説明

薄型化された単セル

【課題】燃料電池を構成する単セルを薄型化することによって燃料電池内部での電圧損失を抑制する技術を提供する。
【解決手段】膜電極接合体11を凹凸を有した波板形状とする。2枚の金属板12a、12cを接合してセパレータ12を形成する。その際、セパレータ12には、金属板12aに溝を設けることによって冷媒流路WPを形成する。膜電極接合体11のアノード電極層14a側の凹部(第1流路形成部位11A)に冷媒流路WPが収納されるようにセパレータ12を配置して単セル10とする。第1流路形成部位11Aの冷媒流路WPの存在しない部位がアノード流路APとなり、カソード電極層14c側の凹部(第2流路形成部位11B)が、カソード流路CPとなる。矢印P方向から平面Sへ単セル10を投影すると、各流路の投影領域Pw、Pa、Pcと膜電極接合体11の投影領域Pmは、少なくとも一部が重なり合う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に用いられる単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、単セルと呼ばれる発電モジュールを積層したスタック構造を有している。単セルは膜電極接合体をセパレータと呼ばれる金属板で挟持した構成を有しており、膜電極接合体は、電解質膜を電極層で挟持した構成を有している。単セルは、膜電極接合体の2つの電極層にそれぞれ水素及び酸素が供給されると、その電気化学反応によって発電する。
【0003】
一般的に膜電極接合体は、その発電部位である電極層の表面積を増すことにより発電量が増す。そこで平面上の膜電極接合体を折り曲げるなどして立体的な形状(例えば凹凸形状)とし、単セルあたりの電極層の表面積を増すことによって発電効率を向上する種々の膜電極接合体が提案されている(特許文献1等)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−224677
【特許文献2】特開2004−185937
【特許文献3】特開平6−215778
【特許文献4】特開平4−154047
【0005】
しかし、折り曲げた膜電極接合体をセパレータで挟持した単セルは、膜電極接合体を折り曲げた分だけその厚みを増してしまいその体積が増加していた。その体積増加に伴って単セル自体の電気抵抗が増し、燃料電池の電圧損失が大きくなる可能性があることを本発明の発明者が見出した。しかし、これまでそうした問題に対して充分な工夫がなされてこなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池を構成する単セルを薄型化することによって燃料電池内部での電圧損失を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、燃料電池を構成する単セルであって、凹凸形状を有した膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持するセパレータと、アノードガス流路とカソードガス流路と冷媒流路とを含む複数の流体流路とを備え、前記流体流路は、前記膜電極接合体と前記流体流路とを、前記単セルの厚み方向及び前記流体流路の流路方向に対して垂直な方向から同一平面上に投影したとき、前記膜電極接合体の投影領域と前記流体流路のそれぞれの投影領域との少なくとも一部が重なり合うことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、各流体流路の少なくともその一部が、膜電極接合体の凹部に収納され、単セルを薄型化できる。
【0009】
上記単セルは、前記流体流路のそれぞれの投影領域の少なくとも一部が互いに重なり合う領域を有することを特徴とするものとしても良い。
【0010】
この構成によれば、各流体流路を前記投影方向に一列に配置することができる。
【0011】
上記単セルは、前記アノード流路と前記冷媒流路とは、前記膜電極接合体に対して同じ側に設けられていることを特徴とするものとしても良い。
【0012】
この構成によれば、カソードガス流路の流路容積は、アノードガス流路の流路容積に較べて、冷媒流路が形成される分だけ、大きくとることができる。そのため、ガス拡散速度が遅いカソードガス(酸素)とガス拡散速度の速いアノードガス(水素)との供給量の均衡をとることができる。
【0013】
上記単セルは、前記膜電極接合体の電極層と前記セパレータとが直接接する部位を有することを特徴とするものとしても良い。
【0014】
この構成によれば、単セルをさらに薄型化できる。
