説明

蒸発亜鉛回収装置

【課題】スクラップを収容するスクラップ収容室を大気圧状態から高真空状態にする必要がなく、運転時間を短縮させるのに有利な蒸発亜鉛回収装置を提供することを課題とする。
【解決手段】蒸発亜鉛回収装置は、蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップを収容するスクラップ収容室10をもつ炉体1と、スクラップ収容室10よりも低温に維持されスクラップ収容室10から流れた亜鉛蒸気を凝縮させて亜鉛微粒子を生成させる第1冷却室20と亜鉛微粒子を捕集する第1捕集部23とをもつ第1冷却部2と、第1冷却室20よりも低温に維持され第1冷却室20から流れたガスを冷却させつつ通過させる第2冷却室30と亜鉛微粒子を捕集する第2捕集部33とをもつ第2冷却部3と、スクラップ収容室10に供給した非酸化性ガスをキャリアガスとして、スクラップ収容室10、第1冷却室20および第2冷却室30の順に流すキャリアガス供給源6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクラップに付着している亜鉛を回収する蒸発亜鉛回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップを収容する真空室をもつ炉体と、真空室を加熱する加熱手段と、真空室の気体を排気させる排気口と、真空室に着脱可能に配置された回収箱とを有する亜鉛回収用の真空処理炉が開示されている。このものによれば、真空室を高真空状態にすれば、沸点以下であっても、亜鉛の蒸発量が飛躍的に増加することに着目している。そして、スクラップを収容した真空室を加熱することにより、真空室に配置されたスクラップに付着されている亜鉛を亜鉛粒子として真空室において蒸発させ、生成させた亜鉛粒子を回収箱に回収させることにしている。
【0003】
特許文献2には、真空室をもつ真空容器と、真空容器の真空室に配置された誘導溶解炉と、誘導溶解炉の上方に配置された回転可能な円板とを有する蒸発亜鉛回収装置が開示されている。このものによれば、誘導溶解炉に収容したスクラップを溶融して溶銑とすると共に、スクラップに含まれていた亜鉛を蒸発させ、亜鉛粒子として円板に付着させる。その後、亜鉛粒子が付着した円盤を下降させて誘導溶解炉に接近させ、溶銑の熱で亜鉛粒子を融解し、融解した亜鉛を円板の回転で飛ばして捕集樋に捕集させる。
【特許文献1】特開平6−287658号公報
【特許文献2】特開平7−34149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記した特許文献1に係る技術によれば、スクラップに付着している亜鉛から蒸発した亜鉛蒸気を亜鉛粒子として回収することができ、産業上有用である。しかしながらスクラップを収容する真空室を大気圧状態から高真空状態にする必要があり、運転時間が長くなる問題がある。特許文献2に係る技術についても、スクラップを収容する真空室を大気圧状態から高真空状態にする必要があり、運転時間が長くなる問題がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、スクラップを収容するスクラップ収容室を大気圧状態から高真空状態にする必要がなく、運転時間を短縮させるのに有利な蒸発亜鉛回収装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
様相1に係る蒸発亜鉛回収装置は、(i)蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップを収容すると共に600℃以上に加熱され加熱に伴い前記スクラップの前記亜鉛から亜鉛蒸気を生成させるスクラップ収容室をもつ炉体と、(ii)前記スクラップ収容室よりも低温に維持され前記スクラップ収容室から流れた前記亜鉛蒸気を凝縮させて亜鉛微粒子を生成させる第1冷却室と、前記第1冷却室で凝縮された前記亜鉛微粒子を捕集する第1捕集部とをもつ第1冷却部と、(iii)前記第1冷却室よりも低温に維持され前記第1冷却室から流れたガスを冷却させつつ通過させる第2冷却室と、前記第2冷却室で生成または沈下した前記亜鉛微粒子を捕集する前記第2捕集部とをもつ第2冷却部と、(iv)前記スクラップ収容室に供給した非酸化性ガスを、前記亜鉛蒸気および/または前記亜鉛微粒子を運ぶキャリアガスとして、前記スクラップ収容室、前記第1冷却室および前記第2冷却室の順に流すキャリアガス供給源とを具備することを特徴とする。
