説明

蔓性果樹園用棚

【課題】蔓性果樹の栽培において、棚を高い位置に維持することでトラクターや農薬散布機等の機械の使用に支障がなく、かつ果樹管理作業を低位置で行うことで作業者の負担を低減させることが可能である、簡単な構造で低コストの果樹園用の棚を提供する。
【解決手段】互いにほぼ平行な複数列の梁となる梁線条1a、1bが形成されており、各々相隣る梁線条1a、1b間に間隔をおいて長さの調節可能な可撓性を有する支線条2が複数本懸架されてなる蔓性果樹園用棚。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ、キウイ等の蔓性果樹の栽培における蔓性果樹園用棚に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にブドウなどの蔓性果樹の栽培は棚仕立てにより行われている。この棚は地面に碁盤目の交点となる位置に支柱をたて、これに縦横網目状に半鋼線を張り、棚とする。一般に棚の高さはトラクターや農薬散布機などの機械の利便性を考えて、およそ160〜200cm位の高さに設置される(図7)。果実は棚に支えられた枝から、下方に垂れ下がって結実する。かかる果樹園にあっては、まず、果樹の枝や蔓を棚に固定することや、ブドウ栽培等にあっては、その房の粒そろえ、枝や蔓の剪定など人手による作業が多くあり、その作業量は果樹園管理手間の約7割にも達する。
【0003】
この作業は上記のとおり、160cm〜200cmの高さにある棚の近辺で行わなければならないため、よほどの長身者でなければ、長時間頭上に腕を高く伸ばした作業となり、首、肩、腕及び腰に負担がかかる作業姿勢を強いられることになる。特に近年、全国的に男性に比べ、比較的小柄な女性の農作業労働者が増加し、全体の53.3%にも及んでいる。このため、高い下駄を履いて作業をするなどバランスが悪く、作業効率に欠ける作業を余儀なくされている。
【0004】
作業の効率からは、地面に立っておおむね人の目の高さ以下、例えば100cm〜150cm程度で作業が出来るのが好ましい。
【0005】
そこで、これまでに、棚を支える支柱の長さを調節することで棚全体の高さを調節可能とした装置(特許文献1)が提案されている。この技術によれば、必要に応じて棚の高さを調節可能ではあるが、ブドウなどの枝が支柱と棚に絡まった状態では支柱を動かし、棚を上下させることは困難である。
【0006】
また、並設された複数本のポール状の支柱の中間位置にそれぞれ可動枝状部材の一端を軸支して、上下方向に回動自在に設け、これらの各可動枝条部材間に蔓を巻きつかせるための複数本の張線を連結架設し、前記可動枝条の他端は、前記ポール状支柱の先端部から垂れ下がったワイヤーロープに取付け、上方から吊り下げることにより棚を形成させ、このワイヤーロープの長さを調節することで棚の傾角を自在に定めるという可動可能な装置(特許文献2)が提案されている。この技術によれば必要に応じて支柱に対する棚の角度が変えられ、棚の先端側を低く又は高くすることは可能となるが、装置が複雑でコストがかかる。
【0007】
更に支柱に枝管をY字形状に取り付けて棚を傾斜にし、その枝管に新梢を誘引させることで、果樹の栽培作業が容易になる方法が提案されている(特許文献3)。この技術によれば、新梢の誘導作業負担の軽減にはなるが、支柱付近の棚は低位置となりトラクターや農薬散布機などの機械の利便性が悪い。
【0008】
このように、トラクターや農薬散布機などの機械が利用できるように棚は高い位置を保ちつつ、かつ、実の生る枝及び果実の管理作業等の手作業を目の高さ程度の低位置で、容易に行うことが可能な簡単な構造、すなわち、低コストの果樹園用棚が望まれている。
【特許文献1】特開平6-14170
【特許文献2】特開平5-153876
【特許文献3】特開平9-94032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、蔓性果樹の栽培において、棚を高い位置に維持することでトラクターや農薬散布機等の機械の使用に支障がなく、かつ果樹管理作業を低位置で行うことで作業者の負担を低減させることが可能である、簡単な構造で低コストの果樹園用の棚を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、互いにほぼ平行な複数列の梁となる線条列が形成されており、該梁となる線条(以下梁線条ともいう)は、各々相隣る線条間に間隔をおいて長さの調節可能な可撓性を有する支線条が複数本懸架されてなる蔓性果樹園用棚である。
