説明

薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛の製造方法、及び、複合材料の製造方法

【課題】 本発明は、高温加熱の必要がない薄片化黒鉛分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元する工程とを含むことを特徴とするので、分散液を高温に加熱することなく分散媒中に薄片化黒鉛が均一に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛の製造方法、及び、複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素骨格を有し且つ形状異方性の高い物質として、黒鉛をその層面間で剥離し、層面(グラフェン)の重なりが数十層以下になるまで薄片化した薄片化黒鉛が注目されており、薄片化黒鉛は非常に大きな表面積を有するため、樹脂などと複合化すると、少量の薄片化黒鉛の添加で各種機能が発現すると期待されている。
【0003】
上記薄片化黒鉛の製造方法としては、例えば、特許文献1に、硫酸、硝酸及び過マンガン酸カリウムを用いて酸化させた黒鉛を、精製し、遠心分離した後上澄みを除去することにより、薄膜状粒子が得られることが開示されている。
【0004】
そして、得られた酸化黒鉛粒子を200℃程度に加熱して還元すると、層面内部まで還元され、還元された薄膜状粒子は、優れた電気伝導性を有する旨が記載されている。
【0005】
又、特許文献2には、硝酸、硫酸、塩素酸などを用いて酸化させたグラファイトを不活性雰囲気中で少なくとも2000℃/分の昇温速度にて急加熱することにより、酸化グラファイトが部分的に還元されることが開示されている。
【0006】
しかしながら、上述した方法は、高温という物理的及び化学的に不安定な状態を経る必要があり、酸化黒鉛を高温に加熱する必要のない薄片化黒鉛分散液の製造方法が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−53313号公報
【特許文献2】特表2009−511415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温加熱の必要がない薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛の製造方法及び複合材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100kHz〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
先ず、分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液を用意する。この第一分散液中の酸化黒鉛は、黒鉛化合物を溶液中にて酸化して得られる。黒鉛化合物とは、C原子が強固に結合して六角環網平面状に配列してできる層面が更に上下に積み重なった板状体(結晶子)から主に形成されてなるものである。なお、黒鉛化合物を酸化する際に用いられる溶液としては、特に限定されず、例えば、水、有機溶媒、鉱物油、植物油、シリコーンオイル、液体窒素などが挙げられる。
【0011】
具体的に、黒鉛化合物としては、各層面が大きく、酸化後に薄片化し易いことから、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな化粧の集合体である。なお、黒鉛化合物の層面間の間隔を拡げた膨張黒鉛を用いてもよい。
【0012】
黒鉛化合物を酸化する方法としては、特に限定されず、例えば、硝酸又は塩素酸カリウムを用いるBrodie法、硝酸、硫酸又は塩素酸カリウムを使用するStaudenmaier法、硫酸、硝酸ナトリウム又は過マンガン酸カリウムを使用するHummers−Offeman法などが挙げられ、黒鉛化合物の酸化を進行させ易いという点で、Hummers−Offeman法が好ましい。
【0013】
Hummers−Offeman法で黒鉛化合物を酸化した場合は、硫酸水溶液、又は、硫酸と過酸化水素との混合水溶液で酸化黒鉛を洗浄することが好ましい。硫酸水溶液、又は、硫酸と過酸化水素との混合水溶液で酸化黒鉛を洗浄することによって、過マンガン酸イオンをマンガン(IV)イオンに分解することができ、酸化黒鉛の洗浄後に、酸化黒鉛を水やアルコールなどの水系媒体で精製した場合にマンガン(IV)イオンを容易に除去することができる。
【0014】
このようにして得られた酸化黒鉛を分散媒中に分散させることによって第一分散液を製造することができる。分散媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、グリコールなどのアルコール、水溶性エステル、エーテルなどが挙げられ、水が好ましい。なお、分散媒中には界面活性剤が含有されていてもよい。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0015】
