説明

薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法

【課題】基板上に形成する新規な薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】薄膜は基板上に形成される。薄膜は母体材料中に添加元素を含有する。母体材料は、SiO2を構成成分とすることが好ましい。添加元素は、Ge若しくはSi、又は、SiとGeの組み合わせであることが好ましい。薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット2上にチップ3を置き、ターゲット2と基板1の間に電圧を印加することにより、基板1上に薄膜を形成する。薄膜を形成した基板は、発光素子の構成要素として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成する新規な薄膜に関する。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子に関する。
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)やレーザーダイオード(Laser Diode;LD)の材料として、ガリウムヒ素系(GaAs)の化合物半導体が最も研究され、市販されている。しかし、これらの化合物半導体は発光デバイスとして使用する際に、いくつかの解決すべき問題を抱えている。具体的には、(1) 資源寿命が短い、(2) 高価な材料である、(3) 自然環境に対して有害な材料が使用されているなどの点が挙げられる。そのため、これらの問題点を解決できる半導体材料による発光素子の作製が行われており、シリコン(Si)をベースとする発光素子が期待されている。
【0003】
Siは、(1) 地殻中の埋蔵量が最も多く、資源的に恵まれている、(2) ICやLSIなどのように現在のSiをベースとしたエレクトロニクスは、他の物質と比較しても汎用性、経済性に優れているなどの優れた特性を持つ半導体材料である。そして、このSiをベースとする発光素子として、二酸化シリコン(SiO2)膜中にエッチング処理したナノ粒子が含まれることによる、量子サイズ効果を用いた発光素子の研究が広く行われており、代表的なもので、ナノクリスタルシリコン(nc-Si)やナノクリスタルゲルマニウム(nc-Ge)が挙げられる。
【0004】
これらの発光素子は、(1) スパッタリング法で作製可能である、(2) Siウエーハ上に容易に作製可能である利点が挙げられる。また、発光素子だけでなく、電子デバイスと発光デバイスを融合した光・電子集積回路(Opto-Electronic Integrated Circuit;OEIC)への応用も期待されている。
【0005】
現在、nc-Siの粒径サイズをフッ化水素酸(HF)によるエッチングと酸化処理を組み合わせることにより、三原色を得られることが報告されている (例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【0006】
また、nc-Geから紫または青色発光するという報告がされている(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照。)。
【0007】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照。)。非特許文献4は、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0008】
【特許文献1】特開2004-296781号公報
【非特許文献1】和泉富雄:パリティ, 19 (2004) 20.
【非特許文献2】X.M. Wu, M.J. Lu, W.G. Yao, Surface and Coatings Technology, 161(2002) 92-95
【非特許文献3】H.Z. Song, X.M. Bao, G.J. Adriaenssens, Physics Letters, A 244(1998) 449-453
【非特許文献4】櫛田篤彦,栗林渉,植草新一郎、第53回春季応用物理学会, (2006) 25P-ZH-12
【非特許文献5】Shin-ichiro Uekusa and Atsuhiko Kushida, Mater. Res. Soc. Symp. Proc. Vol. 958, (2007), in print
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、nc-Siの粒径サイズをフッ化水素酸(HF)によるエッチングと酸化処理を組み合わせることにより、光の三原色を得られることが報告されている。しかし、この方法では(1) HF使用のため環境負荷が大きい、(2) 作製プロセスが増えるという欠点がある。
【0010】
また、上述したように、nc-Geから紫または青色発光するという報告がされている。しかし、いずれの報告においても、紫もしくは青のどちらか一方の色しか出ていないという欠点がある。
【0011】
そのため、このような課題を解決する、新規な薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法の開発が望まれている。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、基板上に形成する新規な薄膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られることを特徴とする。
【0015】
本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであることを特徴とする。
【0016】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られることを特徴とする。
【0017】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであることを特徴とする。
【0018】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られることを特徴とする。
