説明

蒸気タービンの最終段のためのブレード配列

蒸気タービンの最終段のための回転するブレード配列は、カバープレート(18)を一体化したブレード(10)を有する。各ブレード(10)のカバープレート(18)は、それぞれ被圧側(14)に軸方向(A)の突起部(20)を有し、その突起部は、蒸気タービンの動作流体の滴がそれぞれフロー方向に関して後方のブレード(10)のカバープレート凹み面(19)に到達するのを防止している。それによって、カバープレート凹み面(19)は、滴の衝撃腐食による摩食損傷から防護される。突起部(20)の位置とサイズは、カバープレートの吸気側と被圧側との間の質量バランス及び被圧側の突起部とカバープレートの吸気側との間の応力バランスが保証されるように規定される。更に、突起部(20)は、軸方向に最大に延びる部分(Emax )と前端(16)との間に窪み(21)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンの最終段のための回転するブレード配列、特に、最終段のブレードのカバープレートに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、正確には低圧蒸気タービンは、その最後の段に最終段ブレードのブレード配列を有し、それらのブレードは、タービンの動作中、それ以外の段のブレードと比べて、長さと質量が大きいために、それに応じて大きな遠心力と振動に曝される。そのような振動を緩和するために、典型的には、そのようなブレード配列の最終段ブレードは、それぞれカバープレートを有し、そのカバープレートは、円周方向に隣接するブレードに対する側面に配備されており、ブレードが、それぞれ隣接するブレードのカバープレートと係合い合うように構成されている。更に、カバープレートの形態とサイズは、遠心力が出来る限り制限され、負荷が出来る限り一様に分散されるように規定されている。特に、最終段ブレードのカバープレートは、タービン内のそれ以外の段のカバープレートと比べて、張り出しが小さくなるように構成されている。
【0003】
多くの場合、最終段ブレードは、振動を一層緩和するために、ブレードの高さの中間に、しばしばスナッバーとも呼ばれるダンパーを更に有する。
【0004】
最終段ブレードでは、飽和蒸気のために、滴の衝撃によって起こる摩食損傷がしばしば発生する。そのような損傷を軽減又は防止するための様々な手法が、例えば、特許文献1及び2により知られている。特許文献1は、摩食損傷を受け易いブレード前端の領域に、半径方向に対して内側に向かってブレードの基底部の方向に延びる窪みとカバープレートの側面に沿って湾曲した面とを有するカバープレートを一体化した最終段ブレードを開示している。そのような手法によって、問題となるゾーンが解消されるとともに、湿気が集まる可能性が低減されている。
【0005】
また、特許文献2は、特に最終段のための回転するブレードを開示しており、その先端入口には、ブレードの先端からブレードの基底部の方向に向かって延びる硬いゾーンから成るエロージョンシールドが配備されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許公開第1609951号明細書
【特許文献2】特開2005−133543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特に、ブレードの吸気側のカバープレート凹み面、即ち、カバープレートの吸気側と前端の方向を向いたブレードシートの吸気側との間の遷移ゾーン内における、摩食損傷に対する弱さを軽減した、蒸気タービンの最終段のための回転するブレード配列を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、請求項1による回転するブレードによって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0009】
蒸気タービンの最終段のための回転するブレード配列は、それぞれカバープレートを一体化したブレードを有し、ブレード配列内で隣り合うブレードのブレードシートの上に張り出したカバープレートは、それぞれ後端と前端の領域を互いに係合させている。本発明では、配列内の各ブレードのカバープレートは、それぞれ被圧側に突起部を有し、その突起部は、蒸気タービンの動作流体の滴が、フロー方向に関して後方のブレードの吸気側のカバープレート凹み面、即ち、カバープレートの吸気側と前端の方向を向いたブレードシートの吸気側との間の遷移ゾーンに到達するのを防止している。この突起部は、各ブレードの吸気側のカバープレート凹み面を水滴及びその水滴の衝撃腐食による損傷から防護している。
【0010】
本発明によるカバープレートの突起部は、水滴の少なくとも一部、特に、大きな水滴が突起部によって方向を変えられて、動作流体のフローと共に運ばれて、フロー方向に、或いは角度範囲に関してタービンの動作流体のフロー方向だけ動かされる程度にまで蒸気タービンの回転軸に対して平行な方向に延びている。本発明による突起部が無い場合、水滴は、フロー方向に関して後方のブレードのカバープレート凹み面に到達してしまう。
【0011】
このフロー方向に関して後方のブレードの吸気側のカバープレート凹み面を防護するための突起部は、特に、カバープレートの吸気側と被圧側との間のカバープレートの質量バランスが保証されるように、各ブレードの前端の領域に配置される。更に、この突起部は、被圧側の突起部と吸気側のカバープレートとの間の応力バランスが実現されるように構成される。質量バランス及び応力バランスのために、この突起部は、ブレードの後端から離して、前端の近くに配置されるので、この突起部は、前端に近い程大きくして、それに応じて軸方向、即ち、蒸気タービンの回転軸に対して平行に突き出ることによって、フロー方向に関して後方のブレードの吸気側のカバープレート凹み面の防護を保証するようにしなければならない。
