説明

薄型アンテナ及びその製造方法

【課題】容易に且つ低コストで製造可能な薄型アンテナ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム基材と、フィルム基材の表面に、アンテナとして動作する形状に蒸着により形成された金属層と、からなる薄型アンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に携帯機器に搭載される平面状の薄型アンテナとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯型のコンピュータ、いわゆるノートパソコン(以下、ノートPC)は、家庭、およびビジネス向けに広く普及している。電子部品の高機能化に伴い、ノートPCも多機能化されており、様々な用途に活用されている。場所を選ばないデジタル情報端末として機能するため、現在市販されているほとんど全てのノートPCには、Bluetooth(登録商標)やワイヤレスLANに対応するアンテナとモジュールが内蔵されている。また、携帯電話や米国アップル社のiPod(登録商標)に代表される携帯型音楽機器なども、高機能化が著しく、種々の通信機能を備えている。
【0003】
ノートPCや携帯電話、携帯型音楽機器等の携帯機器向けの内蔵型のアンテナは、特許文献1〜3に示されるような、薄型で平板状のものが多い。この内蔵型のアンテナは、主にLCD(表示画面)搭載側の上辺や側辺に設置される。これらのアンテナは、省スペースであるため、アンテナ設置の自由度が高く、広く携帯機器に搭載されている。
【0004】
このような薄型アンテナの製造方法には、大別して以下の3通りがある。
【0005】
一つ目は、特許文献1〜3に記載されているように、薄状銅板にプレス加工、エッチング加工、ミーリング加工、又はワイヤーカット加工を施してアンテナ導体形状を形成し、その片面或いは両面にフィルム状の絶縁体を貼り付ける方法である。フィルム状の絶縁体は、導体形状の保持を主目的としている。以後、このようなアンテナをフィルムアンテナと呼ぶ。
【0006】
二つ目は、プリント基板技術を用いてアンテナを形成する方法である。これには更に2種類の製造方法がある。一つは、リジッド基板を用いるものである。通常ガラスエポキシ基板が使用される。以後、このようなアンテナをPWBアンテナと呼ぶ。もう一つは、フレキシブルプリント基板(以下、FPC)の製造方法によりアンテナを形成するものもある。以後、このようなアンテナをFPCアンテナと呼ぶ。これらのプリント基板を用いたアンテナでは、アンテナ導体はエッチング加工によって形成される。
【0007】
三つ目は、単に薄状銅板にプレス加工、エッチング加工、ミーリング加工、あるいはワイヤーカット加工を施してアンテナ導体形状を形成しただけのものである。以後、このようなアンテナを板金アンテナと呼ぶ。
【0008】
以上紹介したアンテナは、すでに広く量産、市販されており、携帯機器の中には複数のアンテナが搭載される。各々のアンテナは、それぞれ別の製造方法で作られている場合も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3830358号公報
【特許文献2】特許第3552693号公報
【特許文献3】特許第3622959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来技術には以下のような問題がある。
【0011】
まず、フィルムアンテナに関しては、プレス加工の場合、導体フレーム加工、フィルム加工、それらを貼り合わせた後に外形を打ち抜くトリム加工(製品に折り曲げがある場合にはトリムと同時に曲げ加工を行う)と3工程が必要となる。さらに、それぞれの工程でプレス用の金型が必要となる。したがって、プレス加工の場合、初期費用が大きくなる欠点がある。また、エッチング加工、ミーリング加工、及びワイヤーカット加工は、加工時間が長くなるため、大量生産には適さないという欠点がある。
【0012】
また、PWBアンテナは、導体フレームがエッチング処理によって形成されるが、PWB製造自体が回路基板製作等で広く一般化しているため、工程能力は十分である。ただし、基材としての厚みが一般的に最小0.1mm程度であるため、曲面への取付けなどは不可能である。また、折り曲げ加工も不可能である。
【0013】
また、FPCアンテナは、通常ポリイミドフィルム上に導体フレームが形成される。その導体フレームの形成には、エッチングが用いられる。PWBアンテナ同様、製造自体が回路基板製作等で広く一般化しているため、工程能力は十分であるが、基材のポリイミドフィルムは高価であるため、製品価格は高価となる。