【0019】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0021】
本発明の本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られるので、新規な薄膜を提供することができる。
【0022】
本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであるので、新規な薄膜を提供することができる。
【0023】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られるので、新規な発光素子を提供することができる。
【0024】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであるので、新規な発光素子を提供することができる。
【0025】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素がGe又はSiであり、前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られるので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【0026】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有し、前記母体材料がSiO2を構成成分とし、前記添加元素が、Si及びGeの組み合わせであるので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
薄膜の製造方法について説明する。本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に添加元素を含有する方法である。
【0029】
基板としては、シリコン基板、ガラス基板などを採用することができる。
【0030】
母体材料としては、SiO2を構成成分とする。
【0031】
添加元素としては、Ge若しくはSi、又は、SiとGeの組み合わせなどを採用することができる。
【0032】
薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット上にチップを置き、ターゲットと基板の間に電圧を印加することにより、基板上に薄膜を作製する。以下に、半導体素子製造において使用されている現行の高周波マグネトロンスパッタリング装置を用いた場合の例を示す。。
【0033】
チップの大きさは75〜125 mm2の範囲内にあることが好ましい。チップの大きさが75 mm2以上であると、SiO2膜に対してGe又はSiが適量であるという利点がある。チップの大きさが125 mm2以下であると、SiO膜に対してGe又はSiを含みすぎないという利点がある。
【0034】
赤色の試料を作製する場合、Siチップの個数は上記のチップサイズにつき7〜9 個の範囲内にあることが好ましい。チップの個数が7〜9 個の範囲内であると、SiO膜に対してSiが適量であるという利点がある。結果として薄膜中のSi総量が41〜51atm%の範囲にあることが好ましい。
【0035】
青、紫色の試料を作製する場合、Geチップの個数は上記のチップサイズにつき1 個であることが好ましい。Geチップの個数が1 個であると、SiO膜に対してGeが適量であるという利点がある。結果として薄膜中のGe総量が3〜12atm%の範囲にあることが好ましい。
【0036】
緑色の試料を作製する場合、上記のチップサイズにつき、Geチップの個数は1 個、Siチップの個数は6 個であることが好ましい。Geチップの個数が1 個であると、SiO膜に対してGeが適量であるという利点があり、Siチップの個数が6 個であると、SiO膜に対してSiが適量であるという利点がある。結果として薄膜中のGe総量が1〜5atm%の範囲、Si総量が35〜45atm%の範囲、O総量が50〜60atm%の範囲にあることが好ましい。
【0037】
雰囲気ガスとしては、アルゴンガスなどを採用することができる。
【0038】
動作圧力は0.1〜1.2Pa(9.0×10-3〜1.0×10-3 Torr)の範囲内にあることが好ましい。動作圧力が0.1〜1.2Paの範囲内にあると、チャンバー内の残留ガスを減らすことができるという利点がある。
【0039】
RF出力は100〜250 Wの範囲内にあることが好ましい。RF出力が100〜250 Wの範囲内にあると、SiO2ターゲットと各チップを均一にスパッタリングすることができ、成膜する基板全体に均一にスパッタリングできるという利点がある。
【0040】
スパッタリング時間は30〜60 分の範囲内にあることが好ましい。スパッタリング時間が30〜60 分の範囲内にあると、基板全体に均一な膜を成膜することができるという利点がある。
【0041】
熱処理温度は、Geを用いる場合、100〜900 ℃の範囲内にあることが好ましい。熱処理温度が100 ℃以上であると、結晶構造の変化を起こすことができるという利点がある。熱処理温度が900 ℃以下であると、Geの融点を超えるのを防止できるという利点がある。Siを用いる場合、700〜1150 ℃の範囲内にあることが好ましい。熱処理温度が700 ℃以上であると、結晶構造の変化を起こすことができるという利点がある。熱処理温度が1150 ℃以下であると、Siの添加効果が奏するという利点がある。
【0042】
熱処理時間は30〜90 分の範囲内にあることが好ましい。熱処理時間が30〜90 分の範囲内にあると、結晶構造の変化が十分に起きているという利点がある。この熱処理時間は、熱処理温度によって適宜選択することが好ましい。
【0043】
熱処理の雰囲気ガスとしては、アルゴンガス、酸素ガスなどを採用することができる。
【0044】
薄膜の製造方法は、上述の高周波マグネトロンスパッタリング法に限定されるものではない。このほか薄膜の製造方法としては、PVD、CVDなどを採用することができる。
【0045】
薄膜について説明する。本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜がSiO母体材料中に添加元素を含有するものである。
【0046】
添加元素がGeの場合の濃度は3 〜12 atm%の範囲内にあることが好ましい。
【0047】
