説明

蒸気供給システム

【課題】 エネルギー効率の高い蒸気供給システムを提供する。
【解決手段】 蒸気供給システム10は、燃焼部を有するボイラ20と、ヒートポンプ30とを備えてなり、被加熱媒体に対する比較的低温域の加熱にヒートポンプ30を用い、比較的高温域の加熱にボイラ20を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラを備えた蒸気供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気供給システムとしては、ボイラの燃焼部で燃料を燃焼させて水などの被加熱媒体を加熱する構成が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−249450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ボイラのエネルギー効率は一般に約0.8(80%)である。環境問題に対する意識の高まりとともに、蒸気供給システムに関して、より一層のエネルギー効率の向上が望まれている。
【0004】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたものであり、エネルギー効率の高い蒸気供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、蒸気供給システムであって、燃焼部を有するボイラと、ヒートポンプとを備えてなり、被加熱媒体に対する比較的低温域の加熱に前記ヒートポンプを用い、比較的高温域の加熱に前記ボイラを用いることを特徴とする。
【0006】
この場合、前記被加熱媒体の初期温度に基づいて、前記ヒートポンプの加熱温度域を変化させるのが好ましい。
【0007】
例えば、所定の基準温度に対して前記被加熱媒体の初期温度が高い場合には前記ヒートポンプの加熱温度を高くし、前記被加熱媒体の初期温度が低い場合には前記ヒートポンプの加熱温度を低くするのが好ましい。
【0008】
上記の蒸気供給システムにおいて、前記ヒートポンプで使用されるエネルギーを蓄えるエネルギー蓄積部をさらに備える構成とすることができる。
【0009】
また、前記エネルギー蓄積部は、夜間電力を利用して前記エネルギーを蓄えることが好ましい。
【0010】
この場合、前記エネルギー蓄積部は、蓄電装置を含む構成とすることができる。
【0011】
また、上記の蒸気供給システムにおいて、前記ヒートポンプ回路で加熱された前記被加熱媒体を蓄える蓄熱槽をさらに備える構成とすることができる。
【0012】
また、上記の蒸気供給システムにおいて、前記ボイラへの供給ガスと前記ボイラからの排出ガスとを熱交換させる熱交換器をさらに備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蒸気供給システムによれば、ボイラとヒートポンプとの併用により、エネルギー効率の向上を図ることができる。さらに、被加熱媒体の初期温度に基づいて、ヒートポンプの加熱温度域を変化させることにより、エネルギー利用のさらなる効率化が図られる。
さらに、この蒸気供給システムにおいて、ヒートポンプで使用されるエネルギーを蓄えるエネルギー蓄積部をさらに備えることにより、夜間電力の利用が可能となり、運転コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の蒸気供給システムについて図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の蒸気供給システムを概念的に示す図である。
図1において、蒸気供給システム10は、燃焼部を有するボイラ20と、ヒートポンプ30と、被加熱媒体(本例では水)の供給経路40とを備えて構成されている。
【0016】
ボイラ20は、油やガスなどの燃料を燃焼させてその燃焼熱によって水を加熱・蒸発させるものであり、燃料供給部21、燃焼部22、及び熱伝達部23等を有している。水の供給経路40は熱伝達部23に接続されており、熱伝達部23において水への加熱が行われる。ボイラ20としては公知の様々な形態が適用可能である。また、被加熱媒体としては、水に限らず、水とアンモニアの混合物など他の媒体でもよい。
【0017】