【0012】
湿気の問題を防止するために、この突起部は、そのブレードの基底部に向かって延びる半径方向のサイズが相応に大きく構成される、即ち、カバープレートは、この突起部の領域において、カバープレートのそれ以外の領域と比べて、より大きな半径方向のサイズを有する。
【0013】
蒸気タービンのための最終段のブレードは、典型的には、その前端を硬化されている。ブレードの前端の硬化プロセスを可能にするため、この突起部は、その軸方向に最も大きく延びる部分とブレードの前端との間に窪みを有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蒸気タービンの最終段の従来技術による典型的な回転するブレード配列の一部の斜視図
【図2a】従来技術による最終段ブレード配列のカバープレートの平面図
【図2b】本発明による最終段ブレード配列のカバープレートの平面図
【図3】蒸気タービンの最終段ブレード配列の本発明によるカバープレートの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、蒸気タービンのための従来技術で周知の典型的な回転する最終段ブレード1を図示しており、それらは、蒸気タービンの図示されていないローター上にブレード配列の形で配置されている。ブレード基底部2、ブレードシート3、その被圧側4、その吸気側5、前端6、後端7及びブレードシート3と一体化されたカバープレート8がそれぞれ図示されている。配列の形で隣り合うブレード1のカバープレート8は、それらの前端6と後端7の領域を互いに係合し合うように構成されており、その結果動作中の振動が出来る限り緩和される。カバープレートの質量とそれに応じた遠心力を出来る限り小さくするために、これらのカバープレートは、典型的には、全質量を制限し、ブレード先端のブレードシートの輪郭のサイズを超える張り出しを出来る限り小さくした幅の狭い形で実現されている。
【0016】
図2aは、周知のカバープレート8の輪郭の平面図を前端6、後端7、被圧側4及び吸気側5により図示しており、カバープレートは、前端に近い吸気側と後端に近い被圧側にブレードシートの輪郭を超えて張り出す部分6’と6''を有する。更に、それらの部分は、前端6の領域におけるブレードの吸気側5にカバープレート凹み面9を有する。このカバープレート凹み面9は、前端6に近いブレードシートの吸気側からカバープレートの部分6’への遷移ゾーン内に有り、その部分は、吸気側を超えて張り出す形で延びており、隣接するカバープレートの被圧側の張り出した部分6''と接触している。蒸気タービンの動作流体のフローによって一緒に持ち去れた水滴は、カバープレート凹み面9に衝突して、そこの陰影で示した領域Eに摩食損傷を与える可能性が有る。この場合、大きい水滴よりも小さい水滴の方が蒸気のフローによって一緒に運ばれ易い。小さい水滴は、例えば、フロー方向に近い経路W0 に沿って移動する一方、その質量のために小さい水滴よりもフローと一緒に持ち去られ難い大きい水滴は、経路W1 に沿って移動する。
【0017】
図2bは、又もや図2aと同様の平面図で、それぞれ本発明によるカバープレート18をブレードシートと一体化した、蒸気タービンの最終段のためのブレード配列のブレード10を図示している。又もや前端16、後端17、被圧側14、吸気側15及びブレードシートの前端の近くで吸気側に張り出した部分とブレードシートの後端の近くで被圧側に張り出した部分とを形成するカバープレートの部分16’と16''が図示されている。カバープレート凹み面19は、カバープレートの吸気側の張り出した部分16’と前端16の方向を向いたブレードシートの吸気側との間の遷移ゾーン内に有る。カバープレート18は、その被圧側14の前端16の領域に突起部20を有し、その突起部は、フロー方向に関して後方に有るブレードのカバープレートの吸気側15のカバープレート凹み面19を水滴から防護する役割を果たす。ブレードのカバープレート18の前端16の領域に、少なくとも前端16の側の前方の半分の部分内に突起部20を配置することは、後端領域の更なる張り出しとそれと関連したカバープレートの湿気問題の可能性を防止することとなる。軸方向A、即ち、回転方向Cに対して垂直で、かつタービンの回転軸に対して平行な方向に関する突起部20のサイズは、少なくとも動作流体のフローと一緒に運ばれる最も大きい滴の方向が変えられるように構成される。そのような方向の変化によって、滴は、タービンの筐体の方向に向かって流れ、そこで吸引システムを経由して、タービンのフローチャネルから排出される。従って、ブレード配列の各カバープレート18の前端16とカバープレート凹み面19は、フロー方向に関して後方のブレードのカバープレートの突起部20によって、滴の衝撃による摩食から防護されることとなる。突起部20の軸方向Aに最大に延びる部分は、回転方向Cとブレードの前端16から突起部20の軸方向に最大に延びる部分Emax にまで延びる線との間の角度αを出来る限り小さくするとの判断基準に応じて決定される。
【0018】
更に、この突起部は、二つの側面によって特徴付けられ、その中の一方の突起部の前端16の方向を向いた前方側面は、窪み21を有する。即ち、この窪みは、ブレードの前端16と突起部20の軸方向に最大に延びる部分Emax との間に有る。それは、カバープレートの質量の低減と特に前端16に沿ったブレードシート材料の硬化を目的とする前端へのアクセスを保証している。突起部20の後端の方向を向いた後方側面22は、カバープレートの被圧側の輪郭線に対して緩やかな角度で延びる、即ち、一方では回転方向Cに関して急激に低下せず、他方では突起部の質量を制限するのに十分な大きさで低下するように構成される。
