説明

荷電粒子発生装置、帯電装置、及び画像形成装置

【課題】放電により生成された荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる荷電粒子発生装置、帯電装置、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】帯電装置52は、抵抗層74と、導電層78と、これら抵抗層74と導電層78との間に設けられた絶縁層76と、を有し、導電層78は、抵抗層74、絶縁層76、及びこの導電層78が並ぶ積層方向に対して開口する開口部80を有し、絶縁層76は、開口部80と連続し、この開口部80と連続する方向には開放され、積層方向と垂直な水平方向には制限された空間である領域制限部82を有し、開口部80の穴半径は、領域制限部82の穴半径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子発生装置、帯電装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の像保持体の帯電方式の1つとして、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電方式を用いるものがある。この方式は、被帯電体に対して非接触で帯電を行うものである。その他の帯電方式としては、半導電性の帯電ロールを像担持体に接触回転させるときに両者間に生じる微小空隙で放電を発生させ帯電処理を行う帯電ロール方式を用いるものがある。
【0003】
特許文献1は、基体との対向部に放電を生じさせる放電電極と、この放電電極表面に絶縁性層を介して積層される電離域制御電極とを設け、放電電極の背面側には給電電極を備えており、放電電極の軸方向における両端部分の体積抵抗率が、中央部分の体積抵抗率よりも低くなるように設定した帯電装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−015232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、放電により生成された荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる荷電粒子発生装置、帯電装置、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた絶縁体と、を有し、前記第2の電極は、前記第1の電極及び当該第2の電極間の放電により生じた荷電粒子の、前記第1の電極、前記絶縁体、及び当該第2の電極が並ぶ第1の方向に対して垂直な第2の方向への移動経路を避ける形態を有する荷電粒子発生装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記第2の電極は、第1の方向に対して開口する開口部を有し、前記絶縁体は、前記開口部と連続し当該開口部と連続する方向には開放され、第2の方向には制限された空間である領域制限部を有し、前記開口部の面積は、前記領域制限部の面積よりも大きい請求項1記載の荷電粒子発生装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記開口部の面積は、前記絶縁体から離れるにつれて大きくなる請求項2記載の荷電粒子発生装置である。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記絶縁体は、前記領域制限部との境界から第2の方向に対して予め定められた範囲で前記開口部と接する請求項2又は3記載の荷電粒子発生装置である。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1記載の荷電粒子発生装置を有し、被帯電体を帯電する帯電装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、被帯電体としての像保持体と、前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項5記載の帯電装置と、前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、前記現像装置により現像された像を記録媒体に転写する転写手段と、前記転写手段により前記記録媒体上に転写された像を当該記録媒体に定着させる定着手段と、を有する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、放電により生成された荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、本構成を有しない場合と比較して、より荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