説明

薄肉材用盛上げタップ

【課題】高い締付けトルクを保証して薄肉材に対しねじ立てを施すことができる薄肉材用盛上げタップを提供する。
【解決手段】タップのピッチ(P)と同程度の板厚の薄肉材に対しねじ立てを施す薄肉材用盛上げタップであって、タップのねじ山形において、とがり山の高さをHとした場合、山頂はその切りとり高さが可能な限りH/8に近づけて低く谷底はその切りとり高さがH/4を超えて浅くして、ひっかかり率(H2)を80〜85%に設定し、前記谷底の両側に内接する円のR面(r2)の始点をタップのピッチ(P)に応じてタップの有効径(H/2)から所定寸法(h)だけ下げると共に、前記タップの先端径を小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い締付けトルクを保証して薄肉材に対しねじ立てを施すことができる薄肉材用盛上げタップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、85%を超える通常のひっかかり率(%)を有した盛上げタップで例えばタップのピッチ(P)と同程度の板厚の薄肉材に対しねじ立て(タッピング加工)を施すと、十分な締付けトルクを得られないことは良く知られている。
【0003】
これは、例えば、前述した薄肉材にバーリング加工を施した後、前述したひっかかり率(%)を有する盛上げタップでねじ立てを施した場合、バーリング外径(元,先両方)が拡がると共にバーリング高さが延びる等して、雌ねじ(下穴)の肉が足りなくなって十分な盛り上がりが得られないことによる。
【0004】
従って、締付けトルクを上げることができないばかりか、図5Bに示すように、雌ねじ100の山頂におけるシーム部(くぼみ)101が大きくなり、その先端に「ヒゲ」や「バリ」が生じると共に、シーム部(くぼみ)101に雄ねじが入り込んで「ねじ浮き」が発生する等で品質の低下を招来することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年、軽量化による省資源と低コストの観点から、例えば自動車のインストルメントパネルに取り付けられるカーナビゲーションの筺体(ケーシング)等においては、前述した薄肉材からなる筺体の需要が増大すると共に、この筺体の取付強度においても高締付けトルクが要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、高い締付けトルクを保証して薄肉材に対しねじ立てを施すことができる薄肉材用盛上げタップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するための本発明に係る薄肉材用盛上げタップは、
タップのピッチ(P)と同程度の板厚の薄肉材に対しねじ立てを施す薄肉材用盛上げタップであって、
タップのねじ山形において、とがり山の高さをHとした場合、山頂はその切りとり高さが可能な限りH/8に近づけて低く谷底はその切りとり高さがH/4を超えて浅くして、ひっかかり率(H2)を80〜85%に設定し、
前記谷底の両側に内接する円のR面(r2)の始点をタップのピッチ(P)に応じてタップの有効径(H/2)から所定寸法(h)だけ下げると共に、
前記タップの先端径を小さくしたことを特徴とする。
【0008】
また、
前記タップのラジアル数を奇数としたことを特徴とする。
【0009】
また、
前記山頂をR面(r1)に形成して丸みを付けたことを特徴とする。
【0010】
また、
前記所定寸法(h)は、10μから40μであることを特徴とする。
【0011】
また、
前記谷底の切りとり高さは、雌ねじ内径最大寸法よりひっかかり率で5%小さい寸法に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る薄肉材用盛上げタップによれば、ひっかかり率(H2)を通常より小さく設定し、谷底のR面(r2)の始点をタップの有効径(H/2)から所定寸法(h)だけ下げると共に、タップの先端径を小さくしたので、ねじ立て時に雌ねじ(下穴)に確実に食い付いてその肉の十分な盛り上がりが得られると共に、薄肉材の場合タッピング後の寸法変化が通常厚肉材のタッピングに比べて小さくなるため、タップの有効径寸法を小さく設定できることから、ねじ立て後の雄ねじと雌ねじの隙間を可能な限り小さくすことができる。
