説明

菌体生育状態計測センサ、菌体生育状態計測装置及び菌体培養システム

【課題】菌体溶液中における菌体の生育状態を正確且つ連続して計測できる菌体生育状態計測センサ、菌体生育状態計測装置、及び、菌体培養システムを提供する。
【解決手段】菌体溶液中における菌体の生育状態を計測する菌体生育状態計測センサ30は、アノード側電極31と、カソード側電極32と、アノード側電極31とカソード側電極32との間に介在してこれら電極と積層されたイオン交換膜33と、カソード側電極32と電気的に接続されたカソード側端子35と、を有する電極部36と、アノード側電極31とカソード側端子35の先端35aとが外部に露出されるようにして電極部36が取り付けられるとともに、カソード側電極32と酸化還元物質溶液40とを密封して収容するケース37と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌体溶液中における菌体の生育状態を計測する菌体生育状態計測センサ、該菌体生育状態計測センサを備えた菌体生育状態計測装置、及び、該菌体生育状態計測装置を備えた菌体培養システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物の工業的利用が拡大しており、例えば、工場等から排出される有機性物質を含む廃棄物の発酵による水素やメタンなどの燃料ガスの生成や、天然ガスの主成分であるメタンガスのメタノールへの変換など、において微生物の利用が進められている。そして、工業的に用いるためには多量の微生物が必要とされ、このような微生物は培養装置を用いて生産される。
【0003】
微生物、即ち、菌体は生き物であるので、同じ条件で培養を行っても菌体の生育状態が一定しないことが、一般的に知られている。そのため、培養装置においては、菌体の生育状態を計測し、この計測した生育状態に応じて、培養のための飼料の量や、菌体を含む菌体溶液の温度などの培養条件を調整することにより、菌体の生育状態を安定させる必要がある。
【0004】
従来、菌体の生育状態の計測は、培養装置から菌体を含む菌体溶液の一部を抜き取り、この抜き取った菌体溶液の濁り具合を、濁度計を用いて計測することにより行っていた(特許文献1)。つまり、菌体溶液の濁り具合が高い程、菌体溶液中の菌体数が多く、濁り具合が低い程、菌体溶液中の菌体数が少ないと推計して、この濁り具合に応じた培養条件の調整を行っていた。
【0005】
また、他にも、培養装置から抜き取った菌体溶液中に含まれる菌体数を、例えば、周知のPCR(Polymerase Chain Reaction)法などを用いて計測したり、培養する菌体が生育に応じて特定のガスを発生するものである場合には、その菌体が発生する特定のガスの濃度や量を計測したりして、菌体の生育状態の計測を行っていた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−234599号公報
【特許文献2】特開2002−282826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、菌体溶液には、有効に利用可能な活性状態にある菌体以外にも、死滅した菌体や夾雑物が含まれているので、濁度計を用いた計測では活性状態にある菌体数を得ることができず、そのため、菌体の生育状態を正確に計測することができなかった。また、菌体溶液を濁度計にかけるために培養装置から菌体溶液を抜き取るので、抜き取りに際して培養装置の動作を一時停止する必要があり、そのため、所定の培養条件において生育されている菌体の生育状態を連続して計測することができなかった。また、PCR法などを用いることで菌体数を正確に計測することができるが、上記と同様に菌体溶液の抜き取りが必要なので、菌体の生育状態を連続して計測することができなかった。また、生育時に菌体が発生する特定のガスの濃度や量の変動と、菌体数の増減と、のタイミングは必ずしも一致しないので、該特定のガスの濃度や量の計測によっても、菌体の生育状態を正確に計測することができなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、菌体溶液中における菌体の生育状態を正確且つ連続して計測できる菌体生育状態計測センサ、菌体生育状態計測装置、及び、菌体培養システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、菌体溶液中における菌体の生育状態を計測する菌体生育状態計測センサにおいて、アノード側電極と、カソード側電極と、前記アノード側電極と前記カソード側電極との間に介在してこれら電極と積層されたイオン交換膜と、カソード側電極と電気的に接続されたカソード側端子と、を有する電極部と、前記アノード側電極と前記カソード側端子の少なくとも一部とが外部に露出されるようにして前記電極部が取り付けられるとともに、前記カソード側電極と該カソード側電極に接触される酸化還元物質とを密封して収容するケースと、を備えていることを特徴とする菌体生育状態計測センサである。
