説明

蒸気管の熱損失評価システム及び評価方法

【課題】蒸気管の熱損失を好ましく評価することが可能な評価システムを提供する。
【解決手段】熱損失評価システム(1)は、蒸気が流れる蒸気管(10)に設定される複数の区間(SC1、SC2、SC3、・・・SCn)と、蒸気管内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定する第1測定装置(PS1、PS2、PS3、・・・PSn)と、各々がドレントラップ(DT1、DT2、DT3、・・・DTn)を有しかつ複数の区間の終点からそれぞれドレンを排出可能な複数のドレンユニット(DU1、DU2、DU3、・・・DUn)と、ドレン量に関する値及びドレン温度を、複数のドレンユニットでそれぞれ測定する第2測定装置と、第1測定装置の測定結果と第2測定装置の測定結果とを用いて、蒸気管の放熱損失を評価する計算装置(50)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気管の熱損失評価システム及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過熱蒸気が流れる蒸気管において、少なくとも2位置における温度及び圧力、及び流量を計測した結果に基づいてエンタルピを算出可能であり、したがって、熱損失の評価が比較的容易である。
【0003】
飽和蒸気が流れる蒸気管において、熱損失が生じると湿り蒸気が生じることから、熱損失の評価が比較的困難である。従来より、サーモグラフィ等の特殊な装置を用いて配管表面温度を決定し、それに基づいて熱損失を解析・評価する方法が知られている。あるいは、蒸気の使用端で蒸気流量を測定し、その結果に基づいて熱損失を解析・評価する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーモグラフィなどの特殊な装置を用いた方法では、配管表面温度の計測精度が十分でない、蒸気管又は保温材の熱伝導率の評価が比較的困難である、及び装置が高価である、などの課題を有する。
【0005】
使用端の蒸気流量を測定する方法では、オリフィス等の差圧式流速計などを用いた特定の流量計を使用端に設置する必要がある、湿り分(ドレン)がドレントラップからすべて取り除かれるとは限らないために湿り度の評価が不十分となる可能性がある、などの課題を有する。
【0006】
本発明は、蒸気管の熱損失を好ましく評価することが可能な評価システム及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に従えば、蒸気管の熱損失を評価するシステムであって、蒸気が流れる蒸気管に設定される複数の区間と、前記蒸気管内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定する第1測定装置と、前記複数の区間の終点からそれぞれドレンを排出可能な複数のドレンユニットであり、各々がドレントラップを有する前記複数のドレンユニットと、ドレン量に関する値及びドレン温度を、前記複数のドレンユニットでそれぞれ測定する第2測定装置と、前記第1測定装置の測定結果と前記第2測定装置の測定結果とを用いて、前記蒸気管の放熱損失を評価する計算装置と、を備える熱損失評価システムが提供される。
【0008】
この評価システムによれば、ドレントラップを有するドレンユニットでの測定結果を用いて蒸気管の放熱損失を評価できる。したがって、比較的容易な熱損失評価が実現される。
【0009】
本発明の別の態様に従えば、蒸気管の熱損失を評価する方法であって、蒸気が流れる蒸気管内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定する第1測定工程と、各々の終点にドレントラップが設けられた前記蒸気管に設定される複数の区間について、前記ドレントラップを介したドレン量に関する値及びドレン温度を測定する第2測定工程と、前記第1測定工程の測定結果と前記第2測定工程の測定結果とを用いて、前記蒸気管の放熱損失を評価する計算工程と、を含む熱損失評価方法が提供される。
【0010】
この評価方法によれば、ドレントラップを介したドレン量に関する値及びドレン温度を測定した結果を用いて蒸気管の熱損失を評価できる。したがって、比較的容易な熱損失評価が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、熱損失評価システム1を示す概略図である。図1において、蒸気管10は、蒸気生成装置20(ボイラなど)と負荷設備30との間に配設される。蒸気生成装置20からの蒸気が蒸気管10を流れ、負荷設備30に送られる。負荷設備30において、蒸気又は蒸気の熱が利用される。蒸気管10は、不図示の保熱手段によって保熱されている。公知の様々な保熱手段が適用可能である。保熱手段は、例えば、蒸気管10の外面を覆う保温材を有する。
【0013】
