説明

薄板せん断パネルの補強構造

【課題】 部品コストと施工コストを低く抑え、薄板せん断パネルを効率良く効果的に補強でき、振動エネルギー吸収能力を向上させて耐震性能を高める。
【解決手段】 本発明の薄板せん断パネルの補強構造1は、薄板せん断パネル3の応力作用面5、7に発生する張力場を解消することによって振動エネルギー吸収能力を向上させるようにしたものであり、上記張力場の解消手段として、押出成形によって成形される一様断面の応力拘束材11を使用し、該応力拘束材11を薄板せん断パネル3の応力拘束材11と少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数本設置するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
角形閉断面形状の薄板鋼材に対する従来の補強構造としては下記の特許文献1に示すような構成の薄板鋼材の補強構造がある。即ち、この薄板鋼材の補強構造は平板状の薄板鋼部材を矩形ボックス状の閉断面形状にロール成形し、薄板鋼部材の接合される両端部をカシメによって接合すると共に、その内部空間にプラスチックフォームを充填することによって構成されている。
そしてこのようにして構成されている薄板鋼材の補強構造は住宅の梁や柱等の構造物として使用されており、該住宅用構造物の軽量化と施工コストの低減化を図ると共に高軸力や曲げモーメントに対する座屈強度を高めて耐震性能を向上させることを目的としている。
【0003】
一方、図16(a)に示す薄板せん断パネル101のように住宅の壁材等として使用されている内部空間を有しない部材に対して、図16(b)に示すようにせん断方向に荷重Qが加わると、薄板せん断パネル101はせん断方向に変形量δだけ変形し、薄板せん断パネル101の表裏面の応力作用面103に対して座屈による皺105を発生させる。
そして上記皺105が発生すると、図16(b)中、矢印で示すように薄板せん断パネル101の応力作用面103には張力場107が形成される。又、張力場107が形成されると、皺105が発生し薄板せん断パネル101の応力作用面103の履歴面積が小さくなり、図17に示すように、荷重一変形量曲線W1によって囲まれた狭いエリアが履歴面積S1となる。
又、履歴面積が小さいと振動エネルギーの吸収能力が低下するため、耐震性能が低下してしまう。
【0004】
そこでこのような薄板せん断パネル101の耐震性能を向上させるために下記の特許文献1に示すような薄板鋼材の補強構造を薄板せん断パネル101に対して適用することが考えられるが、薄板せん断パネル101にはそのままではブラスチックフォームを充填するような内部空間は存在しないためその適用は困難である。
又、薄板せん断パネル101の応力作用面103は比較的面積が大きいため、その全面を補強することは部品コスト及び施工コストの増大を招くことになる。又、薄板せん断パネル101の厚さ方向の許容スペースはそれほど広くないため補強部材の厚さ方向の寸法を大きくして頑強な補強を行おうとしても構造上不可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2001−262776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術及び背景技術が抱えていた問題点を踏まえて本発明が解決しようとする課題を整理すると、薄板せん断パネルを効率良く効果的に補強し、薄板せん断パネルにせん断方向の荷重が加わった場合でも薄板せん断パネルの応力作用面に座屈による皺を発生させないことである。そして薄板せん断パネルの履歴面積を小さくして薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させることである。
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、部品コストや施工コストを低く抑え、薄板せん断パネルを効率良く効果的に補強でき、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消して振動エネルギー吸収能力を向上させることによって高い耐震性能を発揮し得る薄板せん断パネルの補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による薄板せん断パネルの補強構造は、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、上記張力場の解消手段として、押出成形によって成形される一様断面の応力拘束材を使用し、該応力拘束材を上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数本設置するようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項2による薄板せん断パネルの補強構造は、請求項1に記載の薄板せん断パネルの補強構造において、上記応力拘束材を連続状態で複数本設置する場合には隣接する応力拘束材の接続部に対して高減衰ゴム又は粘弾性体によって形成されるシーリング材を装填又は充填するようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項3による薄板せん断パネルの補強構造は、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、 上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネルよりも肉厚で機械的強度の大きなリブプレートを使用し、該リブプレートを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数枚接合するようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項4による薄板せん断パネルの補強構造は、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、 