説明

蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置

【課題】セル短絡を確実に検知することが可能な蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置を提供する。
【解決手段】ステップS1で、蓄電池10の端子間電圧Vm及び電流Imを測定し、ステップS2では、蓄電池が充放電中であるかを判定する。充放電中と判定されると、ステップS3で端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低いか否かを判定し、端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低いと判定されると、ステップS4で端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低下していることを示す電圧低下情報を保存する。ステップS6において、それまでに劣化超過情報が保存されているかを判定し、劣化超過情報が既に保存されている場合には、ステップS7でセル短絡が発生しているときの処理を行う。ステップS2で充放電停止中と判定された場合には、劣化度の判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルを組み合わせて構成された蓄電池のセルで発生する短絡を検知するための蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載される蓄電池、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーによる発電と併用して電力の平準化や蓄電のために用いられる蓄電池、停電時のバックアップ用電源としての蓄電池等は、所定の電圧を得るために複数のセルを組み合わせて構成されており、例えば自動車に搭載される鉛蓄電池では、セル当たり約2Vの電圧を有しており、これを6個直列に接続して約12Vの電圧を得ている。鉛蓄電池の一例を図12に示す。図12(a)は、鉛蓄電池900の外観図であり、図12(b)は、鉛蓄電池900に内蔵されているセル901の概略構成図である。1つのセル901は約2Vの電圧を有しており、これを6つ直列に接続することで、鉛蓄電池900の電圧を約12Vとしている。
【0003】
セル901は、負極活物質からなる複数の負極902と正極活物質からなる複数の正極903を交互に組み合わせて構成されており、負極902と正極903との間にはセパレータ904が配設されている。また、複数の負極902を電気的に接続して負極端子905が設けられ、複数の正極903を電気的に接続して正極端子906が設けられている。このような構成の複数の負極902及び正極903が、セル容器907内の電解液908に浸されて収納されている。
【0004】
上記のように複数のセルを組み合わせて構成された蓄電池は、充放電を繰り返すことで各セルに種々の変化が生じ、その結果としてセル間で短絡が発生するおそれがある。以下では、セル内で生じる種々の変化を図13を用いて説明する。ここでは、図12(b)に示したセル901のうち、1つの負極902と1つの正極903、及びその間に配設されたセパレータ904を模式的に示している。
【0005】
図13(a)は、例えば蓄電池900を使用する前のセル901に変化が生じていない状態を示している。蓄電池900の使用を開始して充放電を繰り返すと、図13(b)に示すように、負極902の極板が膨張してセパレータ904に接したり、その一部が剥離して極板の下部に沈殿するようになる。充放電をさらに繰り返すと、図13(c)に示すように、極板の膨張がセパレータ904を圧迫して変形させたり、極板下部の沈殿物909を増大させるだけでなく、電解液908の対流によって極板の上部にも堆積物910を生成するようになる。
【0006】
図13(c)の状態からさらに充放電を繰り返すと、図13(d)に示すように、負極902の極板と正極903の極板との間で各種短絡現象が発生するおそれが出てくる。まず第1の短絡事象として、沈殿物909が負極902の極板と正極903の極板との間を接続するのに十分な量まで増大すると、充電により蓄電物が金属鉛に変化したときに短絡を発生させる。第2の短絡事象として、沈殿物909と同様に、堆積物910が負極902の極板と正極903の極板との間を接続するのに十分な量まで増大すると、充電により堆積物が金属鉛に変化したときに短絡を発生させる。
【0007】
さらに第3の短絡事象として、極板の膨張により負極902と正極903の極板間の距離が小さくなると、正極903から発生するデンドライト911と負極902の表面で生じるサルフェーション(図示せず)との接触が発生しやすくなり、何らかのタイミングで短絡が発生するおそれがある。なお、図13では、負極902の極板のみが膨張したときのセル901内の変化を模式的に示したが、実際には正極903でも同様の膨張等が生じており、両方の極板の膨張等により上記の短絡が発生するおそれがある。
【0008】
上記説明のいずれかの短絡が発生すると、短絡したセルが蓄電池として機能しなくなるため、例えば1つのセルに短絡が発生すると、本来の出力12Vが10Vに低下してしまうことになる。その結果、蓄電池を正常に使用することができなくなるため、セル短絡が発生したときはこれを速やかに検知することが強く望まれる。
【0009】
そこで、セル短絡を速やかに検知することを目的に、特許文献1には、バッテリー内の電極の上部に判断用正極及び判断用負極を設け、判断用正極と判断用負極との間に短絡が発生するのを監視するように構成された車両用制御装置の技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、セパレータ上部と負極ストラップとの間に挿入された短絡防止板に圧力センサを配置した構造の鉛蓄電池が開示されている。正極板が拡張して短絡防止板を負極ストラップの下面に押圧するようになると、圧力センサが圧迫されて電気抵抗値が急激に減少するので、これを検出することで鉛蓄電池の寿命が末期であることを通知する構成となっている。
【0011】
