説明

荷電粒子線装置

【課題】
倍率色収差の影響を考慮し、精度を落とすことなく色収差の測定およびに補正にかかる時間を短縮することができる荷電粒子ビーム装置を提供する。
【解決手段】
色収差を補正する収差補正器を備えた荷電粒子線装置において、倍率色収差量と色収差量とを所定の閾値以下となるまで、夫々の収差を補正する制御部を備え、倍率色収差量の閾値を、測定した色収差量を元に設定又は更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを試料に対して走査照射して、この試料からの二次荷電粒子または反射荷電粒子または透過荷電粒子を取得する荷電粒子線装置に関し、色収差を補正する色収差補正器を備えた、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの電子顕微鏡をはじめとする荷電粒子線装置では、荷電粒子ビームを集束するため電場若しくは磁場を用いたレンズが必ず使用される。電場若しくは磁場レンズでは、各種収差が不可避的に発生する。したがって、縮小率を高くして荷電粒子ビーム線を絞ろうとしても、収差が大きくてはスポット径を小さくできず、微細構造の観察や寸法測定精度の向上ができない。
【0003】
荷電粒子線装置では、分解能を向上するために、収差補正器の導入が進められている。この収差補正器は、通常、多段に設置された多極子レンズにより構成され、多極子レンズ内に電場ないし磁場を発生することにより、内部を通過する荷電粒子線に含まれる収差を除去する。
【0004】
この収差補正器に関しては、例えば、以下の非特許文献1に開示されているもののように、多極子レンズを4段用いたものがある。
【0005】
荷電粒子線装置では加速電圧が完全に一定でなくエネルギー幅をもつことによって発生する収差がある。この収差の代表的なものとして、色収差と倍率色収差がある。色収差はエネルギーの違いによるフォーカスのズレとして現れるもので、試料に荷電粒子ビームを垂直に入射させた場合、加速電圧を変更すると垂直方向の集束位置が変化する。倍率色収差は、エネルギーの違いによる倍率のズレで、試料に荷電粒子ビームを入射させた場合、加速電圧を変更すると水平方向に集束位置が移動する。非特許文献1の収差補正器においては、色収差が補正される。また、倍率色収差に関しては主にレンズのアライメントのズレや傾きが原因であり、一般的にビームの偏向などの方法によって補正されている。しかしながら非特許文献1のレンズでは電場と磁場の4極子を重畳する部分があり、電場と磁場の4極子の軸は必ずしも一致しないため、単純に軸をあわせることができない状況がある。なお、ここでは加速電圧とは電子源への印加電圧を指すものとしVaccで表す。別途試料への入射電圧はEで表し、リターディング電圧がかけられていない場合はVacc=Eとなる。
【0006】
荷電粒子線装置の色収差を検出し、これを補正する技術としては、例えば、以下の特許文献1に開示されている技術がある。この技術は、加速電圧Vaccを現在値から±ΔE変えて複数の画像を取得し、各画像データのそれぞれに対してフーリエ変換を施し、画像データからビームプロファイルデータを取得している。そして、このビームプロファイルデータに基づいて、色収差量を求め、求められた色収差量に応じて収差補正器を動作させて、色収差を除去している。
【0007】
荷電粒子線装置において、複数の収差を検出し、これらを補正する技術として、特許文献2に開示されている技術がある。ここでは、軸ズレ、色収差、幾何収差など異なる種類の複数の収差について、これらの補正を行う手順を開示している。この技術では、軸ずれ量と色収差量毎に閾値を設け、それぞれの閾値よりも求めた軸ずれ量、色収差量が小さくなった時点で、処理を完了することでそれぞれの収差を補正している。
荷電粒子線装置の倍率色収差を検出し、これを補正する技術としては、例えば、以下の特許文献3に開示されている技術がある。この技術は、加速電圧を現在値から変化させた場合の軸ずれにともなう移動を補正するようにしてある。しかし、色収差の補正については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−114303号公報
【特許文献2】特開2006−114304号公報
【特許文献3】特開2008−181778号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research 、 A363(1995)、 第316〜325頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の方法で色収差を求める場合、倍率色収差について考慮した補正を行っていないため、倍率色収差のために想定通りの分解能にならない課題がある。また、色収差測定では倍率色収差量が大きい場合、色収差量が正しく判定できず色収差補正自体ができなくなる課題もある。また、特許文献1に特許文献3の処理を加えた場合若しくは特許文献2の処理の場合では、色収差と倍率色収差を独立した補正として単独で行うことになるが両者を最適化した処理でないため、最高分解能に達するための収差測定と補正の繰り返し数が増大し、収差補正に時間がかかるという課題がある。
【0011】
本発明は、このような従来の課題に着目し、精度を落とすことなく色収差測定にかかる時間を短縮することができる荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、 該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から倍率色収差と色収差を測定し、測定された収差に基づき、収差を補正するよう照射光学系を制御する制御部と、倍率色収差の補正の終了の可否を判定する閾値を格納する記憶部を備え、制御部は、測定された色収差を元に閾値を設定する荷電粒子線装置、に関する。 このような制御部を備えることで、色収差を元に倍率色収差の閾値を設定することができる。
【0013】
