説明

蒸気乾燥方法および蒸気乾燥装置

【課題】適切なタイミングで溶剤の交換を行い、乾燥不良の発生を抑制することができる蒸気乾燥方法を提供する。
【解決手段】溶剤を沸騰させて発生させた蒸気を用いて被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥方法は、前記溶剤の沸点を測定する沸点測定工程と、前記沸点が、前記溶剤と水との極小共沸点以上、前記溶剤本来の沸点未満の所定の温度となったときに、前記溶剤の少なくとも一部を廃棄し、新しい溶剤を補給する溶剤交換工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気乾燥方法、より詳しくは、溶剤を用いて被洗浄物を乾燥する蒸気乾燥方法および同方法を実行する蒸気乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄後の被洗浄物を溶剤の蒸気が飽和した空間内に搬入し、被洗浄物の表面の水分を溶剤と置換することにより当該被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−167563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような蒸気乾燥装置では、被洗浄物や被洗浄物を運搬する搬送治具等により水等の不純物が蒸気乾燥を行う蒸気槽内に持ち込まれ、徐々に溶剤中に混入する。溶剤中の不純物量が増加して一定の割合以上になると、水分が十分置換されなくなり、乾燥不良により被洗浄物の表面に乾燥じみ等の不具合(乾燥不良)が発生する。
特に、被洗浄物を載せた搬送治具を順次蒸気槽内に搬入する連続乾燥を行う場合、溶剤中における不純物の増加速度はより速くなる。しかしながら、頻繁に溶剤の交換を行うと、乾燥作業の効率低下や、溶剤の使用量増加に伴うコスト増の問題が発生するため、効率低下やコスト増等を防ぎつつ乾燥不良を防止できるように溶剤の交換、補充を行うことは容易ではない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、適切なタイミングで溶剤の交換を行い、乾燥不良の発生を抑制することができる蒸気乾燥方法および蒸気乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、溶剤を沸騰させて発生させた蒸気を用いて被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥方法であって、前記溶剤の沸点を測定する沸点測定工程と、前記沸点が、前記溶剤と水との極小共沸点以上、前記溶剤本来の沸点未満の所定の温度となったときに、前記溶剤の少なくとも一部を廃棄し、新しい溶剤を補給する溶剤交換工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の蒸気乾燥方法では、雰囲気の気圧を測定する気圧測定工程をさらに備え、前記溶剤交換工程において、前記溶剤本来の沸点が、前記雰囲気の気圧に基づき修正されてもよい。
また、前記溶剤交換工程において、新しい溶剤が加熱されて補給されてもよい。
【0008】
本発明の第二の態様は、蒸気槽内において溶剤を沸騰させ、前記溶剤の蒸気を用いて被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥装置であって、前記溶剤の沸点を測定する温度測定部と、前記蒸気槽内の前記溶剤を排出する溶剤排出部と、前記蒸気槽内に新しい溶剤を補給する溶剤供給部と、前記溶剤排出部および前記溶剤供給部の動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記温度測定部で測定された前記溶剤の沸点が、前記溶剤と水との極小共沸点以上、前記溶剤本来の沸点未満の所定の温度となったときに、前記溶剤排出部を動作させて前記蒸気槽内の溶剤の少なくとも一部を排出させ、前記溶剤供給部を動作させて前記蒸気槽内に新しい溶剤を補給することを特徴とする。
【0009】
本発明の蒸気乾燥装置は、前記蒸気槽周囲の雰囲気圧を測定する気圧測定部をさらに備え、前記制御部の制御において、前記溶剤本来の沸点が、前記気圧測定部により測定された前記雰囲気圧の値に基づいて設定されてもよい。
また、前記溶剤供給部は、新しい溶剤を加熱してから前記蒸気槽内に補給してもよい。
【0010】