【0010】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載の菌体生育状態計測センサと、前記菌体生育状態計測センサが備えるアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定する電力測定手段と、前記電力測定手段によって測定された前記起電力に基づいて、前記菌体の生育状態を算出する生育状態算出手段と、前記生育状態算出手段によって算出された前記菌体の生育状態を出力する生育状態出力手段と、を備えていることを特徴とする菌体生育状態計測装置である。
【0011】
請求項3に記載された発明によれば、菌体溶液を収容する培養容器と、請求項2に記載の菌体生育状態計測装置と、を備えた菌体培養システムにおいて、前記菌体生育状態計測装置が備える菌体生育状態計測センサが、そのアノード側電極を前記菌体溶液に接触するようにして前記培養容器に収容されていることを特徴とする菌体培養システムである。
【0012】
請求項1に記載された発明によれば、アノード側電極とカソード側電極とがそれら間にイオン交換膜を挟んで積層されており、そして、アノード側電極とカソード側電極に電気的に接続されたカソード側端子の少なくとも一部とがケースの外部に露出され且つカソード側電極と該カソード側電極に接触される酸化還元物質とがケースに密封して収容されているので、この露出されたアノード側電極に菌体溶液を接触させることで、バイオ燃料電池の原理により、該菌体溶液中の菌体の代謝反応によって生成される電子を取り出して、アノード側電極とカソード側電極(即ち、カソード側端子)との間に起電力を生じさせることができる。
【0013】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載された菌体生育状態計測センサを備えており、電力測定手段によって、前記菌体生育状態計測センサが備えるアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定して、生育状態算出手段によって、前記電力測定手段により測定された前記起電力に基づいて、前記菌体の生育状態を算出する。そして、生育状態出力手段によって、前記生育状態算出手段により算出された前記菌体の生育状態を出力する。そのため、この菌体生育状態計測センサのアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定して、この測定した起電力に基づいて菌体の生育状態を算出して出力することができる。
【0014】
請求項3に記載された発明によれば、請求項2に記載された菌体生育状態計測装置を備えており、この菌体生育状態計測装置が備える菌体生育状態計測センサが培養容器に収容されて、そのアノード側電極に菌体溶液が接触されている。そのため、この菌体生育状態計測センサのアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定して、この測定した起電力に基づいて菌体の生育状態を算出して出力することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、菌体溶液中の菌体の代謝反応によって生じる電子を取り出して、アノード側電極とカソード側電極との間に起電力を生じさせることができるので、この起電力は菌体の代謝反応に応じた大きさとなり、即ち、活性状態にある菌体の数(量)、濃度に応じた大きさとなり、そのため、この起電力を用いることで、菌体の生育状態を正確に計測することができる。また、アノード側電極を菌体溶液に常時接触させることで、アノード側電極とカソード側電極との間に菌体の生育状態に応じた起電力を連続的に発生させることができるので、培養容器などから該菌体溶液を抜き取ることなく、菌体の生育状態を連続的に計測できる。
【0016】
請求項2、3に記載された発明によれば、この菌体生育状態計測センサのアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定して、この測定した起電力に基づいて菌体の生育状態を算出して出力することができるので、菌体の生育状態を正確且つ連続的に計測して出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態を示す菌体培養システムの構成を説明する図である。