上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネル自体をプレス加工することによって成形される凹凸リブを使用し、該凹凸リブを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数個設けるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項5による薄板せん断パネルの補強構造は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の薄板せん断パネルの補強構造において、上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線に対して直交する方向に上記張力場の解消手段が沿うように配置したことを特徴とするものである。
又、請求項6による薄板せん断パネルの補強構造は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の薄板せん断パネルの補強構造において、上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線が分断されて当該座屈波形の進行角度が小さくなるように配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明による薄板せん断パネルの補強構造によると、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、上記張力場の解消手段として、押出成形によって成形される一様断面の応力拘束材を使用し、該応力拘束材を上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数本設置するようにしたので、応力拘束材の断面形状を工夫することによって応力拘束材の機械的強度を高め、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消して振動エネルギー吸収能力を向上させることができる。又、薄板せん断パネルの応力作用面の表裏両面に応力拘束材を設置した場合には耐震性能が一段と高まり、応力作用面の一面に応力拘束材を設置した場合には、既存の薄板せん断パネルの耐震補強等に利用できるようになる。又、応力拘束材を連続状態で設置すれば薄板せん断パネルを頑強に補強でき、一方、離間状態で設置すれば、部品コストや施工コストを低く抑えることが可能となり、薄板せん断パネルの補強構造の軽量化を図ることも可能となる。
又、上記応力拘束材を連続状態で複数本設置する場合には隣接する応力拘束材の接続部に対して高減衰ゴム又は粘弾性体によって形成されるシーリング材を装填又は充填するようにすることも可能であり、このようにした場合には隣接する応力拘束材間の隙間が埋まって応力拘束材と薄板せん断パネルとの間のシール性が向上すると共に、シーリング材自体が弾性変形することによって振動エネルギー吸収能力の向上にも寄与し得る。
又、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネルよりも肉厚で機械的強度の大きなリブプレートを使用し、該リブプレートを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数枚接合するようにした場合には、リブプレートを接合することによって薄板せん断パネルの機械的強度が高まり、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消して振動エネルギー吸収能力を向上させることができる。又、薄板せん断パネルの応力作用面の表裏両面にリブプレートを接合した場合には耐震性能が一段と高まり、応力作用面の一面にリブプレートを接合した場合には、既存の薄板せん断パネルの耐震補強等に利用できるようになる。又、リブプレートを連続状態で接合すれば、薄板せん断パネルを頑強に補強でき、一方、離間状態で接合すれば、部品コストや施工コストを低く抑えることが可能となり、薄板せん断パネルの補強構造の軽量化を図ることも可能となる。
又、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネル自体をプレス加工することによって成形される凹凸リブを使用し、該凹凸リブを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数個設けるようにした場合には、凹凸リブを設けることによって薄板せん断パネルの機械的強度が高まり、薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消して振動エネルギー吸収能力を向上させることができる。又、薄板せん断パネルの応力作用面の表裏両面に凹凸リブを設けた場合には耐震性能が一段と高まり、応力作用面の一面に凹凸リブを設けた場合には、既存の薄板せん断パネルの耐震補強等に利用できるようになる。又、凹凸リブを連続状態で設ければ薄板せん断パネルを頑強に補強でき、一方、離間状態で設ければ、部品コストや施工コストを低く抑えることが可能となり、薄板せん断パネルの補強構造の軽量化を図ることも可能となる。
又、上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線に対して直交する方向に上記張力場の解消手段が沿うように配置することが可能であり、このようにした場合には薄板せん断パネルを効率良く効果的に補強することが可能になる。