、請求項1又は2に係る本発明の効果に加えて、本構成を有しない場合と比較して、安定して荷電粒子を生成することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至3いずれかに係る本発明の効果に加えて、本構成を有しない場合と比較して、より一層、荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、放電により生成された荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、放電により生成された荷電粒子の移動に対する電極による阻害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態が適用される画像形成装置を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態が適用される帯電装置の断面図及びその周辺構造を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態が適用される帯電装置の下面を示す図である。
【図4】放電領域における荷電粒子の流れを表す模式図である。
【図5】放電領域周辺の構成を説明する説明図である。
【図6】実施例による電極間電流値と像保持体の表面電位との関係の測定結果である。
【図7】第2実施形態にかかる放電領域及びその周辺構造の模式図である。
【図8】第3実施形態にかかる放電領域及びその周辺構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態としての画像形成装置10の全体構成を示す。
画像形成装置10は画像形成装置本体12を有し、この画像形成装置本体12内部に像形成手段14が搭載され、この画像形成装置本体12の上部に排出部16が設けられている。
【0020】
画像形成装置本体12の下部には、例えば二段の給紙装置20、20が配置されている。画像形成装置本体12の下方には、さらに複数の給紙装置を追加して配置できるようになっている。
【0021】
それぞれの給紙装置20は、給紙装置本体22と、記録媒体が収納される給紙カセット24とを有する。給紙カセット24の奥端近傍上部にはピックアップロール26が設けられ、このピックアップロール26の後方にリタードロール28が配置され、このリタードロール28に対向する位置にフィードロール30が配置されている。
【0022】
搬送路32は、フィードロール30から排出口34までの記録媒体通路であり、この搬送路32は、画像形成装置本体12の裏側(図1の左側面)近傍にあって、最下端の給紙装置20から定着器36まで略鉛直に形成されている部分を有する。
【0023】
定着器36には、加熱ロール38と加圧ロール40が設けられている。搬送路32の定着器36の上流側に、転写ロール42と感光体としての像保持体44が配置され、転写ロール42と像保持体44の上流側に、レジストロール46が配置されている。搬送路32の排出口34の近傍に、排出ロール48が配置されている。
【0024】
したがって、給紙装置20の給紙カセット24からピックアップロール26により送り出された記録媒体は、リタードロール28及びフィードロール30の協働により捌かれる。このようにして、給紙カセット24の最上位にある記録媒体が搬送路32に搬送され、レジストロール46により一時停止されタイミングを合わせ、転写ロール42と像保持体44との間を通って、現像剤像が記録媒体に転写される。この転写された現像剤像が定着器36により記録媒体に定着され、排出ロール48によって排出口34から排出部16へ排出される。
【0025】
像形成手段14は、例えば電子写真方式のもので、像保持体44と、この像保持体44を一様に帯電する帯電装置52と、この帯電装置52により帯電された像保持体44に光により潜像を書き込む光書込み装置54と、この光書込み装置54により形成された像保持体44の潜像を現像剤により可視化する現像装置56と、この現像装置56による現像剤像を記録媒体に転写する転写ロール42と、像保持体44に残存する現像剤をクリーニングする例えばブレードからなるクリーニング装置58と、転写ロール42により転写された記録媒体上の現像剤像を記録媒体に定着させる定着器36とから構成されている。
【0026】
プロセスカートリッジ60は、像保持体44、帯電装置52、現像装置56及びクリーニング装置58を一体化したものであり、これらを一体として交換できるようになっている。このプロセスカートリッジ60は、排出部16を開くことにより、画像形成装置本体12から取り出すことができる。
【0027】
次に、帯電装置52の詳細について、説明する。
