説明

薄切片作製システム

【課題】薄切片の作製効率を向上させることができる薄切片作製システムを提供することを目的としている。
【解決手段】包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、包埋ブロックに包埋された生体試料の所望の観察面が表面に露出するまで包埋ブロックを切削する面出し装置2と、面出し装置2による切削方向及び切削角度を含む面出しデータを面出し装置2から受信するマスターコントローラ3と、マスターコントローラ3から受信した面出しデータに基づいて包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、面出し装置2で面出しされた包埋ブロックの表面を薄切して薄切片を作製する薄切装置4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料を包埋した包埋ブロックを切削して薄切片を作成する薄切片作製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する前臨床分野において、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックから薄切片を作製し、その薄切片に染色処理を行い、生体試料を観察する方法が知られている。上記した薄切片は、細胞レベルの観察を可能とするため、3〜5μm程度の厚さで均一に、かつ、包埋されている生体試料を損傷しないように切削する必要がある。
【0003】
上記した包埋ブロックから薄切片を作製する一般的な方法としては、まず、包埋ブロックを専用の薄切り装置(ミクロトーム)にセットして、包埋ブロックの表面を粗削りする(面出し工程)。これにより、包埋ブロックの表面が平滑面となると共に、包埋された生体試料の所望の観察面が表面に露出した状態となる。
上記した面出し工程が終了した後、ミクロトームにより、包埋ブロックを上述した所望の厚みで極薄にスライスする本削りを行う(薄切工程)。
次いで、薄切工程によって得られた薄切片を伸展させる伸展工程を行う。つまり、薄切工程によって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。一般的には、水とお湯を利用して伸展させている。
次いで、伸展工程が終了した薄切片をスライドガラス等の基板で掬って該基板上に載置する。
最後に、薄切片を載せた基板を乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。
【0004】
このように包埋ブロックから薄切片を作製する作業は、ミクロトームを使用して、熟練な作業者による手作業によって委ねられてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製する必要があるため、近年、薄切片を作製する一連の工程の自動化が望まれている。
【0005】
このような薄切片の作製を自動化する薄切片作製装置としては、例えば特許文献1に記載されているような薄切片作製装置がある。この薄切片作製装置は、包埋ブロックを薄切する切刃と、包埋ブロックを切刃側に向かって移動させて切刃によって包埋ブロックを薄切させる移動機構と、包埋ブロックから薄切された薄切片を搬送する搬送ベルトと、を備えている。このような薄切片作製装置によれば、移動機構の支持台に包埋ブロックを固定した後、移動機構を駆動させて包埋ブロックを切刃側に移動させることによって面出しを行い、所望の観察面が露出したところで移動機構を再び駆動させて切刃によって薄切を行い、薄切片を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−178287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の薄切片作製装置では、1台の薄切片作製装置で面出し工程と薄切工程とを逐次行うので、面出し工程が完了するまでは薄切工程を行うことができず、また、薄切工程を行っているときには、次の包埋ブロックの面出し工程を行うことができない。したがって、薄切片の作製効率が悪いという問題がある。特に、上記した従来の薄切片作製装置で面出し工程を行う際、作業者が生体試料の観察面の露出具合を目視で確認しながら、包埋ブロックの傾き(切削角度)や向き(切削方向)を調節して行うため、面出し工程の処理時間は薄切工程に比べて長くなる。