説明

薄切片作製装置

【課題】包埋ブロックの表面を変形させること無く、また、包埋ブロックの表面を観察しながら正確かつ均一な厚さの薄切片を作製し、作製した薄切片を無端状ベルトを介して自動的に次工程に搬送する。
【解決手段】搬送手段を、無端状ベルトと、カッターの切れ刃の向きと略平行になるよう切れ刃と近接して配置され、無端状ベルトを折り返すことにより無端状ベルトによる薄切片の搬送起点を形成する第1の折り返し軸と、第1の折り返し軸によって折り返された無端状ベルトを、薄切片の搬送方向に対して逆方向に折り返す第2の折り返し軸と、第2の折り返し軸によって折り返された無端状ベルトを薄切片の搬送方向に対して側方へ折り返す第3の折り返し軸と、第3の折り返し軸によって折り返された無端状ベルトを、第1の折り返し軸の存する方向へ折り返す第4の折り返し軸とを有する構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するとともに、作製した薄切片を次工程に搬送する薄切片作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを、厚さ数μmの極薄の薄切片に薄切した後に、包埋剤を除去した試料を観察する方法が知られている。この中で、薄切片を作製する工程として、試料台に包埋ブロックを固定し、カッターを所定の移動速度で移動させることで、厚さ3〜5μm程度の薄切片を作製し、このように作製した薄切片を細い糸などで引っ掛けて取出し、伸展工程、乾燥工程などの次工程に搬送するものがある。
従来、この作製された薄切片を取り出し、搬送する工程は、薄切片が極薄で、カール、しわ、破れなどの損傷が発生しやすいことから、手作業で行われてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製し、次工程に搬送する必要があり、これらの工程の自動化が試みられている。
【0003】
例えば、包埋ブロックを薄切するカッターと、包埋ブロックが固定され、カッターに対して往復運動する試料台と、接着層を有して試料台の上方で供給ロールと集めロールとの間に延びているテープと、包埋ブロックの上方において包埋ブロックの表面にテープを押圧する押圧装置とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このような装置によれば、カッターで包埋ブロックを薄切する際に、カッターの切れ刃の前方において、押圧装置によって包埋ブロックの表面にテープを押圧することで、作製された薄切片がテープに接着されて搬送される。
【0004】
また、包埋ブロックとテープとを異なる極性の電荷に帯電させ、薄切の初期段階にはテープに付与する張力を低くしてテープを薄切開始部に接触、付着させて、薄切の途中から張力を増加させて、テープに付着した薄切片をカッターのすくい面から離す薄切片の作製方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭49−28711号公報
【特許文献2】特許第3560728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2による装置及び方法では、ともにカッターによって薄切する前に、包埋ブロックの表面にテープを押し付けて、テープを接着あるいは静電気力などによって付着させる必要があり、テープを包埋ブロックに押し付けることで、包埋ブロックの表面が変形してしまう恐れがあった。すなわち、包埋ブロックの表面が変形してしまうことで、正確に、また、均一な厚さで薄切片を作製することができなくなってしまう問題があった。また、包埋ブロックの上方にテープが位置することで、包埋ブロック中に包埋された試料は、常にテープあるいはカッターに覆われた状態であるため、薄切片の作製中に包埋ブロックの表面を観察することができなくなってしまう問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、包埋ブロックの表面を変形させること無く、また、包埋ブロックの表面を観察しながら正確かつ均一な厚さの薄切片を作製し、作製した薄切片を無端状ベルトを介して自動的に次工程に搬送することが可能な薄切片作製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台に固定された前記包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するカッターと、該カッターによって作製された前記薄切片を前記カッターの後方へ搬送して次工程に引渡す搬送手段と、前記試料台、または、前記カッター及び前記搬送手段のいずれか一方を所定の送り方向に移動させて、前記カッターによって前記包埋ブロックを薄切する