さらに、特許文献3では、隣接する2つのセルのそれぞれの電解液に測定用の電極を接触させ、この2つの電極間の電位差を測定し、これをもとに各隣接セル間の電位差データ列を取得し、これらの値からセル内部の短絡を検出する鉛蓄電池の検査方法等が開示されている。測定用の電極は、鉛蓄電池に設けられた液口等の孔を通して電池内部に挿入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2009−097496号公報
【特許文献2】特開平2006−185707号公報
【特許文献3】特開平2007−103112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用制御装置では、電解液の対流によって極板の上部に生成された堆積物(図13(c)に示す堆積物910)による短絡を監視することはできるが、図13(c)に示す沈殿物909による短絡や、負極と正極の極板間で発生するデンドライトによる短絡を検知することはできない。
【0014】
また、特許文献2に記載の鉛蓄電池では、正極板が拡張したことを鉛蓄電池の寿命の判定に用いているが、このような方法では、上記の第1〜3の短絡事象のいずれも精度よく検出することはできず、寿命判定ができる前にセル短絡が発生してしまうおそれがある。セル短絡防止のために、絶縁の板を設けて、セル短絡を防止している。ところが、極板膨張による寿命判定が行なえないため、圧力センサーを設けている。このような複雑な構成をとることによって、本来極板間のイオンの移動の阻害要因がふえる。これは電池の充放電特性を変化させてしまうため、短絡システムを導入することによって、電池の性能や構成が全て作り直しになる問題がある。
【0015】
さらに、特許文献3に記載の鉛蓄電池の検査方法は、鉛蓄電池を使用している状態で試用する場合には、全てのセルに対して、監視用の電極を取り付ける必要が生じ、電池用の監視システム構成が複雑になり、費用が増大する。また、測定用の電極を手作業で電池内部の各セルに順次挿入する方法も考えられるが、管理コストが多大になり、センサーシステムを適用することが難しい。
【0016】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、セル短絡を確実に検知することが可能な蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の蓄電池のセル短絡検知方法の第1の態様は、1以上のセルを内蔵する蓄電池で発生するセル短絡を検知する蓄電池のセル短絡検知方法であって、前記蓄電池の端子間電圧及び電流を取得し、前記電流をもとに前記蓄電池が充放電中か充放電停止中かを判定し、前記蓄電池が充放電中と判定すると、前記端子間電圧を所定の電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると所定の電圧低下情報を保存する一方、前記蓄電池が充放電停止中と判定すると、充放電停止からの経過時間tを求め、安定開放端電圧(安定OCV)からの経過時間tにおける前記端子間電圧の変化量である開放端電圧(OCV)変化量を算出する緩和関数F(t)を用いて前記蓄電池の劣化度を推定し、前記劣化度を所定の劣化許容値と比較し、前記劣化度が前記劣化許容値を超えていると判定すると所定の劣化超過情報を保存し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報のいずれか一方が保存されると、他方が既に保存さているか否かを判定し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報がともに保存されていると判定したとき前記セル短絡を検知することを特徴とする。
【0018】
本発明の蓄電池のセル短絡検知方法の他の態様は、前記蓄電池が充放電中と判定されると、さらに前記電流を放電電流の大きさを判定するための所定の電流判定値と比較し、前記電流が前記電流判定値より高い(放電電流を負とする)と判定されるときだけ、前記端子間電圧と前記電圧許容値との比較を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の蓄電池のセル短絡検知方法の他の態様は、前記蓄電池が充放電停止中と判定されると、さらに前記端子間電圧を前記電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると前記電圧低下情報を保存することを特徴とする。
【0020】
本発明の蓄電池のセル短絡検知方法の他の態様は、前記蓄電池が充放電停止中と判定されると、前記端子間電圧を所定の電圧推定式を用いて推定することを特徴とする。
【0021】
本発明の蓄電池のセル短絡検知方法の他の態様は、前記電圧推定式をVnow(t)とするとき、前記経過時間tが第1の時間taに達するまでは前記端子間電圧の測定値Vmを用いて、
Vnow(t)=Vm
とし、前記経過時間tが第1の時間taを超えて第2の時間Tbに達するまでは、
Vnow(t)=Vnow(ta)−dV1*(t−ta)
dV1=(Vnow(0)ーVnow(ta))/ta
とし、前記経過時間tが第2の時間tbを超えると、所定の電圧変化率dV2を用いて
Vnow(t)=Vnow(tb)−dV2*(t−tb)
とすることを特徴とする。
【0022】
本発明の蓄電池のセル短絡検知装置の第1の態様は、1以上のセルを内蔵する蓄電池で発生するセル短絡を検知する蓄電池のセル短絡検知装置であって、前記蓄電池の端子間電圧および電流を測定する測定手段と、メモリと、前記測定手段から前記蓄電池の端子間電圧及び電流を取得し、前記電流をもとに前記蓄電池が充放電中か充放電停止中かを判定し、前記蓄電池が充放電中と判定すると、前記端子間電圧を所定の電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると所定の電圧低下情報を前記メモリに保存する一方、前記蓄電池が充放電停止中と判定すると、充放電停止からの経過時間tを求め、安定開放端電圧(安定OCV)からの経過時間tにおける前記端子間電圧の変化量である開放端電圧(OCV)変化量を算出する緩和関数F(t)を用いて前記蓄電池の劣化度を推定し、前記劣化度を所定の劣化許容値と比較し、前記劣化度が前記劣化許容値を超えていると判定すると所定の劣化超過情報を前記メモリに保存し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報のいずれか一方が前記メモリに保存されると、他方が前記メモリに既に保存さているか否かを判定し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報がともに前記メモリに保存されていると判定したとき前記セル短絡を検知する状態検知部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、端子間電圧が低下しかつ劣化度が増大しているときにセル短絡の発生を判定させるようにすることで、セル短絡を確実に検知することが可能な蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法の概略を示す流れ図である。