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、薄切片の作製効率を向上させることができる薄切片作製システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る薄切片作製システムは、生体試料が包埋された包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、前記生体試料の所望の観察面が表面に露出するまで前記包埋ブロックを切削する面出し装置と、該面出し装置による切削方向及び切削角度を含む面出しデータを該面出し装置から受信するマスターコントローラと、該マスターコントローラから受信した前記面出しデータに基づいて前記包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、前記面出し装置で面出しされた前記包埋ブロックの表面を薄切して薄切片を作製する薄切装置と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このような特徴により、薄切片を作製する際、まず、面出し装置に包埋ブロックをセットする。このとき、包埋ブロックの傾きや向きをそれぞれ調節する。続いて、面出し装置によって包埋ブロックを粗削りし、生体試料の所望の観察面を表面に露出させる(面出し工程)。このとき、面出し工程における切削方向(包埋ブロックの向き)や切削角度(包埋ブロックの傾き)の情報が面出しデータとしてマスターコントローラに送信される。
次に、面出しされた包埋ブロックを薄切装置にセットする。また、マスターコントローラが受信した上記面出しデータが、マスターコントローラから薄切装置に送信される。そして、薄切装置は、マスターコントローラから受信した面出しデータに基づいて、包埋ブロックの切削方向(向き)や切削角度(傾き)をそれぞれ調節する。通常、面出し工程と薄切工程を異なる装置で行う場合、薄切工程を行う装置に包埋ブロックをセットする際、面出しされた包埋ブロックの表面(切断面)と薄切装置に備えられた切刃(薄切を行う刃)とを目視で確認しながら包埋ブロックの向きや傾きを調節し、包埋ブロックの切削方向と切削角度を合わせる必要がある。これに対し、本発明に係る薄切片作製システムでは、薄切装置における包埋ブロックの切削方向と切削角度を目視で合わせたりする必要がなく、面出しデータに基づいて調節するだけでよく、包埋ブロックの切削方向や切削角度の調節が短時間で容易に行われる。続いて、薄切装置によって包埋ブロックを本削りし、生体試料の所望の観察面を含む薄切片を削り出す(薄切工程)。
なお、薄切装置で包埋ブロックを薄切しているとき、面出し装置によって次の包埋ブロックの面出しを行う。
【0011】
また、本発明に係る薄切片作製システムは、前記マスターコントローラが、前記薄切装置から受信した前記薄切片の作製ログを記憶する記憶手段を備えていることが好ましい。
これにより、薄切片の作製ログが薄切装置からマスターコントローラに送信されて記憶装置に記憶されるので、作業者が作製ログを記録する必要がなく、GLP(Good Laboratory Practice :優良試験所基準)の対応が容易となる。
なお、作製ログとしては、GLPで要求される作製記録であり、例えば作製時間や薄切条件(厚さ、切断速度、加湿条件)等である。
【0012】
また、本発明に係る薄切片作製システムは、前記マスターコントローラが、前記薄切片の作製条件を入力する入力部を備えており、前記薄切装置が、前記マスターコントローラから前記薄切片の作製条件を受信し、該作製条件に従い薄切片を作製することが好ましい。
これにより、入力部で所望の作製条件を入力することによって薄切片が所望の作製条件で作製されるので、薄切片の作製条件の管理が容易となる。
【0013】
また、本発明に係る薄切片作製システムは、前記面出し装置及び前記薄切装置に、前記包埋ブロックを識別する識別手段がそれぞれ備えられており、前記面出し装置から前記マスターコントローラに送信される前記面出しデータに、前記面出し装置の識別手段によるブロック識別情報が含まれ、前記マスターコントローラが、前記薄切装置から該薄切装置の識別手段によるブロック識別情報を受信し、該ブロック識別情報と前記面出しデータに含まれる前記ブロック識別情報とに基づいて、前記薄切装置で薄切する包埋ブロックに対応する面出しデータを選択して前記薄切装置に送信することが好ましい。
これにより、面出し装置で複数の包埋ブロックが面出しされ、マスターコントローラに複数の面出しデータが送信された場合であっても、各包埋ブロックに対応した面出しデータが薄切装置に送信され、各包埋ブロックに対応した面出しデータに基づいて包埋ブロックの切削角度や切削方向が調節される。
【0014】
また、本発明に係る薄切片作製システムは、前記面出し装置が、前記薄切装置よりも多数備えられており、前記面出しデータに、前記面出し装置を識別する面出し装置識別情報が含まれていることが好ましい。