また、蒸気管10には、複数のドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnが配設されている。蒸気管10内で凝縮して生じたドレンの少なくとも一部がドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnに捕捉される。公知の様々なドレントラップが適用可能である。通常、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnは、捕捉したドレンを適宜排出可能な構造を有する。
【0014】
図1に示すように、熱損失評価システム1は、蒸気管10に連続的に設定される区間SC1、SC2、SC3、・・・SCnと、蒸気管10内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定するセンサ(第1測定装置)PS1、PS2、PS3、・・・PSnと、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnをそれぞれ有するドレンユニットDU1、DU2、DU3、・・・DUnと、計算装置50を含む制御ユニット40とを備える。本実施形態において、センサPS1、PS2、PS3、・・・PSnは蒸気管10内の圧力を測定する。センサPS1、PS2、PS3、・・・PSnとして、公知の様々な圧力センサが適用可能である。センサPS1、PS2、PS3、・・・PSnからの測定結果は、制御ユニット40に送られる。
【0015】
ドレンユニットDU1、DU2、DU3、・・・DUnは、蒸気管10内で生じたドレンを、区間SC1、SC2、SC3、・・・SCnの終点からそれぞれドレンを排出可能である。図2に示すように、トラップ前に存在する蒸気管10内のドレンの一部がドレントラップDTnに捕捉される。トラップ後において、ドレンの他の一部が蒸気管10内に残る。ここで、ドレントラップDTnに捕捉されるドレンの割合を捕捉率と称する。
【0016】
図3は、ドレンユニットDUnを示す概略図である。図3に示すように、ドレンユニットDUnは、ドレントラップDTnに加え、ドレンライン60、仮設ホース62、受水槽64、温度センサ(第2測定装置)70、及び重量計(第2測定装置)80を有する。ドレンライン60は、蒸気管10の分岐ラインであり、蒸気管10からのドレンが流れる配管を有することができる。ドレンライン60上にドレントラップDTnが配設される。
【0017】
仮設ホース62は、ドレントラップDTnからのドレンを受水槽64に導くためのものであり、ドレントラップDTn(又はドレントラップDTnの出口端に配設された配管機器)に接続される。仮設ホース62は、ドレントラップDTnに対して着脱自在に配設され得る。ドレントラップDTnからのドレンが受水槽64に直接的に好ましく導かれる場合には、仮設ホース62を省くことが可能である。
【0018】
受水槽64は、ドレントラップDTnからのドレンを貯溜する。受水槽64は、必要に応じてドレン温度の低下を抑制する構造及び/又はドレンの蒸発を抑制する構造を有することができる。温度センサ70は、受水槽64内に貯溜されたドレンの温度を測定することができる。温度センサ70として、公知の様々な温度センサが適用可能である。温度センサ70からの測定結果は、制御ユニット40に送られる。
【0019】
ドレンユニットDUnの少なくとも一部は、区間SC1、SC2、SC3、・・・SCnの間で共有することができる。例えば、ある区間の測定で使用した後に、仮設ホース62、受水槽64、温度センサ70、及び重量計80の少なくとも1つを別の区間の測定に使用することができる。
【0020】
図1に戻り、ドレンユニットDUnを用いたドレン流量及びドレン温度の測定は、区間SC1、SC2、SC3、・・・SCnの1ずつ順に実施できる。あるいは、その測定は、区間SC1、SC2、SC3、・・・SCnの2以上で同時に実施できる。測定区間の選択及び/又は切替は、制御ユニット40を用いて、自動又は手動で実行できる。
【0021】
図4は、制御ユニット40を示す模式図である。図4において、計算装置50は、例えばコンピュータシステムである。制御ユニット40は、計算装置50に加え、入力装置127、及び表示装置(出力装置)128を有する。計算装置50は、A/D変換器等の変換器123、CPU(演算処理手段)124、及びメモリ125等を有する。熱損失評価システム1のセンサ(センサPS1、PS2、PS3、・・・PSn、温度センサ70、及び重量計80など)などから送られる測定データが、必要に応じて変換器123等で変換され、CPU124に取り込まれる。また、初期設定値、及び仮データなどが入力装置127などを介して計算装置50に取り込まれる。表示装置128は、入力されたデータに関する情報、及び計算に関する情報などを表示することができる。
【0022】
CPU124は、測定データ、及びメモリ125に記憶された情報に基づき、蒸気管の熱損失に関する計算を実行することができる。例えば、センサPS1、PS2、PS3、・・・PSn、温度センサ70、及び重量計80の測定結果を用いて、蒸気管10の放熱損失を解析することができる。ここで、蒸気管10の熱損失に関する解析手法の一例を以下に示す。
【0023】
図1に示す、蒸気生成装置20(例えばボイラ)、蒸気管10、及び負荷設備30の系において、蒸気生成装置20からの蒸気が飽和蒸気である場合には式(1)及び式(2)が成り立つ。
【0024】
【数1】

