説明

薄膜チップインダクタの製造方法

【目的】 短い時間で薄膜チップインダクタを製造すること。
【構成】 まず、絶縁基板(1)の主面上に複数個のインダクタ導体層(4,8)を所定間隔で薄膜技術により形成する。絶縁基板(1)の裏面にダミー基板(13)を張り付けた状態で、複数個のインダクタ導体層の端面の電極となる前記絶縁基板部分にスリット(14)加工を施す。スリット加工を施した部分にメッキ層(15)を形成する。複数個のインダクタ導体層が個々のインダクタ導体層に分離されるように、絶縁基板を切断して、複数個のチップインダクタを得る。リフトオフ法によって各チップインダクタのメッキ層から不要部分を取り除いて下地電極(16)を形成する。各チップインダクタの下地電極上に上地電極(17)を形成する。各チップインダクタの上地電極上に薄膜チップインダクタの電極(18)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄膜チップインダクタの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、薄膜チップインダクタを次のようにして製造していた。先ず、シリコン基板、セラミック基板、Al2 3 基板等の絶縁基板上にスパイラル状のインダクタ導体層及び電極取り出し用パットを薄膜技術により形成する。次に、インダクタ導体層が形成された絶縁基板をチップ状に切断して、複数個のインダクタ導体層チップを得る。これら複数個のインダクタ導体層をリードフレームに整列させて搭載する。リードフレームの搭載部と電極取り出し用パットに半田付けあるいはスポット溶接等を施してインダクタチップを得る。最後に、このインダクタチップを樹脂封止して端子成形することにより、薄膜チップインダクタを製造していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、電子部品の開発動向は、小型化に向かっている。上述した従来の薄膜チップインダクタの製造方法では、絶縁基板上に作成されたインダクタ導体層チップを個々に分離し、リードフレーム搭載時に分離した複数個のインダクタ導体層チップを整列させるという工程(以下、この工程を整列工程と呼ぶ)を経ている。しかしながら、この整列工程では、複数個のインダクタ導体層チップをリードフレーム上に整列させるのに非常に時間がかかってしまう。さらに、個々のインダクタ導体層チップは小さい(例えば、1.5mm×1.0mm〜1.0mm×0.5mm)ので、取扱いが困難で、作業効率が悪くなってしまう。すなわち、この整列工程は全体の製造工程における製造時間の中で、非常に長い時間を占めるという欠点がある。
【0004】したがって、本発明の課題は、製造時間を短縮できる、薄膜チップインダクタの製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明による薄膜チップインダクタの製造方法は、絶縁基板の主面上に複数個のインダクタ導体層を所定間隔で薄膜技術により形成し、絶縁基板の裏面にダミー基板を張り付けた状態で、複数個のインダクタ導体層の端面の電極となる絶縁基板部分にスリット加工を施し、このスリット加工を施した部分にメッキ層を形成し、複数個のインダクタ導体層が個々のインダクタ導体層に分離されるように、絶縁基板を切断して、複数個のチップインダクタを得、リフトオフ法によって各チップインダクタのメッキ層から不要部分を取り除いて下地電極を形成し、各チップインダクタの下地電極上に上地電極を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0006】
【実施例】次に、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0007】図1および図2を参照して、本発明の一実施例による薄膜チップインダクタの製造方法について説明する。本実施例では、1つの基板上で一度に10個の薄膜チップインダクタを製造する場合について説明する。
【0008】図1(a)に示すように、まず、矩形の絶縁基板1を用意する。絶縁基板1としては、シリコン基板、セラミック基板、Al2 3 基板を使用できる。絶縁基板1は主面1aとこの主面1aに対向する裏面1bとをもつ。
【0009】図1(b)に示すように、絶縁基板1の主面1a上に蒸着により第1の金属蒸着膜2を形成する。本実施例では、第1の金属蒸着膜2の金属材料としてアルミニウム(Al)を使用している。