送り機構と、を備えた薄切片作製装置であって、前記搬送手段による前記薄切片の搬送方向を、前記送り機構による前記カッターの切削方向に対して逆方向となるように設定し、前記カッターを、切れ刃の向きが該カッターによる切削方向に対し所定鋭角の引き角を持つように配置し、前記搬送手段を、無端状ベルトと、前記カッターの切れ刃の向きと略平行になるよう該切れ刃と近接して配置されて前記無端状ベルトを折り返すことにより該無端状ベルトによる前記薄切片の搬送起点を形成する第1の折り返し軸と、該第1の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記薄切片の搬送方向に対して逆方向に折り返す第2の折り返し軸と、該第2の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記薄切片の搬送方向に対して側方へ折り返す第3の折り返し軸と、該第3の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記第1の折り返し軸の存する方向へ折り返す第4の折り返し軸とを有する構成にしたことを特徴としている。
【0008】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、試料台、または、カッターのいずれか一方が送り機構で送り方向に移動することで、試料台に固定された包埋ブロックはカッターによって薄切され、薄切片が作製される。この際、包埋ブロックの薄切される表面は露出した状態であり、包埋ブロックの表面を押圧した状態で薄切する構成では無いので、包埋ブロックの表面を観察しながら、正確、かつ均一な厚さで薄切することができる。そして、作製されていく薄切片が、相対的にカッターの切削方向後方へ移動するのに伴って、薄切片はカッターの上方において第1の折り返し軸で折り返されて搬送方向へ送られる無端状ベルトに接触し、載置され、無端状ベルトとともにカッターの後方へ搬送される。搬送した後の無端状ベルトは、第2の折り返し軸、第3の折り返し軸及び第4の折り返し軸でそれぞれ折り返されて、再び搬送起点を形成する第1の折り返し軸へ戻る。
【0009】
また、上記の薄切片作製装置において、前記第3の折り返し軸と前記第4の折り返し軸との少なくとも一方には、軸線の傾き角を調整する角度調整手段が設けられていることが好ましい。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、無端状ベルトの左右部分あるいは中央部分で同じテンションをかけながら均一に搬送するのが理想的であり、それには、いずれかの折り返し軸にその軸線の角度を調整する角度調整手段を設けるのが好ましい。この場合、第1の折り返し軸はカッターの切れ刃の向きに平行、第2の折り返し軸は送り方向に直交というようにそれぞれ向きが予め定められているので、角度調整手段を設けるのは難しい。それに対して、第3の折り返し軸及び第4の折り返し軸は、そのような制約が無く角度調整手段を設けてもなんら支障がない。
【0010】
また、上記の薄切片作製装置において、前記第2の折り返し軸には、前記無端状ベルトの張力を調整するテンション機構が設けられていることが好ましい。
【0011】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、第2の折り返し軸は、無端状ベルトを薄切片の搬送方向に対して逆方向に折り返しているため、搬送方向と直交する方向に配置される。このため、テンション機構によって同軸が、無端状ベルトの搬送方向に多少ずれたところで、該第2の折り返し軸と無端状ベルトとの相対的な角度の関係は変わらず直交となったままである。このため、テンション機構を容易に構成できる。
【0012】
また、上記の薄切片作製装置において、前記第1〜第4の折り返し軸は、いずれも前記カッターの切り刃が前記包埋ブロックに対して相対移動する仮想平面に平行に配置され、第1の折り返し軸の前記切削方向に対する引き角をθa(度)、第3の折り返し軸の前記搬送方向に対する角度をθc(度)、前記第4の折り返し軸の前記搬送方向に対する角度をθd(度)としたとき、θa、θc、θdの関係が、
θd=90−θa−θc
で表されることが好ましい。
【0013】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、前記第1〜第4の折り返し軸は、いずれも前記カッターの切り刃が前記包埋ブロックに対して相対移動する仮想平面に平行に配置されているため、略平面的な関係だけ管理すれば足り、3次元を導入してそれら軸の角度管理を行う場合に比べて管理ははるかに容易になる。また、第1〜第4の折り返し軸(第2の折り返し軸は搬送方向に直交して配置される)の搬送方向に対する角度を、上記式のように設定すれば、ベルトの左部分、中央部分及び右部分いずれも同じ長さになり、無端状ベルトの一部が皴になったり、異様に引っ張られたりすることがない。