又、上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線が分断されて、当該座屈波形の進行角度が小さくなるように配置することが可能であり、このようにした場合にも薄板せん断パネルを効率良く効果的に補強することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と、図5及び図6に示す第2の実施の形態と、図7乃至図9に示す第3の実施の形態と、図10乃至図12に示す第4の実施の形態を例にとって本発明の薄板せん断パネルの補強構造の構成と、当該補強構造を適用した薄板せん断パネルにせん断方向の荷重が作用した場合の荷重と変形量との関係を具体的に説明する。
(1)第1の実施の形態(図1〜図4、図14、図15参照)
第1の実施の形態に係る薄板せん断パネルの補強構造1は薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5と裏面側の応力作用面7に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネル3の振動エネルギー吸収能力を向上させるように作用する。
【0010】
具体的には薄板せん断パネルの補強構造1は上記張力場の解消手段として、押出成形によって成形される一様断面の応力拘束材11を使用し、該応力拘束材11を上記薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5と裏面側の応力作用面7の両面に対して連続状態で隙間なく、各々4本ずつ設置することによって構成されている。
薄板せん断パネル3は一例としてアルミ製で、図示のように肉薄の矩形平板状の部材であり、例えば図示のように水平に架け渡された梁13と土台15との間の開口を遮蔽する壁17の一部として使用される。薄板せん断パネル3と梁13又は土台15との固定は一例として取付用Lアングル19と、当該取付用Lアングル19を薄板せん断パネル3、梁13及び土台15に固定するためのボルト21及びナット23とを使用することによって行われている。
【0011】
応力拘束材11は一例としてアルミ製の押出成形材によって構成されており、断面形状は図3に示すように内面側に上記薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5又は裏面側の応力作用面7に当接する凸部25と、当接しない凹部27とが互い違いに形成された複雑な形状を有している。
又、応力拘束材11の外面側からは該応力拘束材11を薄板せん断パネル3に取り付けるためのボルト21及びナット23を受け入れる穴部29と穴部31とが形成されている。
尚、これらの穴部29と穴部31は図2、3中、左右方向に貫通する段違い穴状に形成されている。
【0012】
又、上下に隣接する応力拘束材11の接続部には高減衰ゴム又は粘弾性体によって形成されるシーリング材33が装填又は充填される。シーリング材33の形状は図3に示すように上下にフランジ部35が形成された断面コの字形状をしており、上記フランジ部35は上記応力拘束材11の上端部及び下端部の凹部27に係合するようになっている。
因みにシーリング材33を設けることによって、隣接する応力拘束材11間の隙間が埋まって応力拘束材11と薄板せん断パネル3との間のシール性が向上すると共に、シーリング材33自体が弾性変形することによって振動エネルギーの吸収能力の向上にも寄与し得る。
【0013】
そしてこのようにして構成される薄板せん断パネルの補強構造1を適用した薄板せん断パネル3に対して図14(b)に示すようにせん断方向の荷重Qが加わると、薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5と裏面側の応力作用面7にはそれぞれせん断応力のみが作用し、座屈応力は発生しないから薄板せん断パネル3は図示のように変形量δだけ純せん断変形する。
したがって、表裏両面の応力作用面5、7には座屈による皺は発生しないため張力場は形成されない。又、図15に示すように荷重一変形量曲線Wによって囲まれた応力作用面5、7の履歴面積Sは図17に示す皺が発生した場合の荷重一変形量曲線図と比較すると明らかに大きくなり、振動エネルギーの吸収能力が大幅に向上する。
【0014】
(2)第2の実施の形態(図5、図6、図14、図15参照)
第2の実施の形態に係る薄板せん断パネルの補強構造201は、上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネル3よりも肉厚で機械的強度の大きなリブプレート211を使用し、該リブプレート211を薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5のみに適宜の間隔を開けて離間状態で計12枚、一例として接合することによって構成されている。
又、リブプレート211は応力作用面5に対する接合位置や、座屈応力の大きさの分布等に併せてその長さは適宜調整できる。又、リブプレート211は一例として薄板せん断パネル3の応力作用面5に対して発生する図5中、波線で示す座屈波形の進行軸線Lに対して直交する方向に沿うように配置されている。
【0015】
そしてこのようにして構成される薄板せん断パネルの補強構造201を適用した薄板せん断パネル3に対して図14(b)に示すようにせん断方向の荷重Qが加わると、上記第1の実施の形態と同様、薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5にはせん断応力のみが作用し、座屈応力は発生しないから薄板せん断パネル3は図示のように変形量δだけ純せん断変形する。
しがたって、表面側の応力作用面5には座屈による皺は発生せず張力場は形成されない。