【0015】
上記単セルは、前記アノードガス流路および前記カソードガス流路には、少なくとも一部に多孔体を有していることを特徴とするものとしても良い。
【0016】
この構成によれば、膜電極接合体の凹凸形状を保持するための部材としての機能を多孔体が担うこともでき、また、膜電極接合体とセパレータとの間の電気の経路を多孔体によって確保することもできる。
【0017】
上記単セルは、前記アノードガス流路及び前記カソードガス流路が前記膜電極接合体の凹凸と前記セパレータとの間に形成されていることを特徴とするものとしても良い。
【0018】
この構成によれば、膜電極接合体のアノード側の凹部(カソード側の凸部)とセパレータとの間にはアノードガス流路が形成され、膜電極接合体のカソード側の凹部(アノード側の凸部)とセパレータとの間にはカソードガス流路が形成される。
【0019】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、発電モジュールである単セル、その単セルを備えた燃料電池、その燃料電池を備えた車両等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例
【0021】
A.第1実施例:
図1(A)は、本発明の第1実施例として燃料電池の構造を示す断面図である。燃料電池1000は、単セル10を積層したスタック構造を有している。燃料電池1000は、発電モジュールである単セル10を直列に接続し集電する。
【0022】
図1(B)は、単セル10の構造を示す断面図である。単セル10は、膜電極接合体11と、セパレータ12とから構成される。膜電極接合体11は、電解質膜13をアノード電極層14aとカソード電極層14cとによって挟持した構成を有している。セパレータ12は、2枚の薄い金属板12a、12cで構成されており、膜電極接合体11のアノード電極層14aにアノード側の金属板12aが接するように配置されている。
【0023】
セパレータ12には、アノード側の金属板12aの一部を突出させて溝を形成することにより、カソード側の金属板12cとの間に冷媒流路WPが設けられている。冷媒流路WPは、単セル10の温度調整をするために冷媒が流入するためのものである。
【0024】
電解質膜13はプロトン伝導性を備え、湿潤状態において良好な電気伝導性を示す固体高分子材料からなる薄膜である。電解質膜13を挟持する2つの電極層14a、14cには、電気化学反応を促進する触媒(例えば白金)が担持されている。また、2つの電極層14a、14cは、電解質膜13と接しない外面をそれぞれガス拡散層15で覆われている。ガス拡散層15は、その厚み方向にガスを拡散する性質により各電極層の全面に燃料ガスを供給する機能を持つ。ガス拡散層15は、金属系の多孔体としても良く、カーボンペーパーとしても良い。
【0025】
なお、本明細書においては、「膜電極接合体」とは、少なくとも電解質膜と、電解質膜を両側から挟持する一対の電極層とで構成されたものを意味する用語として使用し、「電極層」とは、少なくとも触媒層とガス拡散層とで構成される層構造を意味するものとして使用する。
【0026】
膜電極接合体11は、矩形波状の凹凸を有している。即ち、アノード電極層14aとカソード電極層14cとは、交互に凹部と凸部を有している。以後、膜電極接合体11のカソード電極層14c側から見たときの凸部(即ちアノード電極層14a側から見たときの凹部)を「第1流路形成部位11A」と呼び、カソード電極層14c側から見たときの凹部(即ちアノード電極層14a側から見たときの凸部)を「第2流路形成部位11B」と呼ぶ。なお、膜電極接合体11の凹凸は、矩形波状でなくとも良く、波形板状であれば良く、例えばコルゲート形状であるものとしても良い。
【0027】
第1流路形成部位11Aには、セパレータ12に設けられた冷媒流路WPが収納される。第1流路形成部位11Aの冷媒流路WPの存在しない領域が、水素の流路となるアノード流路APとなる。他方、第2流路形成部位11Bが、酸素の流路となるカソード流路CPとなる。アノード流路APおよびカソード流路CPには、導電性をもつ多孔体16が収納されている。なお、アノード流路APの断面積は、カソード流路CPの断面積よりも小さい。
【0028】
水素の拡散速度は、酸素に較べて高いため、アノード流路APの流路容積がカソード流路CPの流路容積よりも小さいとしても、膜電極接合体11への単位容積あたりの水素の供給量は確保できる。従って、冷媒流路WPをアノード流路APと同じくアノード電極層14a側に配置することによって、アノード流路APの流路容積が減少することを許容できる。