これにより、薄切工程よりも処理時間を要する面出し工程が複数の面出し装置で併行して行われ、これら複数の面出し装置でそれぞれ面出しされた各包埋ブロックが共通の薄切装置にそれぞれ供給され、その薄切装置において各包埋ブロックが順次薄切される。このとき、各面出し装置からマスターコントローラに送信される面出しデータには、面出し装置識別情報が含まれているので、包埋ブロックの面出し作業に使用された面出し装置が識別可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る薄切片作製システムによれば、面出し装置と薄切装置とがそれぞれ備えられているので、薄切工程が完了する前に次の包埋ブロックの面出し工程を行うことができ、薄切片の作製効率を向上させることができる。また、面出し装置からマスターコントローラに送信された面出しデータをマスターコントローラから薄切装置に送信することで、薄切装置における包埋ブロックの切削方向や切削角度の調節が短時間で容易に行われるので、薄切片の作製効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る実施の形態を説明するための薄切片作製システムの模式図である。
【図2】本発明に係る実施の形態を説明するための面出し装置の模式図である。
【図3】本発明に係る実施の形態を説明するための包埋ブロックの斜視図である。
【図4】本発明に係る実施の形態を説明するための薄切装置の模式図である。
【図5】本発明に係る実施の形態を説明するための薄切片作製工程を表したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る薄切片作製システムの実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0018】
図1に示すように、薄切片作製システム1は、包埋ブロックB(図2に示す。)から薄切片X(図4に示す。)を作製するシステムであり、その概略構成としては、複数の面出し装置2と、マスターコントローラ3と、薄切装置4と、を備えている。この薄切片作製システム1では、薄切装置4よりも多数の面出し装置2が備えられており、1台の薄切装置4に対して複数の面出し装置2が備えられている。なお、薄切装置4が複数台備えられていると共に、これよりも多数の面出し装置2が備えられている構成であってもよい。この場合、マスターコントローラ3は、1台であってもよく、或いは、複数台備えられていてもよい。
【0019】
[面出し装置]
図2に示すように、面出し装置2は、包埋ブロックBの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、包埋ブロックBに包埋された生体試料の所望の観察面が表面に露出するまで包埋ブロックBを切削する粗削り装置である。詳しく説明すると、面出し装置2には、包埋ブロックBの表面を切削する切削部20と、複数の包埋ブロックBを収納したブロックマガジン21から包埋ブロックBを順次取り出して切削部20にセットしたり、面出しされた包埋ブロックB´を切削部20から取り出してブロックマガジン21に収納したりするブロックローダ22と、切削部20に供給された包埋ブロックBを識別するブロック識別機構23と、切削部20にセットされた包埋ブロックBの表面(切削面)を撮影する撮影機構24と、例えばPLC(Programmable Logic Controller)などからなる図示せぬ制御部と、が備えられている。
【0020】
上記した切削部20は、包埋ブロックBの上面を切削する切刃25と、包埋ブロックBを高さ方向に所定量送り出す送り出し機構26と、切刃25に対する包埋ブロックBの向きを転換させて切刃25による包埋ブロックBの切削方向を調節する方向転換機構27と、切刃25に対する相対的な包埋ブロックBの角度を調節して包埋ブロックBの傾きを調節する角度調節機構28と、を備えている。切刃25は、図示せぬ往復動機構によって水平方向に沿って前後に往復移動可能な構成となっており、この切刃25が往復移動することで包埋ブロックBの上面が粗削りされる。送り出し機構26は、包埋ブロックBを図3に示す鉛直軸(Z軸)方向に沿って所定量上昇させる機構であり、送り出し機構26によって切刃25に対する包埋ブロックBの高さ位置が調節される。方向転換機構27は、包埋ブロックBを図3に示す鉛直軸(Z軸)回りに回転させる機構であり、方向転換機構27によって包埋ブロックBの向き(θ)が例えば90度づつ4方向(θ=0、90°、180°、270°)に切り換えられる。角度調節機構28は、包埋ブロックBを図3に示す直交する2本の水平軸(X軸、Y軸)回りにそれぞれ回転させる機構であり、角度調節機構28によって包埋ブロックBの傾き(θ,θ)が所定の方向に所定の角度で調節される。
【0021】