また、本発明は、試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から倍率色収差と色収差を測定し、測定された収差に基づき、収差を補正するよう照射光学系の制御を行う制御部と、倍率色収差の補正の終了の可否を判定する第1の閾値と、色収差補正の補正の終了の可否を判定する第2の閾値を格納する記憶部を備え、制御部は、測定された倍率色収差が第1の閾値以下となるまで倍率色収差の補正を行うよう照射光学系を制御し、測定された倍率色収差が第1の閾値以下となった後、色収差の補正の可否の判定を行い、測定された色収差が第2の閾値以下の条件を満たさない場合には、色収差の補正を行うよう照射光学系を制御し、第1の閾値を第1の閾値より小さい第3の閾値に変更し、倍率色収差の測定を行い、測定された倍率色収差が第3の閾値以下となるまで倍率色収差の補正を行うよう照射光学系を制御する荷電粒子線装置、に関する。 このような制御部を備えることで、倍率色収差補正と色収差補正とを従来よりも高速に行うことができる。
【0014】
また、本発明は、試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から色収差を算出する制御部を備え、制御部は、該一次荷電粒子線の該試料の表面に対するエネルギーを制御し、異なるエネルギー毎に画像を取得し、該画像の少なくとも異なる2つの方向に対し、デフォーカス量を算出し、該エネルギーと該デフォーカス量との関係から色収差を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。このような制御部を備えることで、色収差の補正を自動化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、色収差補正の程度に応じて倍率色収差補正量の閾値を決定するため、段階毎に適切な補正手順を踏むことができ、色収差補正ならびに倍率色収差補正を最終的に高い精度で高速に補正することができる。このため、試料に与えるダメージを少なくしたり、半導体計測装置ではスループットを向上させることができる。また、自動的に収差を補正することができるので、従来の手動補正よりも操作者への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を応用した走査電子顕微鏡の概略構成図である。
【図2】本発明による収差補正器調整のフローチャートである。
【図3】本発明による倍率色収差量閾値設定のフローチャートである。
【図4】本発明による色収差測定のフローチャートである。
【図5】加速電圧変更に伴うデフォーカス量変化図である。
【図6】本発明によるデフォーカス量測定のフローチャートである。
【図7】微分フィルタの例である。
【図8】励磁量変更に伴う鮮鋭度変化図である。
【図9】イメージシフトを伴うデフォーカス量測定のフローチャートである。
【図10】画像切り出しを行うデフォーカス量測定のフローチャートである。
【図11】本発明による収差補正器調整のフローチャートである。
【図12】本発明による色収差、倍率色収差測定のフローチャートである。
【図13】本発明に対する比較例である。
【図14】本発明の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態として、本発明を走査電子顕微鏡に応用した例を説明する。他の電子線応用装置や陽子やイオンなど他の荷電粒子線装置についてもレンズや収差補正器の構成はその種類に応じて変わるが、本実施例と基本的に同一の手法が適用できる。その場合においては、以下の文章の電子を荷電粒子と置き換えればよい。また、本願明細書で説明する収差補正器は色収差と倍率色収差を補正するものである。なお、色収差と記載した場合には、軸上色収差のことを指し、倍率色収差と異なる収差であるものとする。
【実施例1】
【0018】
図1に本発明の実施例の一つである走査電子顕微鏡の概略構成を示す。本実施例の走査電子顕微鏡は、大まかに、電子線を試料上に照射ないし走査させるSEMカラム101、試料ステージが格納される試料室102、SEMカラム101や試料室102の各構成部品を制御するための制御ユニット103等により構成されている。制御ユニット103には、更に、所定の情報を格納するための記憶部76や取得画像を表示するモニタ77、装置と装置ユーザとのマン・マシンインタフェースとなる操作卓78が接続されている。操作卓は、例えば、キーボードやマウスなどの情報入力手段により構成される。
【0019】
はじめに、SEMカラム101内部の構成要素について説明する。ショットキー電子源1はタングステンの単結晶に、酸素とジルコニウムなどを拡散させショットキー効果を利用する電子源で、その近傍にサプレッサー電極2、引き出し電極3が設けられる。ショットキー電子源1を加熱し、引き出し電極3との間に+2KV程度の電圧を印加することにより、ショットキー電子を放出させる。サプレッサー電極2には負電圧が印加されショットキー電子源1の先端以外からの電子放出を抑制する。引き出し電極3の穴を出た電子は第1陽極4、第2陽極5で形成される静電レンズにより加速、集束された電子は、光軸60に沿って後段の構成要素へ入射する。電子ビームは第1コンデンサーレンズ6で集束され、可動絞り9にてビーム電流を制限され、第2コンデンサーレンズ7および偏向器8を通り、収差補正器10に入射する。偏向器8は、コンデンサーレンズ7の軸と収差補正器10の軸が一致するように調節される。本実施例では4極−8極子系の収差補正器10を例に説明する。
【0020】
収差補正器10の各段で4極子、8極子を形成するがこれには12極の電極(磁極を兼ねてもよい)を用いると、4極子、8極子のほか、2極子、6極子、12極子も形成可能で電極、磁極の組み立て誤差、磁極材料の不均一性により生じる場の歪みを電気的に補正するためにそれらを使用する。収差補正器10により対物レンズ17と相殺する色収差、球面収差を与えられた電子ビームは、対物アライナ12によって対物レンズ軸を通るように偏向され、対物レンズ17にて試料18上に集束し、そのスポットは走査偏向器15にて試料上を走査される。
【0021】
試料室102内部には、試料18を載置する試料載置面を備えた試料ステージ80が格納されている。電子線照射により発生する2次電子は、対物レンズ17を抜けて、反射板72に当たり電子を発生させる。発生した電子は、2次電子検出器73で検出されるが、ExB偏向器71により、反射板72に2次電子の当たる位置を調整することもできる。検出された2次電子信号は、走査と同期した輝度信号として制御コンピュータ30に取り込まれる。制御コンピュータ30は、取り込んだ輝度信号情報に対して適当な処理を行い、モニタ77上にSEM画像として表示される。検出器はここでは1つしか図示していないが、反射電子や2次電子のエネルギーや角度分布を選別して画像取得できるように、複数配置することもできる。ExB偏向器71により直接2次電子検出器73に2次電子を集める、あるいは中心に穴のあいた同軸円板状の2次電子検出器を光軸60上に配置すれば反射板72は必ずしも必要ではない。