【0014】
さらに、上記の薄切片作製装置において、前記カッターの後方には、液体が満たされた液槽が設けられ、前記搬送手段の無端状ベルトは、前記第2の折り返し軸と前記第3の折り返し軸との間に設けられた補助折り返し軸により案内されて、前記液槽の前記液体に浸漬されるよう下方へ屈曲されることが好ましい。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、無端状ベルトに載置された薄切片を、無端状ベルトとともに液槽の液体まで搬送することで、無端状ベルトに載置された状態から液槽の液体中へ離脱させて次工程に引き渡すことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の薄切片作製装置によれば、搬送手段として、無端状ベルトと第1〜第4の折り返し軸とを備え、第1の折り返し軸で、無端状ベルトをカッターの上方で折り返して、カッターの後方へ移送することで、包埋ブロックの表面を観察しながら、カッターによって薄切片を作製し、搬送することができる。また、カッターによって薄切する際に、包埋ブロックの表面を押圧するものが無い。このため、正確、かつ均一な厚さで、薄切片を自動的に作製し、次工程に搬送することができる。加えて、無端状ベルトを用いているので、連続的に薄切片を搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1の実施形態>
図1及び図2は、この発明に係る第1の実施形態を示し、図1は平面図、図2は側面図である。図1に示す薄切片作製装置1は、生体試料Aが包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料Aを検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料Aは、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料Aを包埋剤B1によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。このような包埋ブロックBは、より詳しくは、以下のように作製されるものである。
まず、上記の生体試料Aの塊をホルマリンに漬けて、生体試料Aを構成する蛋白質を固定する。そして、組織を固い状態にした後、適当な大きさに切断する。最後に、切断された生体試料Aの内部の水分を包埋剤B1に置き換えたものを、溶解した包埋剤B1の中に埋め込んで、固めることで作製される。ここで、包埋剤B1は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、有機溶剤に浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片Dを搬送する搬送手段20とを備える。試料台2は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを位置決めし、固定することが可能である。
また、試料台2の下方には、Xステージ4及びZステージ5を有する送り機構6が設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを、薄切する送り方向X及び高さ方向Zにそれぞれ位置調整するとともに、送り方向Xに所定の移動速度で送ることが可能である。また、薄切片作製装置1は、カッター3を支持する固定台7を備えるとともに、固定台7の上面7aにはホルダ8が設けられ、このホルダ8にカッター3の上面3aを当接させることで、固定台7との間でカッター3を挟持して固定している。カッター3は、切れ刃3bの向きがこのカッターによる切削方向Xaに対し所定鋭角の引き角(度)θaを持つように配置されている(図3参照)。また、搬送手段20による薄切片Dの搬送方向Xbは、送り機構6の前記カッター3による切削方向Xaに対して逆方向となるように設定されている(図2参照)。
また、カッター3の前方の第1の折り返し軸22と対向する位置には、送風機9が設けられている。
【0018】
搬送手段20は、無端状ベルト21と、カッター3の切れ刃3bの向きと略平行になるよう切れ刃3bと接近して配置され、無端状ベルト21を折り返すことにより無端状ベルト21による薄切片Dの搬送起点を形成する第1の折り返し軸22と、カッター3の後方に配置されて、第1の折り返し軸22によって折り返された無端状ベルト21を、薄切片の搬送方向に対して逆方向に折り返す第2の折り返し軸23と、第1の折り返し軸22と第2の折り返し軸23との間に巻回される無端状ベルト21の下方に設けられ、第2の折り返し軸23によって折り返された無端状ベルト21を薄切片Dの搬送方向に対して側方へ折り返す第3の折り返し軸24と、第3の折り返し軸24によって折り返された無端状ベルト21を、第1の折り返し軸22の存する方向へ折り返す第4の折り返し軸25とを有する構成になっている。なお、第1〜第4の折り返し軸22〜25は、搬送手段20のフレームによって支持されている。