【図2】図1の菌体培養システムが備える菌体生育状態計測装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の菌体培養システム、菌体生育状態計測装置、及び、菌体生育状態計測センサの一実施形態を、図1〜図2を参照して説明する。
【0019】
図1に示す菌体培養システム(図中、符号1で示す)は、菌体としてのメタン資化細菌に、飼料となるメタン・酸素混合ガスを与えることにより、該メタン資化細菌を培養するシステムである。本実施形態は、本発明の一例を示すものであり、他の菌体を培養するシステムにも本発明を適用することができる。
【0020】
菌体培養システム1は、培養容器10と、飼料管19と、飼料タンク21と、菌体生育状態計測装置50と、を備えている。
【0021】
培養容器10は、本体部11と、蓋部12と、ヒータ13と、攪拌装置14と、を備えている。
【0022】
本体部11は、上端が開口され、下端が底壁11aで塞がれた、有底筒状に形成されている。本体部11は、菌体とメディエータとが混合された菌体溶液60を収容する。
【0023】
培養溶液に含まれる菌体は、メタンを飼料とするメタン資化細菌である。このようなメタン資化細菌は、メタン(CH4)・酸素(O2)混合ガスを飼料として与えられることにより、その代謝反応によってメタノール(CH3OH)と水(H2O)と二酸化炭素(CO2)とを順次生成するとともに、菌体の内部に電子(e-)を取り出す。
【0024】
一例を挙げると、メタン資化細菌(Methylosinus trichosporium OB3b)は、メタンを原料として電子を発生しながら二酸化炭素へと酸化反応を行う菌体である。メタン資化細菌は、以下に示す代謝経路でメタン(CH4)を二酸化炭素(CO2)に酸化する。また、この代謝経路(反応)の途中(式2〜4)で電子を放出する。この細菌は、培養槽中でメタンを与えることにより培養することができる。
CH4→CH3OH→H2CO→HCOO-→CO2 ・・・(代謝経路)
CH4+O2+2NADH→CH3OH+H2O+2NAD+ ・・・(1)
CH3OH+2NAD+→H2CO+2NADH ・・・(2)
2CO+H2O+2NAD+→HCOO-+2NADH+H+ ・・・(3)
HCOO-+NAD+→CO2+NADH ・・・(4)
【0025】
メディエータは、電荷伝達体などとも呼ばれ、菌体内で生成された電子(e-)を菌体外部に伝達するための物質であり、例えば、メチレンブルーなどが用いられる。
【0026】
蓋部12は、本体部11の上端の開口を覆うようにして、本体部11に取り付けられる。蓋部12には、飼料管19の一端19aが、蓋部12を貫通して取り付けられている。また、蓋部12には、後述する菌体生育状態計測装置50の電線52が、蓋部12を貫通して取り付けられている。蓋部12は、本体部11に取り付けられたときに、本体部11の内部を気密にするとともに、飼料管19の一端19aを本体部11の内部で且つ菌体溶液60中に位置づける。
【0027】
ヒータ13は、本体部11の周壁11bの全周に亘って設けられた、周知の加熱装置である。ヒータ13は、本体部11を介して菌体溶液60を加熱することにより、菌体溶液60の温度を調整する。
【0028】
攪拌装置14は、本体部11に収容された菌体溶液60を攪拌する装置であり、蓋部12を貫通し且つ回転可能に取り付けられた軸部15と、軸部15の先端に固定されたプロペラ部16と、軸部15の基端を支持するとともに軸部15を回転させるモータ部17と、を備えている。攪拌装置14のプロペラ部16は、本体部11の内部で且つ菌体溶液60中に位置づけられている。攪拌装置14は、定常的に、又は、飼料の供給時などの予め定められたタイミングで、軸部15を介してプロペラ部16を回転させることにより菌体溶液60を攪拌して、菌体溶液60中の菌体、メディエータ、及び、飼料を均一に混合する。
【0029】
飼料タンク21は、菌体の飼料となるメタン・酸素混合ガスを収容する。飼料タンク21には飼料管19の他端19bが取り付けられており、飼料タンク21は、該飼料管19を介して培養容器10が備える本体部11の内部と連通されている。また、飼料タンク21は図示しないポンプを備えており、このポンプによって、内部に収容されているメタン・酸素混合ガスを、飼料管19を通じて培養容器10に供給する。
【0030】
菌体生育状態計測装置50は、菌体生育状態計測センサ30と、計測器51と、電線52と、を備えている。
