説明

荷電粒子照射野形成装置

【課題】 各治療に共通に利用でき、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができる荷電粒子照射野形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 加速器で加速された荷電粒子ビーム1を照射対象に照射するものであり、荷電粒子ビーム1によって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、拡大ブラッグピーク形成器は、平板の一方向にスリット状の穴5が周期的に形成され、荷電粒子ビーム1の照射方向に、スリット状の穴5の向きが同一方向となるようにして積層された同一形状の層板2と、スリット状の穴5の周期的な繰り返しの方向に層板それぞれを独立に移動させるとともに移動量を調節する図示していない移動機構とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラッグピークを持つ荷電粒子ビームを被照射体に照射するための荷電粒子照射野形成装置に関するものであり、特に癌腫瘍の治療等に供するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを被照射体に照射した場合、被照射体には、それらのエネルギーによって決まる被照射体における特定の深さにピークを有する線量分布が形成される。この線量分布のピークをブラッグピークという。従来、一般に知られている荷電粒子照射野形成装置は、荷電粒子ビームのエネルギー分布を拡大し、ブラッグピークの被照射体における深さ方向の厚さを大きくするために、荷電粒子ビーム発生装置と荷電粒子ビームが照射される被照射体との間に、エネルギー分布を拡大する装置を備えている。
【0003】
このエネルギー分布を拡大する装置として、リッジフィルタを使用したものがある。このリッジフィルタは、多数の楔形構造物を備え、この楔形構造物を、穴が開けられた荷電粒子ビームの通過領域よりも大きな面積の支持板に固定しており、この楔形構造物は階段状に形成されている。
【0004】
ブラッグピークの線量カーブにおけるピーク強度は、荷電粒子ビームのエネルギーを一定とした場合、楔形構造物における荷電粒子ビームと垂直な面の面積によって決まり、深さ方向の位置は、荷電粒子ビームが通過する楔形構造物の厚さよって変化する。従って、リッジフィルタ通過後のエネルギー分布は、楔形構造物の各階段形状によって決まるものである。そこで、正確なエネルギー分布を得るためには、精密な階段形状の形成が求められ、楔形構造物の各階段形状は、例えば、フライス盤等の機械加工によって精密加工がなされる。
【0005】
特許文献1では、楔形構造物の各階段形状の精密加工を不要とするために、異なる大きさの複数の異なる幅のスリット状穴が開けられた複数の板を荷電粒子ビームの進行方向に積層して、楔形構造物の各階段を形成することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−314324号公報(第3頁、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の機械加工によるリッジフィルタ、あるいは上記特許文献1に記載されたリッジフィルタでは、各症例の治療において必要とするブラッグピークの種類に対して、その種類の数だけのリッジフィルタを製作する必要があった。
【0008】
また、製作後、荷電粒子ビームを照射して所望のエネルギー分布が得られない場合は何度もカット&トライを繰り返すことになり、時間と材料を浪費していた。
【0009】
また、それぞれの治療に応じて、リッジフィルタを取り替える手間や、取り替えるための装置を必要としていた。
【0010】
この発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、各治療に共通に利用でき、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができる荷電粒子照射野形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る第1の荷電粒子照射野形成装置は、加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
平板の一方向にスリット状の穴が周期的に形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記スリット状の穴の向きが同一方向となるようにして積層された同一形状の層板と、
上記スリット状の穴の周期的な繰り返しの方向に上記層板それぞれを独立に移動させるとともに移動量を調節する移動機構と、
を備えたものである。
【0012】
この発明に係る第2の荷電粒子照射野形成装置は、加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
円板に、その中心近傍から周方向に周期的に扇状の穴が形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記円板の中心を合わせて積層された同一形状の層板と、
上記円板の軸を中心として周方向に上記層板それぞれを独立に回転させるとともに回転量を調節する第1の回転機構と、
を備えたものである。
【0013】
この発明に係る第3の荷電粒子照射野形成装置は、加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
円板に、その中心近傍から周方向に扇状の穴が形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記円板の中心を合わせて積層された同一形状の層板と、
上記円板の軸を中心として周方向に上記層板それぞれを独立に回転させるとともに回転量を調節する第1の回転機構と、