【0022】
制御ユニット103は、電子銃電源20、制御電圧源21、加速電圧源22、第1コンデンサーレンズ電源23、第2コンデンサーレンズ電源24、偏向コイル電源25、収差補正器電源26、走査コイル電源27、対物レンズ電源28、リターディング電源29、可動絞り微動機構31、非点補正コイル電源32、対物アライナ電源33、2次電子検出器電源74、ExB偏向器電源75、試料ステージ制御機構81等により構成され、それぞれSEMカラム内の対応する構成要素と、信号伝送路や電気配線等で接続されている。
【0023】
色収差測定について、まず全体の流れを図2に示すフローチャートで説明し、次に個別処理の詳細を図3から図8を用いて説明する。
【0024】
全体の流れについて図2で説明する。開始時点は、軸調整等は行われておりSEM像が取得可能な状態とする。また、対物レンズ17に対する軸調整は適宜行うものとする。目標分解能や色収差の終了条件はあらかじめ設定されているものとする。
【0025】
(S10):倍率色収差量の閾値を設定する。ここで、倍率色収差量とは、倍率色収差を定量的に数値化した量である。具体例は後に説明するが、これは色収差測定に必要な倍率色収差量の許容値である。閾値の設定は制御コンピュータ30で計算され、閾値の値は記憶部76に保存される。
【0026】
(S11):制御コンピュータ30は、倍率色収差量を測定する。測定された倍率色収差量は記憶部76などに保存される。
【0027】
(S12):制御コンピュータ30は、ステップ(S11)で測定された倍率色収差量がステップ(S10)で設定された閾値以下かを判定する。閾値以下であった場合はステップ(S14)に進み、閾値以下の条件を満たさなかった場合はステップ(S13)に進む。
【0028】
(S13):制御コンピュータ30は、倍率色収差を補正する。倍率色収差は偏向器8を調整しても補正可能であるが、色収差補正時に発生する新たな倍率色収差は収差補正器10が原因であるため、収差補正器10中の2極子場を重畳することで補正できる。2極子場の位相と大きさは倍率色収差の位相と大きさに1対1で対応しており、あらかじめ倍率色収差補正用のテーブルを作成しておき、そのテーブルに基づいて倍率色収差の補正制御を行うようにしておくと効率よく収差補正器10で倍率色収差を補正できる。
【0029】
(S14):制御コンピュータ30は、色収差量を測定する。ここで、色収差量とは、色収差を定量的に数値化した量である。測定された色収差量は記憶部76などに保存される。なお、色収差の測定は後述する方法により倍率色収差と同時に測定可能であるため、ステップ(S11)の処理であらかじめ色収差量の測定を行うと本ステップ(S14)を行ったとみなして、このステップを省略することもできる。
【0030】
(S15):制御コンピュータ30は、ステップ(S14)で測定された色収差量があらかじめ設定された条件、つまり所定の閾値を満たすかを判定する。条件を満たせば(閾値以下であれば)終了し、満たさない場合(閾値以下でない場合)はステップ(S16)に進む。
【0031】
(S16):制御コンピュータ30は、色収差を補正する。色収差補正は収差補正器10中の電場4極子と磁場4極子の値を変えることで補正できる。詳細については非特許文献1に記載されている。色収差補正量と電圧、電流との関係はあらかじめテーブルを作成しておき、そのテーブルに基づいて色収差の補正制御を行うようにしておくと効率よく補正できる。そして、色収差を補正した後、再度S10の倍率色収差の補正閾値の設定を行い、S11以降のフローを繰り返す。
以上、(S10)から(S16)の工程を図2に示すフローチャートのように繰り返すことで倍率色収差と色収差の収差補正が行われるこのように、倍率色収差補正と色収差補正とを行い、色収差補正を行った後に、再度倍率色収差補正の閾値の設定を行うことで、倍率色収差補正と色収差補正とを効率的に行うことができる。この点についての詳細は後述する。
【0032】
次に上で示した全体の中から個別処理である倍率色収差量の閾値設定(S10)について図3のフローチャートを用いて説明する。図3のフローは図2中のステップ(S10)処理を詳細に示したものである。
【0033】
(S20):まず、制御コンピュータ30は、色収差測定結果(Cc測定結果)があるかを判定する。装置の動作開始直後やワーキングディスタンスや加速電圧など光学系を変更後のように、色収差測定がない場合および色収差測定を長時間行わなかった場合は色収差測定結果がないと判断しステップ(S21)に進み、色収差測定結果ある場合(例えば、図2のS16からS10にフローが流れた場合)はステップ(S22)に進む。
【0034】
(S21):制御コンピュータ30が(S20)でNoと判定した場合には、制御コンピュータ30は、光学系の光学条件に対してあらかじめ決めておいた値あるいは、同一光学系の光学条件の過去に使用された値などの初期値となる記憶部76に格納されたデータから色収差量の目標値(初期値)をロードする。
【0035】
以下、(S22)〜(S24)では、倍率色収差の判定閾値を決定するフローについて、説明する。本発明においては、図3が特徴的なフローであるため、これらのステップについて詳細に説明する。収差補正では補正のステップとして、現在値から50%補正や80%補正といった形で段階的に補正したり、段階的に補正する場合であっても補正結果は目標値±n%といった形でばらつきが発生したりする。そして、一度、色収差の補正を行うと、色収差と倍率色収差は互いに独立に補正可能な収差ではないため倍率色収差量も変動し、S12の閾値を大きく上回る収差が発生する場合があり、さらに、S13、S11、S12、S13のフローを繰り返さなくてはS12の判定をパスしない場合がある。そのため、初期値から1、2回程度、色収差補正を行った後の色収差量がそれほど小さくない段階(比較的初期の段階)では、倍率収差補正の精度についても、それほど高い精度が必要ないことを発明者は見出した。そこで、比較的初期の段階では、最終的に目標とする倍率色収差の閾値よりも大きい閾値を設定し、徐々にその目標とする閾値に近づけるように閾値を下げることで、色収差があまり補正されていない段階での高精度な倍率色収差の補正フローを省略することにした。これにより、補正の繰り返し回数が削減でき、色収差補正ならびに倍率色収差補正を最終的に高い精度で高速に補正することができる。詳細については以下で説明する。