図2は、帯電装置52の断面図及びその周辺構造を示し、図3は、帯電装置52の下面(像保持体44側の面)を示す。
【0028】
帯電装置52は、対向する像保持体44に遠い側から導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76、及び導電層78が順に配置された構成となっている。
導電性基材72及び抵抗層74により第1電極が構成され、導電層78により第2電極が構成される。
導電層78は、絶縁層76の少なくとも投影範囲内に配置されている。導電層78は、絶縁層76からはみ出ることなく(抵抗層74側の面において領域制限部82と接することなく)この絶縁層76上に形成されている。
【0029】
導電層78には開口部80が設けられており、絶縁層76にはこの開口部80と連続する空間である領域制限部82が設けられている。領域制限部82は、像保持体44と対向する方向が開放した例えば円筒形状に構成されている。このように、領域制限部82は、開口部80と連続する方向が開放され、これと垂直な方向が制限された空間となっている。
開口部80及び領域制限部82により放電領域84が構成される。
【0030】
開口部80の穴半径は、領域制限部82の穴半径よりも長く(大きく)なっている。穴半径とは、導電性基材72、抵抗層74、絶縁層76、及び導電層78が並ぶ方向(以下、「積層方向」と称する場合がある)に対して垂直な方向(以下、「水平方向」と称する場合がある)の長さ(半径)を意味する。
このように、本実施形態において、開口部80の面積は、領域制限部82の面積よりも大きくなっている。
【0031】
抵抗層74は、高抵抗層86及び抵抗調整層88による2層構造として構成されている。なお、抵抗層74は、一の材質からなる1層構造としてもよい。
【0032】
導電性基材72及び導電層78には、それぞれに電圧を印加する電圧印加部90が接続されている。
導電性基材72及び導電層78に一定以上の電圧を印加すると、抵抗層74、絶縁層76、及び導電層78に囲まれ空間的に制限された放電領域84において放電が発生する。
放電領域84は、像保持体44の軸方向と平行する方向(水平方向)に対し空間的に制限されているため、放電を二次元的に制限する。
【0033】
放電領域84は、像保持体44と対向する方向に開放されているので、放電により生成された荷電粒子(イオン)の一部は、導電層78と像保持体44との間の電位差により、この導電層78の開口部80を通過して像保持体44側に移動する。つまり、放電領域84で発生したイオンが抵抗層74から像保持体44に電界ドリフト、または拡散することで、この像保持体44を帯電させる構成となっている。ここで、ドリフトとは、電界によるイオンの移動を意味する。
導電層78は、印加される電圧によってイオンが像保持体44へ移動するための電界強度を調整し、像保持体44の帯電電位を調整する機能を同時に担う。
【0034】
次に、放電領域84及びその周辺構造の詳細について説明する。
図4は、放電領域84における荷電粒子の流れを表す模式図を示す。図5は、放電領域84周辺の構成を説明する説明図を示す。
【0035】
図4に示すように、放電により発生したイオンは、水平方向に広がりながら像保持体44に向かって移動する。ここで、放電により発生したイオンは、抵抗層74から像保持体44に向かう移動経路の途中に導電層78が存在すると、この導電層78によって吸収される。つまり、このようなイオンは、像保持体44を帯電させることなく消費されることとなる。
【0036】
範囲Rに導電層78が存在する場合、領域制限部82から水平方向に広がって移動するイオンは、この範囲Rに存在する導電層78によって吸収されることとなる。ここで、範囲Rは、領域制限部82から像保持体44に向かうイオンが通過する経路であって、水平方向に対して絶縁層76よりも内側の範囲(絶縁層76の投影範囲)を示す。
【0037】
このため、導電層78を放電領域84内での放電により生じる荷電粒子の水平方向への移動経路を避ける形態とすることで、この導電層78による荷電粒子の吸収が抑制される。ここで導電層78の形態とは、例えば形状や大きさ(水平方向の長さ)、膜厚(積層方向の長さ)等の構成を意味するものである。
例えば、導電層78の水平方向の長さを小さくする、すなわち開口部80の穴半径を領域制限部82の穴半径よりも大きくなるようにすることで、導電層78と範囲Rとの重なりが回避される、あるいはこれらの重なる範囲が減少される。
【0038】
図5に示すように、長さaは、領域制限部82の水平方向の中心Pから、絶縁層76の側面(領域制限部82との境界となる面)までの距離(領域制限部82の穴半径)を示す。
長さbは、絶縁層76の側面の積層方向に対する同一線Q上から、導電層78の側面(開口部80との境界となる面)までの距離を示す。長さbは、一定であってもよいし、例えば、像保持体44側に近づくにつれて大きくするようにする等、像保持体44との距離に応じて変化させるようにしてもよい。