上記積層された層板を、上記層板の中心を回転軸として回転する第2の回転機構と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る第1、第2及び第3の荷電粒子照射野形成装置によれば、一つの拡大ブラッグピーク形成器を種々の症例の治療に共通に利用でき、かつ、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができるようになる。
【0015】
また、この発明に係る第2の荷電粒子照射野形成装置によれば、拡大ブラッグピーク形成器の外形の大きさが大きくならないようにすることができる。
【0016】
また、この発明に係る第3の荷電粒子照射野形成装置によれば、ブラッグピークの線量曲線を周方向の位置において均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態1を示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0018】
図1に示したように、拡大ブラッグピーク形成器は、並列に並ぶ同一の幅のスリット状穴5を有する層板2が複数枚、一様なエネルギーを有する加速器で加速された荷電粒子ビーム1の進行方向に積層され、上下方向の各層板2同士は、スリット状穴5の位置が相互に穴5の並ぶ一方向にずれるように配置されて、フィルタ要素6が繰り返しスリット状穴5の並ぶ一方向に形成されている。下記実施の形態2で説明するように、各層板2を独立に穴5の並ぶ方向に移動することができる移動機構を備えているので、スリット状穴5の位置のずれ量は、適宜調整できるように構成されている。また、各層板2には、アルミニウムあるいは黄銅等の材料が用いられている。また、拡大ブラッグピーク形成器に照射する荷電粒子ビーム1の領域は、各層板2が形成するフィルタ要素6の領域の範囲内にあり、照射対象の照射面積によって調整される。
【0019】
図2は、この実施の形態1の拡大ブラッグピーク形成器を3層の層板とした場合及び3層に対応する従来のリッジフィルタについて示す断面図であり、(a)は機械加工で成形されたリッジフィルタ、(b)は上記文献1の積層板によって形成されたリッジフィルタ、(c)はこの実施の形態1の層板2によって形成された拡大ブラッグピーク形成器である。
【0020】
図2に示したように、(a)、(b)、(c)にはそれぞれ繰り返し部分3が形成されており、(a)では、繰り返し部分3の階段形状が左右で面対称になっており、(b)では、同一方向の階段形状が繰り返されており、(c)では繰り返し部分3の左右で階段形状が上下反転しているが、この実施の形態1の拡大ブラッグピーク形成器(c)は、従来のリッジフィルタ(a)及び(b)と同様、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積及び、荷電粒子ビーム1が通過する3つの厚さを形成する部分を有する。
【0021】
図3は、図2(c)に示した拡大ブラッグピーク形成器によって形成される被照射体における深さ方向のブラッグピークの線量カーブ(図3(a))と、その相対的なピーク形状とエネルギー(図3(b))とを示す図であり、図4は、繰り返し形成されたフィルタ要素6によって発生する、合成されたブラッグピークを示す図である。図3に示したブラッグピークの線量カーブ及び図4に示した合成されたブラッグピーク8の線量カーブは、従来のリッジフィルタで得られたものと同様のものが得られる。
【0022】
この実施の形態1によれば、移動機構によりスリット状穴5の位置のずれ量は、適宜調整できるように構成されているので、荷電粒子ビーム1を照射しつつ、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を変えて、所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整し、一つの拡大ブラッグピーク形成器を種々の症例の治療に共通に利用できる。また、スリット状穴5の形状、層板2の積層枚数を変えることなく所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整できるので、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができるようになる。
【0023】
実施の形態2.
図5は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態2を示す断面図である。
【0024】
図5に示したように、この実施の形態2では、各層板2それぞれの位置を独立にスリット状穴5が並ぶ方向に所望の量だけずらすことができる位置調整機構4が設けられている。位置調整機構4は、雌ねじが形成された一方の支持枠4aと、一方の支持枠4aに設けられた雌ねじと螺合し、各層板2を個々に押す雄ねじ4bと、他方の支持枠を貫通し層板2に固定されたピン4d及び、ピン4dに設けられたばね4cとを備え、例えば、エンコーダとステッピングモータとの組み合わせにより雄ねじ4bの回転をコンピュータで遠隔操作することにより各層板2それぞれの位置を所望の量だけスリット状穴5が並ぶ一方向にずらすものである。この位置調整機構4による各層板2の位置調整によって、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を所望の量とすることができる。
【0025】
この実施の形態2によれば、各層板2を独立に移動させることにより、各層板2によって形成されるスリット状穴5部における荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を自由に変えることができる。これによって、ブラッグピークの線量カーブにおけるピーク形状を調整することができる。
【0026】
この位置調整機構4による調整により、各層板2の穴の形状、積層枚数を変えずに、所望の最適なブラッグピークの線量カーブを実現することができる。
【0027】
また、何らかの原因でブラッグピークの線量カーブのずれが生じた場合、位置調整機構4により微調整し、ずれを修正することが容易にできるようになる。
【0028】
実施の形態3.
