説明

蒸気経路の腐食の監視方法

【課題】 蒸気経路内の腐食の状況を、継続的に、かつ、低コストで監視できる監視方法を提供する。
【解決手段】 蒸気経路中に設けられた凝縮水排出用のスチームトラップ配管のうち所望のものを選択する選択工程H1と、選択されたスチームトラップ配管から所定量だけ排出される凝縮水中の、腐食により発生した溶出物量又は腐食生成物量を計測するか、又は選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した腐食生成物量を計測するか、又は選択されたスチームトラップ配管中のストレーナ若しくはスチームトラップの閉塞頻度を計測するデータ取り工程H2と、データ取り工程H2により得られたデータに基づき、選択されたスチームトラップ配管より上流側の蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路内における腐食の状況を監視する監視工程H3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蒸気や凝縮水により生じる蒸気経路内の腐食の状況を監視する蒸気経路の腐食の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラー給水中に、溶存酸素や、ボイラー中で熱分解して炭酸ガスを発生する重炭酸イオンがあれば、これらの酸素や炭酸ガスはボイラー中で蒸気側に容易に移行する。そして、酸素や炭酸ガスを有する蒸気は、蒸気経路中の配管や機器の内面に腐食を生じさせるとともに、この蒸気の復水(凝縮水)も、復水経路中の配管や機器の内面に腐食を生じさせる。
【0003】
このため、例えば、蒸気経路中に腐食監視装置を設置し、蒸気経路内の蒸気がどの程度の腐食性を有するかの監視を行う場合も多い(例えば、特許文献1)。特許文献1記載の腐食監視装置では、蒸気を冷却して作った凝縮水をテストピース周りに通過させ、このテストピースの腐食の程度を観察することにより、蒸気の腐食性の監視を行っている。また、発生した蒸気を冷却して凝縮水とした後、この凝縮水の水質を連続的に測定することにより、蒸気の質の監視を行う蒸気質測定装置を蒸気経路中に備えたものもある。
【0004】
【特許文献1】特開平08−28803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記腐食監視装置や蒸気質測定装置では、蒸気のサンプリングに冷却水を必要とし、監視コストも安くないという問題があるとともに、ボイラーが停止すれば、使用を中止せざるを得ず、発停のあるボイラーから蒸気が供給される蒸気経路の腐食の監視を継続的に行うことはできないという問題があった。また、上記腐食監視装置や蒸気質測定装置では、蒸気のサンプリングポイントを簡単に変えることができず、使い勝手が悪いという問題もあった。
【0006】
さらに、上記腐食監視装置や連続水質測定装置では、蒸気のサンプリング箇所として蒸気経路中の1箇所で代表することが多く、これらによって、蒸気経路全体についての腐食の状況が明確に捉えられているかどうかについては疑問もあった。
【0007】
すなわち、蒸気中の二酸化炭素は、揮発性が高く、一般的には多くのものが蒸気経路の末端まで移動すると考えられるが、蒸気経路の途中でその濃度を大きく変化(減少)させることもあり得るし、蒸気中の酸素についても、凝縮水に溶け込んで、蒸気経路の下流側では、その濃度を大きく変化(減少)させることも考えられる。このように蒸気経路に沿って二酸化炭素や酸素の濃度が変化すれば、これらが通過する蒸気経路内の腐食の程度も変化するので、一箇所のサンプリングで、蒸気経路全体の腐食状況を判断することには疑問が生じる。
【0008】
また、復水処理剤として、例えば、凝縮水に溶け込んで、この凝縮水中の炭酸ガス(炭酸)を中和して蒸気復水配管の腐食量を減少させる働きがある中和性アミンや、蒸気経路等の内面に皮膜を形成してこれを保護する皮膜性アミンを使用した場合に、これらの薬剤が、蒸気経路に均一に行き渡るとは限らず、かつ、これらの薬剤の効果も蒸気経路に沿って等しく生じるとは言えない。したがって、このような点からも、一箇所のサンプリングで、蒸気経路全体の腐食状況を判断することには疑問が生じる。