【0007】
蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップが、炉体のスクラップ収容室に収容される。スクラップ収容室は600℃以上に加熱される。またキャリアガス供給源は、キャリアガスとして非酸化性ガスをスクラップ収容室に供給する。従ってスクラップ収容室が加熱されたとしても、スクラップの酸化は抑制され、スクラップに付着している亜鉛の酸化が抑制される。仮に亜鉛が酸化すると、沸点が過剰に高温化し、単位時間当たりの蒸発量が過少となり、更に、純度が高い金属亜鉛の微粒子が得られない。上記したようにキャリアガスは非酸化性ガスであり、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが例示される。このためスクラップ収容室の酸素濃度が低下し、亜鉛蒸気および/または亜鉛微粒子の酸化が抑えられる。スクラップ収容室における酸素濃度としては、5モル%以下、3モル%以下、更には1モル%以下、0.5モル%以下が好ましい。
【0008】
本発明において、亜鉛微粒子とは、亜鉛蒸気を含む蒸気が凝縮して生成された微粒子を意味する。亜鉛微粒子の形状、サイズは特に限定されない。亜鉛微粒子は亜鉛の純度が高い方が好ましい。なお、亜鉛微粒子は、30マイクロメートル以下、20マイクロメートル以下であることが好ましい。
【0009】
スクラップ収容室が非酸化性雰囲気の状態において、スクラップ収容室が加熱されると、スクラップに付着している亜鉛から亜鉛蒸気がスクラップ収容室において次第に生成される。スクラップ収容室に供給された非酸化性ガスは、スクラップ収容室の亜鉛蒸気および/または亜鉛微粒子を下流に向けて搬送させるキャリアガスとして機能し、第1捕集部を有する第1冷却部、第2捕集部を有する第2冷却部に亜鉛蒸気および/または亜鉛微粒子を運ぶ。このようにキャリアガスは、スクラップ収容室、第1冷却部の第1冷却室および第2冷却部の第2冷却室の順に流れる。
【0010】
ここで、第1冷却室はスクラップ収容室よりも低温に維持されている。このため、スクラップ収容室から流れた亜鉛蒸気は第1冷却室において凝縮し、亜鉛微粒子を生成させる。第1冷却室で凝縮されて生成された亜鉛微粒子は、第1冷却部の第1捕集部で捕集される。第2冷却室は、第1冷却室よりも低温に維持される。第2冷却室は、第1冷却室から流れたガスを冷却させつつこれの下流に向けて通過させる。第2冷却室で生成または沈下した亜鉛微粒子は、第2冷却部の第2捕集部で捕集される。あるいは、第1冷却室で凝縮されなかった亜鉛蒸気は、第2冷却室で凝縮して亜鉛微粒子となり、第2冷却部の第2捕集部で捕集される。なお、第1冷却室は空冷構造でも良いし、水冷構造でも良い。第2冷却室は空冷構造でも良いし、水冷構造でも良い。
【0011】
本様相によれば、スクラップ収容室において生成された亜鉛蒸気は、キャリアガスと共に第1冷却室に搬送されて亜鉛微粒子として冷却され、第1冷却室の第1捕集部で亜鉛微粒子として捕集される。
【0012】
様相2に係る蒸発亜鉛回収装置によれば、上記様相において、第1冷却室は、第1冷却室に流入したキャリアガスの流速を、第1冷却室への流入直前の流速よりも低下させる流速低下促進部材を有することを特徴とする。流速低下促進部材は、第1冷却室に流入したキャリアガスの流速を、第1冷却室への流入直前の流速よりも低下させる。流速低下促進部材の構造としては、キャリアガスの流速を低下させることができるものであれば、特に限定されず、キャリアガスを衝突させる構造、迷路構造を採用できる。
【0013】
