説明

蓄電池劣化診断システムおよびその方法

【課題】蓄電池システムにおける性能劣化を抑制する。
【解決手段】劣化診断対象セルリスト作成部は、複数のセルの中から診断対象セルを選択し、前記診断対象セルのリストを作成する。セル劣化診断部は、前記リストに含まれる診断対象セルの劣化診断を行うことにより、または外部の劣化診断装置に前記診断対象セルの劣化診断を要求することにより、診断対象セルの劣化度合いを取得する。温度分布推定部は、前記複数のセルのうち前記リストに含まれる診断対象セル以外の非対象セルの劣化度合いを、前記非対象セルおよび前記診断対象セル間の距離に基づいて推定し、前記診断対象セルおよび前記非対象セルの劣化度合いに基づき、前記複数のセル全体の温度分布を取得する。前記劣化診断対象セルリスト更新部は、前記温度分布に基づき、前記診断対象セルのリストを更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電池劣化診断システムおよびその方法に関し、たとえば複数のセルから構成される蓄電池システムのセル劣化の診断に関わる。
【背景技術】
【0002】
PV(太陽光発電)等の再生可能エネルギーや電力系統の安定化やEV(電気自動車)等、蓄電池の役割は非常に重要になっている。これら多種の利用状況に対応するため、電池セル(以下、セル)複数個を連結構成にした蓄電池(電池パック)を利用する形態が蓄電池システムである。蓄電池システムは、安全かつ安心して使用できることが切望されており、蓄電池システム全体として劣化しにくいことが重要である。
【0003】
近年、あらゆる電子機器や生活環境の電子化に伴い、蓄電池システムにはますます大容量化を求められており、ひとつの蓄電池システムを構成するセルの連結個数が、極めて多くなってくる。現在では、EVに数千個程度のセルを含んだ蓄電池システムが採用されている実績もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−99375号公報
【特許文献2】特開2007−311065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のセルから構成される蓄電池をもつ蓄電池システムでは、セルの個体組成ばらつきに起因して、充放電を繰り返すことで、セルごとに劣化の度合いが変化していく。従来の蓄電池システムでは、あるセルが劣化したとき他の正常なセルも前記劣化セルに容量を揃える必要があり、蓄電池システム全体として性能が劣化、さらには、蓄電池システムそのものの故障の原因となる。このとき、前記蓄電池システムには、まだ劣化していないセルも複数存在しており、これらの正常なセルはその性能を使い切ることなく、蓄電池システムの交換を余儀なくされてしまうことになる。
【0006】
一方で、このような無駄をなくすため、劣化したセルを交換することで、前記蓄電池システムの性能を回復させることが考えられる。しかしながら、大規模な蓄電池システムでは、例えば数万ものセルを含む蓄電池が搭載されているため、どのセルが顕著に劣化しているのか、その検出が困難となる。もし、逐次的に劣化セルを探索するとなると、数万セル分のセルの劣化診断を行う必要があり、非常に時間のかかる作業になってしまう。
【0007】
そこで、本発明の一側面の目的は、蓄電池におけるセルの劣化度合いを効率的に把握できる蓄電池劣化診断システムおよびその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様としての蓄電池劣化診断システムは、劣化診断対象セルリスト作成部、セル劣化診断部、温度分布推定部、および劣化診断対象セルリスト更新部を備える。
【0009】
前記劣化診断対象セルリスト作成部は、蓄電池システムを形成する複数のセルの中から診断対象セルを選択し、前記診断対象セルのリストを作成する。
【0010】
前記セル劣化診断部は、前記リストに含まれる診断対象セルの劣化診断を行うことにより、または外部の劣化診断装置に前記診断対象セルの劣化診断を要求することにより、前記診断対象セルの劣化度合いを取得する。
【0011】
前記温度分布推定部は、前記複数のセルのうち前記リストに含まれる診断対象セル以外の非対象セルの劣化度合いを、前記非対象セルおよび前記診断対象セル間の距離に基づいて推定し、前記診断対象セルおよび前記非対象セルの劣化度合いに基づき、前記複数のセル全体の温度分布を取得する。
【0012】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、前記温度分布に基づき、前記診断対象セルのリストを更新する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる蓄電池劣化診断システムの構成を示すブロック図。
【図2】図1に示した蓄電池劣化診断システムの動作フローを示すフローチャート図。
【図3】蓄電池システムを形成するセル群の構成図。
