説明

菌根菌培養方法

【課題】菌根菌の純粋培養が容易にできる菌根菌培養方法を提供する。
【解決手段】トリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンなどのペプチドを含む培養基で菌根菌を培養する。菌根菌が感染し得る宿主の根や根抽出物を用いずに、菌根菌の菌糸を旺盛に生長でき胞子を増殖できる。菌根菌の菌糸および胞子の純粋培養が容易にできる。培養基に無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質を添加することで菌根菌の生長をより良好にできる。培養基に活性炭素繊維を添加することで菌根菌の菌糸の生長および分岐を促進できる。菌根菌の培養期間中に赤色光照射することで菌糸の生長を旺盛にでき胞子の生産を促進できる。菌根菌の胞子の生産を安定化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌根菌の菌糸および胞子を培養する菌根菌培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の菌根菌培養方法としては、宿主の根を用いた菌糸の培養や胞子生産方法が知られている。また、消毒した宿主の根を用いて、体外的なイン ビトロ(in vitro)において無菌状態下で菌根菌を培養することも知られている。すなわち、従来は、これら菌根菌培養方法のように、絶対共生菌である菌根菌の培養においては、宿主の根なくしては無菌状態下で純粋に菌根菌を培養して、胞子を得るまで増殖できないと考えられていた。
【0003】
ところが、近年、フラッシュクロマトグラフィーで得たバヒアグラス根の25質量%のメタノール溶出物を用いて、菌根菌の中でも代表的なアーバスキュラー菌根(Arbuscular Mycorrhiza:AM)菌の純粋培養が成功している(例えば、特許文献1、並びに非特許文献1および2参照)。そして、この培養方法においては、赤色光から遠赤色光までの光の照射によって、菌根菌の菌糸生長が著しく促進することも知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これらの培養方法は、バヒアグラスという宿主から得た根抽出物を用いた培養基においての成功であり、バヒアグラス根の採取時期の判断が極めて重要であるとともに、胞子の生産効率が余り良くないので、実用化が容易ではない(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
ここで、菌根菌は、植物の根に共生し、宿主の植物から光合成産物を得る見返りとして、植物の養水分を促進させ、生長を旺盛にさせるとともに、病害虫や環境ストレスに対する抵抗性を植物に付与する働きを有している。このため、この菌根菌の利用としては、1)低投入で持続可能な作物生産、2)環境に優しく、安心・安全な食料生産、3)乾燥地・半乾燥地における環境緑化、などに着目されている。ところが、菌根菌は絶対共生微生物であるので、この菌の純粋培養が容易ではないと考えられていたため(例えば、非特許文献3参照)、この菌の基礎研究や応用研究が非常に制限されていた。
【特許文献1】特開平8−191685号公報
【特許文献2】特開2003−274930号公報
【非特許文献1】石井孝昭、外4名,園芸学会,1995年,第64巻,別冊1,p.190−191
【非特許文献2】石井孝昭、外4名,ICOM4(The Fourth International Conference on Mycorrhizae),(カナダ),2003年,p.696
【非特許文献3】デクレエーク(Declerck S.)、外2名,イン ビトロ カルチャー オブ マイコライザス(In Vitro Culture of Mycorrhizae),(ドイツ),2005年,p.1−388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、菌根菌は絶対共生微生物であることから、この菌根菌の純粋培養が容易ではないと考えられていたという問題を有している。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、菌根菌の純粋培養が容易にできる菌根菌培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の菌根菌培養方法は、下記式(1)で表される菌根菌生長促進物質を加えた培養基で、菌根菌を培養するものである。
【0008】
【化3】

【0009】
請求項2記載の菌根菌培養方法は、請求項1記載の菌根菌培養方法において、下記式(2)で表されるぺプチドを培養基に加えるものである。
【0010】
【化4】

【0011】
請求項3記載の菌根菌培養方法は、請求項1または2記載の菌根菌培養方法において、菌根菌は、アーバスキュラー菌根菌、エリコイド菌根菌および外生菌根菌のいずれかであるものである。
