説明

菌糸培養タンク

【課題】
菌糸培養タンク内で培養液を高温殺菌する際、タンク内の攪拌羽根に接続する回転軸のタンク貫通部における回転軸周りの隙間からの培養液のタンク外部への漏洩、また、培養液の高温殺菌後に生じる回転軸周りの隙間からの外気吸引による雑菌侵入を確実に防止できる菌糸培養タンクを提供する。
【解決手段】
菌糸培養タンク1における蓋体1bの回転軸6が通過する通孔1c部分に、軸通孔3aを設けたシリコーン栓3を嵌装する筒体2を、かつシリコーン栓3の軸通孔3aと通孔1cのそれぞれの開口を対向させて配設し、回転軸6を通孔1cおよび軸通孔3aを介して蓋体1bの外部に案内せしめ、また筒体2に、蓋体1bの外部に位置する回転軸6を内部空間5b内に収容して密嵌できる被せ蓋5を螺着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茸の菌糸を、タンク内の培養液を適宜に攪拌しながら培養する菌糸培養タンクに関し、より詳しくは、タンク内の培養液を高温殺菌する際、タンク内に設けている培養液の攪拌羽根に接続する回転軸のタンク貫通部における回転軸周りの隙間からの培養液のタンク外部への漏洩、また、培養液の高温殺菌後における回転軸周りの隙間からの雑菌侵入を防止できる菌糸培養タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
菌糸培養タンクは、タンク内に収容する殺菌した培養液に茸の菌糸を投入し、この培養液の中で菌糸を培養するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この菌糸の培養に際し、菌糸培養タンク内に収容した培養液をこのタンク内において高温殺菌している。
【0004】
しかしながら、培養液が高温殺菌される際にタンク内の圧力が高になることにより、タンク内に設けている攪拌羽根に接続する回転軸のタンク貫通部における回転軸周りの隙間から培養液がタンク外部へ漏洩する問題があった。
【0005】
また、培養液の高温殺菌が終了してタンク内の圧力が低になることにより、前述とは逆に、攪拌羽根に接続する回転軸周りの隙間からタンク内に外気を吸引して、そしてこの外気吸引の際に空気中の雑菌も同時に吸引し、これによりタンク内に侵入した雑菌でタンク内が汚染される問題もあった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−81139号公報(第1〜8頁、図1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、培養液を高温殺菌する際、タンク内に設けている攪拌羽根に接続する回転軸のタンク貫通部における回転軸周りの隙間からの培養液のタンク外部への漏洩、また、培養液の高温殺菌後に生じる回転軸周りの隙間からの外気吸引による雑菌侵入を、確実に防止できる菌糸培養タンクを提供できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る菌糸培養タンクは、タンク内に培養液の攪拌手段を備える菌糸培養タンクであって、同タンクの前記攪拌手段に接続する回転軸が通過する回転軸通孔部の外壁面に、前記回転軸が密着して回転できる径の軸通孔を設けた栓部材を嵌装する筒体を、かつ栓部材の軸通孔と前記回転軸通孔のそれぞれの開口が対向するようにして設け、前記回転軸を、前記回転軸通孔および前記軸通孔を介してタンク外部に案内せしめ、また前記筒体に、タンク外部に位置する回転軸を本体内に収容して着脱可能に密嵌できる被せ蓋を設けたものとしてある。
また前記栓部材を、シリコーン素材より形成したものとし、前記栓部材の軸通孔を、前記回転軸が密着回転できる径に構成したものとしてある。
【0009】
さらに前記筒体に、前記栓部材の上方向への抜けを防止するための抜け防止手段を設けて構成したものとし、この抜け防止を、前記筒体の外周面に螺子部を設け、またこの螺子部に螺合する螺子部を内周面に設けるとともに前記回転軸が通過する通孔を天部に設けた押え蓋を前記筒体に螺着することにより、前記栓部材の上方向への抜けを防止するように構成したものとしてある。
【0010】
また、前記被せ蓋の内周面に螺子部を設け、またこの螺子部に螺合する螺子部を前記押え蓋の外周面に設けて、この押え蓋に前記被せ蓋を螺着するように構成したものとしてある。
【0011】