【図2】第1の実施形態のセル短絡検知装置のブロック図である。
【図3】所定の容量変化量(ΔSOC=5%)で充放電を繰り返し行ったときの端子間電圧の変化を示すグラフである。
【図4】放電サイクル数が異なるときの放電時の端子間電圧の変化を示すグラフである。
【図5】充放電停止からのOCV変化量ΔVの一例を示すグラフである。
【図6】緩和関数F(t)を用いて劣化度SOHを推定する方法を説明するための流れ図である。
【図7】第2の実施形態(※8)の蓄電池のセル短絡検知方法を示す流れ図である。
【図8】自動車のエンジンスタート時における蓄電池の端子間電圧及び電流の変化を模式的に示すグラフである。
【図9】第3の実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を示す流れ図である。
【図10】充放電停止中の端子間電圧の変化の一例を示すグラフである。
【図11】第4の実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を示す流れ図である。
【図12】鉛蓄電池の一例を示す外観図及びセルの概略構成図である。
【図13】鉛蓄電池のセル内で生じる変化を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態における蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。本発明の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置は、自動車に搭載されている蓄電池、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーによる発電と併用して用いられる蓄電池、停電時のバックアップ用電源としての蓄電池、等に用いることが可能である。
【0026】
2以上のセルを内蔵する蓄電池又は直列に接続する組電池において、隣接セル間またはどちらか1つ以上の電池でセル短絡が発生すると、蓄電池の端子間電圧が大幅に低下することから、端子間電圧を監視してセル短絡の発生を検知する方法が考えられる。しかし、この方法では、セル短絡の発生を誤検知してしまったり、見落としてしまったりするおそれがある。セル短絡の誤検知や検知できない一例を、図3を用いて説明する。図3は、所定の容量変化量(ΔSOC=5%)で充放電を繰り返し行ったときの端子間電圧の変化を示している。
【0027】
図3では、充放電を繰り返し行った後、時間t1の時点で端子間電圧が大きく低下した一例を示している。端子間電圧の監視だけでセル短絡を判定させる場合には、図3に示すような大幅な電圧低下が発生すると、これをセル短絡の発生と判定する。しかしながら、負荷に一時的に大電流を放電した場合にもこのような端子間電圧の低下が発生することから、端子間電圧の監視だけでは、セル短絡による電圧低下と負荷への大電流の放電による電圧低下とを区別することはできない。
【0028】
そのため、端子間電圧が所定の電圧許容値より低下したことだけでセル短絡の発生を判定すると、誤検知となるおそれがある。これを避けるために、例えば充放電時の電圧変化の勾配をもとに電圧変化の原因を判定させるようにする方法も考えられるが、蓄電池の劣化状態によって放電能力や充電効率が変化するため、充放電中の電圧変化を監視しているだけでは、電圧変化の原因を正確に把握することは難しい。
【0029】
また、自動車用の蓄電池では、例えばライトを点灯したまま放置してしまう等の通常の使用形態以外の放電も考えられ、その場合にはセル短絡を発生させることなく、端子間電圧の低下と蓄電池の劣化に至ってしまう。端子間電圧を監視しているだけでは、このような場合にもセル短絡が発生したと誤検知してしまうおそれがある。
【0030】
一方、端子間電圧の大幅な低下がセル短絡の発生によるものであった場合でも、その後充電を行うと、端子間電圧は再び正常な範囲の電圧値に復帰する。そのため、セル短絡が発生してから充電が開始されるまでの間に電圧低下の検知が行われなかった場合には、少なくとも一時的にセル短絡の発生を見落としてしまうことになり、セル短絡を早期に検知できなかったことになる。
【0031】
そこで、本発明の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置では、隣接セル間で発生するセル短絡を確実に検出するために、端子間電圧の監視に加えて蓄電池の劣化度(SOH)を監視し、蓄電池の劣化が進んでいる状態で端子間電圧の大幅な低下を検出したときに、セル短絡が発生したと判定させるようにしている。ここで、蓄電池の劣化度の監視には、セル短絡に至るような進展の遅い劣化についても適切に検知できる方法を用いるのがよい。
【0032】
そのような蓄電池の劣化検知方法として、蓄電池の充放電停止からの経過時間tにおける開放端電圧(OCV)変化量(ΔVとする)を算出する緩和関数F(t)を用いて蓄電池の状態検知を行う方法がある(特願2008−103925)。ここで、OCV変化量ΔVは、充放電停止時の安定OCVからの端子間電圧の変化量として与えられる。
【0033】
この蓄電池の状態検知方法では、蓄電池が所定の状態(hで表す)のときの充放電停止後のΔVの変化(F(t))、SOC、SOHを参照データ(それぞれをFref(h)(t)、SOCref(h)、SOHref(h)とする)として事前に記憶させておく。ここで、所定の状態hとは、例えば蓄電池が未使用状態(新品)、ある程度使用された状態、使用により劣化が進んだ状態、等のあらかじめ選択された状態である。電圧測定値から算出されたΔVを用いてF(t)を最適化するとともに、参照データからF(t)に最も近いFref(h)(t)及びそのときのSOCref(h)、SOHref(h)を選択する。そして、選択されたFref(h)(t)、SOCref(h)、SOHref(h)とF(t)を用いてSOHを推定する。この状態検知方法を以下に説明する。
