説明

菌体表面へのタンパク質の固定化方法

【課題】 ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)菌由来のプロテアーゼのアンカー配列を利用して、種々の任意の有用タンパク質を菌体表面に固定化し、且つ当該有用タンパク質を発現させる。
【解決手段】 ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列を得る工程と、前記融合遺伝子配列を宿主菌内に導入する工程と、前記融合遺伝子配列が導入された宿主菌を培養して前記目的とするタンパク質を菌体表面に固定化する工程とを備えたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)の菌体表層のプロテアーゼタンパク質が有するアンカー配列を利用して、任意の有用タンパク質を、宿主菌体表面に発現させる固定化方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】グラム陽性菌の多くの菌体表層タンパク質はアンカー配列と呼ばれる共通した構造を持ち、それを介して菌体に結合している。ラクトコッカス・ラクチス菌のプロテアーゼの中で、所謂 763プロテアーゼは、ラクトコッカス・ラクチスssp.ラクチス NCDO763株の55Kbプラスミド(pLP 763)上に産生情報が保持されているセリンプロテアーゼであり、C末端に位置するアンカー配列により、菌体表面において菌体と結合する構造を取り、発現していることが知られている。
【0003】このアンカー配列は、グラム陽性細菌の細胞表層タンパク質の多くが有する構造であり、(1) 細胞壁を構成するペプチドグリカン層内に位置するプロリン、グリシンに富んだ繰り返し領域、(2) アミノ酸残基よりなるコンセンサス配列(LPXTGモチーフ)、(3) 細胞膜内に位置する疎水性領域、(4) 細胞質内に位置すると考えられる正電荷領域からなる。
【0004】763プロテアーゼのアンカー配列については、その、アミノ酸構造は報告されているが(文献参照;Molecular Microbiology (1989) vol.3(No.3),359-369 )、 763プロテアーゼにおいては、上記(1) に記載のプロリン・グリシンに富んだ繰り返し領域がはっきりせず、その全てが、プロテアーゼの菌体への結合に必須であるのか、また、必須ではない場合、最小必要単位がどの部分であるのか等については、充分解明されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】菌体表層に有用タンパク質を発現させることは、微生物を育種する上で有効な手段となり得る。そこで、本発明者らは鋭意努力の結果、 763プロテアーゼに由来するアンカー配列において、プロテアーゼの菌体への結合に関与する領域を解明することにより、本発明を得るに至った。
【0006】本発明は、ラクトコッカス・ラクチス菌由来のプロテアーゼのアンカー配列又は当該アンカー配列の部分配列を利用して、種々の任意の有用タンパク質を菌体表面に固定化し、且つ当該有用タンパク質を発現させることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本請求項1に記載された発明に係る菌体表面へのタンパク質の固定化方法では、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列を得る工程と、前記融合遺伝子配列を宿主菌内に導入する工程と、前記融合遺伝子配列が導入された宿主菌を培養して前記目的とするタンパク質を菌体表面に固定化する工程とを備えたものである。
【0008】本請求項2に記載された発明に係る菌体表面へのタンパク質の固定化方法では、前記アンカー配列が、少なくとも下記アミノ酸配列を備えているものである。
Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu
【0009】本請求項3に記載された発明に係る菌体表面へのタンパク質の固定化方法では、前記アンカー配列が、請求項2に示すアミノ酸配列を残して下記アミノ酸配列の一部を切除したアミノ酸配列からなるものである。
Lys Lys Thr Ser Leu Leu Asn Gln Leu Gln Ser Val Lys Ala Ala Leu Glu Thr Asp Leu Gly Asn Gln Thr Asp Ser Ser Thr Gly Lys Thr Phe Thr Ala Ala Leu Asp Asp Leu Val Ala Gln Ala Gln Ala Gly Thr Gln Thr Asp Asp Gln Leu Gln Ala Thr Leu Ala Lys Val Leu Asp Ala Val Leu Ala Lys Leu Ala Glu Gly Ile Lys Ala Ala Thr Pro Ala Glu Val Gly Asn Ala Lys Asp Ala Ala Thr Gly Lys Thr Trp Tyr Ala Asp Ile Ala Asp Thr Leu Thr Ser Gly Gln Ala Ser Ala Asp Ala Ser Asp Lys Leu Ala His Leu Gln Ala Leu Gln Ser Leu Lys Thr Lys Val Ala Ala Ala Val Glu Ala Ala Lys Thr Val Gly Lys Gly Asp Gly Thr Thr Gly Thr Ser Asp Lys Gly Gly Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly Asp Ile Gly Lys Asp Lys Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly Gly Asn Ile Pro Thr Asn Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr Asp Arg Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu
【0010】本発明における目的とするタンパク質とは、宿主となる乳酸菌の培養に応じてその乳酸菌表面に発現する有用なタンパク質を指す。例えば、後述する実施例で示されたスタフィロキナーゼ(SAK)等の酵素や、病原性細菌の部分タンパク質,生理活性タンパク質等も考慮される。即ち、任意のタンパク質の遺伝子が単離されており、通常の遺伝子組換え技術を用いて、該アンカー配列と結合させて、融合蛋白の遺伝子を作成できるものであれば、特に制限はない。
【0011】また、本発明における宿主菌とは、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列により、菌体表面において菌体と結合する構造を取り、菌体表面に発現するものであればよい。具体的には、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis),ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) ,ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus),エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis) ,スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) ,ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans),ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)等の乳酸菌が挙げられる。
【0012】アンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列の作製、この融合遺伝子配列の宿主菌内への導入、この融合遺伝子配列が導入された宿主菌の培養は、常法により行うことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明では、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列を得て、この融合遺伝子配列を宿主菌に導入し、これを培養することにより、目的とするタンパク質を菌体表面に固定化する。
【0014】これにより、例えば、酵素を宿主菌体表面に表出させて固定化したり、病原性細菌の部分タンパク質を使用して、ワクチン作用を有するものとしたり、生理活性タンパク質を使用して、医薬的用途に用いたりすることが可能である。後述する実施例においては、優れた血栓溶解作用を有する、スタフィロキナーゼ(SAK)タンパク質をモデルとして用いたが、目的とするタンパク質に応じて種々変更が可能である。
【0015】アンカー配列と目的とするタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子配列の宿主菌内への導入は、通常の遺伝子組換え技術を用いて行うことができる。例えば、宿主菌となる乳酸菌に導入可能なプラスミドに前記遺伝子配列を保持させて、このプラスミドを宿主菌に導入することにより行うことができる。
【0016】ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列について、本発明により初めて、配列番号1〜6に示す243アミノ酸残基配列〜36アミノ酸残基配列が使用可能であることが確認された。特に、本発明では配列番号6に示す36アミノ酸残基配列がラクトコッカス・ラクチス及びラクトバチルス・カゼイで使用可能であることが確認された。
【0017】具体的には、(1) 配列番号1に示された243アミノ酸残基配列(2) 配列番号2に示された158アミノ酸残基配列(3) 配列番号3に示された125アミノ酸残基配列(4) 配列番号4に示された96アミノ酸残基配列(5) 配列番号5に示された55アミノ酸残基配列(6) 配列番号6に示された36アミノ酸残基配列が使用可能であることは、確認済みであり、これらの範囲内であれば、その他の部分配列でも使用可能である。
【0018】更に具体的には、配列番号2に示された配列は配列番号1のN末端側の85アミノ酸残基が切除された構成である。配列番号3に示された配列は同じく配列番号1のN末端側の118アミノ酸残基が切除された構成である。配列番号4に示された配列は同じく配列番号1のN末端側の147アミノ酸残基が切除された構成である。配列番号5に示された配列は同じく配列番号1のN末端側の198アミノ酸残基が切除された構成である。配列番号6に示された配列は同じく配列番号1のN末端側の27アミノ酸残基が切除された構成である。
【0019】また、本発明に係る融合タンパク質とは、活性発現を目的とするタンパク質(実施例においては、SAKタンパク質)をコードする遺伝子と、アンカー配列として使用するアミノ酸配列をコードする遺伝子とを、常法で結合したものである。
【0020】この融合タンパク質を任意に選択したベクター(例えば、pSG−TERM)に組込み、プラスミドとして適当な宿主に形質転換することで、目的としたタンパク質を菌体表面に固定した微生物を得ることができる。尚、遺伝子の結合、増幅、宿主への形質転換法などは、遺伝子組換え研究分野で、周知のものを組合わせて行うことができる。
【0021】
【実施例】食品用乳酸菌を用い、アンカー配列を介した菌体表層への発現系の作成を目指して、分泌タンパク質であるスタフィロキナーゼ(SAK)と、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)NCDO763 が産生するプロテアーゼ( 763プロテアーゼ)のアンカー配列部分との融合タンパク質を構築し、そのアンカーとしての機能を検討した。
【0022】1.材料大腸菌(E. coli) JM109株(東洋紡績株式会社)と、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) YIT2081株と、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT9029株とを宿主として用いた。大腸菌はL-brothで、乳酸菌はM17-glucose 培地で培養した。ベクターとして、プラスミドpSG−TERMを用いた。PCRの鋳型DNAとして、pBE31SAK1及びpMQ9080を用いた。