【数2】

【0025】
また、蒸気管10の単位面積あたりの放熱損失と単位長さあたりの放熱損失との関係から式(3)が成り立つ。
【0026】
【数3】

【0027】
これらより、第1のドレントラップDT1(適宜、トラップ1と略称する)の手前位置(第1の区間SC1の実質的終点)での蒸気流量、並びに、ドレントラップDT1の手前位置(区間SC1の実質的終点)でのドレン流量は、以下の式(4)及び式(5)の連立方程式から解くことができる。
【0028】
【数4】

【数5】

【0029】
ドレンの捕捉率を用いた式(6)からドレン流量の計算値(計算ドレン量)が算出される。
【0030】
【数6】

【0031】
ドレンユニットDU1において、ドレントラップDT1からのドレンの排出総量、及びドレン温度が得られる。一般に、ドレントラップでは、式(7)及び式(8)の連立方程式から、ドレン流量の測定値(測定ドレン量)が得られることが知られている。
【0032】
【数7】

【数8】

【0033】
式(7)及び式(8)から式(9)及び式(10)を導き出すことができる。
【0034】
【数9】

【数10】

【0035】
このように、式(6)から、第1のドレントラップDT1におけるドレン流量の計算値(計算ドレン量)、式(10)から、第1のドレントラップDT1におけるドレン流量の測定値(測定ドレン量)を算出することができる。
【0036】
次に、第1のドレントラップDT1の後の位置(第2の区間SC2の実質的始点)での蒸気流量、並びに、ドレントラップDT1の後の位置(区間SC2の実質的始点)でのドレン流量は、以下の式(11)及び式(12)を用いて表すことができる。
【0037】
【数11】

【数12】

【0038】
式(11)及び式(12)を用いることにより、式(4)からの計算手順と同様に、第2のドレントラップDT2におけるドレン流量の計算値(計算ドレン量)と、そのドレントラップDT2におけるドレン流量の測定値(測定ドレン量)を算出することができる。
【0039】
ここで、式(6)の計算値は、単位面積あたりの蒸気管10の放熱損失を仮定した仮定放熱損失と、ドレントラップDT1に捕捉されるドレンの割合を仮定した仮定捕捉率とを用いることにより、得ることができる。仮定放熱損失及び仮定捕捉率のペアの最適値において、計算ドレン量の値と測定ドレン量の値との間の差が最も小さいと考えることができる。したがって、計算ドレン量と測定ドレン量との間の差が小さくなるような、仮定放熱損失及び仮定捕捉率のペアを探索することにより、蒸気管10の第1の区間SC1における放熱損失を見積もることができる。
【0040】
第2のドレントラップDT2に関しても、式(11)及び式(12)を用いて、計算ドレン量と測定ドレン量との間の差が小さくなるような、仮定放熱損失及び仮定捕捉率のペアを探索することにより、蒸気管10の第2の区間SC2における放熱損失を見積もることができる。
【0041】
このように、各ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnにおいて、仮定放熱損失及び仮定捕捉率の最適ペアを探索することができる。さらに、ドレン流量の計算値(計算ドレン量)と測定値(測定ドレン量)との間の差が全体で最も小さくなるような、仮定放熱損失及び仮定捕捉率のペアを探索することができる。
【0042】
本例において、仮定放熱損失及び仮定捕捉率は、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnの間で共通である。したがって、計算ドレン量と測定ドレン量との間の差が全体で最も小さくなるような、仮定放熱損失及び仮定捕捉率のペアを探索することにより、蒸気管10の放熱損失を見積もることができる。
【0043】
図5は、熱損失評価に関する処理手順を示すフロー図である。
【0044】
図5において、まず、蒸気管10を含む系に関する初期値(各区間の長さなど)、及び放熱損失及び捕捉率に関する仮定値が計算装置50に入力される(ステップ101及び102)。最初に入力される仮定値は、経験的に得られた目安データでもよく、ランダムデータでもよい。例えば、目安として、単位面積あたりの仮定放熱損失が12−13W/m2/K、ドレントラップの仮定捕捉率が70%を用いることができる。
【0045】
蒸気管10の所定区間SCnにおいて、センサPSnが蒸気管10内の圧力(又は温度)を測定する。また、ドレンユニットDUnにおいて、温度センサ70及び重量計80がドレントラップDTnからのドレンの排出総量、及びドレン温度を測定する。計算装置50は、入力された初期値、仮定値、及び測定データなどを用いて、ドレントラップDTnにおけるドレン流量の計算値(計算ドレン量)を算出することができる(ステップ103)。
【0046】
また、計算装置50は、入力された初期値、及び測定データなどを用いて、ドレントラップDTnにおけるドレン流量の測定値(測定ドレン量)を算出することができる(ステップ104)。
【0047】
測定ドレン量のデータ、及び複数の計算ドレン量のデータから、計算装置50は、最適状態評価を行うことができる(ステップ105)。例えば、シフトした仮定値の入力により、別のドレン流量の計算値(計算ドレン量)の値を算出することができる。複数の仮定値に基づいて、ドレントラップDTnに関して、複数の計算ドレン量が算出される。計算装置50は、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnに関して、計算ドレン量と測定ドレン量とを比較するとともに、それらの差が全体で最も小さくなるような、仮定放熱損失及び仮定捕捉率の最適ペアを探索する。このような最適状態評価により、蒸気管10の放熱損失を見積もることができる。
【0048】
計算ドレン量と測定ドレン量の比較は、単純な差分(又は割合)を用いてよく、存在確率を用いてもよい。
【0049】
正規分布は式(13)によって表される。
【0050】
【数13】

