菱沸石型ゼオライト支持金属ナノドット
金属イオンを含む溶液及び菱沸石型ゼオライトのイオン交換後、菱沸石型ゼオライトの表面上の金属ナノドットへの活性化によって金属ナノドット材料を形成する。金属ナノドットは、銀、ニッケル、銅、金又は白金群金属の1つである。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、菱沸石(chabazite)及び菱沸石類似体上に形成される金属ナノドット(metal nanodot)に関する。
【0002】
〔背景〕
金属ナノ粒子及びナノワイヤーは、ナノスケール誘導性の光学的、電気的及び化学的性質に由来するその高い潜在的用途が動機となった現在の研究努力の対象である。
金属ナノ粒子を合成するため、光化学的方法[1〜3]及び熱的方法[4〜7]の分野のみならず、多くの高真空アプローチといった広範な技術が報告されている。ちょうど注目を集め始めている技術は、金属ナノ構造の成長を誘発するためのゼオライト表面の潜在的用途である[8〜10]。ナノ及びナノ以下の寸法規模について明らかにされたその多くの特性にとっては、分子ふるいが該ナノファブリケーション努力の先駆的地位にある優れた候補のようであろう[11]。
不運なことに、ナノ銀生成の現在の技術は高価かつ厄介である[14]。一定条件下でゼオライトのキャビティ内にナノメーター以下の銀集団を形成させることができ[15〜18]、還元雰囲気下では、ずっと大きい構成がゼオライト表面上に生成することが多い。金属はゼオライトの表面上で容易に集合するが、ゼオライト表面上で一般的に見られる高い金属移動度のため、安定したゼオライト支持金属ナノスケール構造を達成することは困難なことが判っている。典型的に、還元すると、ゼオライト結晶中にイオン交換した金属が結晶表面に拡散し、急速に合体してミクロンスケールの集塊になる[19、20]。これらの集塊の(ナノ金属集団に比べて)低い比表面積のため、これらの集塊は一般的にバルク金属のようにふるまい、ナノ粒子に期待される新規な特性を示さない。
ナノ粒子銀は多くの用途の可能性がある。安価なナノ構造化銀金属を容易に利用できれば、多くの有用な特性が予想される。銀は周知の抗菌剤であり、ナノスケール銀は包帯及び関連医療適用において増大する用途を見出している[12、13]。ナノ銀粒子は、医用装置及び包帯における感染制御の最前線にある[13]。ナノ銀を生成するための現在の方法は、表面スパッタリング等の複雑な技術に集中している。バイオ医療工学インプラントにおける調査レベルの研究は、ナノ粒子サイズが5nm〜50nmの範囲を制御するナノ銀骨セメントの見込みを示している[24]。ナノ粒子銀の強力な表面プラズモン吸収が、例えば、バイオセンサーのような用途でナノ粒子銀を特に有用にする。銀ナノドットは光-蛍光マーカーでありうる。このことが、多くの医用及び同様の用途で銀ナノドットを有用にする。銀ナノドットは環境的及び生物学的に優しい。他の典型的な銀ナノドットの用途として、スマートウィンドウ、書換可能電子ペーパー、電子パネルディスプレイ、記憶コンポーネント等が挙げられる。
【0003】
金属ナノドットを合成するため広範な技術が報告されている。銀ナノドット及びその形成は、最近、Metraux及びMirkin, 2005[14]によって議論された。銀ナノドット生産の伝統的な方法は、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム及びジメチルホルムアミド("DMF")等の潜在的に有害な化学薬品の使用を要する。これらの化学薬品は、取扱い、貯蔵、及び輸送のリスクを引き起こし、銀ナノドットの製造に実質的な費用と困難を加える。これらの潜在的に有害な化学薬品で使うために準備される費用のかかる生産設備と共に、高度に訓練された生産労働力が必要である。
銀ナノドットの既知の製造方法の別の欠点は、その製造に必要な時間と熱に関係する。既知の製造方法は、一般的に遅いキネティクスを利用し、結果として反応に長い時間かかる。熱を加えることによって、必要な時間の長さをある程度まで短縮できるが、これはエネルギーコスト、設備の必要を増やし、そうでなくてもプロセスを複雑にする。既知の方法は通常、例えば、60〜80℃の高温で20時間以上の反応を必要とする。また、既知反応の相対的に遅いキネティクスは、望ましくなく大きい粒度分布と相対的に低い転化率をもたらす。既知の方法の多段階生産、高温での長い反応時間、相対的に低い転化率、及び高い粒度分布は、特に商業規模で実施する場合に、該方法をコスト高かつ厄介にする。
【0004】
一定条件下で銀集団がゼオライトのキャビティ内に形成され、ゼオライト表面上にずっと大きい構成を自由に形成することは周知であるが、ナノドットがゼオライト表面上に形成されることは知られていない。
現在知られている銀ナノドットの製造方法に関するこれら及び他の問題は、ナノドットの相対的に不安定な性質によって悪化する。現在知られている方法を使用した場合、製造される銀ナノドットは、急速に凝集する傾向があることから短い貯蔵寿命しか持たない。
従って、先行技術の困難を軽減する、銀ナノドット等の金属ナノドットを形成するための便利かつ安価な方法が技術的に要望されている。
【0005】
〔発明の概要〕
一局面では、本発明は、ゼオライト表面上に金属ナノドットを形成する方法を含む。ゼオライトとの金属イオン交換後、中温で活性化する。一実施形態では、ゼオライトは菱沸石又は菱沸石類似体を含む。別の局面では、本発明は、イオン交換とその後の活性化によって形成された複数の金属ナノドットを支持した菱沸石を含む。一実施形態では、金属は遷移金属又は貴金属、例えば、銅、ニッケル、パラジウム又は銀を含みうる。
一実施形態では、銀が好ましい金属である。一実施形態では、銀ナノドットは約100nm未満、例えば、約50nm、30nm、20nm、又は10nm未満の直径を有することとなりうる。一実施形態では、ナノドットは、平均約3nmで約1〜約5nmのオーダーであり、広範な条件下で菱沸石表面上に形成される。我々の試験では、これらのナノドットは菱沸石表面上で少なくとも500℃にて安定であり、高温で長時間の加熱下で均一なナノドットとして留まる。これらの銀粒子から20質量%以上のゼオライト金属ナノドット複合材料が構成されうる。
従って、1つの好ましい実施形態では、ゼオライトを鋳型にした表面成長に基づくアプローチが、緊密に制御された実験室環境から大規模な工業化学プロセス(既にゼオライトが常用されている)に該合成経路を移行するための能力を提供する。
本発明は、ゼオライトのケージ枠組み内で金属のナノドット又はナノワイヤーを成長させてから該材料の内部でナノ構造を生成するという、よく確立された科学とは明確に異なる。本発明では、先行技術と異なり、金属のナノドットがゼオライト支持体上で表面アクセス可能(surface-accessible)である。
本発明に従って製造されたナノ構造化銀材料は多くの有用な特性を有しうる。一局面では、本発明は、高温で水銀を可逆的に吸着するため銀のナノドットの使用を含みうる。別の局面では、本発明は、抗細菌剤及び/又は抗真菌剤としての銀のナノドットの使用を含みうる。
【0006】
従って、一局面では、本発明は、金属ナノ粒子材料の製造方法であって、以下の工程:
(a)前記金属のイオンの溶液と菱沸石材料でイオン交換を行う工程;及び
(b)前記イオン交換した菱沸石材料を活性化する工程
を含んでなる前記方法を含みうる。
別の局面では、本発明は、約100nm未満、例えば、約50nm、30nm、20nm、又は10nm未満の実質的に均一な粒径を有する、金属の表面アクセス可能な粒子を含んでなる菱沸石支持金属ナノ粒子材料を含みうる。一実施形態では、前記材料は、約5nm未満の直径を有する金属ナノドットを含みうる。
【0007】
〔好ましい実施形態の詳細な説明〕
本発明は、菱沸石又は菱沸石様材料上に形成される金属ナノドットに関する。本発明について述べる場合、本明細書で定義しない全ての用語は、その普通に技術上認められている意味を有する。以下の記述が本発明の特有の実施形態又は特定用途のものであるという点で、以下の記述は説明のためだけを意図したものであり、本発明の特許請求の範囲を制限するものではない。以下の記述は、添付の特許請求の範囲で定義されるとおりの本発明の精神及び範囲に包含される全ての代替物、変形及び均等物を網羅する意図である。
現在までに一貫した専門用語が出現したが、当業者は、一般的に「ナノクラスター」は約20未満の原子のより小さい集合を表すものとみなす。「ナノドット」は一般的に約10nm以下の大きさを有する集合を表す。「ナノ粒子」は、一般的にナノドットより大きく、約200nmまでの大きさとみなされる。この明細書では、用語「ナノドット」を使用するが、大きさを限定する名称のつもりでないので、ナノクラスター及びナノ粒子を包含しうる。