【0023】2.シャトルベクターpSG−TERM図1はプラスミドpSG−TERMの構造を模式的に示した説明図である。このプラスミドは、大腸菌、乳酸菌で機能するシャトルベクターpBE31(特開平6−253861号公報参照)の約0.21kbのAcc−SmaI断片を欠失させ、更に、BamHI,SphIサイトに、エリスロマイシン耐性遺伝子由来のプロモーター(Em promoter )、 763プロテアーゼ遺伝子由来のSD配列及びシグナル配列(763 protease signal seq.)、多重制限酵素認識配列(MCS)、 763プロテアーゼ遺伝子由来のターミネータ配列(763 protease terminator )を含む約0.46kbのDNA断片を挿入し、pSG−TERMとした。
【0024】3.pMQ9080大腸菌のプラスミドpUC119のBamHIサイトに、763プロテアーゼのC末端を含むpLP763 由来の3.1kbのBglII断片をクローニングし、pMQ9080とした。
【0025】4.各プライマーの配列と合成次の配列のDNAプライマーを、DNA合成装置(Model 392、アブライド・バイオシステム社)を用いて合成した。
(1) SGSAK5ATTAA GTTCG AAGGA GGAAG CGCCA TGCTC(2) SAKSAL1RAACTA TTTTG TCGAC TTTCT T(3) MK245CTCCG CGTCG ACAAG AAGAC TTCGC TGCTT AAC(4) MK160CTCCG CGTCG ACGCT GCAAC TGGCA AAACT TGG(5) MK127TTCCG CGTCG ACTTG CAAAG TCTGA AAACG AAG(6) MK098TTCCG CGTCG ACAAA GGCGG CGGTC AAGGT ACC(7) MK057TTCCG CGTCG ACACG AGCAC GGATG ATACG ACT(8) MK038TTCCG CGTCG ACTTA CCCAA GACAG GAGAG ACA(9) ANCSPH1AACCG TTTCT ACTGC ATGCA CTATA AGCAA
【0026】5.DNA断片の製造KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績株式会社)を用いたPCR法により、遺伝子DNAの増幅を行った。SAK遺伝子の増幅は、pBE31SAK1を鋳型とし、プライマーSGSAK5とSAKSAL1Rとの間で、94℃30秒、50℃30秒、74℃60秒を1サイクルとし、これを30回繰返すことにより、行った。
【0027】アンカー配列の増幅は、pMQ9080のDraI断片を鋳型として、プライマーMK245,MK160,MK127,MK098,MK057,MK038とANCSPH1との間で、98℃15秒、60℃5秒、74℃30秒を1サイクルとし、これを30回繰返す条件により行った。
【0028】6.組換えプラスミドの製造(1) pSAK−NSの作製PCR法で増幅したSAK遺伝子を含むDNA断片を、NspV,SalIで切断し、精製した後、pSG−TERMのNspV−SalIサイトに挿入して、pSAK−NSを作成した。図2はSAK−アンカー配列融合タンパク質遺伝子の構造を模式的に示す説明図である。図2のa図に示す通り、pSAK−NSはエリスロマイシン耐性遺伝子のプロモータの下流に、SAK遺伝子由来のSD配列(SD)、SAKシグナル配列(signal seq. )、3’側にSalIサイトが挿入されたためにC末端に2アミノ酸残基が付加したSAK成熟タンパク質、終止コドン、乳酸菌プロテアーゼ由来のターミネータ配列(terminator)が繋った構造をしている。
【0029】(2) pSAK245,pSAK160,pSAK127,pSAK098,pSAK057,pSAK038の作製PCR法で増殖したアンカー配列を含むDNA断片を、SalI,SphIで切断し精製した後、pSAK−NSのSalI−SphIサイトに挿入することにより、pSAK245,pSAK160,pSAK127,pSAK098,pSAK057,pSAK038を作成した。図2のb図〜g図に示す通り、これらのプラスミドは、SAKタンパク質のC末端にSalIサイトに由来する2アミノ酸残基を介して、プロテアーゼ由来のアンカー配列がC末端から各々、243,158,125,96,55,36アミノ酸残基結合した融合タンパク質をコードしている。尚、得られたプラスミドについて、pSAK245は、生工研菌寄第15909号として、pSAK038は生工研菌寄第15910号として、各々生命工学研究所に平成08年10月17日付けで寄託されている。また、他のプラスミドについては、pSAK245の所望の塩基配列を切除することにより、得られると判断したため、菌の寄託を行わなかった。
【0030】7.宿主への形質転換作製したプラスミドDNAは、先ず、大腸菌を宿主として、構造の確認を行った。その後、大腸菌より精製した各々のプラスミドDNA(pSAK245,pSAK160,pSAK127,pSAK098,pSAK057,pSAK038)をエレクトロポレーション法によりラクトコッカス・ラクチス菌 YIT2018株に導入して、SAK−NS,SAK245,SAK160,SAK127,SAK098,SAK057,SAK038を得た。今回の実施例で作成し、解析を行った乳酸菌クローンを前記表1にまとめた。
【0031】
【表1】


【0032】8.SAKタンパク質の発現の確認(1) SAK活性の測定一晩培養した培養液そのままを培養液画分、これを遠心分離された菌体ペレットをM17-glucose 培地に再懸濁したものを菌体画分とし、各々10μlを反応溶液(chromozyme PL 0.5mM, plasminogen 0.06units/ml, polysorbate 80 0.01%,0.1M Tris-HCl pH8.0)100μlと37℃で反応させ、経時的に405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーモデル450(Bio Rad 社製)で測定した。
【0033】図3はSAK活性を測定した結果を示す線図であり、a図は培養液画分、b図は菌体画分を示す。縦軸は吸光度、横軸は反応時間を示す。図3に示す通り、SAK遺伝子を導入していないベクターでのみ活性が見られないほかは、全てのクローンで活性が検出された。