【0051】
全体確率f(w,C)は、各ドレントラップの確率密度関数fn(w,C)の積であり、式(14)のように表される。
【0052】
【数14】

【0053】
以上説明したように、本実施形態において、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnを有するドレンユニットDU1、DU2、DU3、・・・DUnでの測定結果を用いて蒸気管の放熱損失を評価できる。ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnは、すでに設置されているものを使用可能である。センサPS1、PS2、PS3、・・・PSnも、すでに設置されているものを使用可能である。したがって、本実施形態では、蒸気管10に新たに大きな加工を施すことなく、比較的容易に熱損失を見積もることができる。
【0054】
また、本実施形態において、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnに捕捉されるドレンの割合を仮定した仮定捕捉率を用いることにより、より正確な熱損失の見積もりが可能である。すなわち、仮定熱損失だけでなく、仮定捕捉率と最適状態評価手法との組み合わせにより、熱損失の算出結果が最適値に導かれる。
【0055】
統計的手法を用いることにより、複数のデータから最適ペア解を推定することができる。応用数学の手法に基づく、確率分布(正規分布、t分布など)を用いて推定や検定を実施することもできる。数値上の性質や規則性あるいは不規則性を見いだすことにより、より正確な推定を行ったり、異常値を検出することもできる。
【0056】
統計的な異常値は、ドレントラップの不具合や部分的な熱漏洩の検出に利用できる。本実施形態では、共通の仮定放熱損失及び仮定捕捉率を用いているが、これに限定されない。傾向分析の結果などに基づき、特定の区間に対して仮定放熱損失及び仮定捕捉率の重み付けを行うことができる。
【0057】
追加的又は代替的に、蒸気生成装置20からの出力を変化させて、さらに多くのデータを取ることもできる。様々な条件下のデータを採取することにより、より正確な推定が可能である。
【0058】
本実施形態において、制御ユニット40の表示装置128は、熱損失の算出結果並びに算出過程を表示することができる。表示装置128は、データの分布を散布図または相関図で表示することもできる。視覚的な傾向分析により、熱損失の算出結果を視覚的に検証できる。
【0059】
次に、蒸気管10の熱損失に関する解析手法の別の一例を以下に示す。本例では、仮定捕捉率に加え、蒸気管10に入る蒸気の湿り度(1−乾き度)を仮定した仮定湿り度を用いる。
【0060】
以下において、
d :蒸気管の直径[m]、
G :流量[kg/s]、
h :エンタルピ[J/kg]、
L :管長[m]、
C :ドレントラップにおけるドレン捕捉率[−]、
r :管半径[m]、
T :温度[℃]、
v :流速[m/s]、
W :熱量[W]、
X :乾き度[−]、
δ :偏差[−]、
θ :保温厚さ[m]、
λ :熱伝導率[W/m/K]、
σ :分散[−]、
boiler_out :ボイラ出口、
catch :捕捉ドレン、
critical :臨界、
drain :ドレン、
measure :計測値、
n :トラップの順番、
out :外面、
rad :放熱、
sat_l :飽和液、
sat_v :飽和蒸気、
theory :理論式、
v :蒸気、
X :乾き度、
である。
【0061】
蒸気管10の第1ドレントラップDT1までの蒸気管放熱量は式(15)のように計算できる。
【0062】
【数15】