【0036】
(S22):色収制御コンピュータ30は、差測定精度(Cc測定精度)を計算する。これは現在の色収差測定の精度がどの程度かを計算するものである。先に、説明したとおり、色収差補正の補正状況によって色収差測定のための光学系の精度は変化する。そして、色収差の補正は一度で完全に補正する手法ではなく、徐々に目標とする閾値まで数回補正を繰り返しながら補正を行う手法である。つまり、装置側では、次に補正される色収差は、必ずしも目標閾値以下を狙って補正するとは限らず、初期の段階では、ある程度の色収差が残ることを前提に色収差補正を行う。そのため、次に行われる色収差補正の色収差量に応じた、倍率色収差の閾値を設定することで、無駄な倍率色収差の補正を省略することができる。例えば、前の色収差補正で、それほど高精度な色収差補正を行わない場合には、次回の色収差の測定精度もそれほど高い精度でなくても高精度な色収差測定が行えるので、倍率色収差の閾値についても、予め高精度な閾値を設定する必要がない。そこで、S22では、次に補正する倍率色収差量のS12の閾値を決定するために、次回の色収差補正の目標値に対して、どの程度の閾値があれば、正確な色収差を測定することができるのかという目安となる、色収差測定精度値を求める。色収差測定精度値は例えば
Cpre×(1−Cq+Cq×k)h・・・・・・・[数1]
を精度値として算出できる。
Cpreは過去の色収差測定値、Cqは過去の色収差測定値に対して今回どの程度の補正を行うかという補正割合(<=1) 、k補正後ばらつき(<1)、h有効精度(<1、目安として0.1)である。例えば、補正割合を0.5、補正後のばらつきkを無視し、有効精度を0.1とした場合には、この精度値は0.05×Cpreとなる。
【0037】
(S23):色収差測定精度値を求めた後、この精度値に対する測定パラメータの許容測定誤差△fを計算する。例えば、後述する方法の色収差測定において、測定時の加速電圧のふり幅を仮に±ΔEとしその2点間を直線近似して色収差測定を行った場合、色収差測定精度は(Δf/ΔE)×Eとなる。(Eはランディングエネルギー、Δfは許容測定誤差)。つまり、S22で導出した色収差測定精度は、許容測定誤差Δfと加速電圧のふり幅ΔEとランディングエネルギーEに依存する。そして、加速電圧のふり幅ΔfとランディングエネルギーEは予め決められた値であるため、これらの数値から許容測定誤差Δfは、算出できる。ここでE=3kVで色収差測定精度を0.1mmとした場合、ΔEを10Vとして測定するならば、△f=(10/3000)×0.1=333nmとなり、許容測定誤差を333nm内に抑える必要があることが算出される。
【0038】
(S24):制御コンピュータ30は、倍率色収差閾値を決定する。色収差測定精度に対する許容測定誤差Δfから倍率色収差に必要な閾値を計算する。このときのスポット径の変化はΔf×α(αはビームの開き角)で表され、Δf×αに対して倍率色収差が小さい必要がある。先ほどの例でα=10mradとすると、333nm×10^−2=3.3nmとなり、この値が倍率色収差量の閾値となる。そして、制御コンピュータ30は、この数値を、S12を判定するための閾値として設定し、過去の倍率色収差の判定を行った閾値は、今回求められた閾値に更新される。つまり、上記の数1の過去の色収差測定値、補正割合が分かれば、次に設定すべき倍率色収差の閾値を求めることができ、色収差補正を行う度に、この更新作業を行う。また、S21を経由した場合には、制御コンピュータ30は、ロードされた目標値(初期値)を倍率色収差の閾値として設定する。 なお、倍率色収差の閾値は取得されたSEM画像のX方向、Y方向のそれぞれについて満たしていれば良く、それぞれについて、閾値を決定する。
【0039】
以上で倍率色収差の閾値決定、更新のフローを示したが、S23で加速電圧のふり幅ΔEの値は任意に設定できるため、この値を大きくすると、測定精度値に対する測定許容値を大きくできるが、倍率色収差による軸ずれや像移動への影響が大きくなる。これについて測定精度維持と高速化の両立のために、許容値の計算段階および閾値決定ではΔEを数Vずつ変えた数種類のパターンについて計算しておき、図2のS12において現在の倍率色収差を考慮してそれぞれのパターンで、ΔEが小さくて倍率色収差補正の必要性が最も少ないΔEの条件を用いて算出された閾値を選択するようにプログラムを組むことで、さらに効率的にS13のループを最小限の回数に抑えることもできる。
【0040】
上記方法では、あらかじめ加速電圧のふり幅ΔEを設定しておき補正閾値を算出、設定、測定値とこの設定閾値との大小を判定する方法を示したが、倍率色収差補正をスキップするために、S23ではΔEは加速電圧の1%以内といった範囲で可変にしておき、倍率色収差測定後にこの閾値を算出、設定する方法もある。この場合S24において補正閾値はΔEの関数として表すことができる。得られた関数から、図2のS12において、ΔEを閾値内で倍率色収差補正を必要としない値に選択できる。こうすることで、S13のステップを省略することができ、色収差補正前もしくはΔEが大きくなり過ぎない範囲で、倍率色収差を補正することなく、測定の精度維持と高速化が両立可能となる。
【0041】
次に、倍率色収差測定について説明する。倍率色収差測定にはいろいろな測定方法あるが、ここでは本質でないため一例の概略だけ説明する。倍率色収差測定では、加速電圧をΔEだけ変えた画像と変えない画像を取得し、両者の画像の移動量ΔxからΔx/ΔEとして倍率色収差量が測定できる。なお、移動量は、SEM画像のX方向とY方向でそれぞれ独立に測定される。画像の移動量の算出方法は相関法など公知の技術が利用可能である。なお、色収差測定についても、いろいろな測定方法があるが、次で説明する測定法は、新規かつ有用なものであるため、独立した発明であり次の段落で詳細に説明する。