【0011】
本発明の果樹園用棚にあっては、果樹の主枝は梁線条に添って平行に配列し、該主枝には、短い(1〜3節)結果母枝が、主枝の両側に20〜25cm間隔で配列されており、その結果母枝から発芽した果実がなる新しい枝(以下、新梢という)を支線条に巻きつけるのである。この場合に、支線条は、相隣る梁となる線条間に弛みを変化させることが可能なように長さの調節が可能となっており、手作業を要するときに支線条を伸ばし、弛みを大きくすることで新梢の位置を下げることができ、また、トラクターや薬剤散布等のための機械を通すために棚下空間を広げる必要のあるときは支線条を短くし、弛みを緊張させることにより棚下の空間が広げられるのである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のような構成からなるため、以下のような優れた効果を有する。つまり、低い位置での植物体および果実の管理作業が可能となり、作業者による首、肩、腕及び腰の負担を大幅に低減することが可能となる。
【0013】
一方、トラクターや農薬散布機等の機械を使用する際には、支線条を短くし、弛みを緊張させることにより棚下の空間が広げられることで、棚が支障となることなく利用が可能となる。すなわち支線条は、伸張可能とすることで、作業する高さを自由に変えることが可能となる。なお、この際には、フック状のもので棚の線上に支線条を引っかけてもよい。
【0014】
また、棚全体の設置において、従来はあらゆる方向へ新梢が伸張しても対応できるように縦横網目状に梁線条が設置されていた。そのために梁線条が数多く必要となり、支柱も強度が必要とされ、設置コストが高価にならざるを得なかった。本発明においては、新梢の伸張する方向にだけ支線条を設置すればよいため、棚全体としての梁線条を大幅に削減することが可能となる。さらに、支線条が梁線条から取り外しが可能であるため、果実の生長状態によって支線条を好ましい位置に移動することが可能となる。もちろん、従来の棚の半鋼線を利用して支線条を付けることも可能で、少ない投資で棚の改良が可能である。
【0015】
さらに、新梢の成長段階においては、毎年ベテランの作業者が経験と勘によって新梢の誘導方向を考慮しながら行っていたが、本発明においては、この誘導は誘導方向を考慮する必要がなく支線条に沿って行えばよいため、作業経験が少ない作業者でも可能となる。
【0016】
また、この誘導の際には従来テープを用いて枝を棚に固定していたが、本発明においては支線条に沿って新梢を伸ばすこととなるので、単に支線条に伸張する新梢を絡ませるだけで枝を棚に固定することが可能となり、テープでの固定作業やテープ代のコスト削減にもつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を用いながら本発明の実施形態の一例について説明する。
【0018】
図1は、本実施例に係る棚を果樹木に適用した例を示す概観図である。
(梁線条)
【0019】
この棚は、互いにほぼ平行な複数列の梁線条(1)が設置されている。この複数本平行して設けられる梁線条(1)の間隔は、新梢(C)をどの程度伸ばすかと共に、相手側の梁線条に果樹の主枝(B)が存在するかどうかによって異なる。具体的には、相手側の梁線条(1)に果樹の主枝(B)が存在しない場合には、一般に70cm〜140cmの間隔であり、相手側の梁線条(1)にも主枝(B)があり両側から新梢(C)が伸びて来る場合は、両者が絡み合わない長さとなるだけの間隔を考慮して140〜280cm間隔である。この梁線条(1)は金属又はプラスチック製のパイプや鉄筋材のような剛体線条であってもよいし、また丈夫な針金やワイヤーロープ或いは、合成樹脂や植物繊維よりなるロープであっても良い。
(支柱)
【0020】
