説明

薄膜光電変換素子およびその製造方法

【課題】 薄膜光電変換素子のホットスポットを生じにくくする。
【解決手段】 本発明のある実施形態においては、複数の単位セル100が一片の基板8の上に形成されて互いに直列接続されている薄膜光電変換素子1000が提供される。各単位セル100は、第1電極10と光電変換層20と第2電極を有している。第1電極10は、基板の一方の面の上に形成され、各単位セルの発電領域6の範囲において、第1電極層の少なくとも一部を除去して形成された凹部を2以上有している。光電変換層20は、第1電極の面の上に形成されている。第2電極30は光電変換層の面の上に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜光電変換素子およびその製造方法に関する。さらに詳細には本発明は、ホットスポット現象を回避しうる薄膜光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムの開発が近年進められている。そこで利用される光電変換素子には、出力電圧を高めることなどを目的として複数の単位セルが直列接続されているものがある。直列接続された単位セルを備える光電変換素子においては、例えば人工物や樹木などによる陰や汚損等のために、部分的に遮光され、一部の単位セルに光が入射しないまま他の単位セルが発電を継続する動作(本出願において「部分遮光発電動作」という)が生じうる。部分遮光発電動作が生じると、遮光された単位セルが発熱し、局所的に基板や封止材、あるいは保護フィルムなどがダメージを受けるいわゆるホットスポット現象が生じることが知られている。これは、遮光された一部の単位セルの起電力が低下したり0となったりしている状況で、その単位セルに他の単位セルからの発電電流が流れるために、遮光された単位セルがジュール熱により発熱することに起因している。その熱は、遮光されている単位セルのうちの狭い領域において生じるため、ホットスポットと呼ぶ局所的な発熱箇所を出現させることがある。ホットスポットにおける発熱は、極端な場合、封止材や保護フィルムに気泡や穿孔を生じることがある。こうして、ホットスポット現象のために、光電変換素子の封止や保護の機能が失われることもある。
【0003】
ホットスポット現象を回避する手法として、バイパスダイオードを各単位セルに並列接続する手法が知られている(例えば特許文献1、特開2003−37280号公報)。別の回避手法として、各単位セルの面積を縮小することにより単位セルを流れる電流を小さくする手法も知られている(例えば特許文献2、特開2001−68713号公報)。前者は主に結晶系太陽電池に適用され、後者は主に薄膜系の太陽電池に適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−37280号公報
【特許文献2】特開2001−68713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、バイパスダイオードを並列接続する特許文献1の手法においては単位セルに対応させ適切な特性のダイオードを形成する必要がある。このため、構造が複雑となり、薄膜光電変換素子には採用しがたい。また単位セルの面積を縮小し電流を低下させる特許文献2の手法では、薄膜光電変換素子全体のうち、単位セル同士を離間させて区切る分離部を多数設ける必要がある。その結果、無効領域すなわち発電に寄与しない領域が増加し、光電変換素子の実質的な光の利用効率が低下してしまう。
【0006】
本発明は上記問題点の少なくともいずれかを解決するためになされたものである。本発明は、薄膜光電変換素子において、バイパスダイオードの適用によるコスト上昇や、無効領域の増大による実質的な光の利用効率の低下といった課題をほとんど伴うことなくホットスポット現象を抑制することを可能とする。これにより、本発明は光電変換素子システムの長期動作の信頼性を高めることに貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対し、本願の発明者は、薄膜光電変換素子のホットスポットにおいて生じている状況を詳細に観察した。特に、光電変換を行なう半導体層より先に形成されている電極が特定の形状をとる位置でホットスポットが生じる傾向がある、という観察事実に本願の発明者は注目した。すなわち、単位セルが直列接続される構成の薄膜光電変換素子におけるホットスポットの典型的な位置は、基板の面の上に同一の層として一旦形成された電極層を分離する分離ライン付近であることに気づいた。
【0008】
この点に着目し、本願の発明者は、ホットスポットにつながりかねない電流の局所的な集中の程度は制御可能であると予測した。その制御のためには、分離ライン付近における基板上の電極の形状と類似した表面形状を、その電極の発電領域内に意図的に形成することが有用と考えた。そして、そのような制御が実際に可能であることを確認し、本願の発明を創出するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のある態様においては、個別化され互いに直列接続される複数の単位セルが一片の基板の上に形成されている薄膜光電変換素子であって、各単位セルは、該基板の一方の面の上に形成され、各単位セルの発電領域の範囲において、それ自体をなす第1電極層の少なくとも一部を除去して形成された凹部を2以上有している第1電極と、該第1電極の面の上に形成された光電変換層と、該光電変換層の面の上に形成された第2電極とを備えるものである薄膜光電変換素子が提供される。
【0010】
また、本発明は、薄膜光電変換素子の製造方法としても実施される。すなわち、本発明のある態様においては、互いに直列接続される複数の単位セルが一片の基板の上に形成されている薄膜光電変換素子の製造方法であって、前記基板の一方の面の上に第1電極層を形成する第1電極層成膜工程と、各単位セルの個別化のために該第1電極層を分離するとともに、各単位セルの発電領域の範囲に互いに離された凹部を2以上有するように前記第1電極層の少なくとも一部を除去して第1電極を形成する第1電極パターニング工程と、該第1電極の面の上に光電変換層を形成する工程と、該光電変換層の面の上に第2電極層を形成する第2電極層成膜工程と、各単位セルの個別化のために該第2電極層を分離することにより第2電極を形成する第2電極パターニング工程とを含む薄膜光電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のいずれかの態様においては、部分遮光発電動作を行なってもホットスポット現象が生じにくく、耐久性が高められた薄膜光電変換素子が作製される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のある実施形態における薄膜光電変換素子の構造を示す概略断面図である。図1(a)は凹部として電極膜を除去した領域を形成した光電変換素子、そして、図1(b)は、凹部として電極膜を一部のみ除去した光電変換素子を示す。