【0014】
さらに、板金アンテナは、プレス加工や、ミーリング加工、あるいはワイヤーカット加工などで製作される。プレス加工の場合には、特に複雑な折り曲げ構造でない限り、通常金型は1型で済む。ミーリング加工とワイヤーカット加工については、加工時間が長くなるため、大量生産には適さないという欠点がある。何れの場合にも、アンテナエレメント部分の微細構造の変形を防止するという観点から、プラスチックなどの射出成型体に貼り付けたり、発泡体に貼り付けたりといった補強構造が必要となる。また、一般に導体厚は前記の観点から0.1mm〜0.4mm程度のものが選定されるが、0.2mm以上の板金の場合には、柔軟性に欠けるため、曲面形状への貼付が難しいという欠点がある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を鑑みて、容易に且つ低コストで製造可能な薄型アンテナ及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、柔軟性に富み、曲面形状への取付けが可能な薄型アンテナ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る薄型アンテナは、フィルム基材と、フィルム基材の表面に、アンテナとして動作する形状に蒸着により形成された金属層と、からなるものである。
【0017】
上記薄型アンテナは、フィルム基材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの少なくとも1つから形成されることが好ましい。
【0018】
また、上記薄型アンテナは、金属層は、アルミニウム及び銅の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0019】
また、上記薄型アンテナは、フィルム基材の厚さが、10〜100μmであることが好ましい。
【0020】
また、上記薄型アンテナは、金属層の厚さが、0.1〜0.3μmであることが好ましい。
【0021】
また、上記薄型アンテナは、フィルム基材の裏面に接着層が形成されていてもよい。
【0022】
本発明に係る薄型アンテナの製造方法は、アンテナの導体フレームパターンの形状を有する遮蔽部と当該遮蔽部以外の部分を型抜きして形成された開口部とを備えたマスクによりフィルム基材の表面を覆う工程と、マスクの上から水性インキを塗布し、マスクをフィルム基材から取り除く工程と、フィルム基材の表面側に金属を蒸着させる工程と、フィルム基材を水洗いして水性インキとこの上に蒸着したアルミニウムを洗い流す工程と、を有するものである。
【0023】
上記薄型アンテナの製造方法は、フィルム基材として、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0024】
また、上記薄型アンテナの製造方法は、金属として、アルミニウム又は銅の少なくとも一方を用いることが好ましい
また、上記薄型アンテナの製造方法は、厚さが10〜100μmのフィルム基材を用いることが好ましい。
【0025】
また、上記薄型アンテナの製造方法は、金属の厚さが0.1〜0.3μmとなるように金属を蒸着させることが好ましい。
【0026】
また、上記薄型アンテナの製造方法は、複数の遮蔽部を形成したマスクを用いることで、複数の導体フレームパターンをフィルム基材上に形成することができる。
【0027】
また、上記薄型アンテナの製造方法は、フィルム基材の裏面に接着層を形成する工程と、接着層に剥離紙を貼り付ける工程と、導体フレームパターンに合わせて、フィルム基材と接着層とをハーフカットする工程と、を有することできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、容易に且つ低コストで製造可能な薄型アンテナ及びその製造方法を実現できる。また、本発明は、柔軟性に富み、曲面形状への取付けが可能な薄型アンテナ及びその製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る薄型アンテナ9の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る薄型アンテナ9に接着層を形成した状態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る薄型アンテナ9を筐体に取付けた状態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る薄型アンテナ9の製造過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態に係る薄型アンテナについて、図1乃至図4を用いて説明する。