長さcは、中心Pから、最も像保持体44側にある導電層78の側面までの距離を示す。長さcは、長さbが像保持体44との距離に対して一定であれば、この長さbに長さaを足したものと同一の大きさとなる(長さc=長さa+長さb)。
長さdは、絶縁層76の積層方向の長さ(膜厚)を示す。
長さeは、導電層78の積層方向の長さ(膜厚)を示す。
【0039】
位置Mは、導電層78のうち、開口部80との境界であって、且つ最も絶縁層76側の位置を示す。
位置Nは、導電層78のうち、開口部80との境界であって、且つ最も像保持体44側の位置を示す。
位置Mと位置Nとを結ぶ線は、直線であってもよいし、曲線であってもよい。すなわち、導電層78の側面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0040】
長さa〜長さeは、例えば、以下の関係にある。
(1)2 μm≦a<c≦200 μm
(2)0 <b≦c−a≦198 μm
(3)4 μm≦d≦500 μm
(4)0 <e≦50 μm
【0041】
長さa(領域制限部82の穴半径)は、2 μm以上200 μm未満の範囲内で形成される。
長さbは、0 μmより大きく198 μm以下の範囲内で形成される。
長さcは、2 μmより大きく200 μm以下(但しa<c)の範囲内で形成される。
【0042】
領域制限部82の穴半径が2 μmより小さいと、1つの領域制限部82あたりの放電発生量が小さくなる。結果、帯電器としての効率が低下する。このため、より効率的に像保持体44を目標の電位に帯電するには、放電領域84の穴半径を2 μm以上とするのがよい。
【0043】
領域制限部82の穴半径よりも大きい開口部80の穴半径が200 μmより大きいと、この開口部80の縁(へり)やその周辺部の電界強度が、放電領域84内の空間の中心部の電界強度よりも数倍以上大きくなることが一般的な静電場解析計算により求められる。放電領域84内の電界分布が不均一になり開口部80の周辺部に放電が集中すると、その結果、放電が不安定になりオゾン発生量が増加したり、抵抗層74が短絡したりする場合がある。
領域制限部82の穴半径よりも大きい開口部80の穴半径が200 μm以下であると、等電位面がほぼ絶縁体に平行と近似できる程度で形成され、領域制限部82内の電界分布が均一になり、放電領域84全域にわたって安定して放電が発生しやすくなる。
【0044】
領域制限部82の穴半径が30 μm以上80 μm以下の範囲にある場合は、領域制限部82の穴半径が30 μm以上80 μm以下の範囲外である場合と比較して、放電領域84全域にわたって効率よく均一な放電が発生する。
【0045】
開口部80の穴半径が40 μm以上100 μm以下の範囲にある場合は、開口部80の穴半径が40 μm以上100 μm以下の範囲外である場合と比較して、放電領域84で成されたイオンの導電層76による吸収がより抑制される。
【0046】
長さd(絶縁層76の膜厚)は、4 μm以上500 μm以下の範囲内で形成される。
本実施形態において、放電領域84の領域制限部82は、絶縁層76に設けられている。このため、長さd(絶縁層76の膜厚)は、両電極(抵抗層74及び導電層78)間の距離、つまり放電距離を制限する。
長さd(絶縁層76の膜厚)は、領域制限部82の積層方向に対する長さとなる。
【0047】
絶縁層76の膜厚を500 μm以上とすると、放電開始電圧が上昇する。
絶縁層76の膜厚を500 μm以下として放電距離を短くすると、放電の局所的な集中と急激な放電電流の増加が抑制され、放電を持続しやすくなる。
【0048】
絶縁層76の膜厚を4 μm以上として、空気中の電子の平均自由工程(0.1μm程度)よりも十分大きな放電距離にすると、領域制限部82内での電離回数が確保され放電が持続しやすくなる。
【0049】
空気中・大気圧下における平行平板間の放電開始電圧を定義するパッシェンの法則によれば、空隙が4 μm程度のときに放電開始電圧が最小値となり、空隙がそれより狭くなると放電開始電圧が上昇する。このことから、絶縁層76の膜厚が4 μmより小さくなると放電が発生しにくくなることが示唆される。
【0050】
絶縁層76の膜厚が50 μm以上150 μm以下の範囲にある場合は、膜厚が50 μm以上150 μm以下の範囲外にある場合と比較して、高電圧印加に対する電極間の絶縁性や均一な放電がより安定に維持される。
【0051】
長さe(導電層78の膜厚)は、0 μmより大きく50 μm以下の範囲内で形成される。
【0052】
導電層78の膜厚が50 μmより大きいと、開口部80から像保持体44への荷電粒子の取り出し効率が十分に上がらない。