様相3に係る蒸発亜鉛回収装置によれば、上記様相において、第2冷却室の流路断面積は、第2冷却室を流れるキャリアガスの流速を第1冷却室を流れるキャリアガスの流速よりも増加させるように、第1冷却室の流路断面積よりも小さく設定されており、第2冷却室はキャリアガスの流速を増加させる流速増加室とされていることを特徴とする。この場合、第2冷却室の流路断面積は、第1冷却室の流路断面積よりも小さく設定されている。このため、第2冷却室を流れるキャリアガスの流速は、第1冷却室を流れるキャリアガスの流速よりも増加する。このように第2冷却室はキャリアガスの流速を増加させる流速増加室とされている。第2冷却室の冷却構造は空冷構造でも良いし、水冷構造でも良い。第2冷却室を流れるキャリアガスの流速は、第1冷却室を流れるキャリアガスの流速よりも速いため、第2冷却室を流れるキャリアガスの冷却能を高めるためには、空冷よりも冷却速度が相対的に速い水冷が好ましい。
【0014】
様相4に係る蒸発亜鉛回収装置によれば、上記様相において、第2冷却室の下流には、亜鉛微粒子とキャリアガスとを遠心力に基づいて分離させる遠心分離室が設けられていることを特徴とする。遠心分離室は、遠心力に基づいて亜鉛微粒子を捕集するために、遠心分離した亜鉛微粒子を捕集する第3捕集部を有することが好ましい。本様相によれば、流速増加室として機能する第2冷却室の下流には遠心分離室が設けられている。遠心分離室では、遠心分離室を流れるキャリアガスの流速が速い方が、亜鉛微粒子に与える遠心力を増加でき、遠心分離性が高い。上記したように第2冷却室(流速増加室として機能)で流速を高めたキャリアガスを遠心分離室に供給すれば、遠心分離室における遠心分離性を高めることができ、遠心分離室における亜鉛微粒子の捕獲性を高めることができる。
【0015】
様相5に係る蒸発亜鉛回収装置によれば、上記様相において、第2冷却室の下流には、濾過フィルタを有する集塵部が設けられていることを特徴とする。濾過フィルタは、第1捕集部および第2捕集部で捕集されなかった亜鉛微粒子を捕集する。第1濾過フィルタは一般的には耐熱性が低いことが多い。このため高温のキャリアガスを集塵部に直接供給すれば、濾過フィルタの熱劣化を促進させる。このため第1冷却室で冷却され更に第2冷却室で冷却されることにより低温化されたキャリアガスを集塵部に供給すれば、濾過フィルタの熱劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スクラップに付着している亜鉛から蒸発した亜鉛蒸気を亜鉛微粒子として回収することができる。更に本発明によれば、スクラップを収容するスクラップ収容室を大気圧状態から高真空状態にする必要がないため、亜鉛回収に要する運転時間を短縮させることができる。
【0017】
また、従来技術のように蒸発した亜鉛微粒子を真空中において凝縮させて亜鉛微粒子を生成させる方式では、凝縮で生成した亜鉛微粒子間が高真空であるため、クーロン力等の影響で亜鉛微粒子同士が凝集し易く、亜鉛粒子のサイズが増大するおそれが高い。更に、高真空状態は、亜鉛蒸気または亜鉛微粒子を浮遊させる浮力が極めて小さいか無いため、亜鉛蒸気または凝縮した亜鉛粒子が直ぐに落下し易く、亜鉛蒸気または亜鉛粒子を捕集部まで搬送させるのが容易ではない。この場合、亜鉛粒子の回収効率が低下するばかりか、回収される亜鉛粒子のサイズが一層増大するおそれがある。
【0018】
この点本発明によれば、凝縮で生成した亜鉛微粒子をキャリアガスで搬送させるため、亜鉛蒸気または亜鉛微粒子を捕集部まで搬送させることができ、更には、亜鉛微粒子間に存在するキャリアガスにより亜鉛微粒子同士の過剰接近を抑制でき、ひいては亜鉛微粒子同士の過剰凝集を抑制できる。従って、回収される亜鉛微粒子のサイズの微細化に一層貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施形態1)
本発明の実施形態1を図1を参照しつつ説明する。図1に示すように、蒸発亜鉛回収装置は、スクラップ収容室10をもつ炉体1と、第1冷却室20をもつ第1冷却部2と、第2冷却室30をもつ第2冷却部3と、遠心分離室40をもつ遠心分離部4と、集塵室50をもつ集塵部5とを下流に向けて直列に順に配置して形成されている。
【0020】