【0034】
緩和関数F(t)は、反応速度の異なる事象の変化を精度よく近似できるように、複数の反応速度毎緩和関数fi(i=1〜m)の和からなる次式のような関数としている。
ΔV=F(t)=f1(t)+f2(t)+・・・+fm(t) (1)
ここで、nは、n回目の充放電後の緩和関数であることを示している。
【0035】
放電時の端子間電圧の変化が放電サイクル数とともにどのように変化していくかの一例を図4に示す。ここで、放電サイクル数が大きいほど、劣化の進んだ蓄電池における端子間電圧の変化を示していることになる。放電時の端子間電圧は、放電末期の電圧降下量が劣化が進むにつれて大きくなっていき、さらに劣化が進むとセル短絡が発生して急激な電圧降下が発生する。また、充放電停止からのOCV変化量ΔVの一例を図5に示す。図5では、蓄電池が新品に近い状態のときと劣化が進んだときとを比較してOCV変化量ΔVの変化を示している。OCV変化量の変化速度は、蓄電池の劣化が進むにつれて低下しており、これを反応速度毎緩和関数fiからなる緩和関数F(t)で最適化することで、蓄電池の劣化状態を精度よく判定することが可能となる。
【0036】
特願2008−103925に記載の蓄電池の状態検知方法では、図5に示すような蓄電池の代表的な状態におけるOCV変化量ΔVを、それぞれの状態におけるSOC及びSOHとともに、参照データ(それぞれFref(h)(t)、SOCref(h)、SOHref(h))として事前に保存している。参照データとして、例えば、蓄電池を使用開始する直前の新品状態におけるデータ、蓄電池の劣化がある程度進んだときのデータ、および劣化が大きく進んだときのデータ、等を事前に測定して保存するのがよい。
【0037】
充放電停止からの経過時間tにおける電圧測定値をVmとし、安定OCVをOCVsとするとき、
ΔV=Vm(t)-OCVs (2)
で与えられる。なお、OCVsは、充放電停止から例えば20時間経過したときの電圧測定値Vm(t=20hr)を用いることができる(OCV20hrとする)。また、OCV20hrを参照データOCV20hrref(h)としてFref(h)(t)等とともに事前に保存させておき、式(2)の算出において、t<20hrのときのOCVsに用いることができる。
【0038】
電圧測定値Vm(t)から算出した式(2)のΔVの結果を用いて式(1)のF(t)を最適近似することで、反応速度毎緩和関数fiを決定することができる。最適近似されたF(t)を参照データのFref(h)(t)と比較して最も近い参照データを選択する。最適近似されたF(t)と選択された参照データより、n回目の充放電後の劣化度SOHを次式で推定することができる。
SOHi={fi(t)/firef(t)}*SOHiref (3)
SOH=A*SOH1+B*SOH2+・・・+M*SOHm
=A*{f1(t)/f1ref(t)}SOH1ref
B*{f2(t)/f2ref(t)}SOH2ref+・・・+
M*{fm(t)/fmref(t)}SOHmref
ここで、係数A〜Mは、事前に設定されたパラメータである。
【0039】
一例として、緩和関数F(t)が次式のように4つの反応速度毎緩和関数fiで与えられる場合について、さらに詳細に説明する。
F(t)=ffast(t)+fslow(t)
={ffast1(t)+ffast2(t)}+{fslow1(t)+fslow2(t)}
上式の各反応速度毎緩和関数は、4つの基準時間(t1、t2、t3、t4とする)で区切られたそれぞれの時間帯において支配的となるように設定される。基準時間t1、t2、t3、t4の一例として、それぞれ10s、1000s、36000s、72000sのように設定することができる。
【0040】
緩和関数F(t)は、t<t1では、
(t)=ffast1n−1(t)+ffast2n−1(t)+
fslow1n−1(t)+fslow2n−1(t)}
t1≦t<t2では、
(t)=ffast1(t)+ffast2n−1(t)+
fslow1n−1(t)+fslow2n−1(t)}
t2≦t<t3では、
(t)=ffast1(t)+ffast2(t)+
fslow1n−1(t)+fslow2n−1(t)}
t3≦t<t4では、
(t)=ffast1(t)+ffast2(t)+
fslow1(t)+fslow2n−1(t)}
t4≦tでは、
(t)=ffast1(t)+ffast2(t)+
fslow1(t)+fslow2(t)}
のようにすることができる。
【0041】
上式のいずれかのF(t)を用いて、例えば遅い反応速度の成層化度合いによるSOH(SOH1とする)は、次式で推定することができる。
SOH1=fslow(t)/fslow ref(t)*SOH1ref
={fslow1(t)+fslow2(t)}/
{fslow1 ref(t)+fslow2 ref(t)}*SOH1ref
【0042】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置を、図1、2を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法の概略の処理の流れを示す流れ図であり、図2は、本実施形態のセル短絡検知装置のブロック図である。図2において、蓄電池10は負荷20に電流を供給(放電)したり、充電器30から充電される構成となっている。本実施形態のセル短絡検知装置100は、蓄電池10から端子間電圧及び電流を入力し、これをもとに蓄電池10でセル短絡が発生したかを監視している。
【0043】
セル短絡検知装置100は、状態検知部110、測定手段120、メモリ130、及び表示手段140を備えている。測定手段120は、蓄電池10の端子間電圧及び電流を測定し、これを状態検知部110に出力している。状態検知部110は、蓄電池10が充放電中のときと充放電停止中のときとで異なった処理を行う。すなわち、充放電中は、測定された端子間電圧を所定の電圧許容値(Vlimとする)と比較し、端子間電圧が電圧許容値Vlimより低いと判定すると所定の電圧低下情報をメモリ130に保存する。そして、メモリ130に電圧低下情報と後述の劣化超過情報がともに保存されているかをチェックし、ともに保存されているときにセル短絡が発生していると判定する。