【0012】
請求項4記載の菌根菌培養方法は、請求項1ないし3いずれか記載の菌根菌培養方法において、培養基は、ペプチドを含む培地に、無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質を加えた固形培地および液体培地のいずれかであるものである。
【0013】
請求項5記載の菌根菌培養方法は、請求項1ないし4いずれか記載の菌根菌培養方法において、炭素繊維を活性化させた活性炭素繊維を培養基に加えるものである。
【0014】
請求項6記載の菌根菌培養方法は、請求項1ないし5いずれか記載の菌根菌培養方法において、赤色光照射の光環境条件で、菌根菌を培養するものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の菌根菌培養方法によれば、式(1)で表される菌根菌生長促進物質を加えた培養基で、菌根菌を培養することにより、純粋に菌根菌の菌糸を生長でき、この菌根菌の胞子を生産できるから、この菌根菌の純粋培養が容易にできる。
【0016】
請求項2記載の菌根菌培養方法によれば、請求項1記載の菌根菌培養方法の効果に加え、式(2)で表されるぺプチドを加えた培養基で、菌根菌を培養することにより、菌根菌の菌糸がより効率よく生長し、この菌根菌の胞子を生産できるから、この菌根菌の純粋培養をより効率よくできる。
【0017】
請求項3記載の菌根菌培養方法によれば、請求項1または2記載の菌根菌培養方法の効果に加え、アーバスキュラー菌根菌、エリコイド菌根菌および外生菌根菌のいずれの菌根菌であっても、これら菌根菌の胞子を効率良く増殖できる。
【0018】
請求項4記載の菌根菌培養方法によれば、請求項1ないし3いずれか記載の菌根菌培養方法の効果に加え、ペプチドを含む培地に、無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質を加えた固形培地および液体培地のいずれかの培地基とすることにより、菌根菌の菌糸の生長を旺盛にでき、胞子の形成率を向上できる。
【0019】
請求項5記載の菌根菌培養方法によれば、請求項1ないし4いずれか記載の菌根菌培養方法の効果に加え、活性炭素繊維を培養基に加えることにより、菌根菌の菌糸の生長および分岐を促進できるから、この菌根菌の胞子形成率をより向上できる。
【0020】
請求項6記載の菌根菌培養方法によれば、請求項1ないし5いずれか記載の菌根菌培養方法の効果に加え、赤色光照射の光環境条件で、菌根菌を培養することにより、この菌根菌の菌糸の生長がさらに旺盛になるから、この菌根菌の胞子形成率をより向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の菌根菌培養方法の一実施の形態について説明する。
【0022】
まず、この菌糸菌培養方法は、菌根菌が感染し得る宿主の根や根抽出物を全く用いない人工の培養基を用い、この培養基に活性炭素繊維を添加したり、光環境条件を調整したりすることによって、菌根菌の菌糸および胞子を純粋に増殖できる菌根菌の純粋培養技術である。なお、この菌根菌としては、この種の菌根菌を代表とするアーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌)、エリコイド菌根菌および外生菌根菌のいずれかが用いられる。ただし、これらアーバスキュラー菌根菌、エリコイド菌根菌および外生菌根菌以外の菌根菌であっても用いることができる。
【0023】
また、この菌根菌の純粋培養技術には、特別な化学物質である菌根菌生長促進物質としてのペプチドと、菌根菌の栄養素、例えば無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質とを添加した固形培地または液体培地のような人工の培養基を用いる。ここで、菌根菌生長促進物質としては、下記式(1)で表されるトリプトファンダイマー(Trp−Trp)であるAM菌生長促進物質と、下記式(2)で表される活性分であるロイシルプロリン(Leu−Pro)とのような低分子のペプチドが用いられる。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
ここで、上記式(1)で表されるトリプトファンダイマーは、AM菌の菌糸生長を促進させる作用を有するとともに、この菌糸を引きつけるシグナル物質である。また、上記式(2)で表されるロイシルプロリンは、AM菌の菌糸生長を促進させる作用を有しており、トリプトファンダイマーの補助剤としての作用を有している。
【0027】
次いで、活性炭素繊維(Activated Carbon Fiber:ACF)は、通常の炭素繊維を活性化させたものであり、菌根菌生長促進物質が添加された固形培地または液体培地に添加されて、これら固形培地または液体培地にて培養させる菌根菌の菌糸の生長および分岐を促進させ、この菌根菌の胞子形成率を向上させる。