【0053】
導電層78の膜厚が1 μm以下の範囲にある場合は、膜厚が1 μmより大きい範囲にある場合と比較して、この導電層78によるイオンの吸収がより抑制される。
【0054】
このように、導電層78は、放電領域84内での放電により生じる荷電粒子の水平方向への移動経路を避ける形態となっている。
【0055】
次に、各構成部分の詳細について説明する。
【0056】
導電性基材72を形成する材料としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、銅合金もしくはこれらの合金、あるいはクロム、ニッケル等の表面処理を施した鉄等の金属が用いられる。
【0057】
抵抗層74を形成する材料としては、体積抵抗率が1 × 106 Ωcm以上1 × 1010 Ωcm以下の範囲にあるものが用いられる。
抵抗層74の体積抵抗率が1 × 1010 Ωcmより大きいと、電極間での放電が不十分になりやすく、放電空間である領域制限部82で散発的な放電が発生し安定した放電に至らない場合がある。
抵抗層74の体積抵抗率が1 × 106 Ωcmより小さいと、抵抗により放電電流を制限する効果(以下、「放電電流の制限効果」と称する場合がある)が十分に得られずに、領域制限部82に対向する抵抗層74面内で局所的に放電が集中し、放電電流が不安定になったり過大になったりして材料の急速な劣化や抵抗層74の短絡を引き起こす場合がある。
【0058】
抵抗層74の体積抵抗率が1 × 107 Ωcm以上1 × 109 Ωcm以下の範囲にある場合は、体積抵抗率が1 × 107 Ωcm以上1 × 109 Ωcm以下の範囲外にある場合と比較して、領域制限部82でより安定した放電が持続する。
【0059】
抵抗層74は、膜厚10 μm以上の範囲で形成される。
抵抗層74の抵抗により放電電流の制限効果を得るという観点からは、抵抗層74の膜厚を薄くして抵抗率が高い材料を選定することで「体積抵抗率×抵抗層厚/単位面積」により算出される抵抗層74の抵抗値を調整してもよいが、この膜厚が10 μmより小さいと、印加電圧に対する耐圧性(絶縁耐圧)が低くなり、放電時に抵抗層74が短絡する頻度が多くなる。
抵抗層74の膜厚が100 μm以上の範囲で形成される場合、膜厚が100 μm未満である場合と比較して、絶縁耐圧が十分に得られ、高電圧印加に対する経時安定性が確保される。
【0060】
抵抗層74は、上述の体積抵抗率の最適範囲1 × 107 Ωcm以上1 × 109 Ωcm以下と、膜厚の最適範囲100 μm以上とを満たしつつ、膜厚方向の抵抗値(体積抵抗率×抵抗層厚/面積により求められる値であり、面積は直径100 μmの円の面積とする)が1 × 108 Ω以上1 × 1011 Ω以下の範囲になるように調整すると、抵抗成分による放電電流の制限効果と膜厚が確保されたことによる経時安定性が両立される。
【0061】
抵抗層74を2層構造として放電電流の制限効果を調整する場合、例えば、上層(高抵抗層86)を体積抵抗率1 × 109 Ωcm、膜厚30 μmとして十分な放電電流の制限効果を得て、下層(抵抗調整層88)を体積抵抗率1 × 107 Ωcm、膜厚100 μmとして厚みをもたせるようにしてもよい。
このように、上層(高抵抗層86)で抵抗による放電電流の制限効果を確保し、且つ、下層(抵抗調整層88)で導電性基材72からの厚みを十分に持たせ耐圧性を向上させることで、放電電流の制限効果と経時安定性が両立される。
【0062】
抵抗層74としては、樹脂材料やゴム材料に、導電性粒子あるいは半導電性粒子を分散したものが用いられる。
例えば、樹脂材料としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、エチレン樹脂、あるいはこれらの合成樹脂などが使われる。
ゴム材料としては、エチレン−プロピレンゴム、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソブチレン、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、エピクロールヒドリンゴム、フロロシリコーンゴム、エチレンオキシドゴム、あるいはこれらを発砲させた発泡材や、これらを混合させた混合基材が用いられる。
【0063】
導電性粒子あるいは半導電性粒子としては、カーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、ZnO-Al2O3、SnO2-Sb2O3、In2O3-SnO2、ZnO-TiO2、MgO-Al2O3、FeO-TiO2、TiO2、SnO2、Sb2O3、In2O3、ZnO、MgO等の金属酸化物や、第4級アンモニウム塩等のイオン性化合物等、あるいはこれらの材料を単独又は2種以上混合したものが用いられる。