【0029】
図1(B)の矢印Pの方向に膜電極接合体11及び3つの流路WP、AP、CPを同一平面S上に投影した場合を想定する。すると、図示するように膜電極接合体11の投影領域Pmと、各流路の投影領域(冷媒流路WPの投影領域Pw、アノード流路の投影領域Pa、カソード流路の投影領域Pc)とは重なり合う領域がある。即ち、単セル10の厚みは、膜電極接合体11の凹凸によって形成される厚み幅の領域内に各流体流路WP、AP、CPが存在する分だけ単セル10は薄型となっている。なお、この構成では、各流体流路WP、AP、CPの投影領域Pw、Pa、Pcもそれぞれ重なり合っている。
【0030】
単セル10が薄くなれば、その分だけ単セル10で生じる電気の流れる経路も短くなり、単セル内での電圧損失を抑制できる。また、燃料電池1000の単位体積あたりの発電量も向上し、燃料電池1000を限られた空間(例えば車両など)に用いるシステムに導入する際に有効である。
【0031】
図2(A)は、第1実施例としての単セルに用いるシール一体型膜電極接合体20を示す概略図である。図2(B)〜(D)はそれぞれ、図2(A)において示す2B−2B切断、2C−2C切断、2D−2D切断における断面を示している。なお、本明細書においては、「シール一体型膜電極接合体」とは、膜電極接合体の両面にシールガスケットが射出成形されたものを意味する用語として使用する。
【0032】
シール一体型膜電極接合体20の膜電極接合体11は、図1(B)で示した第1流路形成部位11Aと第2流路形成部位11Bとをそれぞれ交互に2組有している(図2(A)、(B))。
【0033】
膜電極接合体11に第1流路形成部位11A及び第2流路形成部位11Bを形成するには以下のような方法がある。まず、そのガス拡散層15に金属系の多孔体を用いる場合には、ガス拡散層15に対して曲げたり、削るなどの加工により2つの流路形成部位11A、11Bの凹凸形状を形成しておき、電極触媒層をもうけた電解質膜13をそのガス拡散層15で挟持する。
【0034】
あるいは、ガス拡散層15にカーボンペーパーを用いている場合には、たわんだ状態の膜電極接合体11を単セルとしてセパレータに組み付ける際に(後述)、セパレータ及び2つの流路AP、CPに配置する多孔体16の形状に沿わせることで形成できる。
【0035】
膜電極接合体11の外周縁には、シールガスケット23が成形され、その端面が被覆されている。シールガスケット23の厚みL1(図2(B))は、シール一体型膜電極接合体20を単セルとして組み付けた際に、流体が単セルの外部へと漏洩しないだけの厚みを有していることが好ましい。
【0036】
また、図2(A)に示す膜電極接合体11の左右の端に接するシールガスケット23の部位23tは、図2(C)に示すように、膜電極接合体11とほぼ同じ厚みで成形されている(以後部位23tを「薄部23t」と呼ぶ)。
【0037】
薄部23tには、貫通孔であるマニホールド孔M1〜M6が形成されている。マニホールド孔M1、M2はそれぞれ冷媒である水の供給及び排出を担う。マニホールド孔M3、M4は、水素の供給及び排出を担う。マニホールド孔M5、M6は、酸素の供給及び排出を担う。供給用のマニホールド孔M1、M3、M5は、排出用のマニホールド孔M2、M4、M6と膜電極接合体11を挟んでそれぞれ対向する位置に形成されている。
【0038】
水用のマニホールド孔M1、M2は、後述するように単セルとして組み付けた際に、第1流路形成部位11Aにおいて冷媒流路WPと連結するように形成されている。水素用マニホールド孔M3、M4も同様に、第1流路形成部位11Aにおいて形成されるアノード流路APと連結するように形成されている。酸素用のマニホールド孔M5、M6は、第2流路成形部位によって形成されるカソード流路CPと連結するよう形成されている。
【0039】
図3(A)は、第1実施例としての単セルに用いるセパレータ30を示す概略図である。図3(B)は、図3(A)における3B−3B切断における断面図を示している。
【0040】
セパレータ30は、図2に示すシール一体型膜電極接合体20と同じ大きさで構成されており、2枚の薄い金属板12a、12cを接合して構成されている。一方の金属板12aには金属板12aの一部を矩形に折り曲げて突出させることによって矩形状の溝33を2本形成している。この溝33によって他方の金属板12cとの間に冷媒流路WPが形成されている。なお、溝33の形状は矩形でなくとも良い。
【0041】