【0028】
さらに、この菌根菌の培養期間中に調整する光環境条件としては、暗黒または赤色光照射がある。そして、赤色光照射としては、赤色発光ダイオード(redLED)を用いた光照射(5μEm−2−1)が好ましい。ここで、この菌根菌は、暗黒条件下でも菌糸が生長して胞子を形成するが、赤色光照射条件下ではより菌糸の生長が旺盛になり、胞子の形成率がより高まる。
【0029】
次に、上記一実施の形態の菌根菌培養方法にて用いるトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンの抽出方法について説明する。
【0030】
まず、原料としてバヒアグラスの根または、この根の滲出物を用い、これらバヒアグラスの根または、この根の滲出物からメタノール溶出物を濾過する。
【0031】
この後、この濾過にて得られたメタノール溶出物を減圧濃縮してからフラッシュクロマトグラフィー装置を用いて分画して、菌根菌の生長を促進するペプチドが含まれる25質量%メタノール溶出分画を得る。ここで、フラッシュクロマトグラフィーとは、カラムクロマトグラフィーの一種であって、圧縮空気などの加圧された条件下で試料を分離する方法である。
【0032】
次いで、この25質量%メタノール溶出分画を、ロトファーと呼ばれる等電点遊動装置で精製して精製液を得る。ここで、等電点遊動とは、等電点の違いを利用して目的とする精製液を分離して精製する方法である。さらに、等電点遊動にて精製された精製液を高速液体クロマトグラフィーで活性を有する部分を分離して取り分け、ニンヒドリン反応液によってペプチドが検出された部分を単離する。
【0033】
この後、この単離された部分を、タンパク質やペプチドのアミノ酸配列(シーケンス)を決定する装置であるアミノ酸シーケンサー、または核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)装置にて活性のあるペプチドを同定する。この結果、この部分に含まれているペプチドが、トリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンであることを確認できる。なお、この部分に含まれているトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリン以外のペプチドについては、微量なため同定することが容易ではない。
【0034】
上述したように、上記一実施の形態によれば、菌根菌が感染し得る宿主の根や根抽出物を全く用いない特別な化学物質であるトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンをそれぞれ含む人工の培養基内で、菌根菌を培養することにより、純粋にこの菌根菌の菌糸を旺盛に生長させることができる。よって、植物の根や根抽出物を全く用いなくても、この菌根菌の胞子を効率良く増殖できるから、この菌根菌の胞子を効率良く多量に生産でき、この菌根菌の菌糸および胞子の純粋培養が容易にできる。
【0035】
このとき、この培養基に無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質を添加して、ペプチドの固形培地または液体培地とすることにより、この培養基での菌根菌の生長をより良好にできるから、より好ましい。
【0036】
さらに、この培養基に活性炭素繊維を添加することにより、菌根菌の菌糸の生長や分岐をさらに促進できる。また、この菌根菌の培養期間中に赤色光照射して光環境条件を調整することによって、この菌根菌の菌糸の生長がさらに旺盛になり、この菌根菌の胞子の生産がさらに促進されるから、この胞子の生産をさらに安定化できる。なお、この菌根菌としては、アーバスキュラー菌根菌を用いた場合に、特に顕著に純粋培養の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0037】
まず、実施例1として、本発明の菌根菌培養方法を用いた純粋培養技術による新しいAM菌胞子生産について説明する。
【0038】
この実施例1での実験には、表1に示す基本培養液(Base Media:BM)に、トリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンのそれぞれを10ppm加えたゲルライト(1.5質量%)固形培地を用いた。
【0039】
【表1】

【0040】
また、この培地のみの他に、ACFを加えて利用した場合や、redLEDにて光照射(5μEm−2−1)した場合、およびこれらACFとredLEDとを併用した場合それぞれの効果についても確認した。ここで、この培地を用いて菌根菌としてのAM菌の培養温度を25℃とした。また、このAM菌としては、主としてギガスポラ・アルビダ(Gigaspora albida)、グロムス・エツニカタム(Glomus etunicatum)およびグロムス・カレドニウム(Glomus caledonium)を用いた。これらAM菌の胞子の表面は、消毒剤で充分に殺菌した。なお、糸状菌の培養に広く用いられているポテトデキストロース寒天培地(PDA)を比較のため用いた。そして、これら培地を用いたAM菌の培養を開始した後に、これらAM菌の菌糸生長や新しく形成された胞子を赤色光下で観察した。