【図4】着目するセルから他のセルへの熱の拡散の影響度を説明するための図。
【図5】劣化診断対象セルを明示した図。
【図6】劣化診断対象のセルのリストを示す図。
【図7】推定した温度分布を明示した図。
【図8】劣化診断対象セル以外のセルの劣化度の推定方法を説明するための図。
【図9】温度分布から更新した劣化診断対象セルを明示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず本発明の実施形態が着想されるに至った経緯について述べる。
【0015】
複数のセルから構成される蓄電池をもつ蓄電池システムに対して、有志研究により、セルの劣化はそのセルの温度で説明できることが分かっており、特に温度が高い状態が長く続けばセルは加速的に劣化する傾向にある。また、セルの劣化は、一般的に内部抵抗を増加させ、すなわち、(電流値)^2*(抵抗値)で表わせる電力・発熱量は増加することになる。したがって、蓄電池の内部において、温度が高い領域ではセルが劣化している傾向にあり、逆に言うと、劣化したセルは内部抵抗が高く発熱量が多いために温度が高くなる傾向にある、ということが言える。
【0016】
セルで発生する熱は、物理的及び回路的に隣接するセル(以下、隣接セル)に伝播(空間伝播及び結線伝播)する熱拡散の特性をもつため、ある劣化したセルの隣接セルは、前記劣化したセルに引きずられて劣化している可能性が定性的に高い。言い換えると、前記温度分布推定機能で推定した温度分布において、温度が高い領域に存在するセルは劣化していることになるが、それにともなって、その劣化したセルの隣接セルも劣化している可能性が高い。したがって、蓄電池システム全体の劣化具合を把握するためには、温度が高い領域を集中的に劣化診断するのが効率的と言える。
【0017】
そこで、本発明の実施形態では、温度分布を利用して蓄電池システム全体におけるセルの劣化度合いを効率的に把握する方法を提供する。
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
<概要>
図1は、本発明の一実施形態にかかる蓄電池劣化診断システムのブロック図、図2は本発明の一実施形態にかかる劣化セル検出方法のフローチャート図である。
【0020】
図1の蓄電池劣化診断システムは、図1の実線の枠線で示すように、劣化診断対象セルリスト作成部101、セル劣化診断部102、温度分布推定部103、劣化診断対象セルリスト更新部104、セル構成情報105、熱拡散形状情報106、で構成される。熱拡散形状情報計算部107は、本システムの外部に設けられるが、図1の点線の枠線で示すように、熱拡散形状情報計算部107を構成に含んでもよい。同様にセル劣化診断機能(セル劣化診断装置)108は、本システムの外部に設けられるが、セル劣化診断機能108を構成に含んでもよい。
【0021】
まず、本システムでは、事前に熱拡散形状情報107を取得する(ステップS11)。もし熱拡散形状情報計算部107を構成に含む場合は、熱拡散形状情報計算部107により熱拡散形状情報106を取得する。熱拡散形状情報106は、診断の対象である蓄電池システムに含まれるセルについて、そのセルから発生する熱が隣接セルにどのような強さ・形状で拡散していくかという熱の拡散の形状に関する情報を含む。
【0022】
劣化診断対象セルリスト作成部101では、セル構成情報105及び熱拡散形状情報106に基づいて、できるだけ少ないセルの数で、かつ、蓄電池システムの全体の劣化度合いを網羅的に診断できるような、劣化診断対象であるセルを選択し、劣化診断対象セルのリストを作成する(ステップS12)。蓄電池システムの全体のセルのうち、劣化診断対象として選択されなかったセルは、非対象セルと称することもある。ここで、セル構成情報105は、診断の対象である蓄電池システムの全体におけるセルの構成の情報を含む。なお、仮に熱拡散形状情報において、熱が一切拡散しない場合では、蓄電池システムに含まれるすべてのセルが劣化診断対象のセルのリストとなる。
【0023】
次に、セル劣化診断部102では、劣化診断対象セルリスト作成部101で作成された劣化診断対象のセルのリストに沿って、セル劣化診断機能108を利用して、セルの劣化診断を行うことにより、劣化診断対象セルの劣化度合いを取得する(ステップS13)。ある劣化したセルの隣接セルは劣化している可能性が高い傾向を利用し、蓄電池システムに含まれるセル全ての劣化診断を行うのではなく、劣化診断対象セルリストに含まれるセルを対象に劣化診断を行う。非対象セルの劣化度合いは、後述するように劣化診断対象セルの劣化度合いから推定することで取得する。これにより、蓄電池システムの全体の劣化度合いを高速に取得することができる。
【0024】