【0010】図1(c)に示すように、第1の金属蒸着膜2をホトエッチングすることにより、奥行き方向に延在する3枚の第1の電極形成用パット3と、10個のスパイラルパターン4(図面で2個のみを図示する)を形成する。10個のスパイラルパターン4はそれぞれ10個の薄膜チップインダクタを構成する。詳細に述べると、3枚の第1の電極形成用パット3は、図面の左側、中央部、および右側にそれぞれ配置されている。一方、10個のスパイラルパターン4は、左側および右側にそれぞれ5個づつ配置されている。左側の5個のスパイラルパターン4は左側の第1の電極形成用パット3と中央部の第1の電極形成用パット3との間に配置されている。左側の5個のスパイラルパターン4は中央部の第1の電極形成用パット3に接続されているが、左側の第1の電極形成用パット3には接続されていない。右側の5個のスパイラルパターン4は右側の第1の電極形成用パット3と中央部の第1の電極形成用パット3との間に配置されている。右側の5個のスパイラルパターン4は右側の第1の電極形成用パット3に接続されているが、中央部の第1の電極形成用パット3には接続されていない。
【0011】図1(d)に示すように、10個のスパイラルパターン4上および3枚の第1の電極形成用パット3上に第1の絶縁膜5を形成する。本実施例では、第1の絶縁膜5としてスパッタSiO2 膜を使用しているが、他の絶縁膜を使用しても良い。
【0012】図1(e)に示すように、第1の絶縁膜5をホトエッチングして、10個のスパイラルパターン4をそれぞれ覆うように、10枚の島状の絶縁層6を形成する。このとき、10枚の絶縁層6の各々の中心部には、スパイラルパターン4に達するコンタクト孔6aが形成される。
【0013】図1(f)に示すように、蒸着により、10枚の絶縁層6上及び3枚の第1の電極形成用パット3上に第2の金属蒸着膜7を形成する。このとき、コンタクト孔6aは第2の金属蒸着膜7で埋められる。本実施例では、この第2の金属蒸着膜7の金属材料として第1の金属蒸着膜2と同様にアルミニウム(Al)を使用している。
【0014】図1(g)に示すように、第2の金属蒸着膜7をホトエッチングすることにより、10本の内部電極取り出し用パターン8(図面では2本のみ図示する)と3枚の第2の電極形成用パット9とを形成する。詳細に説明すると、3枚の第2の電極形成用パット9は、図面の左側、中央部、および右側に配置され、それぞれ、3枚の第1の電極形成用パット3上に形成されている。10本の内部電極取り出し用パターン8は、それぞれ、コンタクト孔6aを介して10個のスパイラルパターン4に接続された状態で、10枚の絶縁層6上に形成されている。左側の5枚の絶縁層6上に形成された5本の内部電極取り出し用パターン8は左側の第2の電極形成用パット9に接続されている。右側の5枚の絶縁層6上に形成された5本の内部電極取り出し用パターン8は中央部の第2の電極形成用パット9に接続されている。
【0015】図1(h)に示すように、スパッタリングにより、3枚の第2の電極形成用パット9上と、10本の内部電極取り出し用パターン8が形成された10枚の絶縁層6上とに第2の絶縁膜10を形成する。本実施例では、第2の絶縁膜10として第1の絶縁膜5と同様にSiO2 膜を使用しているが、他の絶縁膜を使用しても良い。
【0016】図1(i)に示すように、第2の絶縁膜10をホトエッチングして、10本の内部電極取り出し用パターンが形成された10枚の絶縁層6をそれぞれ覆うように、10枚の表面保護膜11を形成する。
【0017】図1(j)に示すように、スパッタリングおよびホトエッチングにより、10枚の表面保護膜11上、第2の電極形成用パット9、及び絶縁基板1の裏面1b上に奥行き方向に延在する8枚のレジスト膜パターン12を形成する。詳細に説明すると、絶縁基板1の主面1a側において、4枚のレジスト膜パターン12が、それぞれ、主面左側端部、左側の5枚の表面保護膜11の部分、右側の5枚の表面保護膜11の部分、および主面右側端部を覆っている。一方、絶縁基板1の裏面1bにおいて、4枚のレジスト膜パターン12が、それぞれ、主面左側端部と対向する裏面左側端部、左側の5枚の表面保護膜11の部分と対向する箇所、右側の5枚の表面保護膜11の部分と対向する箇所、および主面右側端部と対向する裏面左側端部を覆っている。このように、絶縁基板1上には、8枚のレジスト膜パターン12によって、4つの領域、すなわち、左側端部領域、左側の5個のインダクタ素子を含む領域、右側の5個のインダクタ素子を含む領域、および右側端部領域が分割して形成される。