【0019】
第4の折り返し軸25には、折り返し軸の軸線の傾き角を調整する角度調整手段26が設けられている。角度調整手段26は、第4の折り返し軸25の一方の端部を所定位置Pでピン支持するボールジョイント27と、第4の折り返し軸25の他方の端部に設けられ、該端部を、前記所定位置Pを中心に回転する軌道(後述する仮想平面Sに沿った軌道)のいずれかの位置に固定するよう調整する調整機構28からなっている。調整機構28は、例えば、フレームに回転可能に支持された雄ねじ28aと、それら雄ねじ28aに螺合するとともに第2の折り返し軸25の他方の端部にピン結合されたナット28bを備え、雄ねじ28aを回転させることにより、ナット28bを介して、このナット28bにピン結合された前記第2の折り返し軸25の他方の端部を位置調整する構成になっている。
【0020】
第2の折り返し軸23には、無端状ベルト21の張力を調整するテンション機構30が設けられている。テンション機構30は、例えば、第2の折り返し軸23の両端にそれぞれ設けられて、それら第2の折り返し軸23の両端をそれぞれ前記搬送方向Xbに付勢するばねやゴム等の付勢部材30aから構成される。
【0021】
さらに、第2の折り返し軸23には、駆動用モータ31が設けられ、この駆動用モータ31により、ベルト等の動力伝達手段32を介して、第2の折り返し軸23と一体的にローラ33が回転され、これにより、該ローラ33に巻回される前記無端状ベルト21が回転移送されるようになっている。
【0022】
すなわち、図1に示すように、無端状ベルト21は、駆動用モータ31が駆動することによって、動力伝達手段32およびローラ33を介して、まず、第2の折り返し軸23により折り返された無端状ベルト21が搬送方向Xbとは逆方向に移送されて第3の折り返し軸24に至り、ここで折り返されて第4の折り返し軸25に至り、ここで折り返されて薄切片の搬送起点を形成する第1の折り返し軸22に至り、ここで折り返されて搬送方向Xbに沿って第2の折り返し軸23まで戻る循環路を、連続的に回転移送する。
なお、駆動用のモータ31の回転数は、前記無端状ベルト21の移送速度が、送り機構6の送り方向Xへの移動速度と略等しくなるように設定されている。
なお、カッター3の後方、具体的には、無端状ベルト21の搬送方向Xbの端部下方に刃、水等の液体が満たされた液槽35が配置されている。
【0023】
ここで、第1〜第4の折り返し軸22〜25の互いの角度の関係について説明すると、図2に示すように、それら折り返し軸22〜25は、いずれも前記カッター3の切り刃3bが包埋ブロックBに対して相対移動する仮想平面Sに平行に配置されている。そして、第1の折り返し軸22の搬送方向Xbに対する角度(度)をθa(この角度は前記引き角と一致する)、第3の折り返し軸24の搬送方向Xbに対する角度(度)をθc、第4の折り返し軸25の前記搬送方向に対する角度(度)をθdとしたとき、θa、θc、θdの関係は、
θd=90−θa−θc
で表される(図3参照)。
つまり、第1〜第4の折り返し軸22〜25の互いの角度の関係が、上記式を満たすとき、これら折り返し軸に巻回された無端状ベルト21は、幾何学的にベルトの左部分、中央部分及び右部分いずれも同じ長さになる。
【0024】
次に、この実施形態の薄切片作製装置1の作用について説明する。図2に示すように、まず、送り機構6のZステージ5によって、包埋ブロックBの高さ方向Zの位置調整を行い、カッター3によって所定の厚さ(3〜5μm程度)に薄切できるように、カッター3と包埋ブロックBとの相対的位置を決定する。そして、送り機構6のXステージ4を駆動して、所定の移動速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを送り方向Xに移動させるとともに、駆動モータ31を駆動して無端状ベルト21を回転移送させる。カッター3は固定台7によって搬送手段20のフレームに固定されているので、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBが相対的に移動することになる。そして、図4に示すように、カッター3が包埋ブロックBを薄切することにより、薄切片Dが作製されていく。この際、包埋ブロックBの表面を押圧したりすることが無いので、包埋ブロックBの表面が変形してしまう恐れが無く、また、表面を観察しながら薄切することができる。
