説明

蓄熱装置および空気調和機

【課題】安価で熱容量の大きい水を主成分とする蓄熱材を用い、熱源に蓄熱槽が当接する蓄熱装置において、伝熱面以外からの放熱を抑制し、伝熱面から蓄熱材への対流熱伝達率を向上させた蓄熱装置を提供する。
【解決手段】蓄熱槽の壁面における最薄箇所を有するとともに、熱源に当接するように配置され、熱源と蓄熱材との間の伝熱を担う伝熱手段4と、伝熱手段4の蓄熱材側に設けられ、鉛直方向と交差する少なくとも一つの整流面により伝熱面に生じる蓄熱材の対流を整流する整流手段6とを備えることで、伝熱性能と耐久性を兼ね備えた蓄熱装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源に当接して用いられる蓄熱装置とこれを用いた空気調和機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートポンプ式空気調和機による暖房運転では、室外熱交換器の除霜を行うために、四方弁により冷媒の流れを暖房サイクルから冷房サイクルに切替え、高温高圧の冷媒を室外熱交換器に流すことが一般的である。この除霜方式では室内に振り向けていた熱量を室外熱交換器の除霜に振り向けるため暖房効果を損なうという欠点がある。また暖房運転では、充分加熱された室内機からの吹出し気流を確保するために、室内機の配管温度を一定温度まで昇温させた後に室内の送風を開始するので、始動時から送風開始まで遅延時間があり、この点もヒートポンプ式空気調和機の欠点と言える。
【0003】
これらの欠点を補うために、蓄熱装置を冷凍サイクルに組み込むことにより、暖房運転中に、蓄熱装置に蓄えられた圧縮機の廃熱を除霜や立上り特性の改善に利用する技術がよく用いられる。
【0004】
特許文献1はこのような従来の蓄熱装置の一例である。図6は従来の蓄熱装置の縦断面図である。図6において、蓄熱装置100は、圧縮機102の隔壁104の外周面に固設されている。また、蓄熱装置100は、アルミ箔板や銅板等の金属部材106を有しており、この金属部材106は、隔壁104の外周面に当接するように巻回されている。
【0005】
蓄熱装置100の内部には、圧縮機102で発生した熱を隔壁104を介して蓄積する蓄熱材108が収容されており、この蓄熱材108は、縦断面形状がコ字状の収容部材110と上述した金属部材106とで形成された空間部に充填されている。この空間部中には、蓄熱材108と共に、流入した冷媒を加熱する加熱配管112が配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2705734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、図6に示される従来の蓄熱装置では、金属部材106は、圧縮機102の隔壁104に当接するように巻回されているが、蓄熱材108を保持するための蓄熱槽110の壁厚が、金属部材106よりも薄く、放熱により、蓄熱槽への蓄熱量が失われるという課題がある。
【0008】
また、蓄熱材108に液体を用いた場合、金属部材106は鉛直平板であり、圧縮機102において、モーター部2と圧縮部3に挟まれているので金属部材106の高さ寸法は限定的であるがために、金属部材106と蓄熱材108との境界層に生じる自然対流は金属部材106との表面において層流の占める割合が高くなり、対流熱伝達率を低下させる一因となる。
【0009】
そこで本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、蓄熱装置からの放熱を抑制し、限定的な伝熱面においても圧縮機で発生した熱を蓄熱材に効率的に蓄積することが可能な蓄熱装置及びこの蓄熱装置を用いた空気調和機を提供するこ
とを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱装置は、水を含有する蓄熱材と、蓄熱材を内部に保持し、熱源に当接して用いられる蓄熱槽と、蓄熱槽の壁面における最薄箇所を有するとともに、熱源に当接するように配置され、熱源と前記蓄熱材との間の伝熱を担う伝熱手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱源に蓄熱槽が当接する蓄熱装置において、最薄箇所を伝熱面に持たせることにより、伝熱面以外からの放熱を抑制することができる。