薄膜の厚さは100〜1000 nmの範囲内にあることが好ましい。薄膜の厚さが100〜1000 nmの範囲内にあると、十分な発光強度が得られるという利点がある。
【0048】
薄膜の用途は、上述の発光素子に限定されるものではない。このほか薄膜の用途としては、Geナノ粒子含有SiO2薄膜のメモリ素子への応用などを挙げることができる。
【0049】
発光素子について説明する。本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜がSiO2母体材料中にGe、Siの添加元素を含有するものである。
【0050】
発光素子の用途としては、レーザーダイオード、三原色ナノ発光ダイオード、紫外域発光光源、ELディスプレイ、オプトバイオテクノロジーなどを挙げることができる。
【0051】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜がSiO2母体材料中にGe、Siの添加元素を含有するので、新規な薄膜を提供することができる。
【0052】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜がSiO2母体材料中にGe、Siの添加元素を含有するので、新規な発光素子を提供することができる。
【0053】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜がSiO2母体材料中にGe、Siの添加元素を含有するので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【0054】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0055】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0056】
<試料の作製方法>
【0057】
以下に示す参考例および実施例では、ターゲット上にチップを置くことで組成を容易に変えることができ、成膜速度が速い、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング法を用いて試料を作製した。図1に装置の概略図を示す。試料の作製には、高周波マグネトロンスパッタリング装置(SPF-210H、日電アネルバ社製)を使用した。
【0058】
表1に試料作製条件を示す。ターゲット材料には直径4インチ(101.6 mm)のSiO2(99.99%)を用い、SiO2ターゲット上にSiチップ(p-Si(100),1cm角)およびGeチップ(99.99%,1cm角)を組み合わせて配置し、Si基板(p-Si(100))上に成膜した。チャンバー内を7.0×10-7Torrまで排気後、スパッタリングガスとしてアルゴン(Ar)を導入した。スパッタリングは、RF出力200W、動作圧力0.8Pa(6.0×10-3Torr)、基板加熱なし、スパッタリング時間30分で行い、全ての試料の膜厚が800nmとなるようにした。
【0059】
【表1】

【0060】
成膜後、結晶性の改善のためにRTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて熱処理を行った。熱処理を行う前にターボ分子ポンプを用いて試料室をおよそ1×10-3 Pa(1.0×10-5Torr)まで排気した後、アルゴンガス(純度:99.999%)を導入し、大気圧下で熱処理を行った。
【0061】
実施例1(Siの添加)
【0062】
図2にSiチップ(1cm角)7個のみを使ってスパッタリングしたフォトルミネッセンス(PL)測定の結果を示す。加熱処理は、Ar雰囲気で900、1000、1100、1200℃につき各1時間行った。加熱処理前(as depo)のときに比べ波長が長波長側にシフトし、780nm付近にピークを持つ赤色発光を得た。また、1100℃の時に最高のPL強度を得た。これは、量子サイズ効果によりSiのバンドギャップが増大し、780nmの可視発光を得られたと考えられる。
【0063】
実施例2(Geの添加)
【0064】
図3にGeチップ(1cm角)1個のみを使ってスパッタリングした時のPL測定の結果を示す。加熱処理は、Ar雰囲気で300、400、600、700、800、900℃につき各1時間行った。主に400,470nm付近に二つのピークが現れ、加熱処理温度によりPLの発光色が変化した。具体的には、加熱処理なし〜300℃までと700℃以上の加熱処理をした時、肉眼で紫色のPLを得た。加熱処理温度が800℃の時、紫色発光の最高のPL強度を得た。また、400〜600℃の加熱処理をした時、肉眼で青色のPLを得た。加熱処理温度400℃の時、青色発光の最高のPL強度を得た。
【0065】
図4は、400,470nm付近のピークのPL強度の加熱処理温度依存性を示す。400nm付近のピークは、全ての温度で強い発光をしている。一方、470nm付近のピークは、400〜600℃の時に特に強くなり、それ以外の温度では微弱な発光となっている。この結果から、400nm付近のピークのみが強く現れると肉眼で紫色発光を観察し、470nm付近のピークが強く現れると、肉眼で青色発光を観察できると考えられる。
【0066】
実施例3(SiとGeの添加)
【0067】
図5にGeチップ(1cm角)1個とSiチップ(1cm角)6個を使ってスパッタリングした時のPL測定の結果を示す。加熱処理は、Ar雰囲気で400、600、700、800℃につき各1時間行った。530nm付近にピークを持つ緑色発光を得た。また、600℃の時に最高のPL強度を得た。
【0068】
実施例4(SiとGeの添加)
【0069】
図6(A)は、Siチップ(1cm角)5個を使ってスパッタリングした時のPL測定結果であり、図6(B)は、図5と同様のものである。図6(A)では、肉眼でやや緑の白色光を得た。両図を比較すると、Geを加えたことで長波長側にシフトし、530nm付近のピークが他のピークに対して強くなっているのがわかる。そのため、PLの色も完全に緑色となったと考えられる。
【0070】
図7は、図6(A),(B)のPL強度の加熱処理温度依存性をそれぞれ示す。Geを加えたことで、最高のPL強度が加熱処理温度1100℃から600℃にシフトしていることがわかる。また、530nm付近のPL強度が増大していることがわかる。なお、図7(B)のGe+Siをスパッタリングしたもののグラフは、全体の値を四分の一倍してある。