さらに、前記溶剤供給部が、新しい溶剤を貯留する貯留槽と、前記貯留槽と前記蒸気槽とを連通する配管と、前記配管に設けられた加熱機構とを有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蒸気乾燥方法および蒸気乾燥装置によれば、適切なタイミングで溶剤の交換を行い、乾燥不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態の蒸気乾燥装置の構成を示す模式図である。
【図2】同蒸気乾燥装置における制御部と各部とのつながりを示すブロック図である。
【図3】同蒸気乾燥装置の動作のうち、溶剤交換の要否判定および実行に関する部分を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態の蒸気乾燥装置の構成を示す模式図である。
【図5】同蒸気乾燥装置の動作のうち、溶剤交換の要否判定および実行に関する部分を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第3実施形態の蒸気乾燥装置の構成を示す模式図である。
【図7】本発明の変形例の蒸気乾燥装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1実施形態の蒸気乾燥装置について、図1から図3を参照して説明する。図1は、本実施形態の蒸気乾燥装置1の構成を示す模式図である。
蒸気乾燥装置1は、本発明の蒸気乾燥方法を実行する装置であり、被洗浄物100が投入される蒸気槽10と、蒸気槽10に溶剤を供給する溶剤供給部30と、蒸気槽10内の溶剤を排出するための溶剤排出部40と、蒸気乾燥装置1の動作を制御する制御部50とを備えている。
【0014】
蒸気槽10は、上部が開放されており、底部に溶剤110が供給される。蒸気槽10の底部には、供給された溶剤110を加熱するための加熱部11が取り付けられている。加熱部11としては、各種ヒータ等の公知の機構を用いることができる。供給された溶剤の液面の高さは、蒸気槽10の底部内面に取り付けられた上液面センサ12および下液面センサ13によって所定の範囲内に制御される。さらに、蒸気槽10の底部内面には、蒸気槽10内の溶剤110の温度を測定する第1温度計(温度測定部)14が取り付けられている。第1温度計14は、上液面センサ12よりも低い位置に設置されるのが好ましい。
【0015】
蒸気槽10の内面において、上液面センサ12よりも上部に近い所定の位置には、溶剤110の蒸気を冷却する冷却部15が設けられている。これにより、蒸気乾燥装置1の運転時に蒸気槽10の内部において、溶剤110の液面と冷却部15との間に、蒸気乾燥を行う蒸気空間A1が形成される。
【0016】
溶剤供給部30は、蒸気槽10に供給される溶剤が貯留される貯留槽31と、貯留槽31と蒸気槽10とを接続する配管32と、配管32に設けられたポンプ33および開閉弁34と、貯留槽31内の溶剤110Aを加熱する加熱機構35と、貯留槽31内の溶剤110Aの温度を測定する第2温度計36を備えている。
なお、溶剤供給部30内の溶剤110Aは、成分は溶剤110と同一であるが、不純物が混入していない、常に新しい溶剤であるため、蒸気槽10内の溶剤110と区別するために溶剤110Aと表記する。
【0017】
溶剤排出部40は、蒸気槽10に接続された配管41と、配管41に設けられたポンプ42および開閉弁43とを備えている。
【0018】
図2は、制御部50と上記各構成とのつながりを示す図である。制御部50は、蒸気槽10の加熱部11、上液面センサ12および下液面センサ13、第1温度計14、溶剤供給部30のポンプ33、開閉弁34、加熱機構35、第2温度計36、さらに、溶剤排出部40のポンプ42および開閉弁43と接続されている。制御部50は、第1温度計14、上液面センサ12、下液面センサ13、および第2温度計36の測定値に基づいて、上記各構成の動作を制御する。
【0019】
上記のように構成された蒸気乾燥装置1の使用時の動作および本発明の蒸気乾燥方法について説明する。
蒸気槽10内の溶剤110が加熱部11によって沸騰されると、溶剤110の蒸気(以下、「溶剤蒸気」と称する。)が蒸気空間A1に充満して飽和する。溶剤蒸気のうち、冷却部15の高さまで達したものは、冷却部15によって再び液体となり、図示しない回収経路を通って蒸気槽10の底部に戻される。
【0020】