用語「約」は、値+/-10%、好ましくは+/-5%の範囲を示すものとし、或いは値を測定するために使用する方法又は装置に固有の分散量を示しうる。
本明細書では、「菱沸石」は、鉱物菱沸石、合成菱沸石類似体、例えばゼオライトD、R、G及びZK-14、並びに鉱物ゼオライトに類似又は関連する構造を有するいずれの他の材料をも包含する。菱沸石及び菱沸石様構造は、相対的に高いシリカから化学量論的に1/1のシリカ/アルミニウム材料の範囲のテクトケイ酸塩ゼオライト材料群を含む[25]。合成類似体は、カオリン粘土等のいずれのアルミノケイ酸塩源由来でもよい。従って、菱沸石は、その内容を参照によって本明細書に引用したものとする米国特許第6,413,492号明細書で開示されているような高アルミニウム類似体を包含しうる。Kuznicki et al "Chemical Upgrading of Sedimentary Na-Chabazite from Bowie, AZ", Clays and Clay Min. June 2007, 55:3, 235-238に記載の方法によってのように、鉱物菱沸石をアップグレードすることができる。菱沸石の一例は下記式で例示される:(Ca,Na2,K2,Mg)Al2Si4O126H2O。公認変種として、限定するものではないが、菱沸石-Ca、菱沸石-K、菱沸石-Na、及び菱沸石-Srが挙げられる(指示したカチオンの傑出によって決まる)。菱沸石は、擬立方体である典型的に菱面体形状の結晶の三方晶系で結晶化する。結晶は、必ずではないが、典型的に双晶であり、接触双晶と透入双晶が両方とも観察されうる。結晶は無色、白色、橙色、褐色、桃色、緑色、又は黄色でありうる。菱沸石は他の天然及び合成ゼオライトより高度に分極した表面を有することが分かっている。
【0008】
一般項では、一実施形態において、金属カチオンの菱沸石中へのイオン交換後の活性化工程(金属ナノドットの形成をもたらす)ことによって、金属ナノドットが菱沸石表面上に形成される。一実施形態では、金属は銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属の1つである。本明細書では、「白金群」金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム又は白金である。一般的に、銀、金及び白金群は自己還元性である。これらの金属の塩の使用は、一般的に還元条件の負担なしで金属ナノドットの形成をもたらすだろう。しかし、該金属の酸化を最小限にするためにも、該金属のための還元条件の使用が好ましい。一般的に、銅とニッケルは還元性であり、その金属塩は通常、還元雰囲気内で還元の結果、金属ナノドットの形成となるだろう。
好ましい実施形態では、金属は銀又はニッケルを含む。
一実施形態では、菱沸石サンプルのイオン交換によって銀菱沸石を調製しうる。例えば、微細粉末(200メッシュ)として菱沸石を過剰の硝酸銀水溶液にさらす。一実施形態では、室温にて1時間の撹拌でイオン交換が起こる。次に該材料を洗浄して乾燥させてよい。次いで活性化工程によって、ゼオライト内の銀イオンを、菱沸石上に支持された金属銀ナノドットに変換することができる。一実施形態では、活性化工程は、単に室温で該材料を乾燥させる工程を含むだけでよい。好ましい実施形態では、活性化工程は該材料を高温、例えば100℃〜500℃以上、好ましくは約100℃〜約400℃でアニールする工程を含みうる。活性化工程は1〜4時間、又はそれより長時間かかりうる。一実施形態では、活性化工程を還元環境内で行う。
一実施形態では、ナノドットは、約100nm未満、例えば、約50nm未満、約30nm未満又は約20nm未満の大きさを有する。一実施形態では、形成される金属ナノドットの実質的に大多数が約10nm未満の粒径を有する。1つの好ましい実質的にでは、実質的に大多数が約5nm未満と考えられる。好ましい実施形態では、粒子は、図3に示される粒度分布と同様の粒度分布を有し、平均粒径が約3nmである。
一般に、ナノドットの大きさは、活性化工程の還元又は酸化条件に影響されるようである。一実施形態では、還元条件の使用の結果、一般的により小さいナノドットサイズとなる。逆に、穏やかな酸化条件、例えば空気の使用の結果、一般的により大きいナノドットサイズとなる。
【0009】
理論に拘泥されないが、活性化プロセスが銀イオンを菱沸石の表面に移動させ、より大きい粒子又はシートではなくナノドットとして銀イオンが該表面上に存在すると考えられる。銀イオンは、ナノドット形成の前か後にその金属状態に還元する。ナノドット形成の正確な機構は分からないが、その寸法及び均一な分布は、おそらく他の天然及び合成ゼオライトに対して異常に高度に分極した菱沸石表面のためだろう[30〜32]。結果として、菱沸石表面は、クラスターと有意な電気的相互作用を有しうる。これが特有の数の原子を含有する粒子(電荷の考慮)又は該基材の特有の領域、例えばステップ又はキンクにある粒子を安定化するかもしれない。実際には、別の律速段階は、銀原子の表面拡散(これも電荷によって影響される)であるかもしれない。一旦、銀が菱沸石内部から表面上に移動したら、銀は本質的に「閉じ込められ」、拡散してバルクに戻ることもできず、或いは表面全体に移動して、より大きいクラスターと合同することもできないのかもしれない。ナノドットの安定性を高めるさらなる因子は、観察される粒度分布の狭さであり、オストワルド熟成の推進力を減らすだろう。
【0010】
好ましい実施形態では、化学的にアップグレードした菱沸石は、より高い濃度でより均一な金属ナノドットの形成を誘導しうる。本質的に純粋な菱沸石の大きい結晶のサンプルは周知であるが(例えばWasson Bluff, Nova Scotia, Canadaから)、Bowie, Arizonaで見られる当該サンプルのような大きい商業的に利用できる鉱床は、いつも有意量の他の天然ゼオライト、例えばクリノプチロライト(clinoptilolite)及びエリオナイト(erionite)と共に形成された菱沸石を有する。
苛性消化によって、生のナトリウムBowie菱沸石原鉱を、1.0に近時できるSi/Alを有する菱沸石構造のアルミニウムリッチ変形に再結晶させられることが分かっている[26]。菱沸石原鉱の多くシリカを含む相、クリノプチロライトとエリオナイトは、アルカリ性媒体に選択的に溶解し、見掛けの鋳型として菱沸石と再編成する。このような半合成の高アルミニウム菱沸石類似体は、約5meq/g超え、約7.0meq/gほど高いといったカチオン交換能の増加を明示し、かつ溶液からの重金属、特に鉛に向けた高い選択性を示す[27]。
従って、一実施形態では、アルカリ性媒体中でナトリウムBowie菱沸石原鉱を、実質的に過剰な可溶性シリカが反応/消化媒体中に存在する場合、該原鉱の元の菱沸石成分(Si/Al約3.0〜3.5)に似ている元素組成を有する半合成の精製したアップグレード菱沸石に再編成かつアップグレードしうる。このプロセスでは、本質的に全てのクリノプチロライトと多くのエリオナイトが溶解し、菱沸石に再編成されるが、単に苛性消化で見られる高アルミニウム含量ではない。この新規な半合成の精製かつアプグレードした菱沸石は、吸着剤としてそれを活性化するのに必要な過酷な脱水に対して安定である。また、このプロセスを菱沸石原鉱の顆粒(一般的に不十分な機械的強度の顆粒である)について行うと、再結晶して菱沸石となるクリノプチロライトとエリオナイトが現存菱沸石プレートレットの縁に結合するようなので、該顆粒は機械的強度が大いに増す。
これらのより均一なアップグレードした半合成菱沸石は、それらが誘導される生の菱沸石原鉱に比べ、その表面上に金属ナノドット(例えば銀)の均一な分散系を形成するための改良された性向を示す。さらに、それらは水等の分子に対する改良された吸着剤特性を有し、かつ、より強い酸性部位(Hの形態で)を形成するようである。
菱沸石上に支持された新規な金属ナノドットは、金属元素のマクロ及びナノ特性を利用する多くの用途の可能性がある。銀ナノ粒子材料の一実施形態では、該材料を用いてプロセスストリームから、例えば石炭火力発電所の煙道ガスから元素水銀を捕獲することができる。銀ナノ粒子材料の別の実施形態では、該材料を新規な抗菌剤として使用できる。
【0011】
実施例
〔実施例1〕 菱沸石
GSA Resources of Tucson, Arizonaから得た、Bowie, Arizonaの周知鉱床由来の堆積菱沸石をゼオライト支持体として利用した[21]。アルカリ性ケイ酸塩混合物中で80℃にて1〜3日間、生の原鉱の長時間消化によってアルミニウム富化菱沸石を調製した。消化及び再結晶プロセス中に利用可能な過剰のアルカリ度の量によってアルミニウム富化の程度を管理した。