【0025】
このため、包埋ブロックBは、正確、かつ、均一な厚さで薄切されていく。そして、作製されていく薄切片Dは、カッター3によって上方に捲り上げられ、カッター3の後方へ移動する。
【0026】
次に、第1の折り返し軸22は、カッター3の上方において、切れ刃3bに近接して設けられているので、薄切片Dがカッター3の後方に移動するのに伴って、薄切片Dの先端は、第1の折り返し軸22で折り返されて送り方向Xへ移送される無端状ベルト21に接触することになる。さらに、カッター3によって薄切片Dが作製されていくことで、作製された薄切片Dは、カッター3の後方へ移送する無端状ベルト21に載置された状態となる。
【0027】
ここで、送風機9によって、カッター3により薄切された薄切片Dに送風し、第1の折り返し軸22で折り返された無端状ベルト21に薄切片Dを押し付ける。このため、カッター3により作製される薄切片Dは、より確実に無端状ベルト21に載置され、無端状ベルト21によってカッター3の後方へ搬送される。特に、カッター3によって薄切する際に、カッター3の前方へカールしてしまう場合があるが、送風機9によって送風されることで、カールしてしまうのを防ぐことができる。
【0028】
そして、カッター3によって包埋ブロックBが完全に薄切されることで、薄切片Dは包埋ブロックBから切り離され、無端状ベルト21とともにカッター3の後方へ搬送される。なお、無端状ベルト21の移送速度は、送り機構6による送り速度、すなわちカッター3によって作製されていく薄切片Dの作製速度と略等しい速度である。このため、作製されていく薄切片Dは、無端状ベルト21の移送速度が早く、無端状ベルト21に引っ張られて切断されてしまうことが無い。あるいは、無端状ベルト21の移送速度が遅く、無端状ベルト21とカッター3の切れ刃3bとの間でしわになってしまうようなことが無い。
【0029】
そして、第2の折り返し軸23が位置するところまで搬送されることで、無端状ベルト21に載置された薄切片Dは、無端状ベルト21とともにカッター3の後方へ搬送され、必要に応じて次の搬送手段に移し替えられた後に、水等の液が満たされた液槽35まで搬送される。液槽35まで搬送された薄切片Dは、液中に浮かべられることになり、次工程に引渡される。なお、薄切片Dは、液槽35において液面に浮かべられることにより、液の表面張力が作用するので、薄切した際に生じてしまったしわ、反り、歪みなどの変形を修正することができる。また、搬送手段20は無端状ベルト21による無限走行としているので、搬送された薄切片Dを所定箇所まで搬送した後、第2、第3、及び第4の折り返し軸23,24,25でそれぞれ折り返された後、再びカッター3に向って移送し、作製された薄切片Dを連続して搬送することができる。
【0030】
以上のように、薄切片作製装置1によれば、搬送手段20として、第1〜第4の折り返し軸22〜25とを備え、無端状ベルト21をカッター3の上方へ折り返し、カッター3の後方へ移送することで、包埋ブロックBの表面を観察しながら、カッター3によって薄切片Dを作製し、搬送することができる。また、カッター3によって薄切する際に、包埋ブロックBの表面を押圧するものが無い。このため、正確、かつ均一な厚さで、薄切片Dを自動的に作製し、次工程に搬送することができる。
【0031】
また、上記の薄切片作製装置1によれば、第4の折り返し軸25に、軸線の傾き角を調整する角度調整手段26が設けられており、この角度調整手段26によって、例えば、無端状ベルト21の長さが巾方向によって多少異なる場合であっても、また、無端状ベルト21が巾方向に沿って均一に移送しにくい場合であっても、それを修正して、無端状ベルト21の左右部分あるいは中央部分で同じテンションをかけながら均一に移送することができる。なお、軸線の角度を調整する角度調整手段26の配置箇所としては、第4の折り返し軸25のほかに、第1折り返し軸22や第2の折り返し軸23に設けることも可能である。しかしながら、第1の折り返し軸22はカッター3の切れ刃3bの向きに平行、第2の折り返し軸23は薄切片の搬送方向Xbに直交というようにそれぞれ向きが予め定められているので、角度調整手段26を設けるのは妥当でない。それに対して、第4の折り返し軸25に設けた場合、そのような制約が無く角度調整手段26を設けてもなんら支障がない。第3の折り返し軸24に設ける場合でもそのような制約が無く、ここに角度調整手段26を設けてもよい。
【0032】
