説明

蓄光体を利用したディスプレイ

【課題】残光輝度の高低差をタイムラグとして活用し、表示部を疑似の動画として表現できる蓄光体を利用したディスプレイを提供する。
【解決手段】文字、図形、記号などからなる第1表示部10−1、第2表示部10−2、第3表示部10−3第4表示部10−4が母材12上に設けられ、残光輝度において4段階に高低差のある蓄光体が該表示部にそれぞれ区分けして設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄光体を利用したディスプレイに関するものである。
とりわけ、残光輝度において高低差のある蓄光体を利用したディスプレイに関するもの
である。
【背景技術】
【0002】
蓄光体を利用したディスプレイの産業分野において、文字、図形、記号などの表示部を
残光輝度の統一した蓄光体により表示し、太陽や蛍光灯などの光源が奏する紫外線エネル
ギーを蓄積し、光源が断たれた後も蓄光した蓄光体は蓄積した光エネルギーにより、暗中
において表示部を発光させるようにした背景技術は広く知られている。
【0003】
背景技術の表示部には、単一の残光輝度を有する蓄光体が設けられているのに止まるか
ら、その表示部が複数個形成されていても、これらの複数個の表示部は全て統一した状態
で発光し、徐々に残光輝度を減少し、遂には表示部は全て統一した状態で発光が消滅する
ものであった(特開平10ー273657号公報(たとえば、特許文献1を参照)。
【0004】
背景技術では、統一された残光輝度を備える蓄光体が採用されることにより一定の目的
を達成できた点で評価できる。
しかし、表示部には統一された残光輝度を備える蓄光体が採用されているから、その表
示部はあくまで静止状態による表示に止まり、蓄光体を採用することにより、表示部を動
的に表示するなどという発明の着想は一切なかった。
【0005】
また、蓄光体の蓄光の色彩は一般的にグリーンとブルーが広く知られているが、励起さ
れた蓄光体の発光は表示部全体が統一された状態で徐々にその残光輝度が低くなり、市販
品の残光輝度が高いものでも約10時間後には発光が消滅することも知られているとおり
である。
したがって、蓄光体は、紫外線エネルギーを吸収する自発光体であるから、電気エネル
ギーを必要としないなどの有利性を有するものの、その発光の明るさは液晶などと比較し
た鮮明とはいえないため、蓄光体を採用した各種製品の機能は必ずしも満足できなかった
し、趣味感にも欠けることも少なくなかった。
また、蓄光体の文字などの表示は静的であるから、看者に対する注意力の喚起に欠ける
きらいがあった。
【特許文献1】特開平10ー273657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、前記した背景技術の問題点を解決しようとするものであり、残光輝
度において高低差のある蓄光体を表示部に設けることにより、残光輝度の高低差をタイム
ラグとして活用し、表示部を疑似の動画として表現することにある。
【0007】
この発明の他の目的は、表示部の発光を経時変化により、従来、経験できなかったある
種の興趣に優れた趣味感のあるディスプレイを提供することにある。
表示部を疑似動的に表現することにより、看者の注意を喚起することも目的とする。
【0008】
この発明のさらに他の目的は、残光輝度において高低差のある蓄光体を採用することに
より、発光の消滅タイムラグをたとえば、30分に設定することにより、30分の時間経
過を認識できる簡易時計代わりを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記の目的を達成するため、蓄光体を利用したディスプレイの第1の課題解
決手段は、残光輝度において高低差のある蓄光体が採用されたディスプレイであって、少
なくとも2区画に形成された文字、図形、記号などからなる表示部が母材上に設けられ、
該表示部に残光輝度において高低差のある蓄光体が該表示部にそれぞれ区分けして設けら
れてなることを特徴とするものである。
【0010】
この発明は上記の目的を達成するため、蓄光体を利用したディスプレイの第2の課題解
決手段は、第1の課題解決手段において、少なくとも2区画に形成された該表示部に粒径
が大小に異なる蓄光体がそれぞれ設けられてなることを特徴とするものである。
【0011】
この発明は上記の目的を達成するため、蓄光体を利用したディスプレイの第3の課題解