Rigaku Geigerflex Model 2173回折計ユニットを用いてX線回折分析によって菱沸石とアルミニウム富化類似体の相の同定を行った。Bowie鉱床由来のサンプルに典型的なように、XRD分析は、該材料が、主相である菱沸石と高度にゼオライト化していることを示した。該材料は、図1Aで分かるように、混入物として有意なクリノプチロライトとエリオナイトをも含有した。図1Aと1Bを比較して分かるように、苛性消化改良又はアルミニウム富化材料は、そのアップグレードプロセス中に全てのクリノプチロライトと相当部分のエリオナイトを失いながら、菱沸石様ピークの強度を増やすことが分かった。
【0012】
〔実施例2〕 銀ナノドットの形成
200メッシュ粉末としてゼオライトを過剰な硝酸銀水溶液に室温で1時間撹拌しながらさらすことによって銀イオン交換を達成した。交換された材料を脱イオン水で完全に洗浄し、100℃で乾燥させた。ゼオライト内の銀イオンを、支持された金属銀ナノ粒子に変換するため、イオン交換された菱沸石を150℃〜450℃の範囲の温度で1〜4時間空気中でアニールした。
Perkin Elmer Elan6000四極子ICP-MSを用いて銀交換材料の定量元素分析を行った。分光器トランスミッション固定(fixed analyser transmission)(FAT)モードで単色Al Kα(hν=1486.6eV)放射線を使用するKratos AXIS 165分光計を利用してXPSによって該材料表面の半定量元素分析を行った。サンプル分析チャンバー内の圧力は10-7Pa(10-9トル)未満だった。粉末サンプルをステンレススチールのサンプルホルダー上に両面接着テープを用いて取り付けた。サーベイ及び高分解能のナロー走査スペクトルを得るため、それぞれ160eV及び20eVのパスエネルギーを使用した。電子フラッド銃を用いて静荷電を補償した。ここで提示されるスペクトルの結合エネルギーは、284.5eVでのC 1sピークの位置を反映している。データ取得とピークフィッティングをCASA-XPSソフトウェアで行った。
成功したイオン交換をXPSで確認した。図2は、未処理(点線)及びイオン交換した(実線)菱沸石の強度(任意の単位で与えられる)対結合エネルギーXPSスペクトルを示す。2つのスペクトル間の強度シフトを加えて、そうしなければ重なるであろうピークを分けた。図2のスペクトルで示されるように、銀交換した菱沸石の表面上には銀が存在するが、未処理菱沸石の表面上には存在しない。
超微細プローブエネルギー分散性X線分光法(EDXS)分析を用いて本質的に純粋な銀としてナノ粒子の組成を確認した。XPSスペクトル中の3d5/2光電子の結合エネルギーは、銀が主に金属状態であることを確証する。銀のほかに、粒子は痕跡量のアルミニウムと鉄をも含有するが、我々はそれを量化できなかった。利用した技術のため、Na、C、Al及びSi等の他の混入物が小量で存在することも可能である。
銀のナトリウムとのイオン交換の程度を調べるため、図2に示されるように、アルミニウムとナトリウムのナロースペクトルをも得た。元の菱沸石とイオン交換した菱沸石は両方ともバンド位置とピーク強度の両方で同様のアルミニウムスペクトルを示した。XPSの検出限界内では、菱沸石上の銀によるナトリウムのイオン交換は完全であることが明白である。これは銀交換材料のスペクトル上のナトリウムバンドの非存在によって示される。
XPSとICP-MSは両方とも20〜21wt.%程度の銀装填を示した。また、ナトリウムは本質的に完全に欠如しており、このことは定量的交換によって予測されるだろう。菱沸石のプレートレットは非常に薄いので、バルク分析と表面分析がサンプルの同じ部分を見ることがあり、等価な分析が予想されるだろう。サンプル全体の20wt.%のわずかに過剰な銀含量は、この材料について予想される約2.5mequiv/gの交換能と一致する。
【0013】
〔実施例3〕 電子顕微鏡検査法
Calgary大学にある、EDX、EFTEM/EELS、環状暗視野検出器(Annular Dark field Detector)(ADF)、及び高い角度傾斜能を備えたPhilips Tecnai F20 Twin FEGで透過型電子顕微鏡検査法(TEM)を行った。走査透過(STEM)モードで顕微鏡を操作した。材料を乾式粉砕して銅グリッド上に分散させることによってサンプルを調製した。SPIPTM顕微鏡画像処理ソフトウェアを用いて定量的粒径分析を行った。
透過型電子顕微鏡(TEM)分析は、図3で分かるように、鉱物菱沸石サンプル上の銀ナノ粒子の分布を示す。図4に示される定量的粒径分析は、銀のナノ粒子の大多数は、直径約1〜5nm、平均2.6nmのオーダーであることを明らかにする。図5で分かるように、より高い倍率は菱沸石表面上に静止している球形ナノドットとして銀を示すようであるが、他の球状形態を排除できない。銀の分布は、一般的に均質であるが、時には金属の何らかの見掛けの大きいプールといった不規則な粒径と間隔を有するミクロ構造の領域がある。これは、鉱物基材の組成の不規則性のためだろう。
【0014】
〔実施例4〕 オージェ顕微鏡検査法
JEOL JAMP-9500F Field Emission Scanning Auger Microprobeでオージェ顕微鏡検査法を行った。この機器は電界放出電子銃と半球型エネルギー分析器を備えた。前記TEMについてのマイクロプローブ分析と同様に調製した粉末を使用した。
オージェ顕微鏡検査マッピングは、銀ナノドットの横分布を確証した。個々のクラスターを個別に画像処理することは顕微鏡の分解能限界未満だったが(理論的及び実用的分解能限界は、それぞれ10nm及び20nmだった)、我々は菱沸石表面上の均一な銀分布を実証できた。図6は、菱沸石表面上のAg分布の走査型オージェマイクロプローブ画像を示す。銀粒子はTEMで得た結果に対してマイクロプローブ画像でわずかに大きく見える。その分布も高密度に見える。この数密度の差異は、TEM画像が2つの面の最小を示すが(菱沸石は微細層化構造であり、各電子の透明サンプル中にはおそらく2つより多くの面が存在する)、オージェ画像は単純にトップ表面を示すという事実に帰するだろう。焦点外の粒子が大きく見え、十分に微細なクラスターは検出されないことから、より大きい見掛けの粒径は、部分的に下方空間とTEMに対する該マイクロプローブの分析分解能のためかもしれない。
オージェ顕微鏡検査の結果は、銀の有意なフラクションが表面上にナノドットの形態で明確にあることを示す。
【0015】
〔実施例5〕 水銀を捕獲するための使用
上述したように形成された菱沸石支持銀ナノ粒子を、高温でHg0(元素水銀)を捕獲する能力について試験した。多くの石炭火力発電所の煙道ガスストリームからの元素水銀の捕獲は、確立された方法によっては極端に困難である。現存する方法は、炉温度からの煙道ガスクールとして形成された酸化水銀種を捕獲するのに最もよく適合している[22]。現存する吸着剤の欠点として、未定義かつ不規則な捕獲機構、固体廃棄物ストリーム処分の懸念、及び高温の工業プロセスガスによって課される制限が挙げられる。これらの懸念は、現実的なプロセスガス温度(150℃まで)で元素水銀を途中で捕まえることができる吸着材で排除されるだろう。
UHPアルゴンキャリヤーガスを40ml/分で3mmのI.D.のホウケイ酸ガラスクロマトグラフィーカラムに通すことによって元素水銀(Hg0)のブレークスルー研究を行った。カラムは、石英ガラスウールでくるんで適所に保持され、かつ実験の持続時間試験温度で維持された試験吸着剤の2cmのベッドを含んだ。吸着剤カラムの上流に向かう注射器でHg0蒸気標準物質(50μL)を注入し、標準温度データを用いて定量した。吸着剤からのいずれの水銀ブレークスルーもアマルガムトラップまで下流に続いた。適切な間隔でトラップを熱的に脱着した。Cold Vapour Atomic Fluorescence Spectroscopy(Tekran)で元素水銀を検出した。Star Chromatography Workstation Ver. 5.5(Varian, Inc.)でデータ処理を行った。
我々は、典型的な石炭火力発電所の煙道ガスで見られる1〜10g/m3の範囲の濃度よりずっと高い濃度(4桁の大きさ)でパルス曝露として水銀を注入した[23]。図7は、ガラスビーズ上に沈着したバルク金属銀に対する銀ナノ粒子被覆菱沸石の種々の捕獲温度における元素水銀ブレークスルーを比較する。ナノ粒子被覆菱沸石の場合には、元素水銀のブレークスルーは、250℃の捕獲温度まで無視できる。250℃〜300℃で、元素水銀の部分的ブレークスルーがあった。300℃超えで、ブレークスルーが完全になる。400℃で、吸着した元素水銀の放出が5分以内で起こった。ガラスビーズ上のバルク銀は、元素水銀にとって有効な吸着剤でなかった(図7)。100℃以上のいずれの温度でも実質的なブレークスルーが着目され、煙道ガス適用におけるその用途の可能性を制限する。これは、経済的な調製し易い菱沸石支持銀ナノ粒子材料由来の「ナノ」強化特性の明白な実証であると思われる。