【0034】(2) SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングラクトコッカス・ラクチス菌クローンの一晩培養液1mlを遠心分離して培養上清と菌体画分とを得た。培養上清はTCA沈殿後、2×SDS sample buffer20μlに懸濁し加熱した。菌体画分も同様に2×SDS sample buffer20μlに懸濁し加熱した。これらのサンプルをPhast System 20% Phast gel(Pharmacia社製) でSDS電気泳動後、PVDF膜に転写し、抗SAK抗血清を1次抗体として、アルカリフォスタファーゼ標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として用い、ウェスタンブロッティングを行った。
【0035】図4はウェスタンブロッティングの結果を模式的に示す説明図であり、各クローン毎の培養上清(sup) 、菌体画分(cell)を順に示している。図に示す通り、SAK遺伝子を導入していないベクター(Vector)では、SAKタンパク質は検出されていない。菌体画分ではSDSサンプルバッファーにより菌体の表層タンパク質が抽出されていると考えられる。培養上清中にはSAK(融合)タンパク質が分解を受けたと思われる分子量の小さいバンドが多く検出された。
【0036】(3) アルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた菌体表面のSAK(融合)タンパク質の検出各プラスミド(pSAK245,pSAK160,pSAK127,pSAK098,pSAK057,pSAK038)を同様にエレクトロポレーション法により導入して、宿主菌をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) としたクローンを作製した。
【0037】ラクトコッカス・ラクチス菌クローン及びラクトバチルス・カゼイ菌クローンの一晩培養液1mlを遠心分離して菌体画分を得た。得られた菌体を 50mM Tris-HCl pH7.4 1mlで2回洗浄後、1%BSA/TBST 0.5mlに懸濁して室温で30〜60分保持し、抗SAK抗血清1μlを含むTBST 0.5mlに懸濁して室温で30〜60分保持した後、TBST 0.5mlで3回洗浄した。その後、アルカリフォスファターゼ標識抗体ウサギIgG抗体 0.25 μl を含むTBST 0.5mlに懸濁して室温で30〜60分保持した後、TBST 0.5mlで3回洗浄後、OD660 が7.5 になるようにTBSTに懸濁し、サンプルとした。
【0038】得られたサンプル10μl に基質溶液(1mg p-Nitrophenyl Phosphate /10ml diethanolamine buffer ) 100μlを加え、室温で反応させ、405nmにおける吸光度を経時的にマイクロプレートリーダモデル450(Bio Rad 社製)で測定した。
【0039】図5はアルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた菌体表面のSAK(融合)タンパク質の検出結果を示す線図であり、a図はラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、b図はラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) を示す。縦軸は吸光度、横軸は反応時間(min)を示す。
【0040】図において、吸光度の活性は菌体に結合したアルカリフォスファターゼ(AP)の活性が示される。即ち、菌体表面に表出したSAKにウサギ抗体SAK抗体が結合し、更にこれにアルカリフォスファターゼによって標識されたウサギIgG抗体が結合するため、アルカリフォスファターゼの活性が高ければ、菌体表面に表出したSAKの数が多いこととなる。従って、図に示したグラフの傾斜が急な方がAP活性が高く、菌体に結合したAP標識抗兎IgG抗体の量が多いことを示す。このことはそのクローンにおいて菌体表層のウサギ抗SAK抗体量が多いこと、即ち、菌体表層に提示されているSAKタンパク質エピトープが多いことを意味する。
【0041】図に示されるように、ラクトコッカス・ラクチス菌、ラクトバチルス・カゼイ菌の何れでも、アミノ酸残基数の多いものは、AP活性、即ちSAKの菌体表面への発現が高いことが確認された。36アミノ酸残基は、L.ラクチス菌でコントロール(ベクター,NS)との差が確認できたが、L.カゼイでは差が確認できなかった。これは、融合タンパク質が菌体細胞壁内に埋没している可能性が考えられる。従って、好ましくは36アミノ酸残基を超えたアンカー配列が必要である。
【0042】
【発明の効果】本発明は以上説明したとおり、ラクトコッカス・ラクチス菌由来のプロテアーゼのアンカー配列又は当該アンカー配列の部分配列を利用して、種々の任意の有用タンパク質を菌体表面に固定化し、且つ当該有用タンパク質を発現させるという効果がある。従って、本発明によれば、例えば安全性が高い乳酸菌を利用して、種々のタンパク質を固定化することが可能となるので、安全性の高い経口ワクチンなどへの利用が考えられる。
【0043】
【配列表】
配列番号:1配列の長さ:243配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Lys Lys Thr Ser Leu Leu Asn Gln Leu Gln Ser Val Lys Ala Ala Leu 1 5 10 15 Glu Thr Asp Leu Gly Asn Gln Thr Asp Ser Ser Thr Gly Lys Thr Phe 20 25 30 Thr Ala Ala Leu Asp Asp Leu Val Ala Gln Ala Gln Ala Gly Thr Gln 35 40 45 Thr Asp Asp Gln Leu Gln Ala Thr Leu Ala Lys Val Leu Asp Ala Val 50 55 60 Leu Ala Lys Leu Ala Glu Gly Ile Lys Ala Ala Thr Pro Ala Glu Val 65 70 75 80 Gly Asn Ala Lys Asp Ala Ala Thr Gly Lys Thr Trp Tyr Ala Asp Ile 85 90 95 Ala Asp Thr Leu Thr Ser Gly