ヒートポンプ30は、蒸発、圧縮、凝縮、及び膨張の各工程からなるサイクルにより、低温の物体から熱を汲み上げ、高温の物体に熱を与える装置であり、エネルギー利用効率が比較的高く、また、CO等の化学物質の排出量が比較的少ないという利点を有する。
【0018】
具体的に、ヒートポンプ30は、蒸発器31、圧縮機32、凝縮器(熱交換器33)、及び膨張弁34等を含む熱媒体回路を有する。膨張弁34及び蒸発器31は、減圧・膨張機能及び吸熱機能を有し、熱媒体が蒸発する際、その蒸発熱に相当する熱をサイクル外の熱源(大気)から吸収する。また、圧縮機32及び凝縮器(熱交換器33)は圧縮機能及び放熱機能を有し、熱媒体が凝縮する際、その凝縮熱に相当する熱をサイクル外の熱源(被加熱媒体:水)に与える。ヒートポンプ30の熱媒体としては、フロン系媒体、アンモニア、水などの公知の様々な熱媒体が適用される。
【0019】
この蒸気供給システム10では、被加熱媒体である水の流れ方向に関して、上流側にヒートポンプ30が配設され、下流側にボイラ20が配設される。すなわち、加熱部としてのヒートポンプ30の熱交換器33が、水の供給源とボイラ20との間に配される。被加熱媒体である水は、ヒートポンプ30の冷媒との熱交換により温度上昇する。その後、その水はボイラ20に投入され、熱伝達部23において燃焼部22の熱を受けてさらに温度上昇して蒸発する。蒸気供給システム10からの蒸気は、外部の所定設備、例えば製造設備、調理設備、空調設備、発電設備などに供給される。
【0020】
このように、この蒸気供給システム10では、被加熱媒体(水)に対する加熱温度領域のうち、比較的低温域の加熱にヒートポンプ30を用い、比較的高温域の加熱にボイラ20を用いる。例えば、20℃〜90℃までの加熱にヒートポンプ30を用い、90℃〜161℃の加熱にボイラ20を用いる。
【0021】
ボイラのエネルギー効率は一般に約0.8(約80%)であるのに対して、ヒートポンプのエネルギー効率としての成績係数(COP:coefficient of performance)は一般に2.5〜5.0である。したがって、この蒸気供給システム10によれば、被加熱媒体に対する加熱温度領域の一部について、エネルギー利用効率の高いヒートポンプ30を用いることにより、エネルギー効率の向上が図られる。
【0022】
ここで、試算例を示す。水の加熱温度領域を20℃〜161℃(0.8MPaの飽和蒸気)とし、この温度領域のすべての加熱にボイラを用いた場合、所要一次エネルギーは約335×10J/kgである。これに対して、20℃〜90℃までの加熱にヒートポンプを用い、90℃〜161℃の加熱にボイラを用いる場合、所要一次エネルギーは約314×10J/kgとなる。すなわち、ヒートポンプとボイラとの併用により、約6.2%の一次投入エネルギーが低減される。なお、上記試算では、ボイラ効率を80%、ヒートポンプのCOPを5、発電効率(送電端、送電ロス含む)を38%、とした。また、ボイラの一次投入エネルギーは燃料熱量から求め、ヒートポンプの一次投入エネルギーは電力を燃料換算して求めた。
【0023】
図2は、ヒートポンプによる加熱温度領域と、節約される一次投入エネルギーとの関係を示すグラフ図である。
図2のグラフでは、初期水温T(℃)を横軸とし、温度領域のすべての加熱にボイラを用いるのに比べて節約されるエネルギー(%)を縦軸とした。また、水の初期水温T(ヒートポンプへの投入温度)が0℃、10℃、30℃、40℃、ヒートポンプによる上昇時の水温T(ボイラへの投入温度)が70℃、80℃、90℃、100℃、の各条件について試算結果をプロットした。試算では、初期水温Tと上昇水温Tとからカルノー効率を求め、これから算出される理論COPに所定の換算係数(0.7)を乗じたものを、ヒートポンプのCOPとして用いた。また、ボイラ効率を80%、発電効率(送電端、送電ロス含む)を38%とした。
【0024】
図2から明らかなように、初期水温Tが0℃、ヒートポンプによる上昇水温Tが100℃のとき、節約されるエネルギーの割合が最も小さく(約3.0%)、初期水温Tが40℃、ヒートポンプによる上昇水温Tが100℃のとき、節約されるエネルギーの割合が最も大きい(約5.3%)。また、初期水温Tが比較的低い(0℃、10℃)場合、ヒートポンプによる上昇水温Tが比較的低いほうが節約されるエネルギーの割合が大きく、また、初期水温Tが比較的高い(30℃、40℃)場合、ヒートポンプによる上昇水温Tが比較的高いほうが節約されるエネルギーの割合が大きい。