蒸気空間A1が溶剤蒸気で飽和したところで、搬送治具101に整列された被洗浄物100が、エレベータ102等の搬送手段により蒸気槽10内に搬送され、蒸気空間A1内に保持される。被洗浄物100は、例えば光学素子であり、純水や水溶性溶剤で洗浄されたものでも、洗浄液等で洗浄された後に純水や水溶性溶剤でリンスされたものでもいずれでも構わない。
【0021】
被洗浄物100が蒸気空間A1内に保持されることにより、被洗浄物100表面の水分が溶剤110に置換されて除去され、被洗浄物100の蒸気乾燥が行われる。蒸気乾燥終了後、エレベータ102により搬送治具101および被洗浄物100が蒸気槽10の外部に搬出されて次工程に送られるとともに、次の搬送治具および被洗浄物が、エレベータ102により蒸気槽10内に搬送される。このようにして、被洗浄物100の蒸気乾燥が連続的に行われる。
【0022】
被洗浄物100および搬送治具101が順次蒸気槽10内に搬送されることにより、水を主とした不純物が蒸気槽10内に持ち込まれ、溶剤110に混ざりつつ徐々に増加していく。水の沸点は、溶剤110として用いられる一般的な溶剤よりも高いが、共沸により水も沸騰して溶剤蒸気とともに蒸気空間A1に移動する。不純物の量が所定の値以上となると、被洗浄物100表面の水分が溶剤110によって充分置換されなくなる結果、被洗浄物100の表面に乾燥じみが生じる等の乾燥不良が発生する。
【0023】
これを防ぐために、本実施形態の蒸気乾燥装置1では、制御部50が適切なタイミングで諸機構を動作させて蒸気槽10内の溶剤110の交換、補充を行う。以下、溶剤がイソプロピルアルコール(IPA)である場合を例にとり、制御部50および制御部50に接続された各機構の動作について詳細に説明する。
【0024】
図3は、蒸気乾燥装置1の動作のうち、溶剤110の交換の要否判定および実行に関する部分を示すフローチャートである。
蒸気乾燥装置1による連続乾燥中、ステップS1において、蒸気槽10に取り付けられた第1温度計14は、溶剤110の温度を測定する。連続乾燥中、溶剤110は、加熱部11により沸騰させられているため、第1温度計14は、溶剤110の沸点を測定していることになる(沸点測定工程)。
【0025】
IPA本来の沸点は82.4℃であるが、第1温度計14で測定される溶剤110の沸点は、溶剤110に水を主とする不純物が混入するに連れて徐々に低下していき、溶剤110におけるIPAの濃度が87.6%になったときに最も低い80.1℃となる(極小共沸点)。IPAの濃度がさらに低下すると、溶剤110の沸点は上昇に転じ、極小共沸点より高くなる。
【0026】
ステップS2では、第1温度計14の測定値がIPA本来の沸点未満でIPAと水との極小共沸点以上の所定の温度(例えば80.5℃)であるか否かを制御部50が判定する。当該判定がNoの場合、処理はステップS1に戻り、次回の測定タイミングで再度第1温度計14による測定が行われる。当該判定がYesの場合、処理はステップS3に進む。ステップS3において、制御部50は、溶剤排出部40の開閉弁43を開き、ポンプ42を作動させて蒸気槽10内の溶剤110の一部を廃棄する。溶剤110の液面の高さが下がり、下液面センサ13で検出されると、ポンプ42が停止され、開閉弁43が閉じられてステップS3が終了する。
続くステップS4において、制御部50は溶剤供給部30の開閉弁34を開き、ポンプ33を作動させて、貯留槽31から配管32を通じて蒸気槽10内に溶剤110A(新しいIPA)を供給する。貯留槽31内の溶剤110Aは、第2温度計36の温度を監視しつつ加熱機構35で加熱することにより、沸点近くの温度まで加熱しておくことが好ましい。溶剤110の液面の高さが上昇し、上液面センサ12で検出されると、ポンプ33が停止され、開閉弁34が閉じられてステップS4が終了する。
このように、ステップS3およびS4により蒸気槽10内の溶剤110の交換が行われる(溶剤交換工程)。溶剤110の一部が廃棄され、溶剤110Aが供給されることにより、蒸気槽10内の溶剤110における不純物の比率が低下し、乾燥不良の発生が好適に抑制される。
【0027】
本実施形態の蒸気乾燥装置1および本発明の蒸気乾燥方法によれば、蒸気槽10内の溶剤110に水を主とした不純物が混入し、沸点が溶剤本来の沸点から水に対する極小共沸点まで低下する前に、沸点測定工程において第1温度計14の測定した溶剤110の沸点に基づき、制御部50が溶剤排出部40から溶剤110の一部を廃棄させ、溶剤供給部30から新しい溶剤110Aを蒸気槽10内に供給する。