【0031】
菌体生育状態計測センサ30は、図2に示すように、アノード側電極31、カソード側電極32、イオン交換膜33、アノード側端子34、及び、カソード側端子35、を備えた電極部36と、ケース37と、を備えている。
【0032】
アノード側電極31は、例えば、多孔体のカーボン膜などで構成された、導電性多孔質膜である。アノード側電極31には、導電性の棒状端子であるアノード側端子34が、電気的に接続されている。
【0033】
カソード側電極32は、例えば、多孔体のカーボン膜などで構成された、導電性多孔質膜である。カソード側電極32には、導電性の棒状端子であるカソード側端子35が電気的に接続されている。
【0034】
イオン交換膜33は、例えば、ナフィオン(登録商標、NAFION(Dupont社製))などで構成された、絶縁性を有する高分子固体電解質である。イオン交換膜33は、アノード側電極31とカソード側電極32との間に介在して、これら電極と積層されている。
【0035】
ケース37は、例えば、耐腐食性を有する金属や合成樹脂などを用いて、断面コ字状の器型に形成されている。ケース37には、その開口37aをイオン交換膜33により塞いでケース37の内部を密封するように、電極部36が取り付けられている。このとき、アノード側電極31及びアノード側端子34がケース37の外部に露出され、且つ、カソード側電極32及びカソード側端子35がケース37の内部に収容される。また、カソード側端子35の先端35a(即ち、カソード側電極32に接続された端部とは反対側の端部)が、ケース37を貫通して、ケース37の外部に露出される。ケース37の内部には、カソード側電極32とともに酸化還元物質を含む酸化還元物質溶液40が密封して収容される。カソード側電極32と酸化還元物質溶液40とは、ケース37の内部で互いに接触している。
【0036】
酸化還元物質溶液40は、例えば、フェロシアン化カリウムなどの、酸化還元反応を行うための物質を含んだ溶液である。
【0037】
本実施形態においては、ケース37は器状に形成されており、その開口37aをイオン交換膜33で塞ぐように電極部36が取り付けられているが、これに限定するものではない。例えば、電極部36を、アノード側電極31が外周面に、カソード側電極32が内周面に、なるように円筒状に形成して、その円筒内部に酸化還元物質溶液40を収容するとともに、円筒の上端部及び下端部の開口を円形蓋状に形成された一対のケース37で塞いで内部を密封した円柱形状の構成など、本発明の目的に反しない限り、その構成は任意である。
【0038】
このような菌体生育状態計測センサ30は、アノード側電極31が菌体を含む菌体溶液に接触されることによって、後述するバイオ燃料電池の原理により、該菌体溶液中の菌体の代謝反応によって生成される電子(e-)が取り出されて、アノード側電極とカソード側電極(即ち、カソード側端子)との間に起電力が生じる。
【0039】
ここで、本実施形態における、バイオ燃料電池の原理による電力発生動作を説明する。
【0040】
電極部36は、アノード側電極31と、カソード側電極32と、それら電極の間に介在して積層されたイオン交換膜33と、で主要部が構成されている。アノード側電極31とカソード側電極32とを負荷を介して接続し、回路を構成する。そして、アノード側電極31に、菌体(メタン資化細菌)とメディエータとを含む菌体溶液60を接触させ、カソード側電極32に、フェロシアン化カリウムを含む酸化還元物質溶液40を接触させる。
【0041】
そして、菌体溶液60中に菌体の飼料となるメタン・酸素混合ガスを吹き込むと、菌体の代謝反応が開始される。菌体はその代謝反応の中で、菌体内部に、プロトン(H+)及び電子(e-)を生成する。
【0042】
菌体内部で生成されたプロトン(H+)は、菌体溶液60と酸化還元物質溶液40との間の濃度勾配によって、アノード側電極31、イオン交換膜33、及び、カソード側電極32を順次透過して、酸化還元物質溶液40に移動する。そして、酸化還元物質溶液40に移動したプロトン(H+)は、フェロシアン化カリウムから電子(e-)を受け取る。この結果、二価のフェロシアン化カリウムが、三価のフェリシアン化カリウムに遷移する。この反応により、水(H2O)が生成される(酸化反応)。
【0043】
一方、菌体内部で生成された電子(e-)は、菌体溶液60中のメディエータを介して、アノード側電極31に伝達され、この伝達された電子(e-)は、負荷を介して、カソード側電極32に移動する。そして、カソード側電極32に移動した電子(e-)は、酸化還元物質溶液40中の三価のフェリシアン化カリウムを、二価のフェロシアン化カリウムに還元する(還元反応)。このようにして、アノード側電極31(菌体溶液60)から供給される電子(e-)を、カソード側電極32(酸化還元物質溶液40)で順次消費することにより、電気エネルギーを得ることができる。