【0064】
その他、抵抗層74としては、樹脂やゴムなどの有機材料に限らず、ガラス中に導電性粒子を分散させた半導電性ガラスや、アルミ多孔質陽極酸化膜等で構成してもよい。
【0065】
領域制限部82の構造は、穴半径と絶縁層76の膜厚とにより決定される。
【0066】
絶縁層76を形成する材料としては有機材料・無機材料に限らず、体積抵抗率が1 × 1012 Ωcm以上の固体材料である場合、体積抵抗率が1 × 1012 Ωcmより小さい場合と比較して、高電圧印加時の両電極(抵抗層74及び導電層78)間の絶縁性に優れ、領域制限部82の形状を経時により変形させることなく安定して保持する。
【0067】
導電層78を形成する材料としては、体積抵抗率が0.1 Ωcm以下のものが用いられる。また、導電層78の材料としては、放電ガスによって汚染されにくい金属が用いられる。例えば、タングステン、モリブデン、カーボン、白金、銅、アルミニウムなどの金属材料や、これらの金属に金メッキなどの表面処理を施した材料が用いられる。
【0068】
帯電装置52は、電界による荷電粒子の移動(ドリフト)により像保持体44を帯電させる、このため、帯電装置52は、像保持体44に近い側に配置されている導電層78と像保持体44との間で、放電が発生しない距離が維持される位置に配置される。
具体的には、帯電装置52は、導電層78が像保持体44と最も近接する距離(最近接距離)で300 μm以上2 mm以下となるように配置されている。
【0069】
導電層78と像保持体44間の最近接距離が2 mmより大きいと、帯電効率が悪くなる。
導電層78と像保持体44間の最近接距離が300 μmより小さいと、導電層78と像保持体44間で放電が発生しやすくなり、像保持体44に負荷が生じる。例えば、目標とする像保持体44の帯電電位「-700 V」に対して、抵抗層74に「-2 kV」、導電層78に「-750 V」を印加した場合、最近接距離が300 μmより小さいと、パッシェンの法則による放電開始電圧の推計によれば、抵抗層74から導電層78を通り越して像保持体44への放電が発生する可能性がある。
【0070】
隣り合う放電領域84(開口部80)間の像保持体44軸方向の距離A(図3参照)は、放電領域84から像保持体44上へ電界により移動したイオンで電位に筋状のむらが発生せず均一となるように、少なくとも導電層78と像保持体44間の距離と同程度か、それ以下とする。
放電領域84の像保持体44回転方向の列数は、プロセス速度に応じて必要とされる帯電能力が確保できる数に調整する。
【0071】
例えば、放電領域84は、像保持体44の回転軸方向に対して平行に300 μm間隔で列状に、帯電に必要な幅だけ形成する。帯電能力を向上させるため、像保持体44の周方向に同様の列が5列、750 μm間隔で配置する。
【0072】
本実施形態の構成の製法としては、例えば、機械的な穴あけを用いる方法や、スクリーン等の印刷技術を用いる方法、インクジェットプリント技術を用いる方法、マスキングして蒸着あるいはエッチングする方法等が挙げられる。
【0073】
機械的な穴あけを用いる方法としては、例えば、絶縁層76上に金属(導電層78)を蒸着あるいは塗布した後、ドリル加工やパンチ加工等により穴部を形成し、続いて、絶縁層76を抵抗層74に密着させて固定するようにする。なお、穴部を形成した後、リーマー加工等により導電層78に傾斜(テーパー)を形成するようにしてもよい。
【0074】
スクリーン等の印刷技術を用いる方法としては、例えば、抵抗層74上に、絶縁層76を形成する絶縁性インキ、及び導電層78を形成する導電性インキを所望のパターンで印刷するようにする。絶縁性インキとしては、紫外線硬化型のレジストインキ等を用いることができる。また、導電性インキとしては、銀系やグラファイト系のインキ等を用いることができる。
【実施例1】
【0075】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
図6は、放電領域1つ当たりの電極間電流値(μA)と像保持体44の表面電位(V)との関係の測定結果を示す。
図6において、実施例は、長さaを75 μm、長さbを積層方向に対して同一の35 μm、長さcを110 μmとしたものであり、比較例は、長さaを75 μm、長さbを積層方向に対して同一の0 μm、長さcを75 μmとしたものである。
実施例及び比較例とも、長さdを100 μm、長さeを20 μmとした。
【0077】
図6に示すように、例えば、像保持体44の表面電位を-700 Vとするのに、比較例では電流値が1 μA以上であるのに対し、実施例では電流値が0.4 μA程度となった。同様に、表面電位を-500 Vとするのに、比較例では0.3 μA程度であるのに対し、実施例では0.1 μA程度となった。