【0009】
この発明は、以上の点に鑑み、蒸気経路内の腐食の状況を、継続的に、かつ、低コストで監視できる蒸気経路における腐食の監視方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、この発明は、上記目的に加え、蒸気経路内の腐食の状況を、蒸気経路内の複数のサンプリング箇所を用いて容易に監視できる蒸気経路における腐食の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1記載の発明は、蒸気及び凝縮水により生じる蒸気経路内の腐食の状況を監視する蒸気経路の腐食の監視方法であって、前記蒸気経路中に設けられた凝縮水排出用のスチームトラップ配管のうち所望のものを選択する選択工程と、前記選択されたスチームトラップ配管から所定量だけ排出される凝縮水中の、腐食により発生した溶出物量若しくは腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した前記腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナ若しくはスチームトラップの閉塞頻度を計測するデータ取り工程と、前記データ取り工程により得られたデータに基づき、前記選択されたスチームトラップ配管より上流側の前記蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路内における腐食の状況を監視する監視工程とを有することを特徴とする。
【0012】
酸素や二酸化炭素を含んだ蒸気が蒸気経路内を流れることにより、蒸気経路内には蒸気や凝縮水によって腐食が進行し、蒸気中や凝縮水中に腐食による溶出物(例えば鉄イオン、銅イオン)や腐食生成物(例えば鉄錆など)を生じさせる。これらの溶出物や腐食生成物は、多くのものが凝縮水とともに、蒸気経路に設けられたスチームトラップ配管内に集められる。
【0013】
したがって、この発明では、蒸気経路中で所望のスチームトラップ配管を選択し、このスチームトラップ配管から排出される所定量(例えば10リッター)の凝縮水を採取して、例えば、この凝縮水中に含まれる腐食生成物量を計測することにより、この選択されたスチームトラップ配管より上流側の蒸気経路内で生じた所定量の凝縮水内の腐食生成物量を知ることができる。この場合、選択されたスチームトラップ配管より1つ上流側のスチームトラップ配管内の凝縮水には、それより上流側の蒸気経路内で生じた腐食生成物が集められるので、選択されたスチームトラップ配管内の凝縮水には、選択されたスチームトラップ配管より上流側の蒸気経路のうち、主として、1つ上流側のスチームトラップ配管より下流側の部分で生じた腐食生成物が集められる。このため、選択されたスチームトラップ配管から排出される所定量の凝縮水中の腐食生成物量を知ることにより、一定範囲内の蒸気経路に関する腐食の状況、すなわち、腐食の傾向を知ることができる。
【0014】
なお、選択されたスチームトラップ配管より排出される所定量(例えば1リッター)の凝縮水中に含まれる溶出物量や、選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した腐食生成物量についても、上記腐食生成物量の場合と同様に考えることができる。また、ストレーナやスチームトラップの閉塞頻度も、ストレーナに所定時間の間に付着した腐食生成物量の場合と同様に考えることができる。
【0015】
この発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の場合において、前記データ取り工程の前記スチームトラップ配管から排出される凝縮水は、前記スチームトラップ配管中のスチームトラップを通して、又は前記スチームトラップ配管中のスチームトラップパイパス配管を通して排出されることを特徴とする。
【0016】