【図2】本発明のある実施形態における薄膜光電変換素子の特性を、従来の薄膜光電変換素子の特性と対比して示すグラフである。図2(a)は従来の薄膜光電変換素子をダイオードとして動作させた場合の電圧電流特性であり、光電変換素子として動作させた場合の発電特性も併記している。図2(b)は、本発明の実施形態の薄膜光電変換素子特性を、ホットスポット現象の前後で示す電圧電流特性である。
【図3】本発明のある実施形態におけるSCAF構造の薄膜光電変換素子の構造を受光面から示す平面図である。
【図4】本発明のある実施形態におけるSCAF構造の薄膜光電変換素子の構造を示す概略断面図である。
【図5】本発明のある実施形態におけるモノリシック構造の薄膜光電変換素子の構造を示す概略斜視図である。
【図6】本発明のある実施形態における薄膜光電変換素子の典型的な構造を示す概略断面図である。図6(a)は、シリコン系のサブストレートタイプ、図6(b)は、シリコン系のスーパーストレートタイプ、そして、図6(c)は、CIGS系の光電変換素子の断面構造を示す。
【図7】本発明のある実施形態における薄膜光電変換素子の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光電変換素子およびその製造方法の実施形態を図面に基づき説明する。当該説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0014】
<第1実施形態>
[1 原理]
[1−1 ホットスポット現象の原理]
まず、複数の単位セルが直列接続されている光電変換素子において、部分遮光発電動作の際に生じうるホットスポット現象について本願発明者の得た知見について説明する。複数の単位セルが直列接続されている光電変換素子において、遮光された一部の単位セルは、pn接合などの構造からダイオードとみなすことができる。そして遮光された単位セルに対し他の単位セルから加えられる電流は、遮光された単位セルにとってはダイオードとしての逆方向電流となる。その逆方向電流は、条件によっては、光電変換素子の動作電流程度の電流となる。遮光された単位セルにおいて生じるジュール熱は、その電流を阻止しようとする電圧差とその電流の積により決まる。このジュール熱は、遮光された単位セルのうち電流の集中する低抵抗部分において生成され、その低抵抗部分がホットスポットとなる。極端な条件として、逆方向電流により単位セルに生じる電圧が逆方向耐電圧を越える場合には、遮光された一部の単位セルでは絶縁破壊や電圧降伏が生じることもある。その場合、低抵抗部分の抵抗値がさらに不可逆に低下し、甚だしくは短絡となる。この場合にも、電流が集中する低抵抗部分がホットスポットとなる。
【0015】
このような現象に関連する試験法については、薄膜型光電変換素子を対象にして、例えばJIS C8991(対応規格IEC 61646)「地上設置の薄膜太陽電池(PV)モジュール−設計適格性確認試験及び形式認証のための要求事項」における10.9「ホットスポット耐久試験」において試験規格が定められている。また、規格の一部となっていないものの、JIS C 8938「アモルファス太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久性試験方法」における参考1として類似の試験法が解説されている。
【0016】
[1−2 対処法の概要]
本実施形態においては、上記のような部分遮光発電動作において、電流が集中しやすい箇所を意図的に形成することにより、問題を引き起こしかねないホットスポットの発生を抑制する。そのために本願の発明者が採用する具体的構成は、端的には、基板に形成された電極(第1電極)において互いに離して2以上設ける凹部である。このような凹部においては、各凹部近傍の第1電極と、その付近において光電変換層を挟んでいる第2電極との間に導通経路(リークパス)が形成される。この現象は、単位セルを直列接続した従来の構成の薄膜光電変換素子においてホットスポットの典型的な位置が基板の面において電極層を分離する分離ライン付近であることに着想を得て見出したものである。しかも、このような凹部であれば、2以上互いに離して設ける、といった配置を制御したり、その数を調整したりすることが容易である。そして、部分遮光発電動作の際に、他の単位セルからの電流をこれら複数の凹部に分配することが可能となる。なお、これらの凹部は通常の動作状態においてもリークパスとなるため、光電変換効率がわずかに低下する。しかし、その程度は十分に小さいため、凹部を設けること自体は通常の発電動作にとって障害とならない。
【0017】
図1を参照し本発明のある実施形態の光電変換素子の例を説明する。本発明の実施形態は、薄膜光電変換素子1000として実施される。図示する薄膜光電変換素子1000は、本実施形態の主要部分を抽出して明示するものである。すなわち、薄膜光電変換素子1000は、一片の基板8の上に形成され互いに直列接続される複数の単位セル100を含んでいる。複数の単位セル100は個別化されており、それぞれが独立した発電動作を行なう。各単位セル100は第1電極10と光電変換層20と第2電極30とを備えている。このうち第1電極10は、例えば基板8の一方の面、つまり図1の紙面において上方の面8Aに上に形成された電極層(第1電極層)を分離して形成されている。この分離のためには、第1電極層に例えば分離ライン(図示しない)が形成される。また、光電変換層20は第1電極10の面の上に形成されている。そして、第2電極30は、例えば光電変換層20の面の上に形成された第1電極層とは別の電極層(第2電極層)を分離して形成されている。第1電極10や第2電極30が各電極層において互いに分離されるのは、単位セル100それぞれを独立した光電変換素子として動作させてこれらの直列接続を実現するためである。
【0018】
本実施形態の薄膜光電変換素子1000においては、第1電極10それぞれは、各単位セル100の発電領域6の範囲において、第1電極層それ自体の少なくとも一部を除去した凹部12を2以上有している。なお、図1(a)は凹部12を通る面にて切断した場合の概略断面図としている。このため、単位セル100それぞれにおける第1電極10は、凹部12が形成されていても、単位セル100それぞれの範囲では連続している。このような凹部12は、例えば、第1電極10となる電極層を形成した後に、光電変換層20を形成するまでのいずれかのタイミングで、例えばレーザーを照射してその電極層の少なくとも一部を除去する等の処理を行なうことにより形成する。
【0019】
基板8の上に作製された複数の単位セル100は互いに直列に接続されている。この直列接続を実現するための電気的配線の具体的な構成は、本実施形態においては特に限定されない。図1(a)では、回路図に利用される配線記号によりこの電気的配線50を示している。なお、電気的配線50は、それが存在しなければ、図において左右に明示されている隣り合った単位セル100同士が電気的に絶縁されていなものとなるような任意の電気的構成を指している。実施される薄膜光電変換素子における電気的配線50は、例えば、図1(a)において左側の単位セル100の第2電極30と右側の単位セル100の第1電極10とを電気的に接続することにより実現される。この電気的接続は、各単位セル100の第1電極10と第2電極30とを、互いに直接接触しているように形成したり、または、他の配線を通して電気的に接触するものとなるように形成することにより実現される。