【0013】
この結果、取付強度において十分な高締付けトルクが得られると共に、雌ねじ山頂におけるシーム部が小さくなって「ヒゲ」や「バリ」の発生や「ねじ浮き」を回避して品質の向上が図れる。また、谷底のR面(r2)の始点をタップの有効径から所定寸法(h)だけ下げたことにより、ゲージに対する嵌合が確実となり、雌ねじの検査上有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す盛上げタップのねじ部の形状説明図である。
【図2】ねじ部の谷底の詳細図である。
【図3】タイプの異なった盛上げタップの全体構成図である。
【図4】ラジアル数の異なった盛上げタップの断面図である。
【図5A】本発明の盛上げタップで形成される雌ねじの説明図である。
【図5B】従来の盛上げタップで形成される雌ねじの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る薄肉材用盛上げタップを実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明の一実施例を示す盛上げタップのねじ部の形状説明図、図2はねじ部の谷底の詳細図、図3はタイプの異なった盛上げタップの全体構成図、図4はラジアル数の異なった盛上げタップの断面図、図5Aは本発明の盛上げタップで形成される雌ねじの説明図である。
【0017】
図3に示すように、M3以下のタイプ1とM4〜M7のタイプ2とM8以上のタイプ3の盛上げタップ1は、図示しないタッピングマシンにチャックされるべく後端部2aが略四角形断面に形成されたシャンク部2と、図示しないタップのピッチと同程度の板厚の薄肉材に形成された下穴にねじ立て(タッピング加工)を施すねじ部3とからなる。
【0018】
前記ねじ部3は、標準食付き傾斜角で先細りのテーパー状になっている食付き部4とこれに連続する平行ねじ部(完全山部)5とを有すると共に、いずれのタイプの盛上げタップにおいても食付き部4の長さは例えば6P(6山)と通常の4P(山)より長く形成されてタップ先端径が小さくなっている。尚、食付き部4のタイプによっては2P(2山)→3P(3山)の場合もある。また、食付き部4の長さを変えずに食付き傾斜角を増大してタップ先端径を小さくしても良い。
【0019】
そして、本実施例では、図1及び図2に示すようなねじ山形(形状)となっている。
【0020】
即ち、ねじ山の角度が60°(フランク角度が30°)のとがり山の高さをHとした場合、山頂10はその切りとり高さが可能な限りH/8(切りとり限界)に近づけて低く、また谷底11はその切りとり高さH3がH/4を超えて限りなく浅くして、ひっかかり率H2が80〜85%(H1=5/8H=100%参照)に設定される。
【0021】
また、前記山頂10はR面r1(R形状)に形成されて丸みが付けられると共に、前記谷底11の両側に内接する円のR面r2の始点(起点)をタップのピッチPに応じてタップの有効径H/2から所定寸法h(h=10μ〜40μで、呼び寸法がM5×0.8のタップで30μが好適である)だけ谷底側に下げられている。
【0022】
尚、前記谷底11の両側のR面r2はフラットな面Sで結ばれている。また、前記谷底11の切りとり高さH3は、雌ねじ内径最大寸法よりひっかかり率で5%小さい寸法に設定されると好適である。
【0023】
また、図4に示すように、盛上げタップ1のラジアル部12の数は3ラジアル又は5ラジアルの奇数に設定される。尚、油溝は付けても付けなくても良い。
【0024】
このように本実施例によれば、ひっかかり率H2を80〜85%と通常より小さく設定し、谷底11のR面r2の始点をタップの有効径H/2から所定寸法hだけ下げると共に、タップの先端径を小さくしたので、ねじ立て時に雌ねじ(下穴)に確実に食い付いてその肉の十分な盛り上がりが得られると共にねじ立て後の雄ねじと雌ねじの隙間を可能な限り小さくすことができる。
【0025】
即ち、ひっかかり率H2を大きく設定すると、薄肉材の場合、雌ねじはタップの谷の方向へ盛り上がり、雌ねじ100の山頂におけるシーム部101が大きく開いた状態になり(図5B参照)、締付けトルク不足、ねじ浮き、「ヒゲ」や「バリ」の発生等の不具合が生じるが、本実施例ではそれが防止されるのである。
【0026】