【0016】
〔実施例6〕 抗菌物質としての銀ナノドット
菱沸石プラットフォームは、医用ナノ銀を製造するための費用有効方法をも提供する。1000ppmまでの硝酸銀濃度にてアガープレート上で増殖した酵母菌は、真菌静止制御(すなわち真菌増殖を遅延)を示すが、該培地中に明白な阻害ゾーンを生じさせなかった。硝酸銀添加は急速に培地を黒くした。対照的に、菱沸石支持銀ナノドットは、殺真菌性であり、増殖を死滅及び阻止することが観察された。銀ナノ粒子のない菱沸石サンプルではこのような抗真菌特性は観察されなかった。図8中、菱沸石支持銀ナノドットを含有する中心ウェル周辺に明白な死滅ゾーンが見える。硝酸銀含有クラスターと異なり、阻害ゾーンは澄んだままであり、黒変しない。これは、ナノ粒子に由来する活性な銀種は、硝酸銀から発するイオン銀と異なることを示唆している。このような固定又は支持されたナノ銀粒子の潜在的に望ましい特徴には、固定位置にさらされた銀粒子の高度に均一な集団を濃縮することに基づく有効な局所化細菌制御が含まれる。このような局所化濃縮制御は、多くの他形態の銀では利用できない。
【0017】
(アップグレードした菱沸石)
アルカリ性媒体中の消化によって、菱沸石原鉱を「再結晶」させてアルミニウムリッチ類似体を形成しうる。一定条件下、最大アルミニウム類似体を調製できる[26、27]。苛性シリカ混合物中の長時間の消化によってアルミニウム含量を実質的にブーストすることができる。Si/Al比が約1.2のアルミニウム富化菱沸石を調製し、上記のとおり完全に銀交換した。アルミニウム富化菱沸石上の銀によるナトリウムのイオン交換は、銀交換された材料のXPSスペクトル上のナトリウムバンドの非存在が示されたとき、完了した。XPSとICP-MSは両方ともサンプル全体の40〜42wt.%の範囲の銀含量を示した。これは、このアルミニウム富化菱沸石類似体で予想される約6.5mequiv/gの交換能と一致する。
このアップグレードしたアルミニウム富化菱沸石類似体の空気中300℃での熱的還元が、鉱物菱沸石原鉱の表面上で見られるのと本質的に同一の銀ナノドットを有する材料を与えた。しかし、この銀ナノドットは、図9A及び9Bで分かるように、より均一かつずっと高い濃度のようである。生の銀支持原鉱の1000nm2当たり29個のナノ粒子に比し、アルミニウム富化材料では1000nm2当たり48個のナノ粒子という濃度が観察された。また、アップグレードした材料上では、不純な原鉱で見られるような、金属の大きいプールが無いようである。
定量的表面分析は、銀ナノ粒子は、生の菱沸石原鉱上よりアルミニウム富化材料上で(おそらく)わずかに大きいことを示した。図10A及び10Bに示される粒度分布で分かるように、生の菱沸石原鉱上の銀ナノ粒子平均粒径は、アルミニウム富化材料上の銀ナノ粒子のの2.83nmに比し、2.65nmだった。
【0018】
(参考文献)
上記角括弧中に下記参考文献を表しており、これらの参考文献の内容を、あたかもその全体を再現するかのにように、本明細書に引用したものとする。
【0019】
図中、同様の要素には同様の参照番号を割り当てる。図面は、必ずしも率に合わせて示さず、むしろ本発明の原理に重点を置く。さらに、描写した各実施形態は、本発明の基本概念を利用する多くの可能な配置の一つにすぎない。以下、図面を簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】生の菱沸石の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図1B】アップグレードした半合成菱沸石の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図2】未処理及び銀イオン交換した菱沸石におけるそれぞれ銀、アルミニウム及びナトリウムのXPSスペクトルを示す。
【図3】菱沸石支持体の表面上に存在する銀ナノドットの環状暗視野STEM顕微鏡写真を示す(全体的なAg分散を示す低倍率画像)。
【図4】図3に示される銀ナノドットの粒度分布を示す。
【図5】図3に示される個々のナノドットの大きさを表す高倍率画像を示す。
【図6】菱沸石表面上の銀の分布を写像する走査型オージェ顕微鏡写真を示す。
【図7】銀被覆ガラスビーズを利用する水銀のブレークスルーと比較した、銀ナノドット被覆菱沸石上の元素水銀のブレークスルーを示す。
【図8】ナノ銀ゼオライトを含有する中心ウェル周辺に強い阻害ゾーンを示す(a)、固体マルトデキストロースアガー上の酵母細胞を示し、殺真菌阻害ゾーン(c)と対照的に、コロニー縁に沿った細胞が普通の厚い構造化成長を示す(b)。
【図9A】生の菱沸石上の銀ナノドットの環状暗視野SETM顕微鏡写真を示す。
【図9B】アルミニウム富化菱沸石類似体上の銀ナノドットの環状暗視野SETM顕微鏡写真を示す。
【図10A】鉱物菱沸石(mineral chabazite)上の銀ナノドットの粒度分布を示す。
【図10B】アルミニウム富化菱沸石類似体上の銀ナノドットの粒度分布を示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、菱沸石(chabazite)及び菱沸石類似体上に形成される金属ナノドット(metal nanodot)に関する。
【0002】
〔背景〕
金属ナノ粒子及びナノワイヤーは、ナノスケール誘導性の光学的、電気的及び化学的性質に由来するその高い潜在的用途が動機となった現在の研究努力の対象である。
金属ナノ粒子を合成するため、光化学的方法[1〜3]及び熱的方法[4〜7]の分野のみならず、多くの高真空アプローチといった広範な技術が報告されている。ちょうど注目を集め始めている技術は、金属ナノ構造の成長を誘発するためのゼオライト表面の潜在的用途である[8〜10]。ナノ及びナノ以下の寸法規模について明らかにされたその多くの特性にとっては、分子ふるいが該ナノファブリケーション努力の先駆的地位にある優れた候補のようであろう[11]。
不運なことに、ナノ銀生成の現在の技術は高価かつ厄介である[14]。一定条件下でゼオライトのキャビティ内にナノメーター以下の銀集団を形成させることができ[15〜18]、還元雰囲気下では、ずっと大きい構成がゼオライト表面上に生成することが多い。金属はゼオライトの表面上で容易に集合するが、ゼオライト表面上で一般的に見られる高い金属移動度のため、安定したゼオライト支持金属ナノスケール構造を達成することは困難なことが判っている。典型的に、還元すると、ゼオライト結晶中にイオン交換した金属が結晶表面に拡散し、急速に合体してミクロンスケールの集塊になる[19、20]。これらの集塊の(ナノ金属集団に比べて)低い比表面積のため、これらの集塊は一般的にバルク金属のようにふるまい、ナノ粒子に期待される新規な特性を示さない。
ナノ粒子銀は多くの用途の可能性がある。安価なナノ構造化銀金属を容易に利用できれば、多くの有用な特性が予想される。銀は周知の抗菌剤であり、ナノスケール銀は包帯及び関連医療適用において増大する用途を見出している[12、13]。ナノ銀粒子は、医用装置及び包帯における感染制御の最前線にある[13]。ナノ銀を生成するための現在の方法は、表面スパッタリング等の複雑な技術に集中している。バイオ医療工学インプラントにおける調査レベルの研究は、ナノ粒子サイズが5nm〜50nmの範囲を制御するナノ銀骨セメントの見込みを示している[24]。ナノ粒子銀の強力な表面プラズモン吸収が、例えば、バイオセンサーのような用途でナノ粒子銀を特に有用にする。銀ナノドットは光-蛍光マーカーでありうる。このことが、多くの医用及び同様の用途で銀ナノドットを有用にする。銀ナノドットは環境的及び生物学的に優しい。他の典型的な銀ナノドットの用途として、スマートウィンドウ、書換可能電子ペーパー、電子パネルディスプレイ、記憶コンポーネント等が挙げられる。
【0003】
金属ナノドットを合成するため広範な技術が報告されている。銀ナノドット及びその形成は、最近、Metraux及びMirkin, 2005[14]によって議論された。銀ナノドット生産の伝統的な方法は、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム及びジメチルホルムアミド("DMF")等の潜在的に有害な化学薬品の使用を要する。これらの化学薬品は、取扱い、貯蔵、及び輸送のリスクを引き起こし、銀ナノドットの製造に実質的な費用と困難を加える。これらの潜在的に有害な化学薬品で使うために準備される費用のかかる生産設備と共に、高度に訓練された生産労働力が必要である。