【0025】
すなわち、ボイラとヒートポンプとを併用した蒸気供給システムでは、被加熱媒体(水)の初期温度に基づいて、ヒートポンプの加熱温度域を変化させることにより、エネルギー利用のさらなる効率化が図られる。具体的には、ある基準温度(例えば約20℃)に対して被加熱媒体の初期温度が高い場合にはヒートポンプの加熱温度(上昇時の水温)を高くし、被加熱媒体の初期温度が低い場合にはヒートポンプの加熱温度(上昇時の水温)を低くする。例えば、ヒートポンプによる水に対する加熱温度域の基準を20℃〜90℃と定めるとき、初期水温が20℃未満(例えば0℃)の場合には、ヒートポンプの加熱温度を低くする(例えば70℃)。逆に、初期水温が20℃を越える(例えば40℃)場合には、ヒートポンプの加熱温度を高くする(例えば100℃)。
こうしたヒートポンプ30の加熱温度域の制御は、例えば、ヒートポンプ30の運転パターンを変化させることにより行うことができる。
【0026】
図3は、図1の蒸気供給システム10の部分構成の概念図であり、ヒートポンプ30の運転パターンを制御する制御系50の構成例を示している。
図3に示すように、制御系50は、水の供給経路40に配設される温度センサ52,53と、温度センサ52,53の計測結果に基づいてヒートポンプ30の運転パターンを制御する制御器55とを含んで構成される。
【0027】
温度センサ52は、熱交換器33の上流位置に配設され、水の初期温度(初期水温T)を計測し、温度センサ53は、熱交換器33の下流位置に配設され、ヒートポンプ30の加熱温度(上昇水温T)を計測する。温度センサ52の計測結果(T)及び温度センサ53の計測結果(T)は制御器55に供給される。制御器55は、温度センサ52,53の各計測結果に基づいて、システム10全体が最適効率となるように、ヒートポンプ30の運転パターンを制御する。運転パターンの制御は、例えば、圧縮機32の吐出圧の制御により行われる。例えば、制御器55は、ある基準の初期温度(例えば20℃)に対して初期水温(T)が高い場合にはヒートポンプ30の加熱温度(上昇水温T)を基準値(例えば90℃)よりも高くし、初期水温(T)が低い場合にはヒートポンプ30の加熱温度(上昇水温T)を基準値(例えば90℃)よりも低くする。
【0028】
このような構成により、蒸気供給システム10では、被加熱媒体(水)の初期温度に基づいて、エネルギー効率をさらに向上させることが可能となる。
【0029】
図4は、本発明の蒸気供給システムをプラント設備に適用した実施の形態例を示す構成図である。なお、この図4において、図1と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0030】
図4に示すように、蒸気供給システム10は、燃焼部を有するボイラ20と、ヒートポンプ30と、被加熱媒体(水)の供給経路40とを備える。そして、被加熱媒体の加熱に対してボイラ20とヒートポンプ30とを併用することにより、エネルギー利用の効率化が図られている。
さらに、この蒸気供給システム10は、エネルギー蓄積部60と、熱交換器70とを備えている。
【0031】
エネルギー蓄積部60は、ヒートポンプ30で使用されるエネルギーを蓄えるものであり、蓄電装置を含んで構成される。蓄電装置としては、揚水発電システム、フライホイール、NAS電池 (ナトリウム・硫黄電池)やレドックスフロー電池等の蓄電池、などの電力貯蔵に適した公知の様々な種類のものが適用される。蓄電装置に蓄えられた電力は、ヒートポンプ30の動力エネルギー(圧縮機の動力源など)の少なくとも一部に使用される。また、エネルギー蓄積部60では、夜間電力を利用してエネルギー(電力及び/又は熱)を蓄える。比較的安価な夜間電力を利用することにより、ヒートポンプ30の運転コストの低減が図られる。
【0032】
熱交換器70は、ボイラ20への供給ガスとボイラ20からの排出ガスとを熱交換させるものである。すなわち、ボイラ20では、圧縮機71で圧縮された空気が燃焼部に送り込まれるとともに、燃焼時に発生したガスが排気塔72をを介して外部に排出される。熱交換器70は、排出ガス(例えば160℃)の熱を空気(例えば20℃)に与えてその空気を温度上昇させる(例えば80℃)。その結果、燃焼部に供給される空気が予熱され、この空気予熱によりボイラ20の燃焼効率の向上が図られる。