【0012】
以上のことにより、伝熱性能と耐久性を兼ね備えた蓄熱装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)本発明の実施の形態1に係る蓄熱装置における蓄熱槽の見取り図(b)A−A‘断面を示す図
【図2】本発明の実施の形態1に係る伝熱手段の見取り図
【図3】本発明に係る蓄熱装置を用いた空気調和機の構成図
【図4】図3の空気調和機の通常暖房時の動作および冷媒の流れを示す模式図
【図5】図3の空気調和機の除霜・暖房時の動作および冷媒の流れを示す模式図
【図6】従来の蓄熱装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、水を含有する蓄熱材と、蓄熱材を内部に保持し、熱源に当接して用いられる蓄熱槽と、蓄熱槽の壁面における最薄箇所を有するとともに、熱源に当接するように配置され、熱源と蓄熱材との間の伝熱を担う伝熱手段と、を備えたもので、伝熱面から蓄熱材への対流熱伝達率を向上させることができる。
【0015】
第2の発明は、伝熱手段の蓄熱材側に設けられ、鉛直方向と交差する少なくとも一つの整流面により伝熱面に生じる蓄熱材の対流を整流する整流手段と、を備えたもので、比較的厚みのある伝熱面を整流手段とすることで、最薄箇所において生じる自然対流の乱流化を促し伝熱効率をあげることができる。
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態において、本発明について図面を用いて説明するが、本発明はこれらに限定することを意図しない。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る蓄熱装置(図示せず)は、空気調和装置の圧縮機の外殻に当接して用いられ、圧縮機の廃熱を蓄積し利用するためのもので、蓄熱材と共に熱交換器が内部に封入されている。蓄熱材としては水を含有するエチレングリコール溶液が充填されており、前記熱交換器は接続配管によって空気調和機の冷媒配管に連結されており、蓄熱材から得られる熱を利用して冷媒の加熱に用いられる。図1(a)は、本実施の形態1に係る蓄熱装置において蓄熱材と共に熱交換器が封入される蓄熱槽2の見取り図である。便宜的に破線で表記した部分が本実施の形態における伝熱手段4を示し、図1(b)は伝熱手段4のA−A‘断面図である。実施の形態1に係る蓄熱装置は、伝熱手段4において、熱源である圧縮機の外殻と当接し、熱源との熱の授受に供せられる。蓄熱槽2は、その外殻にポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用い、光造形により伝熱手段4は蓄
熱槽2と一体的に成形されている。伝熱手段4において圧縮機の外殻と当接する面は、蓄熱槽2と一体的に成形される際、図1(b)に示すとおり、他の蓄熱槽外殻のどの壁厚よりも薄く成形され、蓄熱槽2における壁厚の最薄箇所になっている。このように伝熱手段4において圧縮機の外殻と当接する面は、蓄熱槽外殻の壁厚の中で最も薄くすることにより、伝熱手段4以外の壁面は相対的に断熱性が高くなり熱抵抗として機能する。
【0018】
図2は、伝熱手段4を蓄熱槽2から切出した時の見取り図である。圧縮機との密着性を高めるために、圧縮機の外殻と当接する面は円筒状の鉛直平面を形成している。この鉛直平面の蓄熱材側の面には整流手段6を備えている。整流手段6は伝熱手段4と一体的に成形されており、整流手段6として個々の平板が、伝熱手段4上に立てられるように配置されてある。この整流手段6であるところの個々の平板の形状は、上方に向かって広がる三角翼形状である。さらに、蓄熱槽を圧縮機に巻回した際、上記整流手段6の平板は鉛直方向に対して一定の傾きを有し、同時に、隣り合う平板どうしは「ハ」の字状(または、逆「ハ」の字状)に配列されている。
【0019】