Gln Ala Ser Ala Asp Ala Ser Asp Lys 100 105 110 Leu Ala His Leu Gln Ala Leu Gln Ser Leu Lys Thr Lys Val Ala Ala 115 120 125 Ala Val Glu Ala Ala Lys Thr Val Gly Lys Gly Asp Gly Thr Thr Gly 130 135 140 Thr Ser Asp Lys Gly Gly Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly 145 150 155 160 Asp Ile Gly Lys Asp Lys Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly 165 170 175 Gly Asn Ile Pro Thr Asn Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp 180 185 190 Asp Thr Thr Asp Arg Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu 195 200 205 Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly 210 215 220 Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln 225 230 235 240 Arg Glu Glu 243
【0044】配列番号:2配列の長さ:158配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Ala Ala Thr Gly Lys Thr Trp Tyr Ala Asp Ile Ala Asp Thr Leu Thr 1 5 10 15 Ser Gly Gln Ala Ser Ala Asp Ala Ser Asp Lys Leu Ala His Leu Gln 20 25 30 Ala Leu Gln Ser Leu Lys Thr Lys Val Ala Ala Ala Val Glu Ala Ala 35 40 45 Lys Thr Val Gly Lys Gly Asp Gly Thr Thr Gly Thr Ser Asp Lys Gly 50 55 60 Gly Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly Asp Ile Gly Lys Asp 65 70 75 80 Lys Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly Gly Asn Ile Pro Thr 85 90 95 Asn Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr Asp Arg 100 105 110 Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr Gly Glu 115 120 125 Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser 130 135 140 Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu 145 150 155 158
【0045】配列番号:3配列の長さ:125配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Leu Gln Ser Leu Lys Thr Lys Val Ala Ala Ala Val Glu Ala Ala Lys 1 5 10 15 Thr Val Gly Lys Gly Asp Gly Thr Thr Gly Thr Ser Asp Lys Gly Gly 20 25 30 Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly Asp Ile Gly Lys Asp Lys 35 40 45 Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly Gly Asn Ile Pro Thr Asn 50 55 60 Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr Asp Arg Asn 65 70 75 80 Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr 85 90 95 Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu 100 105 110 Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu 115 120 125
【0046】配列番号:4配列の長さ:96配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Lys Gly Gly Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly Asp Ile Gly 1 5 10 15 Lys Asp Lys Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly Gly Asn Ile 20 25 30 Pro Thr Asn Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr 35 40 45 Asp Arg Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr 50 55 60 Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val 65 70 75 80 Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu 85 90 95 96