【0033】
図5は、図4の変形例を示す構成図である。なお、この図5において、図1及び図4と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0034】
図5に示すように、蒸気供給システム10は、ヒートポンプ30で加熱された被加熱媒体を蓄える蓄熱槽80を備えており、必要に応じて、蓄熱槽80に蓄えられた被加熱媒体をボイラ20に投入して蒸気を発生させる。この蒸気供給システム10では、蓄熱槽80を備えることにより、ヒートポンプ30による比較的低温域の加熱のタイミングと、ボイラ20による比較的高温域の加熱のタイミングとをずらすことができる。
【0035】
例えば、比較的安価な夜間電力を利用して、蒸発する手前の温度までヒートポンプ30で被加熱媒体(例えば水)を加熱し、その被加熱媒体を、比容積が蒸気に比べて小さい高温液体(例えばお湯)の状態で蓄熱槽80に蓄えておく。そして、必要に応じて、蓄熱槽80内の被加熱媒体をボイラ20に投入して蒸気を発生させる。この場合、比較的安価な夜間電力を利用することにより、ヒートポンプ30の運転コストの低減が図られる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の蒸気供給システムを概念的に示す図である。
【図2】ヒートポンプによる加熱温度領域と、節約される一次投入エネルギーとの関係を示すグラフ図である。
【図3】図1の蒸気供給システムの部分構成の概念図であり、ヒートポンプの運転システムを制御する制御系の構成例を示している。
【図4】本発明の蒸気供給システムをプラント設備に適用した実施の形態例を示す構成図である。
【図5】図4の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10…蒸気供給システム、20…ボイラ、21…燃料供給部、22…燃焼部、23…熱伝達部、30…ヒートポンプ、31…蒸発器、32…圧縮機、33…熱交換器(凝縮器)、34…膨張弁、36…熱交換器、40…供給経路、50…制御系、70…熱交換器、52,53…温度センサ、55…制御器、60…エネルギー蓄積部、80…蓄熱槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気供給システムであって、
燃焼部を有するボイラと、ヒートポンプとを備えてなり、
被加熱媒体に対する比較的低温域の加熱に前記ヒートポンプを用い、比較的高温域の加熱に前記ボイラを用いることを特徴とする蒸気供給システム。
【請求項2】
前記被加熱媒体の初期温度に基づいて、前記ヒートポンプの加熱温度域を変化させることを特徴とする請求項1に記載の蒸気供給システム。
【請求項3】
所定の基準温度に対して前記被加熱媒体の初期温度が高い場合には前記ヒートポンプの加熱温度を高くし、前記被加熱媒体の初期温度が低い場合には前記ヒートポンプの加熱温度を低くすることを特徴とする請求項2に記載の蒸気供給システム。
【請求項4】
前記ヒートポンプで使用されるエネルギーを蓄えるエネルギー蓄積部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の蒸気供給システム。
【請求項5】
前記エネルギー蓄積部は、夜間電力を利用して前記エネルギーを蓄えることを特徴とする請求項4に記載の蒸気供給システム。
【請求項6】
前記エネルギー蓄積部は、蓄電装置を含むことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の蒸気供給システム。
【請求項7】
前記ヒートポンプ回路で加熱された前記被加熱媒体を蓄える蓄熱槽をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の蒸気供給システム。
【請求項8】
前記ボイラへの供給ガスと前記ボイラからの排出ガスとを熱交換させる熱交換器をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の蒸気供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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