キャリアガス供給源6は、スクラップ収容室10に供給した非酸化性ガスを、キャリアガスとして、スクラップ収容室10、第1冷却室20、第2冷却室30、遠心分離室40および集塵室50の順に流す。なお、集塵室50には、非酸化性ガスと共に、非酸化性ガス以外のガス(例えば空気)を流すようにしても良い。キャリアガスは、亜鉛蒸気および/または亜鉛微粒子をスクラップ収容室10からこれの下流に向けて運ぶことができる。キャリアガス供給源6は、非酸化性ガスが装填されたガスタンク60と、ガスタンク60とスクラップ収容室10とを連通させるガス連通路61と、ガス連通路61を開閉させるバルブ62とを備えている。
【0021】
上記したキャリアガスは、アルゴンガス、窒素ガスが例示されるが、コスト等を考慮すると、窒素ガスが好ましい。従って、スクラップ収容室10、第1冷却室20、第2冷却室30、遠心分離室40および集塵室50は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気)とされている。スクラップ収容室10の内圧は大気圧程度とされている。大気圧を1気圧とすると、スクラップ収容室10は1.0〜2気圧、1.0〜1.5気圧、殊に1.0〜1.3気圧、1.0〜1.1気圧程度とされている。
【0022】
炉体1の外側に配置されている加熱装置11(燃焼バーナ)により、スクラップ収容室10は加熱される。スクラップ収容室10は、蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップを収容すると共に600℃以上に加熱される。具体的には850〜900℃に加熱される。加熱に伴い、スクラップ収容室10のスクラップの亜鉛から亜鉛蒸気をスクラップ収容室10の非酸化性雰囲気において生成させる。この場合、亜鉛の酸化亜鉛化は抑えられる。なお、スクラップ収容室10の上部および第1冷却室20の上部は、第1連通路29で連通されている。
【0023】
図1に示すように、第1冷却部2は、第1冷却室20を形成する第1筐体22と、第1冷却室20で凝縮された亜鉛微粒子を捕集する第1捕集部23とをもつ。第1捕集部23は第1冷却室20の下部に形成されており、邪魔板部材24の突出部24xが仕切板23mを超えて第1捕集部23に向けて延設されており、亜鉛微粒子を第1捕集部23に落下させ易くしている。ここで、第1冷却室20は、外気に放熱させる空冷構造とされており、冷却速度は水冷よりも遅い。
【0024】
第1冷却室20はスクラップ収容室10よりも低温に維持される。すなわち、第1冷却室20の温度T1は250〜550℃、300〜500℃、殊に300〜400℃となるように、スクラップ収容室10の加熱温度、キャリアガスの単位時間あたり流量、第1冷却室20の放熱面積が設定されている。このため、スクラップ収容室10から流れた亜鉛蒸気は、第1冷却室20において凝縮して固相化し、亜鉛微粒子を第1冷却室20において生成させる。
【0025】
第1冷却室20は、複数の流速低下促進部材として機能する邪魔板部材24を有し、亜鉛蒸気を含むキャリアガスを曲走させるように曲走流路25を形成する。第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速をVfとし、第1冷却室20への流入直前の流速をViとする。邪魔板部材24の邪魔板作用により、キャリアガスの流速Vfを流速Viよりも低下させることができる(Vf<Vi)。邪魔板部材24の構造は、キャリアガスの流速Vfを流速Viよりも低下させることができるものであれば、特に限定されず、キャリアガスを衝突させる構造、迷路構造を採用できる。このように第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速Vfを減速させるため、第1冷却室20における亜鉛蒸気の凝縮時間が良好に確保され、第1冷却室20において亜鉛微粒子を生成させる時間が良好に確保される。従って、第1冷却部2の第1捕集部23における捕集効率が良好に確保される。
【0026】
なお、亜鉛蒸気を凝縮させるにあたり、邪魔板部材24への衝突作用が亜鉛微粒子生成のトリガーとして機能でき、亜鉛蒸気を凝縮させる凝縮作用を促進させることが期待される。第1冷却室20で凝縮されて生成された亜鉛微粒子は、落下して第1冷却部2の第1捕集部23で捕集される。