【0041】
この結果、ポテトデキストロース寒天培地(PDA)上において暗黒条件で菌根菌を培養したところ(PDA+暗黒区)、いずれの菌根菌においても菌糸生長や胞子形成を全く確認できなかった。また、表1に示す基本培養液(BM)上において暗黒条件で菌根菌を培養した場合では(BM+暗黒区)、いずれの菌根菌の菌糸生長も良好であったが、胞子形成が全く確認できなかった。
【0042】
これに対して、表1に示す基本培養液にトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンをそれぞれ加えた培地上おいて暗黒条件で菌根菌を培養した場合では(BM+ペプチド+暗黒区)、いずれの菌根菌の菌糸生長が促進されており、これら菌根菌の胞子形成を確認できた。この傾向は、培地へのACFの添加や、redLEDによる赤色光照射によって促進された。
【0043】
特に、表1に示す基本培養液にトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンをそれぞれ加えるとともにACFを入れた培地上にredLEDにて赤色光照射した条件で菌根菌を培養した場合では(BM+ペプチド+ACF+redLED)、表2に示すように、いずれの菌根菌でも菌糸生長が著しく促進され、新しい胞子の形成がさらに高まっていることを確認できた。
【0044】
【表2】

【0045】
また、この(BM+ペプチド+ACF+redLED)処理区では、図1に示すように、培養2週間後でさえも1個の母胞子から数個の新しい胞子が得られた。ここで、この図1中の△印は、母胞子から発芽した菌糸から新しく形成されたAM菌(グロムス・カレドニウム)の胞子である。
【0046】
さらに、この(BM+ペプチド+ACF+redLED)処理区では、培養1か月後には、図2に示すように、新しく形成されたAM菌胞子は母胞子とほとんど変わらない大きさとなった。なお、この図2中の△印は、母胞子から新しく形成され、この母胞子とほとんど変わらない大きさのAM菌(グロムス・カレドニウム)の胞子である。
【0047】
なお、このAM菌の菌糸の生長は、青色発光ダイオード(blueLED)を用いた10μEm−2−1以上の光照射で抑制される。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2として、実施例1での菌根菌培養方法にて生産されたAM菌胞子の感染性について説明する。
【0049】
この実施例2での実験には、バーミキュライトを入れた2号プラスチックポットに、養成したバヒアグラスの幼苗を移植して用いた。そして、実施例1での純粋培養にてグロムス・カレドニウム(Glomus caledonium)の母胞子を植付けてから1か月後に、新しく形成された胞子(直径50μm〜80μm)を含むゲルライト培地から、この母胞子を取り除いた後に、直径約1cmのゲルライト切片となるように切り取り、このゲルライト切片に含まれている新しく形成されたAM菌の胞子や菌糸をバヒアグラスの根に接触させて接種した。
【0050】
この接種から1か月後に、バヒアグラスの根を採取し、このバヒアグラスに接種させたAM菌の菌根形成状態を、フィリップスおよびハイマン(Phillips, J.M. and Hayman, D.S.),トランザクションズ オブ ザ ブリティッシュ マイコロジカル ソサイエティ(Transactions of the British Mycological Society),(英国),1970年,55巻,p.158−161に記載の方法で染色した。
【0051】
この後、この染色したAM菌の菌根形成状態を、石井および門屋(Ishii, T. and Kadoya, K.),ジャーナル オブ ザ ジャパニーズ ソサエティ フォー ホーティカルチャラル サイエンス(Journal of the Japanese Society for Horticultural Science),1994年,63巻,p.529−535に記載の方法で確認した。
【0052】
さらに、この実験は、側面および天井面がガラスにて覆われたガラスハウスの内部で行い、他の胞子の混入を防ぐためにバヒアグラスを移植したポットをそれぞれ隔離した。そして、この実験の期間中は、十分に潅水し、移植2週間後と移植3週間後とのそれぞれにリン濃度を1/2に減らしたホーグランド溶液10mlを用いて施肥した。
【0053】