銀ナノドットの既知の製造方法の別の欠点は、その製造に必要な時間と熱に関係する。既知の製造方法は、一般的に遅いキネティクスを利用し、結果として反応に長い時間かかる。熱を加えることによって、必要な時間の長さをある程度まで短縮できるが、これはエネルギーコスト、設備の必要を増やし、そうでなくてもプロセスを複雑にする。既知の方法は通常、例えば、60〜80℃の高温で20時間以上の反応を必要とする。また、既知反応の相対的に遅いキネティクスは、望ましくなく大きい粒度分布と相対的に低い転化率をもたらす。既知の方法の多段階生産、高温での長い反応時間、相対的に低い転化率、及び高い粒度分布は、特に商業規模で実施する場合に、該方法をコスト高かつ厄介にする。
【0004】
一定条件下で銀集団がゼオライトのキャビティ内に形成され、ゼオライト表面上にずっと大きい構成を自由に形成することは周知であるが、ナノドットがゼオライト表面上に形成されることは知られていない。
現在知られている銀ナノドットの製造方法に関するこれら及び他の問題は、ナノドットの相対的に不安定な性質によって悪化する。現在知られている方法を使用した場合、製造される銀ナノドットは、急速に凝集する傾向があることから短い貯蔵寿命しか持たない。
従って、先行技術の困難を軽減する、銀ナノドット等の金属ナノドットを形成するための便利かつ安価な方法が技術的に要望されている。
【0005】
〔発明の概要〕
一局面では、本発明は、ゼオライト表面上に金属ナノドットを形成する方法を含む。ゼオライトとの金属イオン交換後、中温で活性化する。一実施形態では、ゼオライトは菱沸石又は菱沸石類似体を含む。別の局面では、本発明は、イオン交換とその後の活性化によって形成された複数の金属ナノドットを支持した菱沸石を含む。一実施形態では、金属は遷移金属又は貴金属、例えば、銅、ニッケル、パラジウム又は銀を含みうる。
一実施形態では、銀が好ましい金属である。一実施形態では、銀ナノドットは約100nm未満、例えば、約50nm、30nm、20nm、又は10nm未満の直径を有することとなりうる。一実施形態では、ナノドットは、平均約3nmで約1〜約5nmのオーダーであり、広範な条件下で菱沸石表面上に形成される。我々の試験では、これらのナノドットは菱沸石表面上で少なくとも500℃にて安定であり、高温で長時間の加熱下で均一なナノドットとして留まる。これらの銀粒子から20質量%以上のゼオライト金属ナノドット複合材料が構成されうる。
従って、1つの好ましい実施形態では、ゼオライトを鋳型にした表面成長に基づくアプローチが、緊密に制御された実験室環境から大規模な工業化学プロセス(既にゼオライトが常用されている)に該合成経路を移行するための能力を提供する。
本発明は、ゼオライトのケージ枠組み内で金属のナノドット又はナノワイヤーを成長させてから該材料の内部でナノ構造を生成するという、よく確立された科学とは明確に異なる。本発明では、先行技術と異なり、金属のナノドットがゼオライト支持体上で表面アクセス可能(surface-accessible)である。
本発明に従って製造されたナノ構造化銀材料は多くの有用な特性を有しうる。一局面では、本発明は、高温で水銀を可逆的に吸着するため銀のナノドットの使用を含みうる。別の局面では、本発明は、抗細菌剤及び/又は抗真菌剤としての銀のナノドットの使用を含みうる。
【0006】
従って、一局面では、本発明は、金属ナノ粒子材料の製造方法であって、以下の工程:
(a)前記金属のイオンの溶液と菱沸石材料でイオン交換を行う工程;及び
(b)前記イオン交換した菱沸石材料を活性化する工程
を含んでなる前記方法を含みうる。
別の局面では、本発明は、約100nm未満、例えば、約50nm、30nm、20nm、又は10nm未満の実質的に均一な粒径を有する、金属の表面アクセス可能な粒子を含んでなる菱沸石支持金属ナノ粒子材料を含みうる。一実施形態では、前記材料は、約5nm未満の直径を有する金属ナノドットを含みうる。
【0007】
〔好ましい実施形態の詳細な説明〕
本発明は、菱沸石又は菱沸石様材料上に形成される金属ナノドットに関する。本発明について述べる場合、本明細書で定義しない全ての用語は、その普通に技術上認められている意味を有する。以下の記述が本発明の特有の実施形態又は特定用途のものであるという点で、以下の記述は説明のためだけを意図したものであり、本発明の特許請求の範囲を制限するものではない。以下の記述は、添付の特許請求の範囲で定義されるとおりの本発明の精神及び範囲に包含される全ての代替物、変形及び均等物を網羅する意図である。
現在までに一貫した専門用語が出現したが、当業者は、一般的に「ナノクラスター」は約20未満の原子のより小さい集合を表すものとみなす。「ナノドット」は一般的に約10nm以下の大きさを有する集合を表す。「ナノ粒子」は、一般的にナノドットより大きく、約200nmまでの大きさとみなされる。この明細書では、用語「ナノドット」を使用するが、大きさを限定する名称のつもりでないので、ナノクラスター及びナノ粒子を包含しうる。
用語「約」は、値+/-10%、好ましくは+/-5%の範囲を示すものとし、或いは値を測定するために使用する方法又は装置に固有の分散量を示しうる。
本明細書では、「菱沸石」は、鉱物菱沸石、合成菱沸石類似体、例えばゼオライトD、R、G及びZK-14、並びに鉱物ゼオライトに類似又は関連する構造を有するいずれの他の材料をも包含する。菱沸石及び菱沸石様構造は、相対的に高いシリカから化学量論的に1/1のシリカ/アルミニウム材料の範囲のテクトケイ酸塩ゼオライト材料群を含む[25]。合成類似体は、カオリン粘土等のいずれのアルミノケイ酸塩源由来でもよい。従って、菱沸石は、その内容を参照によって本明細書に引用したものとする米国特許第6,413,492号明細書で開示されているような高アルミニウム類似体を包含しうる。Kuznicki et al "Chemical Upgrading of Sedimentary Na-Chabazite from Bowie, AZ", Clays and Clay Min. June 2007, 55:3, 235-238に記載の方法によってのように、鉱物菱沸石をアップグレードすることができる。菱沸石の一例は下記式で例示される:(Ca,Na2,K2,Mg)Al2Si4O126H2O。公認変種として、限定するものではないが、菱沸石-Ca、菱沸石-K、菱沸石-Na、及び菱沸石-Srが挙げられる(指示したカチオンの傑出によって決まる)。菱沸石は、擬立方体である典型的に菱面体形状の結晶の三方晶系で結晶化する。結晶は、必ずではないが、典型的に双晶であり、接触双晶と透入双晶が両方とも観察されうる。結晶は無色、白色、橙色、褐色、桃色、緑色、又は黄色でありうる。菱沸石は他の天然及び合成ゼオライトより高度に分極した表面を有することが分かっている。
【0008】
一般項では、一実施形態において、金属カチオンの菱沸石中へのイオン交換後の活性化工程(金属ナノドットの形成をもたらす)ことによって、金属ナノドットが菱沸石表面上に形成される。一実施形態では、金属は銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属の1つである。本明細書では、「白金群」金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム又は白金である。一般的に、銀、金及び白金群は自己還元性である。これらの金属の塩の使用は、一般的に還元条件の負担なしで金属ナノドットの形成をもたらすだろう。しかし、該金属の酸化を最小限にするためにも、該金属のための還元条件の使用が好ましい。一般的に、銅とニッケルは還元性であり、その金属塩は通常、還元雰囲気内で還元の結果、金属ナノドットの形成となるだろう。
好ましい実施形態では、金属は銀又はニッケルを含む。
一実施形態では、菱沸石サンプルのイオン交換によって銀菱沸石を調製しうる。例えば、微細粉末(200メッシュ)として菱沸石を過剰の硝酸銀水溶液にさらす。一実施形態では、室温にて1時間の撹拌でイオン交換が起こる。次に該材料を洗浄して乾燥させてよい。次いで活性化工程によって、ゼオライト内の銀イオンを、菱沸石上に支持された金属銀ナノドットに変換することができる。一実施形態では、活性化工程は、単に室温で該材料を乾燥させる工程を含むだけでよい。好ましい実施形態では、活性化工程は該材料を高温、例えば100℃〜500℃以上、好ましくは約100℃〜約400℃でアニールする工程を含みうる。活性化工程は1〜4時間、又はそれより長時間かかりうる。一実施形態では、活性化工程を還元環境内で行う。
一実施形態では、ナノドットは、約100nm未満、例えば、約50nm未満、約30nm未満又は約20nm未満の大きさを有する。一実施形態では、形成される金属ナノドットの実質的に大多数が約10nm未満の粒径を有する。1つの好ましい実質的にでは、実質的に大多数が約5nm未満と考えられる。好ましい実施形態では、粒子は、図3に示される粒度分布と同様の粒度分布を有し、平均粒径が約3nmである。