【0042】
次に、図2フロー中の色収差測定について図4を用いて説明する。図4のフローは図2中のS14を詳細に示したものである。
【0043】
(S30):制御コンピュータ30は、加速電圧Vaccを基準電圧V0から−△E変化させる。基準電圧とはもともと設定してある加速電圧のことである。また、ΔEは予め設定された値である。
【0044】
(S31):制御コンピュータ30は、まず、色収差測定に必要な、X方向、Y方向それぞれについてデフォーカス量を測定する。デフォーカス量とそのデフォーカス量を求めた加速電圧の条件は記憶部などに保存される。デフォーカス量の測定の詳細については後述する。
【0045】
(S32):制御コンピュータ30は、測定終了条件を満たすか判定する。ここでは加速電圧を-ΔEから+ΔEまで変更して測定するため、+ΔEになったか判定している。終了条件を満たさなければS33に進み、終了条件を満たす場合はS34に進む。
【0046】
(S33):制御コンピュータ30は、加速電圧を基準電圧+ΔE/N変更する。なお、Nは自然数である。この例では加速電圧の変動2ΔEを均等に2N分割し、測定は2N+1回行われることになる。(S34):制御コンピュータ30は、加速電圧Vaccを基準電圧V0にもどす。この処理は測定後であれば、次のS35の後もしくは、S35と並行して行っても良い。
【0047】
(S35):制御コンピュータ30は、X方向とY方向の色収差量を算出する。色収差量はS31で求めるデフォーカス量とそのときの加速電圧と変更値から算出できる。図5では横軸に加速電圧の変動(加速電圧の変更値)、縦軸にデフォーカス量をとっている。実線501がX方向を、破線502がY方向のデフォーカス量を結んだ線である。この例ではN=3、 ΔE=12の場合の例である。X方向、Y方向についてそれぞれ1次ないしは2次関数で近似した場合の1次の係数kcが求まり、kc×Eから色収差係数Ccを算出できる。色収差量は、色収差係数Ccと開き角αの積およびエネルギー幅ΔεからCc×α×Δε/Eとして計算できる。
【0048】
上記フローでは簡単のためΔEの符号やステップは均等としたが、加速電圧を複数変えてあれば、大きさや順番には特に制限なく、例えば符号を変えながらジグザグにふるやり方をしても良い。
【0049】
図4フロー中のS31のデフォーカス量の測定について図6のフローで説明する。ここではデフォーカス量の測定として磁場型対物レンズ17の励磁量を変更しているが、デフォーカス量を測定できるものであれば、コンデンサーレンズの励磁や静電型レンズの電圧、リターディング電圧、試料高さ変更などから測定しても良い。また途中取得する画像の倍率や位置は同一となるように揃える。画像の倍率に関しては、1ピクセルのサイズが現在の分解能もしくは目標分解能に対して同一か半分以下となる条件を選ぶのが望ましい。
【0050】
(S40):制御コンピュータ30は、対物レンズの励磁量OBJを基準値B0から−ΔB変化させる。基準値はもともと設定してある励磁量のことである。励磁量は制御上のDAC値や励磁電流などで、デフォーカス量との対応関係のテーブルが作成されている。
【0051】
(S41):制御コンピュータ30は、画像を取得しX方向、Y方向それぞれについて鮮鋭度を測定する。鮮鋭度とは画像の方向微分値であり、画像データに対して図7で示すようなマスクを画像の各ピクセルデータ及びその周囲のピクセルデータにかけた結果の二乗和から算出できる公知の技術である。図7(a)はX方向の微分用マスクの例であり、図7(b)はY方向の微分用マスクの例である。鮮鋭度と対物レンズの励磁条件は記憶部76などに保存される。
【0052】
(S42):制御コンピュータ30は、測定終了条件を満たすか判定する。ここでは励磁量を−ΔBから+ΔBまで変更して測定するため、+ΔBになったかを判定している。終了条件を満たさなければS43に進み、終了条件を満たす場合はS44に進む。
【0053】
(S43):制御コンピュータ30は、励磁量を+ΔB/M変更する。なお、Mは自然数である。この例では励磁量の変動2ΔBを均等に2M分割し、測定は2M+1回行われる。
【0054】
(S44):制御コンピュータ30は、励磁量OBJを基準値B0にもどす。この処理は測定後であれば、次のS45の後もしくは、S45と並行して行っても良い。
【0055】
(S45):制御コンピュータ30は、X方向とY方向のデフォーカス量を算出する。デフォーカス量はS41で求めた鮮鋭度とそのときの励磁量から算出できる。図8では横軸に励磁量の変更値、縦軸に鮮鋭度をとっている。実線801がX方向を、破線802がY方向の鮮鋭度を結んでいる。この鮮鋭度のピークPx、Pyと基準値との励磁量の差を変換した数値がデフォーカス量として算出される。
【0056】
以上でデフォーカス量の算出法を示した。ΔBの符号やステップは均等としたが、励磁量を複数変えてあれば、大きさや順番には特に制限なく、例えば符号を変えながらジグザグにふるやり方をしても良い。
【0057】
以上より、色収差測定を、精度を落とさないで短時間で行うフローの代表的なものを説明した。次に、図13と図14とを用いて、得られる効果について説明する。
【0058】
図13は比較例である。横軸は繰り返し回数を示し、S13の倍率色収差補正を行う回数を示している。縦軸は収差量を示し、色収差量と倍率色収差量との双方を規格化した量である。また、実線1301は色収差量を示し、破線1302は倍率色収差量を示している。一点鎖線1303は色収差量の閾値を示し、点線1304は倍率色収差量の閾値を示している。図13では、予め色収差閾値と倍率色収差閾値とを一定値に設定し、倍率色収差の閾値を一定としたまま、色収差量と倍率色収差量が夫々、これらの閾値以下となるまで、夫々の収差を補正する場合である。1回〜4回目までは、図2のS13の補正を行い、倍率色収差の補正を行う。4回目で初めて、倍率色収差量が倍率色収差の閾値1304以下となるため、S12の判定でYESとなり、4回目で色収差量を求めるS14に移行する。しかし、色収差量が色収差閾値1303よりも大きいため、S15の判定でNOとなり、S16で色収差補正を行う。ここで、色収差の補正を行ったため、倍率色収差量もこの補正に影響され、倍率色収差量も変動する。これを示したのが、5回目の倍率色収差量である。さらに6回 〜8回目まで、S13の補正を行い、再度8回目で、倍率色収差量が倍率色収差の閾値1304以下となるため、S12の判定でYESとなり、8回目で色収差量を求めるS14に移行する。しかし、やはり色収差量が色収差閾値1303よりも大きいため、S15の判定でNOとなり、S16で色収差補正を行う。このようにして、15回目で倍率色収差量および色収差量が共に夫々の閾値以下となりS15の判定でYESとなり、収差補正を終了する。