【0071】
以上のことから、本実施例によれば、Si,Geチップと高周波(RF)マグネトロンスパッタリング法を用いて、Si基板上に成膜後、加熱処理するだけの簡単な方法で光の三原色発光と紫色発光をする試料の作製に成功した。実施例2では、加熱処理温度が800℃のとき紫色発光、400℃のとき青色発光の最高のPL強度を得た。実施例3,4では、加熱処理温度が600℃のとき緑色発光の最高のPL強度を得た。実施例1では、加熱処理温度が1100℃のとき赤色発光の最高のPL強度を得た。
【0072】
実施例5(ナノクリスタルGeを含む膜からの光学的特性)
【0073】
Geの母体内での動きについて説明する。母体のSiO2膜中にGeを3.6atm%含ませた試料を熱処理することで、その試料がどのような変化をするのかを調べた。熱処理後の結晶性の変化をラマン分光法、表面状態の変化を光学顕微鏡を用いて評価した。また、試料の組成は熱処理前の試料を用いてEDX法で評価した。
【0074】
Geの結晶性の変化について説明する。図8にそれぞれの温度で熱処理したときのラマンスペクトルを示す。400℃までの熱処理温度では250〜310cm-1付近にかけてブロードなピークが現れた。これはアモルファスGe (a-Ge)の典型的なピークである[1]。600℃で熱処理をした試料では、280〜310cm-1付近にかけてa-Geのブロードなピークが現れるが、298cm-1に強いピークが現れた。これはGe-Geのピークであり、このピークはGeの結晶性が良くなるほど300cm-1付近に現れることで知られている[1,2]。また、800℃で熱処理をした試料では、299cm-1に特に強いピークが現れ、半値幅も600℃で熱処理をした試料よりも狭くなっていることがわかる。このことから、高温で熱処理をした方がGeの結晶性が良くなりやすいことがわかる。しかし、900℃で熱処理した試料では、299cm-1にピークが現れたが、そのピーク強度は800℃で熱処理したときよりも弱くなった。これは、高温で熱処理したことによって、Ge-Ge結合が切れやすくなるために、結晶性が悪くなったことが原因だと考えられる[3]。
【0075】
表面状態の変化について説明する。各温度で熱処理したものについて、光学顕微鏡を用いて50倍の倍率で観察した。400℃までの熱処理温度では表面状態にほとんど変化は見られなかったが、600℃で熱処理した試料では、大きさが異なる黒い粒子が現れた。ラマン分光法の結果より、この黒い粒子はGeが熱処理によって凝集した粒子だと考えられる。800℃で熱処理をした試料では、600℃で熱処理をした試料よりもGeの粒子サイズが全体的に大きくなり、全体に分布している。ここまでの結果から、高温で熱処理をするほど、Geの凝集による粒子の形成が行われやすいことがわかる。しかし、900℃で熱処理をした試料では、800℃で熱処理をした試料よりもGeの粒子サイズが明らかに小さくなった。これは、Ge-Ge結合が高温で熱処理をするほど切れやすいために、粒子サイズが小さくなったことが原因だと考えられる[3]。
【0076】
600℃以上の熱処理をした試料から、黒いGeの粒子以外にSiO2膜に穴が空いたような跡が、熱処理温度が高いほどより多く現れた。これはGeが熱処理によって母体内を凝集したときに、母体のSi-O結合を破壊するために、このような穴が現れたと考える。また、形成されたGeの粒子は高温熱処理によりGe-Ge結合が切れることで一度消滅し、このときにGeの粒子が存在していた跡ができる。そして、粒子を形成していたGeは膜内を拡散し、再びGeと結合して粒子を形成するのではないかと考える。
【0077】
SiO2膜内にGeを含ませた試料を熱処理することで、Geの凝集が起こり、粒子を形成することがわかった。また、Geの粒子は600℃以上の熱処理温度で形成しやすいと考えられ、Geの粒子サイズが大きくなるほど、Geの結晶性が良くなる傾向を示した。また、Geの凝集が起こるほど、母体のSiO2膜に穴が空いたと考えられる跡を多くできた。
【0078】
これらの結果より、SiO2膜内にnc-Geを含ませるためには、スパッタリング後の試料に熱処理が必要であることがわかった。また、800℃の熱処理温度で最も粒子サイズが大きくなり、それ以上の熱処理温度ではGe-Ge結合が切れやすくなり、逆に粒子サイズが小さくなると考えられる。
【0079】
紫・青色のフォトルミネッセンスについて説明する。SiO2ターゲット上に配置するGeチップの数1個としスパッタリング時間を変化させることで、SiO2薄膜中に含ませるGeの組成を4〜11atm%まで変化させた。
表2に示すように、Geの組成が4.3atm%の試料をSample 1、8.4atm%の試料をSample 2、11.1atm%の試料をSample 3とした。また、試料の組成は熱処理前の試料を用いてEDX法で評価した。
【0080】
【表2】

【0081】
図9にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。395〜410nm付近 (Vバンド)に特に強いピークと465〜490nm (Bバンド)、500〜530nm付近にもピークが現れた。熱処理温度が500℃のときにVバンドが最も強いPL強度を示した。また、全ての熱処理温度において、肉眼で紫色のPLを確認した。
【0082】
図10にSample 2をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。Sample 1と同様に特に強いVバンドとBバンド、500〜530nm付近にピークが現れた。また、全ての熱処理温度において、肉眼で紫色のPLを確認した。しかし、熱処理温度が800℃のときにVバンドが最も強いピークを示し、Sample 1よりも300℃高温になった。
【0083】
図11にSample 3をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。Sample 1,2と同様にV, Bバンドと530nm付近にピークが現れた。また、650nm付近にも弱いピークを確認できる。しかし、Sample 3では熱処理温度によってVバンドだけでなく、Bバンドが強く現れる場合があり、PL発光が熱処理温度によって変化した。Vバンドのみが強く現れたときに紫色、V, Bバンドが強く現れたときに青色のPL発光を肉眼で確認することができた。この熱処理温度とPL発光について表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