【0020】
本実施形態における薄膜光電変換素子の別の典型例は、薄膜光電変換素子1000の凹部12とは異なる構成の凹部14を採用する薄膜光電変換素子1100(図1(b))である。薄膜光電変換素子1100は、単位セル110の凹部14以外は薄膜光電変換素子1000と同様の構造に作製される。凹部14は、第1電極10の厚みをなす第1電極層の一部のみを除去して形成されている。このような凹部14もレーザーによるパターニングといった任意の手法により形成することが可能である。例えば単一層として形成されている第1電極10の一部のみを除去すること、または、2層以上の積層体として形成されている第1電極10のうちの一部を、基板8側の少なくとも1層を残して除去することにより、凹部14を形成ずることができる。薄膜光電変換素子1100においても、電気的配線50を採用し、単位セル110を直列接続する構造に作製する。凹部14を有する薄膜光電変換素子1100は、凹部12を採用する薄膜光電変換素子1000にくらべ発電面積が減少しない利点がある。なお、以下の説明においては、主として薄膜光電変換素子1000の各要素を参照して本実施形態を説明するものの、そのことは、以下の説明において薄膜光電変換素子1100を排除することを意味しない。
【0021】
[1−3 凹部による動作原理の詳細]
本実施形態において凹部12に関連して生じる現象をより具体的に説明する。図2は、薄膜光電変換素子の特性を、従来の薄膜光電変換素子の特性と対比して示すグラフである。図2(a)は従来の薄膜光電変換素子をダイオードとして動作させた場合の電圧電流特性であり、光電変換素子として動作させた場合の発電特性も併記している。図2(b)は、本発明の実施形態の薄膜光電変換素子特性を、部分遮光発電動作の前後で示す電圧電流特性である。
【0022】
[1−3−1 単位セルの特性:従来の構造]
部分遮光発電動作の際には、特定の単位セルが遮光されて発電動作が停止し、他の単位セルが発電動作を継続する。その際、遮光された単位セルには最大で動作電流に等しい逆方向の電流が流れる。その電流が低抵抗の位置に集中するとホットスポットとなる。本実施形態のような凹部を設けない場合には、その電流集中が生じる位置は、例えば分離ラインの近傍となる確率が高いものの、特段制御されない。その際に起きている現象は、図2(a)の整流素子の特性により説明することができる。つまり、従来の薄膜光電変換素子の単位セルの電圧電流特性を測定すると、光を当てない単位セルはpn接合由来の整流特性を示す二端子素子(ダイオード)として動作する。それは、曲線C1に示すように、電圧軸の右方向として示す順方向においてある閾値電圧を超えると電流が流れ始めるものの、逆方向には順方向の閾値電圧程度の電圧では電流が殆ど流れないというものである。しかし、遮光された単位セルにおいては、逆方向電圧の絶対値がある値を超すと急激に電流が増加する。電圧降伏または絶縁破壊が生じるためである。この現象が遮光された単位セルにおいて生じると、その電圧降伏または絶縁破壊が生じた位置がホットスポットとなる。
【0023】
なお、ホットスポット現象が生じる前に光を当てて発電動作させると、単位セルでは、図2(a)の曲線C1Aの特性が得られる。この曲線は、順方向の整流動作を始める閾値付近の第1象限の曲線を、電流軸の負の向き(図の下向き)に短絡電流ISC分だけシフトしたものである。実際の単位セルにおいては、順方向の閾値電圧は約1.5V程度であり、光を照射した場合の開放電圧は約2.0V程度となる。これに対し、逆方向の電圧降伏が生じる電圧は、例えば6〜8V程度の範囲となる。
【0024】
[1−3−2 単位セルの特性:凹部を形成した構成]
図2(b)は、本実施形態の薄膜光電変換素子1000の単位セル100の電圧電流特性を示す特性図である。曲線C2は、部分遮光発電動作の前における単位セル100の電圧電流特性であり、図2(A)の曲線C1と実質的に同一の曲線である。凹部12を有する単位セル100においては、少なくともいくつかの凹部12において電流のリークが生じやすくなる。このような薄膜光電変換素子1000が部分遮光発電動作となると、複数の凹部12における各リークパスに電流が分配される。つまり、2以上の凹部12に電流が分配されるため、電流集中による昇温を抑制することができる。
【0025】
単位セル100に光を照射した場合の特性は、部分遮光発電動作の前は曲線C2Aのようなものであり、部分遮光発電動作の結果リークパスが形成されると、遮光された単位セルでは遮光時の特性は、遮光されているときには曲線C3、一旦遮光されてその後受光しているときには曲線C3Aのような特性になる。この場合も遮光されず発電動作している単位セル100では、受光していないときは曲線C2、受光しているときは曲線C2Aの動作をしている。部分遮光発電動作が一旦生じると、条件によっては、遮光された単位セル100の電圧電流特性は曲線C2から曲線C3のように変化するばかりか、その変化は不可逆なものとなる。この際、同じ電流に対して、リークパスが形成される前における逆方向電圧の電圧差は、図2(a)に示していた絶縁破壊や電圧降伏を引き起こすような電圧差よりも小さい電圧差ΔV3に留まる。このため、部分遮光発電動作の際またはその後にリークパスが形成された単位セル100において生成されるジュール熱の総量も減少する。なお、曲線C3の特性を説明しうる等価回路は、整流特性によるダイオードに、抵抗素子を並列に接続したものである。この抵抗素子は凹部によるリークパスに相当する。そしてその抵抗成分は、複数の凹部12のうち実際に電流の分配先となる複数のリークパスの抵抗値を並列した合成抵抗の値となる。
【0026】
本願の発明者は、部分遮光発電動作でリークパスが一旦形成されると、その後、遮光された単位セル100は起電力を低下させたまま動作を継続することになると考えている。つまり部分遮光発電動作によりいくつかの凹部12においてリークパスが形成されると、形成されたリークパスに部分遮光発電動作における電流が分配されるためにホットスポットの形成は回避されるものの、その後の特性が曲線C2のものから曲線C3となるような変化は避けがたい。ただし、その特性への影響は、封止材や保護フィルムに気泡が生じたり外界と連通して封止や保護の機能を失うホットスポット現象に比べれば遙かに穏やかな影響に過ぎない。これが本実施形態の薄膜光電変換素子1000において凹部12により実現される機能である。
【0027】
[1−3−3 凹部の設計の指針]