図6は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態3を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0029】
上記実施の形態1及び2では、各層板2にスリット状穴5を並列に並べて設け、各層板2を相互にスリット状穴5が並ぶ一方向にずらすようにしたので、ずらした方向における拡大ブラッグピーク形成器の寸法が大きくなる。
【0030】
この実施の形態3では、図6に示したように、円板状の各層板2に、扇形の穴5を円周方向に周期的に開けた構造とし、各層板2の中心を軸として上下に隣り合う層板2それぞれを独立に一方向に所望の調整すべき角度回転させて扇形の穴5の位置をずらし、階段状の形状を形成している。
【0031】
この実施の形態3によれば、扇形の穴5の位置のずれ量は、適宜調整できるように構成されているので、各層板2扇形の穴5の形状、積層枚数を変えずに、荷電粒子ビーム1を照射しつつ、扇形の穴5部における階段形状の荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を変えて、所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整することにより、一つの拡大ブラッグピーク形成器を種々の症例の治療に共通に利用でき、かつ、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができるようになる。
【0032】
また、各層板2を円板状とし、円板状の各層板2を円板状の各層板2の中心を軸として回転させているので、拡大ブラッグピーク形成器の外形の大きさが変化して大きくなることはない。
【0033】
なお、拡大ブラッグピーク形成器に照射する荷電粒子ビーム1の領域は、円板状の各層板2の範囲内にあり、照射対象の照射面積によって調整される。
【0034】
実施の形態4.
図7は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態4を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0035】
上記実施の形態3では、円板状の各層板2に、扇形の穴5を円周方向に周期的に開けた構造とした。このため、扇形の穴5があるところと扇形の穴5がないところの構造が反映されて、合成されたブラッグピークの縞模様が周方向に生じる場合があった。この縞模様は扇形の穴5のピッチを細かくすることによって無くすことができるが、加工に多大の時間を要することになる。
【0036】
この実施の形態4では、図7に示したように、円板状の各層板2の一部に、扇形の穴5を開けた構造としたものである。
【0037】
さらに、この実施の形態4では、各層板2の中心を軸として上下に隣り合う層板2それぞれを周の一方向に扇形の穴5が所望の角度ずれるように回転させて固定する。この実施の形態4拡大ブラッグピーク形成器は、回転して固定した各層板2全部を円板の中心を回転軸として回転させる図示していない第2の回転機構を有するものである。
【0038】
拡大ブラッグピーク形成器に照射する荷電粒子ビーム1の領域は、円板状の各層板2の範囲内にあり、照射対象の照射面積によって調整される。
【0039】
また、第2の回転機構は荷電粒子ビーム1の照射を妨げないように、回転中心軸から偏心した位置に設ける。
【0040】
この実施の形態4によれば、扇形の穴5の位置のずれ量は、適宜調整できるように構成されているので、各層板2の扇形の穴5の形状、積層枚数を変えずに、荷電粒子ビーム1を照射しつつ、扇形の穴5部における荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を変えて、所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整することにより、一つの拡大ブラッグピーク形成器を種々の症例の治療に共通に利用でき、かつ、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができるようになる。
【0041】
また、固定された円板を各層板2の中心を軸として回転させながら荷電粒子ビーム1の照射を行うようにしたので、合成されたブラッグピークの線量分布を周方向の位置において均一にすることができる。
【0042】
また、この実施の形態4では、扇形の穴5を一つ設けたものを回転させる場合を示したが、扇形の穴5が複数個あるもの、あるいは、上記実施の形態3のように扇形の穴5が周方向に周期的に形成されているものを回転させてもよい。
【0043】
実施の形態5.
図8は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態5を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0044】
この実施の形態5は、図8に示したように、上記実施の形態3における拡大ブラッグピーク形成器における層板2それぞれの扇形の穴5の位置がずれるように層板2それぞれを独立に回転させる第1の回転機構9の具体例を示すものである。
【0045】
第1の回転機構9は、エンコーダとパルスモータとの組み合わせ部9a、パルスモータに連結され、層板2を回転させるギア部9bを備えている。
【0046】
この実施の形態5によれば、各層板2を独立に回転させることにより、各層板2の扇形の穴5の位置を自由にずらして階段状の形状を形成し、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を自由に変えることができる。これによって合成されたブラッグピークのピーク形状を調整することができる。
【0047】
この第1の回転機構9による調整により、各層板2の扇形の穴5の形状、積層枚数を変えずに、所望の最適なブラッグピークの線量カーブを実現することができる。
【0048】
また、何らかの原因でブラッグピークの線量カーブのずれが生じた場合、第1の回転機構9により微調整し、ずれを修正することが容易にできるようになる。
【0049】
実施の形態6.