ブロック識別機構23は、包埋ブロックBのカセットに印字されたID(Identification)を読み取ることで包埋ブロックBを識別する機構であり、このブロック識別機構23によって包埋ブロックBが特定される。上記した「ID」としては、例えばバーコードや二次元コード等を用いることができる。なお、ブロック識別機構23としては、包埋ブロックBのカセットに印字されたIDを読み取る方法以外に、例えば、包埋ブロックBの包埋剤内に埋め込まれたIDチップを読み取る方法や、包埋ブロックBのカセットに取り付けられたRFID(Radio Frequency Identification)を読み取る方法などがあり、また、ブロックマガジン21に印字されたIDを読み取ると共に、ブロックマガジン21内における包埋ブロックBの位置を検出し、ブロックマガジン21のID及びそのブロックマガジン21内における当該包埋ブロックBの位置によって包埋ブロックBを識別して特定する方法であってもよい。
【0022】
撮影機構24は、切削部20にセットされた包埋ブロックBの表面(切削面)を観察するための機構であり、例えばCCDカメラやCMOSカメラ等からなる。この撮影機構24は、切削部20にセットされた包埋ブロックBの上方に配設されており、この撮影機構24によって撮影された包埋ブロックBの上面(切削面)の画像は、マスターコントローラ3の撮影モニタ32に映し出される。
【0023】
上記した図示せぬ制御部は、切削部20(送り出し機構26、方向転換機構27、角度調節機構28及び図示せぬ往復動機構)、ブロックローダ22、ブロック識別機構23及び撮影機構24を制御する装置であり、後述するマスターコントローラ3のコントローラ本体30に有線若しくは無線で電気的に接続されている。
【0024】
[マスターコントローラ]
マスターコントローラ3は、面出しデータを面出し装置2(上記した図示せぬ制御部)から受信し、その面出しデータと後述する作製条件情報とを薄切装置4(後述する図示せぬ制御部)に送信し、さらに薄切装置4(図示せぬ制御部)から受信した薄切片Xの作製ログを記録する装置である。上記した面出しデータには、複数の包埋ブロックBの中から特定の包埋ブロックBを識別するために各包埋ブロックB毎に付与されたブロック識別情報(ブロックID)と、当該包埋ブロックBを面出しした面出し装置2を識別するための面出し装置識別情報と、面出し装置2によって包埋ブロックBを切削したときの切削方向及び切削角度と、面出し装置2によって切削された包埋ブロックBの厚み(Z軸方向の高さ)と、が含まれている。
【0025】
マスターコントローラ3の概略構成としては、図1に示すように、面出し装置2や薄切装置4の図示せぬ制御部に電気的に接続され、後述する操作部33で入力された信号を面出し装置2や薄切装置4に送信するコントローラ本体30と、面出し装置2や薄切装置4の設定や動作を確認するための操作モニタ31と、上記した撮影機構24で撮影された画像を映し出す撮影モニタ32と、作業者が手作業で薄切片Xの作製条件を入力したり面出し装置2や薄切装置4を操作したりする操作部33(本発明における入力部に相当する。)と、が備えられている。上記したコントローラ本体30には、面出し装置2の制御部から送信された面出しデータや後述する薄切装置4の制御部から送信された薄切片Xの作製ログを記憶する記憶手段が備えられている。
【0026】
上記した作製条件は、薄切片Xを作製する際に各包埋ブロック(生体試料)に対してそれぞれ設定される条件であり、この作成条件には、各包埋ブロックB毎のブロック識別情報と、薄切装置4による薄切・伸展・乾燥条件と、薄切片Xをスライドガラスに載せて保持する保持条件と、が含まれている。上記した薄切条件としては、薄切片Xの厚みや薄切時の切断速度、薄切時の加湿条件(時間)などがある。また、伸展条件としては、伸展方法(湯伸展やホットプレート伸展等)や温度、時間等がある。また、乾燥条件としては、温度や時間などがある。また、保持条件としては、スライドガラスの表面コーティングの種類やフロスト色等のスライドガラス情報やスライドガラスに対する薄切片Xの向き、或いは、1つのスライドガラスに複数の薄切片Xを載せる場合には、スライドガラスのIDや薄切片Xの組み合わせに関する情報などがある。
【0027】
また、上記した作製ログは、GLPで要求される作製記録であり、薄切片Xがどのようにして作製されたかをトレーサビリティすることが可能な記録である。作製ログとしては、上記したブロックIDと包埋ブロックBを面出しした面出し装置2を識別するための面出し装置識別情報を含む面出しデータ及び作製データ(作製時間、作製日時、伸展・乾燥の実測温度及び実測時間等)、包埋ブロックB´を薄切した薄切装置4を識別するための薄切装置識別情報、並びに、後述するスライドガラスIDなどが記録される。
【0028】
[薄切装置]