2つの溝33はそれぞれ、シール一体型膜電極接合体20とセパレータ30とを重ねた時に、対応する2つの第1流路形成部位11Aのマニホールド孔M1、M2と連結するように形成されている。溝33の長さL2は、図2に示すシールガスケット23の薄部23tの左右両端の距離L2と等しい。溝33の深さは、図2(B)に示す第1流路形成部位11Aにおけるアノード電極層14aの外面から第2流路形成部位11Bにおけるアノード電極層14aの外面までの距離L3と等しい。
【0042】
また、セパレータ30には、シール一体型膜電極接合体20のマニホールド孔M1〜M6の形成部位と同じ位置にマニホールド孔M1〜M6が、2枚の金属板12a、12cをそれぞれ貫通して形成されている。従って、マニホールド孔M1、M2は、セパレータ30の溝33を貫通して形成されている。
【0043】
図4(A)は、第1実施例としての単セル40を示す断面図である。単セル40は、シール一体型膜電極接合体20のアノード電極層14aに接するようにセパレータ30を配置したものである。アノード流路APとカソード流路CPにはそれぞれ多孔体16が収納されている。
【0044】
多孔体16は、2つの流路AP、CPに供給された水素及び酸素をそれぞれアノード電極層14a及びカソード電極層14cへと行き渡らせる役割がある。しかし、単セル40には、2つの電極層14a、14cと多孔体16とがそれぞれ接していない部位、即ち、セパレータ30と膜電極接合体11とが直接接する接触部位42(破線で図示)がある。この部位42においては、水素および酸素はそれぞれ、2つの電極層14a、14cに設けられているガス拡散層15によって電解質膜13へと供給することができる。
【0045】
しかし、多孔体16が2つの流路AP、CPに少しも設けられていない状態を想定するならば、2つの流路AP、CPから水素および酸素が上記接触部位42のガス拡散層15へと流入する量が減少する可能性がある。なぜなら、密度の低い部位から密度の高い部位へは流体は流れにくいためである。従って、2つの流路AP、CPには少なくとも一部に多孔体16を設けることによって流路内の密度を多少なりとも高くすることが好ましい。
【0046】
また、多孔体16を設けることによって、膜電極接合体11において発電した電気をセパレータ30へと導く経路を確保できる。さらに多孔体16を設けることによって、上述したように、ガス拡散層15をカーボンペーパーなどで構成した場合に、膜電極接合体11の凹凸形状を保持することができる。
【0047】
単セル40を積層して燃料電池スタックとして実際に使用する場合の、各単セル40における流体の流れを説明する。図4(B)〜(D)はそれぞれ、図4(A)において示す4B−4B切断、4C−4C切断、4D−4D切断における各流路WP、AP、CPの断面図を示している。なお、それぞれの図は燃料電池スタックにおける任意の単セル40を単体で図示しており、他の単セル40については図示を省略してある。
【0048】
図4(B)に示すように、マニホールド孔M1から燃料電池スタック内部へと供給された水の一部は、各単セル40の冷媒流路WPを通過してマニホールド孔M2より燃料電池スタックの外部へと排出される。
【0049】
また、図4(C)に示すように、マニホールド孔M3から燃料電池スタック内部へと供給された水素の一部は、各単セル40のアノード流路APへと供給される。アノード流路AP内に配置された多孔体16により水素はアノード電極層14aへ行き渡り、電解質膜13へと至る。電解質膜13において電気化学反応に供されなかった水素は、そのままアノード流路APを通過してマニホールド孔M4から燃料電池スタックの外部へと排出される。
【0050】
同様に、図4(D)に示すように、マニホールド孔M5から燃料電池スタック内部へと供給された酸素は、各単セル40のカソード流路CPへと供給される。カソード流路CP内に配置された多孔体16により酸素はカソード電極層14cに行き渡り、電解質膜13へと至る。電解質膜13において電気化学反応に供されなかった水素は、そのままアノード流路APを通過してマニホールド孔M4から燃料電池スタックの外部へと排出される。
【0051】
B.第2実施例:
上記第1実施例においては、マニホールド孔M1〜M6が各流路WP、AP、CPの全てに対して供給用、排出用の2つずつが形成されていた。この構成によると流路を増すとマニホールド孔もそれに応じて形成する必要がある。しかし、次に示す第2実施例のように、マニホールド孔をまとめることで1つの単セルに対してマニホールド孔M1〜M6をそれぞれ1つずつ形成することも可能である。
【0052】