【0044】
計測器51は、それぞれ図示しない電流計と、該電流計と接続されたマイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータと接続された液晶ディスプレイなどの表示装置と、を備えている。電流計は、一対の電線52を介して、菌体生育状態計測センサ30のアノード側端子34及びカソード側端子35に接続されており、それら端子間(即ち、アノード側電極31とカソード側電極32との間)を流れる電流(即ち、起電力(電気エネルギー))を測定して、該電流値に応じた信号をマイクロコンピュータに向けて出力する。
【0045】
マイクロコンピュータは、アノード側電極31とカソード側電極32との間を流れる電流と、菌体溶液中の単位体積当たりの菌体数と、の相関関係について予め定められた情報(相関情報)を備えている。この相関情報は、例えば、予備的試験の結果などに基づいて定められている。マイクロコンピュータは、電流計によって測定された電流値に応じた信号が入力されると、上記相関情報に基づいて、入力された信号に対応する単位体積当たりの菌体数を示す情報を算出して表示装置に送信する。そして、表示装置は、菌体の生育状態として、単位体積当たりの活性状態にある菌体数を表示(即ち、出力)する。即ち、以上から、明らかなように、計測器51は、即ち、請求項中の電力測定手段、生育状態算出手段、及び、生育状態出力手段に相当する。
【0046】
本実施形態において、計測器51は、アノード側電極31とカソード側電極32との間を流れる電流を測定するものであったが、これに限らず、電圧を測定するものなど、アノード側電極31とカソード側電極32との間に生じる起電力(電気エネルギー)を測定するものであればよい。また、計測器51は、菌体の生育状態として、菌体溶液60中の単位体積当たりの活性状態にある菌体数を出力するものであったが、これに限らず、菌体の生育状態として、アノード側電極31とカソード側電極32との間を流れる電流値を直接出力するなど、菌体の生育状態に応じて変化する情報(即ち、菌体の生育状態を示す情報)であれば、出力する情報の種類は任意である。
【0047】
次に、上述した菌体培養システム1の動作(作用)の一例を説明する。
【0048】
菌体培養システム1の使用者は、まず、培養容器10内に、培養する菌体を含む菌体溶液60と、菌体生育状態計測センサ30とを収容する。このとき菌体生育状態計測センサ30は菌体溶液60中に沈められる。これにより菌体生育状態計測センサ30のアノード側電極31が菌体溶液60に接触する。そして、飼料タンク21から所定量のメタン・酸素混合ガスを菌体溶液60に吹き込むとともに、攪拌装置14によって菌体溶液60を攪拌し、さらに、ヒータ13によって菌体溶液60を所定温度に加熱する。
【0049】
すると、菌体が、メタン・酸素混合ガスを飼料として消化することにより生育して、その数を増加させる。この菌体による飼料の消化時には、その内部で代謝反応が行われており、この代謝反応によって電子が生成されて、菌体生育状態計測センサ30のアノード側電極31とカソード側電極32との間に電流が流れる。そして、計測器51によってこの電流値を測定し、この電流値から求めた、菌体溶液60中の単位体積当たりの活性状態にある菌体数を表示する。使用者は、表示された菌体数に基づいて、菌体の生育状態を安定させるように、飼料の供給量又は菌体溶液60の温度の調整を行う。
【0050】
本実施形態によれば、菌体生育状態計測センサ30において、アノード側電極31とカソード側電極32とがそれらの間にイオン交換膜33を挟んで積層されており、そして、アノード側電極31とカソード側電極32に電気的に接続されたカソード側端子35の先端35aとがケースの外部に露出され且つカソード側電極32と該カソード側電極32に接触される酸化還元物質溶液40とがケース37に密封して収容されているので、この露出されたアノード側電極31に菌体溶液60を接触させることで、バイオ燃料電池の原理により、該菌体溶液60中の菌体の代謝反応によって生成される電子を取り出して、アノード側電極31とカソード側電極32(即ち、カソード側端子35)との間に電流(起電力)を生じさせることができる。
【0051】