【0027】
第2冷却部3は、第2冷却室30および通水室31を形成する第2筐体32と、第2冷却室30で沈下した亜鉛微粒子を捕集する第2捕集部33とをもつ。第1冷却室20の上部と第2冷却室30の上部とは、第2連通路39で連通されている。第2捕集部33は第2冷却室30の下部に形成されている。第2冷却室30は、第1冷却室20よりも低温に維持される。すなわち、第2冷却室30の温度T2は70〜280℃、70〜200℃、殊に70〜100℃となるように、スクラップ収容室10の加熱温度、キャリアガスの単位時間あたり流量、第2冷却室30の容積、通水室31に流す単位時間当たりの通水量が設定されている。第2冷却室30は、第1冷却室20から流れたガスを冷却させつつこれの下流に向けて通過させる。第2冷却室30で沈下した亜鉛微粒子は、第2冷却部3の第2捕集部33で捕集される。あるいは、第1冷却室20で凝縮されなかった亜鉛蒸気は、第2冷却室30において凝縮して亜鉛微粒子となり、第2冷却部3の第2捕集部33で捕集される。
【0028】
ここで、第2冷却室30を流れるキャリアガスの流速Vsを第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速Vfよりも増加させるように、第2冷却室30の流路断面積は、第1冷却室20の流路断面積よりも小さく設定されている。従って、第2冷却室30は、キャリアガスの流速を増加させる流速増加室とされている。この場合、第2冷却室30の流路断面積S2は、第1冷却室20の流路断面積S1よりも小さく設定されている(S2<S1)。S2/S1=0.95〜0.4程度、0.9〜0.6程度、0.8〜0.7程度にできる。但しこれに限定されるものではない。
【0029】
上記したように第2冷却室30を流れるキャリアガスの流速Vsは、第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速Vfよりも速い。このため、キャリアガスの冷却能力を高めるため、第2冷却室30の冷却構造は、空冷よりも冷却速度が速い水冷が好ましい。従って、通水室31は第2冷却室30に隣設している。第2冷却室30のうち第2捕集部33の上方には、流路断面積が増加する拡径流路38が形成されている。拡径流路38においてキャリアガスの流速が低下するため、亜鉛微粒子が第2捕集部33に落下して捕集され易くなる。
【0030】
遠心分離部4は、遠心分離室40を形成する筐体41と、遠心分離室40に配置されたサイクロン42と、第3捕集部43とを有する。第2冷却室30の上部と遠心分離室40の上部とは、第3連通路49で連通されている。第3捕集部43は筐体41の下部に形成されており、遠心分離された亜鉛微粒子が第3捕集部43に沈下する。遠心分離室40では、遠心分離室40を流れるガスの流速が速い方が、亜鉛微粒子に作用する遠心力が大きく、遠心分離性が高いといえる。上記したように流速増加室として機能する第2冷却室30で流速を高めたキャリアガス(亜鉛微粒子を含有)を遠心分離室40に供給すれば、遠心分離室40における遠心分離性を高めることができる。故に、遠心分離室40における亜鉛微粒子の捕獲性を高めることができる利点が得られる。
【0031】
集塵部5は、集塵室50をもつ筐体51と、筐体51内に配置された濾過フィルタ52と、筐体51の下部に配置された第4捕集部53と、集塵室50内を吸引させる吸引ポンプ54(吸引要素)とをもつ。吸引ポンプ54は、蒸発亜鉛回収装置において第1冷却部2、第2冷却部3および遠心分離部4よりも下流側に配置されており、この結果、スクラップ収納室10内のキャリアガスを第1冷却部2、第2冷却部3、遠心分離部4、集塵部5を順に移動させ得るようにされている。遠心分離室40の上部と集塵室50とは第4連通路59で連通されている。濾過フィルタ52は亜鉛微粒子を捕集できるものであり、ガスを透過可能な樹脂または布などを母材としている。濾過フィルタ52は、第1捕集部23、第2捕集部33および第3捕集部43で捕集されなかった亜鉛微粒子を捕集する。濾過フィルタ52は樹脂または布などを母材としており、一般的には耐熱性が低いことが多い。このため高温のキャリアガスを集塵部5に直接供給すれば、濾過フィルタ52の熱劣化を促進させる。このため第1冷却室20で冷却され更に第2冷却室30で冷却されたキャリアガスの温度はかなり低くなっている。このように低温化されたキャリアガスを集塵部5に供給すれば、濾過フィルタ52の熱劣化を抑制することができる。