図4に示すように、薄切装置4は、マスターコントローラ3から受信した面出しデータに基づいて包埋ブロックB´の切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、面出し装置2で面出しされた包埋ブロックB´の表面を薄切して薄切片Xを作製する本削り装置である。詳しく説明すると、薄切装置4には、面出し後の包埋ブロックB´の表面を切削する切削部40と、面出しされた複数の包埋ブロックB´を収納したブロックマガジン41から包埋ブロックB´を順次取り出して切削部40にセットしたり、薄切後の包埋ブロックB´を切削部40から取り出してブロックマガジン41に収納したりするブロックローダ42と、切削部40に供給された包埋ブロックB´を識別するブロック識別機構43と、薄切された薄切片Xを伸展させる伸展手段44と、伸展した薄切片XをスライドガラスGに貼り付けて薄切片標本X´を作製する標本作製手段49と、例えばPLCなどからなる図示せぬ制御部と、が備えられている。
【0029】
上記した切削部40は、包埋ブロックB´の上面(面出しされた表面)を切削する切刃45と、包埋ブロックB´を高さ方向に所定量送り出す送り出し機構46と、切刃45に対する包埋ブロックB´の向きを転換させて切刃45による包埋ブロックB´の切削方向を調節する方向転換機構47と、切刃45に対する相対的な包埋ブロックB´の角度を調節して包埋ブロックB´の傾きを調節する角度調節機構48と、を備えている。切刃45は、切削部40に供給された包埋ブロックB´側に刃を向けて固定されている。送り出し機構46、方向転換機構47及び角度調節機構48は、それぞれ面出し装置2の切削部20の送り出し機構26、方向転換機構27及び角度調節機構28と同様の構成からなる機構である。また、切削部40には、上記した送り出し機構46、方向転換機構47、角度調節機構48によって所定高さ、所定向き、所定傾きに配置された包埋ブロックB´を切刃45側に向けて水平方向に沿って往復移動させる図示せぬ往復動機構が備えられており、この往復動機構によって包埋ブロックB´が切刃45側に向けて水平移動することで包埋ブロックB´の表面がスライスされて薄切片Xが削り出される。
【0030】
伸展手段44は、切削部40で切り出された薄切片Xを水や湯に浸けて伸展させるものであり、その概略構成としては、水や湯などが貯留された水槽51と、薄切片Xを保持した状態で搬送し、その薄切片Xを水槽51内に入れて伸展させる薄切片ハンドリング機構52と、を備えている。
【0031】
標本作製手段49は、図示せぬスライドガラス供給部に収納されたスライドガラスGに伸展後の薄切片Xを貼り付け、そのスライドガラスG(薄切片標本X´)を標本回収部50に戻すものであり、その概略構成としては、スライドガラスGを供給する図示せぬスライドガラス供給部と、前記したスライドガラス供給部のスライドガラスGを把持するスライドガラスハンドリング機構53と、薄切片Xが貼り付けられたスライドガラスG(薄切片標本X´)にIDを印字する印字機構54と、薄切片標本X´を回収する標本回収部50と、を備えている。
【0032】
上記した図示せぬ制御部は、切削部40(送り出し機構46、方向転換機構47、角度調節機構48及び図示せぬ往復動機構)、ブロックローダ42、ブロック識別機構43、伸展手段44、及び標本作製手段49を制御する制御装置であり、上記したマスターコントローラ3のコントローラ本体30に有線若しくは無線で電気的に接続されている。
【0033】
次に、上記した構成からなる薄切片作製システム1の作用について説明する。
【0034】
図5に示すように、上記した薄切片作製システム1によって薄切片標本X´を作製するには、まず、作業者が、マスターコントローラ3の操作部33で薄切片Xの作製条件を入力する(S1)。これにより、作業者が設定した作製条件がコントローラ本体30に記憶される。
また、作業者が、複数の包埋ブロックBを収納したブロックマガジン21を面出し装置2にセットする(S2)。
【0035】
次に、作業者がマスターコントローラ3の操作部33で面出し装置2を操作し、ブロックマガジン21内に収容された複数の包埋ブロックBの表面を順次粗削りして面出しを行う(S3)。
詳しく説明すると、操作部33を操作して面出し装置2を稼動させると、ブロックローダ22がブロックマガジン21内の包埋ブロックBを取り出して切削部20にセットする。続いて、操作モニタ31を視ながら操作部33によって送り出し機構26、方向転換機構27及び角度調節機構28をそれぞれ操作し、切刃25に対する包埋ブロックBの高さ位置、向き及び傾きをそれぞれ調節する。これにより、切削部20による包埋ブロックBの切削方向、切削角度及び切削厚さがそれぞれ調節される。続いて、操作モニタ31を視ながら操作部33で切刃25の往復動速度を設定し、図示せぬ往復動機構によって切刃25を所定速度で往復動させ、包埋ブロックBの表面を所定の方向から所定の角度及び厚さで切削する。そして、撮影機構24によって撮影された包埋ブロックBの切断面を撮影モニタ32で確認し、必要に応じて上記した送り出し機構26、方向転換機構27及び角度調節機構28を微調整して包埋ブロックBの表面を粗削りし、包埋ブロックに包埋された生体試料の所望の観察面を表面に露出させる。その後、切削部20で面出しされた包埋ブロックB´がブロックローダ22によって切削部20から取り出されてブロックマガジン21に戻されて収納されるとともに、次の包埋ブロックBがブロックマガジン21から取り出されて切削部20にセットされ、当該包埋ブロックBが切削部20によって同様に面出しされる。