上述したように、部分遮光発電動作が生じる前には、凹部の形成によりわずかな光電変換効率の低下が生じる。また、部分遮光発電動作が生じた後には、凹部のいくつかは不可逆な変化を伴ってリークパスを形成し特性に影響が現われる。このため、凹部としてどのような形状を形成し、凹部をどのように配置するかは、具体的な電気的な特性に応じて決定される。一般に、凹部一つひとつの周部の長さを長くすればその凹部のリーク時の抵抗値が低減する。ただし、一つの凹部の周の長さを増大させ過ぎると、部分遮光発電動作においてその凹部における発熱が過大となってホットスポットとなりかねない。また、凹部の数は、同一の形状の場合には、数が多いほどリークパスが多くなり一つの単位セルにおける抵抗が減少する。ただし、凹部を例えば図2(a)の凹部12のように第1電極層を完全に除去するものとした場合、凹部を増やすとその面積分だけ発電に寄与しない無効領域が増加する。したがって、本実施形態の凹部12の個別の形状や数は、これらの要因を勘案して決定する。
【0028】
より具体的には、本願の発明者による検討によれば、各凹部12に電流が分配されると、ジュール熱による発熱が封止材(図1には図示しない)や基板8に悪影響を受けない程度の到達温度に抑制することが可能である。具体的には、ホットスポット試験の際の到達温度を、基板材質や封止材が耐えうる目安となる温度よりも低くするように凹部の数や配置を調整する。したがって、実際の到達温度は採用する基板8や封止材の材質に依存するものの、例えば、基板8や封止材が融解したり軟化しない温度、一例としては150℃以下とする。ホットスポット試験の結果この温度を超える部分が現われるようであれば、凹部12の数をより多くするように設計変更される。そして、ホットスポット試験を行なう前において、単位セルに含める凹部の形状や数を決定する基準となり得るのがリーク電流である。例えば、凹部12の形状、数は、凹部12を形成しない従来の薄膜光電変換素子の場合からみたリーク電流の増分が、単位セルの動作点において動作電流の0.1〜2%の範囲となるように決定される。
【0029】
さらに、凹部12の配置は、発電領域6の範囲において互いの間を離して配置される。この配置は、一定のピッチの2次元的または1次元的な配置とすることができる。すなわち、本実施形態の典型的な薄膜光電変換素子においては、発電の単位となる単位セル100の第1電極10の発電領域6の範囲において、凹部12が分散して配置されている。この分散は、2次元的な広がりをもつ第1電極10の範囲6において、凹部12同士を空間的に離間させることにより、複数のリークパスをより広い範囲に分散配置する効果を有する。こうして、多量のジュール熱が狭い範囲で生成されにくくなる。
【0030】
このように、本実施形態においては、あらかじめ形成した2以上の凹部12に電流を制御して分配することが可能となる。このことにより、薄膜光電変換素子1000においては、その後の健全性に影響を与える事態、例えば基板8や熱可塑性樹脂である封止材や保護フィルム(いずれも図示しない)に対するダメージを低減することが可能となる。
【0031】
[1−4 光電変換層]
本実施形態における薄膜光電変換素子に採用する光電変換層の材質には特段の制限は無い。すなわち、単位セルの光電変換層として採用される材質には、薄膜光電変換素子の光電変換層として選択される任意の材料を選択することができる。非限定的な例を挙げれば、アモルファスシリコン、アモルファスシリコンゲルマニウム、微結晶シリコンや、これらに炭素や酸素、窒素、リン、ホウ素等をドープした合金やそのドープ層とすることもできる。また、カルコパイライト系とも呼ばれるCISまたはCIGS光電変換素子を採用することもできる。
【0032】
[2 具体的構成例]
[2−1 SCAF構造]
図3は、第1実施形態に関わる薄膜光電変換素子2000の構成を示す平面図である。また、図4は、薄膜光電変換素子2000の構成を示す概略断面図であり、図3に示す切断位置における断面構造を示している。これらの図に示される薄膜光電変換素子2000は、SCAF(Series-Connection through Apertures formed on Film)と呼ぶ構造に作製されている。薄膜光電変換素子2000は、基板208、第1電極210、光電変換層220、および第2電極230を備えている。第1電極210は、基板208の一方の面208Aにおいて第1電極層を分離して形成されている。また、光電変換層220は第1電極210の面の上に形成されており、第2電極230は、光電変換層220の面の上に形成された第2電極層を分離して形成されている。第2電極230をなす第2電極層は、薄膜光電変換素子2000において透明導電体の層である。
【0033】
薄膜光電変換素子2000の具体的な構成例において、基板208は例えば絶縁性の可撓性基板とされる。この基板208は、フィルム材料、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミドまたはポリエチレンナフタレート、あるいはアルミド等から形成されている。また、基板208の両面をなす面208Aおよび面208Bには、それぞれ、第1電極層として、Ag/ZnO等の金属および導電体を形成する。このため、基板208の一方の面208A上の第1電極210は、光電変換層220にとって裏面電極として機能する。
【0034】
基板208の他方の面208Bの上には背面電極260が形成されている。この背面電極260は、単位セル200の直列接続を確立する配線として機能する。この背面電極260は、第1背面電極層262と第2背面電極層264の2層により構成されている。そして、背面電極260は、面208Bに形成された背面電極層を、個別化された単位セル200に対応させて分離することにより形成されている。そして、単位セル200における第1電極210には、発電領域206の範囲において、第1電極層の少なくとも一部を除去して形成された凹部212が2以上配置されている。
【0035】
つまり、図4に示すように、基板208の一方の面208A上に積層された層(第1電極210、光電変換層220、第2電極230)は、例えばレーザー加工による第1分離ライン280により複数に分離して、単位セル200を個別化しておく。基板208の他方の面208Bの面の上に形成された背面電極260(第1背面電極層262、第2背面電極層264)も同様に、レーザー加工による第2分離ライン290により複数に分割されている。ここで、第1分離ライン280と第2分離ライン290は、図3に示すように、基板208において互い違いに配置されている。この配置を利用して、一の単位セル200と他の単位セル200とは、背面電極260を通して直列接続を確立する。つまり、一の背面電極260が、基板208を貫通する第1貫通孔252を通して一の単位セル200の第1電極210に電気的に接続されている。背面電極260は、さらに、基板208を貫通する第2貫通孔254を通して他の単位セル200の第2電極230に電気的に接続されている。図3および4に示すように、第2電極230と第2背面電極層264とは、第1貫通孔252の側壁部252Aにおいて、また、第1電極210と第1背面電極層262とは、第2貫通孔254の側壁部254Aにおいて、互いに重なり合うような形で電気的に接続されている。