この第2実施例においては、それぞれ異なる構成の2種類の単セルを1組の単セル層とし、その単セル層を積層することによって燃料電池スタックを構成する。以下にそれぞれの単セルを構成するシール一体型膜電極接合体及びセパレータについて順に説明する。なお、単セルの要部の構造は、図1に示した第1実施例の構造と同じである。
【0053】
図5(A)〜(C)は、第2実施例としての第1の単セルに用いられる第1のシール一体型膜電極接合体50を示す概略図である。第1のシール一体型膜電極接合体50は、図2(A)〜(D)において示したシール一体型膜電極接合体20と膜電極接合体11は同じであるが、その外周縁に成形されたシールガスケット23の形状が異なる。
【0054】
図5(A)は、第1のシール一体型膜電極接合体50のカソード電極層14c側を示している。シールガスケット23には流体の漏洩をシールするためのシールラインSLが形成されており、図中では二条線で示してある。シールラインSLはシールガスケット23に例えばリップ(突起部)として形成することができる。
【0055】
シールガスケット23には、貫通孔であるマニホールド孔M1〜M6が各1つずつ形成されており、供給用マニホールド孔M1、M3、M5は、排出用マニホールド孔M2、M4、M6と膜電極接合体11を挟んで対向する位置に形成されている。また、シールガスケット23には、膜電極接合体11の第1流路形成部位11Aの両端の傍らに貫通孔である水素流入孔51がそれぞれ設けられている。
【0056】
マニホールド孔M1〜M6は、それぞれシールラインSLで囲まれている。水素用マニホールド孔M3、M4を囲むシールラインSLは、水素流入孔51も囲むように形成されており、図中の矢印Aの示す水素の経路を確保する。また、第2流路形成部位11Bの両端がシールラインSLによって閉じられ、図中の矢印Cの示す酸素の経路を確保する。
【0057】
図5(B)は、図5(A)において示す5B−5B切断における第1のシール一体型膜電極接合体50の一部断面を示している。シールガスケット23は、第1のシール一体型膜電極接合体50を単セルとして組み付けた際に、流体が単セルの外部へと漏洩しないだけの厚みを有している。また、シールガスケット23の第1流路形成部位11Aと接する内縁部には、水素流入孔51とアノード流路APとなる部位とを連結するように連結孔52が形成されている。連結孔52によって水素は膜電極接合体11のアノード電極層14a側へ供給される(図5(B)における矢印A)。
【0058】
図5(C)は、第1のシール一体型膜電極接合体50のアノード電極層14a側を示している。各マニホールド孔M1〜M6は、図5(A)と同様にシールラインSLによって囲まれている。ただし、冷媒用マニホールド孔M1、M2を囲むシールラインSLは、第1流路形成部位11Aの冷媒流路WPが形成されるであろう部位に接続するように形成され、図中の矢印Wで示す水の経路を確保する。また、水素流入孔51もそれぞれシールラインSLで囲まれている。
【0059】
図6(A)〜(B)は、第1の単セルに用いられる第1のセパレータ60を示す概略図である。図3(A)〜(B)に示したセパレータ30と以下に説明する相違点以外は同じである。
【0060】
第1のセパレータ60は第1のシール一体型膜電極接合体50と同じ大きさに形成されている。冷媒流路WPとなる溝61は、図5(A)に示す膜電極接合体11の供給用マニホールド孔M1、M3、M5側の端面から排出用マニホールド孔M2、M4、M6側の端面までの距離L4と同じである。また、第1のシール一体型膜電極接合体50と同じ位置に水素流入孔51が貫通して形成されている。
【0061】
図7(A)〜(C)は、第2の単セルに用いられる第2のシール一体型膜電極接合体70を示す概略図である。図7(A)は、第2のシール一体型膜電極接合体70のカソード電極層14c側を示しており、図5(A)に示す第1のシール一体型膜電極接合体50とシールラインSLの形状が異なる点と、後述する酸素流入孔72が設けられている点以外は、ほぼ同じである。
【0062】
シールラインSLはマニホールド孔M1〜M6をそれぞれ囲んでいる。但し、酸素用マニホールド孔M5、M6を囲むシールラインSLは、酸素用マニホールド孔M5、M6がカソード流路CPとなる第2流路形成部位11Bと接続するように形成され、図中の矢印Cで示す酸素の経路を確保している。
【0063】
第2のシール一体型膜電極接合体70には、シールガスケット23を貫通する酸素流入孔72が設けられている。酸素流入孔72は、上記の酸素の経路上に設けられており、第2流路形成部位11Bとマニホールド孔M5の間と、第2流路形成部位11Bとマニホールド孔M6との間に設けられている。また、酸素流入孔72は、第1のシール一体型膜電極接合体50(図5(A))と第2のシール一体型膜電極接合体70とを重ねて見たときに、第1のシール一体型膜電極接合体50における酸素の経路と接続する位置にある。