この発明の請求項3記載の発明は、蒸気及び凝縮水により生じる蒸気経路内の腐食の状況を監視する蒸気経路の腐食の監視方法であって、前記蒸気経路中に設けられた凝縮水排出用のスチームトラップ配管のうち所望のものを選択する選択工程と、前記選択されたスチームトラップ配管のスチームトラップバイパス配管から所定時間の間に排出される凝縮水中及び蒸気中に含まれる、腐食により発生した腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した前記腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナ若しくはスチームトラップの閉塞頻度を計測するデータ取り工程と、前記データ取りにより得られたデータに基づき、前記選択されたスチームトラップ配管より上流側の前記蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路内における腐食の状況を監視する監視工程とを有することを特徴とする。
【0017】
この発明は、データ取り工程が、スチームトラップバイパス配管から一定時間の間に排出される凝縮水中や蒸気中に含まれる、腐食により発生した腐食生成物量を計測する、ことでもなされるということを示すものである。なお、この発明の作用効果は請求項1記載の発明と同様である。
【発明の効果】
【0018】
この発明の請求項1乃至3記載の発明によれば、蒸気経路中のスチームトラップ配管を選択し、このスチームトラップ配管から排出される排出物に関するデータを取るだけで、蒸気経路中の所望の部分の腐食の状況を容易に監視できるとともに、監視に当たり、サンプリング用の冷却水は不要なので、監視コストも低く抑えることができる。また、この発明では、腐食の程度が大きいと考えられるボイラーの停止時においても、蒸気経路の腐食の状況を監視でき、従来の監視機器と異なり、蒸気経路の腐食の状況を継続的に監視できる。さらに、この発明では、サンプリング箇所が複数になるように、スチームトラップ配管を複数選択することにより、蒸気経路の一部や蒸気経路全体にわたって、選択されたスチームトラップ配管の場所毎に、配管や機器内の腐食状況を、容易に、精度よくかつ細かく監視できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
まず、蒸気経路の一例と、蒸気経路に用いられるスチームトラップ配管の種類等について説明する。
【0020】
図1は、ボイラー40から蒸気が供給される蒸気経路Mと、この蒸気経路Mに続く復水経路Nとを示している。ボイラー40内の蒸気Sは、図1で示されるように、まず、主蒸気配管41、第1高圧ヘッダ42、高圧配管43、第2高圧ヘッダ44を経て、配管45により複数の熱交換器61が備えられた第1熱交換器群60に供給された後、スチームトラップ配管1や復水配管91を経てドレン回収タンク92に回収される。また、第1高圧ヘッダ42内の蒸気Sは、減圧配管46、第1低圧ヘッダ47を経て、配管48により複数の熱交換器71が備えられた第2熱交換器群70に供給された後、スチームトラップ配管1や復水配管93を経てドレン回収タンク94に回収される。さらに、第1低圧ヘッダ47内の蒸気Sは、低圧連絡配管49,第2低圧ヘッダ50を経て、配管51により複数の熱交換器81が備えられた第3熱交換器群80に供給された後、スチームトラップ配管1や復水配管95を経てドレン回収タンク96に回収される。
【0021】
すなわち、図1中には、蒸気Sの流れに沿って配管(配管41,43,45,46,48,49、51、スチームトラップ配管1)、及び機器(高圧ヘッダ42,44、低圧ヘッダ47,50、熱交換器61,71,81)が配置された蒸気経路Mと、復水(凝縮水又はドレン)の流れに沿って配管(復水配管91,93,95)、及び機器(ドレン回収タンク92,94,96)が配置された復水経路Nとが示されている。
【0022】
なお、ボイラー給水中には、一般に、図1で示されるように、脱酸素剤や復水処理剤(中和性アミンや皮膜性アミン)が加えられる。
【0023】