【0036】
また、切削部20によって包埋ブロックBの表面を粗削りしている際、その包埋ブロックBのIDをブロック識別機構23によって読み取る。そして、その包埋ブロックBの面出し作業が完了した後、上記した包埋ブロックBのIDや面出し装置2による最新の切削方向、切削角度及び切削厚さを含む面出しデータが、面出し装置2の図示せぬ制御部からマスターコントローラ3のコントローラ本体30に送信される(S4)。
コントローラ本体30は、面出し装置2から受信した面出しデータを記憶する(S5)。
【0037】
次に、作業者は、ブロックマガジン21内の全ての包埋ブロックBの面出しが完了した後、そのブロックマガジン21を面出し装置2から取り出して薄切装置4にセットする(S6)。
【0038】
次に、作業者がマスターコントローラ3の操作部33を操作して薄切装置4を稼動させる。これにより、まず、ブロックローダ42がブロックマガジン41内の包埋ブロックB´を取り出して切削部40にセットする。続いて、切削部40にセットされた包埋ブロックB´のIDをブロック識別機構43によって読み取る。この包埋ブロックB´のIDは薄切装置4の図示せぬ制御部からマスターコントローラ3のコントローラ本体30に送信される。(S7)
【0039】
薄切装置4から包埋ブロックB´のIDを受信したマスターコントローラ3のコントローラ本体30は、記憶された複数の面出しデータの中から当該包埋ブロックB´のIDに対応する面出しデータを選出し、その面出しデータ及び操作部33で入力した作製条件を薄切装置4の図示せぬ制御部に送信する(S8)。
【0040】
マスターコントローラ3から面出しデータ及び作製条件を受信した薄切装置4は、それら面出しデータ及び作製条件に従い切削部40を駆動させて薄切片Xを作製する(S9)。
詳しく説明すると、薄切装置4の制御部は、コントローラ本体30から受信した面出しデータに基づいて方向転換機構47及び角度調節機構48の駆動をそれぞれ制御し、包埋ブロックB´の向き及び傾きを切刃45にそれぞれ合わせ、切刃45による包埋ブロックB´の切削方向及び切削角度がそれぞれ調節される。これにより、薄切装置4における包埋ブロックB´の切削方向と切削角度を目視で合わせたりする必要がなく、面出しデータに基づいて調節するだけでよく、包埋ブロックB´の切削方向や切削角度の調節が短時間で容易に行われる。
【0041】
また、上記面出しデータ及び作製条件に基づいて送り出し機構46を駆動させ、切刃45に対する包埋ブロックB´の高さ位置を調節する。これにより、切刃45による包埋ブロックB´の切削厚さが調節される。そして、図示せぬ往復動機構により、作製条件で設定された所定速度で包埋ブロックB´を切刃45側に向けて水平移動させ、包埋ブロックB´の表面を切刃45で薄切(本削り)して薄切片Xを削り出す。このように操作部33で所望の作製条件を入力することによって薄切片Xが所望の作製条件で作製されるので、薄切片Xの作製条件の管理が容易となる。
【0042】
また、薄切装置4で包埋ブロックB´を薄切しているとき、複数の面出し装置2によって次の包埋ブロックBの面出しをそれぞれ行う。このとき、薄切工程よりも処理時間を要する面出し工程が複数の面出し装置2…で併行して行われ、これら複数の面出し装置2…でそれぞれ面出しされた各包埋ブロックB´が共通の薄切装置4にそれぞれ供給され、その薄切装置4において各包埋ブロックB´が順次薄切される。
【0043】
作製された薄切片Xは、薄切片ハンドリング機構52によって保持され、水槽51に浸けて伸展させた後、スライドガラスハンドリング機構53によって図示せぬスライドガラス供給部から取り出されたスライドガラスGに貼り付ける。これにより、スライドガラスGに薄切片Xが貼り付けられてなる薄切片標本X´が作製される。このとき、薄切装置4の制御部に送信された作製条件に従いスライドガラスハンドリング機構53を制御し、図示せぬスライドガラス供給部に収納された複数種類のスライドガラスGの中から所望のスライドガラスGを取り出す。
【0044】
次に、図示せぬ乾燥手段で薄切片標本X´を乾燥させた後、印字機構54によってブロックIDに対応するID(スライドガラスID)をスライドガラスGのフロスト部分に印字する(S10)。
その後、薄切片標本X´をスライドガラスハンドリング機構53で搬送して標本回収部50に収納する。
【0045】
また、薄切装置4による薄切片標本X´の作製が完了した後、薄切装置4の制御部からマスターコントローラ3のコントローラ本体30に作製ログが送信される(S11)。