【0064】
図7(B)は、図7(A)において示す7B−7B切断における第2のシール一体型膜電極接合体70の一部断面を示している。図7(B)は、水素流入孔51がシールガスケット23を貫通することなく、そのまま連結孔52と連結している点以外は図5(B)と同じである。
【0065】
図7(C)は、第2のシール一体型膜電極接合体70のアノード電極層14a側を示している。図7(C)は、図5(C)に示す第1のシール一体型膜電極接合体50と、酸素流入孔72とそれを囲むシールラインSLとが設けられている点と、上述したように水素流入孔51が貫通していない点以外は、ほぼ同じである。
【0066】
図8(A)〜(B)は、第2の単セルに用いられる第2のセパレータ80を示している。図8(A)〜(B)は、水素流入孔51がない点と、酸素流入孔72が設けられている点以外は、図6(A)〜(B)と同じである。酸素流入孔72は、第2のシール一体型膜電極接合体70と同じ位置に設けられた貫通孔である。
【0067】
図9は、第1の単セル90Aと第2の単セル90Bとからなる単セル層90の構造を示す断面図である。
【0068】
第1の単セル90Aは、第1のシール一体型膜電極接合体50のアノード電極層14a側に接するように第1のセパレータ60を配置することによって構成されている。同様に、第2の単セル90Bは、第2のシール一体型膜電極接合体70のアノード電極層14a側に接するように第2のセパレータ80を配置することによって構成されている。アノード流路AP及びカソード流路CPにはそれぞれ多孔体16が収納されている。
【0069】
単セル層90を積層して燃料電池スタックとして実際に使用する場合の、各単セル層90における流体の流れを説明する。図10(A)〜(C)はそれぞれ、図9において示す10A−10A切断、10B−10B切断、10C−10C切断における各流路WP、AP、CPの断面を示している。なお、図中の矢印W、A、Cは、各流体の経路を示している。また、それぞれの図は燃料電池スタックにおける任意の単セル層90を単体で図示しており、他の単セル層90については図示を省略してある。
【0070】
図10(A)に示すように、冷媒供給用のマニホールド孔M1から供給された水の一部は、第1のシール一体型膜電極接合体50及び第2のシール一体型膜電極接合体70の表面に設けられた経路(図5(C)及び図7(C)の矢印W)と、冷媒流路WPとを通過して、排出用のマニホールド孔M2から燃料電池スタックの外部へと排出される。
【0071】
図10(B)に示すように、水素供給用のマニホールド孔M3から供給された水素の一部は、第1のシール一体型膜電極接合体50の表面に設けられた経路(図5(A)の矢印A)と、水素流入孔51及び連結孔52によりそれぞれ2つの単セル90A、90Bのアノード流路APへと供給される。電気化学反応に供されることのなかった水素は、排出用のマニホールド孔M4から燃料電池スタックの外部へと排出される。
【0072】
図10(C)に示すように、酸素供給用のマニホールド孔M5から供給された酸素の一部は、第2の単セル90Bにおいては、第2のシール一体型膜電極接合体70の表面に設けられた経路(図7(A)の矢印C)とカソード流路CPとを経て排出用のマニホールド孔M6から燃料電池スタックの外部へと排出される。また、第2の単セル90Bに設けられた酸素流入孔72に分岐した酸素は、第2の単セル90Bの下に配置された第1の単セル90Aのカソード流路CPへと流入し、再び酸素流入孔72により、第2の単セル90Bの排出酸素と合流する。
【0073】
C.第3実施例:
図11は、第3実施例としての単セルの構造を示す断面図である。図11に示す単セル層110は、セパレータ120、130の形状が、図9に示した単セル層90とセパレータ60、80の形状が異なることによって2つの流路AP、WPの配置が異なっている点以外は、図9とほぼ同じである。
【0074】
このような構成としても図11に示すように、矢印Pの方向へ単セル110を平面Sに投影した場合の、膜電極接合体11の投影領域Pmと各流路の投影領域Pa、Pc、Pwとは重なり合う部分を有している。従って、単セル層110を構成する単セル110A、110Bは薄型となっている。即ち、アノード流路APにおける膜電極接合体11との接触面積を増すことができ、発電効率を向上することができる。
【0075】