この結果、取付強度において十分な高締付けトルクが得られると共に、図5Aに示すように、雌ねじ100の山頂におけるシーム部101が小さくなって「ヒゲ」や「バリ」の発生や「ねじ浮き」を回避して品質の向上が図れる。また、谷底11のR面r2の始点をタップの有効径H/2から所定寸法hだけ下げたことにより、ゲージに対する嵌合が確実となり、雌ねじの検査上有効である。尚、本発明者等の試験で、呼び寸法がM5×0.8のタップによれば、材質がエコフロンティアJNで板厚がt=0.8mmの薄肉材の場合に46kgf-cmの締付けトルクが得られることが確認されている。
【0027】
また、山頂10はR面r1(R形状)に形成されて丸みが付けられ、さらには谷底11の切りとり高さH3は、雌ねじ内径最大寸法よりひっかかり率で5%小さい寸法に設定されるので、ねじ立てが円滑に行え、より一層、ねじ立て時に雌ねじ(下穴)の肉の十分な盛り上がりが得られる。
【0028】
また、盛上げタップ1のラジアル部12の数は3ラジアル又は5ラジアルの奇数に設定されるので、特に、バーリング加工後のねじ立てにおいて、バーリング外径(元,先両方)の拡がりが抑制され、より一層、ねじ立て時に雌ねじ(下穴)の肉の十分な盛り上がりが得られる。
【0029】
即ち、盛上げタップ1のラジアル部12の数が奇数の場合には、例えば3ラジアルで120°、5ラジアルで72°毎に雌ねじを盛り上げる力が作用するため、バーリング外径を拡げる力は分散され小さくなるが、偶数ラジアルの場合には、相対するラジアル部が協力してバーリング外径を拡げる方向に作用させるため、雌ねじ内径部への盛り上がりが不足して、より小さな下穴径が必要になってしまうのである。尚、この際、ねじ立て(タッピング加工)の方向はバーリング加工の方向と同じ方向が望ましいが、バーリング加工の方向と逆の方向からねじ立てを行っても良い。
【0030】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、ピッチ(P)やひっかかり率の変更等各種変更が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る薄肉材用盛上げタップは、振動環境下にある自動車の補機等の薄肉材からなる筺体(ケーシング)や薄肉パイプのめねじ加工に用いられると好適である。
【符号の説明】
【0032】
1 盛上げタップ
2 シャンク部
3 ねじ部
4 食付き部
5 平行ねじ部(完全山部)
10 山頂
11 谷底
12 ラジアル部
100 雌ねじ
101 シーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップのピッチ(P)と同程度の板厚の薄肉材に対しねじ立てを施す薄肉材用盛上げタップであって、
タップのねじ山形において、とがり山の高さをHとした場合、山頂はその切りとり高さが可能な限りH/8に近づけて低く谷底はその切りとり高さがH/4を超えて浅くして、ひっかかり率(H2)を80〜85%に設定し、
前記谷底の両側に内接する円のR面(r2)の始点をタップのピッチ(P)に応じてタップの有効径(H/2)から所定寸法(h)だけ下げると共に、
前記タップの先端径を小さくしたことを特徴とする薄肉材用盛上げタップ。
【請求項2】
前記タップのラジアル数を奇数としたことを特徴とする請求項1に記載の薄肉材用盛上げタップ。
【請求項3】
前記山頂をR面(r1)に形成して丸みを付けたことを特徴とする請求項1に記載の薄肉材用盛上げタップ。
【請求項4】
前記所定寸法(h)は、10μから40μであることを特徴とする請求項1に記載の薄肉材用盛上げタップ。
【請求項5】
前記谷底の切りとり高さは、雌ねじ内径最大寸法よりひっかかり率で5%小さい寸法に設定することを特徴とする請求項1に記載の薄肉材用盛上げタップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−148044(P2011−148044A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11533(P2010−11533)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(510021063)株式会社ミヤギタノイ (1)