【0032】
使用方法について説明する。蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップが、炉体1のスクラップ収容室10に収容される。スクラップとしては、亜鉛めっき層が鋼板の表面に被覆された亜鉛めっき鋼板の廃棄材が例示される。炉体1のスクラップ収容室10は600℃以上に加熱される。加熱温度の上限は1100℃、1200℃以下が好ましい。亜鉛蒸気の生成を考慮すると、スクラップ収容室10の加熱温度は、700〜1200℃、750〜1100℃、850〜900℃が好ましい。加熱に伴い、スクラップに付着していた亜鉛から亜鉛蒸気がスクラップ収容室10において次第に生成される。
【0033】
スクラップ収容室10の内圧が大気圧程度となるように、吸引ポンプ54が吸引作動しているため、亜鉛蒸気はキャリアガスにより第1冷却室20に運ばれ、邪魔板部材24に衝突しつつ冷却室20により冷却され、凝縮して亜鉛微粒子を生成させる。更にキャリアガスは第2冷却室30、遠心分離室40を順に流れ、集塵部5に至る。第1冷却室20において沈下した亜鉛微粒子は、第1捕集部23にて捕集される。第2冷却室30において沈下した亜鉛微粒子は、第2捕集部33にて捕集される。遠心分離室40において沈下した亜鉛微粒子は、第3捕集部43にて捕集される。集塵部5において沈下した亜鉛微粒子は、第4捕集部53にて捕集される。
【0034】
第1捕集部23で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD1とし、第2捕集部33で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD2とし、第3捕集部43で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD3とし、第4捕集部53で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD4とすると、測定データによれば、一般的には、D1>D2>D3>D4の関係とされる。粒子径が大きい方が、重力により沈下し易いためと考えられる。
【0035】
以上説明したように本実施形態によれば、スクラップに付着している亜鉛から蒸発した亜鉛蒸気を亜鉛微粒子として回収することができる。更に従来技術とは異なり、スクラップを収容するスクラップ収容室10を大気圧状態から高真空状態にする必要がなく、運転時間を短縮させることができる。また、従来技術とは異なり、本装置は高真空状態を作り出す必要がないことから、メンテナンス性及びランニング低コスト性に優れている。
【0036】
また、上記した従来技術のように蒸発した亜鉛微粒子を真空中において凝縮させて亜鉛微粒子を生成させる方式では、凝縮で生成した亜鉛微粒子間が高真空であるため、亜鉛微粒子同士が凝集するおそれがある。この場合、亜鉛粒子のサイズが増大するおそれが高い。更に、真空は浮力が極めて小さいか、無いため、亜鉛蒸気、凝縮した亜鉛粒子が捕集部まで搬送されず、直ぐに落下してしまう。この場合においても亜鉛粒子が粗大化して、亜鉛粒子のサイズが増大するおそれがある。この点本発明によれば、凝縮で生成した亜鉛微粒子間にキャリアガスが存在しているため、亜鉛微粒子同士の過剰接近が抑制され、ひいては亜鉛微粒子同士の凝集が抑制される。この場合、亜鉛微粒子のサイズの微細化に貢献することができる。更にキャリアガスは亜鉛蒸気または亜鉛微粒子を浮遊させる浮力を有する。このため、亜鉛微粒子を捕集部23,33,43まで搬送させることができ、回収効率を高めることができる。
【0037】
(試験例)