全ての試料で現れた500〜530nm付近のピークとSample 3で現れた650nm付近のピークは、SiOx膜の酸素欠陥に関連した発光センターやNBOHCから得られたものであると考えられる[4-9]。
【0086】
SiO2薄膜中に含まれるGeの組成を変化させた試料から、紫・青色発光を肉眼で確認することができた。そこで、紫・青色発光に関係していると考えられるV, Bバンドの発光メカニズムについて調べ、検討をした。
【0087】
紫・青色発光の熱処理温度依存性について説明する。熱処理温度による各試料のV, Bバンドの変化を調べた。各試料のVバンドの熱処理温度によるPLピーク強度の変化を図12に示す。全ての試料でVバンドは強いPL強度を示していることがわかる。しかし、Geの組成と熱処理温度によってPL強度が変化しており、Sample 1では500℃、Sample 2では800℃、Sample 3では600℃の熱処理温度で最も強いPL強度を得た。
【0088】
各試料のBバンドの熱処理温度によるPLピーク強度の変化を図13に示す。Sample 1,2では、全ての熱処理温度において、BバンドのPL強度はほぼ一定の値を示していることがわかる。しかし、Sample 3では400〜700℃の熱処理温度においてBバンドが特に強く現れていることがわかる。表3のデータと比較してみると、BバンドのPL強度が強くなるこれらの熱処理温度のときに青色発光を得ていることがわかる。このことから、Bバンドの強いPL強度が得られたために肉眼で青色発光を確認できたと考えられる。
【0089】
SiO2薄膜に含まれるGeの組成と熱処理温度によって、V, BバンドのPL強度が変化していることがわかった。このことから、これらの要因が紫・青色発光の発光センターに大きく関係していると考えられる。そこで、熱処理を行ったことで試料にどのような変化が起きているのかをラマン分光法やFT-IRを用いて調べた。
【0090】
熱処理による結晶性の変化について説明する。Sample 2,3の試料を用いて、それぞれの温度で熱処理したときの結晶性の変化についてラマン分光法で評価を行った。
【0091】
図14にSample 2をそれぞれの温度で熱処理したときのラマンスペクトルを示す。なお、全ての熱処理温度で現れている521cm-1付近の強いピークは成膜基板であるSi基板のピークである。500℃までの熱処理温度ではラマンスペクトルにほとんど変化は見られないが、600℃の熱処理温度において300cm-1付近にGe-Geを示すピークが強く現れた。しかし、600℃より高い熱処理温度では逆にGeの結晶性は悪くなり、a-Geの典型的なブロードなスペクトルを示し、ピーク強度も減少していった。また、800, 900℃で熱処理した試料から425cm-1付近にSi-Geのピーク、500cm-1付近にSi-Siのピークが現れた[2,10]。
【0092】
図15にSample 3をそれぞれの温度で熱処理したときのラマンスペクトルを示す。500℃までの熱処理温度ではラマンスペクトルにほとんど変化は見られないが、600℃以上の熱処理温度において300cm-1付近にGe-Geのピークが強く現れ、そのピーク強度も熱処理温度の増加とともに強くなった。しかし、800, 900℃で熱処理した試料ではピーク強度ともに半値幅も大きくなることから、逆にGeの結晶性は悪くなり、Geがアモルファス状態になっていることがわかる。また、800, 900℃の熱処理温度で425cm-1付近にSi-Geのピーク、480cm-1付近にアモルファスSi (a-Si)のピークが現れた[11,12]。
【0093】
熱処理をすることで試料の結晶性に変化が生じていることがわかった。しかし、GeやSi-Geの結晶性が良いからといって、V, BバンドのPL強度が強くなっておらず、関係性があるとは考えられない。
【0094】
熱処理による結合状態の変化について説明する。Sample 2,3の試料を用いて、それぞれの温度で熱処理したときの結合状態の変化についてFT-IRで評価を行った。本実験では、日本分光社製FT/IR460 Plusを用いて、分解能2.0cm-1, 積算回数を16回, 4000〜400cm-1の領域の測定を行った。なお、母体からFT-IRスペクトルを確認するために、同じ膜厚のSiO2薄膜のみの試料を用意した。
【0095】
図16にSiO2薄膜のみの試料とSample 2をそれぞれの温度で熱処理したときのFT-IRスペクトルを示す。全ての試料で確認できる810, 1090cm-1付近のピークは、SiOx結合を示す吸収のピークであり、母体のSiO2薄膜のピークと考えられる[13]。SiO2薄膜のみとSample 2のFT-IRスペクトルを比較すると、Sample 2は1090cm-1付近のピークがブロードに現れていることがわかる。これは、980〜900cm-1付近にGeO2結合のピークが存在するために、ブロードなスペクトルを示したと考えられる[14]。
【0096】
図17にSiO2薄膜のみの試料とSample 3をそれぞれの温度で熱処理したときのFT-IRスペクトルを示す。Sample 2と同様にSiOx結合のピークが810, 1090cm-1付近に現れ、980〜900cm-1付近にGeO2結合のピークが現れた。
【0097】
GeO2結合のピークは、Sample 2,3の全ての熱処理温度で確認することができた。Vバンドは全ての試料で強いPL強度を示していることから、GeO2結合がVバンドの発光センターに関連していると考えることができる。
【0098】
実験結果より、VバンドのPL強度がGeの組成と熱処理温度によって変化したのは、母体内に存在していたGeO2結合が、熱処理によるGeの凝集・拡散による結合状態の変化が起きたことが原因だと考えられる。
【0099】
SiO2膜内に含まれるGeの組成と熱処理温度を変化させることで、肉眼で紫・青色発光する試料の作製に成功した[15]。
紫色発光には、GeO2結合の欠陥が発光センターに関連していることが考えられ、熱処理によるGeの凝集・拡散が原因で、母体内で結合状態の変化が起きることでPL強度の変化が起きたと考えられる。
【0100】