蒸気経路Mの復水経路Nとの境界部等には、図2〜図4で示されるように、スチームトラップ10aを有する主配管10と、止め弁11aを有するバイパス配管11とからなるスチームトラップ配管1が多数設けられている(図1参照)。スチームトラップ配管1には、図2乃至図4で示されるような、タイプA、タイプB、タイプCの3種類のものが多く使用されている。
【0024】
タイプAのスチームトラップ配管1Aは、図2で示されるように、主配管10中のスチームトラップ10aの前後に止め弁10b、10cのみを有するものであり、ドレン取出蒸気3を介して、配管2のドレンポット2a等に取り付けられ、放熱によって生じた配管内等の凝縮水を常時外部に排出させるものである。このスチームトラップ配管1Aは、止め弁11aが常時閉じられるとともに、止め弁10b、10cが常時開けられており、例えば、図1で示される蒸気経路M中では、第1高圧ヘッダ42や第1低圧ヘッダ47の下部に取り付けられている。このスチームトラップ配管1Aでは、主配管10のスチームトラップ10a側と、バイパス配管11側の両方から凝縮水を取り出すことができる。なお、図2中符号Vは凝縮水を入れるバケツである。
【0025】
タイプBのスチームトラップ配管1Bは、図3で示されるように、スチームトラップ配管1Aのスチームトラップ10a上流側にストレーナ10d(スチームトラップ10aに内蔵されているものでも可)を有するものであり、ドレン取出蒸気3を介して、蒸気配管2のドレンポット2a等に取り付けられ、放熱によって生じた配管内等の凝縮水を、異物を除去した後、復水配管4側に回収させるものである。このスチームトラップ配管1Bは、例えば、図1で示される蒸気経路M中では、第2高圧ヘッダ44や第2低圧ヘッダ50の下端側や、配管45,48,51中に取り付けられている。このスチームトラップ配管1Bでは、止め弁11aを僅かに開けて凝縮水を復水配管4側に回収しつつ、止め弁10b,10cを閉じることにより、ストレーナ10dへの付着物を容易に取り出すことができる。なお、図3中符号5は、逆流防止用のチェッキ弁である。
【0026】
タイプCのスチームトラップ配管1Cは、図4で示されるように、スチームトラップ配管1Bのスチームトラップ10a下流側に排出弁10eを有するものであり、熱交換器6等の出口配管に取り付けられて、熱交換器6等から排出される凝縮水を、異物を除去した後、復水配管4側に回収させるものである。このスチームトラップ配管1Cは、例えば、図1で示される蒸気経路M中では、熱交換器61,71,81の出口配管に取り付けられている。このスチームトラップ配管1Cでは、排出弁10eを使用してスチームトラップ10aからの凝縮水をバケツV内に容易に取り出すことができる。また、このスチームトラップ配管1Cでは、止め弁11aを僅かに開けるとともに、止め弁10b,10cを閉じることにより、ストレーナ10dへの付着物を容易に取り出すことができる。
【0027】
つぎに、蒸気経路中の水平な蒸気管を例にとって、この蒸気管内で生じる凝縮水とスチームトラップ配管1との関係、及び蒸気管内で腐食が生じた場合に、スチームトラップ配管1を用いて得られる腐食のデータについて説明する。図5は蒸気管の長手方向断面を示しており、図6は蒸気管の径方向断面を示している。
【0028】
図5で示されるように、蒸気管Pの底部には所定距離隔てて、2つのドレンポット2A、2Bが設けられ、これらの底部には、ドレン取出配管3を介してスチームトラップ配管1が取り付けられている。蒸気管Pは、外面に保温材が施工されているが、内部の温度が高いため、放熱によって熱が逃げてしまい、図6で示されるように、その内面に、蒸気Sの凝縮によって多数の凝縮水Gの水滴G1が生じる。これらの水滴G1は、蒸気Sの流れとともに、蒸気管Pの底部に集まり、凝縮水Gの流れとなって次第に成長していく。そして、この凝縮水Gは、ドレンポット2Aに到達し、このドレンポット2Aからドレン取出配管3を経てスチームトラップ配管1へと移動する。この場合、上流側のドレンポット2B内には、これより上流側で発生した凝縮水Gが取り込まれるため、下流側のドレンポット2Aには、ドレンポット2Bより下流側の蒸気管P内で発生した凝縮水Gが取り込まれる。すなわち、ドレンポット2Aのスチームトラップ配管1には、これより上流側で、ドレンポット2Bのスチームトラップ配管1より下流側の蒸気管P1で発生した凝縮水Gが取り込まれる。