決手段は、第1の課題解決手段において、少なくとも2区画に形成された該表示部に厚み
の異なる蓄光体がそれぞれ設けられてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
蓄光体を利用したディスプレイの第1の課題解決手段に係る発明は上記の構成であるか
ら、以下の作用効果を奏する。
少なくとも2区画に形成された表示部には、残光輝度の高低差のある蓄光体が設けられ
ているから、表示部の蓄光体に蓄積された光エネルギーには、残光輝度の高低差がいうま
でもなく発生する。
したがって、少なくとも2区画に形成された一方の表示部の蓄光体は他方の表示部の蓄
光体に比較して早期に発光が断たれ、他方の表示部の蓄光体は依然として発光するものの
、時間の経過とともに、他方の表示部の蓄光体も一方の表示部の蓄光体に続いて発光が断
たれる。
【0013】
かくして、前記した両者の表示部の発光時間には、長短が発生するから、人の網膜には
、先に発光が断たれた表示部が残像される一方、後に発光が断たれる他方の表示部は依然
として視認される。
したがって、人の視覚では、2区画の表示部の経時変化、つまり、2区画の表示部の発
光が順序よく断たれることより、あたかもその表示部を疑似動画的に視認できる。
【0014】
とりわけ、表示部の区画数を増加させ、残光輝度の高低差を少なくした蓄光体を順序よ
く設けることにより、一層、表示部を疑似動画的に視認できる。
因みに、理論的には、映画の映像のコマ数と同様に区画数を毎秒24個とし、各区画の
文字などの表示部を変化させることにより、映像化を図ることも可能といえる。
【0015】
さらにいえば、テレシネ装置では、フィルムの2コマをテレビの5フィールドに変換し
、フィルムの初めの1コマを2度繰り返すことにより、テレビの2フィールドに変換でき
るから、テレビの画像化についても転用できるといえる。
【0016】
さらに、残光輝度において高低差のある蓄光体を採用したから、発光の消滅タイムラグ
をたとえば、30分に設定することにより、30分の時間経過を認識できる簡易時計代わ
りを提供できる。
【0017】
その上、少なくとも2区画に設けられたそれぞれの表示部の発光が経時変化するから、
従来、経験できなったある種の趣味感に富んだ斬新な蓄光体を利用したディスプレイを得
ることができる。
また、疑似動画として観察できるから、看者の注意力を喚起できる。
【0018】
蓄光体を利用したディスプレイの第2の課題解決手段に係る発明は上記の構成であるか
ら、第1の課題解決手段に係る発明が奏する作用効果のほか、以下の作用効果を奏する。
残光輝度の高低を設定するのに、高度のものについては、粒径の大きいもの、低度のも
のについては、粒径の小さいもの採用すればよく、大小の粒径の蓄光体は、市場の市販品
を利用できるから、格別、本発明に対応する蓄光体を生産する手間を省略できるので、生
産性の向上化と生産コストの低減化に寄与できる。
【0019】
蓄光体を利用したディスプレイの第3の課題解決手段に係る発明は上記の構成であるか
ら、第1の課題解決手段および第2の課題解決手段に係る発明がそれぞれ奏する作用効果
のほか、以下の作用効果を奏する。
残光輝度の高低を設定するのに、該表示部に厚みの異なる蓄光体がそれぞれ設けられて
いるから、厚みを高くすることにより、奥深くまで蓄光させることができ、一方、厚みを
薄くすることにより、短く蓄光させることができる。
したがって、表示部の残光輝度の調整は、厚みの異なる蓄光体を採用することにより、
実施できるから生産し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
蓄光体を利用したディスプレイにおいて、発光する表示部が疑似的に動画として視認で
きるようにするなどの目的を、最小の部品点数により、蓄光機能を損なうことなく実現し
た。
【実施例1】
【0021】
この発明の実施例1を図面を参照して以下に説明する。
図1は、たとえば、睡眠時の枕元に据え置く置時計の一部に設ける蓄光体を利用した4
区画に形成された文字「お」、「や」、「す」、「み」からなる表示部によるディスプレ
イの例であるが、何ら置時計の一部に適用を制約する趣旨ではない。
因みに、発明者は、病院の入院患者のベッドの枕元にこのディスプレイを貼付
することにより、患者に消灯時間を知らせ、就寝を促すようにすることも予定した。