また、上記の薄切片作製装置1によれば、第2の折り返し軸23にテンション機構30を設けられており、これによって、無端状ベルト21に適切な緊張力を与えることができる。なお、第2の折り返し軸23は、無端状ベルト21を薄切片の搬送方向Xbに対して逆方向に折り返しているため、搬送方向Xbと直交する方向に配置される。このため、テンション機構21によって同軸23が、無端状ベルト21の搬送方向に多少ずれたところで、第2の折り返し軸23と無端状ベルト21との相対的な角度の関係は変わらず直交となったままである。このため、テンション機構30の構成が容易になる。
【0033】
また、上記の薄切片作製装置1によれば、前記第1〜第4の折り返し軸は、いずれもカッター3の切り刃3bが包埋ブロックBに対して相対移動する仮想平面Sに平行に配置されているため、略平面的な関係だけ管理すれば足り、3次元を導入してそれら軸の角度管理を行う場合に比べて管理ははるかに容易になる。
また、第1の折り返し軸22の前記切削方向に対する引き角をθa(度)、第3の折り返し軸24の搬送方向に対する角度をθc(度)、第4の折り返し軸25の搬送方向に対する角度をθd(度)としたとき、θa、θc、θdが、θd=90−θa−θcを満足する関係になっており、各折り返し軸22,24,25がこの関係を満足するとき、幾何学的に、無端状ベルト21の左部分、中央部分及び右部分いずれも同じ長さになる。このため、無端状ベルト21の一部が皴になったり、異様に引っ張り力が与えられたりするのを防止できる。
【0034】
<第2の実施形態>
図5は、この発明に係る第2の実施形態を示す側断面図である。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5に示すように、この実施形態の薄切片作製装置40においては、前記カッター3の後方に、液体が満たされた液槽35が設けられ、搬送手段20の無端状ベルト21は、第2の折り返し軸23と第3の折り返し軸24との間に設けられた補助折り返し軸42,43により案内されて、液槽35の例えば水等の液体Wに浸漬されるよう、下方へ屈曲される。
【0035】
すなわち、第2の折り返し軸24のさらに後方であって斜め下方に下がった位置には、第1の補助折り返し軸42が液槽35の液中に浸るように設けられ、また、第2の折り返し軸24の下方位置には、第2の補助折り返し軸43が配置されている。そして、第2の折り返し軸24で折り返された無端状ベルト21は、第1の補助折り返し軸42に至り、ここで折り返されて第2の補助折り返し軸43に至り、ここで折り返されて前記第3の折り返し軸24へ至る。無端状ベルト21の他の動きは、前記第1の実施形態で説明したものと同様である。
【0036】
前記薄切片作製装置40によれば、無端状ベルト21に載置された薄切片Dを、他の搬送手段に移し替えることなく、無端状ベルト21とともに液槽35の液中まで搬送することができる。そして、この搬送した薄切片Dを、無端状ベルト21に載置された状態から液槽35の液中へ離脱させ、次工程に引き渡すことができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更等可能である。
例えば、前記各実施形態では、送り機構6が、試料台2を送り方向X及び高さ方向Zに移動可能な構成としたが、これに限ることはなく、試料台2を固定して、カッター3及び搬送手段20を同時に移動させる構成としても良い。少なくとも、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBを固定している試料台2を相対的に移動することが可能であれば良い。
【0038】
また、前記各実施形態では、送り機構6による送り速度と無端状ベルトの移送速度は略等しく設定されているとしたが、作製されていく薄切片Dを損傷しないように無端状ベルト21に載置して搬送させる範囲において、これらの速度は相互に調整されるものである。
また、前記各実施形態では、液槽35には水が満たされているとしたが、水を主体とする液体でも良く、また、薄切片Dの包埋剤B1を溶解しない性質の液体であれば、液体としては、種々選択可能である。
また、前記各実施形態では、各折り返し軸22〜25を、それぞれカッターの切り刃3bの包埋ブロックBに対して相対移動する仮想平面Sに平行に配置しているが、これに限られることなく、例えば、第3及び第4の折り返し軸24,25を3次元的に配置してもよい。この場合、角度調整手段26は、前記仮想平面Sに沿って折り返し軸の角度調整行うのではなく、3次元的な角度調整を行うことが必要になる。
また、各折り返し軸22〜25には、必要に応じて、それら折り返し軸に巻回される無端状ベルト21の巾方向の位置ずれを防止する、例えば突起等の位置規制手段を折り返し軸に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の平面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の側面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の第1〜第4折り返し軸の相互の配置角度の関係を示す説明図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の作用を説明する断面図である。