【0036】
この接続の電気的な経路をたどると、一の単位セル200の第1背面電極層262および第2背面電極層264から第1貫通孔252を通って、その単位セル200の発電領域206における第2電極230につながる。そして第2電極230、光電変換層220、第1電極210の発電領域206からの径路は、その第1電極210が第2貫通孔254を通して、上記一の単位セルに隣接する他の単位セル200の第1および第2の背面電極層262および264へと接続される。こうしてSCAF構造の薄膜光電変換素子2000においては複数の単位セルの直列接続が確立されている。
【0037】
[2−2 モノリシック構造]
本実施形態は別の構造の薄膜光電変換素子により実施することも可能である。図5は本実施形態の薄膜光電変換素子であるモノリシック構造の薄膜光電変換素子の構造を示す概略斜視図である。薄膜光電変換素子5000は個別化され互いに直列接続される複数の単位セル500を含んでいる。薄膜光電変換素子5000は、基板508と、第1電極510と、光電変換層520と、そして第2電極530とを備えている。第1電極510の面の上には光電変換層520を形成し、さらにその光電変換層520の面の上に第2電極530を形成しておく。第1電極510は、基板508の一方の面508Aに形成された第1電極層をラインパターンP1により分離して形成されている。同様に、第2電極530は、光電変換層520の面の上に形成された第2電極層を、ラインパターンP3により分離して形成されている。第1電極510は、各単位セルの発電領域506の範囲において、凹部512を2以上有している。この凹部512は、第1電極510となる第1電極層それ自体の少なくとも一部を除去して形成されている。
【0038】
ここで、薄膜光電変換素子5000の上述した構造においては、発電のための光が図5の上方から入射するサブストレートタイプと、逆に下方から入射するスーパーストレートタイプの二つのタイプの薄膜光電変換素子を作製することができる。サブストレートタイプとする場合には、第2電極530つまり第2電極層は、透光性を有する透明導電体により形成される。この場合、基板508の基板は樹脂やガラス基板を使用することができる。また、ステンレス鋼薄板や、アルミニウム基板といった金属基板の表面に絶縁性コーティングを施したものを使用することもできる。これに対し、スーパーストレートタイプとする場合には、第1電極510つまり第1電極層が透光性を有する透明導電体により作製され、基板508も、例えばガラスなどの透光性基板とされる。いずれにしても、基板508が剛体であるか可撓性であるかは特には限定されない。
【0039】
単位セル500の発電領域506における発電のための構成は、第1電極510、光電変換層520、そして第2電極530という積層構造である。また、単位セル500を互いに直列に接続するために、ラインパターンP2においては、光電変換層520を除去しておいて、一の単位セル500に属する第2電極530と他の単位セル500に属する光電変換層520とが互いに接触している。こうして、モノリシック構造の薄膜光電変換素子5000においては、個別化された複数の単位セル500による直列接続を確立しておく。
【0040】
[2−3 光電変換層・電極層]
[2−3−1 典型例]
上述したSCAF構造やモノリシック構造の薄膜光電変換素子2000および5000においては種々の光電変換層や電極層の材質や構成を採用することができる。図6は、本実施形態の薄膜光電変換素子における発電領域の典型的な層構成を示す部分断面図である。なお、図6においては、第1電極以外のハッチングの記載は省略している。
【0041】
図6(a)〜(c)は、それぞれ、サブストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子6000、スーパーストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子7000、そして、CIGS系薄膜光電変換素子の層構成を示す概略断面図である。いずれの図も紙面上の上方から発電のための光hνが入射する向きに描いている。シリコン系の薄膜光電変換素子であるサブストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子6000および7000において、光電変換層620および720は、例えば、アモルファスシリコン、アモルファスシリコンゲルマニウム、微結晶シリコンや、これらに炭素や酸素、窒素、リン、ホウ素等をドープした合金やそのドープ層とすることもできる。
【0042】
具体的には、図6(a)に示すサブストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子6000の発電領域は、基板608の一方の面608Aに、第1電極610、光電変換層620、第2電極630をこの順に備えている。第1電極610には、凹部612を形成する。また、光電変換層620は、導電型をn型としたn層622、真性半導体であるi層624、p型にされているp層626をこの順に積層する。そして、第2電極630を、例えばITO等の透明導電体により形成する。これに対し、図6(b)に示すスーパーストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子7000の発電領域は、透光性を有する基板708の一方の面708Aに、第1電極710、光電変換層720、第2電極730をこの順に備えている。第1電極710には凹部712を形成する。なお、第1電極710は、例えばITOやZnOといった透明導電体を採用することができる。光電変換層720は、導電型をp型にしたp層722、真性半導体であるi層724、n型にされているn層726をこの順に積層したものである。そして、第2電極730を形成する。この場合、スーパーストレートタイプであるため発電用の光は基板708を通って入射する。シリコン系の薄膜光電変換素子6000および7000のいずれにおいても、光電変換層620や720は、例えばモノシランガスに対して必要に応じてジボランガスやホスフィンガスなどのドーピングガスを混入し、例えば水素ガスなどを希釈ガスとしてプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの公知の成膜手法により形成される。なお、シリコン系の薄膜光電変換素子6000における第1電極610やシリコン系の薄膜光電変換素子7000の第2電極730は単層であっても、また、透明導電体膜732および金属層734のような多層構造とすることができる。
【0043】
図6(c)には、カルコパイライト系とも呼ばれるCISまたはCIGS薄膜を利用する薄膜光電変換素子8000の断面構造を示している。CIGS系の薄膜光電変換素子8000は、例えばソーダライムガラス基板やポリイミドフィルムなどの可撓性基板である基板808の面808Aの上に、例えばモリブデン(Mo)による第1電極810と、光電変換層820と、高抵抗ZnOである第2電極830とを基板808からこの順に形成し作製される。第2電極830は、例えばスパッタリング法により形成される。第1電極810には、凹部812を形成する。