上記した回収装置を用い、実際に試験した。この場合、スクラップ収容室10の容積を約3mとした。スクラップ収容室10に収容したスクラップは、亜鉛鋼板(亜鉛含有量:0.8質量%)の廃棄材であり、45〜60kgとした。スクラップ収容室10の加熱温度は約900℃とした。スクラップ収容室10へのキャリアガス(窒素ガス)の供給流量は3m/時間とした。スクラップ収容室10の内圧は大気圧程度とした。第1連通路29、第1冷却室20、第2冷却室30、第3冷却室40の温度を温度センサで測定したところ、第1連通路29の温度T0は500℃以上(850℃未満)であり、第1冷却室20の温度T1は300〜400℃であった。第2冷却室30の温度T2は70〜100℃であった。第3冷却室40の温度T3は50〜70℃であった。スクラップ収容室10の雰囲気は窒素ガスであり、その酸素濃度は0.1モル%であり、スクラップ収容室10は非酸化性雰囲気であった。
【0038】
第1捕集部23で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD1とし、第2捕集部33で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD2とし、第3捕集部43で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD3とし、第4捕集部53で捕集した亜鉛微粒子の平均径をD4とすると、測定データによれば、D1>D2>D3>D4の関係とされていた。具体的には、第1捕集部23で捕集した亜鉛微粒子の平均径は4〜5マイクロメートル、第2捕集部33で捕集した亜鉛微粒子の平均径は2〜3マイクロメートル、第3捕集部43で捕集した亜鉛微粒子の平均径は1〜2マイクロメートル、第4捕集部53で捕集した亜鉛微粒子の平均径は1マイクロメートル未満であった。
【0039】
更に、第1捕集部23で捕集した亜鉛微粒子の捕集量をW1とし、第2捕集部33で捕集した亜鉛微粒子の捕集量をW2とし、第3捕集部43で捕集した亜鉛微粒子の捕集量をW3とすると、測定データによれば、W2>W1の関係,W2>W3の関係であった。このように第2捕集部33で捕集した亜鉛微粒子の捕集量が最も大きかった。これは、第1冷却部2の第1冷却室20は亜鉛蒸気を凝縮させる凝縮室として機能しているため、凝縮室に隣設する下流に相当する第2冷却室30の第2捕集部33の捕集量が増加しているためと推察される。
【0040】
(実施形態2)
図2は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。第1冷却室20には邪魔板部材24が設けられていない。第1冷却室20における流路断面積は、第2冷却室30における流路断面積よりも大きく設定されている。第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速Vfを、第1冷却室20への流入直前の流速Viよりも低下させる(Vf<Vi)。このように第1冷却室20を流れるキャリアガスの流速Vfを低下させるため、第1冷却室20において亜鉛蒸気から亜鉛微粒子を凝縮させるのに必要とされる時間を良好に確保することができる。ひいては、第1冷却室20において亜鉛微粒子を生成させる時間を確保することができる。
【0041】
(実施形態3)
図3は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。第1冷却部2および第2冷却部3が設けられているものの、遠心分離部4は設けられていない。遠心分離部4の第4捕集部43で捕集されるはずの亜鉛微粒子は、集塵部5の第4捕集部53で捕集される。
【0042】
(実施形態4)
図4は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。第1冷却部2および第2冷却部3が設けられているものの、第1冷却部2および第2冷却部3の双方は、外気で冷却される空冷構造とされている。第2冷却部3は空冷性を高める複数の空冷フィン3eをもつ。
【0043】
(実施形態5)