セル劣化診断機能108は、蓄電池システムに含まれるあるセルの劣化度合いを診断する機能であり、選択的に1つのセルの劣化度合いを診断することができる。診断項目としては、内部抵抗、温度、電圧の過渡応答性、物理的なふくらみなど、様々な項目が考えられる。いずれの診断項目であっても、その診断したセルの劣化度合いはセル劣化診断部102を介して温度分布推定部103への入力とされ、入力された劣化度合いの項目に応じて、温度分布が推定される。セル劣化診断部102は、リストに含まれる診断対象となるセルの個々について、劣化診断をセル劣化診断機能108に要求し、診断の結果をセル劣化診断機能108から取得する。
【0025】
次に、温度分布推定部103では、セル劣化診断部102で診断された劣化診断対象セルの劣化度合いに基づいて、重み付け平均法などの点在する特徴量から全体の分布を推定する何らかの分布推定技術を適用して非対象セルの劣化度合いを推定するとともに、蓄電池システムの全体の温度分布を推定する(ステップS14)。このとき、適切に分布を推定できれば、その分布推定技術の種類は問わない。
【0026】
最後に、劣化診断対象セルリスト更新部104では、温度分布推定部103で分布推定技術を利用して推定した蓄電池システムの全体の温度分布に基づいて、次のステップで劣化診断を行う劣化診断対象のセルのリストを更新する(ステップS15)。
【0027】
リストを更新する手法としては、前記温度分布で一定の温度に到達している領域内では、劣化診断対象セルリスト作成部101で利用した熱拡散形状情報106に基づいて密に劣化診断対象のセルが配置されるように、劣化診断対象セルリストを更新する。一方、前記温度分布で一定の温度に到達している領域外では、劣化診断対象セルリスト作成部101で利用した熱拡散形状情報106に基づいて疎に劣化診断対象のセルが配置されるように、劣化診断対象セルリストを更新する。
【0028】
このような手法でリストを更新することで、温度分布の変化が大きい領域については、より詳細に温度分布を推定することができ、かつ一方で、温度分布の変化が小さい領域では、より少ない診断回数で温度分布を推定することができる。言い換えると、劣化診断対象のセルのリストを更新しない場合では、蓄電池システム全体で劣化診断対象のセルが一様に分布し、例えば温度分布が一様で変化の少ない場所においては診断結果も似たような結果となり冗長性が高くなるが、一方、劣化診断対象のセルのリストを更新することによって、蓄電池システム全体で劣化診断対象のセルが直前の温度分布に基づいて動的に変更された分布になるために、温度分布を効率的に推定することができる。
【0029】
このように、前記説明した構成で、蓄電池システム全体の温度分布を効率的なセルの選択的な劣化診断で逐次更新していくことによって、しいては蓄電池システム全体の劣化度合いを効率的に把握することができる。なお、図2のフローチャート図より、逐次把握している温度分布を監視しながら、ある条件に基づいてセルの劣化度合いが限界に達した時点で、前記セルを交換したり、前記セルを含む直列接続された複数のセルで構成されるセル群(以下、モジュール)を交換したり、蓄電池システムの寿命と判断したり、などの措置を行っても良い。
【0030】
<詳細な具体例>
以降、一例として、具体的なセル構成図を参照しながら、本実施形態における構成の動作を詳細に説明する。図3は、詳細な動作を説明するために仮定したセル構成図である。直列接続された複数のセルで構成される1つモジュールには17個のセルが含まれ、さらに、そのモジュールを12個並列接続し、蓄電池として構成されている。当然、本発明の実施形態は、このセル構成の形状・個数などに限定されない。
【0031】
図4は、熱拡散形状情報106の一例を示している。図4は、図3のセル構成の一部の抜き取って示したものであり、各セルに記載された数字は熱の拡散の影響度を示す指標(以下、重み係数)である。当該指標は、温度そのものの数値や、温度を求めるための中間係数などの数値を用いるのが良い。
【0032】
中心にあるセル(以下、中心セル)についての熱拡散形状情報を計算する場合には、まず中心セルを任意の温度に上昇させる。ここでは、例えば3という重み係数となるような温度とする。このとき、中心セルの隣接セル、及び中心セルの隣接セルの隣接セルまでをおおよその範囲とし、それらセルの温度を測定することで、同セルの重み係数を見る。結果として、図4に示すように、重み係数2のセルや、重み係数1のセル、という熱拡散形状情報を得ることができる。
【0033】
なお、これは、実験やシミュレーションによって計算しても良いし、同様らしい結果を得られるのであればその方法は問わない。また、熱拡散形状情報を既に持っている場合、これは本手法の中で計算する必要性は無く、他から取得する方法でも良い。
【0034】
図5は、劣化診断対象セルを明示したセル構成図である。劣化診断対象セルリスト作成部101で、セル構成情報105および熱拡散形状情報106に基づいて、できるだけ少ないセルの数で、かつ、蓄電池システムの全体の劣化度合いを網羅的に診断できるような、劣化診断対象であるセルのリストを作成したとき、図5に○で明示されたセルが、そのリストに含まれるセルに相当する。