さらに、前記タンクに空気供給口を配設し、同空気供給口より滅菌空気をタンク内に供給することによりタンク内を陽圧にできるよう構成したものとしてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の菌糸培養タンクによれば、タンク内の培養液を高温殺菌する場合、タンク内に備える攪拌手段に接続する回転軸が通過するタンク外壁面の筒体に被せ蓋を螺着してから行うことにより、従来のような培養液のタンク外部への漏洩を確実に防止できる。
【0013】
また、タンク内の圧力が高になることによって培養液が筒体内の栓部材の軸通孔を通過する攪拌手段の回転軸を伝わり筒体外すなわち筒体に螺着する被せ蓋の内部空間内へ漏れ出ようとしても、この被せ蓋の内部空間も時間の経過とともにタンク内の圧力と等しくなることにより、被せ蓋の内部空間がタンク内の圧力と等しくなるまでは培養液の被せ蓋内への漏れ出しは少しあるとしても、被せ蓋の内部空間がタンク内の圧力と等しなった後は、この被せ蓋の内部空間への培養液の漏れ出しもなくなる。
【0014】
そして、被せ蓋の内部空間に漏れ出した培養液においても、タンク内の熱が筒体を介し被せ蓋に伝熱されるので、この伝熱により被せ蓋の内部空間の空気が熱せられタンク内の空気の温度と等しくなるので、この漏れ出した培養液も殺菌することができる。
【0015】
また、栓部材の軸通孔を、回転軸が密着回転できる径にしている場合は、培養液の被せ蓋の内部空間への漏れ出す量を低減することができる。
【0016】
そして、培養液の高温殺菌が終了してタンク内の圧力が低になっても、タンク内に備える攪拌手段の回転軸が通過するタンク外壁面の筒体に螺着している被せ蓋により、外気のタンク内への吸い込みを防止できる。
【0017】
また、タンクに空気供給口を配設し、この空気供給口より滅菌空気をタンク内に供給することでタンク内を陽圧にできるようにしている場合は、タンク内の培養液を高温殺菌した後、培養液の攪拌のため筒体に螺着している被せ蓋を取り外して回転軸を露出させる際にタンク内を陽圧にしてから行うことで、タンク内への外気の吸引を確実に防止できるので、タンクを滅菌室以外の場所にも設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の菌糸培養タンクの実施例を添付図面に示す具体例に基づいて説明する。
菌糸培養タンク1は、ステンレス等の金属からなるタンク本体1aと蓋体1bとで構成していて、タンク本体1aの上部開口(図示は省略)部に蓋体1bが装着され、タンク本体1a内を密閉状態に閉塞している。この蓋体1bの装着構造は、本実施例の図中では省略している。
【0019】
この蓋体1bに、タンク本体1a内に設けている攪拌羽根7に接続する回転軸6が通過する軸通孔3aを設けた栓部材であるシリコーン栓3が嵌装された筒体2を、シリコーン栓3の軸通孔3aと蓋体1bの回転軸6が通過する通孔1cの開口が対向するようにして設けていて、図2に示すように、筒体2に嵌装するシリコーン栓3の軸通孔3aに攪拌羽根7に接続する回転軸6を挿通するようになっている。
【0020】
そして筒体2には、この筒体2の外周面に形成した螺子部2a(雄)に螺着する螺子部4c(雌)を内周面に設けた押え蓋4が、押え蓋4の天部4aに設けた通孔4bに回転軸6を挿通させ螺着していて、培養液(図示は省略)の高温殺菌処理によるタンク本体1a内の圧力上昇により、タンク本体1aの通孔1cの回転軸6との隙間よりシリコーン栓3に加圧するタンク本体1a内の内圧で生じる筒体2内のシリコーン栓3の上方への抜けを防止している(図3参照)。
【0021】
また、本実施例に示すシリコーン栓3の筒体2内に対する嵌装状態においては筒体2の上方開口面に面一にしているが、シリコーン栓3の上端部を筒体2の上方開口面より上方に突出させ、この突出するシリコーン栓3の上端部を押え蓋4の天部4aで抑えてシリコーン栓3の上方への抜けを防止する場合もある。
【0022】
そして、押え蓋4の外周面には螺子部4d(雄)が形成されていて、この螺子部4d(雄)に螺着する螺子部5a(雌)を内周面に設けている被せ蓋5を、タンク本体1a内に設けている攪拌羽根7に接続する回転軸6を内部空間5bに収めて螺着できるようにしている(図3、図4参照)。
【0023】
また、筒体2内に嵌装するシリコーン栓3の軸通孔3aを、回転軸6が密着回転できる径にしている場合は、培養液の高温殺菌処理によるタンク本体1a内の圧力上昇による培養液の被せ蓋5の内部空間5bへの漏れ出し量を低減することができる。
【0024】
