説明

蓄冷熱交換器

【課題】安価であり、かつ圧縮機が停止した場合にも冷房能力の急激な低下を防止しうる蓄冷熱交換器を提供する。
【解決手段】蓄冷熱交換器1は、エバポレータ2と、蓄冷材が封入され、かつエバポレータ2の通風方向下流側に配置された蓄冷器3とを備えている。エバポレータ2は、1対のヘッダタンク4,5と、両ヘッダタンク4,5間に配置された複数の熱交換管15とを備えている。蓄冷器3は、1対のヘッダタンク16,17と、両ヘッダタンク間16,17に配置された複数の熱交換管19とを備えている。コルゲートフィン21を、エバポレータ2の隣り合う熱交換管15どうしの間、および蓄冷器3の隣り合う熱交換管19どうしの間に跨るように配置して熱交換管15,19に接合することにより、エバポレータ2および蓄冷器3における隣り合う熱交換管15,19どうしの間に配置されるコルゲートフィン21を共通化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンに用いられる蓄冷熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0003】
ところで、通常のカーエアコンにおいては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0004】
そこで、このような問題を解決したカーエアコンとして、エンジンを駆動源とする圧縮機と、圧縮機から吐出された高温高圧冷媒を冷却して凝縮させるコンデンサと、コンデンサを通過した液相冷媒を減圧する膨張弁と、低圧の液相冷媒を蒸発させるエバポレータと、エバポレータと直列に接続され、かつ蓄冷材が封入された蓄冷熱交換器と、液相冷媒循環ポンプと、蓄冷熱交換器および液相冷媒循環ポンプを内蔵しかつ液相冷媒を溜める液相冷媒タンクとを備えており、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、液相冷媒タンク内の液相冷媒を液相冷媒循環ポンプによりエバポレータに送って蒸発させ、エバポレータで蒸発した気相冷媒を蓄冷熱交換器に送って蓄冷材の蓄冷熱により冷却して凝縮させるカーエアコンが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のカーエアコンの場合、従来のカーエアコンに加えて蓄冷材が封入された蓄冷熱交換器、液相冷媒循環ポンプ、液相冷媒タンクおよびこれらを接続する配管を必要とするので、コストが高くなるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−51077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、上記問題を解決し、特許文献1記載のカーエアコンに比べて安価であり、かつ圧縮機が停止した場合にも冷房能力の急激な低下を防止しうる蓄冷熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0008】
1)エバポレータと、蓄冷材が封入され、かつエバポレータの通風方向下流側に配置された蓄冷器とを備えており、エバポレータおよび蓄冷器における隣り合う熱交換管どうしの間に配置されるフィンが共通化されている蓄冷熱交換器。
【0009】
2)エバポレータが、互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間にヘッダタンクの長さ方向に間隔をおいて配置されるとともに、両端部が両ヘッダタンクに接続された複数の熱交換管とを備え、蓄冷器が、互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間に、ヘッダタンクの長さ方向にエバポレータの熱交換管と同一の間隔をおいて配置されるとともに、両端部が両ヘッダタンクに接続された複数の熱交換管とを備えており、フィンが、エバポレータの隣り合う熱交換管どうしの間、および蓄冷器の隣り合う熱交換管どうしの間に跨るように配置されてエバポレータおよび蓄冷器の熱交換管に接合されている上記1)記載の蓄冷熱交換器。
【発明の効果】
【0010】
上記1)および2)の蓄冷熱交換器において、エバポレータは、たとえば圧縮機と、圧縮機とから吐出された高温高圧冷媒を冷却して凝縮させるコンデンサと、気液分離器と、冷媒冷却器を通過した液相冷媒を減圧する減圧器と、低圧の液相冷媒を蒸発させるエバポレータとよりなる通常の冷凍サイクルにおけるエバポレータからなる。
【0011】