梁線条の設置方法は特に限定されない。各梁線条(1)の両端を繋止し、梁を構成できれば良い。例えば各梁線条の両端となる位置に支柱を立て、その間に梁線条を架設する方法や、平行して架設される複数の梁線条の両端に横断して支持体(4)を渡し、該支持体に各々梁線条を架設する方法、或いは果樹園の外周にフェンス等の構造物がある場合にはそれらを用いて梁線条を架設することも可能である。
【0021】
また、梁線条(1)が比較的長い場合は、その中間に1本又は複数本の支柱(3a)を立て、梁線条を支えることも好ましい。例えば図1(a)は両端の支柱(3)とその中間に複数の支柱(3a)が存在する場合の図である。このようにすることにより中間の支柱(3a)の近傍にブドウ等の果樹を植え、該果樹の支え木を兼用させることも出来る。
【0022】
図1(b)は、支持体(4)に梁線条(1)を架設した態様の一方端を示す。本例は、支持体(4)はその端を支柱(3)で支えた場合の例である。
【0023】
なお、図1(c)に示すように、梁線条を支えるために、支柱と共に220cm〜300cmの高さの大支柱(5)を設置し、その上端部からワイヤー等で梁線条を吊ることで、棚全体を支えても良い。
(支線条)
【0024】
梁線条(1)は、各々相隣る線条間に間隔をおいて長さの調節可能な可撓性を有する支線条(2)が複数本懸架されており、主枝からの新梢の位置に応じて一定間隔で、より好ましくは70cm〜120cm間隔で設定される。梁線条と支線条の固定方法は特に限定されないが、その一端は図2に示すように、フック状(a)、クリップ状(b)、マジックファスナー(登録商標)(c)或いは結び付け等を用いて取り外しが容易となるように固定するのが好ましい。他方は支線条に手作業に必要となるだけの十分な弛みを持たせられるだけの長さとして、適当な位置で止められるようにして、必要に応じて取り外しも可能とすることが好ましい。例えば図3に示すように、クリップ式(a)、バンド等のバックル式(b)或いはバネの力で一箇所を抑えるようにした管状止め具など長さを調節できる繋止具等で相手側の梁線条に繋止する。
【0025】
支線条としては、一般に針金、ワイヤーロープ、プラスチック製や、場合によって植物繊維等であっても良い。通常、収穫後の新梢は主枝から一定の位置で切断されて、支線条に絡まった新梢や蔓を支線条から解いて棚から除去、廃棄される。支線条は梁線条に取り外し可能となるように設定されている場合には、本作業を一旦棚から外して作業をしやすい場所で行うことが可能である。更に、支線条がコストの安い植物繊維等からなる場合、毎年支線条を使い捨てにすることも可能であり、絡まった新梢や蔓を解いて棚から除去する手間を省き、新梢を切断して支線条を梁線条から外すだけとなり、作業が簡略化される。なお、植物繊維等の軽量部材からなる支線条を用いる場合には、枝が伸びると葉が上に向く力が強く、支線条が上にういてしまうのを防ぐため、おもりを支線条の中心部付近に付着することが望ましい。
【0026】
支線条には一定間隔に突起部分を作ることも可能である。突起部分によって新梢を巻きつける際に引っ掛かりが出来ることで新梢を支線条へ絡ませる事が容易となる。
【0027】
本発明の果樹園用棚について果樹がどのように支えられるかを図4に模式的に示し説明する。図4は、本発明の棚の一部と果樹を示すものである。支柱(3a)、には梁線条(1a)、(1b)が設置されており、支線条(2)の一端は、梁線条(1a)に固定されている。また、他端は梁線条(1b)に架けられ、繋止具(6)で止められその先端部(7)は垂れ下がっている。ブドウなどの果樹(A)は支柱(3a)の近傍に植えられ、主枝(B)は梁線条(1a)に添って伸びており、該主枝から分岐した複数本の新梢(C)は、支線条(2)に巻き付けられている。この状態では、棚下は広く、トラクターや薬剤散布機等の機械は棚下を通ることが可能である。
【0028】
次に人が作業する場合には図5において矢印で示す部分のように支線条(2)の弛みを大きくし新梢(C)を低い位置に下げることが出来るのである。
【0029】
図6は、本発明の果樹園棚の全景を示す模式図である。図6に示すように果樹園にあっては複数本の果樹が植えられる。従って、本発明の棚は直列に複数本の果樹が植えられる。従って、本発明の棚は直列に複数本の支柱(対向する支柱)間に亘って、梁となる線条が架設され、かかる梁線条が複数列ほぼ平行に設けられ、その間に支線条が懸架されている。
【0030】