一般に、ナノドットの大きさは、活性化工程の還元又は酸化条件に影響されるようである。一実施形態では、還元条件の使用の結果、一般的により小さいナノドットサイズとなる。逆に、穏やかな酸化条件、例えば空気の使用の結果、一般的により大きいナノドットサイズとなる。
【0009】
理論に拘泥されないが、活性化プロセスが銀イオンを菱沸石の表面に移動させ、より大きい粒子又はシートではなくナノドットとして銀イオンが該表面上に存在すると考えられる。銀イオンは、ナノドット形成の前か後にその金属状態に還元する。ナノドット形成の正確な機構は分からないが、その寸法及び均一な分布は、おそらく他の天然及び合成ゼオライトに対して異常に高度に分極した菱沸石表面のためだろう[30〜32]。結果として、菱沸石表面は、クラスターと有意な電気的相互作用を有しうる。これが特有の数の原子を含有する粒子(電荷の考慮)又は該基材の特有の領域、例えばステップ又はキンクにある粒子を安定化するかもしれない。実際には、別の律速段階は、銀原子の表面拡散(これも電荷によって影響される)であるかもしれない。一旦、銀が菱沸石内部から表面上に移動したら、銀は本質的に「閉じ込められ」、拡散してバルクに戻ることもできず、或いは表面全体に移動して、より大きいクラスターと合同することもできないのかもしれない。ナノドットの安定性を高めるさらなる因子は、観察される粒度分布の狭さであり、オストワルド熟成の推進力を減らすだろう。
【0010】
好ましい実施形態では、化学的にアップグレードした菱沸石は、より高い濃度でより均一な金属ナノドットの形成を誘導しうる。本質的に純粋な菱沸石の大きい結晶のサンプルは周知であるが(例えばWasson Bluff, Nova Scotia, Canadaから)、Bowie, Arizonaで見られる当該サンプルのような大きい商業的に利用できる鉱床は、いつも有意量の他の天然ゼオライト、例えばクリノプチロライト(clinoptilolite)及びエリオナイト(erionite)と共に形成された菱沸石を有する。
苛性消化によって、生のナトリウムBowie菱沸石原鉱を、1.0に近時できるSi/Alを有する菱沸石構造のアルミニウムリッチ変形に再結晶させられることが分かっている[26]。菱沸石原鉱の多くシリカを含む相、クリノプチロライトとエリオナイトは、アルカリ性媒体に選択的に溶解し、見掛けの鋳型として菱沸石と再編成する。このような半合成の高アルミニウム菱沸石類似体は、約5meq/g超え、約7.0meq/gほど高いといったカチオン交換能の増加を明示し、かつ溶液からの重金属、特に鉛に向けた高い選択性を示す[27]。
従って、一実施形態では、アルカリ性媒体中でナトリウムBowie菱沸石原鉱を、実質的に過剰な可溶性シリカが反応/消化媒体中に存在する場合、該原鉱の元の菱沸石成分(Si/Al約3.0〜3.5)に似ている元素組成を有する半合成の精製したアップグレード菱沸石に再編成かつアップグレードしうる。このプロセスでは、本質的に全てのクリノプチロライトと多くのエリオナイトが溶解し、菱沸石に再編成されるが、単に苛性消化で見られる高アルミニウム含量ではない。この新規な半合成の精製かつアプグレードした菱沸石は、吸着剤としてそれを活性化するのに必要な過酷な脱水に対して安定である。また、このプロセスを菱沸石原鉱の顆粒(一般的に不十分な機械的強度の顆粒である)について行うと、再結晶して菱沸石となるクリノプチロライトとエリオナイトが現存菱沸石プレートレットの縁に結合するようなので、該顆粒は機械的強度が大いに増す。
これらのより均一なアップグレードした半合成菱沸石は、それらが誘導される生の菱沸石原鉱に比べ、その表面上に金属ナノドット(例えば銀)の均一な分散系を形成するための改良された性向を示す。さらに、それらは水等の分子に対する改良された吸着剤特性を有し、かつ、より強い酸性部位(Hの形態で)を形成するようである。
菱沸石上に支持された新規な金属ナノドットは、金属元素のマクロ及びナノ特性を利用する多くの用途の可能性がある。銀ナノ粒子材料の一実施形態では、該材料を用いてプロセスストリームから、例えば石炭火力発電所の煙道ガスから元素水銀を捕獲することができる。銀ナノ粒子材料の別の実施形態では、該材料を新規な抗菌剤として使用できる。
【0011】
実施例
〔実施例1〕 菱沸石
GSA Resources of Tucson, Arizonaから得た、Bowie, Arizonaの周知鉱床由来の堆積菱沸石をゼオライト支持体として利用した[21]。アルカリ性ケイ酸塩混合物中で80℃にて1〜3日間、生の原鉱の長時間消化によってアルミニウム富化菱沸石を調製した。消化及び再結晶プロセス中に利用可能な過剰のアルカリ度の量によってアルミニウム富化の程度を管理した。
Rigaku Geigerflex Model 2173回折計ユニットを用いてX線回折分析によって菱沸石とアルミニウム富化類似体の相の同定を行った。Bowie鉱床由来のサンプルに典型的なように、XRD分析は、該材料が、主相である菱沸石と高度にゼオライト化していることを示した。該材料は、図1Aで分かるように、混入物として有意なクリノプチロライトとエリオナイトをも含有した。図1Aと1Bを比較して分かるように、苛性消化改良又はアルミニウム富化材料は、そのアップグレードプロセス中に全てのクリノプチロライトと相当部分のエリオナイトを失いながら、菱沸石様ピークの強度を増やすことが分かった。
【0012】
〔実施例2〕 銀ナノドットの形成
200メッシュ粉末としてゼオライトを過剰な硝酸銀水溶液に室温で1時間撹拌しながらさらすことによって銀イオン交換を達成した。交換された材料を脱イオン水で完全に洗浄し、100℃で乾燥させた。ゼオライト内の銀イオンを、支持された金属銀ナノ粒子に変換するため、イオン交換された菱沸石を150℃〜450℃の範囲の温度で1〜4時間空気中でアニールした。
Perkin Elmer Elan6000四極子ICP-MSを用いて銀交換材料の定量元素分析を行った。分光器トランスミッション固定(fixed analyser transmission)(FAT)モードで単色Al Kα(hν=1486.6eV)放射線を使用するKratos AXIS 165分光計を利用してXPSによって該材料表面の半定量元素分析を行った。サンプル分析チャンバー内の圧力は10-7Pa(10-9トル)未満だった。粉末サンプルをステンレススチールのサンプルホルダー上に両面接着テープを用いて取り付けた。サーベイ及び高分解能のナロー走査スペクトルを得るため、それぞれ160eV及び20eVのパスエネルギーを使用した。電子フラッド銃を用いて静荷電を補償した。ここで提示されるスペクトルの結合エネルギーは、284.5eVでのC 1sピークの位置を反映している。データ取得とピークフィッティングをCASA-XPSソフトウェアで行った。
成功したイオン交換をXPSで確認した。図2は、未処理(点線)及びイオン交換した(実線)菱沸石の強度(任意の単位で与えられる)対結合エネルギーXPSスペクトルを示す。2つのスペクトル間の強度シフトを加えて、そうしなければ重なるであろうピークを分けた。図2のスペクトルで示されるように、銀交換した菱沸石の表面上には銀が存在するが、未処理菱沸石の表面上には存在しない。
超微細プローブエネルギー分散性X線分光法(EDXS)分析を用いて本質的に純粋な銀としてナノ粒子の組成を確認した。XPSスペクトル中の3d5/2光電子の結合エネルギーは、銀が主に金属状態であることを確証する。銀のほかに、粒子は痕跡量のアルミニウムと鉄をも含有するが、我々はそれを量化できなかった。利用した技術のため、Na、C、Al及びSi等の他の混入物が小量で存在することも可能である。
銀のナトリウムとのイオン交換の程度を調べるため、図2に示されるように、アルミニウムとナトリウムのナロースペクトルをも得た。元の菱沸石とイオン交換した菱沸石は両方ともバンド位置とピーク強度の両方で同様のアルミニウムスペクトルを示した。XPSの検出限界内では、菱沸石上の銀によるナトリウムのイオン交換は完全であることが明白である。これは銀交換材料のスペクトル上のナトリウムバンドの非存在によって示される。
XPSとICP-MSは両方とも20〜21wt.%程度の銀装填を示した。また、ナトリウムは本質的に完全に欠如しており、このことは定量的交換によって予測されるだろう。菱沸石のプレートレットは非常に薄いので、バルク分析と表面分析がサンプルの同じ部分を見ることがあり、等価な分析が予想されるだろう。サンプル全体の20wt.%のわずかに過剰な銀含量は、この材料について予想される約2.5mequiv/gの交換能と一致する。