【0044】
一方、充放電停止中は、充放電停止からの経過時間tを求め、そのときの蓄電池10の劣化度を緩和関数F(t)を用いて、式(3)のように推定する。推定された劣化度は、所定の劣化許容値(SOHlimとする)と比較され、劣化度が劣化許容値SOHlimを超えていると判定されると、所定の劣化超過情報がメモリ130に保存される。そして、メモリ130に電圧低下情報と劣化超過情報がともに保存されているかをチェックし、ともに保存されているときにセル短絡が発生していると判定する。
【0045】
本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を、図1を用いてさらに詳細に説明する。本実施形態のセル短絡検知方法は、状態検知部110において所定の周期で行われる。状態検知部110では、所定の周期に達するとまず、測定手段120を用いて蓄電池10の端子間電圧Vm及び電流Imが測定される(ステップS1)。次のステップS2では、蓄電池10が充放電中であるかを判定する。充放電の判定では、ステップS1で測定した電流Imがほぼゼロのときを充放電停止中とし、それ以外を充放電中とする。
【0046】
ステップS2で充放電中と判定されると、ステップS3で端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低いか否かを判定する。電圧許容値Vlimは、セル短絡による電圧低下量を考慮して、負荷20に要求される最低電圧以下の好適な値に設定しておく。ステップS3において、端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低いと判定されると、ステップS4で端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimより低下していることを示す電圧低下情報をメモリ130に保存する。あるいは、このときの端子間電圧Vmを保存するようにしてもよい。これに対し、ステップS3で端子間電圧Vmが電圧許容値Vlim以上であると判定された場合には、セル短絡が発生していないとして処理を終了する(ステップS5)。
【0047】
ステップS4で電圧低下情報がメモリ130に保存されると、ステップS6において、それまでに劣化超過情報がメモリ130に保存されているかを判定する。その結果、劣化超過情報が既にメモリ130に保存されている場合には、ステップS7でセル短絡が発生しているときの処理を行う。すなわち、セル短絡が発生していることを通知するための処理を行い、次のステップS8でセル短絡の発生を通知するメッセージ等を表示手段140に表示させる。これに対し、ステップS6で劣化超過情報がメモリ130に保存されていないと判定されると、セル短絡が発生していないとして処理を終了する(ステップS5)。
【0048】
一方、ステップS2で充放電中でない(充放電停止中)と判定されると、ステップS9で緩和関数F(t)を用いて蓄電池10の劣化度SOHが推定される。次のステップS10では、推定された劣化度SOHが劣化許容値SOHlimを超過しているか否かを判定する。劣化許容値SOHlimについても、蓄電池10の使用条件等に基づいてあらかじめ設定しておく。
【0049】
ステップS10において、劣化度SOHが劣化許容値SOHlimを超過していると判定されると、ステップS11で劣化度SOHが劣化許容値SOHlimを超過していることを示す劣化超過情報をメモリ130に保存する。あるいは、このときの劣化度SOHを保存するようにしてもよい。これに対し、ステップS10で劣化度SOHが劣化許容値SOHlim以下であると判定されると、セル短絡が発生していないとして処理を終了する(ステップS5)。
【0050】
ステップS11で劣化超過情報がメモリ130に保存されると、ステップS12において、それまでに電圧低下情報がメモリ130に保存されているかを判定する。その結果、電圧低下情報が既にメモリ130に保存されている場合には、ステップS7、S8に進んでセル短絡が発生しているときの処理を行う。これに対し、ステップS12で電圧低下情報がメモリ130に保存されていないと判定されると、セル短絡が発生していないとして処理を終了する(ステップS5)。
【0051】
次に、ステップS9において、緩和関数F(t)を用いて蓄電池10の劣化度SOHを推定する方法を、図6を用いてさらに詳細に説明する。図6は、緩和関数F(t)を用いて劣化度SOHを推定する方法を説明するための流れ図である。まず、ステップS21では、充放電停止中の蓄電池10の端子間電圧(開放端電圧)として、ステップS1で測定した端子間電圧Vmを入力する。つぎのステップS22では、端子間電圧Vmと適切に選択されたOCVsから、OCV変化量ΔVを算出する。
【0052】
ステップS23では、緩和関数F(t)がステップS23で算出したOCV変化量ΔVを精度よく近似するように、緩和関数F(t)を最適化する。ステップS24では、最適化された緩和関数F(t)に最も近い参照データFref(h)(t)を選択する。さらに、ステップS25では、最適化されたF(t)及び参照データFref(h)(t)、SOHref(h)を用いて、式(3)に基づいて劣化度SOHを算出する。
【0053】
本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置によれば、端子間電圧が低下しかつ劣化度が増大していることを検知したときにセル短絡が発生したと判定していることから、セル短絡を確実に検知することができ、かつ誤検知を回避することができる。これにより、本実施形態のセル短絡検知装置を備えた蓄電池は、負荷に安定した電圧の電力を供給することができ、車両運行や補機のバックアップとしての信頼性を高めることができる。
【0054】