【0029】
一方、水中の溶存酸素は、鋼管の内面を腐食させ、また、炭酸は、pHを下げる作用もあるので、溶存酸素等による腐食を促進する。したがって、蒸気管P内の蒸気S中に酸素や二酸化炭素があれば、これらが凝縮水Gに溶け込んで溶存酸素や炭酸となり、蒸気管Pの内面は、この溶存酸素や炭酸によって腐食される。その結果、蒸気管P内には、所定の腐食生成物(固形物)が生じるとともに、内部の凝縮水G中には、腐食に起因した所定の溶出物が生じる。ここで、腐食生成物は、蒸気管P内の凝縮水Gと関連して生じるものであるため、移動可能なものの内の多くのものは、蒸気管P内の凝縮水Gとともに移動し、溶出物と共にスチームトラップ配管1内に集められる。
【0030】
したがって、スチームトラップ配管1から排出される所定量の凝縮水G中の、溶出物量や腐食生成物量を計測したり、所定時間の間にスチームトラップ配管1のストレーナ10dに付着した腐食生成物量を計測することにより、例えば蒸気管P1で生じている腐食の程度(進行度合又は進行速度)を判定することができる。また、スチームトラップ配管1のバイパス配管11から所定時間の間(例えば30秒)に排出される蒸気S中と凝縮水G中の腐食生成物量を計測したり、スチームトラップ配管1中のストレーナ10dやチームトラップ10aの閉塞頻度を計測しても、蒸気管P1で生じている腐食の程度を判定することができる。ここで、ストレーナ10d等の閉塞頻度は、例えばストレーナ10dの下流側に温度計を付け、これが所定温度に下がるまでの時間を計測することにより知ることができる。
【0031】
なお、蒸気管P1の腐食量は、蒸気S中の酸素濃度や二酸化炭素濃度が増加すれば増加し、減少すれば減少すると考えられる。また、復水処理剤として皮膜性アミンが加えられている場合には、酸素や二酸化炭素による腐食作用が抑えられるので、蒸気管P1の腐食量は、酸素濃度や二酸化炭素濃度がある程度大きくても減少する。
【0032】
また、ボイラーからの蒸気には、酸素や二酸化炭素の他に、ボイラーのキャリーオーバーで生じたキャリーオーバー水をも含む場合があるため、その凝縮水には、これらも含むこととなる。したがって、凝縮水の水質のみで、蒸気の質を評価することはできないが、腐食に関しては、キャリオーバーによる影響も含めた現状そのものを確認できることから、凝縮水の水質等で蒸気経路の腐食の程度を評価しても不都合はない。
【0033】
つぎに、この発明の一実施の形態に係る蒸気経路の腐食の監視方法について説明する。蒸気経路の腐食の監視方法Hは、図7で示されるように、スチームトラップ配管1の選択工程H1と、スチームトラップ配管1から腐食に関するデータを取るデータ取り工程H2と、得られたデータに基づいて、選択されたスチームトラップ配管1より上流側の蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路における腐食の状況を監視する監視工程H3とから構成される。
【0034】
選択工程H1では、蒸気経路中で腐食の状況を知りたい(監視したい)部分、例えば図1で示される蒸気経路M全体やその一部、又は蒸気経路M中の特定の配管部分を定め、これらに関連する蒸気経路M中のスチームトラップ配管1を選択する。選択するスチームトラップ配管1の数は、腐食の監視場所が限定される場合は1つでよいが、そうでない場合は、複数の方がベターである。
【0035】
データ取り工程H2では、以下の4つのデータ取り方法Q1,Q2,Q3,Q4の中から、選択されたスチームトラップ配管1に合ったものを採用する。なお、いずれのデータ取り方法Q1,Q2,Q3,Q4でも、前述のように、蒸気経路内の腐食の程度を充分に判定できる。
【0036】
第1のデータ取り方法Q1は、選択されたスチームトラップ配管1から所定量だけ排出される凝縮水G中の、腐食により発生した溶出物量又は腐食生成物量を計測する方法である。この方法Q1では、凝縮水Gをスチームトラップ10a側からとる方法と、バイパス配管11側からとる方法とがある。この方法Q1は、AタイプとCタイプのスチームトラップ配管1A、1Cに適用できる。