【0044】
また、光電変換層820は、p型CIGS吸収層822と、バッファ層824とが第1電極810からこの順に形成される多層半導体層である。さらに、第2電極830は、バッファ層824の面の上に形成されている。薄膜光電変換素子8000には、第2電極830に接して、例えばアルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:AlまたはAZO)からなる低抵抗透明導電膜840も形成され、図示しない金属による集電極が低抵抗透明導電膜840に接し形成されている場合もある。
【0045】
光電変換層820には、低抵抗透明導電膜840および第2電極830を通して紙面上の上方に位置するバッファ層824の側から、発電のための太陽光hνが入射する。全体として、CIGS系の薄膜光電変換素子8000は、サブストレートタイプの薄膜光電変換素子として機能する。
【0046】
なお、p型CIGS吸収層822の組成は、Cu、In、Ga、およびSe(銅、インジウム、ガリウム、セレン)などの元素により、例えば、Cu(In1−xGa)Seと表現されるものである。ここで、p型CIGS吸収層822では、p型の導電型となるように、Cuと、(In+Ga)との間で組成を調整する。また、作製されるCIGS系の薄膜光電変換素子8000は、Gaの比率に比例し開放電圧(VOC)が増大する性質を示す。
【0047】
さらに、バッファ層824は、典型的には融解した状態の硫化カドミウム(CdS)を配置するchemical bath deposition法により形成されたCBD−CdSのバッファ層を採用することができる。また、バッファ層824は、別の組成として、ZnS、ZnO,ZnOHなど(以下「Zn(S,O,OH)系材料」という)や、ZnSe、ZnInSe、In、ZnMgO等を採用することができる。
【0048】
[2−3−2 各典型例における凹部]
上述した各典型例において、本実施形態において形成される凹部は、既に説明した凹部と同様に作成することが可能である。シリコン系の薄膜光電変換素子6000においては、第1電極610の少なくとも一部を除去して凹部612が形成される。特に、第1電極610が多層である場合には、凹部を第1電極610のいずれかの層のみを除去して形成することも可能である。同様にシリコン系の薄膜光電変換素子7000においては、第1電極710の少なくとも一部を除去することにより凹部712を形成する。そして薄膜光電変換素子8000においては、第1電極810の一部を除去して凹部812を形成する。
【0049】
[3 製造方法]
次に、本実施形態に係る薄膜光電変換素子の製造方法について図面を参照して説明する。
【0050】
[3−1 一般的な製造工程]
図7は、本実施形態の薄膜光電変換素子の製造方法であり、上述した薄膜光電変換素子1000、1100、2000、5000〜8000に共通する部分の製造方法を示すフローチャートである。ここでは、これらの異なる構成の薄膜光電変換素子の要素を説明するために、図1を参照して説明した薄膜光電変換素子1000を例に説明する。
【0051】
まず、基板8の一方の面8Aの上に、第1電極層を形成する(S102、第1電極層成膜工程)。そして、第1電極パターニング工程S104において、第1電極層を各単位セル100の個別化のために分離する。また、この第1電極パターニング工程S104においては、第1電極層の少なくとも一部を除去することにより、各単位セルの発電領域の範囲に凹部12を2以上形成する。
【0052】
その後、第1電極10の面の上に光電変換層20を形成する(S106、光電変換層形成工程)。そして、光電変換層20の面の上に第2電極層を形成する(S108、第2電極層成膜工程)。そしてこの第2電極層を、各単位セル100の個別化のために分離することにより第2電極を形成する(第2電極パターニング工程S110)。
【0053】
特に、第1電極パターニング工程(S104)では、成膜された第1電極層を除去することにより、第1分離ライン280(図4)やラインパターンP1(図5)など分離ラインを第1電極10に形成する(S104A、分離工程)。この分離ラインを形成することにより、第1電極10の周縁が確定される。分離工程S104Aの後、周縁が確定した第1電極10の面のうち各単位セルの発電領域6となる範囲において、第1電極10をなしている第1電極層の少なくとも一部を除去することにより凹部12を形成する(S104C、凹部形成工程)。ここで、第1電極パターニング工程(S104)では、分離ラインを形成するために除去された電極層の材質は、微細な残滓となって分離ラインの付近または第1電極10の面に残されていることがある。この場合には、この残滓を除去するクリーニング工程S104Bを、分離工程S104Aより後であって凹部形成工程S104Cより前にさらに含むことが好ましい。
【0054】
このような製造方法により、薄膜光電変換素子1000を製造することが可能である。図3〜6を参照して説明した薄膜光電変換素子2000、薄膜光電変換素子5000〜薄膜光電変換素子8000は、この製造方法を具体的構成に合わせて変形することにより製造することが可能である。その一例を挙げれば、モノリシック構造の薄膜光電変換素子5000を作製するためには、光電変換層形成工程S106と第2電極層成膜工程S108の間にラインパターンP2を形成することより、光電変換層20を分離するプロセスが実施される。
【0055】
[3−2 凹部形成のバリエーション]
次に、本実施形態において説明した凹部12等を製造するためのより具体的な手法について説明する。凹部形成工程S104Cにおいては、例えばレーザーによるパターニングによって第1電極10に凹部12を形成する工程とすることができる。分離工程S104Aにおいて分離ラインの生成にレーザーを用いる場合には、分離工程S104Aと凹部形成工程S104Cのためにも同様のレーザー、例えばArFエキシマーレーザーなどを用いて実行することができる。レーザーによるパターニングは、位置の制御が容易であるため、凹部12の配置や形状を再現性良く製造することが可能となる点において有利である。特に、パターニングに用いるレーザーがパルスレーザーであれば、分散して配置される凹部12をパルスレーザーの少なくとも1以上のショットにより互いに離して形成することが可能となる。したがってパルスレーザーは、各凹部12の面積を微小な領域に限定することが容易とる点において、また、発電領域の面積の減少を極力抑制した凹部12の形成が可能とる点において、特に好ましい。なお、スーパーストレートタイプのシリコン系の薄膜光電変換素子7000(図6(b))においては、レーザーによるパターニングは、透光性を有する基板708を通して、レーザー光を第1電極710のための第1電極層に照射して行なう場合がある。凹部712も同様のパターニング法により形成することが可能である。