次に、第一分散液中の酸化黒鉛を薄片化して、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する。第一分散液中の酸化黒鉛を薄片化して薄片化酸化黒鉛を生成する方法としては、特に限定されず、例えば、第一分散液の精製を繰り返す方法、第一分散液を加熱する方法、第一分散液に超音波を照射する方法、第一分散液にマイクロ波を照射する方法、第一分散液にラジオ波を照射する方法、第一分散液に熱プラズマを照射する方法、第一分散液中の酸化黒鉛に物理的に応力を加えて酸化黒鉛を粉砕する方法などが挙げられ、酸化黒鉛を効率よく薄片化することができるので、第一分散液に超音波を照射する方法が好ましい。なお、第一分散液に照射する超音波の周波数は、薄片化黒鉛の分散効果に優れているので、5〜22kHzが好ましい。
【0016】
水やアルコールなどの水系媒体を用いて精製して薄片化する場合、酸化黒鉛を精製することによって、反応溶液中又は酸化黒鉛の層面間に残った酸化剤や酸化剤由来の成分を除去することができる。酸化剤や酸化剤由来の成分を除去することにより、酸化黒鉛の各層面間に存在する酸性の水酸基のイオン解離度を高めることができ、酸化黒鉛の各層面間での静電的反発が強くなり、酸化黒鉛の層面間の剥離を促進することができる。
【0017】
超音波の照射により酸化黒鉛を薄片化する場合、超音波の照射時間は、短いと、薄片化黒鉛又は黒鉛化合物の層面間における剥離が充分に進行しないことがあり、長いと、薄片化黒鉛における層面の面方向に沿った大きさが必要以上に小さくなることがあるので、5〜60分が好ましい。
【0018】
酸化黒鉛の層面の面方向に沿った大きさは、大きいと、上述した酸化黒鉛の薄片化の際に十分に酸化黒鉛を薄片化できないことがあり、小さいと、薄片化黒鉛を複合材料にした時の複合化の効果が小さくなることがあるので、0.1μm〜1000μmが好ましい。なお、酸化黒鉛の層面の面方向に沿った大きさは、AFM,SEM観察によって測定することができる。
【0019】
そして、得られた第二分散液に、周波数が100〜500kHzの超音波を照射する超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を低温状態にて効率良く還元して薄片化黒鉛とし、この薄片化黒鉛が分散媒中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。
【0020】
第二分散液に、周波数が100〜500kHzの超音波を照射する方法としては、汎用の超音波照射装置を用いればよい。このような超音波照射装置としては、例えば、本多電子社から商品名「HSR−301」、カイジョ―社から商品名「ミディソニック600」にて市販されている超音波照射装置を用いることができる。
【0021】
第二分散液に、周波数が100〜500kHzの超音波を照射するにあたって、処理雰囲気をアルゴンや窒素などの不活性雰囲気とし、又は、第二分散液中に、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)やポリエチレングリコールなどの、還元性ラジカルを発生しやすい助剤を添加してもよい。
【0022】
第二分散液に周波数100〜500kHzの超音波を照射する超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元させる反応過程は明らかでないが、上記超音波照射処理によって、第二分散液中の分散媒から還元性ラジカルが生じ、この還元性ラジカルが薄片化酸化黒鉛を還元すると推察される。
【0023】
上述のように、薄片化酸化黒鉛を分散媒中に分散させた状態で薄片化酸化黒鉛の還元を行っており、生成する薄片化黒鉛の再凝集による厚膜化を防止することができ、得られる薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛は薄片化が極めて進んだ状態となっている。
【0024】
又、第二分散液中の薄片化酸化黒鉛を還元するにあたって、上述した超音波照射処理に加えて他の還元方法を併用してもよい。本発明においては、第二分散液に超音波照射処理を施すことによって高効率で薄片化酸化黒鉛を還元して薄片化黒鉛を生成することができるので、その他の還元方法を併用するにあたっても緩やかな条件で行うことができる。具体的には、第二分散液に還元剤を添加する方法などが挙げられる。この場合において、還元剤の使用量を少なくすることができ、又は、還元性の弱い還元剤を用いることが可能となる。なお、還元性の弱い還元剤としては、例えば、クエン酸、NaBH4、水素鉄(II)化合物、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、スズ(II)化合物、亜硫酸塩、水素化ジイソブチルアルミニウム、シュウ酸、ギ酸などが挙げられる。
【0025】
第二分散液中の薄片化酸化黒鉛が還元されて薄片化黒鉛が生成されているか否かを確認する方法としては、例えば、X線光電子分光法などによる元素分析方法、X線回折測定によって酸化黒鉛に由来するピークが消失して黒鉛由来のピークが存在していることを確認する方法などが挙げられる。
【0026】
得られた薄片化黒鉛分散液において、元素分析方法によって得られたC/O比は、70以上が好ましい。そして、薄片化黒鉛分散液において、薄片化黒鉛の分散状態は、CHNO元素分析によって確認することができる。
【0027】