本実施形態のセル短絡検知装置を備えない従来の蓄電池では、セル短絡を未然に防止するために、出荷時からのカレンダー寿命で交換が行われていた。これに対し、本実施形態のセル短絡検知方法及び検知装置を用いた蓄電池では、蓄電池毎の使用履歴に基づいてセル短絡が判定されるため、蓄電池の寿命診断の精度が向上するとともに、蓄電池を寿命末期まで効率よく使用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置を、図7を用いて以下に説明する。図7は、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法の処理の流れを示す流れ図である。自動車では、エンジンをスタートさせるときに蓄電池からモータに1000A程度の突入電流が投入され、その後100A程度のクランキングが行われる。このときの電圧、電流の変化の一例を図8に示す。図8は、自動車のエンジンスタート時における蓄電池の端子間電圧及び電流の変化を模式的に示したグラフである。
【0056】
図8に示すように、モータに大電流が放電されるのは短時間だけであるが、その間端子間電圧が瞬間的に電圧許容値Vlimを下回ることがある。しかし、このような瞬間的な電圧降下は、蓄電池の放電能力に与える影響が小さく、また蓄電池から電源供給を受けているマイコン等がエラーを起こすおそれもない。従って、このような通常の利用形態による一時的な電圧降下をセル短絡と誤検知しないようにする必要がある。
【0057】
そこで、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置では、測定電流値が所定の電流判定値以下の大きな放電電流の場合には(測定電流は、放電を負とする)、端子間電圧電圧が許容電圧値を下回るか否かの判定を行わないようにする。本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を、図7に示す処理の流れ図を用いて説明する。
【0058】
まず、ステップS1で蓄電池10の端子間電圧Vmと電流Imが測定され、ステップS2で充放電中と判定されると、ステップS31で電流Imが所定の電流判定値Istより高いか否かを判定する。ここで、電流判定値Istは、その放電により端子間電圧Vmが電圧許容値Vlimに達する可能性のある電流値を基準に設定された値である。
【0059】
ステップS31において、電流Imが電流判定値Istより高いと判定されると、第1の実施形態と同様に、ステップS3以下の処理により電圧低下を判定してセル短絡の発生を検知する。これに対し、ステップS31で電流Imが電流判定値Ist以下であると判定されると、セル短絡の検知を行わずに、ステップS5に進んで処理を終了する。この場合には、モータ起動等のために短時間だけ大電流が放電されたと判断し、電圧低下を判定してセル短絡を検知する処理を行わないようにしている。一方、ステップS2で充放電停止中と判定された場合には、第1の実施形態と同様に、ステップS9以下の処理により劣化超過を判定してセル短絡の発生を検知する。
【0060】
本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置によれば、短時間の大電流の放電による瞬間的な電圧降下と区別してセル短絡を検知することが可能となり、セル短絡の誤検知を防止して信頼性の高いセル短絡の検知を行うことができる。
【0061】
(第3の実施形態)
第1の実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置では、充放電停止中は、劣化度SOHが許容値を超過したか否かの検知のみを行っていた。しかしながら、充放電停止中でも、セル短絡が発生して端子間電圧が低下するおそれがあることから、本実施形態では、充放電停止中でも電圧低下の検知を行うようにしている。本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を、図9を用いて以下に説明する。図9は、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法の処理の流れを示す流れ図である。
【0062】
本実施形態では、ステップS2で充放電中と判定された場合は、第1の実施形態と同様に電圧低下を判定してセル短絡の発生を検知する。一方、ステップS2で充放電停止中と判定された場合には、第1の実施形態のステップS9〜S12の処理に加えて、ステップS40〜S44の処理を行う。
【0063】
状態検知部110に用いるマイコンは、充放電中や充放電停止直後には蓄電池10の状態検知を短い周期で高速に行う(高速応答モード)。この場合には、蓄電池の状態検知装置で消費される消費電力が比較的大きくなる。また、充放電を停止してからある程度時間が経過すると、消費電力を低減するために、マイコンの処理周期を長くする低速モードに移行する。さらに、充放電停止からの経過時間が長くなると、マイコンの処理を停止させた停止モードに移行する。この場合には、消費電力は限りなく小さくなる。
【0064】
本実施形態では、蓄電池10の充放電停止中も、蓄電池の電圧を監視するとともに、上記のマイコンの動作モードに応じた監視を行っている。まず、ステップS40で測定した端子間電圧VmをVm_stopとおく。つぎのステップS41では、ステップS3と同様に、充放電停止中の端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stopより低いか否かを判定する。ステップS41において、充放電停止中の端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stopより低いと判定されると、ステップS42で端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stopより低下していることを示す電圧低下情報をメモリ130に保存する。これに対し、ステップS41で端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stop以上であると判定されると、ステップS9に進んで第1の実施形態と同様に劣化超過を判定してセル短絡の発生を検知する。
【0065】
ステップS11で劣化超過を判定した後、ステップS12で電圧低下情報も保存されていると判定すると、第1の実施形態と同様にステップS7に進んでセル短絡が発生していることを通知する。これに対し、ステップS12で電圧低下情報が保存されていないと判定された場合には、ステップS43において、所定の周期で蓄電池10の状態検知を指示する。これは、マイコンが停止モードの場合に、低速モードに起動して状態検知を行うために、端子間電圧Vmを測定するか、予め参照データとして測定された電圧降下量から現在の電圧値Vnowを推定させるものである。そして、ステップS43で状態検知の指示があると、その時点の端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stopより低下しているかを判定し、低下している場合には、ステップS7に進む。一方、端子間電圧Vm_stopが電圧許容値Vlim_stop以上の場合には、ステップS43に戻り、再び所定の周期で蓄電池10の状態検知を指示する。