【0031】
[薄型アンテナの構成]
図1に示す薄型アンテナ9は、フィルム基材2と、フィルム基材2の表面に、アンテナとして動作する形状に蒸着により形成された金属層(蒸着部1)とから構成される。蒸着部1は、いわゆる逆Fアンテナの形状を有しており、共振点を1つ持つシングルバンドアンテナである。ただし、本発明に係る薄型アンテナの形状は、逆Fアンテナに限定されない。蒸着部1としては、アルミニウム又は銅が好適である。蒸着部1の厚さは、工程能力やコストから0.1〜0.3μm程度が好適である。また、フィルム基材2としては、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)が好適である。フィルム基材2の厚さは、柔軟性や強度を考慮すると、10〜100μm程度が好適である。
【0032】
[薄型アンテナの製造方法]
次に、薄型アンテナ9の製造方法について説明する。
まず、薄型アンテナ9の金属層(蒸着部1)の形状(導体フレームパターン)を有する遮蔽部と、当該遮蔽部以外の部分を型抜きして形成された開口部とを備えたマスクを用意し、そのマスクでフィルム基材2を覆う。フィルム基材2は、例えば、50μmの厚さを有するPETを用いることができる。
【0033】
次いで、このマスクの上から水性インキを塗布し、この後、マスクをフィルム基材2から取り除く。これにより、フィルム基材2上は、開口部には水性インキが塗布され、遮蔽部には水性インキが塗布されない状態となる。このとき、ゴム等からなるドラムに一度転写してからフィルム基材2に水性インキを塗布することもできる。
【0034】
次いで、水性インキを含むフィルム基材2の表面側にアルミニウムを蒸着させる。アルミニウムの蒸着には、PVD法(Physical Vapor Deposition、物理蒸着法)を用いることができる。PVD法では、アルミニウムを真空中で加熱し、発生した蒸気をフィルム基材2に付着させる。蒸着したアルミニウムの厚さは、工程能力やコストから0.1〜0.3μm程度が好適であり、ここでは、0.2μmとした。
【0035】
最後に、フィルム基材2を水洗いする。水洗いにより、水性インキとこの上に蒸着したアルミニウムとが洗い流されるため、フィルム基材2上には、導体フレームパターンの形状に蒸着したアルミニウムだけが残り、蒸着部1が形成される。
【0036】
[実施の形態の効果]
本発明に係る薄型アンテナは、平板印刷を行うがごとくフィルム基材2に水性インキを塗布し、その水性インキに金属を蒸着させ、水洗いをするという構成のため、高速・大量に製造することが可能である。したがって、本発明によると、容易に且つ低コストで製造可能な薄型アンテナを実現できる。
【0037】
また、本発明に係る薄型アンテナは、フィルム基材2とこのフィルム基材2上に金属が蒸着された蒸着部1とからなるため、柔軟性に富み、曲面形状への取付けが可能な薄型アンテナを実現できる。
【0038】
[薄型アンテナの取付け]
図2に示す薄型アンテナ9は、フィルム基材2の裏面に接着層3を形成したものである。接着層3としては、両面接着テープや接着剤を用いることができる。図3に示すように、これをアンテナの被実装筐体6の内壁に貼付することができる。
【0039】
薄型アンテナ9への給電、およびグランド接続は、被実装筐体6の搭載基板4に設けられたピン接触機構5の点接触、または面接触により行われる。薄型アンテナ9の給電点とグランド接続点に接続された給電ピン51とグランドピン52は、搭載基板4上で無線モジュールまで結線される(図示せず)。薄型アンテナ9は、無線モジュールと共にアンテナシステムとして動作する。薄型アンテナ9への接触機構は、図3に示すようなピン形状に加え、バネ形状とすることができる。また、同軸ケーブル等を用いたケーブル給電の形態を取ることもできる。同軸ケーブルを用いた場合、同軸ケーブルの中心導体を薄型アンテナ9の給電点に接続し、同軸ケーブルの外部導体をグランド接続点に接続する。すなわち、1本の同軸ケーブルにより、給電とグランド接続を行うことができる。
【0040】
[薄型アンテナの他の製造方法]
量産に適した薄型アンテナ製造の一実施形態を図4に示す。