【0022】
図1は、4区画に形成された文字「お」、「や」、「す」、「み」からなる表示部が段
階的に発光を消滅する状態をイメージした説明図である。
図面上、下から上にかけて文字「お」、「や」、「す」、「み」からなる4区画の表示
部の残光輝度の消滅状況を段階的に表したものである。
【0023】
図1、2を参照して明らかように、残光輝度において4段階の高低差のある蓄光体が採
用されたディスプレイ10であって、この実施例の場合、4区画に形成された文字「お」
、「や」、「す」、「み」からなる表示部のうち第1表示部(お)、第2表示部(や)、
第3表示部(す)および第4表示部(み)が母材12上に設けられている。
母材12上に表示部が形成され、表示部上に蓄光体を設けることが一般的であるが、母
材を省略し、蓄光体単独によりディスプレイを得ることも発明者は予定している。
母材を設定するか否かは、この発明の単なる設計変更といえる。
【0024】
表示部は、実施例の場合、第1表示部、第2表示部、第3表示部および第4表示部の4
区画からなるが、この発明の目的を達成するには、少なくとも2区画の表示部を必須にす
るが(図4を参照)、区画数の上限は理論上制限されない。
【0025】
実施例では、第1表示部、第2表示部、第3表示部および第4表示部がひらがな文字「
おやすみ」により表されているが、もとより、漢字、カタカナ、欧文字など言語を問わな
いし、図形や記号など何ら制約されないし、これらの組み合わせも予定されている。
【0026】
もっとも、前記した4区画の第1表示部、第2表示部、第3表示部および第4表示部は
、組み合わせられた全体の該表示部により一定の思想が表現されていることが好ましいと
いえる。
つまり、少なくとも2区画に形成された表示部がまとまったある一つの考えを表現して
いることを意味することが望ましく、社会通念上無意味な表示ではこの発明の目的を達成
できないだろう。
【0027】
もとより、表示部がオリジナル性に富んでも、その表示が客観的にまとまったある一つ
の考えを表現している限り、この明細書では、一定の思想が表現されている範疇に属する
ものである。
【0028】
前記した4区画の第1表示部、第2表示部、第3表示部および第4表示部には、残光輝
度の高低差のある蓄光体が段階的に設けられているが、残光輝度の高低差のある蓄光体を
採用するについて、発明者は市販の蓄光材を利用した。
蓄光材の組成については、広く知られていることであるから、省略するもの、因みに、
商品名「ルミノーバ粉体・緑色発光・G−300Mなど」(根本特殊化学株式会社製)を
採用した。
【0029】
他方、蓄光材単独では、知られるように母材12上に結合するに困難であるから、市販
のバインダとしてビニル・ウレタン系のものを採用した。
また、残光輝度の高低差を設定するのに、蓄光材とバインダの混合比率の多寡を調整す
ることにより実施したが、残光輝度の高低差の設定は、もとより、前記の両者の混合比率
の調整のみに制約されない。
【0030】
残光輝度において4段階の高低差を備えた蓄光体を準備し、残光輝度がもっとも高い蓄
光体10−1を第1表示部(お)に、次に残光輝度の高い蓄光体10−2を第2表示部(
や)に、第2表示部(や)の蓄光体10−2に比較して残光輝度の低い蓄光体10−3を
第3表示部(す)に、そして、残光輝度のもっとも低い蓄光体10−4を第4表示部(み
)に4区画にしてそれぞれ母材12上に設けた。
なお、図面上、表示部は蓄光体の下方に隠れている。
【0031】
母材12として紙を採用したが、知られるように、プラスチックス、金属など材料を問
わない。
【0032】
このようにして得たディスプレイの機能について図1を参照して説明すると、昼間では
、ディスプレイは紫外線を吸収して蓄光体はエネルギの高い状態(励起)となる。
そして、暗くなると、蓄えられた4区画の第1表示部(お)、第2表示部(や)、第3
表示部(す)および第4表示部(み)の蓄光体10−1、10−2、10−3、10−4
は光として共通に発光する。
【0033】
しかし、第4表示部(み)の蓄光体10−4の残存輝度は、もっとも低いものであるか
ら、まず、残存輝度の蓄積時間を満了することにより、光が消滅する。
続いて、第3表示部(す)、第2表示部(や)、第1表示部(お)の蓄光体10−3、
10−2、10−1ように、残存輝度の蓄積時間を超過した順序により段階的に該表示部