コントローラ本体30は、薄切装置4の制御部から受信した作製ログを記憶する(S12)。これにより、作業者が作製ログを記録する必要がなく、GLPの対応が容易となる。このとき、作製ログの1つとして記録される面出しデータには、複数の面出し装置2のうちのどの面出し装置2を用いて面出ししたかを特定するための面出し装置識別情報が含まれているので、包埋ブロックBの面出しに使用された面出し装置2が識別可能である。
【0046】
上記した構成からなる薄切片作製システム1によれば、面出し装置2と薄切装置4とがそれぞれ備えられているので、薄切工程が完了する前に次の包埋ブロックBの面出し工程を行うことができ、薄切片X(薄切片標本X´)の作製効率を向上させることができる。
また、面出し装置2からマスターコントローラ3に送信された面出しデータをマスターコントローラ3から薄切装置4に送信することで、薄切装置4における包埋ブロックB´の切削方向や切削角度の調節が短時間で容易に行われるので、薄切片X(薄切片標本X´)の作製効率を向上させることができる。
【0047】
また、マスターコントローラ3のコントローラ本体30が、薄切装置4から受信した薄切片Xの作製ログを記憶する記憶手段を備えており、薄切片Xの作製ログがコントローラ本体30に記憶されることで、作業者が作製ログを記録する必要がなく、GLPの対応が容易となるので、作業者の管理負担を軽減することができる。
【0048】
また、操作部33で入力された薄切片Xの作製条件が薄切装置4に送信され、薄切装置4が前記作製条件に従い薄切片Xを作製するので、薄切片Xの作製条件の管理が容易であり、作業者の管理負担を軽減することができる。
【0049】
また、面出し装置2及び薄切装置4にブロック識別機構23,43がそれぞれ備えられ、面出し装置2のブロック識別機構23で読み込んだブロックIDが面出しデータの一部としてマスターコントローラ3に送信されており、また、薄切装置4のブロック識別機構43で包埋ブロックB´のブロックIDを読み込み、そのブロックIDに対応する面出しデータをマスターコントローラ3から薄切装置4に送信して薄切装置4による切削角度や切削方向が調節されるので、各包埋ブロックB´に対応した面出しデータに基づいて包埋ブロックB´の薄切工程を行うことができ、各包埋ブロックB´にそれぞれ対応する面出しデータを作業者が管理する必要がなく、作業者の管理負担を軽減することができる。
【0050】
また、面出し装置2が薄切装置4よりも多数備えられているので、薄切工程よりも処理時間を要する面出し工程が複数の面出し装置2で併行して行われ、これら複数の面出し装置2でそれぞれ面出しされた各包埋ブロックB´が共通の薄切装置4にそれぞれ供給され、その薄切装置4において各包埋ブロックB´が順次薄切される。これにより、薄切片X(薄切片標本X´)の作製効率を向上させることができる。
【0051】
また、各面出し装置2からマスターコントローラ3に送信される面出しデータには、面出し装置識別情報が含まれており、包埋ブロックBの面出し作業に使用された面出し装置2が識別可能であるので、どの面出し装置2を使用したかを作業者が管理する必要がなく、作業者の管理負担を軽減することができる。
【0052】
以上、本発明に係る薄切片作製システムの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、1台の薄切装置4に対して複数台の面出し装置2が備えられており、薄切装置4の台数よりも面出し装置2の台数の方が多数となっているが、本発明は、面出し装置2の台数よりも薄切装置4の台数の方が多数であってもよく、或いは、面出し装置2と薄切装置4とが同数台であってもよい。例えば、1台の面出し装置2に対して複数台の薄切装置が備える薄切片作製システム1であってもよく、或いは、1台の面出し装置2と1台の薄切装置4とを備える薄切片作製システム1であってもよく、或いは、複数台の面出し装置2とそれと同数台の薄切装置4とを備える薄切片作製システム1であってもよい。
【0053】
また、上記した実施の形態では、薄切装置4によって削り出された薄切片Xが薄切片ハンドリング機構52によって保持されて搬送されているが、本発明は、例えばベルトコンベア等の他の搬送手段によって薄切片Xを搬送することも可能である。
【0054】
また、上記した実施の形態では、薄切片Xを伸展手段44で伸展させた後、スライドガラスGに貼り付けているが、本発明は、薄切片XをスライドガラスGに貼り付けた後、湯伸展などによって薄切片Xを伸展させることも可能である。
【0055】
また、上記した実施の形態では、薄切装置4の切削部40が、切刃45を固定して包埋ブロックB´を往復動させることで、包埋ブロックB´の表面を薄切する構成となっているが、本発明は、切刃45と包埋ブロックB´とが相対的に移動すればよく、例えば、面出し装置2の切削部20と同様に、包埋ブロックB´を固定して切刃45を往復動させることで薄切してもよく、或いは、包埋ブロックB´及び切刃45がそれぞれ移動する構成となっていてもよい。