そして、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛は優れた電気伝導度を有しており、各種電極、導電膜、導電インク、材料などに広く用いることができる。更に、薄片化黒鉛分散液中の薄片化黒鉛は、高度に薄片化されて表面積が大きくなっているので、各種バリヤ材、補強材、吸着剤、触媒担体などに用いることができる。
【0028】
上述のようにして得られた薄片化黒鉛分散液は、分散媒中に高度に分散しているので、所望部分に汎用の要領で塗布し又は噴霧した後に乾燥させることによって薄片化黒鉛の凝集を生じさせることなく、薄片化黒鉛から形成された電気伝導度の高い薄膜を形成することができる。
【0029】
又、薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離して薄片化黒鉛を任意の用途に用いることもできる。薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離する方法としては、例えば、薄片化黒鉛分散液を濾過する方法、薄片化黒鉛分散液を遠心分離して薄片化黒鉛を分離する方法、薄片化黒鉛分散液を濃縮して乾燥させて薄片化黒鉛を分離する方法などが挙げられる。
【0030】
更に、薄片化黒鉛分散液又はこの薄片化黒鉛分散液から分離させた薄片化黒鉛と、マトリックス材料とを混合することによって複合材料とすることもできる。特に、薄片化黒鉛分散液をマトリックス材料と混合することによって、薄片化黒鉛の凝集を生じさせることなく、薄片化黒鉛とマトリックス材料とを均一に混合することができ、均質な複合材料を製造することができる。
【0031】
上記マトリックス材料としては、特に限定されず、例えば、セラミックスなどの無機材料、合成樹脂などの有機材料などが挙げられる。合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、フッ素化ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリル系樹脂、ポリイミド、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ポリ(ブチレンアジペート)]、ポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ポリ(ブチレンアジペート)]、ポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ポリ(ブチレンアジペート)]、ポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ジ(プロピレングリコール)/ポリカプロラクトン、ポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ポリテトラヒドロフラン、アミン末端を有するポリブタジエン、ジカルボキシ末端を有するブチルゴム、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサン、天然ラテックスゴムなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元する工程とを含むので、分散液を高温に加熱することなく分散媒中に薄片化黒鉛が均一に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。
【0033】
得られる薄片化黒鉛分散液中に分散してなる薄片化黒鉛は還元化されて優れた電気伝導度を有し、更に、薄膜化によって全体として極めて大きな表面積を有しているので、電気電導性が必要とされる用途の他に、バリヤ材、補強材などにも用いることができ、更に、マトリックス材料と複合化されることによって種々の用途に展開することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元する工程とを含むことを特徴とする薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項2】
分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元して薄片化黒鉛分散液を製造する工程と、上記薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離する工程とを含むことを特徴とする薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項3】
分散媒中に酸化黒鉛が分散してなる第一分散液中の上記酸化黒鉛を薄片化し、薄片化酸化黒鉛が分散してなる第二分散液を製造する工程と、第二分散液に周波数が100〜500kHzの超音波照射処理を施して薄片化酸化黒鉛を還元して薄片化黒鉛分散液を製造する工程と、上記薄片化黒鉛分散液とマトリックス材料とを混合して複合材料を製造する工程とを含むことを特徴とする複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−144060(P2011−144060A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4981(P2010−4981)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】