【0059】
一方、図14は本願発明に係る収差補正を行った場合の説明図である。本願発明では、色収差補正を行う毎に、S10の倍率色収差の閾値設定を行うため、倍率色収差の閾値を閾値1、閾値2、閾値3と、徐々に閾値が下がり、最終的には図13の比較例の倍率色収差の閾値と同等の値である閾値3となる場合である。比較のため、倍率色収差の補正量と、色収差の補正量は、同じ量補正するものとしている。1回〜2回目までは、図2のS13の補正を行い、倍率色収差の補正を行う。2回目で初めて、倍率色収差量が閾値1以下となるため、S12の判定でYESとなり、2回目で色収差量を求めるS14に移行する。なお、閾値1は、図3のS21、S24とフローが流れることで設定された閾値である。しかし、色収差量が色収差閾値1303よりも大きいため、S15の判定でNOとなり、S16で色収差補正を行う。ここで、色収差の補正を行ったため、倍率色収差量もこの補正に影響され、倍率色収差量も変動する。これを示したのが、3回目の倍率色収差である。さらに、ここで図2のS10により、倍率色収差の閾値が新たに閾値2と求まり、閾値2が倍率色収差の閾値として新たに設定される。4回、5回と倍率色収差の補正を繰り返し、5回目で初めて、倍率色収差が閾値2以下となるため、S12の判定でYESとなり、色収差量を求めるS14に移行する。しかし、やはり色収差量が閾値1303よりも大きいため、S15の判定でNOとなり、S16で色収差補正を行う。そして、さらにS10により、倍率色収差の閾値が新たに閾値3と求まり、閾値3が倍率色収差の閾値として新たに設定される。このようにして、12回目で倍率色収差量および色収差量が共に夫々の閾値以下となりS15の判定でYESとなり、収差補正を収差する。
【0060】
このように、比較例の技術では、倍率色収差の閾値が一定であったため、補正繰り返し回数が比較的多かったが、本願発明のように、倍率色収差の閾値を、色収差補正量を元に適切な数値を算出して設定することで、繰り返し回数が15回から12回と大幅に減少させることができる。これにより、補正にかかる時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0061】
本実施例の構成は実施例1と同じものを用いる。本実施例では特に、実施例1で倍率色収差補正を省略または少ない量で補正した際に生じる軸ずれの対処法について、二つの方法を説明する。ここでの方法は特に、図6のフローを改良したものを示す。それ以外のフローについては断わりがない限りは実施例1のフローを行っているものとする。
【0062】
図6でのデフォーカス量算出S40〜S45の際、対物レンズの励磁などを変更するが、これらの算出では図4での加速電圧が+ΔEなど変化した状態を含んでいる。この状態で倍率色収差が存在すると、軸ずれにより励磁の変化に伴い像移動が発生する。倍率色収差は色収差測定時の精度を落とさないよう最適化されているが、測定時の分解能についてのみ考慮されており、励磁の変更に付随して発生する像移動の影響については必ずしも充分に対処できていない場合がある。しかし、以下の方法により、充分に対処することができる。
【0063】
図9に図6フローを変更したものを示す。注意点や処理内容は図6フローと同じであるが、いくつかの処理が追加されている。追加、変更した処理についてのみ説明する。
【0064】
(S50):制御コンピュータ30は、低倍率でシフト演算用に画像Aを取得する。低倍率とは色収差測定用画像の倍率を基準として、低倍率なものをさす。初期設定としては1倍から2分の1程度が目安である。
【0065】
(S51):制御コンピュータ30は、低倍率でシフト演算用に画像Bを取得する。画像Aと画像Aは同じ倍率であることが望ましい。但し、演算時にスケールを合わせられれば必ずしも同じ倍率でなくともよい。
【0066】
(S52):制御コンピュータ30は、励磁の変化に対する像移動量、つまり、イメージシフト量を算出する。ここでは、制御コンピュータ30は、画像A、画像Bをの位置ズレ量を計算し、位置ズレ量を励磁量の変化で割ることで励磁の変化に対する画像の移動量を演算する。像の移動量とイメージシフト量の関係はあらかじめテーブルを作っておくことで、励磁の変化に対するイメージシフト量が見積もれる。なお、励磁に対するイメージシフト量は、画像間に同一領域が80%も含まれていれば充分なため、励磁に対するイメージシフトは10%程度の精度が確保されれば充分である。
【0067】
(S53):制御コンピュータ30は、シフト量が演算できたか判断する。励磁に対する移動量が大きく、画像Aと画像Bで同一領域が存在しなかった場合の処理である。S52でのイメージシフト量の演算では相関法などが用いられるが、この処理には相関の度合いを示す指標が出力されており、この指標から相関が低い場合はシフト量算出ができない、あるいは信頼性が低いと判断できる。この場合はシフト量の演算を失敗したとみなしS54にすすみ、シフト量が算出できた場合、あるいは信頼性が高い場合はS56に進む。
【0068】
(S54):制御コンピュータ30は、励磁量を一旦元に戻す。
【0069】
(S55):制御コンピュータ30は、画像A、画像Bの両方もしくはいずれかの倍率を下げる。これにより、S53でシフト量の演算が失敗した場合であっても、画像A、画像B間に含まれる同一領域が増加するため、次回のS53でシフト量を演算できる可能性が高くすることができる。
【0070】
(S56):制御コンピュータ30は、現在の励磁量に対して、像移動をキャンセルするイメージシフトを加える。なお、イメージシフトは走査偏向器15の値を変えることで行える。
【0071】