青色発光は、Sample 3の400〜700℃のときにしか確認できなかった。熱処理によってGeの結晶構造が変化することが、実験結果より得られていることから、400〜700℃のときにGeの添加により青色発光を得られ、また、熱処理によるGeの凝集・拡散が原因で試料のGeOx結合が変化したために青色発光が得られたのではないかと考えている。
【0101】
実施例6(ナノクリスタルGe, Siを含む膜からの光学的特性)
【0102】
Ge, Siナノクリスタルを同時に含む膜からの緑色発光について説明する。SiO2ターゲット上にGe, Siチップを同時に配置し、スパッタリングすることでGe/Si-SiO2膜を作製した。また、2つのナノクリスタルを含むことで発光がどのように変化したのかを比較するために、Si, Geチップのみをそれぞれスパッタリングした膜も作製した。
【0103】
表4に示すように、Geチップ(1枚), Siチップ(6枚)を同時スパッタリングした試料をSample 1、Siチップ(6枚)のみをスパッタリングした試料をSample 2、Geチップ(1枚)のみをスパッタリングした試料をSample 3とした。なお、Sample 2,3のSiチップの配置はSample 1でSi, Geチップを配置した場所と同じである。試料の組成は熱処理前の試料を用いてEDX法で評価した。
【0104】
【表4】

【0105】
図18にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。そのPLスペクトルは、特に強い530nm(Gバンド)付近のピーク以外にも470nm(Bバンド)、630nm(Oバンド)、720nm(Rバンド)、800nm(IRバンド)付近に4つのピークが現れた。これらの5つのピークは、600℃の熱処理温度で最高のPL強度を示し、肉眼により緑色発光を確認することができた。これはGバンドが特に強いピークで現れたことが原因と考えられる。
【0106】
図19にSample 2をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。Sample 1と同様のG, B, O, R, IRバンドの5つのピークが現れた。これらの5つのピークは、1100℃の熱処理温度で最高のPL強度を示した。また、肉眼により緑かかった白色発光を確認することができた。
【0107】
図19のPLスペクトルでは緑色発光に寄与する530nmの特に強いスペクトルを示し、またそれよりは弱いが750nm付近の赤色に近いところにもピークを示している。本来の白色は連続した性質があるため、この試料では白色発光となったと考えられる。緑色がかっているのは、530nm付近のピークが強すぎるためだと考えられる。
【0108】
図20にSample 3をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。V, B, Gバンド付近にピークを示していることがわかる。この試料は実施例4で作製した試料と同様に、熱処理温度により発光色が紫、青、紫色へと変化した。この熱処理温度と発光色の関係について表5に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
このように、SiO2膜内に異なるナノ粒子を含ませた3種類の試料の全てから発光を得ることができた。特にSample 1のGe, Siナノ粒子を同時に含む膜からの強い緑色発光をする試料を作製することができた。緑色発光に大きく影響するGバンドの発光メカニズムについて調べ、検討を行った。
【0111】
緑色発光の熱処理温度依存性について説明する。強いGバンドの発光がSiチップのみで作製したSample 2からも得られていることから、nc-SiがGバンドの発光センターの可能性がある。そこで、Sample 1とSample 2のPLピーク強度とPLピーク波長の熱処理温度依存性の変化について調べた。
【0112】
図21にSample 1のそれぞれの熱処理温度によるGバンドのPLピーク強度とPLピーク波長の変化を示す。この図より、熱処理温度が600℃までPL強度は増加するが、それ以上の熱処理温度ではPL強度が減少していることがわかる。特にnc-Siにおいて最もPL強度が強かった1100℃前後の熱処理温度では、熱処理を行っていない試料のPL強度よりも減少した。また、ピーク波長はPL強度の増加とともに550nmから530nm付近の波長までブルーシフトするが、PL強度の減少とともに再び530nmから550nmの波長へとレッドシフトする傾向を示しており、nc-Siの典型的なPLスペクトルとは考えられない。
【0113】
図22にSample 2のそれぞれの熱処理温度によるGバンドのPLピーク強度とPLピーク波長の変化を示す。1100℃の熱処理温度まではPL強度は増加するが、それ以上の熱処理温度ではPL強度は減少した。このPL強度の変化はnc-SiのPL強度の変化と一致するが、PLピーク波長の変化は熱処理温度によらず545nm前後の値を示すことから、nc-Siからの発光とは考えることはできない。よって、このGバンドの発光はSiO2膜内の酸素欠陥に関連する発光センターからの発光と考えることができる[4-9]。
【0114】
このような結果より、Gバンドの発光はnc-Siからの発光ではなく、SiO2膜内の酸素欠陥に関連する発光センターからの発光だと考えられる。
【0115】
組成を変化させたときの緑色発光の変化について説明する。GバンドのPL強度が試料の組成に依存してどのように変化するかを調べた。試料の組成は、Sample 1を基準としてスパッタリングするSi, Geチップの枚数を変えることで組成を変化させた。
【0116】
Siの組成を変化させたときの緑色発光の変化について説明する。Sample 1と同様のGeチップの量と配置を固定し、スパッタリングする時間を変化させた。表6に示すように、結果としてSample 1よりもSiの組成が少ない試料をSample 4とした。
【0117】
【表6】

【0118】
図23にSample 4をそれぞれの温度で熱処理したときのPLスペクトルを示す。Sample 1と同様にGバンドに特に強いピークとB, O, R, IRバンドに4つのピークが現れた。また、Gバンドは1000℃の熱処理温度で最も強いPL強度を示した。このとき、肉眼でSample 1と同様に緑色発光を確認することができた。
【0119】