このようにして溶剤交換工程が実行されることにより、溶剤110における不純物の比率が常に一定の範囲内に抑えられ、不純物の増加による乾燥不良の発生が好適に抑制される。その結果、連続運転時においても、乾燥不良の発生を好適に防いで効率よく被洗浄物の蒸気乾燥を行うことができる。
【0028】
また、溶剤供給部30において、貯留槽31内の溶剤110Aが加熱機構35により沸点近くの温度まで加熱されてから蒸気槽10内に供給されるため、溶剤110Aが供給されたときに溶剤110の温度が過度に低下することが抑制され、連続運転の効率を損なうことがない。
【0029】
本実施形態において、制御部50が溶剤交換工程を実行するタイミングを規定する第1温度計14の測定値の閾値は、溶剤110における不純物の含有率と対象となる被洗浄物の乾燥不良の発生度合いとの関係を検討した上で、使用される溶剤の水との極小共沸点以上であって、当該溶剤本来の沸点未満の範囲で適宜設定されてよい。また、蒸気槽10内の溶剤110の量や溶剤交換工程における溶剤110の廃棄量についても適宜設定されてよい。
【0030】
本発明においては、溶剤と水との極小共沸点を利用して溶剤交換のタイミングを好適化するため、使用する溶剤は、水に対して極小共沸点を有する化合物であればよい。したがって、本発明の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法においては、上述のIPAに限らず、例えば他のアルコール類やハイドロフルオロエーテル類等が溶剤として使用されてもよい。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態について、図4および図5を参照して説明する。本実施形態の蒸気乾燥装置61と上述の第1実施形態の蒸気乾燥装置1との異なるところは、気圧測定部をさらに備える点である。なお、以降の説明において、既出の各実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
図4は、蒸気乾燥装置61の構成を示す模式図である。蒸気槽10の内壁には、気圧計(気圧測定部)62が取り付けられている。気圧計62は、制御部50と接続されており、気圧計62の測定値は制御部50に送られる。図4では、気圧計62は蒸気槽10に取り付けられているが、気圧計62は、蒸気乾燥装置61が設置された場所の雰囲気の気圧(雰囲気圧)を測定できればその設置箇所に制限はなく、蒸気槽10の外面に取り付けられてもよいし、蒸気槽10と離間して設置されてもよい。
【0033】
上記のように構成された蒸気乾燥装置61の使用時の動作について説明する。図5は、蒸気乾燥装置61における溶剤110の交換の要否判定および実行に関する部分を示すフローチャートである。
蒸気乾燥装置61では、ステップS1の前に、ステップS11において、気圧計62が蒸気槽10周囲の雰囲気圧を測定する(気圧測定工程)。使用される溶剤本来の沸点や、水との極小共沸点の値は、蒸気乾燥装置61が設置された場所の標高や天候による雰囲気圧の変化の影響を受けて変化するため、続くステップS12では、気圧計62の測定値に基づき、ステップS2の判定に用いる溶剤本来の沸点、水との極小共沸点、および所定の温度を制御部50が修正する。修正は所定の演算により行ってもよいし、雰囲気圧と溶剤本来の沸点および水との極小共沸点との対応関係をテーブル等の形で保存しておき、これを参照させることにより行ってもよい。
【0034】
ステップS2における判定がNoの場合、処理はステップS11に戻り、次回の測定タイミングで再度雰囲気圧の測定および溶剤本来の沸点等の修正が行われる。その他の内容は図3で説明したのと同様である。
【0035】
本実施形態の蒸気乾燥装置61によれば、雰囲気圧を測定する気圧計62を備えているため、雰囲気圧の変化に伴う溶剤本来の沸点や水との極小共沸点等の値の変化を適切に反映させて判定を行い、溶剤の交換タイミングを適切に修正することができる。したがって、蒸気乾燥装置61周囲の環境が変化しても、乾燥不良の発生を抑制して好適に連続運転を行うことができる。
【0036】
本実施形態においては、ステップS2の判定がNoの場合、処理がステップS11に戻る例を説明したが、雰囲気圧はそれほど急激に変化しないため、ステップS11およびS12の処理は、蒸気乾燥装置61の起動時にのみ行い、その後のステップS2の判定がNoの場合は、第1実施形態同様、処理がステップS1に戻るようにされてもよい。