図9は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態6を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0050】
この実施の形態6は、図9に示したように、上記実施の形態4における拡大ブラッグピーク形成器における層板2を回転させる第1の回転機構9の具体例を示すものである。
【0051】
この実施の形態6における第1の回転機構9は、上記実施の形態5と同様、エンコーダとパルスモータとの組み合わせ部9a、パルスモータに連結され、各層板2を独立に回転させるギア部9bを備えている。
【0052】
また、この実施の形態6における第1の回転機構9のギア部9bは、拡大ブラッグピーク形成器の層板2の外周と接離できるように構成し、各層板2間の穴5の位置をずらす場合に接し、拡大ブラッグピーク形成器の固定された層板2が回転する場合に離れるようにしてもよく、また、拡大ブラッグピーク形成器の固定された層板2とともに回転するようにしてもよい。
【0053】
図9における最上層の層板2に対して、2層目の層板2はθ1の位相差を持ち、3層目の層板2はθ2の位相差を持って、3層の層板2は同じ回転周波数ω0で回転する。
【0054】
この実施の形態6によれば、各層板2を独立に回転させることにより、各層板2の扇形の穴5の位置を自由にずらして階段状の形状を形成し、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を自由に変えることができる。これによって合成されたブラッグピークのピーク形状を調整することができる。
【0055】
この第1の回転機構9による調整により、各層板2の穴の形状、積層枚数を変えずに、所望の最適なブラッグピークの線量カーブを実現することができる。
【0056】
また、何らかの原因でブラッグピークの線量カーブのずれが生じた場合、回転機構9により微調整し、ずれを修正することが容易にできるようになる。
【0057】
実施の形態7.
図10は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態7を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0058】
この実施の形態7では、図10(b)に示したように、扇形の穴5は、円周方向の開き角度θが径方向の外側に向かうにつれて大きくなるように形成されている。
【0059】
さらに、この実施の形態7では、各層板2の中心を軸として上下に隣り合う層板2それぞれを相互に一定の周方向に一定角度回転させてずらして固定し、固定された各層板2全体を円板の中心を回転軸として回転させるものである。
【0060】
この実施の形態7によれば、扇形の穴5の位置のずれ量は、適宜調整できるように構成されているので、各層板2扇形の穴5の形状、積層枚数を変えずに、荷電粒子ビーム1を照射しつつ、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を変えて、所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整し、一つの拡大ブラッグピーク形成器を種々の症例の治療に共通に利用でき、かつ、製作までの時間と材料の浪費を抑制することができるようになる。
【0061】
また、固定された円板を各層板2の中心を軸として回転させながら荷電粒子ビーム1の照射を行うようにしたので、合成されたブラッグピークの線量分布を周方向の位置において均一にすることができる。
【0062】
また、扇形の穴5は、円周方向の開き具合θが径方向の外側に向かうにつれて大きくなるように形成されており、扇形の穴5における径方向でずれた面積の割合が変化しているので、回転軸と外径との間で荷電粒子ビーム1の中心を変化させることによって、所望のブラッグピークのピーク形状が得られるように調整することができ、各層板2の回転による扇形の穴5と合わせて、調整範囲が大きくなる。
【0063】
また、この実施の形態7では、扇形の穴5を一つ設けたものを示したが、扇形の穴5が複数個あるもの、あるいは、上記実施の形態3のように扇形の穴5が周方向に周期的に形成されているものに適用してもよい。
【0064】
実施の形態8.