【0035】
本例のセル構成の場合、セル構成情報105は、セルが17個直列に接続されたモジュールが12個並列に接続される構成、という情報である。図5に示すように、初期段階では温度分布の事前情報が存在しないため、網羅的にセルを選択することで、蓄電池システム全体の温度分布を推定する。○で明示されていないセルの劣化度合い(温度)は、最近傍の○で明示されたセルの劣化度合いから前記分布推定技術を利用して、推定される。
【0036】
さて、当該リストに含めるセルの選択方法の具体例を説明する。図4における熱拡散形状情報106を利用したとき、ある中心セルの周辺のセルの温度は、中心セルの温度の測定の結果から図4に示す重み係数を考慮して間接的に推定できることになる。一方、図4に記載された周辺のセルよりもさらに遠くに配置されているセルの温度は、中心セルの温度の測定結果からは重み係数が存在しないために(すなわち0)間接的に推定することはできない。したがって、図5において示されているすべてのセルが、少なくとも一つの○で明示されたセルの図4に示す熱拡散形状情報106の重み係数が0でない範囲内に存在する必要がある。図5では例として、示されているすべてのセルが、○で明示したセルを中心セルとした図4に示す熱拡散形状情報106の重み係数を加算したとき、その重み係数が2以上となるように配置したものである。この配置は一意ではなく複数のパターンが考えられ、図5の例は選択するリストのパターンを限定するものではない。重み係数が2以上といったある制約条件を与えたときに複数考えられるパターンから1つのパターンを選択すれば良い。
【0037】
ここでは、熱拡散形状情報106を利用してセルを選択する例を示したが、熱拡散形状情報を利用せずに、セルを選択することも可能である。たとえば、図3のセル構成において一定間隔ごとにセルを選択してもよいし、所定個数のセルをランダムに選択することも可能である。
【0038】
図6は、劣化診断対象のセルのリストである。図5で示した劣化診断対象セルを明示したセル構成図に対応したリストであり、例えば図5で言う縦方向のセルの番号と横方向のセルの番号を組み合わせて「セル(2,6)」などと記録する。これは、2が縦方向のセルの番号であり、6が横方向のセルの番号であるため、縦方向に2番目かつ横方向に6番目のセルが、前記リストにおける劣化診断対象のセルに相当する。もちろん、このリストの書き方は問わず、例えば劣化診断対象ではないセルの部分を0、劣化診断対象のセルの部分を1としたマトリクスを利用するなど、他の方法でリストを作成しても構わない。
【0039】
図7は、推定した温度分布を明示したセル構成図である。図7で示した○で明示したセルは図5で示した○で明示したセルと同じ配置であり、このセルを対象としてセル劣化診断部102でセルの劣化診断を行い、その結果であるセル劣化度合いに基づいて温度分布推定部103で分布推定技術を利用して温度分布を推定する。図7で、等高線で示されているものが、蓄電池システムの全体の温度分布を表わしている。例えば、紙面に沿って上側の領域では温度が高く、下側の領域では温度が低くなっている。ここで、図7では、推定した温度分布がセル構成のセルに沿った離散的な形状の分布ではなく、セル構成のセルに沿わない連続的な形状の分布を持っているが、これは、分布推定技術に依存するものであり、前記離散的でも連続的でも問題ない。
【0040】
さて、温度分布を推定する具体例を説明する。図7の○で明示したセルについては、セル劣化診断部102によって劣化度合いが求まっていることになる。ここで、前述の通りセルの劣化はそのセルの温度で説明できることから、劣化度合いからセルの温度を求めることができる。もし、劣化度合いからセルの温度を求めることが困難である場合は、セル劣化診断部102によって診断する項目を温度としても良い。いま、○で明示したセルそれぞれは劣化度合いの数値を持っていて、○が付いていないセルそれぞれは劣化度合いの数値を持っていない。そこで、逆距離加重法などの空間補間法を適用することで、非対象セルの劣化度合いを推定し、診断対象セルの劣化度合いおよび非対象セルの劣化度合いから、蓄電池システムの全体の温度分布を求める。
【0041】
図8に、前記空間補間法を説明するため、図5や図7とは別に少ないセルで構成された構成を示す。図8において、○で明示されたセルは、前述の通りセル劣化診断部102によって劣化度合いが求まっている。このとき、図8において、「?」で明示されたセルの劣化度合いを求めたいとする。○で明示されたセルについて、空間補間法で利用する、劣化度合いが求まっているセルの劣化度合いと逆距離との積を計算すると、左上の6の劣化度合いを持つセルは距離が2セル分とすると6/2、右上の7の劣化度合いを持つセルは距離が3セル分とすると7/3、左下の3の劣化度合いを持つセルは距離が3セル分とすると3/3、右下の2の劣化度合いを持つセルは距離が4セル分とすると2/4、である。したがって、これらを逆距離加重平均することにより((6/2)+(7/3)+(3/3)+(2/4))/((1/2)+(1/3)+(1/3)+(1/4))=4.82と求めることができる。ここで、分母は○で明示されたセルと「?」で明示されたセルとの逆距離の合計、分子は○で明示されたセルの劣化度合いと前記逆距離との積の合計、である。セル間の距離は、ここではセルの個数により表現したが、cm等の他の物理的な(空間的な)距離でもよい。