水性インキの塗布に用いるマスクは、例えば1メートル角の面積で製作可能である。このため、複数の導体フレームパターンに対応した複数の遮蔽部を形成したマスクを用いることにより、アンテナ原反7には、複数の導体フレームパターンを有する蒸着部1を形成することが可能である。このアンテナ原反7に接着層3としての両面接着テープと剥離紙8を貼り付け、蒸着部1、フィルム基材2、及び接着層3に対し、それぞれ一つのアンテナ外形となるように、各々の導体フレームパターンに合わせてハーフカットを施す。このようにすることで、蒸着部1、フィルム基材2、及び接着層3とから構成される薄型アンテナ9を一つ一つ剥離紙8から容易に取り外せるようにできる。したがって、被実装筐体6へのアンテナ実装時の手間、時間を削減することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態を図示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術思想、技術的範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることは明白である。かかる変更及び修正は全て本発明の技術思想、技術的範囲に包含されるべきものである。
【符号の説明】
【0042】
1 蒸着部(金属層)
2 フィルム基材
3 接着層
4 搭載基板
5 ピン接触機構
6 被実装筐体
7 アンテナ原反
8 剥離紙
9 薄型アンテナ
51 給電ピン
52 グランドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、
前記フィルム基材の表面に、アンテナとして動作する形状に蒸着により形成された金属層と、からなる薄型アンテナ。
【請求項2】
前記フィルム基材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの少なくとも1つから形成されることを特徴とする請求項1に記載の薄型アンテナ。
【請求項3】
前記金属層は、アルミニウム及び銅の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄型アンテナ。
【請求項4】
前記フィルム基材の厚さが、10〜100μmであることを特徴とする請求項1〜3に記載の薄型アンテナ。
【請求項5】
前記金属層の厚さが、0.1〜0.3μmであることを特徴とする請求項1〜4に記載の薄型アンテナ。
【請求項6】
前記フィルム基材の裏面に接着層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5に記載の薄型アンテナ。
【請求項7】
アンテナの導体フレームパターンの形状を有する遮蔽部と当該遮蔽部以外の部分を型抜きして形成された開口部とを備えたマスクによりフィルム基材の表面を覆う工程と、
前記マスクの上から水性インキを塗布し、前記マスクを前記フィルム基材から取り除く工程と、
前記フィルム基材の表面側に金属を蒸着させる工程と、
前記フィルム基材を水洗いして水性インキとこの上に蒸着したアルミニウムを洗い流す工程と、
を有することを特徴とする薄型アンテナの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム基材として、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの少なくとも1つを用いることを特徴とする請求項7に記載の薄型アンテナの製造方法。
【請求項9】
前記金属として、アルミニウム又は銅の少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項7又は8に記載の薄型アンテナの製造方法。
【請求項10】
厚さが10〜100μmのフィルム基材を用いることを特徴とする請求項7〜9に記載の薄型アンテナの製造方法。
【請求項11】
前記金属の厚さが0.1〜0.3μmとなるように金属を蒸着させることを特徴とする請求項7〜10に記載の薄型アンテナの製造方法。
【請求項12】
複数の遮蔽部を形成したマスクを用いることで、複数の導体フレームパターンを前記フィルム基材上に形成することを特徴とする請求項7〜11に記載の薄型アンテナの製造方法。
【請求項13】
前記フィルム基材の裏面に接着層を形成する工程と、
前記接着層に剥離紙を貼り付ける工程と、
前記導体フレームパターンに合わせて、前記フィルム基材と前記接着層とをハーフカットする工程と、
を有することを特徴とする請求項12に記載の薄型アンテナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−61567(P2011−61567A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210001(P2009−210001)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】