【0037】
次に、本発明の第3実施形態について、図6を参照して説明する。本実施形態の蒸気乾燥装置71と第1実施形態の蒸気乾燥装置1との異なるところは、溶剤供給部の構造および下液面センサを備えない点である。
【0038】
図6は、蒸気乾燥装置71の構成を示す模式図である。図6に示すように、蒸気乾燥装置71の溶剤供給部30Aは、加熱機構35が、貯留槽31でなく配管32に取り付けられている点で蒸気乾燥装置1の溶剤供給部30と異なっている。また、第2温度計36は、配管32と蒸気槽10との連通部位付近に設置されている。
蒸気槽10には、下液面センサ13は取り付けられていないが、溶剤排出部40の配管41には、図示しない流量センサ等が取り付けられており、溶剤排出部40から排出された溶剤の量が検知可能になっている。
【0039】
上記のように構成された蒸気乾燥装置71では、ステップS3において溶剤排出部40から溶剤が排出される際に、上述した流量センサ等の値に基づいて、所定量(例えば、上液面センサ12の高さまで溶剤110が存在した場合の2/3の量)の溶剤が排出される。所定量の溶剤が蒸気槽10から廃棄されたところで、制御部50は、開閉弁43を閉じる。
【0040】
続くステップS4において、制御部50は、溶剤供給部30Aの開閉弁34を開き、ポンプ33を作動させる。貯留槽31から流れ出した溶剤110Aは、配管32を通る間に加熱機構35により沸点付近の所定の温度(例えば蒸気槽10の液温度)まで加熱され、蒸気槽10に供給される。溶剤110Aが所定の温度に加熱されているかどうかは、第2温度計36の値により確認される。供給される溶剤110Aの温度が低くなりすぎないように、第2温度計36の値が所定の温度より一定値以上低い等の場合に、ポンプ33の動作を調節して流量を低下させるように制御部50を構成してもよい。蒸気槽10内の溶剤110が上液面センサ12の高さに達したところで開閉弁34が閉じられてポンプ33の動作が停止され、ステップS4が終了する。
【0041】
本実施形態の蒸気乾燥装置71では、蒸気槽10が下液面センサ13を備えず、溶剤排出部40から一定量の溶剤110を排出することにより溶剤110の一部を廃棄するため、溶剤110の一部廃棄が終了してから溶剤110Aを供給する必要がない。したがって、溶剤交換工程を実行する際に、溶剤の一部廃棄と新しい溶剤の供給とを同時に行うことができ、溶剤交換工程の所要時間を短縮することができる。
なお、溶剤の一部廃棄と新しい溶剤の供給とを同時に行う場合は、供給された新しい溶剤がそのまま溶剤排出部から排出されることを抑制するため、配管32が蒸気槽10に連通する位置を、配管41が蒸気槽10に連通する位置よりも高く設定するなどして、両者の連通位置に段差を設けることが好ましい。
【0042】
また、溶剤供給部30Aにおいて、加熱機構35が配管32に取り付けられているので、溶剤110Aの供給時に蒸気槽10と連通して開放される空間において溶剤110Aが加熱される。したがって、加熱による溶剤110Aの膨張等を考慮する必要がなく、より安全に溶剤110Aの加熱を行うことができる。
【0043】
本実施形態の蒸気乾燥装置71では、溶剤供給部の配管で充分に新しい溶剤の加熱が行えるよう、配管をらせん状に形成したり、蛇行させたりして加熱に必要な距離を稼ぎつつ、配管をコンパクトに形成してもよい。
また、溶剤排出部40のみが流量センサ等により溶剤の流量を検知可能とされた例を説明したが、溶剤供給部30Aも同様の方法により流量検知可能に構成されてもよい。両方が流量検知可能であれば、溶剤の一部廃棄と新しい溶剤の供給とを同時に行うことができる上、新しい溶剤供給時における上液面センサ12に基づいた制御が必要なくなる。
【0044】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、上述の各実施形態においては、溶剤の沸点を測定する第1温度計が蒸気槽の1箇所に設置された例を説明したが、これに代えて、第1温度計を蒸気槽に複数設置(例えば溶剤110の内部と蒸気空間A1内)し、その平均値等を用いて溶剤交換工程の制御を行ってもよい。
【0046】
また、第1温度計が、蒸気槽と接続されて蒸気槽内の溶剤の一部が貯留されるサンプル槽に設置され、当該サンプル槽の溶剤の沸点を測定するように蒸気乾燥装置が構成されてもよい。このようにすると、被洗浄物の入れ替えに伴う搬送治具101やエレベータ102等の出入りによって第1温度計の測定値が変化することを好適に抑制することができる。