【0042】
なお、ここでは例として逆距離加重法による空間補間法で説明したが、これ以外にも少数のセルの劣化度合いから蓄電池システムの全体の温度分布を求めることができる方法であれば、その方法は問わない。
【0043】
図9は、温度分布から更新した劣化診断対象セルを明示したセル構成図である。図9で示した○で明示したセルは劣化診断対象セルリスト更新部104で更新された劣化診断対象のセルのリストに含まれるセルに相当する。図9で、温度分布と○で明示したセルを見ると、紙面に沿って上側の領域である温度分布で温度が高い領域では○で明示したセルが密集しており、逆に紙面に沿って下側の領域である温度分布で温度が低い領域では○で明示したセルが疎らになっていることがわかる。
【0044】
さて、劣化診断対象セルリスト更新部104で、温度分布に基づいてセルのリストを作成する計算方法を具体的に説明する。例えば、図9の温度分布に示すように温度分布が求められた場合、これら温度分布の結果からセルを複数のクラスに分類する。このときのクラスは温度に基づいて、25℃未満のクラス、25℃以上35℃未満のクラス、35℃以上45℃未満のクラス、45℃以上のクラス、の4つのクラスとする。この4つのクラスそれぞれにおいて、図5の説明で述べたセルの選択の制約条件を設定するため、25℃未満のクラスの制約条件は重み係数が2以上、25℃以上35℃未満のクラスの制約条件は重み係数が3以上、35℃以上45℃未満のクラスの制約条件は重み係数が4以上、45℃以上のクラスの制約条件は重み係数が5以上、といったような制約条件を設定する。つまりクラスごとに、異なる閾値を設定し、温度が高いクラスほど、閾値の値を高くする。これらの制約条件に基づいて、図5の説明で述べた方法によってセルのリストを作成する。さらに、ここで設定したクラスは劣化診断対象セルリスト更新部104で毎回更新されても良いし、毎回でなくても定期的に更新されても良い。
【0045】
なお、本実施形態のシステムは、蓄電池システムの全体の温度分布を逐次的に更新していくが、例えば温度分布になんらかの閾値を設け、前記閾値を超えた領域に存在するセルを劣化したセルである、と検出してもよい。したがって、温度分布を効率的に把握することは、劣化したセルを効率的に検出することに相当する。
【0046】
さらに、前記劣化診断対象セルリスト更新の際、温度分布になんらかの閾値を設けることでセルを選択することもできるが、例えば温度の変化量、すなわち、時間微分値で閾値を設けたりしても良い。
【0047】
さらに、セルの劣化は内部抵抗の増加で説明でき、それはすなわち、そのセルが含まれるモジュールに流れる電流量が減少するということであって、この特性を利用して、電流量が小さいモジュールに含まれるセルを優先的に選択しても良い。ここで、優先度を設定する理由としては、セルリストに上限が設けられていたり、セル劣化診断を行う順番において劣化診断を行う時間が制限されていたり、などの状況が考えられ、この場合、劣化診断を行うセルの優先度を決定する必要がある。さらに、これらの考え方は前記劣化したセルの検出の際にも適用できる。
【0048】
以上のように本実施形態によれば、蓄電池システム全体におけるセルの劣化度合いを効率的に把握でき、かつ、複数あるセルのうち劣化したセルを高速に検出できる。
【0049】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池システムを形成する複数のセルの中から診断対象セルを選択し、前記診断対象セルのリストを作成する劣化診断対象セルリスト作成部と、
前記リストに含まれる診断対象セルの劣化診断を行うことにより、または外部の劣化診断装置に前記診断対象セルの劣化診断を要求することにより、前記診断対象セルの劣化度合いを取得するセル劣化診断部と、
前記複数のセルのうち前記リストに含まれる診断対象セル以外の非対象セルの劣化度合いを、前記非対象セルおよび前記診断対象セル間の距離に基づいて推定し、前記診断対象セルおよび前記非対象セルの劣化度合いに基づき、前記複数のセル全体の温度分布を取得する温度分布推定部と、
前記温度分布に基づき、前記診断対象セルのリストを更新する劣化診断対象セルリスト更新部と、
を備えた蓄電池劣化診断システム。