以上より、本発明によれば、菌体溶液60中の菌体の代謝反応によって生じる電子を取り出して、アノード側電極31とカソード側電極32との間に電流(即ち、起電力)を生じさせることができるので、この電流は菌体の代謝反応に応じた大きさとなり、即ち、活性状態にある菌体の数に応じた大きさとなり、そのため、この電流を用いることで、菌体の生育状態を正確に計測することができる。また、アノード側電極31を菌体溶液60に常時接触させることで、アノード側電極31とカソード側電極32との間に菌体の生育状態に応じた電流を連続的に発生させることができるので、培養容器10などから該菌体溶液60を抜き取ることなく、菌体の生育状態を連続的に計測できる。
【0052】
また、この菌体生育状態計測センサ30のアノード側電極31とカソード側電極32との間に生じた電流を測定して、この測定した電流に基づいて菌体の生育状態を算出して出力することができるので、菌体の生育状態を正確且つ連続的に計測して出力できる。そのため、出力された菌体の生育状態に応じて培養条件を調整することにより、菌体の生育状態を安定させることができる。
【0053】
本実施形態においては、計測器51は、菌体の生育状態を表示装置に表示するものであったが、これに限らず、計測器51によって、例えば、遠隔地に対し伝送線などを介して菌体の生育状態を示す信号を送信するなど、菌体の生育状態の出力方法については任意である。また、計測器51に、菌体の生育状態と培養条件との相関関係について予め定められた情報を備え、そして、計測器51によって、該情報に基づいて、計測された生育状態に応じた培養条件となるように、ヒータ13及び飼料タンク21を制御するようにしてもよい。このようにすることで、菌体の生育状態の変化に応じて、迅速に培養条件を調整することができ、菌体の培養をより効率よく行うことができる。
【0054】
また、本実施形態においては、メタン資化細菌の生育状態を計測するものであったが、これに限らず、菌体生育状態計測センサ30において、バイオ燃料電池の原理により、菌体内部に生成された電子を取り出して、起電力を生じさせることができるものであれば、菌体の種類は任意である。
【0055】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 菌体培養システム
10 培養容器
30 菌体生育状態計測センサ
31 アノード側電極
32 カソード側電極
33 イオン交換膜
34 アノード側端子
35 カソード側端子
36 電極部
37 ケース
40 酸化還元物質溶液(酸化還元物質)
50 菌体生育状態計測装置
51 計測器(電力測定手段、生育状態算出手段、生育状態出力手段)
60 菌体溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌体溶液中における菌体の生育状態を計測する菌体生育状態計測センサにおいて、
アノード側電極と、カソード側電極と、前記アノード側電極と前記カソード側電極との間に介在してこれら電極と積層されたイオン交換膜と、カソード側電極と電気的に接続されたカソード側端子と、を有する電極部と、
前記アノード側電極と前記カソード側端子の少なくとも一部とが外部に露出されるようにして前記電極部が取り付けられるとともに、前記カソード側電極と該カソード側電極に接触される酸化還元物質とを密封して収容するケースと、を備えている
ことを特徴とする菌体生育状態計測センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の菌体生育状態計測センサと、
前記菌体生育状態計測センサが備えるアノード側電極とカソード側電極との間に生じた起電力を測定する電力測定手段と、
前記電力測定手段によって測定された前記起電力に基づいて、前記菌体の生育状態を算出する生育状態算出手段と、
前記生育状態算出手段によって算出された前記菌体の生育状態を出力する生育状態出力手段と、を備えていることを特徴とする菌体生育状態計測装置。
【請求項3】
菌体溶液を収容する培養容器と、請求項2に記載の菌体生育状態計測装置と、を備えた菌体培養システムにおいて、
前記菌体生育状態計測装置が備える菌体生育状態計測センサが、そのアノード側電極を前記菌体溶液に接触するようにして前記培養容器に収容されていることを特徴とする菌体培養システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−152155(P2012−152155A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15102(P2011−15102)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】