又、図15に示すように荷重一変形量曲線Wによって囲まれた応力作用面5の履歴面積Sは図17に示す皺が発生した場合の荷重一変形量曲線図と比較すると明らかに大きくなり、振動エネルギーの吸収能力が大幅に向上する。
又、本実施の形態ではリブプレート211を離間状態で設け、しかも座屈波形の進行軸線Lに対して直交する方向に沿うように配置したことにより使用するリブプレート211の数を少なくでき、部品コストや施工コストの削減に寄与し、薄板せん断パネル3を効率良く効果的に補強することが可能になる。
【0016】
(3)第3の実施の形態(図7〜図9、図14、図15参照)
第3の実施の形態に係る薄板せん断パネルの補強構造301は、上記張力場の解消手段として薄板せん断パネル3自体をプレス加工することによって成形される凹凸リブ311を使用し、該凹凸リブ311を上記薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5に対して適宜の間隔を開けて離間状態で計12個、一例として成形することによって構成されている。
又、凹凸リブ311は応力作用面5に対する成形位置や座屈応力の大きさの分布等に合わせてその長さは適宜調整できる。又、上記凹凸リブ311は一例として薄板せん断パネル3の応力作用面5に対して発生する図7中、波線で示す座屈波形の進行軸線Lに対して直交する方向に沿うように配置されている。
【0017】
そしてこのようにして構成される薄板せん断パネルの補強構造301を適用した薄板せん断パネル3に対して図14(b)に示すようにせん断方向の荷重Qが加わると、上記第2の実施の形態と同様、薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5にはせん断応力のみが作用し、座屈応力は発生しないから薄板せん断パネル3は図示のように変形量δだけ純せん断変形する。
しがたって、表面側の応力作用面5には座屈による皺は発生せず張力場は形成されない。
又、図15に示すように荷重一変形量曲線Wによって囲まれた応力作用面5の履歴面積Sは図17に示す皺が発生した場合の荷重一変形量曲線図と比較すると明らかに大きくなり、振動エネルギーの吸収能力が大幅に向上する。
又、本実施の形態では凹凸リブ311を離間状態で設け、しかも座屈波形の進行軸線Lに対して直交する方向に沿うように配置したことにより成形する凹凸リブ311の数を少なくでき、部品コストや施工コストの削減に寄与し、薄板せん断パネル3を効率良く効果的に補強することが可能になる。
【0018】
(4)第4の実施の形態(図10〜図13参照)
第4の実施の形態に係る薄板せん断パネルの補強構造401は、上記第3の実施の形態と同様、上記張力場の解消手段として薄板せん断パネル3自体をプレス加工することによって成形される凹凸リブ411を使用し、該凹凸リブ411を上記薄板せん断パネル3の表面側の応力作用面5に対して適宜の間隔を開けて離間状態で計5個、一例として成形することによって構成されている。
又、凹凸リブ411は図10に示すように梁13及び土台15と平行で、薄板せん断パネル3の高さ方向に対してほぼ等間隔になるように配置されている。
【0019】
そしてこのようにして構成される薄板せん断パネルの補強構造401を適用した薄板せん断パネル3に対して図13に示すようにせん断方向の荷重Qが加わると、上記第3の実施の形態と同様、表面側の応力作用面5には座屈による皺は発生せず張力場は形成されない。
又、凹凸リブ411を上記のように設けることによって、座屈波形の進行軸線Lが分断され、当該座屈波形の進行角度θが小さくなる。尚、本実施の形態では張力場が形成されるが、座屈波形の進行角度θが小さいので皺の発生が遅れるため振動エネルギーの吸収能力は向上する。
【0020】
尚、本発明は前記第1〜第4の実施の形態に限定されるものではない。例えば第1の実施の形態において使用した応力拘束材11は応力作用面5、7の何れか一方のみに設けることが可能であり、連続状態で設ける他、第2〜第4の実施の形態のように離間状態で設けることも可能である。又、第2〜第4の実施の形態において採用した張力場の解消手段の配置を第1の実施の形態に適用することも可能であるし、第2〜第4の実施の形態において第1の実施の形態のように張力場の解消手段を連続状態で設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、住宅等の建築物の施工現場等において薄板せん断パネルを新たに使用する場合や耐震性能を高めるため既存の薄板せん断パネルを補強したい場合等に利用でき、特に部品コストや施工コストを低く抑え、薄板せん断パネルを効率良く、効果的に補強したい場合や薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消して振動エネルギー吸収能力を向上させたい場合に使用される薄板せん断パネルの補強構造の製造、施工分野等において利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す側断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の一部を分解して示す側断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を示す図で、図4(a)は薄板せん断パネルの補強構造を適用した薄板せん断パネルの無負荷時の正面図、図4(b)はせん断方向の荷重が加わった時の正面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す正面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す側断面