このように、本実施例においては、比較例に対し2分の1以下の電流値で、比較例と同等の電位に像保持体44を帯電させる結果となった。
【0078】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態にかかる放電領域84及びその周辺構造の模式図を示す。
【0079】
第2実施形態においては、長さbが像保持体44側に近づく程大きくなるように構成されている。長さe(導電層78の膜厚)は、開口部80側に向かうにつれて小さくなっている。
このような構成とすることで、導電層78は、範囲Rに重ならないようにして、開口部80近傍まで形成されることとなる。
【0080】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
図8は、第3実施形態にかかる放電領域84及びその周辺構造の模式図を示す。
【0081】
第3実施形態においては、導電層78が範囲Rに重ならないように、長さe(導電層78の膜厚)が微小な範囲に構成されている。
このような構成とすることで、導電層78は、範囲Rに重ならないようにして、開口部80近傍まで形成されることとなる。
【0082】
第3実施形態において、長さa〜長さeは、例えば、以下の関係にある。
(1)2 μm≦a≦c≦200 μm
(2)0 ≦b≦c−a≦198 μm
(3)4 μm≦d≦500 μm
(4)0 <e≦1 μm
このように、導電層78の膜厚が微小(例えば、0 <e≦1 μm)な範囲であれば、長さaと長さcを同一の長さ(a=c)とするようにしてもよい。
本実施形態において導電層78は、例えばスパッタリング法等による蒸着により、膜厚200 nmに形成される。
【0083】
上記実施形態においては、本発明を画像形成装置の帯電装置に適用した例について説明したが、これに限られるものではなく、荷電粒子発生装置として以下に例示する用途にも適用可能である。
・ 電子デバイスの製造工程等で、デバイスの帯電による静電気破壊が起きないように帯電した電荷と逆極性電荷を与えて中和するための、除電処理
・ 固体材料の表面改質処理(例えば親水化処理や疎水化処理等)
・ 食品加工や医療分野での殺菌・滅菌処理
・ 空気清浄
【符号の説明】
【0084】
10 画像形成装置
12 画像形成装置本体
14 像形成手段
16 排出部
20 給紙装置
36 定着器
42 転写ロール
44 像保持体
52 帯電装置
56 現像装置
72 導電性基材
74 抵抗層
76 絶縁層
78 導電層
80 開口部
82 領域制限部
84 放電領域
86 高抵抗層
88 抵抗調整層
90 電圧印加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた絶縁体と、
を有し、
前記第2の電極は、前記第1の電極及び当該第2の電極間の放電により生じた荷電粒子の、前記第1の電極、前記絶縁体、及び当該第2の電極が並ぶ第1の方向に対して垂直な第2の方向への移動経路を避ける形態を有する荷電粒子発生装置。
【請求項2】
前記第2の電極は、第1の方向に対して開口する開口部を有し、
前記絶縁体は、前記開口部と連続し当該開口部と連続する方向には開放され、第2の方向には制限された空間である領域制限部を有し、
前記開口部の面積は、前記領域制限部の面積よりも大きい請求項1記載の荷電粒子発生装置。
【請求項3】
前記開口部の面積は、前記絶縁体から離れるにつれて大きくなる請求項2記載の荷電粒子発生装置。
【請求項4】
前記絶縁体は、前記領域制限部との境界から第2の方向に対して予め定められた範囲で前記開口部と接する請求項2又は3記載の荷電粒子発生装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子発生装置を有し、被帯電体を帯電する帯電装置。
【請求項6】
被帯電体としての像保持体と、
前記像保持体に対し非接触で配置され、当該像保持体を帯電する請求項5記載の帯電装置と、
前記帯電装置により帯電された前記像保持体上に露光により形成された潜像を、現像剤により現像する現像装置と、
前記現像装置により現像された像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記転写手段により前記記録媒体上に転写された像を当該記録媒体に定着させる定着手段と、
を有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−53249(P2012−53249A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195320(P2010−195320)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】