圧縮機が作動している場合には、エバポレータを通過した冷却風により蓄冷器に封入されている蓄冷材が冷却されるとともに、フィンを介してエバポレータの熱交換管内を流れる冷媒から伝えられる冷熱により蓄冷器に封入されている蓄冷材が冷却される。そして、エバポレータおよび蓄冷器における隣り合う熱交換管どうしの間に配置されるフィンが共通化されているので、蓄冷材を、エバポレータの熱交換管内を流れる冷媒により冷却することができ、その結果エバポレータを通過した冷却風のみにより蓄冷器内の蓄冷材を冷却する場合に比べて、蓄冷器における蓄冷材の冷却効率が向上する。
【0012】
一方、圧縮機が停止した場合には、蓄冷器内の蓄冷材の有する冷熱が、フィンを介して蓄冷器を通過する風に伝えられる。したがって、エバポレータを通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は蓄冷器により冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0013】
しかも、エバポレータと、蓄冷材が封入され、かつエバポレータの通風方向下流側に配置された蓄冷器とを備えており、エバポレータおよび蓄冷器における隣り合う熱交換管どうしの間に配置されるフィンが共通化されているだけであるので、特許文献1記載のカーエアコンに比べてコストが安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
以下の説明において、通風方向下流側(図1〜図3に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとし、前方から後方を見た際の上下、左右(図1の上下、左右)を上下、左右というものとする。
【0016】
また、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0017】
この実施形態は図1および図2に示すものである。図1および図2は蓄冷熱交換器の全体構成を示す。
【0018】
図1および図2において、蓄冷熱交換器(1)は、エバポレータ(2)と、蓄冷材(図示略)が封入され、かつエバポレータ(2)の前側(通風方向下流側)に配置された蓄冷器(3)とを備えている。
【0019】
エバポレータ(2)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(4)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(5)と、両ヘッダタンク(4)(5)間に前後方向に間隔をおいて設けられた前後2列の熱交換管列(6A)(6B)とを備えている。
【0020】
第1ヘッダタンク(4)は、前側(通風方向下流側)に位置する冷媒入口ヘッダ部(7)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ冷媒入口ヘッダ部(7)に一体化された冷媒出口ヘッダ部(8)とを備えている。冷媒入口ヘッダ部(7)の右端部に冷媒入口(9)が設けられ、冷媒出口ヘッダ部(8)の右端部に冷媒出口(11)が設けられている。第2ヘッダタンク(5)は、前側に位置する第1中間ヘッダ部(12)と、後側に位置しかつ第1中間ヘッダ部(12)に一体化された第2中間ヘッダ部(13)とを備えている。第2ヘッダタンク(5)の右端部には、内部が第1中間ヘッダ部(12)内および第2中間ヘッダ部(13)内を通じさせる連通路となった連通部材(14)が接合されている。
【0021】
前側の熱交換管列(6A)は、第1ヘッダタンク(4)の冷媒入口ヘッダ部(7)と第2ヘッダタンク(5)の第1中間ヘッダ部(12)との間に、幅方向を前後方向に向けるとともに左右方向に間隔をおいて配置され、かつ上下両端部が上下両ヘッダタンク(4)(5)にろう付された複数のアルミニウム製扁平状熱交換管(15)からなる。後側の熱交換管列(6B)は、第1ヘッダタンク(4)の冷媒出口ヘッダ部(8)と第2ヘッダタンク(5)の第2中間ヘッダ部(13)との間に、幅方向を前後方向に向けるとともに左右方向に間隔をおいて配置され、かつ上下両端部が上下両ヘッダタンク(4)(5)にろう付された複数のアルミニウム製扁平状熱交換管(15)からなる。両熱交換管列(6A)(6B)の熱交換管(15)は、左右方向に同一位置にある。
【0022】