一般に流体の流れは臨界レイノルズ数を境に層流と乱流に分類され、同じ物質でも、流れを制御することによって伝熱効率を向上させることができる。本実施の形態においては伝熱手段4は鉛直平面を形成し、熱源であるところの圧縮機から蓄熱材への伝熱を担う。この際、伝熱手段4の鉛直面に沿って蓄熱材の自然対流が発生する。ここに整流手段6を鉛直方向に交わるように設置したことにより、蓄熱材の自然対流が平板である整流手段6の影響を受ける。つまり、蓄熱材が整流手段6の前縁を乗り超えた後で乱流となり伝熱効率を向上させることができる。本実施の形態においては特に整流手段6を自然対流の下流に向けて広がる三角翼型にしたことで、伝熱面に至るまで乱流化することができる。また隣り合う整流手段6どうしを「ハ」の字のしたことで、整流手段6に沿って流れてきた蓄熱材も平板の間隔が狭まる際に絞られ、内圧が高まることにより、伝熱面から離れた位置においても蓄熱材の対流が整流手段6を乗り越えることが促され、攪拌される領域も拡大させることができる。さらに整流手段6を乗り越えることなく通過する蓄熱材も整流手段6に絞られることにより、その流速を増加させ熱伝達率が改善される。また、この整流手段6によって絞られた流路は鉛直の流れ方向に対して連続しないよう、流路の上流側または下流側の少なくともどちらかに他の整流手段6が存在するように設置されており、自然対流の層流化が妨げられるようになっている。
【0020】
以上のように本発明に係る伝熱手段4および伝熱手段4上に設けられた整流手段6により、総じて蓄熱材の攪拌効果が得られ、蓄熱材への伝熱効率を向上させた蓄熱装置を提供することができる。
【0021】
図3に、本発明に係る蓄熱装置1を備えた空気調和機の構成を示す。本発明に係る空気調和機は、室外機56と室内機14とそれらを接続する冷媒配管から構成される。
【0022】
室外機56は圧縮機58と四方弁25と膨張弁24と室外熱交換器20が配置され、さらに圧縮機58の冷媒吐出口と四方弁25とを接続する第一配管26と、圧縮機58の冷媒吸入口と四方弁25とを接続する第二配管28と、四方弁25と室外熱交換器20とを接続する第三配管66と、室外熱交換器20と四方弁25とを接続する第四配管64とを備える。
【0023】
室内機14は室内熱交換器22と、送風ファン(図示せず)と送風方向を制御するルーバー(図示せず)とを備える。
【0024】
第五配管62は膨張弁24と室内熱交換器22との間に設置され、室外機56と室内機14とを接続する。第六配管60は、室内熱交換器22と四方弁25の間に設置され、室
外機56と室内機14とを接続する。
【0025】
さらに室外機においては、第一配管26と第四配管64とを接続する第七配管40と、配管40に設置された第一電磁弁42と、第二配管28と第五配管62とを接続する第八配管68と、第八配管68に設置された第二電磁弁44とを備える。
【0026】
本発明に係る蓄熱装置1は、第八配管68上にあり、第八配管68は蓄熱装置1内部で蛇管となり、蓄熱装置1内部にて蓄熱材との熱交換を担う。また蓄熱装置1は圧縮機58に密着し、第二配管28と第二電磁弁44との間に配置されている。
【0027】
尚、圧縮機58、送風ファン、ルーバー、四方弁25、膨張弁24、第一電磁弁42、第二電磁弁44は制御装置(図示せず、例えばマイコン)と電気的に接続され、制御装置により制御される。
【0028】
図4は、本発明に係る空気調和機の通常暖房時の動作および冷媒の流れを示す模式図である。圧縮機58の吐出口から吐出された冷媒は、第一配管26、四方弁25を経由して室内熱交換器22に至る。室内熱交換器22において冷媒より低温の室内空気と熱交換して凝縮した冷媒は、配管62を経て膨張弁24に至る。膨張弁24において減圧した冷媒は配管64を通って室外熱交換器20に至る。室外熱交換器20において冷媒より高温の室外空気と熱交換して蒸発した冷媒は配管66と四方弁25と配管28を経て圧縮機58の吸入口に戻る。
【0029】
本発明に係る蓄熱装置1は、圧縮機58に密着して設置され、圧縮機58で発生した熱を蓄熱材に蓄積する。蓄熱の際、第一電磁弁42と第二電磁弁44は閉制御されている。
【0030】
図5は、図3に示した空気調和機の構成における除霜暖房時の動作及び冷媒の流れを示す模式図である。以下、図5を参照しながら除霜暖房時の動作を説明する。図中、実線矢印は暖房に供する冷媒の流れを、破線矢印は除霜に供する冷媒の流れを示している。
【0031】