PL強度は異なるが、Sample 4からも肉眼で緑色発光をする試料の作製に成功した。そこで、各試料において、熱処理の前後でGバンドのPL強度が最も強かった試料の比較を行い、試料の組成が変化したことでGバンドのPL強度がどの程度変化しているのか調べた。
【0120】
図24に熱処理後のSample 1,2,4において、GバンドのPL強度が最も強かった試料の比較を行った結果を示す。Sample 1は、Sample 2に対して約16倍、Sample 4に対して約4.4倍もPL強度が増加しており、Sample 1の作製条件で最も優れた試料が作製できていることがわかる。
【0121】
Siチップのみで作製したSample 2と比べて、Sample 1とSample 4(約3.7倍)では増加していた。また、最も強いGバンドのPL強度が得られた熱処理温度が試料の組成によって変化していることもわかる。
【0122】
試料の組成と熱処理温度により、GバンドのPL強度が変化することがわかった。ここから、試料の組成と熱処理温度によって、SiO2膜内の酸素欠陥に関連する発光センターが増減していると考えられる。そこで、熱処理を行ったことで試料にどのような変化が起きているのかを調べた。
【0123】
熱処理による試料の変化について説明する。最初に、熱処理による結晶性の変化について説明する。Sample 1の試料を用いて、熱処理温度による結晶性の変化についてラマン分光法を用いて評価した。
【0124】
図25にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのラマンスペクトルを示す。400℃までの熱処理温度では520cm-1付近にSi基板のピークしか確認することができない。しかし、熱処理温度が600, 800℃のときに400〜520cm-1の領域でブロードなスペクトルを示した。これらのブロードなスペクトルは、520cm-1付近にSi基板、480cm-1付近にa-Si、そして435cm-1付近にSi-Geのピークが存在するためにブロードなスペクトルを示したと考えられる。また、ブロードなスペクトルを示した試料は、特にGバンドのPL強度が強かった試料である。そして、800℃以上の熱処理温度では、ブロードなスペクトルはなくなり、再び520cm-1付近にSi基板のピークしか確認することができなくなった。
【0125】
Gバンドが特に強く現れた600, 800℃の試料からa-SiやSi-Geのピークが現れたことから、熱処理によってSample 1の試料の結晶性に変化が起きていることがわかった。この結果より、結晶性の変化が起きたことでGバンドの発光センターが増加したと考えることができる。
【0126】
熱処理によるGeとSiO2の化学結合状態の変化について説明する。Sample 1の試料を用いて、熱処理温度によるGeとSiO2の化学結合状態の変化についてXPSを用いて評価した。本実験では、VG SCIENTIFIC社製のXPS分析装置を用いて、加速電圧1486.6eVで測定を行った。なお、XPSスペクトルは試料の表面を測定した。
【0127】
図26にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのXPSスペクトルを示す。全ての試料から28.6eV付近に3d電子軌道のGeの結合エネルギーと一致するピークを示した[16]。これらのGeの結合エネルギーのピーク強度の熱処理温度による変化を図27に示す。熱処理温度の増加とともにGe-Ge結合のピークが増加していることがわかる。これは熱処理によってGeが表面方向へ熱拡散し、Ge-Ge結合を形成したと考えることができる。また、このGeの熱拡散が原因でGバンドの発光センターが増加するのではないかと考えられる。
【0128】
図28にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのXPSスペクトルを示す。全ての試料から119eV付近にSiO2の結合エネルギーと一致するピークを示した。これらのSiO2の結合エネルギーのピーク強度の熱処理温度による変化を図29に示す。熱処理温度の増加とともにSiO2結合のピーク強度が増加しており、熱処理温度が高いほどSiO2結合を形成しやすいと考えられる。ラマン分光法の結果(図25参照)において、900℃以上の熱処理温度で400〜520cm-1の領域でブロードなスペクトルが現れなくなった原因として、高温熱処理によってSiO2結合が形成されやすくなり、a-SiやSi-Geが少なくなったためにブロードなスペクトルが現れなくなったと考える。
【0129】
熱処理によるGeの組成の変化について説明する。Sample 1の試料を用いて、熱処理温度によるGeの組成の変化についてEDXを用いて評価した。本実験では、日立ハイテクノロジー社製S-5200の走査型電子線顕微鏡と一体型のEDAX社製GENESIS SPECTRUMを使用した。
【0130】
図30にSample 1をそれぞれの温度で熱処理したときのGeの組成分析結果を示す。SiとOの組成は、全ての熱処理温度で表4に示した組成とほとんど変化しなかった。Geの組成は、熱処理温度が800℃までは約3.3%前後の一定の組成を示していることがわかる。しかし、900℃以上の熱処理温度からは、約3.0%から2.0%まで急激にGeの組成の減少が起きた。これは、Geの融点の914℃を熱処理温度が超えたために、SiO2膜内からGeが消滅したことが原因だと考えられる。
【0131】
熱処理によるGeの組成の変化とラマン分光法の結果において、900℃以上の温度で400〜520cm-1の領域のブロードなスペクトル内に現れたSi-Geのピークがなくなったのは、SiO2膜内からGeが消滅したことが原因だと考えることができる。
【0132】
ラマン分光法の結果より、特にGバンドが強かった600, 800℃の熱処理温度の試料からa-SiとSi-Geのピークを含むと考えられるブロードなスペクトルが得られた。これはXPSの結果より、Geの試料表面方向への熱拡散によってSiO2膜内のSi-O結合が壊されることでa-Siが膜内に増え、また膜内の余剰SiとGeが結合することでSi-Ge結合を形成したと考えられる。このときの一連の変化の中でSiO2膜内の酸素欠陥が増加したのではないかと考えられる。
【0133】