蓄冷器(3)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(16)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(17)と、両ヘッダタンク(16)(17)に設けられた1列の熱交換管列(18)とを備えている。熱交換管列(18)は、第1ヘッダタンク(16)と第2ヘッダタンク(17)との間に、幅方向を前後方向に向けるとともに左右方向に間隔をおいて配置され、かつ上下両端部が上下両ヘッダタンク(16)(17)にろう付された複数のアルミニウム製扁平状熱交換管(19)からなる。蓄冷器(3)内へ封入される蓄冷材としては、水系、パラフィン系などの凝固点が5℃程度のものを用いることが好ましい。また、蓄冷器(3)内への蓄冷材の封入量は、熱交換管列(18)を構成する全熱交換管(19)内を上端部まで満たすような量とするのがよい。
【0023】
エバポレータ(2)の各熱交換管列(6A)(6B)の左右方向に隣り合う熱交換管(15)どうしの間隔と、蓄冷器(3)の熱交換管列(18)の左右方向に隣り合う熱交換管(19)どうしの間隔とは等しくなっている。そして、エバポレータ(2)の各熱交換管列(6A)(6B)の左右方向に隣り合う熱交換管(15)どうしの間および各熱交換管列(6A)(6B)の左右両端の熱交換管(15)の外側、ならびに蓄冷器(3)の熱交換管列(18)の左右方向に隣り合う熱交換管(19)どうしの間および熱交換管列(18)の左右両端の熱交換管(19)の外側に、それぞれアルミニウム製コルゲートフィン(21)が、エバポレータ(2)と蓄冷器(3)とに跨るように配置されて熱交換管(15)(19)にろう付されている。すなわち、コルゲートフィン(21)は、エバポレータ(2)の後側熱交換管列(6B)の熱交換管(15)の後側縁部から蓄冷器(3)の熱交換管列(18)の熱交換管(19)の前側縁部まで至っている。また、左右両端のコルゲートフィン(21)の外側にはアルミニウム製サイドプレート(22)が、エバポレータ(2)と蓄冷器(3)とに跨るように配置されてコルゲートフィン(21)にろう付されている。
【0024】
上述した蓄冷熱交換器(1)のエバポレータ(2)は、圧縮機、冷媒冷却器としてのコンデンサ、気液分離器、および減圧器としての膨張弁とともにフロン系冷媒を使用する冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機、コンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(9)を通って第1ヘッダタンク(4)の冷媒入口ヘッダ部(7)内に入る。冷媒入口ヘッダ部(7)内に入った冷媒は左方に流れ、分流して前側熱交換管列(6A)の熱交換管(15)内に流入する。熱交換管(15)内に流入した冷媒は、熱交換管(15)内を下方に流れて第2ヘッダタンク(5)の第1中間ヘッダ部(12)内に入る。第1中間ヘッダ部(12)内に入った冷媒は右方に流れ、連通部材(14)内の連通路を通って第2中間ヘッダ部(13)内に入る。
【0025】
第2中間ヘッダ部(13)内に入った冷媒は、分流して後側熱交換管列(6B)の熱交換管(15)内に流入する。熱交換管(15)内に流入した冷媒は、熱交換管(15)内を上方に流れて第1ヘッダタンク(4)の冷媒出口ヘッダ部(8)内に入る。冷媒出口ヘッダ部(8)内に入った冷媒は、冷媒出口ヘッダ部(8)内を右方に流れ、冷媒出口(11)を通って流出する。
【0026】
そして、冷媒が前側熱交換管列(6A)の熱交換管(15)内、および後側熱交換管列(6B)の熱交換管(15)内を流れる間に、隣り合う熱交換管(15)どうしの間の通風間隙を通過する空気(図1および図2矢印X参照)と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0027】
このとき、エバポレータ(2)を通過した冷却風により蓄冷器(3)内に封入されて熱交換管(19)内に存在する蓄冷材が冷却されるとともに、エバポレータ(2)の各熱交換管列(6A)(6B)の熱交換管(15)内を流れる冷媒が有する冷熱が、コルゲートフィン(21)を介して蓄冷器(3)の熱交換管(19)内の蓄冷材が冷却され、その結果蓄冷材が凝固して冷熱が蓄えられる。
【0028】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷器(3)内の蓄冷材の有する冷熱が、コルゲートフィン(21)を介してエバポレータ(2)および蓄冷器(3)を通過する風に伝えられる。したがって、エバポレータ(2)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は蓄冷器(3)により冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0029】
