0054】
その結果、図7に示したように、試料無処理群(control)のプロコラーゲン量を100とした時、相対的な試料のプロコラーゲン生合成量を調べると、本発明に係わる幹細胞抽出物及びその培養液を処理した場合、全プロコラーゲン生合成を促進させる効果があることを確認することができた。特に、培養液の場合、陽性対照群であるTGF−betaよりも優れたプロコラーゲン生成促進効果を示しており、優れたシワ改善効果が期待される。図7で細胞は幹細胞のDMSO抽出物を示しており、培養液は前記幹細胞抽出物製造時に取り除かれた培養液を示す。
【0055】
《実施例5:紫外線照射によって誘導されるコラーゲン分解酵素(MMP−1)生成抑制効果確認−抗老化効果の確認》
紫外線露出によってMMPが増加する場合、増加したMMPsは皮膚のコラーゲンを分解して皮膚のシワを形成する。紫外線によって増加したMMP−1発現がトマト形成層由来幹細胞抽出物またはその培養液によって抑制される効果を確認するために次の実験を行った。
【0056】
まず、線維芽細胞(MCTT社,韓国)を3×10/(24well)で接種して、12時間培養して付着後、FBS無添加DMEM培地で12時間スターベション(starvation)した。DPBSバッファーで洗浄してUVA(365nm)10mJ/cmを照射して、各試料(トマトの形成層由来幹細胞のDMSO抽出物:50ppm;培養液:10体積%)をDMEM血清free培地に濃度毎に48時間処理した。培養した培地を回収して、一次試験ではウエスタンブロットアッセイを、二次試験ではELISAアッセイを介してMMP−1量を測定した。この時、陽性対照群として10uMのレチノイン酸(retinoic acid)を用いた。
【0057】
その結果、図8に示したように、本発明に係る幹細胞抽出物及び培養液は、シワ改善効果が高いと知られているレチノイン酸よりも効果的にMMP−1の発現を抑制することが明らかになり、シワ防止及び改善効果があることが明らかになった。特に、培養液の場合、UV処理しない場合を100とした場合、MMP−1活性が7.07に過ぎなく、非常に優れたMMP−1発現抑制効能を有することが明らかになった。これは、レチノイン酸と比較しても約23倍優れた抑制能を示しており、老化防止用化粧料組成物として非常に有用なことが確認された。
【0058】
従って、前記実験結果と実施例5の実験結果をまとめると、本発明に係わる幹細胞及びその培養液は、優れた抗老化効果を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明に係わる茄子科の形成層由来幹細胞は脱分化過程を経ることなく未分化状態で分離して、長期培養時にも細胞生長率と生長パターンが変化せず安定的に維持され、大量培養が可能で有用である。また、本発明に係わる茄子科の形成層由来幹細胞及びその培養物は、シワ改善効果が強いと知られているレチノイン酸によりも優秀な効率で老化と係わる酵素の生成を抑制させ、さらにプロコラーゲンの生合成を誘導させる効果があるため、老化防止及び老化遅延に有用である。
【0060】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茄子科の形成層から由来し、脱分化を経ない先天的未分化細胞であることを特徴とする茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項2】
以下の少なくとも一つの特性を有することを特徴とする請求項1に記載の茄子科の形成層由来幹細胞:
(a)懸濁培養時、茄子科の脱分化されたカルスに比べて、多数の単細胞を含むか、又は小さいサイズの細胞集合体を含むこと;
(b)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、多数のミトコンドリアを有すること;
(c)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、生長速度が速く、そして永く成長することができること;
(d)茄子科の脱分化されたカルスに比べて、生物反応器での剪断ストレスに対して低い感受性を有すること;及び
(e)導管要素に分化できる分化能を有すること。
【請求項3】
前記(a)〜(e)の特性の少なくとも二つの特性を有することを特徴とする請求項2に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項4】
前記(a)〜(e)の特性の少なくとも三つの特性を有することを特徴とする請求項2に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項5】
前記(a)〜(e)の特性の少なくとも四つの特性を有することを特徴とする請求項2に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項6】
前記(a)〜(e)の特性を全て有することを特徴とする請求項2に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項7】
前記茄子科の形成層由来幹細胞は次の工程を含む分離方法により分離されることを特徴とする請求項1に記載の茄子科の形成層由来幹細胞:
(a)茄子科植物から形成層含有組織を取得する工程;
(b)前記取得された形成層含有組織を培地で培養する工程;及び
(c)前記形成層から細胞を分離することによって形成層由来幹細胞を取得する工程。
【請求項8】
前記茄子科植物はリコペルシコン属であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項9】
前記茄子科植物はトマトであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の茄子科の形成層由来幹細胞。
【請求項10】
次の工程を含む茄子科の形成層由来幹細胞の分離方法:
(a)茄子科植物から形成層含有組織を取得する工程;
(b)前記取得された形成層含有組織を培地で培養する工程;及び
(c)前記形成層から細胞を分離することによって形成層由来幹細胞を取得する工程。
【請求項11】
前記工程(b)の培地は、オーキシンを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記培地は1〜5mg/Lの濃度のオーキシンを含むことを特徴とする特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(c)は、培養された形成層を形成層以外の組織に由来する無定形に増殖するカルス層より分けた後、形成層から細胞を分離して形成層由来幹細胞を取得することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記茄子科植物はリコペルシコン属であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記茄子科植物はトマトであることを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−527890(P2012−527890A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512980(P2012−512980)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003424
【国際公開番号】WO2010/137918
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(510077978)株式会社ウンファ (11)
【Fターム(参考)】