また、栽培管理において、本発明は短梢せん定方法(主枝の両側に20〜25cm間隔で結果母枝をつけ、毎年基部から1〜3芽のみ残してせん定する方法)が望ましい。本発明を用いて短梢せん定方法で栽培した場合、その栽培した年には新梢が支線条に沿って枝が曲がるため、2年目以降は新梢が伸張して支線条に誘導する際に新梢に強い力が加えられ折り曲げられることが少なくなる。さらに、せん定をする箇所が支線条に沿って主枝から20〜30cm付近に固定されるため、従来はベテラン作業者が経験による感で新梢の誘引方向を決めていた作業が、経験が少ない作業者によってもせん定作業が可能となる。
(実施例)
【0031】
従来の棚と、本発明の棚を用いてブドウの栽培を行った。7〜8メートル間隔に支柱が設置され、その支柱の先端に梁線条として半鋼線が設置された。約1m離れた隣り合う梁線条の間に、約2mの長さで材質がビニールでコーティングされた金属からなる支線条が架された。栽培は短梢せん定方式で実施された。
【0032】
トラクターや農薬散布機械を利用する際には支線条を引き上げて固定することで、高さ約160〜200cmの棚下空間が出来たため、作業において棚や新梢が邪魔になることがなかった。一方、ブドウの房の粒そろえ、枝や蔓の剪定など人手による作業において、肩、腕及び腰の負担が減少すると共に姿勢区分評価法追加版で負担レベルが3から1に改善された。
【0033】
なお、本発明の棚を用いて栽培したブドウと従来の棚を用いて栽培したブドウの着色においてはいずれも11〜12(カラーチャート値による)と同等であった。また、従来の棚によって栽培された果実の平均糖度は21.7であるのに対し、本発明の棚によって栽培された果実の平均糖度は22.1とほぼ同等であった。したがって、本発明の棚を用いて栽培した果実は、表1に示すように従来の棚を使った栽培による果実と同等の品質を維持していた。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本棚は、ブドウの他、キウイ、アケビ、などの栽培に可能である。また、近年スイカなどのウリ科植物を温室で栽培が行われており、こうした温室栽培においても応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明による実施例の果樹園用棚を示す斜視図であって、両端の支柱とその中間に複数の支柱が存在する場合の図ある。
【図1B】本発明による実施例の果樹園用棚を示す斜視図であって、支持体に梁線条を架設した場合の図である。
【図1C】本発明による実施例の果樹園用棚を示す斜視図であって、梁線条を支えるために、大支柱を設置した場合の図である。
【図2】本発明の果樹園用棚における線条と支線条の固定方法の一例を示した図であって、図2(a)はフック式固定手段を用いた場合、図2(b)はクリップ式固定手段を用いた場合、図3(c)はマジックテープ(登録商標)式固定手段を用いた場合である。
【図3】本発明の果樹園用棚における支線条の伸張手段の一例を示した図であって、図3(a)はクリップ式繋止具を用いた場合、図3(b)はバックル式繋止具を用いた場合である。
【図4】本発明の果樹園用棚における棚下を広くした場合の図である。
【図5】本発明の果樹園用棚における棚下を低くした場合の図である。
【図6】本発明の果樹園用棚における果樹園棚の全景の斜視図である。
【図7】従来の果樹園用棚の斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1、1a、1b 梁線条
2 支線条
3 支柱
3a 中間の支柱
4 支持体
5 大支柱
6 繋止具
7 新梢の先端部
A ブドウの果実
B 主枝
C 新梢

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにほぼ平行な複数列の梁となる線条列が形成されており、該梁となる線条は、各々相隣る線条間に間隔をおいて長さの調節可能な可撓性を有する支線条が複数本懸架されてなる蔓性果樹園用棚。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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