図1および図2に示す蓄冷熱交換器(1)において、エバポレータ(2)の第1ヘッダタンク(4)および第2ヘッダタンク(5)は、2つの中空材の内部を前後に並んだ2つの空間に仕切ることにより形成されていてもよい。この場合、一方の中空材の前側の空間が入口ヘッダ部(7)となるとともに後側の空間が出口ヘッダ部(8)となり、他方の中空材の前側の空間が第1中間ヘッダ部(12)となるとともに後側の空間が第2中間ヘッダ部(13)となる。
【0030】
図3はこの発明の他の実施形態を示す。
【0031】
図3に示す蓄冷熱交換器(30)は、エバポレータ(2)と、エバポレータ(2)の前側に配置された蓄冷器(3)とが一体化されたものであり、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびる1対のタンク(31)(32)を備えている。
【0032】
上側タンク(31)は、エバポレータ(2)の入口ヘッダ部(7)および出口ヘッダ部(8)からなる第1ヘッダタンク(4)と、蓄冷器(3)の第1ヘッダタンク(16)とが一体化されたものである。下側タンク(32)は、エバポレータ(2)の第1中間ヘッダ部(12)および第2中間ヘッダ部(13)からなる第2ヘッダタンク(5)と、蓄冷器(3)の第2ヘッダタンク(17)とが一体化されたものである。
【0033】
その他の構成は図1および図2に示す蓄冷熱交換器(1)と同様であり、同一物および同一部分には同一符号を付す。
【0034】
図3に示す蓄冷熱交換器(30)において、上下両タンク(31)(32)は、1つの中空材の内部を前後に並んだ3つの空間に仕切ることにより形成されていてもよい。この場合、一方の中空材の前側の空間が蓄冷器(3)の第1ヘッダタンク(16)となり、前後方向中央部の空間がエバポレータ(2)の入口ヘッダ部(7)となり、後側の空間がエバポレータ(2)の出口ヘッダ部(8)となる。また、他方の中空材の前側の空間が蓄冷器(3)の第2ヘッダタンク(17)となり、前後方向中央部の空間がエバポレータ(2)の第1中間ヘッダ部(12)となり、後側の空間がエバポレータ(2)の第2中間ヘッダ部(13)となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明による蓄冷熱交換器の実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の蓄冷熱交換器の右側方から見た垂直断面図である。
【図3】この発明による蓄冷熱交換器の他の実施形態を示す図2相当の垂直断面図である。
【符号の説明】
【0036】
(1)(30):蓄冷熱交換器
(2):エバポレータ
(3):蓄冷器
(4):第1ヘッダタンク
(5):第2ヘッダタンク
(15):熱交換管
(16):第1ヘッダタンク
(17):第2ヘッダタンク
(19):熱交換管
(21):コルゲートフィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エバポレータと、蓄冷材が封入され、かつエバポレータの通風方向下流側に配置された蓄冷器とを備えており、エバポレータおよび蓄冷器における隣り合う熱交換管どうしの間に配置されるフィンが共通化されている蓄冷熱交換器。
【請求項2】
エバポレータが、互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間にヘッダタンクの長さ方向に間隔をおいて配置されるとともに、両端部が両ヘッダタンクに接続された複数の熱交換管とを備え、蓄冷器が、互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間に、ヘッダタンクの長さ方向にエバポレータの熱交換管と同一の間隔をおいて配置されるとともに、両端部が両ヘッダタンクに接続された複数の熱交換管とを備えており、フィンが、エバポレータの隣り合う熱交換管どうしの間、および蓄冷器の隣り合う熱交換管どうしの間に跨るように配置されてエバポレータおよび蓄冷器の熱交換管に接合されている請求項1記載の蓄冷熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70071(P2010−70071A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240213(P2008−240213)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】