さらには、シリコーン栓3の軸通孔3aを、その内面に回転軸6の外周が密着した状態で回転でき、かつ回転軸6のタンク本体1a内への落ち込みを阻止できる摩擦力を生じる程度に小とする径にしている場合は、培養液の攪拌が終了し、回転軸6に接続していたモータ8のジョイント9を取り外した後も攪拌羽根7がタンク本体1a内へ落下することがなく、攪拌羽根7の落下によるタンク本体1a内壁の傷付を防止できる。
【0025】
そして、筒体2、押え蓋4、被せ蓋5、空気供給口10は、培養液の高温殺菌時の高温、高圧に耐える素材で形成していて、例えば、耐熱樹脂や金属素材から形成している。
【0026】
また、タンク本体1a内に配設する攪拌羽根7や攪拌羽根7に接続する回転軸も、培養液の高温殺菌時の高温、高圧に耐える耐熱樹脂や金属素材によって形成している。
【0027】
そして、タンク本体1a内の培養液を高温殺菌する場合は、図3および図4に示すように、筒体2に螺着する押え蓋4に被せ蓋5を装着して行う。
【0028】
また、養液の高温殺菌の後、タンク本体1a内の培養液を攪拌する場合は、図5、図6に示すように、押え蓋4から被せ蓋5を取り外し、タンク本体1a内に設けている攪拌羽根7に接続する回転軸6にジョイント9を介して駆動用のモータ8の回転軸8aを接続し、モータ8により攪拌羽根7を回転させる。
【0029】
そして、上述する押え蓋4から被せ蓋5を取り外す際、菌糸培養タンク1が滅菌室以外の場所に設置している場合は、菌糸培養タンク1の蓋体1bに配設する空気供給口10から滅菌空気をタンク本体1a内に供給してタンク本体1a内を陽圧にしてから被せ蓋5を押え蓋4から取り外すことにより、被せ蓋5を取り外した際、タンク本体1a内への外気の吸引を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る菌糸培養タンクを示す斜視図。
【図2】筒体に攪拌羽根の回転軸を通した状態の菌糸培養タンクを示す斜視図。
【図3】筒体に螺着する押え蓋に被せ蓋を螺着した状態の一部拡大断面図。
【図4】筒体に螺着する押え蓋に被せ蓋を螺着した状態の一部拡大側面図。
【図5】筒体に螺着する押え蓋から被せ蓋を取り外した状態の一部拡大断面図。
【図6】攪拌羽根の回転軸にモータをセットした状態を示す一部拡大側面図。
【符号の説明】
【0031】
1 菌糸培養タンク
1a タンク本体
1b 蓋体
1c 通孔
2 筒体
2a 螺子部
3 シリコーン栓
3a 軸通孔
4 押え蓋
4a 天部
4b 通孔
4c 螺子部
4d 螺子部
5 被せ蓋
5a 螺子部
5b 内部空間
6 回転軸
7 攪拌羽根
8 モータ
8a 回転軸
9 ジョイント
10 空気供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に培養液の攪拌手段を備える菌糸培養タンクであって、同タンクの前記攪拌手段に接続する回転軸が通過する回転軸通孔部の外壁面に、前記回転軸とほぼ等しい径の軸通孔を設けた栓部材を嵌装する筒体を、かつ栓部材の軸通孔と前記回転軸通孔のそれぞれの開口が対向するようにして設け、前記回転軸を、前記回転軸通孔および前記軸通孔を介してタンク外部に案内せしめ、また前記筒体に、タンク外部に位置する回転軸を本体内に収容して着脱可能に密嵌できる被せ蓋を設けて構成してなる菌糸培養タンク。
【請求項2】
前記栓部材を、シリコーン素材より形成してなる請求項1に記載の菌糸培養タンク。
【請求項3】
前記栓部材の軸通孔を、前記回転軸が密着回転できる径に構成してなる請求項1に記載の菌糸培養タンク。
【請求項4】
前記筒体に、前記栓部材の上方向への抜けを防止するための抜け防止手段を設けて構成してなる請求項1に記載の菌糸培養タンク。
【請求項5】
前記筒体の外周面に螺子部を設け、またこの螺子部に螺合する螺子部を内周面に設けるとともに前記回転軸が通過する通孔を天部に設けた押え蓋を前記筒体に螺着することにより、前記栓部材の上方向への抜けを防止するように構成してなる請求項4に記載の菌糸培養タンク。
【請求項6】
前記被せ蓋の内周面に螺子部を設け、またこの螺子部に螺合する螺子部を前記押え蓋の外周面に設けて、この押え蓋に前記被せ蓋を螺着するように構成してなる請求項5に記載の菌糸培養タンク。
【請求項7】
前記タンクに空気供給口を配設し、同空気供給口より滅菌空気をタンク内に供給することによりタンク内を陽圧にできるよう構成してなる請求項1に記載の菌糸培養タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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