【0063】
第1ドレントラップDT1前までのドレン流量は式(16)のように計算できる。
【0064】
【数16】

【0065】
第1ドレントラップDT1におけるドレン排出量は式(17)のように計算できる。
【0066】
【数17】

【0067】
第2ドレントラップDT2以降に関し、第n−1ドレントラップから第nドレントラップまでの蒸気管放熱量は式(18)のように計算できる。
【0068】
【数18】

【0069】
また、第nトラップ前までのドレン量は式(19)のように計算できる。
【0070】
【数19】

【0071】
第nドレントラップのドレン排出量は式(20)のように計算できる。
【0072】
【数20】

【0073】
このように、式(17)より第1のドレントラップDT1におけるドレン流量(排出量)の計算値(計算ドレン量)を算出することができ、また、式(20)より第2以降のドレントラップDTnにおけるドレン流量(排出量)の計算値(計算ドレン量)を算出することができる。
【0074】
ここで、ドレン流量の計算値は、蒸気管10に入る蒸気の湿り度(湿り度=1−乾き度)を仮定した仮定湿り度と、放熱量に関わる蒸気管10の所定の熱特性を仮定した仮定熱特性と、ドレントラップに捕捉されるドレンの割合を仮定した仮定捕捉率とを用いることにより、得ることができる。本例において、放熱量に関わる所定の熱特性として、蒸気管の熱伝導率λ(断熱性能)が用いられる。
【0075】
仮定湿り度、仮定熱特性、及び仮定捕捉率の組み合わせの最適値において、計算ドレン量の値と測定ドレン量の値との間の差が最も小さいと考えることができる。本例において、仮定湿り度、仮定熱特性、及び仮定捕捉率は、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnの間で共通である。計算ドレン量と測定ドレン量との間の差が全体で小さくなるような、仮定湿り度、仮定放熱損失、及び仮定捕捉率の組み合わせを探索することにより、蒸気管10の放熱損失を見積もることができる。
【0076】
図6は、本例における熱損失評価に関する処理手順を示すフロー図である。
【0077】
図6において、まず、蒸気管10を含む系に関する初期値(各区間の長さなど)、及び、湿り度、所定熱特性、及び捕捉率に関する仮定値が計算装置50に入力される(ステップ201、202、及び203)。最初に入力される仮定値は、経験的に得られた目安データでもよく、ランダムデータでもよい。
【0078】
蒸気管10の所定区間SCnにおいて、センサPSnが蒸気管10内の温度(又は圧力)を測定する。また、ドレンユニットDUnにおいて、温度センサ70及び重量計80がドレントラップDTnからのドレンの排出総量、及びドレン温度を測定する。計算装置50は、入力された初期値、仮定値、及び測定データなどを用いて、ドレントラップDTnにおけるドレン流量の計算値(計算ドレン量)を算出することができる(ステップ204)。
【0079】
また、計算装置50は、入力された初期値、及び測定データなどを用いて、ドレントラップDTnにおけるドレン流量の測定値(測定ドレン量)を算出することができる(ステップ205)。
【0080】
測定ドレン量のデータ、及び複数の計算ドレン量のデータから、計算装置50は、最適状態評価を行うことができる(ステップ206)。例えば、シフトした仮定値の入力により、別のドレン流量の計算値(計算ドレン量)の値を算出することができる。複数の仮定値に基づいて、ドレントラップDTnに関して、複数の計算ドレン量が算出される。計算装置50は、ドレントラップDT1、DT2、DT3、・・・DTnに関して、計算ドレン量と測定ドレン量とを比較するとともに、それらの差(例えば総合偏差)が全体で最も小さくなるような、仮定湿り度、仮定熱特性、及び仮定捕捉率の最適組み合わせを探索する。例えば、統計的手法を用いて最適組み合わせを探索することができる。このような最適状態評価により、蒸気管10の放熱損失を見積もることができる。
【0081】
ここで、ドレン捕捉率は、管内の蒸気の流速、及び蒸気の湿り度(又は乾き度)に依存すると考えられる。そのため、流体解析に基づき、上記の最適状態評価の結果を検証することができる。流体解析には、例えば、CFD(Computational Fluid Dynamics)を用いることができる。
【0082】
流体解析結果を、上記の最適状態評価に反映することができる。反映方法の一例を以下に示す。
【0083】
予め、式(21)のようなドレン捕捉率の流速依存性の理論式を作成しておく。
【0084】
【数21】