【0047】配列番号:5配列の長さ:55配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr Asp Arg Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly 1 5 10 15 Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe 20 25 30 Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu 35 40 45 Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu 50 55
【0048】配列番号:6配列の長さ:36配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド起源生物名:ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)株名: NCDO763株配列Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu 1 5 10 15 Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys 20 25 30 Gln Arg Glu Glu 35 36
【図面の簡単な説明】
【図1】プラスミドpSG−TERMの構造を模式的に示した説明図である。
【図2】SAK−アンカー配列融合タンパク質遺伝子の構造を模式的に示す説明図である。
【図3】SAK活性を測定した結果を示す線図であり、a図は培養液画分、b図は菌体画分を示す。縦軸は吸光度、横軸は反応時間を示す。
【図4】ウェスタンブロッティングの結果を模式的に示す説明図であり、各クローン毎の培養上清(sup) 、菌体画分(cell)を順に示している。
【図5】アルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた菌体表面のSAK(融合)タンパク質の検出結果を示す線図であり、a図はラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、b図はラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) を示す。縦軸は吸光度、横軸は反応時間(min)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列を得る工程と、前記融合遺伝子配列を宿主菌内に導入する工程と、前記融合遺伝子配列が導入された宿主菌を培養して前記目的とするタンパク質を菌体表面に固定化する工程とを備えたことを特徴とする菌体表面へのタンパク質の固定化方法。
【請求項2】 前記アンカー配列が、少なくとも下記アミノ酸配列を備えていることを特徴とする請求項1に記載の菌体表面へのタンパク質の固定化方法。
Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu
【請求項3】 前記アンカー配列が、請求項2に示すアミノ酸配列を残して下記アミノ酸配列の一部を切除したアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項2に記載の菌体表面へのタンパク質の固定化方法。
Lys Lys Thr Ser Leu Leu Asn Gln Leu Gln Ser Val Lys Ala Ala Leu Glu Thr Asp Leu Gly Asn Gln Thr Asp Ser Ser Thr Gly Lys Thr Phe Thr Ala Ala Leu Asp Asp Leu Val Ala Gln Ala Gln Ala Gly Thr Gln Thr Asp Asp Gln Leu Gln Ala Thr Leu Ala Lys Val Leu Asp Ala Val Leu Ala Lys Leu Ala Glu Gly Ile Lys Ala Ala Thr Pro Ala Glu Val Gly Asn Ala Lys Asp Ala Ala Thr Gly Lys Thr Trp Tyr Ala Asp Ile Ala Asp Thr Leu Thr Ser Gly Gln Ala Ser Ala Asp Ala Ser Asp Lys Leu Ala His Leu Gln Ala Leu Gln Ser Leu Lys Thr Lys Val Ala Ala Ala Val Glu Ala Ala Lys Thr Val Gly Lys Gly Asp Gly Thr Thr Gly Thr Ser Asp Lys Gly Gly Gly Gln Gly Thr Pro Ala Pro Thr Pro Gly Asp Ile Gly Lys Asp Lys Gly Asp Glu Gly Ser Gln Pro Ser Ser Gly Gly Asn Ile Pro Thr Asn Pro Ala Thr Thr Thr Ser Thr Ser Thr Asp Asp Thr Thr Asp Arg Asn Gly Gln Leu Thr Ser Gly Lys Gly Ala Leu Pro Lys Thr Gly Glu Thr Thr Glu Arg Pro Ala Phe Gly Phe Leu Gly Val Ile Val Val Ser Leu Met Gly Val Leu Gly Leu Lys Arg Lys Gln Arg Glu Glu

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開平10−117783
【公開日】平成10年(1998)5月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−299273
【出願日】平成8年(1996)10月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成8年7月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学第68巻7号」に発表
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)