上述の通常暖房運転時に室外熱交換器20に着霜し、着霜した霜が成長すると、室外熱交換器20の通風抵抗が増加して風量が減少し、室外熱交換器20において蒸発温度が低下する。図5に示されるように、室外熱交換器20の配管温度を検出する温度センサ70が設けられており、非着霜時に比べて蒸発温度が低下したことを温度センサ70で検出すると、制御装置により、通常暖房運転から除霜暖房運転へ制御信号が切り替わる。除霜暖房運転へ切り替わると、第一電磁弁42と第二電磁弁44は開制御され、上述した通常暖房運転時の冷媒の流れに加え、圧縮機58の吐出口から出た気相冷媒の一部は配管40と第一電磁弁42を通り配管64を通る冷媒に合流して室外熱交換器20を加熱、凝縮した後、配管66、四方弁25、配管28、アキュムレータ72を介して圧縮機58の吸入口へ至る。
【0032】
また配管62から分岐した液相冷媒の一部は、配管68と第二電磁弁44を経て、蓄熱熱交換器7で蓄熱材から吸熱して蒸発気化し、配管68から配管28に合流し圧縮機58の吸入口へと戻る。
【0033】
アキュムレータ72に戻る冷媒には室外熱交換器20から戻ってくる液相冷媒が含まれているが、これに蓄熱熱交換器7から戻ってくる高温の気相冷媒を混合することにより、液相冷媒の蒸発が促進され、アキュムレータ72を通過して液相冷媒が圧縮機58に戻ることがなくなり、圧縮機58の信頼性を向上させることができる。
【0034】
除霜暖房開始時に霜の付着により氷点下になった室外熱交換器20の温度は、圧縮機5
8の吐出口から出た気相冷媒によって加熱されて、零度付近で霜が融解し、除霜が終了すると、室外熱交換器20の温度は再び上昇しはじめる。この室外熱交換器20の温度上昇を温度センサ70で検出すると、除霜が完了したと判断し、制御装置から除霜暖房運転から通常暖房運転への指示が出力される。
【0035】
上述のごとく、本実施の形態における蓄熱装置は、空調装置において圧縮機58に密着し、暖房運転時に圧縮機58で発生した熱を蓄熱材に蓄積し、通常暖房運転から除霜暖房運転に移行したときに、室内熱交換器22を経て配管62から分流した液相冷媒の一部が、蓄熱熱交換器7で蓄熱材から吸熱し蒸発、気相化させ、暖房運転と除霜運転を両立して快適性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、水を含む蓄熱材に蓄えられた熱を熱交換器で効率よく回収する蓄熱装置を提供することができ、これを用いた空気調和機や各種冷凍装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 蓄熱装置
2 蓄熱槽
4 伝熱手段
6 整流手段
7 蓄熱熱交換器
14 室内機
22 室内熱交換器
24 膨張弁
25 四方弁
26 28 40 60 62 64 66 配管
42 第一電磁弁
44 第二電磁弁
56 室外機
58 圧縮機
70 温度センサ
72 アキュムレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含有する蓄熱材と、
前記蓄熱材を内部に保持し、熱源に当接して用いられる蓄熱槽と、
前記蓄熱槽の壁面における最薄箇所を有するとともに、前記熱源に当接するように配置され、前記熱源と前記蓄熱材との間の伝熱を担う伝熱手段と、を備えることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
前記伝熱手段の前記蓄熱材側に設けられ、鉛直方向と交差する少なくとも一つの整流面により伝熱面に生じる前記蓄熱材の対流を整流する整流手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱装置。
【請求項3】
前記整流面は鉛直方向と直交しないことを特徴とする請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項4】
前記整流面の前記伝熱手段に対する高さは、前記対流の上流から下流に向かう方向に増大することを特徴とする請求項2記載の蓄熱装置。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれか1項に記載の蓄熱装置を備えることを特徴とする空気調和機。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−63076(P2012−63076A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207498(P2010−207498)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】