【0085】
具体的には、流体解析に基づき、例えば、式(22)、及び式(23)のような分布関数を定めることができる。
【0086】
【数22】

【数23】

【0087】
次に、理論式と実測値の偏差を式(24)のように計算する。測定値がn箇所ある場合は平均化等を行う。
【0088】
【数24】

【0089】
δtheory,nを考慮して、式(25)のように全体偏差δを計算することができる。
【0090】
【数25】

【0091】
流体解析結果を、上記の最適状態評価の結果に反映することにより、蒸気管10の放熱損失をより確からしく見積もることができる。すなわち、全体偏差又は個別偏差の計算結果に基づいて、上記の最適状態評価の結果を検証することができる。例えば、全体偏差が所定値を超える場合には、蒸気管の熱損失に関する再解析を実施することができる。また、個別偏差が所定値を超える場合には、対応する個別データを除外して再解析を実施することができる。
【0092】
(実施例)
上記方法に基づき、ボイラに接続された蒸気配管の放熱損失を見積もった。
【0093】
パラメータを次の範囲に設定した。
(1)ボイラ出口の湿り度:0.1〜0.5 %、
(2)断熱材性能:熱伝導率0.01〜0.1 W/m/K(厚さ100mm:実測値)、
(3)ドレントラップの捕捉率:50〜100 %。
【0094】
断熱材の熱伝導率は0.03〜0.05 W/m/K程度であることが知られているが、実際の放熱量の算出にあたり、外気温度、風速、断熱材の劣化等の変動要因を考慮した。
【0095】
各パラメータを次のように変化させた(250パターン)。
(1)湿り度:0.1%刻みで5パターン、
(2)断熱材性能:熱伝導率0.01 W/m/K刻みで10パターン、
(3)捕捉率:10 %刻みで5パターン。
【0096】
最適状態評価により、以下の最適組み合わせが得られた。
(1)湿り度:0.5 %、
(2)断熱材性能:熱伝導率 0.03 W/m/K (厚さ100mm)、
(3)捕捉率:40 %。
【0097】
3つのドレントラップにおけるドレン排出量の計算値(計算ドレン量)と測定値(測定ドレン量)とを表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
また、CFDによってドレン捕捉率の流体依存性を解析した。その結果、最適組み合わせにおけるドレン捕捉率の流速依存性は、解析結果におけるものと同様の傾向を示した。
【0100】
上記説明において使用した数値は一例であって、本発明はこれに限定されない。
【0101】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。上記説明において使用した数値は一例であって、本発明はこれに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】熱損失評価システムを示す概略図である。
【図2】ドレントラップ前後の蒸気管内の様子を示す模式図である。
【図3】ドレンユニットを示す概略図である。
【図4】制御ユニットを示す模式図である。
【図5】熱損失評価に関する処理手順の一例を示すフロー図である。
【図6】熱損失評価に関する処理手順の別の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0103】
1…熱損失評価システム、10…蒸気管、20…蒸気生成装置、30…負荷設備、40…制御ユニット、50…計算装置、60…ドレンライン、62…仮設ホース、70…温度センサ(第2測定装置)、64…受水槽、80…重量計(第2測定装置)、123…変換器、124…CPU、125…メモリ、127…入力装置、128…表示装置、DT1、DT2、DT3、・・・DTn…ドレントラップ、DU1、DU2、DU3、・・・DUn…ドレンユニット、SC1、SC2、SC3、・・・SCn…区間、PS1、PS2、PS3、・・・PSn…センサ(第1測定装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気管の熱損失を評価するシステムであって、
蒸気が流れる蒸気管に設定される複数の区間と、
前記蒸気管内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定する第1測定装置と、
前記複数の区間の終点からそれぞれドレンを排出可能な複数のドレンユニットであり、各々がドレントラップを有する前記複数のドレンユニットと、
ドレン量に関する値及びドレン温度を、前記複数のドレンユニットでそれぞれ測定する第2測定装置と、
前記第1測定装置の測定結果と前記第2測定装置の測定結果とを用いて、前記蒸気管の放熱損失を評価する計算装置と、
を備えることを特徴とする蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項2】
前記計算装置は、前記ドレントラップに捕捉されるドレンの割合を仮定した仮定捕捉率を用いて前記蒸気管の放熱損失を評価することを特徴とする請求項1に記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項3】