【0013】
〔実施例3〕 電子顕微鏡検査法
Calgary大学にある、EDX、EFTEM/EELS、環状暗視野検出器(Annular Dark field Detector)(ADF)、及び高い角度傾斜能を備えたPhilips Tecnai F20 Twin FEGで透過型電子顕微鏡検査法(TEM)を行った。走査透過(STEM)モードで顕微鏡を操作した。材料を乾式粉砕して銅グリッド上に分散させることによってサンプルを調製した。SPIPTM顕微鏡画像処理ソフトウェアを用いて定量的粒径分析を行った。
透過型電子顕微鏡(TEM)分析は、図3で分かるように、鉱物菱沸石サンプル上の銀ナノ粒子の分布を示す。図4に示される定量的粒径分析は、銀のナノ粒子の大多数は、直径約1〜5nm、平均2.6nmのオーダーであることを明らかにする。図5で分かるように、より高い倍率は菱沸石表面上に静止している球形ナノドットとして銀を示すようであるが、他の球状形態を排除できない。銀の分布は、一般的に均質であるが、時には金属の何らかの見掛けの大きいプールといった不規則な粒径と間隔を有するミクロ構造の領域がある。これは、鉱物基材の組成の不規則性のためだろう。
【0014】
〔実施例4〕 オージェ顕微鏡検査法
JEOL JAMP-9500F Field Emission Scanning Auger Microprobeでオージェ顕微鏡検査法を行った。この機器は電界放出電子銃と半球型エネルギー分析器を備えた。前記TEMについてのマイクロプローブ分析と同様に調製した粉末を使用した。
オージェ顕微鏡検査マッピングは、銀ナノドットの横分布を確証した。個々のクラスターを個別に画像処理することは顕微鏡の分解能限界未満だったが(理論的及び実用的分解能限界は、それぞれ10nm及び20nmだった)、我々は菱沸石表面上の均一な銀分布を実証できた。図6は、菱沸石表面上のAg分布の走査型オージェマイクロプローブ画像を示す。銀粒子はTEMで得た結果に対してマイクロプローブ画像でわずかに大きく見える。その分布も高密度に見える。この数密度の差異は、TEM画像が2つの面の最小を示すが(菱沸石は微細層化構造であり、各電子の透明サンプル中にはおそらく2つより多くの面が存在する)、オージェ画像は単純にトップ表面を示すという事実に帰するだろう。焦点外の粒子が大きく見え、十分に微細なクラスターは検出されないことから、より大きい見掛けの粒径は、部分的に下方空間とTEMに対する該マイクロプローブの分析分解能のためかもしれない。
オージェ顕微鏡検査の結果は、銀の有意なフラクションが表面上にナノドットの形態で明確にあることを示す。
【0015】
〔実施例5〕 水銀を捕獲するための使用
上述したように形成された菱沸石支持銀ナノ粒子を、高温でHg0(元素水銀)を捕獲する能力について試験した。多くの石炭火力発電所の煙道ガスストリームからの元素水銀の捕獲は、確立された方法によっては極端に困難である。現存する方法は、炉温度からの煙道ガスクールとして形成された酸化水銀種を捕獲するのに最もよく適合している[22]。現存する吸着剤の欠点として、未定義かつ不規則な捕獲機構、固体廃棄物ストリーム処分の懸念、及び高温の工業プロセスガスによって課される制限が挙げられる。これらの懸念は、現実的なプロセスガス温度(150℃まで)で元素水銀を途中で捕まえることができる吸着材で排除されるだろう。
UHPアルゴンキャリヤーガスを40ml/分で3mmのI.D.のホウケイ酸ガラスクロマトグラフィーカラムに通すことによって元素水銀(Hg0)のブレークスルー研究を行った。カラムは、石英ガラスウールでくるんで適所に保持され、かつ実験の持続時間試験温度で維持された試験吸着剤の2cmのベッドを含んだ。吸着剤カラムの上流に向かう注射器でHg0蒸気標準物質(50μL)を注入し、標準温度データを用いて定量した。吸着剤からのいずれの水銀ブレークスルーもアマルガムトラップまで下流に続いた。適切な間隔でトラップを熱的に脱着した。Cold Vapour Atomic Fluorescence Spectroscopy(Tekran)で元素水銀を検出した。Star Chromatography Workstation Ver. 5.5(Varian, Inc.)でデータ処理を行った。
我々は、典型的な石炭火力発電所の煙道ガスで見られる1〜10g/m3の範囲の濃度よりずっと高い濃度(4桁の大きさ)でパルス曝露として水銀を注入した[23]。図7は、ガラスビーズ上に沈着したバルク金属銀に対する銀ナノ粒子被覆菱沸石の種々の捕獲温度における元素水銀ブレークスルーを比較する。ナノ粒子被覆菱沸石の場合には、元素水銀のブレークスルーは、250℃の捕獲温度まで無視できる。250℃〜300℃で、元素水銀の部分的ブレークスルーがあった。300℃超えで、ブレークスルーが完全になる。400℃で、吸着した元素水銀の放出が5分以内で起こった。ガラスビーズ上のバルク銀は、元素水銀にとって有効な吸着剤でなかった(図7)。100℃以上のいずれの温度でも実質的なブレークスルーが着目され、煙道ガス適用におけるその用途の可能性を制限する。これは、経済的な調製し易い菱沸石支持銀ナノ粒子材料由来の「ナノ」強化特性の明白な実証であると思われる。
【0016】
〔実施例6〕 抗菌物質としての銀ナノドット
菱沸石プラットフォームは、医用ナノ銀を製造するための費用有効方法をも提供する。1000ppmまでの硝酸銀濃度にてアガープレート上で増殖した酵母菌は、真菌静止制御(すなわち真菌増殖を遅延)を示すが、該培地中に明白な阻害ゾーンを生じさせなかった。硝酸銀添加は急速に培地を黒くした。対照的に、菱沸石支持銀ナノドットは、殺真菌性であり、増殖を死滅及び阻止することが観察された。銀ナノ粒子のない菱沸石サンプルではこのような抗真菌特性は観察されなかった。図8中、菱沸石支持銀ナノドットを含有する中心ウェル周辺に明白な死滅ゾーンが見える。硝酸銀含有クラスターと異なり、阻害ゾーンは澄んだままであり、黒変しない。これは、ナノ粒子に由来する活性な銀種は、硝酸銀から発するイオン銀と異なることを示唆している。このような固定又は支持されたナノ銀粒子の潜在的に望ましい特徴には、固定位置にさらされた銀粒子の高度に均一な集団を濃縮することに基づく有効な局所化細菌制御が含まれる。このような局所化濃縮制御は、多くの他形態の銀では利用できない。
【0017】
(アップグレードした菱沸石)
アルカリ性媒体中の消化によって、菱沸石原鉱を「再結晶」させてアルミニウムリッチ類似体を形成しうる。一定条件下、最大アルミニウム類似体を調製できる[26、27]。苛性シリカ混合物中の長時間の消化によってアルミニウム含量を実質的にブーストすることができる。Si/Al比が約1.2のアルミニウム富化菱沸石を調製し、上記のとおり完全に銀交換した。アルミニウム富化菱沸石上の銀によるナトリウムのイオン交換は、銀交換された材料のXPSスペクトル上のナトリウムバンドの非存在が示されたとき、完了した。XPSとICP-MSは両方ともサンプル全体の40〜42wt.%の範囲の銀含量を示した。これは、このアルミニウム富化菱沸石類似体で予想される約6.5mequiv/gの交換能と一致する。
このアップグレードしたアルミニウム富化菱沸石類似体の空気中300℃での熱的還元が、鉱物菱沸石原鉱の表面上で見られるのと本質的に同一の銀ナノドットを有する材料を与えた。しかし、この銀ナノドットは、図9A及び9Bで分かるように、より均一かつずっと高い濃度のようである。生の銀支持原鉱の1000nm2当たり29個のナノ粒子に比し、アルミニウム富化材料では1000nm2当たり48個のナノ粒子という濃度が観察された。また、アップグレードした材料上では、不純な原鉱で見られるような、金属の大きいプールが無いようである。
定量的表面分析は、銀ナノ粒子は、生の菱沸石原鉱上よりアルミニウム富化材料上で(おそらく)わずかに大きいことを示した。図10A及び10Bに示される粒度分布で分かるように、生の菱沸石原鉱上の銀ナノ粒子平均粒径は、アルミニウム富化材料上の銀ナノ粒子のの2.83nmに比し、2.65nmだった。
【0018】
(参考文献)
上記角括弧中に下記参考文献を表しており、これらの参考文献の内容を、あたかもその全体を再現するかのにように、本明細書に引用したものとする。
【0019】
図中、同様の要素には同様の参照番号を割り当てる。図面は、必ずしも率に合わせて示さず、むしろ本発明の原理に重点を置く。さらに、描写した各実施形態は、本発明の基本概念を利用する多くの可能な配置の一つにすぎない。以下、図面を簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】生の菱沸石の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図1B】アップグレードした半合成菱沸石の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図2】未処理及び銀イオン交換した菱沸石におけるそれぞれ銀、アルミニウム及びナトリウムのXPSスペクトルを示す。