【0019】
図2bは、突起部20によって実現される防護作用も図示している。この突起部と特にその軸方向の延びは、少なくとも最も大きな水滴の方向を変化させて、ブレード配列におけるフロー方向に関して後方のブレードのカバープレートのカバープレート凹み面に当たらないように作用する。線W0 は、小さい水滴のフロー経路を示す一方、線W1 は、大きい水滴のフロー経路を示す。前者の小さい滴は、突起部によって、そのフロー経路から逸れないで、依然として後方のブレードのカバープレート凹み面に当たる。しかし、質量が小さいために、その領域には限定された摩食損傷しか発生しない。それに対して、大きい水滴の大部分は、突起部20によって、方向を変更される。大きい水滴は、後方のブレードの前端16にだけ当たる。しかし、その端部が硬化されているために、そこには損傷は発生しない。
【0020】
図3は、図2bの本発明によるカバープレート18をそれぞれ備えた、蒸気タービンの最終段のためのブレード配列のブレード10を図示している。この図は、更に、カバープレート18の半径方向のサイズを図示している。特に、カバープレートの張り出しは、ブレードの後端17の領域において、半径方向の厚さrt1 を有する一方、突起部20の領域におけるカバープレートの半径方向の厚さは、後端の領域のrt1 よりも大きなrt2 で示されている。そのような構成は、フロー方向に関して後方のブレードのカバープレート凹み面を大きい水滴から十分に防護することを保証するために必要である。突起部20は、強度の理由から、後端の領域には配置されておらず、その理由は、そのようにすると、そこに既に形成された張り出しが、ブレードシート13の被圧側を超えて大き過ぎる程突き出てしまい、カバープレートの強度に関するリスクが大きくなり過ぎるからである。その代わり、突起部が前端の領域に配置されているので、その半径方向のサイズと軸方向のサイズは、それに応じて十分に大きく実現されており、その結果それにも関わらず所望の防護が達成される。
【符号の説明】
【0021】
1 ブレード配列の最終段ブレード
2 ブレード基底部
3 ブレードシート
4 被圧側
5 吸気側
6 前端
6’ カバープレートの吸気側部分
6'' カバープレートの被圧側部分
7 後端
8 カバープレート
9 吸気側のカバープレート凹み面
10 ブレード
13 ブレードシート
14 被圧側
15 吸気側
16 前端
16’ カバープレートの吸気側部分
16'' カバープレートの被圧側部分
17 後端
18 カバープレート
19 吸気側のカバープレート凹み面
20 突起部
21 窪み
22 後方側面
α 円周方向と前端から突起部の最高点までの線との間の角度
A タービン回転軸に対して平行な軸方向
B 前端の最大に延びる部分と突起部の最大に延びる部分とを通る線
C 円周方向、回転方向
max 突起部の軸方向に最大に延びる部分
W 水滴の経路
0 大きい水滴のフロー経路
1 小さい水滴のフロー経路
rt1 後端の張り出し部分におけるカバープレートの半径方向のサイズ
rt2 突起部におけるカバープレートの半径方向のサイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレード(10)の各々にカバープレート(18)が一体化された、蒸気タービンの最終段のための回転するブレード配列において、
その配列内の各ブレード(10)のカバープレート(18)が、それぞれ被圧側(14)に、フロー方向に関して後方のブレードの吸気側のカバープレート凹み面(19)を少なくとも一部の水滴に対して防護するための突起部(20)を有することを特徴とする回転するブレード配列。
【請求項2】
突起部(20)が、カバープレート(18)の被圧側から蒸気タービンの回転軸に対して平行な軸方向(A)に突き出ていることを特徴とする請求項1に記載の回転するブレード配列。
【請求項3】
突起部(20)は、カバープレート(18)の吸気側と被圧側との間のカバープレートの質量バランスが保証されるように、カバープレート(18)から突き出す形でブレードの後端(17)に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の回転するブレード配列。
【請求項4】
突起部(20)は、カバープレート(18)の前端(16)の側の半分の部分内に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の回転するブレード配列。
【請求項5】
ブレード(10)の前端(16)と突起部(20)の蒸気タービンの回転軸に対して平行な軸方向(A)に最大に延びる部分(Emax )との間に、窪み(21)が有ることを特徴とする請求項2に記載の回転するブレード配列。
【請求項6】
突起部(20)の半径方向のサイズ(rt2 )が、ブレード(10)の後端(17)の領域におけるカバープレート(18)の半径方向のサイズ(rt1 )よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の回転するブレード配列。



【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−504203(P2012−504203A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528282(P2011−528282)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061602
【国際公開番号】WO2010/034614
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】