前記計算装置は、単位面積又は単位長さあたりの前記蒸気管の放熱損失を仮定した仮定放熱損失、前記仮定捕捉率、及び前記第1測定装置の測定結果を用いて算出される計算ドレン量と、前記第2測定装置の測定結果から得られる測定ドレン量とを前記複数の区間の各々について比較した比較結果に基づいて、前記蒸気管の放熱損失を評価することを特徴とする請求項2に記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項4】
前記計算装置は、前記仮定捕捉率に加えて、前記蒸気管に入る前記蒸気の湿り度を仮定した仮定湿り度を用いて前記蒸気管の放熱損失を評価することを特徴とする請求項2に記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項5】
前記計算装置は、前記蒸気管の放熱量に関わる所定の熱特性を仮定した仮定熱特性、前記仮定捕捉率、前記仮定湿り度、及び前記第1測定装置の測定結果を用いて算出される計算ドレン量と、前記第2測定装置の測定結果から得られる測定ドレン量とを前記複数の区間の各々について比較した比較結果に基づいて、前記蒸気管の放熱損失を評価することを特徴とする請求項4に記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項6】
前記計算装置は、統計的手法を用いて前記蒸気管の放熱損失を推定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項7】
前記計算装置は、前記ドレントラップに捕捉されるドレンの割合の流速依存性を前記蒸気管の放熱損失の評価に反映させることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の蒸気管の熱損失評価システム。
【請求項8】
蒸気管の熱損失を評価する方法であって、
蒸気が流れる蒸気管内の圧力及び温度の少なくとも1つを測定する第1測定工程と、
各々の終点にドレントラップが設けられた前記蒸気管に設定される複数の区間について、前記ドレントラップを介したドレン量に関する値及びドレン温度を測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程の測定結果と前記第2測定工程の測定結果とを用いて、前記蒸気管の放熱損失を評価する計算工程と、
を含むことを特徴とする蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項9】
前記ドレントラップに捕捉されるドレンの割合を仮定した仮定捕捉率を入力する工程をさらに含む請求項8に記載の蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項10】
単位面積又は単位長さあたりの前記蒸気管の放熱損失を仮定した仮定放熱損失を入力する工程をさらに含み、
前記計算工程は、前記仮定放熱損失、前記仮定捕捉率、及び前記第1測定工程の測定結果を用いて第1ドレン量を算出する工程と、前記第2測定工程の測定結果から第2ドレン量を算出する工程と、前記複数の区間の各々について前記第1ドレン量と前記第2ドレン量とを比較する工程と、を含むことを特徴とする請求項9に記載の蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項11】
前記蒸気管に入る前記蒸気の湿り度を仮定した仮定湿り度を入力する工程をさらに含む請求項9に記載の蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項12】
前記蒸気管の放熱量に関わる所定の熱特性を仮定した仮定熱特性を入力する工程をさらに含み、
前記計算工程は、前記仮定熱特性、前記仮定捕捉率、前記仮定湿り度、及び前記第1測定工程の測定結果を用いて第1ドレン量を算出する工程と、前記第2測定工程の測定結果から第2ドレン量を算出する工程と、前記複数の区間の各々について前記第1ドレン量と前記第2ドレン量とを比較する工程と、を含むことを特徴とする請求項11に記載の蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項13】
前記計算工程は、統計的手法を用いて前記蒸気管の放熱損失を推定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8から請求項12のいずれかに記載の蒸気管の熱損失評価方法。
【請求項14】
前記計算工程は、前記ドレントラップに捕捉されるドレンの割合の流速依存性を解析する工程と、前記流速依存性の解析結果を前記蒸気管の放熱損失の評価に反映させる工程とを含むことを特徴とする請求項8から請求項13のいずれかに記載の蒸気管の熱損失評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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