【図3】菱沸石支持体の表面上に存在する銀ナノドットの環状暗視野STEM顕微鏡写真を示す(全体的なAg分散を示す低倍率画像)。
【図4】図3に示される銀ナノドットの粒度分布を示す。
【図5】図3に示される個々のナノドットの大きさを表す高倍率画像を示す。
【図6】菱沸石表面上の銀の分布を写像する走査型オージェ顕微鏡写真を示す。
【図7】銀被覆ガラスビーズを利用する水銀のブレークスルーと比較した、銀ナノドット被覆菱沸石上の元素水銀のブレークスルーを示す。
【図8】ナノ銀ゼオライトを含有する中心ウェル周辺に強い阻害ゾーンを示す(a)、固体マルトデキストロースアガー上の酵母細胞を示し、殺真菌阻害ゾーン(c)と対照的に、コロニー縁に沿った細胞が普通の厚い構造化成長を示す(b)。
【図9A】生の菱沸石上の銀ナノドットの環状暗視野SETM顕微鏡写真を示す。
【図9B】アルミニウム富化菱沸石類似体上の銀ナノドットの環状暗視野SETM顕微鏡写真を示す。
【図10A】鉱物菱沸石(mineral chabazite)上の銀ナノドットの粒度分布を示す。
【図10B】アルミニウム富化菱沸石類似体上の銀ナノドットの粒度分布を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約100nm未満の大きさを有する金属ナノドットを製造する方法であって、以下の工程:
(a)前記金属のイオンの溶液と菱沸石材料でイオン交換を行う工程;及び
(b)前記イオン交換した菱沸石材料を活性化する工程
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
前記金属が銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属が銀を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記活性化工程を還元条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記活性化工程を酸化条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記活性化工程を約100℃より高く、かつ約50℃未満の温度で行う、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記活性化工程を約100℃〜400℃の温度で行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記菱沸石材料が菱沸石粉末を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
約100nm未満の粒径を有する表面アクセス可能な金属ナノドットを含んでなる、菱沸石支持金属ナノ粒子材料。
【請求項10】
前記ナノドットが約50nm未満の粒径を有する、請求項9記載の材料。
【請求項11】
前記ナノドットが約30nm未満の粒径を有する、請求項10記載の材料。
【請求項12】
前記ナノドットが約20nm未満の粒径を有する、請求項11記載の材料。
【請求項13】
前記ナノドットが約10nm未満の粒径を有する、請求項12記載の材料。
【請求項14】
前記金属が銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属を含む、請求項9記載の材料。
【請求項15】
前記金属が銀又はニッケルを含む、請求項14記載の材料。
【請求項16】
前記金属が銀を含む、請求項15記載の材料。
【請求項17】
前記菱沸石が、約3.5未満のSi/Al比を有する鉱物菱沸石を含む、請求項9記載の材料。
【請求項18】
前記菱沸石がアルミニウム富化菱沸石を含む、請求項9記載の材料。
【請求項19】
前記菱沸石が加工カオリン粘土由来である、請求項9記載の材料。
【請求項20】
前記菱沸石が、約2.0meq/gより高いカチオン交換能により特徴付けられる、請求項9記載の材料。
【請求項21】
前記菱沸石が、約5.0meq/gより高いカチオン交換能により特徴付けられる、請求項20記載の材料。
【請求項22】
前記菱沸石が菱沸石粉末を含む、請求項9記載の材料。
【請求項1】
約100nm未満の大きさを有する金属ナノドットを製造する方法であって、以下の工程:
(a)前記金属のイオンの溶液と菱沸石材料でイオン交換を行う工程;及び
(b)前記イオン交換した菱沸石材料を活性化する工程
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
前記金属が銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属が銀を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記活性化工程を還元条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記活性化工程を酸化条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記活性化工程を約100℃より高く、かつ約50℃未満の温度で行う、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記活性化工程を約100℃〜400℃の温度で行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記菱沸石材料が菱沸石粉末を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
約100nm未満の粒径を有する表面アクセス可能な金属ナノドットを含んでなる、菱沸石支持金属ナノ粒子材料。
【請求項10】
前記ナノドットが約50nm未満の粒径を有する、請求項9記載の材料。
【請求項11】
前記ナノドットが約30nm未満の粒径を有する、請求項10記載の材料。
【請求項12】
前記ナノドットが約20nm未満の粒径を有する、請求項11記載の材料。
【請求項13】
前記ナノドットが約10nm未満の粒径を有する、請求項12記載の材料。
【請求項14】
前記金属が銀、銅、ニッケル、金又は白金群の金属を含む、請求項9記載の材料。
【請求項15】
前記金属が銀又はニッケルを含む、請求項14記載の材料。
【請求項16】
前記金属が銀を含む、請求項15記載の材料。
【請求項17】
前記菱沸石が、約3.5未満のSi/Al比を有する鉱物菱沸石を含む、請求項9記載の材料。
【請求項18】
前記菱沸石がアルミニウム富化菱沸石を含む、請求項9記載の材料。
【請求項19】
前記菱沸石が加工カオリン粘土由来である、請求項9記載の材料。
【請求項20】
前記菱沸石が、約2.0meq/gより高いカチオン交換能により特徴付けられる、請求項9記載の材料。
【請求項21】
前記菱沸石が、約5.0meq/gより高いカチオン交換能により特徴付けられる、請求項20記載の材料。
【請求項22】
前記菱沸石が菱沸石粉末を含む、請求項9記載の材料。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【公表番号】特表2009−543752(P2009−543752A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519759(P2009−519759)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001246
【国際公開番号】WO2008/006220
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509014803)ザ ガヴァナーズ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ アルバータ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001246
【国際公開番号】WO2008/006220
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509014803)ザ ガヴァナーズ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ アルバータ (1)
【Fターム(参考)】
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