【0066】
本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置によれば、充放電停止中にセル短絡が発生して端子間電圧が大幅に低下した場合でも、これを確実に検知することが可能となる。
【0067】
(第4の実施形態)
第1の実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置では、充放電停止中も、劣化度SOCを推定するために端子間電圧Vmを測定して用いていた。しかしながら、例えば自動車に搭載される蓄電池では、自動車が長時間停車していると、蓄電池10の消費電力を抑えるために、測定手段120等のセンサーに供給している駆動用電力を低減してセンサーを停止させることがある。その場合には、測定手段120で端子間電圧Vmを測定することができなくなる。その対応として、測定手段120で最後に測定した端子間電圧Vmをそのまま使用し続けることも可能であるが、停車期間が長期になるにつれて端子間電圧Vmの誤差が大きくなっていく。
【0068】
そこで、充放電を長時間停止したときの端子間電圧の変化を調べた結果、充放電停止から約100時間以上経過した後は、蓄電池の初期状態によらず電圧変化がほぼ同じになることが明らかとなった。充放電停止中の端子間電圧の変化の一例を図10に示す。ここでは、停車中もセンサー等に微小な電流が供給されることを考慮して、10mAの放電電流がある場合の端子間電圧の変化を示している。また、同図に示すそれぞれの端子間電圧の変化は、充放電停止を開始したときのSOC等の初期値が異なる場合を示している。同図に示すように、充放電停止から約100時間以上経過すると、電圧の変化が蓄電池の初期状態によらずほぼ同じ(平行)になることがわかる。
【0069】
このような充放電停止中の端子間電圧の変化の特徴を反映して、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法では、充放電停止中の端子間電圧を予め作成した電圧推定式等を用いて推定するようにしている。以下では、充放電を停止してから時間tが経過したときの端子間電圧(以下では現在の端子間電圧という)を測定値Vmと区別して説明するために、現在の端子間電圧をVnow(t)と表すものとする。充放電停止中の現在の端子間電圧Vnow(t)を推定するための推定式を、以下に説明する。
【0070】
まず、充放電停止から時間taが経過するまでは(例えばta=10時間)、測定手段120で端子間電圧の測定が可能であるとすると、その間は測定電圧Vmを用いることができる。
Vnow(t)=Vm (4)
0≦t≦ta
【0071】
次に、充放電停止からの経過時間tが時間taを超えて時間tbに達するまでは(例えばta=100時間)、端子間電圧の変化が蓄電池10の初期状態によって異なるとしたとき、測定手段120で最後に測定された端子間電圧Vnow(ta)を用いて、現在の端子間電圧Vnow(t)を次式で算出させるようにすることができる。
Vnow(t)=Vnow(ta)−dV1*(t−ta) (5)
dV1=(Vnow(0)−Vnow(ta))/ta
ta<t≦tb
【0072】
ここで、dV1は、測定可能な期間の端子間電圧の測定値を用いて算出した端子間電圧の変化率であり、充放電停止を開始したとき(t=0)の端子間電圧Vnow(0)と時間ta経過時の端子間電圧Vnow(ta)を用いて算出している。端子間電圧の変化率は、図10に示すように、時間の経過とともに徐々に小さくなっていくことから、上記のdV1を用いることで、端子間電圧を安全側(低電圧側)に推定することになる。
【0073】
また、測定手段120が使用できなくなると、センサーが有するタイマーが使用できなくなって充放電停止からの経過時間tを求めることができなくなるおそれがある。その場合には、センサー以外のシステム(自動車等)内部のタイマーやカウンター等から時刻を取得するか、外部との通信手段(GPS、VICS等)によって取得可能にしておく。
【0074】
さらに、充放電停止から時間tb以上経過すると、端子間電圧の変化がほぼ一定になることから、このときの変化率dV2を予め求めておくものとする。変化率dV2は、例えば図10に示す時間tb経過時の端子間電圧と、さらに所定時間(例えば1000時間)経過したときの端子間電圧との差から算出して用いることができる。このとき、端子間電圧Vnow(t)は、dV2を用いて次式で与えられる。
Vnow(t)=Vnow(tb)−dV2*(t−tb) (6)
tb<t
【0075】
上記の充放電停止中の端子間電圧の推定式を用いた本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法を、図11を用いて説明する。図11は、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法の処理の流れを説明するための流れ図である。図11(a)のステップS2における充放電中か否かの判定では、測定手段120が停止したため電流Imの測定値が得られない場合には、電流Imの測定不可を検知して充放電停止中と判定させる。
【0076】
充放電停止中と判定されたときの本実施形態のセル短絡検知方法では、まずステップS50で端子間電圧Vnow(t)を算出する。端子間電圧を取得した後の処理は、第1の実施形態または第3の実施形態と同様である。但し、ステップS9またはステップS40以降では、端子間電圧として、測定値Vmに代えてVnow(t)を用いる。
【0077】
ステップS50における処理を、図11(b)用いて説明する。まず、ステップS51で充放電停止からの経過時間tが時間ta以下であるか否かを判定し、経過時間tが時間ta以下のときはステップS52に進む一方、経過時間tが時間taを超えるときはステップS53に進む。ステップS52では、式(4)を用いて端子間電圧Vnow(t)を算出して終了する(図11(a)のステップS9に進む。以下同様)。