の光が消滅し、遂には、暗闘の状態となるものである。
【0034】
このように、4区画に形成された第1表示部(お)、第2表示部(や)、第3表示部(
す)および第4表示部(み)の蓄光体10−1、10−2、10−3および10−4が一
定時間の経過とともに順序よく消滅するから、4区画の表示部の文字「お」、「や」、「
す」、「み」が疑似的に動画として人の視覚に残映され、従来、経験しなかった蓄光体を
利用した斬新なディスプレイ10得ることができた。
【0035】
なお、第1表示部(お)、第2表示部(や)、第3表示部(す)および第4表示部(み
)の蓄光体10−1、10−2、10−3および10−4による文字の順序を「お」、「
や」、「す」、「み」としたが、この順序を一般的ではないが、逆の表示を採用してもよ
い。
逆の表示を採用することは、単なる趣味感の相違といえる。
【実施例2】
【0036】
たとえば、図3に示されるように、残存輝度が共通するものの、蓄光層10−1、10
−2、10−3および10−4の高さに高低差を設定することにより、残光輝度の高低差
を設けることのできることも発明者は確認した。
市販され、公知の蓄光材には、使用目的に応じて残光輝度の高いもの、低いもの、両者
の中間のものが存在するから、これらを選択することも発明者は予定している。
【実施例3】
【0037】
図4に示されるように、前記した実施例1と比較して発明の本質に変化はないから、共
通な事項については、先の説明を援用し、異なる事項についてのみ説明する。
【0038】
残光輝度において高低差のある蓄光体が採用されたディスプレイ20であって、2区画
に形成された文字「T」、「O」からなる表示部が母材22上に設けられ、該表示部(T
)、(0)に残光輝度において高低差のある蓄光体20−1、20−2がそれぞれ区分け
して設けられてなる蓄光体を利用したディスプレイ20である。
第1表示部(T)の蓄光体20−1の残光輝度は高く、第2表示部(O)の蓄光体20
−2の残光輝度は低いものである。
なお、図面上、表示部は蓄光体の下方に隠れている。
【0039】
本例の表示部(T)、「O」は欧文字からなるが、欧文字「TO」の2区画の表示部は
、両区画により、まとまったある一つの考え(行く、行きなさいなど)を表現しているこ
とはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】蓄光体を利用したディスプレイの実施例を示した説明図である(実施例1)
【図2】蓄光体を利用したディスプレイの実施例を示した説明図である(実施例1)
【図3】蓄光体を利用したディスプレイの実施例を示した説明図である(実施例2)
【図4】蓄光体を利用したディスプレイの実施例を示した説明図である(実施例3)
【符号の説明】
【0041】
10 蓄光体が採用されたディスプレイ
10−1 第1表示部の蓄光体
10−2 第2表示部の蓄光体
10−3 第3表示部の蓄光体
10−4 第4表示部の蓄光体
12 母材
20 蓄光体が採用されたディスプレイ
20−1 第1表示部の蓄光体
20−2 第2表示部の蓄光体
22 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残光輝度において高低差のある蓄光体が採用されたディスプレイであって、
少なくとも2区画に形成された文字、図形、記号などからなる表示部が母材上に設けら
れ、残光輝度において高低差のある蓄光体が該表示部にそれぞれ区分けして設けられてな
ることを特徴とする蓄光体を利用したディスプレイ。
【請求項2】
少なくとも2区画に形成された該表示部に粒径が大小に異なる該蓄光体がそれぞれ設けら
れてなることを特徴とする請求項1記載の蓄光体を利用したディスプレイ。
【請求項3】
少なくとも2区画に形成された該表示部に厚みの異なる該蓄光体がそれぞれ設けられてな
ることを特徴とする請求項1記載の蓄光体を利用したディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145570(P2008−145570A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330442(P2006−330442)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(304019931)株式会社ケーアールアイ (1)
【Fターム(参考)】