【0037】
第2のデータ取り方法Q2は、選択されたスチームトラップ配管1のバイパス配管11から所定時間の間に排出される凝縮水G中及び蒸気S中に含まれる、腐食により発生した腐食生成物量を計測する方法である。この方法Q2は、AタイプとCタイプのスチームトラップ配管1A,1Cに適用できるが、Aタイプのスチームトラップ配管1Aに適用する方がより簡単で好ましい。
【0038】
第3のデータ取り方法Q3は、選択されたスチームトラップ配管1中のストレーナ10dに所定時間の間に付着した腐食生成物量を計測する方法である。この方法Q3は、ストレーナが設置されている、BタイプとCタイプのスチームトラップ配管1B,1Cに適用できる。なお、スチームトラップにストレーナを内蔵したものであれば、Aタイプのスチームトラップ配管1Aでも適用可能である。
【0039】
第4のデータ取り方法Q4は、選択されたスチームトラップ配管1中のストレーナ10d若しくはスチームトラップ10aの閉塞頻度を計測する方法である。この方法Q3は、ストレーナに関しては、BタイプとCタイプのスチームトラップ配管1B,1Cに適用できる。スチームトラップにストレーナを内蔵したものであれば、Aタイプのスチームトラップ配管1Aでも適用可能である。
【0040】
監視工程H3は、データ取り工程H2で得られたデータに基づき、蒸気経路中の選択されたスチームトラップ配管1のある位置より上流側部分、詳しくは、蒸気経路中の、選択されたスチームトラップ配管1の位置より上流側で、このスチームトラップ配管1より一つ上流側にあるスチームトラップ配管1の位置より下流側の部分の腐食の程度を判定して、この部分の腐食の状況を監視するものである。蒸気経路の腐食は、データ取り工程H2により得られたデータの値(計測値)が大きければ、その程度が大きく、データの値(計測値)が小さければ、その程度が小さいと考えられる。ただし、データの値にはばらつきもあるので、腐食の程度を精度良く判断するには、選択されたスチームトラップ配管1毎に複数のデータ取りが求められる。
【0041】
以上のように、この蒸気経路の腐食の監視方法Hでは、蒸気経路中のスチームトラップ配管1を選択し、このスチームトラップ配管1から排出される排出物(蒸気Sもあるが基本的には凝縮水Gと、ストレーナ10d中の腐食生成物)に関するデータを取るだけで、選択されたスチームトラップ配管1の上流側における蒸気経路の腐食の状況を監視できるので、蒸気経路中の所望の部分の腐食の状況を容易に監視できるとともに、監視に当たり、従来の監視機器のようにサンプリング用の冷却水は不要なので、監視コストも低く抑えることができる。
【0042】
また、この蒸気経路の腐食の監視方法Hでは、ボイラー40が停止し、蒸気経路内への蒸気Sの供給が停止しても、実際の蒸気経路内の停止中の腐食発生状況も含めた形で、凝縮水Gに関するデータを得ることができるので、従来の監視機器では監視できなかったボイラー40の停止時においても、蒸気経路の腐食の状況を継続的に監視できる。特に、ボイラー40の停止時には、蒸気S中のすべての酸素や二酸化炭素が、溶存酸素や炭酸となって凝縮水Gに溶解し、この凝縮水Gによる腐食の程度が大きくなるので、この監視方法Hで、ボイラーの停止時に蒸気経路の腐食の状況を監視できる効果は大きい。
【0043】
さらに、この蒸気経路の腐食の監視方法Hでは、サンプリング箇所が複数になるように、スチームトラップ配管を複数選択することにより、蒸気経路の一部や蒸気経路全体にわたって、選択されたスチームトラップ配管の場所毎に、配管や機器内の腐食状況を、容易に、精度よくかつ細かく監視できる。
【0044】
つぎに、具体的な実施データについて図8を参照しつつ説明する。