【0078】
次に、ステップS53では、経過時間tが時間tb以下であるか否かを判定し、経過時間tが時間tb以下のときはステップS54に進む一方、経過時間tが時間tbを超えるときはステップS55に進む。ステップS54では、式(5)を用いて端子間電圧Vnow(t)を算出して終了する。また、ステップS55では、式(6)を用いて端子間電圧Vnow(t)を算出して終了する。
【0079】
上記のように、本実施形態の蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置では、充放電停止中でも適切な端子間電圧を取得することができ、セル短絡を確実に検知することが可能となる。
【0080】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における蓄電池のセル短絡検知方法及び検知装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0081】
10、900 蓄電池
20 負荷
30 充電器
100 セル短絡検知装置
110 状態検知部
120 測定手段
130 メモリ
140 表示手段
901 セル
902 負極
903 正極
904 セパレータ
905 負極端子
906 正極端子
907 セル容器
908 電解液
909 沈殿物
910 堆積物
911 デンドライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のセルを内蔵する蓄電池で発生するセル短絡を検知する蓄電池のセル短絡検知方法であって、
前記蓄電池の端子間電圧及び電流を取得し、前記電流をもとに前記蓄電池が充放電中か充放電停止中かを判定し、前記蓄電池が充放電中と判定すると、前記端子間電圧を所定の電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると所定の電圧低下情報を保存する一方、
前記蓄電池が充放電停止中と判定すると、充放電停止からの経過時間tを求め、安定開放端電圧(安定OCV)からの経過時間tにおける前記端子間電圧の変化量である開放端電圧(OCV)変化量を算出する緩和関数F(t)を用いて前記蓄電池の劣化度を推定し、前記劣化度を所定の劣化許容値と比較し、前記劣化度が前記劣化許容値を超えていると判定すると所定の劣化超過情報を保存し、
前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報のいずれか一方が保存されると、他方が既に保存さているか否かを判定し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報がともに保存されていると判定したとき前記セル短絡を検知する
ことを特徴とする蓄電池のセル短絡検知方法。
【請求項2】
前記蓄電池が充放電中と判定されると、さらに前記電流を放電電流の大きさを判定するための所定の電流判定値と比較し、前記電流が前記電流判定値より高い(放電電流を負とする)と判定されるときだけ、前記端子間電圧と前記電圧許容値との比較を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池のセル短絡検知方法。
【請求項3】
前記蓄電池が充放電停止中と判定されると、さらに前記端子間電圧を前記電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると前記電圧低下情報を保存する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電池のセル短絡検知方法。
【請求項4】
前記蓄電池が充放電停止中と判定されると、前記端子間電圧を所定の電圧推定式を用いて推定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蓄電池のセル短絡検知方法。
【請求項5】
前記電圧推定式をVnow(t)とするとき、前記経過時間tが第1の時間taに達するまでは前記端子間電圧の測定値Vmを用いて、
Vnow(t)=Vm
とし、前記経過時間tが第1の時間taを超えて第2の時間Tbに達するまでは、
Vnow(t)=Vnow(ta)−dV1*(t−ta)
dV1=(Vnow(0)ーVnow(ta))/ta
とし、前記経過時間tが第2の時間tbを超えると、所定の電圧変化率dV2を用いて
Vnow(t)=Vnow(tb)−dV2*(t−tb)
とする
ことを特徴とする請求項4に記載の蓄電池のセル短絡検知方法。
【請求項6】
1以上のセルを内蔵する蓄電池で発生するセル短絡を検知する蓄電池のセル短絡検知装置であって、
前記蓄電池の端子間電圧および電流を測定する測定手段と、
メモリと、
前記測定手段から前記蓄電池の端子間電圧及び電流を取得し、前記電流をもとに前記蓄電池が充放電中か充放電停止中かを判定し、前記蓄電池が充放電中と判定すると、前記端子間電圧を所定の電圧許容値と比較し、前記端子間電圧が前記電圧許容値より低いと判定すると所定の電圧低下情報を前記メモリに保存する一方、前記蓄電池が充放電停止中と判定すると、充放電停止からの経過時間tを求め、安定開放端電圧(安定OCV)からの経過時間tにおける前記端子間電圧の変化量である開放端電圧(OCV)変化量を算出する緩和関数F(t)を用いて前記蓄電池の劣化度を推定し、前記劣化度を所定の劣化許容値と比較し、前記劣化度が前記劣化許容値を超えていると判定すると所定の劣化超過情報を前記メモリに保存し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報のいずれか一方が前記メモリに保存されると、他方が前記メモリに既に保存さているか否かを判定し、前記電圧低下情報及び前記劣化超過情報がともに前記メモリに保存されていると判定したとき前記セル短絡を検知する状態検知部と、を備える
ことを特徴とする蓄電池のセル短絡検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−112453(P2011−112453A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267708(P2009−267708)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】