【請求項2】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、前記温度分布に基づき高い温度を有する領域ほど、前記領域から多くのセルを前記診断対象セルとして選択し、選択した診断対象セルに基づき、前記リストを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項3】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、前記温度分布に基づき閾値以上の温度を有する領域に含まれるセルを前記診断対象セルとして選択し、選択した診断対象セルに基づき前記リストを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項4】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、単位時間当たりの温度変化が大きい領域ほど、前記領域から多くのセルを前記診断対象セルとして選択し、選択した診断対象セルに基づき、前記リストを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項5】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、単位時間当たりの温度変化が閾値以上の領域に含まれるセルを前記診断対象セルとして選択し、選択した診断対象セルに基づき、前記リストを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項6】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、流れる電流が小さいセルから優先的に前記診断対象セルとして選択し、選択した診断対象セルに基づき、前記リストを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項7】
前記劣化診断対象セルリスト作成部は、前記複数のセルのそれぞれから前記複数のセルのうちの他のセル群へ及ぼす熱拡散の影響度を表す熱拡散形状情報に基づいて、前記診断対象セルを選択する
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項8】
前記劣化診断対象セルリスト作成部は、前記診断対象セルから及ぼされる影響度の合計が前記診断対象セル以外のセルでそれぞれ閾値以上となるように、前記診断対象セルを選択する
ことを特徴とする請求項7に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項9】
前記劣化診断対象セルリスト更新部は、前記診断対象セルから及ぼされる影響度の合計が前記診断対象セル以外のセルでそれぞれ閾値以上となるように、前記診断対象セルを選択し、前記閾値は、高い温度を有する領域に属するセルほど大きい
ことを特徴とする請求項7または8に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項10】
前記温度分布推定部は、前記非対象セルから前記診断対象セルまでの逆距離の合計に対する、前記診断対象セルの劣化度合いおよび前記逆距離の積の合計の比率を計算することにより、前記非対象セルの劣化度合いを求める
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項11】
前記複数のセルのそれぞれごとに、前記セルの温度を上昇させたときに、前記セル以外の周囲のセルの温度上昇を測定することにより、前記熱拡散形状情報を計算する熱拡散形状情報計算部
をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の蓄電池劣化診断システム。
【請求項12】
蓄電池システムを形成する複数のセルの中から診断対象セルを選択し、前記診断対象セルのリストを作成する劣化診断対象セルリスト作成ステップと、
前記リストに含まれる診断対象セルの劣化診断を行うことにより、または外部の劣化診断装置に前記診断対象セルの劣化診断を要求することにより、前記診断対象セルの劣化度合いを取得するセル劣化診断ステップと、
前記複数のセルのうち前記リストに含まれる診断対象セル以外の非対象セルの劣化度合いを、前記非対象セルおよび前記診断対象セル間の距離に基づいて推定し、前記診断対象セルおよび前記非対象セルの劣化度合いに基づき、前記複数のセル全体の温度分布を推定する温度分布推定ステップと、
前記温度分布に基づき、前記診断対象セルのリストを更新する劣化診断対象セルリスト更新ステップと、
をコンピュータが実行する蓄電池劣化診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−101868(P2013−101868A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245504(P2011−245504)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】