【0056】
また、上記した実施の形態では、薄切片Xの作製ログをマスターコントローラ3のコントローラ本体30で記憶しているが、本発明は、薄切片Xの作製ログを他の方法で記録することも可能であり、例えば、作製ログを記憶する記憶装置をマスターコントローラ3とは別に備えることも可能であり、或いは、作製ログを作業員が記録することも可能である。
【0057】
また、上記した実施の形態では、マスターコントローラ3に薄切片Xの作製条件を入力する操作部33が備えられており、マスターコントローラ3から薄切装置4に薄切片Xの作製条件が送信される構成となっているが、本発明は、マスターコントローラ3で薄切片Xの作製条件を入力しない構成にすることも可能であり、例えば、薄切片Xの作製条件に従い薄切装置4を直接操作することも可能である。
【0058】
また、上記した実施の形態では、面出し装置2及び薄切装置4にそれぞれブロック識別機構23,43が備えられ、各包埋ブロックBを識別することができる構成となっているが、本発明は、上記したブロック識別機構23,43を省略することも可能であり、例えば包埋ブロックBにシリアルナンバーを付すなどして、包埋ブロックBの識別管理を作業者が行うことも可能である。
【0059】
また、本発明は、1つのスライドガラスGに2つ以上の薄切片Xを貼り付けることも可能であり、この場合、各薄切片XのブロックIDをスライドガラスGにそれぞれ印字してもよく、或いは、ブロックIDとは異なるスライドガラスIDをスライドガラスに印字してもよい。
【0060】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えたり省略したりすることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 薄切片作製システム
2 面出し装置
3 マスターコントローラ
4 薄切装置
23 ブロック識別機構(識別手段)
33 操作部(入力部)
43 ブロック識別機構(識別手段)
B,B´ 包埋ブロック
X 薄切片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、前記生体試料の所望の観察面が表面に露出するまで前記包埋ブロックを切削する面出し装置と、
該面出し装置による切削方向及び切削角度を含む面出しデータを該面出し装置から受信するマスターコントローラと、
該マスターコントローラから受信した前記面出しデータに基づいて前記包埋ブロックの切削方向及び切削角度をそれぞれ調節し、前記面出し装置で面出しされた前記包埋ブロックの表面を薄切して薄切片を作製する薄切装置と、
を備えることを特徴とする薄切片作製システム。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片作製システムにおいて、
前記マスターコントローラは、前記薄切装置から受信した前記薄切片の作製ログを記憶する記憶手段を備えていることを特徴とする薄切片作製システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄切片作製システムにおいて、
前記マスターコントローラは、前記薄切片の作製条件を入力する入力部を備えており、
前記薄切装置は、前記マスターコントローラから前記薄切片の作製条件を受信し、該作製条件に従い薄切片を作製することを特徴とする薄切片作製システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の薄切片作製システムにおいて、
前記面出し装置及び前記薄切装置には、前記包埋ブロックを識別する識別手段がそれぞれ備えられており、
前記面出し装置から前記マスターコントローラに送信される前記面出しデータには、前記面出し装置の識別手段によるブロック識別情報が含まれ、
前記マスターコントローラは、前記薄切装置から該薄切装置の識別手段によるブロック識別情報を受信し、該ブロック識別情報と前記面出しデータに含まれる前記ブロック識別情報とに基づいて、前記薄切装置で薄切する包埋ブロックに対応する面出しデータを選択して前記薄切装置に送信することを特徴とする薄切片作製システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の薄切片作製システムにおいて、
前記面出し装置は、前記薄切装置よりも多数備えられており、
前記面出しデータには、前記面出し装置を識別する面出し装置識別情報が含まれていることを特徴とする薄切片作製システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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