本実施例における単セル層110は、2つの単セル110A、110Bを組み合わせたものである。第1の単セル110Aは、第2実施例における第1のシール一体型膜電極接合体50と後述する第1のセパレータ120とを組み合わせたものである。また、第2の単セル110Bは、第2実施例における第2のシール一体型膜電極接合体70と後述する第2のセパレータ130とを組み合わせたものである。
【0076】
図12(A)、(B)は、第1のセパレータ120を示す概略図であり、冷媒流路WPとなる溝121の形状が異なる点以外は、図6(A)、(B)とほぼ同じである。
【0077】
第1のセパレータ120の溝121の幅は、第1流路形成部位11Aにおける幅L5(図11)と同じであるとしても良く、第1流路形成部位11Aに溝121が収納され得る幅であれば良い。また、溝121の深さL6は、第1のセパレータ60の溝61の深さL3(図6(B))よりも浅くする。例えば溝121の深さL6は溝61の深さL3の半分としても良い。
【0078】
図13(A)、(B)は、第2のセパレータ130を示す概略図であり、溝121が第3のセパレータ120と同じである点以外は、図8(A)、(B)に示す第2のセパレータ80とほぼ同じである。
【0079】
単セル層110を積層して燃料電池スタックとして実際に使用する場合の、各単セル層110における流体の流れを説明する。図14(A)〜(C)はそれぞれ、図11において示す14A−14A切断、14B−14B切断、14C−14C切断における各流路WP、AP、CPの断面を示している。なお、図中の矢印W、A、Cは、各流体の流れを示している。また、それぞれの図は燃料電池スタックにおける任意の単セル層110を単体で図示しており、他の単セル層110については図示を省略してある。
【0080】
図14(A)〜(C)は、冷媒流路WP及びアノード流路APの配置が異なる点以外は、図10(A)〜(C)とほぼ同じである。従って、各流体の経路は、第2実施例と同じである。
【0081】
D.変形例:
上記実施例はあくまで、この発明の実施可能な一形態の例示であり、流体(水、水素、酸素)を各流路WP、AP、CPに流入させる方法は、上記実施例の方法に限定されるものではない。
【0082】
例えば、冷媒流路WPにおいては、第1実施例のようにそれぞれの冷媒流路WPに対してマニホールド孔を設け、他の2つの流路AP、CPについては第2実施例、第3実施例のようにそれぞれの流路ごとにマニホールド孔をまとめる方法もある。このように、第1実施例ないし第3実施例を適宜組み合わせた方法も可能であるし、それ以外の方法としても良い。また、マニホールド孔M1〜M6の配置や構成などを適宜変更することも可能である。
【0083】
さらに、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0084】
D1.変形例1:
上記実施例において、2つの電極層14a、14cの全面を覆うように多孔体16が配置されているものとしても良い。このような構成としても、冷媒流路WPの少なくとも一部が第1流路形成部位11Aの凹部に収納されていれば、その分だけ単セルを薄型化でき、2つの流路AP、CPと膜電極接合体11との接触面積を増すことによって、発電効率を増すことができる。
【0085】
D2.変形例2:
上記実施例においては、第1流路形成部位11A及び第2流路形成部位11Bがそれぞれ2つずつ形成されているが、さらに多数の第1流路形成部位11A及び第2流路形成部位11Bが形成されるものとしても良いし、あるいは、1つずつしか形成されていないものとしても良い。また、複数の第1流路形成部位11A及び第2流路形成部位11Bを形成する場合、各流路形成部位に形成される流路の容積は一律である必要はなく、任意に変えることができるものとしても良い。
【0086】
D3.変形例3:
上記実施例においては、1つの第1流路形成部位11Aに対して1つの冷媒流路WPが形成されているが、複数の冷媒流路が形成されるものとしても良い。逆に、複数の第1流路形成部位11Aのうち、冷媒流路WPが存在するものと存在しないものとがあるものとしても良い。この構成によれば、単セル内における冷却効率を任意に変化させることができる。
【0087】
D4.変形例4:
上記実施例においては、冷媒流路WPがアノード電極層14a側に設けられていたが、カソード側に設けられているものとしても良い。即ち、上記実施例において、アノード電極層14aとカソード電極層14cとを入れ替えても良い。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】単セルの構造を示す断面図。