以上で加速電圧変更後の軸ずれによる励磁の変化時の像移動の対処法を説明した。シフト量演算処理(S53)で失敗した場合、シフト演算用画像の取得条件を低倍化した(S55)が、倍率は変えないで励磁量の変化を小さくして再測定する方法も可能である。図10が図9のS54、S55の処理の代替方法である。ここではS54aでシフト計測失敗回数jに対してシフト測定用の励磁量を変化している。ここでは励磁の変化量をΔB/(j+1)としたが、ΔB/(2^J)などにしても良い。つまり、励磁量を小さくすることで、像移動量を小さくし、次回のS53でシフト量を演算できる可能性を高くすることができる。
【0072】
上記方法では、励磁の変化時の像移動をイメージシフトによってキャンセルしたが、図9ステップ(S56)において±ΔBに対する像移動に対して、鮮鋭度測定に必要な情報量(例128×128ピクセルなど)分の同一領域を必ず含むサイズの画像を取得するようにし、その領域を取得画像として切り出しても良い。これは上の方法が、偏向によるイメージシフトに対して、画像データに対するデジタル的なイメージシフトと言える。
【0073】
本実施例で説明した手法により、実施例1の効果に加え、励磁の変更に付随して発生する像移動の影響についても対処することができ、色収差測定を、精度を落とさないで行うことができる。
【実施例3】
【0074】
本実施例の構成は実施例1と同じものを用いる。本実施例では、実施例1の図2および図4フローでの倍率色収差測定と色収差測定を同時に行う場合について示す。それ以外のフローについては、特に断わりがない限り実施例1のフローを行うものとする。
【0075】
図2のフローからの変更したものを図11に示す。図2のS14の処理がS11に統合され、S11bになっている。S11bの詳細については図12に示す。図12は図4フローに倍率色収差測定用の処理を付加したものである。変更点についてのみ説明する。
【0076】
(S31a):制御コンピュータ30は、加速電圧Vacc を基準電圧V0から変更した値での画像を取得する。この処理の順序はS31と入れ替えても良い。取得した画像と加速電圧などの条件は記憶部76などに保存され、S35bでの収差計算で使用される。
【0077】
(S35b):色収差量と倍率色収差量が測定される。色収差の測定法はステップS35に準じ、倍率色収差はS31aで取得した画像間の加速電圧の変化量に対する移動量から見積もられる。算出方法は実施例1の通りとなる。なお、ここで算出された色収差量の情報はS12で倍率色収差が所定の閾値を満たさない場合には、精度不足と判断され破棄される。
【0078】
以上で倍率色収差と色収差を同時に測定する方法について、実施例を示した。同時測定は色収差測定の時間とほぼ同じであるが、倍率色収差測定単体に比べて同時測定にかかる時間は相対的に長くなってしまう。しかしながら、図2のS11とS14のように別フローで行うよりも時間は短縮できるため、倍率色収差が補正された後に色収差補正の微調整を行う場合など、S12の倍率色収差の判定を通過することが予想でき、倍率色収差補正は不要と思われるが確認を必要する場合において同時測定を行うと、短時間で測定することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は走査型電子顕微鏡、半導体検査装置、走査透過型電子顕微鏡、集束イオンビーム装置などへ利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1…ショットキー電子源、2…サプレッサー電極、3…引き出し電極、4…第1陽極、5…第2陽極、6…第1コンデンサーレンズ、7…第2コンデンサーレンズ、8…偏向器、9…可動絞り、10…収差補正器、11…非点補正コイル、12…対物アライナ、15…走査偏向器、16…下走査コイル、17…対物レンズ、18…試料、20…電子銃電源、21…制御電圧源、22…加速電圧源、23…第1コンデンサーレンズ電源、24…第2コンデンサーレンズ電源、25…偏向コイル電源、26…収差補正器電源、27…走査コイル電源、28…対物レンズ電源、29…リターディング電源、30…制御コンピュータ、31…可動絞り微動機構、32…非点補正コイル電源、33…対物アライナ電源、50…、51…、60…光軸、71…ExB偏向器、72…反射板、73…2次電子検出器、74…2次電子検出器電源、75…ExB偏向器電源、76…記憶部、77…モニタ、78…操作卓、79…収差演算装置、80…試料ステージ、81…試料ステージ制御機構、100…真空容器、101…カラム、102…試料室、103…制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、
該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から倍率色収差と色収差を測定し、測定された収差に基づき、収差を補正するよう前記照射光学系を制御する制御部と、
倍率色収差の補正の終了の可否を判定する閾値を格納する記憶部を備え、
前記制御部は、測定された色収差を元に前記閾値を設定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、倍率色収差を測定した後、前記閾値と比較し、測定された倍率色収差が前記閾値以下の場合に、色収差を測定し、色収差が予め設定された数値以下の場合に、色収差の補正を終了することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、色収差が予め設定された数値以下とならない場合に、色収差を補正するよう前記照射光学系を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、測定された色収差の中で最も新しい色収差を元に閾値を算出し、前記閾値を算出された新たな閾値に更新し、色収差を補正するよう前記照射光学系を制御した後の倍率色収差を測定し、測定された倍率色収差と更新された新たな閾値と比較し、測定された倍率色収差が更新された新たな閾値以下の場合に、色収差を測定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、該一次荷電粒子線の該試料の表面に対するエネルギーを所定のエネルギーを中心に所定量を増減させるよう制御することで色収差を測定し、