この結果、図3に示すように、実施例1の純粋培養にて生産されたAM菌(グロムス・カレドニウム)の胞子を含むゲルライト切片で接種したバヒアグラスの根の周辺に多数の菌糸が確認でき、このバヒアグラスの根の内部には、のう状体や胞子の形成が数多く確認できた。
【実施例3】
【0054】
次に、実施例3として、実施例1での菌根菌培養方法にて生産されたAM菌胞子の継代培養について説明する。
【0055】
この実施例3の実験では、実施例1で用いた培養液に核酸物質を加えた液体培地に、適度な大きさのACFを入れ、新しく形成されたグロムス・カレドニウム(Glomus caledonium)の胞子(直径約80μm)を植菌した。この後、この液体培地を、redLED(5μEm−2−1)照射下で、90rpmで振とうし、3週間後にCCDカメラを用いて観察した。
【0056】
この結果、図4に示すように、この液体培地に加えたACF上に、新しく形成された胞子から伸長した菌糸が確認でき、この菌糸の先端に3世代目のグロムス・カレドニウム(Glomus caledonium)の胞子が形成されていた。この胞子の大きさは、約60μmで黄白色であった。
【0057】
以上の結果、菌根菌が感染し得る宿主の根や根抽出物を全く用いなくても、無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質、核酸物質を添加した人工の培養基に、ある種のペプチドであるトリプトファンダイマーおよびロイシルプロリンを添加することによって、この菌根菌の菌糸を増殖させて、この菌糸菌の胞子を純粋に多量に生産できる。
【0058】
さらに、この菌根菌の人工の培養基への活性炭素繊維の添加や、この菌根菌の培養期間中での赤色光照射は、この菌根菌の菌糸の生長や胞子の形成をさらに向上させる上で非常に有効である。また、この純粋培養によって生産された菌根菌の胞子は、培養1か月という短期間で成熟して、植物に感染できる能力を有しているとともに、新しく形成された2世代目の胞子からの継代培養も可能である。
【0059】
よって、この菌根菌の純粋培養技術の確立は、培養が困難であるために制限されてきた菌根菌と植物との共生メカニズムを解明する糸口となるだけでなく、この菌根菌の胞子を純粋に安定的に大量生産できるという重要な意味を有している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の菌根菌培養方法を用いて培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子を示すCCDカメラ画像写真であり、(a)は培養2週間後を示し、(b)は培養1か月後を示す。
【図2】同上菌根菌培養方法で母胞子から培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子を示す光学顕微鏡写真である。
【図3】同上菌根菌培養方法で培養されたグロムス・カレドニウム(Glomus caledonium)の胞子によるバヒアグラスにおける菌根形成を示す光学顕微鏡写真である。
【図4】同上菌根菌培養方法で活性炭素繊維上に培養された3世代目のグロムス・カレドニウムの胞子を示すCCDカメラ画像写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される菌根菌生長促進物質を加えた培養基で、菌根菌を培養する
ことを特徴とする菌根菌培養方法。
【化1】

【請求項2】
下記式(2)で表されるぺプチドを培養基に加える
ことを特徴とする請求項1記載の菌根菌培養方法。
【化2】

【請求項3】
菌根菌は、アーバスキュラー菌根菌、エリコイド菌根菌および外生菌根菌のいずれかである
ことを特徴とする請求項1または2記載の菌根菌培養方法。
【請求項4】
培養基は、ペプチドを含む培地に、無機養分、ビタミン類、糖類、リン脂質および核酸物質を加えた固形培地および液体培地のいずれかである
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の菌根菌培養方法。
【請求項5】
炭素繊維を活性化させた活性炭素繊維を培養基に加える
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の菌根菌培養方法。
【請求項6】
赤色光照射の光環境条件で、菌根菌を培養する
ことを特徴とする請求項1ないし5いずれか記載の菌根菌培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−95332(P2009−95332A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303968(P2007−303968)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 園芸学会平成19年度秋季大会 主催者名 園芸学会 発表日等 平成19年9月29日
【出願人】(302018020)
【Fターム(参考)】