【図2】第1実施例におけるシール一体型膜電極接合体を示す概略図。
【図3】第1実施例におけるセパレータを示す概略図。
【図4】第1実施例における単セルの断面図及び各流体の流路を示す模式図。
【図5】第2実施例における第1のシール一体型膜電極接合体を示す概略図。
【図6】第2実施例における第1のセパレータを示す概略図。
【図7】第2実施例における第2のシール一体型膜電極接合体を示す概略図。
【図8】第2実施例における第2のセパレータを示す概略図。
【図9】第2実施例における単セル層を示す断面図。
【図10】第2実施例における各流体の流路を示す模式図。
【図11】第3実施例における単セル層を示す断面図。
【図12】第3実施例における第1のセパレータを示す概略図。
【図13】第3実施例における第2のセパレータを示す概略図。
【図14】第3実施例における各流体の流路を示す模式図。
【符号の説明】
【0089】
10…単セル
11…膜電極接合体
11A…第1流路形成部位
11B…第2流路形成部位
12…セパレータ
12a、12c…セパレータを構成する金属板
13…電解質膜
14a…アノード電極層
14c…カソード電極層
15…ガス拡散層
16…多孔体
20…シール一体型膜電極接合体
23…シールガスケット
23t…シールガスケットの薄部
30…セパレータ(第1実施例)
33、61、121…溝
40…単セル(第1実施例)
42…電極層とセパレータの接触部位
50…第1のシール一体型膜電極接合体
51…水素流入孔
52…連結孔
60…第1のセパレータ
70…第2のシール一体型膜電極接合体
72…酸素流入孔
80…第2のセパレータ
90…単セル層(第2実施例)
90A…第1の単セル
90B…第2の単セル
1000…燃料電池
110…単セル層(第3実施例)
110A…第1の単セル
110B…第2の単セル
120…第1のセパレータ
130…第2のセパレータ
AP…アノード流路
CP…カソード流路
M1…冷媒用マニホールド孔(供給用)
M2…冷媒用マニホールド孔(排出用)
M3…水素用マニホールド孔(供給用)
M4…水素用マニホールド孔(排出用)
M5…酸素用マニホールド孔(供給用)
M6…酸素用マニホールド孔(排出用)
Pa…投影領域(アノード流路)
Pc…投影領域(カソード流路)
Pm…投影領域(膜電極接合体)
Pw…投影領域(冷媒流路)
S…平面
SL…シールライン
WP…冷媒流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を構成する単セルであって、
凹凸形状を有した膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟持するセパレータと、
アノードガス流路とカソードガス流路と冷媒流路とを含む複数の流体流路と、
を備え、
前記流体流路は、前記膜電極接合体と前記流体流路とを、前記単セルの厚み方向及び前記流体流路の流路方向に対して垂直な方向から同一平面上に投影したとき、前記膜電極接合体の投影領域と前記流体流路のそれぞれの投影領域との少なくとも一部が重なり合うことを特徴とする単セル。
【請求項2】
請求項1記載の単セルであって、
前記流体流路のそれぞれの投影領域の少なくとも一部が互いに重なり合う領域を有することを特徴とする単セル。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の単セルであって、
前記アノードガス流路と前記冷媒流路とは、前記膜電極接合体に対して同じ側に設けられていることを特徴とする単セル。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の単セルであって、
前記アノードガス流路および前記カソードガス流路には、少なくとも一部に多孔体を有していることを特徴とする単セル。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の単セルであって、
前記アノードガス流路及び前記カソードガス流路は、前記膜電極接合体の凹凸と前記セパレータとの間に形成されていることを特徴とする単セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−323890(P2007−323890A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151307(P2006−151307)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】