図11は、この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態8を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【0065】
この実施の形態8は、図11に示したように、上記実施の形態7における拡大ブラッグピーク形成器における層板2それぞれを独立に回転させる第1の回転機構9の具体例を示すものである。
【0066】
この実施の形態8における第1の回転機構9は、上記実施の形態5と同様、エンコーダとパルスモータとの組み合わせ部9a、パルスモータに連結され、層板2を回転させるギア部9bを備えている。
【0067】
また、この実施の形態8における第1の回転機構9のギア部9bは、拡大ブラッグピーク形成器の層板2の外周と接離できるように構成してもよく、固定された各層板2とともに回転するようにしてもよい。
【0068】
図11における最上層の層板2に対して、2層目の層板2はθ1の位相差を持ち、3層目の層板2はθ2の位相差を持って、3層の層板2は同じ回転周波数ω0で回転する。
【0069】
この実施の形態8によれば、各層板2を独立に回転させることにより、各層板2の扇形の穴5の位置を自由にずらして階段状の形状を形成し、荷電粒子ビーム1と垂直な面の面積を自由に変えることができる。これによって合成されたブラッグピークのピーク形状を調整することができる。
【0070】
この第1の回転機構9による調整により、各層板2の穴の形状、積層枚数を変えずに、所望の最適なブラッグピークの線量カーブを実現することができる。
【0071】
また、何らかの原因でブラッグピークの線量カーブのずれが生じた場合、第1の回転機構9により微調整し、ずれを修正することが容易にできるようになる。
【0072】
なお、上記実施の形態1ないし8において、各層板2の板厚を同一とすることにより、また、各層板2の材質を同一とすることにより、ブラッグピークの調整が容易になるよともに、製造コストが低減される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明に係る荷電粒子照射野形成装置は、癌腫瘍の治療等に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態1を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図2】実施の形態1の拡大ブラッグピーク形成器を3層の層板とした場合及び3層に対応する従来のリッジフィルタについて示す断面図である。
【図3】図2(c)に示した拡大ブラッグピーク形成器によって形成される被照射体における深さ方向のブラッグピークの線量カーブ(図3(b))と、その相対的なピーク形状とエネルギー(図3(a))とを示す図である。
【図4】実施の形態1において、繰り返し形成されたフィルタ要素6によって発生する、合成されたブラッグピークを示す図である。
【図5】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態2を示す断面図である。
【図6】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態3を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図7】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態4を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図8】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態5を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図9】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態6を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図10】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態7を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【図11】この発明に係る荷電粒子照射野形成装置に用いられる拡大ブラッグピーク形成器の実施の形態8を示す断面図(a)及び平面図(b)である。
【符号の説明】
【0075】
1 荷電粒子ビーム、2 層板、3 繰り返し部分、4 移動機構、4a 支持板、
4b 雄ねじ、4c ばね、4d ピン、5 穴、7 合成されたブラッグピーク、
8 ブラッグピーク、9 第1の回転機構、9a 組み合わせ部分、9b ギア部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
平板の一方向にスリット状の穴が周期的に形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記スリット状の穴の向きが同一方向となるようにして積層された同一形状の層板と、
上記スリット状の穴の周期的な繰り返しの方向に上記層板それぞれを独立に移動させるとともに移動量を調節する移動機構と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子照射野形成装置。
【請求項2】
加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
円板に、その中心近傍から周方向に周期的に扇状の穴が形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記円板の中心を合わせて積層された同一形状の層板と、
上記円板の軸を中心として周方向に上記層板それぞれを独立に回転させるとともに回転量を調節する第1の回転機構と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子照射野形成装置。
【請求項3】
上記積層された層板全体を、上記層板の中心を回転軸として回転する第2の回転機構を備えたことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子照射野形成装置。
【請求項4】
加速器で加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射するものであり、上記荷電粒子ビームによって形成されるブラッグピークの線量カーブのピーク形状を拡大する拡大ブラッグピーク形成器を備えた荷電粒子照射野形成装置において、
上記拡大ブラッグピーク形成器は、
円板に、その中心近傍から周方向に扇状の穴が形成され、上記荷電粒子ビームの照射方向に、上記円板の中心を合わせて積層された同一形状の層板と、
上記円板の軸を中心として周方向に上記層板それぞれを独立に回転させるとともに回転量を調節する第1の回転機構と、
上記積層された層板全体を、上記層板の中心を回転軸として回転する第2の回転機構と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子照射野形成装置。
【請求項5】
上記扇状の穴の周方向における開き角度が、径方向の外側に向かうにつれて大きくなっており、上記第2の回転機構の回転軸と上記荷電粒子ビームの中心軸との距離を相対的に可変とする機構が設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の荷電粒子照射野形成装置。
【請求項6】
上記積層された同一形状の層板それぞれの厚さが同一であることを特徴とする請求項1、2または4のいずれかに記載の荷電粒子照射野形成装置。
【請求項7】
上記積層された同一形状の層板それぞれが同一材料であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の荷電粒子照射野形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−141910(P2006−141910A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339855(P2004−339855)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】