【0056】
凹部12の形成手法には、メカニカルスクライブ法も含まれている。これは、機械的に第1電極10の表面をひっかくことにより、凹部12を形成する手法である。この場合であっても、凹部12の面積は十分に小さくすることが可能であるため、発電領域の面積の減少は抑制することが可能である。
【0057】
本実施形態にて凹部12を形成するために採用可能な手法には、ブラスト法も含まれている。ブラスト法は、適当な粉末などのブラスト材を高速の圧縮空気とともにノズルから噴射して第1電極10に向けて射出することにより、第1電極10をなす第1電極層を少なくも一部除去する手法である。特に、そのブラスト法が、パルス状に脈動させたショットのシーケンスの態様によりブラスト材を射出するパルスブラスト法である場合には、分散させて配置する凹部12の形状や位置の制御性を高めることが可能である。なお、ブラスト法では、ノズルから射出されるブラスト材を衝突させる位置は、ノズルの位置を制御したり、また、適当な開口パターンが形成されているスクリーンマスクを用いたりすることにより制御することができる。こうして、凹部12の位置や数、そして個々の凹部12のサイズを制御することが可能である。
【0058】
また、凹部12を例示して説明したが、図1(b)により説明した第1電極層の一部のみを除去した凹部14を形成するための手法として、上述したいずれの手法も採用することが可能である。さらに、各手法の条件を適宜調整することにより、第1電極層の材質や層構成に合わせて適切な凹部12や凹部14を形成することも可能である。
【0059】
[3−3 洗浄工程]
上述したいずれの手法を採用する場合であっても、クリーニング工程S104Bを、分離工程S104Aよりも後、凹部形成工程S104Cより前に実行することが好ましい。クリーニング工程S104Bをこの順序にて実行することが有利となる理由について、本願の発明者は、クリーニング工程によって除去された第1電極層の残滓が、凹部12または凹部14におけるリークパスの形成に役立っているためではないかと推測している。すなわち、分離工程104Aにより生じた第1電極層による残滓はクリーニング工程S104Bにより取り除くことが望ましいのに対し、凹部形成工程S104Cにより残滓が生じていたとしても、それは凹部12を意図的に設けた目的に適うのである。この推測は、従来の薄膜光電変換素子において部分遮光発電動作をさせた場合に、分離ライン付近がホットスポットとなる傾向が大きかったことに基づくものである。
【0060】
[4 実施例]
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順、要素または部材の向きや具体的配置等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することかできる。したがって、本発明の範囲は以下の具体例に限定されるものではない。
【0061】
[4−1 実施例サンプルの作製]
上述した本実施形態に従ってSCAF構造の薄膜光電変換素子2000を作製した。製造方法は、主要な順序は図7を参照して説明したとおりとした。具体的には、基板208は長尺のポリイミドフィルムとして、成膜には、各層を形成するための別々の成膜室の並びの中に長尺基板を配置して、長尺基板を停止させて成膜し、成膜処理の間に成膜室の間を順送りに送るステッピングロール法を採用した。まず基板208をプラズマ中に曝す事によって表面を洗浄する等の前処理を行なった。次に、基板208はまず、接続孔とも呼ぶ第2貫通孔254を打ち抜き金型(パンチ)によって形成した。なお第1貫通孔252の形状としては、直径が1mmの円形とした。この形状は、例えば、直径0.05−1mmの円形とし、穿孔数は設計に応じて調整することができる。
【0062】
次いで、減圧加熱により、基板208のポリイミドフィルムにガスを放出させた後、基板208の一方の面208Aに第1電極210を形成し(第1電極層成膜工程S102)、基板208の面の他方の面208Bに第1背面電極層262を形成した。ここで、第1電極210と第1背面電極層262には、銀(Ag)をスパッタリング法によって形成した。さらに、第1電極210の一部として銀の上面に透明電極層を形成した。この時点で、第2貫通孔254の内側壁付近において、第1電極210と第1背面電極層262が直接重なり、互いに電気的に接続していることを確認した。
【0063】
さらに、分離工程S104Aとして、面208Aの第1電極210をレーザー加工によってパターニングした。そして、クリーニング処理(S104B)の後、凹部12を形成する処理として、さらにレーザー加工を行なった(凹部形成工程、S104C)。ここで、凹部12は、例えばライン状にすると、そのライン状の向きによっては電流を阻害しかねない。このため、スポット状にして電流の通路を確保することが望ましい。凹部12のサイズや数は構成する材料や出力によって調整される。例えば、少なくとも2カ所以上配置することが望ましい。なお、本実施例においては、凹部12は直径50μmの円形とし、幅(図3の紙面左右方向の差し渡し)が200mmの単位セル200それぞれに、10カ所形成した。
【0064】
その後、第2貫通孔254の場合とは別の打ち抜き金型を用いて基板208に第1貫通孔252を形成した。この際には、第1電極210、第1背面電極層262も貫通した。そして、基板208の面208A側には半導体層である光電変換層220を形成した(光電変換層形成工程S106)。この光電変換層220は、アモルファスシリコンのn層、i層、およびp層を基板208側から配置するnip構造のシリコン(Si)層とし、高周波容量結合プラズマCVD法を採用した。さらに、第2貫通孔254が設けられる部分にマスクを掛けて、第2電極230として基板208の面208Aの側に透明導電性材料であるITOを堆積させた(第2電極層成膜工程S108)。次いで、基板208の面208Bの全面に、第2電極層をニッケルにより形成した。この時点で、面208Aに形成した第2電極230と面208Bに形成した第2背面電極層264とが第1貫通孔252の内側壁付近において直接重なり電気的に接続された。さらに、レーザーにより、基板208の面208A側に第1分離ライン280を再度パターニングした(第2電極パターニング工程S110)。同様に、面208Bの側に対しても第2分離ライン290をパターニングした。
【0065】
こうして作製された薄膜光電変換素子2000をEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)からなる一対の封止材シートにより両面から挟み、さらにその両面から、ETFEによる一対の保護フィルムにより挟んで積層体を準備した。そしてその積層体を加熱プレスして封止材を融解させ、保護フィルムと熱溶着によりラミネートされた薄膜光電変換素子2000を作製した。
【0066】
[4−2 ホットスポット試験による確認]