実施データ1は、約100mの蒸気配管の途中60mの位置に設置されたタイプAのスチームトラップ配管1Aから排出される凝縮水10L(リッター)から得られた、凝縮水の鉄濃度と腐食生成物量とに関するものである。鉄濃度は、No5Cろ紙を通過した凝縮水の鉄の濃度を示し、腐食生成物量は、No5Cろ紙上に残った腐食生成物の量を示している。凝縮水のサンプリングは、1回当たり10L採取されるが、1種類のボイラー運転に対して、3〜4日周期で1度(1日)に5回行われ、これが3周期(9〜12日)分、計15回行われている。したがって、データもボイラーの運転種類毎に15個あり、示された鉄濃度と腐食生成物量は、15個のデータの最大値と最小値とを示している。ボイラーの運転には、ボイラー給水に脱酸素剤は加えるが、復水処理剤は加えないケース1運転と、ボイラー給水に脱酸素剤とともに復水処理剤をも加えたケース2運転とがあり、ケース1運転の後、ケース2運転を行ったため、ケース2運転時のデータ取りは、この運転開始から約2ヶ月後に行われた。
【0045】
復水処理剤を加えないケース1運転場合、鉄濃度は0.81〜1.22m(g/L)、腐食生成物量は0.52〜0.98(g)であったが、復水処理剤を注入したケース2運転の場合、鉄濃度が0.05〜0.05未満(mg/L)、腐食生成物量が0.04〜0.11(g)と減少しており、この実施データ1により、蒸気配管の腐食に関して、復水処理剤注入の効果を明確に確認できる。すなわち、この蒸気経路の腐食の監視方法Hでは、ボイラーの複数の運転を比較するようにデータ取りを行うことにより、ボイラーの運転の違いによる効果の違いを明確に把握することができる。このことは、実施データ2,3についても同様である。
【0046】
実施データ2は、発停を繰り返すボイラー(3時間稼働後0.5時間停止して、1日に12〜15時間運転されるボイラー)から蒸気が供給される約200mの蒸気配管から得られたものであり、この200mの蒸気配管の途中90mの位置に設置されたタイプBのスチームトラップ配管1Bのストレーナに付着した腐食生成物を、一定時間(3時間のボイラー運転時)毎にサンプリングしたものである。ストレーナに付着した腐食生成物は、ストレーナの末端プラグを外した後、ブラシで掻き落として、同時に出てきた凝縮水と共に、No5Cろ紙に通され、このろ紙上に残ったものである。ストレーナからの腐食生成物のサンプリングは、ボイラーの運転種類毎に、1週間の周期で1度(1日)に4回行なわれ、これが3周期(3週間)分、計12回行われている。したがって、データもボイラーの運転種類毎に12個あり、示された腐食生成物量は、12個のデータの最大値と最小値とを示している。ボイラーの運転には、ボイラー給水に脱酸素剤も復水処理剤も加えないケース3運転と、ボイラー給水に脱酸素剤とともに復水処理剤をも加えたケース4運転とがあり、ケース3運転の後、ケース4運転を行ったため、ケース4運転時のデータ取りは、この運転開始から約半月後に行われた。
【0047】
脱酸素剤も復水処理剤も加えないケース3運転の場合、腐食生成物量は5.12〜10.31(g)であったが、脱酸素剤と復水処理剤を注入したケース4運転の場合、腐食生成物量が0.18〜0.53(g)と減少しており、この実施データ2により、蒸気配管の腐食に関して、脱酸素剤と復水処理剤との注入の効果を明確に確認できる。
【0048】
実施データ3は、蒸気を1時間通気後、2時間通気を停止して、1日に5〜6時間稼働する熱交換器の出口部に設置された、タイプCのスチームトラップ配管1Cの排出弁を微開して30秒フラッシングしたときに出てくる凝縮水10Lから得られた、凝縮水の鉄濃度と、凝縮水の銅濃度と、腐食生成物量とに関するものである。鉄濃度と銅濃度とは、No5Cろ紙を通過した凝縮水の鉄と銅の濃度を示し、腐食生成物量は、No5Cろ紙上に残った腐食生成物の量を示している。凝縮水のサンプリングは、1回当たり10Lなされるが、1種類のボイラー運転に対して、1週間の周期で1度(1日)に4回行われ、これが3周期(3週間)分、計12回行われている。したがって、データもボイラーの運転種類毎に12個あり、示された鉄濃度と銅濃度と腐食生成物量とは、12個のデータの最大値と最小値とを示している。ボイラーの運転には、ボイラー給水に脱酸素剤も復水処理剤も加えないケース5運転と、ボイラー給水に脱酸素剤とともに復水処理剤をも加えたケース6運転とがあり、ケース5運転の後、ケース6運転を行ったため、ケース6運転時のデータ取りは、この運転開始から約1月後に行われた。