【0018】図2(k)に移って、絶縁基板1の裏面1b側に形成された4枚のレジスト膜パターン12にダミー基板13を張り付ける。このとき、4枚のレジスト膜パターン12が形成されていない部分に、絶縁基板1とダミー基板13とが互いに離間した3本の中空部分12aが形成される。3本の中空部分12aは、図2(k)に示されるように、それぞれ、左側、中央部、および右側に形成される。左側の中空部分12aは、左側端部領域と左側の5個のインダクタ素子を含む領域との間に形成されている。中央部の中空部分12aは、左側の5個のインダクタ素子を含む領域と右側の5個のインダクタ素子を含む領域との間に形成されている。右側の中空部分12aは、右側の5個のインダクタ素子を含む領域と右側端部領域との間に形成されている。尚、ダミー基板13のサイズは絶縁基板1より若干大きい。
【0019】図2(l)に加えて図3をも参照して、上述のようにして作成された10個のインダクタ素子を含む絶縁基板1を、図2(l)において奥行き方向(図3のB−B´線)に沿って左側、中央部、および右側の3箇所で、幅dでフルカットすることにより、3本のスリット(ダイシング溝)14を形成する。詳細に説明すると、左側のスリット14は左側の中空部分12aを通ってその下部のダミー基板13の表面部分を削り、左側端部領域と左側の5個のインダクタ素子を含む領域とを機械的(物理的)に分離する。中央部のスリット14は中央部の中空部分12aを通ってその下部のダミー基板13の表面部分を削り、左側の5個のインダクタ素子を含む領域と右側の5個のインダクタ素子を含む領域とを機械的(物理的)に分離する。右側のスリット14は右側の中空部分12aを通ってその下部のダミー基板13の表面部分を削り、右側の5個のインダクタ素子を含む領域と右側端部領域とを機械的(物理的)に分離する。
【0020】図2(m)に示すように、4つの領域に分離された絶縁基板1に、無電解メッキにより銅メッキ層15を形成する。
【0021】図2(n)に加えて図4をも参照して、左側の5個のインダクタ素子を含む領域および右側の5個のインダクタ素子を含む領域を、個々のインダクタ素子領域に機械的(物理的)に分離するように、図4のC−C´線に沿って絶縁基板1を幅eでフルカットする。これにより、6本のダイシング溝20が形成される。その後、図2(n)に示されるように、ダミー基板13を剥がして、10個のインダクタチップ19(但し、図2(n)では2個のインダクタチップ19のみ図示する)を得る。
【0022】図2(o)に示すように、各インダクタチップ19からレジスト膜パターン12をリフトオフすることにより、銅メッキ層15の不要部分を取り除く。これにより残った銅メッキ層15が外部電極形成用下地電極層16として各インダクタチップ19に形成される。すなわち、外部電極形成用下地電極層16はインダクタチップ19の両端部に断面コ字型に2つ形成される。換言すれば、各外部電極形成用下地電極層16は、第2の電極形成用パット9を覆う上端部と、絶縁基板1の側壁および電極形成用パット3と第2の電極形成用パット9の端とを覆う中間部と、絶縁基板1の裏面1bの端部を覆う下端部とから成る。
【0023】図2(p)に示すように、各インダクタチップ19の外部電極形成用下地電極層16上にバレルメッキ(電界)により銅メッキ層17を形成する。銅メッキ層17も外部電極形成用下地電極層16と同様に断面コ字型をしており、外部電極形成用下地電極層16の上端部、中間部、および下端部をそれぞれ覆う上端部、中間部、および下端部から成る。銅メッキ層17は外部電極形成用上地電極層として働く。
【0024】図2(q)に示すように、銅メッキ層17上にバレルメッキ(電界)により半田メッキ18を施す。この半田メッキ層18は薄膜チップインダクダの電極として使用される。
【0025】図5に上述のようにして製造された薄膜チップインダクタ22の外形を示す。図5において、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。また、図6に絶縁層6および表面保護層11を除いた状態の薄膜チップインダクタ22のスパイラルパターン21を示す。図6において、(a)は平面図、(b)は正面断面図、(c)は右側面図である。スパイラルパターン21はスパイラルパターン4と内部電極取り出し用パターン8とから成る。