作製したラミネート後の薄膜光電変換素子2000である実施例モジュールと、比較のため、凹部12を設けなかった以外は同様に作製した比較例モジュールとを対象に、ホットスポット試験を行なった。なお、ここで採用したホットスポット試験は、規格に示された試験(例えばJIS C8991 10.9(IEC 61646))の試験よりも過酷な試験となるように、光量を増大させることにより試験時の電流を増大させて実施した。その結果、実施例モジュールでは、遮光してホットスポットの発生状況を調査した単位セル200において、10箇所形成された凹部12のうちの5箇所の温度上昇が確認された。しかし、その温度上昇は、封止材にも保護フィルムにも実質的なダメージを及ぼすようなものではなかった。これに対し、比較例モジュールでは、温度上昇は1箇所にて生じ、その部分の樹脂基板および封止材が損傷した。以上説明したように、本発明の薄膜光電変換素子によりホットスポットを生じさせにくい薄膜光電変換素子を実現することができた。
【0067】
[5 変形例]
本実施形態の薄膜光電変換素子のための凹部12の形状は、特に限定されるものではない。例えば、図1において凹部12や凹部14として示したように、電極層10をすべて除去するもの、一部除去するものとすることができる。また凹部12の平面形状も、上述した微小な円形のほか、点状、ライン状、ストライプ状等の任意の平面形状とすることができる。また、凹部12の具体的配置も、一定ピッチの配置以外に、ランダム、平面内における任意の格子配列、といった任意の配列とされる。特にSCAF構造に作製される薄膜光電変換素子2000の構成に適用するためには、凹部12の配置は、第1貫通孔252や第2貫通孔254との位置関係、集電孔との位置関係に適合させて決定することができる。例えば、上記ストライプ状の形状を有するように凹部12を作製した場合には、ストライブの向きが電流の流れの向きに沿うように並べることが有用である。なお、本実施形態において例示した薄膜や基板の材料やその組成、膜厚、形成方法等は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0068】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および実施例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の薄膜光電変換素子は太陽光発電を利用する任意の電気・電子機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1000、1100、2000、5000〜8000 薄膜光電変換素子
100、110、200、500 単位セル
6、206、506 発電領域
8、208、508、708、808 基板
8A、208A、208B、508A、608A、708A、808A 面
10、210、510、610、710、810 第1電極
12、14、212、512、612、712、812 凹部
20、220、520、620、720、820 光電変換層
30、230、530、730、630、830 第2電極
50 電気的配線
252 第1貫通孔
254 第2貫通孔
252A、254A 側壁部
260 背面電極
262 第1背面電極層
264 第2背面電極層
280 第1分離ライン
290 第2分離ライン
732 透明導電体膜
734 金属層
822 吸収層
824 バッファ層
840 低抵抗透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別化され互いに直列接続される複数の単位セルが一片の基板の上に形成されている薄膜光電変換素子であって、
各単位セルは、
該基板の一方の面の上に形成され、各単位セルの発電領域の範囲において、それ自体をなす第1電極層の少なくとも一部を除去して形成された凹部を2以上有している第1電極と、
該第1電極の面の上に形成された光電変換層と、
該光電変換層の面の上に形成された第2電極と
を備えるものである
薄膜光電変換素子。
【請求項2】
前記凹部それぞれが前記第1電極それぞれの前記発電領域の範囲内において互いに離して配置されている
請求項1に記載の薄膜光電変換素子。
【請求項3】
前記基板の他方の面の上に形成された背面電極層を、個別化された前記単位セルに対応させて分離することにより形成されている背面電極
をさらに備え、
前記第2電極をなす第2電極層が透明導電体の層であり、
一の背面電極が、前記基板を貫通する第1貫通孔を通して一の単位セルの第1電極に電気的に接続され、かつ、前記基板を貫通する第2貫通孔を通して他の単位セルの第2電極に電気的に接続されることにより、該一の単位セルと該他の単位セルとの直列接続が確立されている
請求項1または請求項2に記載の薄膜光電変換素子。
【請求項4】
前記直列接続は、互いに隣りあって配置されている一の単位セルと他の単位セルにおける該一の単位セルの第1電極と該他の単位セルの第2電極とが前記一方の面の側において電気的に接続されることにより確立されている
請求項1または請求項2に記載の薄膜光電変換素子。
【請求項5】
互いに直列接続される複数の単位セルが一片の基板の上に形成されている薄膜光電変換素子の製造方法であって、
前記基板の一方の面の上に第1電極層を形成する第1電極層成膜工程と、
各単位セルの個別化のために該第1電極層を分離するとともに、各単位セルの発電領域の範囲に互いに離された凹部を2以上有するように前記第1電極層の少なくとも一部を除去して第1電極を形成する第1電極パターニング工程と、
該第1電極の面の上に光電変換層を形成する工程と、
該光電変換層の面の上に第2電極層を形成する第2電極層成膜工程と、
各単位セルの個別化のために該第2電極層を分離することにより第2電極を形成する第2電極パターニング工程と
を含む
薄膜光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1電極パターニング工程が、
成膜された前記第1電極層が除去された分離ラインを形成して前記第1電極の周縁を確定する分離工程と、
次いで、周縁が確定された前記第1電極の面のうち各単位セルの発電領域となる範囲において、前記第1電極層の少なくとも一部を除去することにより前記凹部を形成する凹部形成工程と
を含むものである
請求項5に記載の薄膜光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1電極パターニング工程が、
前記分離ラインを形成するために除去された電極層の残滓をクリーニングするクリーニング工程を、前記分離工程より後であって前記凹部形成工程より前にさらに含むものである
請求項6に記載の薄膜光電変換素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−105998(P2013−105998A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250882(P2011−250882)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】