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す正面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す側断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態を示す図で、図7中のIX−IX断面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す正面図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態を示す図で、薄板せん断パネルの補強構造の使用状態を示す側断面図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態を示す図で、図10中のXII−XII断面図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態の作用効果を示す図で、張力場が分断される様子を示す正面図である。
【図14】本発明の第1〜第3の実施の形態の作用効果を示す図で、図14(a)は薄板せん断パネルの補強構造を適用した薄板せん断パネルの無負荷時の正面図、図14(b)はせん断方向の荷重が加わった時の正面図である。
【図15】本発明の第1〜第3の実施の形態の作用効果を示す図で、荷重と変形量の関係を示すグラフである。
【図16】補強しない或いは補強が不充分な薄板せん断パネルの現象及び特性を示す図で、図16(a)は薄板せん断パネルの無負荷時の正面図、図16(b)はせん断方向の荷重が加わった時の正面図である。
【図17】補強しない或いは補強が不充分な薄板せん断パネルの現象及び特性を示す図で、荷重と変形量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 薄板せん断パネルの補強構造
3 薄板せん断パネル
5 表面側の応力作用面
7 裏面側の応力作用面
11 応力拘束材
13 梁
15 土台
17 壁
19 取付用Lアングル
21 ボルト
23 ナット
25 凸部
27 凹部
29 穴部
31 穴部
33 シーリング材
35 フランジ部
201 薄板せん断パネルの補強構造
211 リブプレート
301 薄板せん断パネルの補強構造
311 凹凸リブ
401 薄板せん断パネルの補強構造
411 凹凸リブ
Q 荷重
δ 変形量
W 荷重一変形量曲線
S 履歴面積
L 座屈波形の進行軸線
θ 座屈波形の進行角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、
上記張力場の解消手段として、押出成形によって成形される一様断面の応力拘束材を使用し、該応力拘束材を上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数本設置するようにしたことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の薄板せん断パネルの補強構造において、
上記応力拘束材を連続状態で複数本設置する場合には隣接する応力拘束材の接続部に対して高減衰ゴム又は粘弾性体によって形成されるシーリング材を装填又は充填するようにしたことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。
【請求項3】
薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、
上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネルよりも肉厚で機械的強度の大きなリブプレートを使用し、該リブプレートを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数枚接合するようにしたことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。
【請求項4】
薄板せん断パネルの応力作用面に発生する張力場を解消することによって薄板せん断パネルの振動エネルギー吸収能力を向上させるようにした薄板せん断パネルの補強構造であって、
上記張力場の解消手段として、薄板せん断パネル自体をプレス加工することによって成形される凹凸リブを使用し、該凹凸リブを上記薄板せん断パネルの応力作用面の少なくとも一面に対して連続状態で或いは適宜の間隔を開けて離間状態で複数個設けるようにしたことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の薄板せん断パネルの補強構造において、
上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線に対して直交する方向に上記張力場の解消手段が沿うように配置したことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の薄板せん断パネルの補強構造において、
上記張力場の解消手段を離間状態で設ける場合には、上記薄板せん断パネルの応力作用面に発生する座屈波形の進行軸線が分断されて当該座屈波形の進行角度が小さくなるように配置したことを特徴とする薄板せん断パネルの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−38570(P2008−38570A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218501(P2006−218501)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(505090676)株式会社飯島建築事務所 (9)
【出願人】(595034204)SUS株式会社 (40)