【0049】
脱酸素剤も復水処理剤も加えないケース5運転の場合、鉄濃度は1.37〜1.70(mg/L)、銅濃度は0.08〜0.21mg/L、腐食生成物量は4.35〜7.76(g)であったが、脱酸素剤と復水処理剤を注入したケース6運転の場合、鉄濃度が0.20〜0.35mg/L、銅濃度が0.05mg/L未満、腐食生成物量が0.65〜1.18gと減少しており、この実施データ3により、蒸気配管の腐食に関して、脱酸素剤と復水処理剤との注入の効果を明確に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】蒸気経路や復水経路の具体例を示す図である。
【図2】タイプAのスチームトラップ配管の説明図である。
【図3】タイプBのスチームトラップ配管の説明図である。
【図4】タイプCのスチームトラップ配管の説明図である。
【図5】蒸気管内の蒸気や凝縮水の流れを示す図である。
【図6】図5のAーA矢視断面図である。
【図7】蒸気経路の腐食の監視方法を示す図である。
【図8】実施データを表にして示した図である。
【符号の説明】
【0051】
1,1A,1B,1C スチームトラップ配管
10d ストレーナ
11 スチームトラップバイパス配管(バイパス配管)
G 凝縮水
H 蒸気経路の腐食の監視方法H
H1 選択工程
H2 データ取り工程
H3 監視工程
M 蒸気経路
S 蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気及び凝縮水により生じる蒸気経路内の腐食の状況を監視する蒸気経路の腐食の監視方法であって、
前記蒸気経路中に設けられた凝縮水排出用のスチームトラップ配管のうち所望のものを選択する選択工程と、
前記選択されたスチームトラップ配管から所定量だけ排出される凝縮水中の、腐食により発生した溶出物量若しくは腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した前記腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナ若しくはスチームトラップの閉塞頻度を計測するデータ取り工程と、
前記データ取り工程により得られたデータに基づき、前記選択されたスチームトラップ配管より上流側の前記蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路内における腐食の状況を監視する監視工程とを有することを特徴とする蒸気経路の腐食の監視方法。
【請求項2】
前記データ取り工程の前記スチームトラップ配管から排出される凝縮水は、前記スチームトラップ配管中のスチームトラップを通して、又は前記スチームトラップ配管中のスチームトラップパイパス配管を通して排出されることを特徴とする請求項1記載の蒸気経路の腐食の監視方法。
【請求項3】
蒸気及び凝縮水により生じる蒸気経路内の腐食の状況を監視する蒸気経路の腐食の監視方法であって、
前記蒸気経路中に設けられた凝縮水排出用のスチームトラップ配管のうち所望のものを選択する選択工程と、
前記選択されたスチームトラップ配管のスチームトラップバイパス配管から所定時間の間に排出される凝縮水中及び蒸気中に含まれる、腐食により発生した腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナに所定時間の間に付着した前記腐食生成物量を計測するか、又は前記選択されたスチームトラップ配管中のストレーナ若しくはスチームトラップの閉塞頻度を計測するデータ取り工程と、
前記データ取りにより得られたデータに基づき、前記選択されたスチームトラップ配管より上流側の前記蒸気経路内の腐食の程度を判定して、この蒸気経路内における腐食の状況を監視する監視工程とを有することを特徴とする蒸気経路の腐食の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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