900℃以上の熱処理温度では、SiO2膜内からGeの消滅が急激に始まると同時にSi-Ge結合も失われる。また、熱処理温度が高いほどSiO2結合が形成しやすくなることから考えて、900℃以上の高温での熱処理温度ほどSiO2膜内からGeが消滅し、SiO2結合を形成しやすくなるために、SiO2膜内の酸素欠陥が失われる。このために、GバンドのPL強度が減少したと考えられる。
【0134】
Gバンドの発光センターは、SiO2膜内の酸素欠陥に関連した発光センターと考えられ、Geの熱拡散によって、この発光センターが増加するために肉眼で強い緑色発光を確認することができたと考えられる。これは、Gバンドの強さがGeの組成と熱処理温度によって変化した結果と一致する[17]。
【0135】
[参考文献]
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[16] X. M. Wu, M. J. Lu and W. G. Yao, Surface and Coatings Technology, 161 (2002) 92.
[17] Shin-ichiro Uekusa and Atsuhiko Kushida, Mater. Res. Soc. Symp. Proc. appear in print (2006), L10.28.
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】スパッタリング装置の概略図である。
【図2】赤色発光PLスペクトルを示す図である。
【図3】紫、青色発光PLスペクトルを示す図である。
【図4】加熱処理温度依存性を示す図である。
【図5】緑色発光PLスペクトルを示す図である。
【図6】PLスペクトルの比較結果を示す図である。
【図7】PL強度の比較結果を示す図である。
【図8】各温度で熱処理したときのラマンスペクトルを示す図である。
【図9】Sample 1のPLスペクトルを示す図である。
【図10】Sample 2のPLスペクトルを示す図である。
【図11】Sample 3のPLスペクトルを示す図である。
【図12】各試料のVバンドの熱処理温度依存性を示す図である。
【図13】各試料のBバンドの熱処理温度依存性を示す図である。
【図14】Sample 2のラマンスペクトルを示す図である。
【図15】Sample 3のラマンスペクトルを示す図である。
【図16】Sample 2のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図17】Sample 3のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図18】Sample 1のPLスペクトルを示す図である。
【図19】Sample 2のPLスペクトルを示す図である。
【図20】Sample 3のPLスペクトルを示す図である。
【図21】Sample 1のPLピーク強度、波長の熱処理温度依存性を示す図である。
【図22】Sample 2のPLピーク強度、波長の熱処理温度依存性を示す図である。
【図23】Sample 4のPLスペクトルを示す図である。
【図24】各試料のGバンドのPL強度の比較を示す図である。
【図25】各熱処理温度によるSample 1のラマンスペクトルを示す図である。
【図26】Sample 1のXPSスペクトル(Ge結合) を示す図である。
【図27】各熱処理温度によるGe結合の強度変化を示す図である。
【図28】Sample 1のXPSスペクトル(SiO2結合) を示す図である。
【図29】各熱処理温度によるSiO2結合の強度変化を示す図である。
【図30】各熱処理温度によるSample 1のGeの組成分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
1‥‥基板、2‥‥二酸化シリコンターゲット、3‥‥シリコン、ゲルマニウムチップ、4‥‥プレーナマグネトロンカソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される薄膜において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素はGe又はSiであり、
前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られる
ことを特徴とする薄膜。
【請求項2】
基板上に形成される薄膜において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素は、Si及びGeの組み合わせである
ことを特徴とする薄膜。
【請求項3】
薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素はGe又はSiであり、
前記発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られる
ことを特徴とする発光素子。
【請求項4】
薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素は、Si及びGeの組み合わせである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項5】
基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素はGe又はSiであり、
前記薄膜を構成要素とする発光素子は、前記薄膜の熱処理温度により、三原色の発光が得られる
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項6】
基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、
前記薄膜は、母体材料中に添加元素を含有し、
前記母体材料は、SiO2を構成成分とし、
前記添加元素は、Si及びGeの組み合わせである
ことを特徴とする薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−75070(P2008−75070A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209268(P2007−209268)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】