【図5】この発明の第2の実施形態の薄切片作製装置の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1、40 薄切片作製装置 2 試料台 3 カッター 3a 上面 3b 切れ刃 6 送り機構 7 固定台 9 送風機 20 搬送手段 21 無端状ベルト 22 第1の折り返し軸 23 第2の折り返し軸 24 第3の折り返し軸 25 第4の折り返し軸 26 角度調整手段 30 テンション機構 A 生体試料 B 包埋ブロック B1 包埋剤 S 仮想平面 D 薄切片 W 水(液体) Xa 切削方向 Xb 搬送方向 θa 引き角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台に固定された前記包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するカッターと、該カッターによって作製された前記薄切片を前記カッターの後方へ搬送して次工程に引渡す搬送手段と、前記試料台、または、前記カッター及び前記搬送手段のいずれか一方を所定の送り方向に移動させて、前記カッターによって前記包埋ブロックを薄切する送り機構と、を備えた薄切片作製装置であって、
前記搬送手段による前記薄切片の搬送方向を、前記送り機構による前記カッターの切削方向に対して逆方向となるように設定し、
前記カッターを、切れ刃の向きが該カッターによる切削方向に対し所定鋭角の引き角を持つように配置し、
前記搬送手段を、無端状ベルトと、前記カッターの切れ刃の向きと略平行になるよう該切れ刃と近接して配置されて前記無端状ベルトを折り返すことにより該無端状ベルトによる前記薄切片の搬送起点を形成する第1の折り返し軸と、該第1の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記薄切片の搬送方向に対して逆方向に折り返す第2の折り返し軸と、該第2の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記薄切片の搬送方向に対して側方へ折り返す第3の折り返し軸と、該第3の折り返し軸によって折り返された前記無端状ベルトを前記第1の折り返し軸の存する方向へ折り返す第4の折り返し軸とを有する構成にしたことを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項2】
前記第3の折り返し軸と前記第4の折り返し軸との少なくとも一方には、それら折り返し軸の軸線の傾き角を調整する角度調整手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の薄切片作製装置。
【請求項3】
前記第2の折り返し軸には、前記無端状ベルトの張力を調整するテンション機構が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の薄切片作製装置。
【請求項4】
前記第1〜第4の折り返し軸は、いずれも前記カッターの切り刃が前記包埋ブロックに対して相対移動する仮想平面に平行に配置され、
第1の折り返し軸の前記切削方向に対する引き角をθa(度)、第3の折り返し軸の前記搬送方向に対する角度をθc(度)、前記第4の折り返し軸の前記搬送方向に対する角度をθd(度)としたとき、θa、θc、θdの関係が、
θd=90−θa−θc
で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄切片作製装置。
【請求項5】
前記カッターの後方には、液体が満たされた液槽が設けられ、
前記搬送手段の無端状ベルトは、前記第2の折り返し軸と前記第3の折り返し軸との間に設けられた補助折り返し軸により案内されて、前記液槽の前記液体に浸漬されるよう下方へ屈曲されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片作製装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−26068(P2008−26068A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197049(P2006−197049)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】