【0026】本発明は上述した実施例に限定せず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。たとえば、スパイラルパターンに使用する導体材料としては、Alの他に銅などの他の金属を使用しても良い。また、スパイラルパターンを形成する方法としては、蒸着の他にスパッタリングを使用しても良い。さらに、外部電極形成は、厚みが充分であれば1回のメッキでも良い。また、外部電極を構成する材料としては、必要に応じて銅の他に、クロム、金、ニッケル等を使用しても良い。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、絶縁基板上にインダクタ導体層を薄膜技術により形成し、このインダクタ導体の端面の電極となる部分にスリット加工を施し、スリット部にメッキ層を形成し、このあとチップ状に切断し、リフトオフ法によって下地電極を形成し、上地電極を形成しているので、従来のような整列工程を省くことができ、製造時間を短縮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による薄膜チップインダクタの製造工程の前半部を示す断面図である。
【図2】図1に引き続く、薄膜チップインダクタの製造工程の後半部を示す断面図である。
【図3】絶縁基板を左右それぞれ5個のインダクタ素子を含む領域に分離するように切断する方法を示す断面図および平面図である。
【図4】絶縁基板を個々のインダクタ素子領域に分離するように切断する方法を示す平面図である。
【図5】本発明の製造方法によって製造された薄膜チップインダクタの外形を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図6】絶縁層および表面保護層を除いた場合の、薄膜チップインダクタのスパイラルパターンを示す図で、(a)は平面図、(b)は正面断面図、(c)は右側面図である。
【符号の説明】
1 絶縁基板
2 金属蒸着膜
3 電極形成用パット
4 スパイラルパターン
5 絶縁膜(SiO2 膜)
6 絶縁層
7 金属蒸着膜
8 内部電極取り出し用パターン
9 電極形成用パット
10 絶縁膜(SiO2 膜)
11 表面保護膜
12 レジスト膜パターン
13 ダミー基板
14 ダイシング溝(スリット)
15 銅メッキ層
16 外部電極形成用下地電極層
17 銅メッキ層(上地電極層)
18 半田メッキ層
19 インダクタチップ
20 ダイシング溝
21 スパイラルパターン
22 薄膜チップインダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 絶縁基板の主面上に複数個のインダクタ導体層を所定間隔で薄膜技術により形成し、前記絶縁基板の裏面にダミー基板を張り付けた状態で、前記複数個のインダクタ導体層の端面の電極となる前記絶縁基板部分にスリット加工を施し、該スリット加工を施した部分にメッキ層を形成し、前記複数個のインダクタ導体層が個々のインダクタ導体層に分離されるように、前記絶縁基板を切断して、複数個のチップインダクタを得、リフトオフ法によって各チップインダクタの前記メッキ層から不要部分を取り除いて下地電極を形成し、各チップインダクタの前記下地電極上に上地電極を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項2】 さらに、各チップインダクタの前記上地電極上に薄膜チップインダクタの電極を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項3】 前記絶縁基板がシリコン基板である、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項4】 前記絶縁基板がセラミック基板である、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項5】 前記絶縁基板がAl2 3 基板である、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項6】 前記インダクタ導体層がスパイラルの形状をしている、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項7】 前記メッキ層が無電界メッキにより形成されている、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。
【請求項8】 前記上地電極が電界メッキにより形成されている、請求項1記載の薄膜チップインダクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開平7−283060
【公開日】平成7年(1995)10月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−72113
【出願日】平成6年(1994)4月11日
【出願人】(000134257)株式会社トーキン (1,832)