前記制御部は、測定された色収差と前記所定量を元に前記閾値を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、色収差を測定する前に、前記所定量を増減させた場合の画像の像移動量を算出し、前記像移動量が算出できない場合には、画像の倍率を下げる制御を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記収差補正器に印加される電圧又は電流を制御することで、倍率色収差及び色収差を補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記閾値は、該画像のX方向とY方向の2つの閾値からなることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、
該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から倍率色収差と色収差を測定し、測定された収差に基づき、収差を補正するよう前記照射光学系の制御を行う制御部と、
倍率色収差の補正の終了の可否を判定する第1の閾値と、色収差補正の補正の終了の可否を判定する第2の閾値を格納する記憶部を備え、
前記制御部は、測定された倍率色収差が前記第1の閾値以下となるまで倍率色収差の補正を行うよう前記照射光学系を制御し、測定された倍率色収差が前記第1の閾値以下となった後、色収差の補正の可否の判定を行い、測定された色収差が前記第2の閾値以下の条件を満たさない場合には、色収差の補正を行うよう前記照射光学系を制御し、前記第1の閾値を前記第1の閾値より小さい第3の閾値に変更し、倍率色収差の測定を行い、測定された倍率色収差が前記第3の閾値以下となるまで倍率色収差の補正を行うよう前記照射光学系を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、測定された色収差が前記第2の閾値以下の場合に、該色収差の補正を終了することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項9記載の荷電粒子線装置において、
前記第3の閾値は、測定された色収差を元に算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項9記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、測定された倍率色収差が前記第3の閾値以下となるまで、倍率色収差の補正を行うよう前記照射光学系を制御した後、色収差の測定を行い、測定された色収差が前記第2の閾値以下の条件を満たさない場合には、色収差の補正を行うよう前記照射光学系を制御し、前記第2の閾値以下の条件を満たす場合に、色収差の補正を終了することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項11記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、該一次荷電粒子線の該試料の表面に対するエネルギーを所定のエネルギーを中心に所定量を増減させるよう制御することで色収差を測定し、
前記制御部は、測定された色収差と前記所定量を元に前記第3の閾値を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項13記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、色収差を測定する前に、前記所定量を増減させた場合の画像の像移動量を算出し、前記像移動量が算出できない場合には、画像の倍率を下げる制御を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項9記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記収差補正器に印加される電圧又は電流を制御することで、倍率色収差及び色収差を補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項9記載の荷電粒子線装置において、
前記第1〜第3の閾値の夫々は、該画像のX方向とY方向の2つの閾値からなることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項17】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージに載置された試料に一次荷電粒子線を走査し、該一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器を備えた照射光学系と、
該一次荷電粒子線の走査により発生する二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器により検出された該二次荷電粒子の信号を画像処理して画像を形成し、該画像から色収差を算出する制御部を備え、
前記制御部は、該一次荷電粒子線の該試料の表面に対するエネルギーを制御し、異なるエネルギー毎に画像を取得し、該画像の少なくとも異なる2つの方向に対し、デフォーカス量を算出し、該エネルギーと該デフォーカス量との関係から色収差を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項18】
請求項17記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、横軸に該エネルギー、縦軸に該デフォーカス量としたデータを線形近似した直線の傾きを色収差として算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項19】
請求項17記載の荷電粒子線装置において、
前記照射光学系は、対物レンズを含み、
前記制御部は、前記対物レンズの励磁量を変更するよう制御し、変更された励磁量毎に画像を取得し、得られた複数の画像に対し方向微分を行い、該励磁量と該方向微分から前記異なるエネルギー毎のデフォーカス量を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−251218(P2010−251218A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101541(P2009−101541)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】