図5は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。第1冷却部2および第2冷却部3が設けられており、第1冷却部2および第2冷却部3は水冷構造とされており、第1冷却部2は通水室21をもち、第2冷却部3は通水室31をもつ。
【0044】
(他の実施形態)
スクラップとして亜鉛めっき鋼板が用いられているが、これに限らず、亜鉛系の鋳物でも良い。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。ある実施形態に特有の構造および機能は他の実施形態についても適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明はスクラップに付着している亜鉛を回収する分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態1に係り、蒸発亜鉛回収装置を示す断面図である。
【図2】実施形態2に係り、蒸発亜鉛回収装置を示す断面図である。
【図3】実施形態3に係り、蒸発亜鉛回収装置を示す断面図である。
【図4】実施形態4に係り、蒸発亜鉛回収装置を示す断面図である。
【図5】実施形態5に係り、蒸発亜鉛回収装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1は炉体、10はスクラップ収容室、2は冷却部、20は第1冷却室、21は通水室、23は第1捕集部、3は冷却部、30は第1冷却室、33は第2捕集部、4は遠心分離部、40は遠心分離室、43は第3捕集部、5は集塵部、50は集塵室、52は濾過フィルタ、53は第4捕集部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)蒸発可能な亜鉛が付着しているスクラップを収容すると共に600℃以上に加熱され加熱に伴い前記スクラップの前記亜鉛から亜鉛蒸気を生成させるスクラップ収容室をもつ炉体と、
(ii)前記スクラップ収容室よりも低温に維持され前記スクラップ収容室から流れた前記亜鉛蒸気を凝縮させて亜鉛微粒子を生成させる第1冷却室と、前記第1冷却室で凝縮された前記亜鉛微粒子を捕集する第1捕集部とをもつ第1冷却部と、
(iii)前記第1冷却室よりも低温に維持され前記第1冷却室から流れたガスを冷却させつつ通過させる第2冷却室と、前記第2冷却室で生成または沈下した前記亜鉛微粒子を捕集する前記第2捕集部とをもつ第2冷却部と、
(iv)前記スクラップ収容室に供給した非酸化性ガスを、前記亜鉛蒸気および/または前記亜鉛微粒子を運ぶキャリアガスとして、前記スクラップ収容室、前記第1冷却室および前記第2冷却室の順に流すキャリアガス供給源とを具備することを特徴とする蒸発亜鉛回収装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1冷却室は、前記第1冷却室に流入した前記キャリアガスの流速を、前記第1冷却室への流入直前の流速よりも低下させる流速低下促進部材を有することを特徴とする蒸発亜鉛回収装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第2冷却室の流路断面積は、前記第2冷却室を流れる前記キャリアガスの流速を前記第1冷却室を流れる前記キャリアガスの流速よりも増加させるように、前記第1冷却室の流路断面積よりも小さく設定されており、前記第2冷却室は前記キャリアガスの流速を増加させる流速増加室とされていることを特徴とする蒸発亜鉛回収装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記第2冷却室の下流には、前記亜鉛微粒子と前記キャリアガスとを遠心力に基づいて分離させる遠心分離室が設けられていることを特徴とする蒸発亜鉛回収装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記第2冷却室の下流には、濾過フィルタを有する集塵部が設けられていることを特徴とする蒸発亜鉛回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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