【0047】
さらに、溶剤排出部の配管は、図7に示す変形例のように、蒸気槽10の底面に開口するように接続されてもよい。このようにすると、底部に沈殿したゴミ等を、溶剤110の一部廃棄とともに、効率よく蒸気槽10の外に排出することができる。
【0048】
また、本発明の蒸気乾燥方法は、本発明の蒸気乾燥装置によってのみ行われるものではない。すなわち、従来の蒸気乾燥装置を使用した蒸気乾燥において、作業者が上述の沸点測定工程、溶剤交換工程、および気圧測定工程を行うことにより本発明の蒸気乾燥方法を実施することも可能である。
【0049】
また、上述の各実施形態および変形例に示した構成は適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1、61、71 蒸気乾燥装置
10 蒸気槽
14 第1温度計(温度測定部)
30、30A 溶剤供給部
31 貯留槽
32 配管
35 加熱機構
40 溶剤排出部
50 制御部
62 気圧計(気圧測定部)
100 被洗浄物
110 溶剤
110A 溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤を沸騰させて発生させた蒸気を用いて被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥方法であって、
前記溶剤の沸点を測定する沸点測定工程と、
前記沸点が、前記溶剤と水との極小共沸点以上、前記溶剤本来の沸点未満の所定の温度となったときに、前記溶剤の少なくとも一部を廃棄し、新しい溶剤を補給する溶剤交換工程と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気乾燥方法において、
雰囲気の気圧を測定する気圧測定工程をさらに備え、
前記溶剤交換工程では、前記溶剤本来の沸点が、前記雰囲気の気圧に基づき修正されることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸気乾燥方法において、
前記溶剤交換工程では、新しい溶剤は加熱されて補給されることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項4】
蒸気槽内において溶剤を沸騰させ、前記溶剤の蒸気を用いて被洗浄物の乾燥を行う蒸気乾燥装置であって、
前記溶剤の沸点を測定する温度測定部と、
前記蒸気槽内の前記溶剤を排出する溶剤排出部と、
前記蒸気槽内に新しい溶剤を補給する溶剤供給部と、
前記溶剤排出部および前記溶剤供給部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記温度測定部で測定された前記溶剤の沸点が、前記溶剤と水との極小共沸点以上、前記溶剤本来の沸点未満の所定の温度となったときに、前記溶剤排出部を動作させて前記蒸気槽内の溶剤の少なくとも一部を排出させ、前記溶剤供給部を動作させて前記蒸気槽内に新しい溶剤を補給することを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸気乾燥装置において、
前記蒸気槽周囲の雰囲気圧を測定する気圧測定部をさらに備え、
前記制御部の制御において、前記溶剤本来の沸点が、前記気圧測定部により測定された前記雰囲気圧の値に基づいて設定されることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の蒸気乾燥装置において、
前記溶剤供給部は、新しい溶剤を加熱してから前記蒸気槽内に補給することを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸気乾燥装置において、
前記溶剤供給部は、
新しい溶剤を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽と前記蒸気槽とを連通する配管と、
前記配管に設けられた加熱機構と、を有することを特徴とする蒸気乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67975(P2012−67975A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213817(P2010−213817)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】